慧音は怪我をして足を引きずりながら歩いていた。
「ここは…人里か…」
少し先に里が見え、
「はぁっ……よかっ………た…………」
どさっ…
慧音はその場に倒れてしまった。
「それにしても昨日の雷がすごかったなぁ」
「ああ、裏山に落ちなくてよかったよ」
里の者が歩いていると…
「お、おい」
「なんだ」
「人が倒れているぞ」
「本当だ!」
里人の二人は慧音に近付き…
「おい、しっかりしろ!」
「う…う………」
「酷い怪我だ、里で介抱してあげよう!」
「ああ、そうだな」
里人の一人が慧音を背負う。
そして里まで走って戻った。
「う…ん………ここは?」
慧音は目を覚ますと、少女が慧音の顔を覗いていた。
「あっ、お爺様! お姉ちゃんの目が覚めたよ~」
その声を聞き歩いてくる老人が一人。
「お目覚めになりましたか」
「ここは………」
「ここは小さな里じゃ、貴女様は里の近くに怪我をして倒れていたそうじゃ」
「私を介抱してくれたのか?」
「もちろんじゃとも、怪我をしている人を助けるのは当たり前の事じゃ」
「そうか…それは迷惑をかけたな。お詫びといってはなんだがこの里の周囲を妖怪の入れない安全な場所にしてやろう」
「そんな事が出来るのですか?」
「ああ、一応結界等は軽く張れる程度だが…」
「それはありがたいです、では、貴女様の小屋は…そういえば名前をお聞きしていませんでしたな」
「私は慧音…上白沢 慧音だ」
「では慧音様、こちらへ…」
慧音は老人に案内された。
「ここの小屋です」
「すまないがご老人、お願いが一つある」
「なんなりと言ってください」
「私の小屋は出来れば里の端にあるのを使わせていただきたい」
「それはまたなぜですかな?」
「う…む…うまくは言えないのだが…」
「慧音様がそういうのでしたらどうぞお使い下さい」
「すまない………」
老人は自分の家に戻り…
「霊歌(れいか)! ちょっとこっちへ」
「なんでしょうか、お爺様」
「慧音様に里の端の小屋まで案内してくれんか」
「分かりました、では慧音様、行きましょうか」
「では宜しく頼む」
霊歌は慧音を連れて森の奥へと入っていった。
「しかし、霊歌のご老人は無用心だな、霊歌のような孫娘を一人でこの森に行かせるとは…」
「その辺は大丈夫です。私こう見えても霊力はありますから」
(では先程のご老人は私の正体に気付いているのか?)
「では霊歌…私の事は分かるか?」
「え? 慧音お姉ちゃんは私と同じで霊力の扱いに長ける人でしょ?」
「そ…そうだが…」
(やはり私の正体には気付いていないみたいだな)
「ここがそうですよ」
霊歌と慧音は小屋にたどり着き、小屋の中を見た。
「随分と整理されているみたいだな」
「そうですね、ここは以前まで私のお爺ちゃんが住んでいましたから」
「なぜにご老人が?」
「ここは鬼門なんです…ですから里の者で霊力の高い者が住むと魔除けになると言われているんです」
「なるほど…」
(あのご老人、只者では無いと思っていたが…)
「それにしても慧音お姉ちゃん」
「ん、なんだ」
「綺麗な首飾りしていますね」
「ああ、これか」
慧音は首飾りを外して、霊歌に見せた。
「綺麗な勾玉…」
「そうだろう、これは私の宝物だ」
「いいなぁ」
「はははっ、代わりにこれをやろう」
慧音は短剣を取り出した。
「これは…?」
「これは護身用の短剣だ、しかも持つ者の霊力により力は倍増する」
「あっ、ありがとうございます!」
「実際使わない方がいいんだがな…」
「では、私はこれにて失礼しますね」
「ああ、ありがとうな」
「また里にも来て下さいね。 皆待ってますから」
「ああ、勿論だ」
霊歌は里に戻っていった。
「さて、ここの里の人間は優しいな…今の所は…私の正体を知ったら前と同じになるのか…」
慧音は思いつめながらも結界の印を組んだ。
「よし、これでいいだろう。今日はもう眠るか」
慧音がしばらく里にいる間…
「慧音様、これ私達で育てた野菜です、どうか食べてください」
「ありがとう、でもいいのか? そっちにはまだ小さな赤ん坊がいるじゃないか」
「この子の分はもうありますので、今回は作りすぎちゃったみたいで…」
「そういう事なら貰おう、すまないな」
「いえ、こちらも喜んで頂けるなら!」
「それにしても慧音様の結界の威力は凄いな」
「そうか?」
「そうですよ、妖怪が一匹たりとも入れないんですから」
「私は里の者に感謝をしている、せめてもの御礼だ」
「とてもありがたいですよ!慧音様が来るまでは妖怪に怯えながらの生活だったんですからね」
「そういってくれると私も嬉しいよ」
そして、満月の夜に最初の異変が起きた………
「何があった!」
慧音が里の小屋に入って叫んだ!
