紅魔館、レミリアの居室。
「お疲れ様。今日はこれだけかしら?」
「ありがとうございます……はい、メイド隊からの報告は以上です。
続けて門番隊からの報告を」
「それで今日は美鈴がいるのね。
珍しく外が少し騒がしかったようだけど?」
「はい。小者が群れて一斉に襲ってきたようです。
それについて……美鈴」
「はい。建物や庭への被害はありませんでしたが――」
紅魔館で咲夜からレミリアに、一日一回行われる業務報告。と、言っても報告らしいこ
とはほとんど行われず、館の中で変化があったことを少しだけ脚色してお茶と一緒に話す
楽しい時間になっていた。
今日はそこに珍しく門番が顔を出していたので、珍しくちゃんとした業務報告が行われ
ていた。
「そう。一時的とは言え、人数が随分減っているのね。
それなら……咲夜?」
「はい。メイド隊の中で比較的荒事に向いた者を何人かリストアップしてあります。
どうしても人数が足りない場合にはこちらから」
「あ、ありがとうございますっ!」
「でも、定常の見回りなどは門番隊でやるのよ?」
「はい! それでも、ありがとうございます!」
がばっと頭を下げる美鈴。顔は見えないものの、全身からほとばしる喜びのオーラをみ
ると満面の笑みであることは間違いない。
レミリアとしても上に立つものとして、そこまで喜ばれれば悪い気はしない。
「美鈴。これから咲夜とお茶にするけど、貴方も付き合いなさいな」
「喜んでっ! ……あ。ええと……」
「? 何かあるのかしら?」
「美鈴。門番隊の子たちに先に話したいなら行ってきなさい。今日は少し時間を使ってお
茶を用意したいから」
反射的に返事をしてから戸惑ったように口ごもる美鈴だったが、咲夜の言葉に再び笑顔
になる。
「ありがとうございます! それじゃ、急いで行って来ます!」
言うが早いかレミリアに一度頭を下げてから、部屋を飛び出していく。
「廊下は走るなと言ってあるんですけどねぇ……」
呆れたように呟く咲夜。
レミリアはクスクスと笑いながら、
「あの子も咲夜と比べると驚くほど長生きしているはずなのにね。
相変わらず子犬っぽい動作は変わらないわね」
「子犬……確かにそうですねぇ」
「ところで、時間をかけて淹れたいお茶というのは?」
「とある花のお茶なのですが……上からお湯を注ぐと花が開いていく様子がたいへん美し
いお茶ですので、その様をご覧いただこうかと思いまして」
「あら。美鈴のフォローだけじゃなかったのね」
咲夜はにこりと笑うと、いつの間にか手にしていたガラスのポットをテーブルに置き、
小さな蕾のようなものを中に落とした。
「これ?」
「はい。お湯を注いであげると中から花が現れます」
「へぇ、面白いわね」
「ただ、紅茶ではありませんのでお口に合うか……」
「いいわ。たまには違ったお茶というのも面白いし」
博麗神社で紅茶以外のお茶にも慣れたしね、と続けるレミリアはポットの中の蕾から目
を離さず、はたはたと動く背中の羽も早くお湯を淹れろと言わんばかりだ。
「わかりました。それでは……」
これもいつの間にか手に持っていた薬缶からお湯を注ぐ。
たっぷりと注がれたお湯に、蕾からまず草の部分が開き、続けて白い花が湯に花びらを
舞わせながら咲いていく。
「……いいわね、これ」
息を詰めてそれを見ていたレミリアが、花が咲ききったあたりで息をつきながらそう呟
く。
