Coolier - 新生・東方創想話

私を探して・3

2005/08/31 05:19:07
最終更新
サイズ
12.64KB
ページ数
1
閲覧数
647
評価数
4/34
POINT
1610
Rate
9.34




私は木に寄り掛かりながら座り込んだ。
チルノと別れ、森に入ってから大体一時間ぐらい。
足場が悪く、自転車を使わないで今まで歩いていたんだけど……
思っていた以上に体力の消耗が激しかった。
はぁーあ、その理由の見当はついてるんだけどさ。
私は地図を取り出してチラッと現在地を確認する。

「幻想郷・イン・ミステリーサークル!!」

地図を見る度に心労が溜まっていった。
そう、この地図、一言で言えば「使えねぇ……」
その上、持っていると何か分かるのではと淡い期待を抱いてしまう。
そして見てみると、一気に肩の力が抜け落ちる。
悲しいかな、今までずっとそんなことを繰り返していた。
ああぁー、駄目駄目だよ、私。

「取り合えずお腹も空いたし、お昼にしよっと」

沈んだ空気を無理矢理盛り上げる為に、殊更明るく口に出す。
現実逃避となめてはいけない。
今のままでは、どんどん暗い方暗い方へと考えが行ってしまう。
そうなると精神的疲労は加速度的にあがって来る。
多分私は肉体的には座り込むほど疲れていないはず。
出口が分からないという不安が、その原因。
なんとか、前向きにお腹を膨らませて頑張ろう。

「木漏れ日も気持ちいいし」

私は自転車の籠に入れておいた紙包みを取り出す。
中には、十六夜さんの手作りだったら嬉しいな、のおにぎりが入っている。
これで重石などが入っていたら、紅魔館向けて何か叫んでやる。
……しくしくしくしく……
よく考えたら紅魔館の方向もわからないよ。
あぅ、また後ろ向きなこと考えちゃった。
気楽に行かないとね。

「良かった、おにぎりだ」

紙包みの中からはおにぎりが三つ出てきた。
……喉、渇きそう。
もう、いいもん。
お腹空いたから早く食べよう。
私はおにぎりを一つ掴んで、口に運んだ。



一つ目を食べ終え、二つ目に手を伸ばしたところで急に日が陰る。
曇ってきたのかと思い、木々の隙間を見上げようとしたところで……

「な、何!?」

突然視界を奪われた。
えっと、何も、見えない?
自分の手さえ見えない、異常な状況らしい。

ドクン!

くっ、どうすればいい?
心臓は鼓動の一つ一つを認識できるほど高鳴る。
視界ゼロと言う状況が、冷静だった心に波紋を投げかける。

「はぁ、はぁ」

広がる波紋が恐怖に変わり、呼吸まで乱れる。
それでも何とか、私は自分の冷静な部分をかき集めた。
ゆっくりと立ち上がる。
集めた冷静な部分が、直ぐに動けるようにと命令を出している。

ドクン! ドクン!
「ハァ、ハァ」

自分が五月蝿い。
どうすればいいのか考えなくては。
今、できる事は何がある?
私は自分の手を一度握り、直ぐに開いてみる。
うん、見えないだけで他の感覚は正常らしい。

「あなたは――」
「ぁ!」

突然の声に、私は悲鳴を上げかけ、飲み込んだ。
悲鳴の代償なのか、鼓動が痛いぐらいにまで感じる事が出来るようになる。
せっかく、落ち着いて、きたのに……!

「食べられる人類?」

声は私の正面からしているようだ。
そして、それは私に聞いている。
何を?
何のことを?

(落ち着け……落ち着け……)

必死に言い聞かす。
早く答えなければならないという、正体のない焦燥感が私を責め立てる。

「た、多分、駄目なんじゃ、ない、かな」

呼吸の乱れと恐怖心から、声はみっともないほど震えていた。
叫びだして逃げ出せれば、この恐怖から逃れられる。
そんなごく当たり前の欲求さえも、冷静な部分が押し留めてしまう。

「えぇー、そうなのー?」

やはり声は私の正面、それもおそらく目の前からしている。
もしかしたら、手を伸ばせば相手に触れる事も出来るのか?
腕に力が入る。
正体さえ分かれば、ここまで怖がることはないのに……