「慧音様…どうやら慧音様の結界を破り妖怪が侵入したみたいなんです」
「なんだと!?」
「この妖怪にやられた者はほぼ即死状態でした。鋭い爪で切り裂かれたみたいな傷跡が…」
「うむ………これは………!!!ううっ!!!」
(なんだ!!………この頭に杭を打たれる様な痛みは!!!)
「どうなされました!? 慧音様!?」
「ううっ………はぁっ………はぁっ………だ、大丈夫だ」
「無理はなさらないでくださいね」
「ああ、この者は私が弔ってやろう」
「お願いします、慧音様。 慧音様に送られるのならこの者も本望でしょう」
慧音は妖怪にやられた者を供養した。
「では、私は結界の穴を見つけ、塞いでくる」
「お願いします」
慧音はその穴を探しに行った。
「おかしい、どこを探しても穴なんてないぞ! まさか………」
慧音は嫌な予感がした。
そして再び満月の夜…
「慧音お姉ちゃんに聞きたいことがあったんだ」
霊歌は夜の森を走る。
そこに…現れた…。
「ウウウウウウ………」
「あっ…あなたねッ! 里に出入りしている妖怪は!」
「グウウウゥ………」
「あ、あんたなんか私が浄化させてあげるから!」
霊歌は慧音から貰った短剣を取り出す!
「グ…ウ?………ガァッ!!!」
妖怪は凄まじいスピードで霊歌に突進し、突き飛ばした!
「きゃあああああ!!!!」
カランカラン…
その衝撃で霊歌は短剣を落としてしまう!
「ウウウウ………グアアアァァァ!!!!」
妖怪の鋭い爪が霊歌を襲う!!!!
「助けてぇ!!!慧音お姉ちゃあああああああん!!!!!」
「ウッ…アアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
突然妖怪が頭を押さえ叫んだ。
「今だ!」
霊歌は短剣が落ちたところに飛び、すかさず妖怪に斬りつける!!!
妖怪は右手に切り傷を負う。
「アッ…アグアアアァァァァァ!!!!!」
妖怪はその場を立ち去った。
「はぁ…はぁ…あの妖怪は…」
霊歌は身体の痛みを堪えながら帰路につく事にした。
「あれ? これは…」
霊歌は暗闇に淡く光る物を見つけた。
「これは慧音お姉ちゃんが大事にしていた勾玉の首飾り…どうしてここに? まさかあの妖怪は…」
霊歌は信じたく無いと思いつつ家に戻り眠りについた。
「うっ…くぅっ…はぁっ…はぁっ…」
慧音は右手を庇うように押さえている。
「もしや、またか!?」
慧音は右手の傷を応急処置してなんとか痛みを紛らわす。
「この里とも別れが近いかもしれないな…」
次の日の夜………
「慧音お姉ちゃん」
「霊歌か、今日は何のようだい?」
「私、慧音お姉ちゃんに聞きたいことがあるの………」
「なんでもいってみるといい」
「慧音お姉ちゃん、昨日の夜…どこにいたの?」
「………霊歌、お前が聞きたいのはそのような事じゃないだろう」
「うん、実は………最近満月の夜に現れている妖怪の事なんだけど…」
「あの妖怪か…実は………あれは私だ………」
「嘘でしょ! 嘘なんでしょ! 慧音お姉ちゃん!」
「嘘じゃない…それに霊歌の持っている私の首飾り………そして………」
慧音は右手の袖を捲った。
「!!!!」
霊歌は驚きを隠せなかった。
「これは昨日の夜霊歌につけられた傷だ」
「私って分かっていたの!?」
「心の奥では分かっていたが満月の夜は霊力が暴走してしまい、身体の方がいう事を効かない…」
「そんな………」
「これでも信じてもらえないのならば、次の十五夜の時にここへ来るといい」
「わかりました………」
霊歌は分かれの挨拶もせずに慧音の小屋を立ち去った。
「私は…また繰り返すのか…この行いを…」
そして、十五夜の時………
霊歌は慧音の所へ赴いた。
「慧音お姉ちゃん」
「来たか…」
「決心はついたのか?」
「はい、私なりに慧音お姉ちゃんを信じます」
「分かった。 私は今からその妖怪の姿になるから、しかとその目に焼き付けるように」
「はい」
慧音の身体に月の光が集まる。
そして、慧音の身体が光り輝く。