「お気に召しましたか?」
「ええ。それにこの香り、ジャスミンかしら?」
「さすがお嬢様」
と、ばたばたという足音が扉の前で止まった。
「あら、帰ってきたみたいね」
「……美鈴でしょう? ノックはいいから入ってらっしゃい」
「はい、失礼します」
ドアが開くと満面の笑みの美鈴が入ってくる。
「ありがとうございます、お嬢様。門番隊一同、今回と同じ規模で襲われたらどうしよう
かと不安になっていたんですが、これで一安心です」
「ん」
レミリアはひらひらと手を振って見せた。
どうもストレートな感謝が慣れないらしく、頬が少しだけ赤くなっている。
「咲夜さんも、ありがとうございます」
「人数が少ないとなると、貴方が無茶するのは明らかだし、
貴方に倒れられると後が大変なんだから、前もって対処しておくのは当然よ」
「えへへ。でも、あんまりあの子たちに無理させたくないんですよ」
「その結果が倒れて心配かけてるんじゃ本末転倒よ?」
「き、気をつけます」
仕方ないな、とため息をついて見せた咲夜が手招きしてささやかな茶会のテーブルに美
鈴を招く。
「あれ? このお茶……」
「そうよ。前に貴方の部屋でご馳走になったお茶よ」
「あら、これは美鈴の?」
「はい。見た目よく、薫り高く、味わい深くと三拍子揃ったお茶でしたので、
お嬢様にもと思いまして」
「美鈴。いいお茶飲んでるわね」
「ありがとうございます。
後、付け加えると薬効もあるんですよー。このお茶ならリラックス効果ですね」
「このお茶? 他にもこんな花が開くお茶があるのかしら?」
「はい。花が開くお茶をのことを工芸茶といいまして、他にもですね――」
以下、美鈴工芸茶講座。
紅茶にはうるさいお嬢様も、ものは違えどお茶であることからか興味深く聞き入ってい
る。途中に咲夜のクッキーがテーブルに出され、お茶請けのまで話しが及び加熱しはじめ
るお茶談義。
「お茶請けは甘いものが好みですか? それともさっぱりと?」
「私は甘いものですかねぇ」
「太るわよ」
「砂糖を入れなければ飲めない紅茶なんて紅茶じゃないわ」
「そうですねぇ。甘味でごまかさないと飲めないお茶なわけですから」
「私の紅茶をそんなものと一緒に考えられるなんて心外ですわ」
「あ。薬効の強いお茶といえば、動物の干物なんかも――」
「「却下」」
そんなこんなで楽しい時間は過ぎ。
「あら、もうこんな時間?」
「お茶もずいぶん渋くなってしまいましたし。そろそろお開きでしょうか」
「そうね……あ、そのポットはそのままにしておいて頂戴。
見た目も綺麗だから、もう少し楽しんでからね」
「わかりましたー。それじゃ、カップだけ片付けておきますね」
レミリアは美鈴に自分の使っていたカップを渡すため、最後に残ったお茶を名残惜しげ
に口にして、
「お願いね。それじゃ、美鈴。シャワーを浴びてから行くわね」
「わかりました。私もお風呂に入ってから、お布団しいて待ってますねー」
ぶばっふぅ。
「お、お嬢様!?」
「大丈夫ですか!?」
「けほっ……ごほっ……貴方達。
なんて羨まし……もとい。破廉恥な会話を堂々としているのよ!
紅魔館は不純同性交遊を禁止はしていないけど、
もう少し恥じらいというものを持ってもらわないと困るわよ!?」
「は……?」
「へ……?」
きょとんとする従者二人。
「え……?」
不思議そうな視線を返されて困るお嬢様。
「ち、違うの?