「でも、お腹空いてるしなー」

腕は伸ばす事を固く拒否した。
相手に触れた瞬間何が起こるか分からない、そういう恐怖に縛り上げらている。
『あなた、弱いわね』
……ええ、そんな事ぐらい知ってますよ。
自分が他人より臆病な事ぐらいは。
だから普段から、こっちに来てからは特に、気を張り続けてしまうんです。
そうした方が、少しだけ、マシな自分になれる気がして。
でもそれは、自分を必要以上に自制で縛ってしまう……苦しいのに……

「お、おにぎりが、あるん、だけど」
「ん~?」
「よ、よかったら、食べる?」
「え、いいの?」
「あ、ああ」
「やったー」

はぁ、はぁ。
た、助かったのか?
私は後ろの木に背中を預けた。
まだ、座り込むなと頭が告げている。
弱気なところを見せるな、と。

「き、君は、何者なんだい?」

相手の正体が早く知りたい。

「ん? 私はルーミア」

名前じゃなくて、姿が知りたいんだよ。

「な、何も見えないんだけど」
「ああ、そっか。……ほら、これで見えるでしょ」

やっと周囲に明かりが戻ってきた。
多分、私の足元でおにぎりを食べているのがルーミアなのだろう。

(はぁ~)

私は力が抜けて、その場にへたりこんだ。

「どうしたの?」
「……何でも、ないよ」

姿が見えた安堵感から、思ったより優しい声が出てしまった。
……疲れた。
多分幻想郷に来て一番疲れた。
私は空を仰いで、胸に溜まった空気を気付かれないように吐き出した。





ルーミアは金髪何だ。
ここまで青、赤、銀、と見てきて今度は金色。
次に来るのは緑色辺りかな……?
……はー、何とか落ち着いてきている。
まだ少し心臓は早いけど、それも徐々に治まるだろう。
おや? 自分の状況を確認していたら、ルーミアが私の事を見ている。

「どうしたの?」

そこで始めてルーミアの顔が見えた。
赤い瞳をした、可愛い女の子。
そんな印象だった。

「もう一個、もらっていい?」
「ん?」

慎み深い事を言って来た。
てっきり全部食べてしまうのかと思っていたので、ちょっと驚いた。
いいよ、と言おうとしたけど、

「……じゃ、じゃあ半分個しよう」

自分もあまり食べていない事を思い出す。
……そんな事より、声がまだ少し震えてる。
もう少し……時間が欲しい。

「どうやって?」
「先に、食べていいよ。残りを貰うから」
「うん、分かった」

無邪気な返事をして残りのおにぎりを食べ始める。
落ち着いてみると、食べてる姿は無防備で愛くるしいんだけだなぁ……。
っと、これは少しげんきんだった。

「あぐあぐ」

せっかくだから集落の場所を聞いてみよっか。
このままだと、森の中を彷徨い続ける事になるし。

「この辺に人間の集落ってない?」
「あぐ? うん、あるよ」

元気よく教えてくれるところはやっぱり可愛いと思う。

「まだ、ここからあるの?」
「うーん、そんなにないよ」

素直に教えてくれる。
人のことも深くは詮索しないし、純粋でいい子だった。

「はい、半分個」
「あ、ありがと」

……渡されたおにぎりは半分もなかった。
三分の一個ぐらい?
まぁ、いっか。
食べてる姿は可愛いかったし。

「悪いんだけど、集落まで案内できない? 道に迷っちゃって」
「えー、あそこはちょっと」
「そこを何とか」
「……おにぎりのお礼もあるし、じゃあ、近くまでなら」

交渉成立。

「ありがとう、助かるよ」
「んにゅー」

頭を撫でてあげたら、面白い声をだして顔を綻ばせた。
う、ちょっとお持ち帰りしたい。
よし、これからは積極的に頭を撫でながら行こう……。
くだらない事を心に誓ってしまった。

「そうそう、私飛べないから速さ合わせてくれる?」
「はーい」
「よろしく」
「んにゅにゅー」

くー、真剣にどうにかしたい可愛さだよ!
…………どうにかって、何だろ?