小屋の中が明るくなり、その光はゆっくりと消えていった。
そして、霊歌の見たものは………
「慧音お姉ちゃん?」
「ああ、私だよ、霊歌」
そこには二本の角が生えている妖怪がいた。
「どうだ、霊歌が見た妖怪は私と同じ姿をしていただろう?」
「はい、確かに慧音お姉ちゃんです」
「私はこの身体が憎い、里の者を護ろうとしても満月が来るたびに里の人間を殺めてしまう…」
「慧音お姉ちゃん………」
「前に住んでいた里も同じような事になって私が妖怪だと分かったら私を追い出した…全ては私が悪いんだ…この里ともそろそろ分かれようと思う………これ以上犠牲者を増やす前に…」
「話は聞かせて頂きました。慧音様」
慧音は小屋の外へ出るとそこには………里の者達が居た。
「慧音様、慧音様の行っている事は理不尽じゃ………しかし、里を護ってもらっているのも事実じゃ」
「慧音様の結界がなかったら既に他の妖怪にやられていたかもしれません!」
「慧音様は私達の守り神です」
「そうですよ! 慧音様、慧音様は私達に尽くしてくれている! 今度は私達が慧音様のお役に立つ番です」
「皆………ありがとう………しかし、またいつ皆を殺めてしまうのが分からない…」
「大丈夫だよ! 慧音お姉ちゃん」
「霊歌…」
「私達皆で編んだリボン…これをつけると大丈夫になるよ! きっと!」
霊歌は懐からリボンを取り出して慧音に渡す。
「このリボンは強力な霊力を感じるが………これほどの霊力をどこで」
「私達の里は皆、少なからず霊力を持っているの、だから皆の霊力をちょっとずつ集めて作ったの」
「ありがとう…ありがとう…里の皆! これは私がありがたく貰おう!」
「慧音お姉ちゃん、私がつけてあげるよ」
「そ、そうか…すまないな」
霊歌は慧音の角にリボンをした。
「なんだか恥ずかしいな」
「これで慧音お姉ちゃんは大丈夫だよ」
「ありがとう、皆! 明日は………満月だ………皆また明日の夜ここに来てくれないか」
「分かりました、明日の夜またここに集合という事で…」
「ああ、宜しく頼む」
その日の夜は終わった。
そして満月の夜………
慧音の小屋の前には里の者達が待っていた。
「慧音お姉ちゃん……大丈夫」
「ああ、霊歌。 里の者達のおかげだ。 満月の夜も私自身を保っていられる」
「良かったぁ~」
だきっ
喜びのあまり霊歌は慧音に抱きついた。
「おいおい、危ないぞ」
「だって、嬉しいんだもの」
「慧音様、どうやら大丈夫だったみたいですな」
「ご老人…今回の件では申し訳ありませんでした…」
「いやいや…私は慧音様を初めに見たときから人では無いと分かっておりました」
「では、なぜ…」
「人と妖怪の共存…それが出来れば平和になるじゃろうと心に思っておるのです」
「ありがとう………ここまで人に優しくされたのは………初めてだ」
慧音は涙を零した。
「私は誓おう! 私が生きている限り里の者には妖怪から指一本触れさせない事を!」
「人と妖怪は分かりあえる時が来ますよね」
「勿論だ、霊歌。 今の私達がそうであるように!」
その里は人、妖怪、生きている者を里に迎えていた。
妖怪であっても、平等に接し人の知識を与えていた。
逆に妖怪は豊富な知識を人に教え繁栄していった。
慧音はその里をいまでも見守っている。
そして、また妖怪が攻めてきた…
そこへ慧音が赴き…
「此処の人間と妖怪には指一本触れさせないぞ!!」
「ここは…人里か…」
少し先に里が見え、
「はぁっ……よかっ………た…………」
どさっ…
慧音はその場に倒れてしまった。
「それにしても昨日の雷がすごかったなぁ」
「ああ、裏山に落ちなくてよかったよ」
里の者が歩いていると…
「お、おい」
「なんだ」
「人が倒れているぞ」
「本当だ!」
里人の二人は慧音に近付き…
「おい、しっかりしろ!」
「う…う………」
「酷い怪我だ、里で介抱してあげよう!」
「ああ、そうだな」
里人の一人が慧音を背負う。
そして里まで走って戻った。
「う…ん………ここは?」
慧音は目を覚ますと、少女が慧音の顔を覗いていた。