お風呂に入って布団を敷いてなんていうから、てっきり……」
不思議そうな視線をそのままお互いに向ける従者二人。
そこでようやく思い至ったのか、同時に真っ赤になる。
「ちちちちちちち違いますよぅ!」
「そうです! 美鈴にマッサージしてもらう約束になっていただけです!」
みしみしみし。
「ぁうんっ……!」
ばきばきばきばき。
「はぁうっ……!」
ごきごきごきごきごき。
「あふっ……!」
ぐきぐきぐきぐきぐきぐき。
「は…あっ……ひぁっ!?」
めきめきめきめきめきめきめき。
「ひっ……ああぅん!」
「あー。その異音がなくて、咲夜の声だけだったら随分と扇情的なんだけどねぇ。
マッサージ以外何物でもないわねぇ」
「だから最初に説明して差し上げたじゃないですかー」
ぐきょぐきょぐきょぐきょぐきょぐきょぐきょ。
「ふあぁぁぁぁ……ん」
「でも、今の緩みきった咲夜の顔もちょっとしたものよ?」
「何を考えてどこを見ておいでですか、お嬢様」
イマイチ疑念を捨て切れなかったお嬢様は、咲夜・美鈴と一緒にメイド用大浴場で一緒
に入浴し、そのまま美鈴の部屋までついてきたのである。
「そういえば、大浴場で居合わせたメイドたちは完璧に凍り付いちゃっていたけど、
普段もあんな感じなの?」
「いえ、今日は雰囲気が違いましたねぇ。
お嬢様がいらっしゃったのが珍しかったんじゃないでしょうか」
ごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごり。
「あぁぁぁぁ……」
「それにしても、物凄い音ね」
「本当はそれだけ疲れているんですよ。
本人は疲れを自覚することがないようですけど」
「ふぅん……」
美鈴の部屋は入り口で靴を脱いで入るタイプの部屋になっているのでそこの床(フロー
リング)に布団を敷き、うつ伏せに寝ている咲夜を上から美鈴が押してマッサージしてい
るのである。ちなみに、美鈴は風呂上りにタンクトップに短パンだけ、という格好でマッ
サージしているため、正面から見ているレミリアからは緩みきった咲夜(服装は美鈴と似
たり寄ったり)も含めて色々と目も当てられないほどの絶景が拝める。
「メイド長としての書類仕事も結構あるらしくて、
咲夜さんが凝っているのはたいてい目・首・肩・腰のあたりですねぇ。
肉体労働も多いのに、腕や足にあんまり疲れがたまっていないのはさすがですけど」
「ふぅん……」
ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち。
「……………………」
「あら、反応悪くなっちゃった?」
「いえ、少し凝りがほぐれて、余裕が出てきたのでそのまま寝ちゃったんでしょう」
「どれどれ……あら、ホント。随分と幸せそうに寝ちゃってるわねぇ」
「咲夜さん曰く、至福のときだとか。
そう言ってもらえると、私も嬉しいんですよ」
ぐりぐりぐりぐりぐり。
相変わらず手元はマッサージを続けている。
「この後咲夜はどうするの?」
「朝までこのままですよ」
「貴方の分の布団は?」
「以前は門番隊の詰め所の方から私の分の布団を運んで来て寝てたんですけど、
咲夜さんがそれに気付いてからは気にしないから一緒に寝ようと言われていまして」
「……」
レミリア、思わずフリーズ。
「あ? どうかなさいましたか?」
「この場合はどうもないから問題あるのかしらね……」
「はぁ…?」
美鈴のフォローのために、美鈴の珍しいお茶を出し、美鈴が会話しやすいようにお茶の
話にもって行ったあたり、今日は随分と咲夜の美鈴に対する愛を感じるなぁと思っていた
ら……。
「なるほど、そういうことだったのね」
「何のお話です?」
「こっちの話よ。気にしないで」
「はぁ……」
「ところで、こんな感じで咲夜がこの部屋に泊まっていくこと結構あるの?」
「えーと。週に2・3回でしょうか」
「入り浸りじゃないの……」
「あー。言われてみればそうですねぇ。
咲夜さん用のお布団を用意しようかな……」
「やめておきなさい。ナイフで剣山にされたくなければ
いやむしろ今この瞬間に『スピア・ザ・グングニル』されたくなければ」
「は、はぁ……」
「咲夜は毎回マッサージされて寝入ってしまうのかしら?」