前を行くルーミアは私の速さに合わせてゆっくり飛んでくれている。
手を広げて、木々の合間をすいすい飛んでいく様は何とも気持ちよさそうだ。
はっきし言って羨ましい。

「飛ぶの気持ちいい?」
「気持ちいいよー。あなたも飛べれば早いのにねー」
「非常に残念です」

ルーミアと一緒に空のお散歩かー。
風を受けて気持ちよさそうだなぁ。
……なんで、ルーミアに限定してるんだろう?
まぁ、帰ったら親に真剣に抗議してみるか。

「なんか飛ぶ秘訣とかってないの?」
「気合だよ」
「全然そうは見えないけど」
「私は特別だよ」

蛇行しながら適当な飛行講座をしてくれる。
始めから自分が飛べるようになるとは思ってないけど、やっぱり悔しい。

「えへへ、いいで――キャア!」
「うわ、大丈夫?」

顔だけこちらに向けていたルーミアが、木に体当たりしていた。
ええっと、前方不注意って減点いくつだっけ?
落ち着いてそんな事考えている場合じゃないな。
取り合えず安否を確認しないと。
私は急いで駆け寄る。

「大丈夫? 怪我はなかった?」
「私より木の方が大切?」

的確な突っ込みが来た。

「急に視力が落ちちゃって、悪いねー」
「ふーん、私はこ、こ、よ!」

私の顔を挟んで思いっきり引き寄せるルーミア。
うわっ、ちょっと近いよ!

「分かった分かった。怪我はしなかった?」
「もう、飛べないかも」

よよよ、と崩れ落ちるルーミア。
かなり白々しい。

「お姫様抱っこでもしてあげようか?」

自分で言っておいて自分でドキッとする。
なんかさっきから、必要以上にルーミアの事意識しちゃってるなぁ。

「してくれるの?」
「ううん、嘘」

あまり意識しているところを見せたくないのであっさり断る。

「つまんない」
「これに乗る?」

言いながら自転車を指してみる。

「遅そうだから、嫌」

確かにここだと荷物にしかならないけどさ。
広いところに出れば本領発揮してくれるもん。
早く森抜けないかなぁ。





「森、抜けたよー」
「ん、おぉー!」

森を抜けた先は草原だった。
障害物もないし、足場も悪くない。
ついに自転車の封印を解く時が来たらしい。

「ここからはさっきより早く行けるよ」
「そうなの?」
「これに乗っていけるから」
「ふーん」

気のない返事をして今までと同じ速さで前を行くルーミア。
あまり興味はないようだ。
ふふふ、甘く見てると痛い目見るよ。

「じゃあ、お先にー」

私はルーミアを抜き去って風になった。
その後の道は分からないけど、風を受けて走るのって気持ちいい。
もう、止まれないかも~。

「あ、いいな。ちょっと待って待って!」
「ん、どうしたの?」

どうしたの? は、自分に言った方がいい気がしつつも私は自転車を止める。
ルーミアの声が意外に真剣だったので思わずブレーキに手を伸ばしてしまった。

「ちょっと待ってね……んしょ」

どこかで聞いた可愛い声と共に、一度空高く舞い上がる。
んで、降りてきた場所は私の直ぐ後ろ……ではなく肩の上!!
えっと、これってもしかして肩車というヤツではないのでしょうか?

「え? ちょ? うわ!」

意味不明な言葉を口走る私。
唯でさえ意識しちゃってるのにー。

「どっちに行けばいいかは、口で言うね」
「あ、はい」

動揺しまくってる私と違って、肩の人は普通に冷静でした。

「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「……はーい」

ルーミアの無邪気な合図と共に私はゆっくりと走り出した。
かなり危険な乗り方だけど、自分から軽く浮いてるらしく、少ししか重さは感じない。
そうでなければ……大事な人をこんな風に乗せたまま走り出しはしない。
……あーあ、認めちゃった。

「まだ真っ直ぐね」
「ん、わかった」
「それと、もっとスピード出していいよ」
「うっ、はい」

つまりもっと早く走れと言いたいらしい。
仕方なく私は少しずつスピードを上げていく。
間違っても振り落とすわけにはいかない。

「……うん、いい感じ」

結局一人で走るときぐらいの速さで満足してくれた。
私はちらりとルーミアを見上げてみる。
彼女は飛ぶときいつもそうしているように手を広げていた。
風を、感じてるのかな?

「……気持ちよさそうだね」
「うん。風が気持ちいい」
「そうだね……」

前を向いて、私はルーミアと喋り続ける。
こうやって二人で風を受けて走るのは、とても楽しくて……幸せだった。











ルーミアの案内で走っていると、まず川が見えてきた。
その川に沿って行くと、ついに集落の入り口が見えてくる。

…………

「もう、大丈夫でしょ」
「まだ平気じゃない?」

自転車を止めて、ルーミアを仰ぎ見る。
近くまでと言う約束は、覚えているけど……。

「だーめ」

そう言って、ルーミアは私の肩から地面にひらりと舞い降りる。
お見事、十点満点。

「あなたも知ってるでしょ?」
「何を?」
「私たち妖怪は人間を襲うのよ。
 人間は私たちを退治するのが仕事。
 でも、あなたは食べられない人だから……特別」

……特別か。
もっと別の意味で言ってくれると嬉しいんだけどなぁ。
はぁ、ちょっと期待しすぎかな?