「あっ、お爺様! お姉ちゃんの目が覚めたよ~」
その声を聞き歩いてくる老人が一人。
「お目覚めになりましたか」
「ここは………」
「ここは小さな里じゃ、貴女様は里の近くに怪我をして倒れていたそうじゃ」
「私を介抱してくれたのか?」
「もちろんじゃとも、怪我をしている人を助けるのは当たり前の事じゃ」
「そうか…それは迷惑をかけたな。お詫びといってはなんだがこの里の周囲を妖怪の入れない安全な場所にしてやろう」
「そんな事が出来るのですか?」
「ああ、一応結界等は軽く張れる程度だが…」
「それはありがたいです、では、貴女様の小屋は…そういえば名前をお聞きしていませんでしたな」
「私は慧音…上白沢 慧音だ」
「では慧音様、こちらへ…」
慧音は老人に案内された。
「ここの小屋です」
「すまないがご老人、お願いが一つある」
「なんなりと言ってください」
「私の小屋は出来れば里の端にあるのを使わせていただきたい」
「それはまたなぜですかな?」
「う…む…うまくは言えないのだが…」
「慧音様がそういうのでしたらどうぞお使い下さい」
「すまない………」
老人は自分の家に戻り…
「霊歌(れいか)! ちょっとこっちへ」
「なんでしょうか、お爺様」
「慧音様に里の端の小屋まで案内してくれんか」
「分かりました、では慧音様、行きましょうか」
「では宜しく頼む」
霊歌は慧音を連れて森の奥へと入っていった。
「しかし、霊歌のご老人は無用心だな、霊歌のような孫娘を一人でこの森に行かせるとは…」
「その辺は大丈夫です。私こう見えても霊力はありますから」
(では先程のご老人は私の正体に気付いているのか?)
「では霊歌…私の事は分かるか?」
「え? 慧音お姉ちゃんは私と同じで霊力の扱いに長ける人でしょ?」
「そ…そうだが…」
(やはり私の正体には気付いていないみたいだな)
「ここがそうですよ」
霊歌と慧音は小屋にたどり着き、小屋の中を見た。
「随分と整理されているみたいだな」
「そうですね、ここは以前まで私のお爺ちゃんが住んでいましたから」
「なぜにご老人が?」
「ここは鬼門なんです…ですから里の者で霊力の高い者が住むと魔除けになると言われているんです」
「なるほど…」
(あのご老人、只者では無いと思っていたが…)
「それにしても慧音お姉ちゃん」
「ん、なんだ」
「綺麗な首飾りしていますね」
「ああ、これか」
慧音は首飾りを外して、霊歌に見せた。
「綺麗な勾玉…」
「そうだろう、これは私の宝物だ」
「いいなぁ」
「はははっ、代わりにこれをやろう」
慧音は短剣を取り出した。
「これは…?」
「これは護身用の短剣だ、しかも持つ者の霊力により力は倍増する」
「あっ、ありがとうございます!」
「実際使わない方がいいんだがな…」
「では、私はこれにて失礼しますね」
「ああ、ありがとうな」
「また里にも来て下さいね。 皆待ってますから」
「ああ、勿論だ」
霊歌は里に戻っていった。
「さて、ここの里の人間は優しいな…今の所は…私の正体を知ったら前と同じになるのか…」
慧音は思いつめながらも結界の印を組んだ。
「よし、これでいいだろう。今日はもう眠るか」
慧音がしばらく里にいる間…
「慧音様、これ私達で育てた野菜です、どうか食べてください」
「ありがとう、でもいいのか? そっちにはまだ小さな赤ん坊がいるじゃないか」
「この子の分はもうありますので、今回は作りすぎちゃったみたいで…」
「そういう事なら貰おう、すまないな」
「いえ、こちらも喜んで頂けるなら!」
「それにしても慧音様の結界の威力は凄いな」
「そうか?」
「そうですよ、妖怪が一匹たりとも入れないんですから」
「私は里の者に感謝をしている、せめてもの御礼だ」
「とてもありがたいですよ!慧音様が来るまでは妖怪に怯えながらの生活だったんですからね」
「そういってくれると私も嬉しいよ」
そして、満月の夜に最初の異変が起きた………
「何があった!」
慧音が里の小屋に入って叫んだ!