「いえ、そういうわけでもありませんよ。
ずっと喋っていてそのまま部屋に帰らずに……とか、
疲れたーって入ってきてそのままお布団でバタンQとか。
そういうときは寝入った後にでもマッサージしてるんですけどね」
「……」
「最初は「今日は帰りたくないの……」とかお遊びもしてたんですけどねー」
恐らくチルノ以上に一杯一杯だったであろうそのときの咲夜を思い、むせび泣くレミリ
ア。
「ど、どうかしましたか!?」
「やっぱりどうもないことが問題なんじゃないの、この甲斐性なしっ!」
「な、何でいきなりキレてるんですかー!?」
渾身・会心の捻り込むような右ボディ。
美鈴、轟沈。
……咲夜の上に。
「……あ」
ごちん、という音がした。
「……んーむぅ」
さすがに眠っていたところに頭突きを食らったら目が覚めてしまったらしい。
とは言え、8割がた夢の世界にいるような目つきをしている。
「さ、咲夜?」
「んー……」
咲夜、きょろきょろと周囲を見回して美鈴発見。
ふにゃっと笑うと、美鈴の頭を抱きかかえるようにしてもう一度寝転ぶ。
そして寝息。
「……ッ!!」
お嬢様、悶絶。
普段澄ました表情でいる咲夜の、あどけない笑顔がスマッシュヒットしたらしい。
「ぜぇぜぇ……や、やるわね、咲夜……」
レミリアはそれ以上咲夜と美鈴を視界に入れないように気をつけながら、どうにかこうにか部屋を抜け出した。
ばたん、とドアを閉めてそれにもたれ、ため息をつく。
「苦労してるわね、咲夜……でも、今夜からは違うわよ。
運命が、貴方に味方する」
ぐぐっと、小さいのに強力な拳を握り締める。
己の持つあらゆる技術・知識・能力を持って咲夜を支援するのだ。
フランドールは妹だが、
「いつか私の眷属になるなら、貴方は私の一人娘。
娘の思い人があんな甲斐性なしなのは気に入らないけど……それでも!」
おかーさんは娘を応援するのだ。
「まずはパチェに相談ね……さあ、忙しくなるわ」
パジャマ姿のおかーさんは、知識人の友人を訪ねるためにぺたぺたと館の廊下を歩き始
めた。
「お疲れ様。今日はこれだけかしら?」
「ありがとうございます……はい、メイド隊からの報告は以上です。
続けて門番隊からの報告を」
「それで今日は美鈴がいるのね。
珍しく外が少し騒がしかったようだけど?」
「はい。小者が群れて一斉に襲ってきたようです。
それについて……美鈴」
「はい。建物や庭への被害はありませんでしたが――」
紅魔館で咲夜からレミリアに、一日一回行われる業務報告。と、言っても報告らしいこ
とはほとんど行われず、館の中で変化があったことを少しだけ脚色してお茶と一緒に話す
楽しい時間になっていた。
今日はそこに珍しく門番が顔を出していたので、珍しくちゃんとした業務報告が行われ
ていた。
「そう。一時的とは言え、人数が随分減っているのね。
それなら……咲夜?」
「はい。メイド隊の中で比較的荒事に向いた者を何人かリストアップしてあります。
どうしても人数が足りない場合にはこちらから」
「あ、ありがとうございますっ!」
「でも、定常の見回りなどは門番隊でやるのよ?」
「はい! それでも、ありがとうございます!」
がばっと頭を下げる美鈴。顔は見えないものの、全身からほとばしる喜びのオーラをみ
ると満面の笑みであることは間違いない。
レミリアとしても上に立つものとして、そこまで喜ばれれば悪い気はしない。
「美鈴。これから咲夜とお茶にするけど、貴方も付き合いなさいな」
「喜んでっ! ……あ。ええと……」
「? 何かあるのかしら?」
「美鈴。門番隊の子たちに先に話したいなら行ってきなさい。今日は少し時間を使ってお
茶を用意したいから」
反射的に返事をしてから戸惑ったように口ごもる美鈴だったが、咲夜の言葉に再び笑顔
になる。
「ありがとうございます! それじゃ、急いで行って来ます!」
言うが早いかレミリアに一度頭を下げてから、部屋を飛び出していく。
「廊下は走るなと言ってあるんですけどねぇ……」
呆れたように呟く咲夜。
レミリアはクスクスと笑いながら、
「あの子も咲夜と比べると驚くほど長生きしているはずなのにね。
相変わらず子犬っぽい動作は変わらないわね」
「子犬……確かにそうですねぇ」
「ところで、時間をかけて淹れたいお茶というのは?」