「それは、知ってるけど……」
「私が村に入ったら人間を襲うし、人間も退治しようとしてくる。
 残念だけど、あそこには私より強い力をもった人もいるのよ。
 君は、私がやられちゃってもいいの?」

ここに来て、ルーミアは途端によく喋るようになった。
その中に微かな違和感があったような。
さっきの言い回しは…………おかしい……?

「ねぇ、ルーミア。今のって――」
「あは、初めて私を読んでくれた」
「……え、うそ!?」
「私が言うんだから、きっと本当だよ」

今まで私は一度も、ルーミア、と呼んでいなかった?
私から聞いたのに?
……全然、気付けなかった。

「……ごめん」
「何で、謝るの?」
「何となくだけど」

何となく、悪い事をしたような気がして私は謝った。
それに他の言葉も出てこない。

「気にしないで……」
「……」
「私の方こそごめんね。楽しかったから、ちょっとサービスしすぎちゃった……」

えへへ、と小さな舌を出しながらルーミアは微笑んだ。
いたずらをしすぎてしまった時のように、少しだけばつが悪そうに。

「やっぱり、気付いてたんだ」
「君、恐怖心とかはほとんど出てこないのに、他の部分は結構顔に出ちゃうんだよ」

……少し、恥ずかしい。
私が隠している事は全部お見通しだった。
それに、今まで誰にも顔に出るなんて言われたことはない。
多分、ルーミアが極端に鋭いのだろう。
ルーミアに胸の内を知られてしまった私も少しだけ、ばつが悪かった。

「私に好意を持ってくれたことは、凄く嬉しかったよ――」

出会った時には、私もルーミアがこれほど大切な存在になるとは思わなかった。

「――でもね、私のことは……忘れたほうがいいよ」
「…………」
「ばいばい」

何て言っていいのか分からなかった。
ルーミアは別れの言葉を残して、集落とは反対の方向へ歩き出してしまう。

あれ……ルーミアは飛べるのに……何で歩くの?

…………私は…………

「ルーミア、ちょっと待って!」
「……ん?」

私は自転車を乗り捨てて、ルーミアの元まで走った。
勢いで呼び止めてしまったけど……言葉は自然と口に出来た。

「――ありがとう――」
「――んにゅー――」

あの時と同じように、ルーミアは顔を綻ばせて喜んでくれる。

「――ばいばい――」
 「――うん――」

きっと、笑えているよね。
ルーミアも笑っているから、聞かなくても、きっと笑顔で…………






































……私は振り返ることなく、集落へと足を進める。


……何か前回までと雰囲気変わってしまいました。
『私』の性格というか、普段は表に出てこない部分を書きたかったのですが、書ききれてない自覚があります。
この物語のラストに、もう一回書く機会があると思うのでそこで頑張ってみます。
今回はこれで精一杯でした。ごめんなさい。

次からはまた軽いノリになりますので、そちらに期待してくれると嬉しいです。
それでは失礼しました。
choco
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1320簡易評価
8.80名前が無い程度の能力削除
イイネ!今回でより「私」のキャラクターが深まりました。
続きが楽しみよー!
12.60名前が無い程度の能力削除
まさかルーミアがここまで聡い子だったとは……甘くみてました。
ちょっとムーンライトレイを喰らいに行ってきます。
今回も面白かったのですが、ちょっと「私」がルーミアに好意を持つくだりが
唐突かなぁ、と。
偉そうな事を言って申し訳ありませんでした。次回も楽しみにしております。
14.70名前が無い程度の能力削除
今回も楽しく読ませていただきました
>真剣にどうにかしたい可愛さだよ!
悪いこと言わんから、テイクアウトだけはやめとくように
いろんな意味でヤバイから

さて、次に会うのは誰だろう・・・と考えると「里にいる」という条件から少しは絞れるわけで
そして、緑色の髪という予感が的中するとしたらExな彼女が真っ先に思い浮かんだわけで
・・・果たしてこの予想は当たるだろうか?
23.80名前が無い程度の能力削除
実にあまったるいお話で顔がほころんでしまいました
おもしろかったです。続きを期待してます