「慧音様…どうやら慧音様の結界を破り妖怪が侵入したみたいなんです」
「なんだと!?」
「この妖怪にやられた者はほぼ即死状態でした。鋭い爪で切り裂かれたみたいな傷跡が…」
「うむ………これは………!!!ううっ!!!」
(なんだ!!………この頭に杭を打たれる様な痛みは!!!)
「どうなされました!? 慧音様!?」
「ううっ………はぁっ………はぁっ………だ、大丈夫だ」
「無理はなさらないでくださいね」
「ああ、この者は私が弔ってやろう」
「お願いします、慧音様。 慧音様に送られるのならこの者も本望でしょう」
慧音は妖怪にやられた者を供養した。
「では、私は結界の穴を見つけ、塞いでくる」
「お願いします」
慧音はその穴を探しに行った。
「おかしい、どこを探しても穴なんてないぞ! まさか………」
慧音は嫌な予感がした。
そして再び満月の夜…
「慧音お姉ちゃんに聞きたいことがあったんだ」
霊歌は夜の森を走る。
そこに…現れた…。
「ウウウウウウ………」
「あっ…あなたねッ! 里に出入りしている妖怪は!」
「グウウウゥ………」
「あ、あんたなんか私が浄化させてあげるから!」
霊歌は慧音から貰った短剣を取り出す!
「グ…ウ?………ガァッ!!!」
妖怪は凄まじいスピードで霊歌に突進し、突き飛ばした!
「きゃあああああ!!!!」
カランカラン…
その衝撃で霊歌は短剣を落としてしまう!
「ウウウウ………グアアアァァァ!!!!」
妖怪の鋭い爪が霊歌を襲う!!!!
「助けてぇ!!!慧音お姉ちゃあああああああん!!!!!」
「ウッ…アアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
突然妖怪が頭を押さえ叫んだ。
「今だ!」
霊歌は短剣が落ちたところに飛び、すかさず妖怪に斬りつける!!!
妖怪は右手に切り傷を負う。
「アッ…アグアアアァァァァァ!!!!!」
妖怪はその場を立ち去った。
「はぁ…はぁ…あの妖怪は…」
霊歌は身体の痛みを堪えながら帰路につく事にした。
「あれ? これは…」
霊歌は暗闇に淡く光る物を見つけた。
「これは慧音お姉ちゃんが大事にしていた勾玉の首飾り…どうしてここに? まさかあの妖怪は…」
霊歌は信じたく無いと思いつつ家に戻り眠りについた。
「うっ…くぅっ…はぁっ…はぁっ…」
慧音は右手を庇うように押さえている。
「もしや、またか!?」
慧音は右手の傷を応急処置してなんとか痛みを紛らわす。
「この里とも別れが近いかもしれないな…」
次の日の夜………
「慧音お姉ちゃん」
「霊歌か、今日は何のようだい?」
「私、慧音お姉ちゃんに聞きたいことがあるの………」
「なんでもいってみるといい」
「慧音お姉ちゃん、昨日の夜…どこにいたの?」
「………霊歌、お前が聞きたいのはそのような事じゃないだろう」
「うん、実は………最近満月の夜に現れている妖怪の事なんだけど…」
「あの妖怪か…実は………あれは私だ………」
「嘘でしょ! 嘘なんでしょ! 慧音お姉ちゃん!」
「嘘じゃない…それに霊歌の持っている私の首飾り………そして………」
慧音は右手の袖を捲った。
「!!!!」
霊歌は驚きを隠せなかった。
「これは昨日の夜霊歌につけられた傷だ」
「私って分かっていたの!?」
「心の奥では分かっていたが満月の夜は霊力が暴走してしまい、身体の方がいう事を効かない…」
「そんな………」
「これでも信じてもらえないのならば、次の十五夜の時にここへ来るといい」
「わかりました………」
霊歌は分かれの挨拶もせずに慧音の小屋を立ち去った。
「私は…また繰り返すのか…この行いを…」
そして、十五夜の時………
霊歌は慧音の所へ赴いた。