「とある花のお茶なのですが……上からお湯を注ぐと花が開いていく様子がたいへん美し
いお茶ですので、その様をご覧いただこうかと思いまして」
「あら。美鈴のフォローだけじゃなかったのね」
咲夜はにこりと笑うと、いつの間にか手にしていたガラスのポットをテーブルに置き、
小さな蕾のようなものを中に落とした。
「これ?」
「はい。お湯を注いであげると中から花が現れます」
「へぇ、面白いわね」
「ただ、紅茶ではありませんのでお口に合うか……」
「いいわ。たまには違ったお茶というのも面白いし」
博麗神社で紅茶以外のお茶にも慣れたしね、と続けるレミリアはポットの中の蕾から目
を離さず、はたはたと動く背中の羽も早くお湯を淹れろと言わんばかりだ。
「わかりました。それでは……」
これもいつの間にか手に持っていた薬缶からお湯を注ぐ。
たっぷりと注がれたお湯に、蕾からまず草の部分が開き、続けて白い花が湯に花びらを
舞わせながら咲いていく。
「……いいわね、これ」
息を詰めてそれを見ていたレミリアが、花が咲ききったあたりで息をつきながらそう呟
く。
「お気に召しましたか?」
「ええ。それにこの香り、ジャスミンかしら?」
「さすがお嬢様」
と、ばたばたという足音が扉の前で止まった。
「あら、帰ってきたみたいね」
「……美鈴でしょう? ノックはいいから入ってらっしゃい」
「はい、失礼します」
ドアが開くと満面の笑みの美鈴が入ってくる。
「ありがとうございます、お嬢様。門番隊一同、今回と同じ規模で襲われたらどうしよう
かと不安になっていたんですが、これで一安心です」
「ん」
レミリアはひらひらと手を振って見せた。
どうもストレートな感謝が慣れないらしく、頬が少しだけ赤くなっている。
「咲夜さんも、ありがとうございます」
「人数が少ないとなると、貴方が無茶するのは明らかだし、
貴方に倒れられると後が大変なんだから、前もって対処しておくのは当然よ」
「えへへ。でも、あんまりあの子たちに無理させたくないんですよ」
「その結果が倒れて心配かけてるんじゃ本末転倒よ?」
「き、気をつけます」
仕方ないな、とため息をついて見せた咲夜が手招きしてささやかな茶会のテーブルに美
鈴を招く。
「あれ? このお茶……」
「そうよ。前に貴方の部屋でご馳走になったお茶よ」
「あら、これは美鈴の?」
「はい。見た目よく、薫り高く、味わい深くと三拍子揃ったお茶でしたので、
お嬢様にもと思いまして」
「美鈴。いいお茶飲んでるわね」
「ありがとうございます。
後、付け加えると薬効もあるんですよー。このお茶ならリラックス効果ですね」
「このお茶? 他にもこんな花が開くお茶があるのかしら?」
「はい。花が開くお茶をのことを工芸茶といいまして、他にもですね――」
以下、美鈴工芸茶講座。
紅茶にはうるさいお嬢様も、ものは違えどお茶であることからか興味深く聞き入ってい
る。途中に咲夜のクッキーがテーブルに出され、お茶請けのまで話しが及び加熱しはじめ
るお茶談義。
「お茶請けは甘いものが好みですか? それともさっぱりと?」
「私は甘いものですかねぇ」
「太るわよ」
「砂糖を入れなければ飲めない紅茶なんて紅茶じゃないわ」
「そうですねぇ。甘味でごまかさないと飲めないお茶なわけですから」
「私の紅茶をそんなものと一緒に考えられるなんて心外ですわ」
「あ。薬効の強いお茶といえば、動物の干物なんかも――」
「「却下」」
そんなこんなで楽しい時間は過ぎ。
「あら、もうこんな時間?」
「お茶もずいぶん渋くなってしまいましたし。そろそろお開きでしょうか」
「そうね……あ、そのポットはそのままにしておいて頂戴。
見た目も綺麗だから、もう少し楽しんでからね」
「わかりましたー。それじゃ、カップだけ片付けておきますね」
レミリアは美鈴に自分の使っていたカップを渡すため、最後に残ったお茶を名残惜しげ
に口にして、
「お願いね。それじゃ、美鈴。シャワーを浴びてから行くわね」
「わかりました。私もお風呂に入ってから、お布団しいて待ってますねー」
ぶばっふぅ。
「お、お嬢様!?」
「大丈夫ですか!?」
「けほっ……ごほっ……貴方達。
なんて羨まし……もとい。破廉恥な会話を堂々としているのよ!