「慧音お姉ちゃん」
「来たか…」
「決心はついたのか?」
「はい、私なりに慧音お姉ちゃんを信じます」
「分かった。 私は今からその妖怪の姿になるから、しかとその目に焼き付けるように」
「はい」
慧音の身体に月の光が集まる。
そして、慧音の身体が光り輝く。
小屋の中が明るくなり、その光はゆっくりと消えていった。
そして、霊歌の見たものは………
「慧音お姉ちゃん?」
「ああ、私だよ、霊歌」
そこには二本の角が生えている妖怪がいた。
「どうだ、霊歌が見た妖怪は私と同じ姿をしていただろう?」
「はい、確かに慧音お姉ちゃんです」
「私はこの身体が憎い、里の者を護ろうとしても満月が来るたびに里の人間を殺めてしまう…」
「慧音お姉ちゃん………」
「前に住んでいた里も同じような事になって私が妖怪だと分かったら私を追い出した…全ては私が悪いんだ…この里ともそろそろ分かれようと思う………これ以上犠牲者を増やす前に…」
「話は聞かせて頂きました。慧音様」
慧音は小屋の外へ出るとそこには………里の者達が居た。
「慧音様、慧音様の行っている事は理不尽じゃ………しかし、里を護ってもらっているのも事実じゃ」
「慧音様の結界がなかったら既に他の妖怪にやられていたかもしれません!」
「慧音様は私達の守り神です」
「そうですよ! 慧音様、慧音様は私達に尽くしてくれている! 今度は私達が慧音様のお役に立つ番です」
「皆………ありがとう………しかし、またいつ皆を殺めてしまうのが分からない…」
「大丈夫だよ! 慧音お姉ちゃん」
「霊歌…」
「私達皆で編んだリボン…これをつけると大丈夫になるよ! きっと!」
霊歌は懐からリボンを取り出して慧音に渡す。
「このリボンは強力な霊力を感じるが………これほどの霊力をどこで」
「私達の里は皆、少なからず霊力を持っているの、だから皆の霊力をちょっとずつ集めて作ったの」
「ありがとう…ありがとう…里の皆! これは私がありがたく貰おう!」
「慧音お姉ちゃん、私がつけてあげるよ」
「そ、そうか…すまないな」
霊歌は慧音の角にリボンをした。
「なんだか恥ずかしいな」
「これで慧音お姉ちゃんは大丈夫だよ」
「ありがとう、皆! 明日は………満月だ………皆また明日の夜ここに来てくれないか」
「分かりました、明日の夜またここに集合という事で…」
「ああ、宜しく頼む」
その日の夜は終わった。
そして満月の夜………
慧音の小屋の前には里の者達が待っていた。
「慧音お姉ちゃん……大丈夫」
「ああ、霊歌。 里の者達のおかげだ。 満月の夜も私自身を保っていられる」
「良かったぁ~」
だきっ
喜びのあまり霊歌は慧音に抱きついた。
「おいおい、危ないぞ」
「だって、嬉しいんだもの」
「慧音様、どうやら大丈夫だったみたいですな」
「ご老人…今回の件では申し訳ありませんでした…」
「いやいや…私は慧音様を初めに見たときから人では無いと分かっておりました」
「では、なぜ…」
「人と妖怪の共存…それが出来れば平和になるじゃろうと心に思っておるのです」
「ありがとう………ここまで人に優しくされたのは………初めてだ」
慧音は涙を零した。
「私は誓おう! 私が生きている限り里の者には妖怪から指一本触れさせない事を!」
「人と妖怪は分かりあえる時が来ますよね」
「勿論だ、霊歌。 今の私達がそうであるように!」
その里は人、妖怪、生きている者を里に迎えていた。
妖怪であっても、平等に接し人の知識を与えていた。
逆に妖怪は豊富な知識を人に教え繁栄していった。
慧音はその里をいまでも見守っている。
そして、また妖怪が攻めてきた…
そこへ慧音が赴き…
「此処の人間と妖怪には指一本触れさせないぞ!!」