紅魔館は不純同性交遊を禁止はしていないけど、
もう少し恥じらいというものを持ってもらわないと困るわよ!?」
「は……?」
「へ……?」
きょとんとする従者二人。
「え……?」
不思議そうな視線を返されて困るお嬢様。
「ち、違うの?
お風呂に入って布団を敷いてなんていうから、てっきり……」
不思議そうな視線をそのままお互いに向ける従者二人。
そこでようやく思い至ったのか、同時に真っ赤になる。
「ちちちちちちち違いますよぅ!」
「そうです! 美鈴にマッサージしてもらう約束になっていただけです!」
みしみしみし。
「ぁうんっ……!」
ばきばきばきばき。
「はぁうっ……!」
ごきごきごきごきごき。
「あふっ……!」
ぐきぐきぐきぐきぐきぐき。
「は…あっ……ひぁっ!?」
めきめきめきめきめきめきめき。
「ひっ……ああぅん!」
「あー。その異音がなくて、咲夜の声だけだったら随分と扇情的なんだけどねぇ。
マッサージ以外何物でもないわねぇ」
「だから最初に説明して差し上げたじゃないですかー」
ぐきょぐきょぐきょぐきょぐきょぐきょぐきょ。
「ふあぁぁぁぁ……ん」
「でも、今の緩みきった咲夜の顔もちょっとしたものよ?」
「何を考えてどこを見ておいでですか、お嬢様」
イマイチ疑念を捨て切れなかったお嬢様は、咲夜・美鈴と一緒にメイド用大浴場で一緒
に入浴し、そのまま美鈴の部屋までついてきたのである。
「そういえば、大浴場で居合わせたメイドたちは完璧に凍り付いちゃっていたけど、
普段もあんな感じなの?」
「いえ、今日は雰囲気が違いましたねぇ。
お嬢様がいらっしゃったのが珍しかったんじゃないでしょうか」
ごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごり。
「あぁぁぁぁ……」
「それにしても、物凄い音ね」
「本当はそれだけ疲れているんですよ。
本人は疲れを自覚することがないようですけど」
「ふぅん……」
美鈴の部屋は入り口で靴を脱いで入るタイプの部屋になっているのでそこの床(フロー
リング)に布団を敷き、うつ伏せに寝ている咲夜を上から美鈴が押してマッサージしてい
るのである。ちなみに、美鈴は風呂上りにタンクトップに短パンだけ、という格好でマッ
サージしているため、正面から見ているレミリアからは緩みきった咲夜(服装は美鈴と似
たり寄ったり)も含めて色々と目も当てられないほどの絶景が拝める。
「メイド長としての書類仕事も結構あるらしくて、
咲夜さんが凝っているのはたいてい目・首・肩・腰のあたりですねぇ。
肉体労働も多いのに、腕や足にあんまり疲れがたまっていないのはさすがですけど」
「ふぅん……」
ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち。
「……………………」
「あら、反応悪くなっちゃった?」
「いえ、少し凝りがほぐれて、余裕が出てきたのでそのまま寝ちゃったんでしょう」
「どれどれ……あら、ホント。随分と幸せそうに寝ちゃってるわねぇ」
「咲夜さん曰く、至福のときだとか。
そう言ってもらえると、私も嬉しいんですよ」
ぐりぐりぐりぐりぐり。
相変わらず手元はマッサージを続けている。
「この後咲夜はどうするの?」
「朝までこのままですよ」
「貴方の分の布団は?」
「以前は門番隊の詰め所の方から私の分の布団を運んで来て寝てたんですけど、
咲夜さんがそれに気付いてからは気にしないから一緒に寝ようと言われていまして」
「……」
レミリア、思わずフリーズ。
「あ? どうかなさいましたか?」
「この場合はどうもないから問題あるのかしらね……」
「はぁ…?」
美鈴のフォローのために、美鈴の珍しいお茶を出し、美鈴が会話しやすいようにお茶の
話にもって行ったあたり、今日は随分と咲夜の美鈴に対する愛を感じるなぁと思っていた
ら……。
「なるほど、そういうことだったのね」
「何のお話です?」
「こっちの話よ。気にしないで」
「はぁ……」
「ところで、こんな感じで咲夜がこの部屋に泊まっていくこと結構あるの?」
「えーと。週に2・3回でしょうか」
「入り浸りじゃないの……」
「あー。言われてみればそうですねぇ。
咲夜さん用のお布団を用意しようかな……」
「やめておきなさい。ナイフで剣山にされたくなければ
いやむしろ今この瞬間に『スピア・ザ・グングニル』されたくなければ」
「は、はぁ……」
「咲夜は毎回マッサージされて寝入ってしまうのかしら?」
「いえ、そういうわけでもありませんよ。
ずっと喋っていてそのまま部屋に帰らずに……とか、
疲れたーって入ってきてそのままお布団でバタンQとか。
そういうときは寝入った後にでもマッサージしてるんですけどね」
「……」
「最初は「今日は帰りたくないの……」とかお遊びもしてたんですけどねー」
恐らくチルノ以上に一杯一杯だったであろうそのときの咲夜を思い、むせび泣くレミリ
ア。
「ど、どうかしましたか!?」
「やっぱりどうもないことが問題なんじゃないの、この甲斐性なしっ!」
「な、何でいきなりキレてるんですかー!?」
渾身・会心の捻り込むような右ボディ。
美鈴、轟沈。
……咲夜の上に。
「……あ」
ごちん、という音がした。
「……んーむぅ」
さすがに眠っていたところに頭突きを食らったら目が覚めてしまったらしい。
とは言え、8割がた夢の世界にいるような目つきをしている。
「さ、咲夜?」
「んー……」
咲夜、きょろきょろと周囲を見回して美鈴発見。
ふにゃっと笑うと、美鈴の頭を抱きかかえるようにしてもう一度寝転ぶ。
そして寝息。
「……ッ!!」
お嬢様、悶絶。
普段澄ました表情でいる咲夜の、あどけない笑顔がスマッシュヒットしたらしい。
「ぜぇぜぇ……や、やるわね、咲夜……」
レミリアはそれ以上咲夜と美鈴を視界に入れないように気をつけながら、どうにかこうにか部屋を抜け出した。
ばたん、とドアを閉めてそれにもたれ、ため息をつく。
「苦労してるわね、咲夜……でも、今夜からは違うわよ。
運命が、貴方に味方する」
ぐぐっと、小さいのに強力な拳を握り締める。
己の持つあらゆる技術・知識・能力を持って咲夜を支援するのだ。
フランドールは妹だが、
「いつか私の眷属になるなら、貴方は私の一人娘。
娘の思い人があんな甲斐性なしなのは気に入らないけど……それでも!」
おかーさんは娘を応援するのだ。
「まずはパチェに相談ね……さあ、忙しくなるわ」
パジャマ姿のおかーさんは、知識人の友人を訪ねるためにぺたぺたと館の廊下を歩き始
めた。
紅魔館家族化計画…母娘ってなんて妄想をかきたてる言葉なのかしら。
レミリア様が見守る中、咲夜さんと美鈴が2人でじっくりと(ry
紅の館に満ちるジャスミンと百合の花の香りに少々中てられたようです。ごちそうさまでした。
紅魔館家族化計画…って、ま、まさかっ!
この場合パチュリーが父親なんですかっ!??
流水じゃないからOK?
>咲夜の、あどけない笑顔がスマッシュヒット~
成程。親馬鹿なんですか(多分違ふ)。
レミリア様がなんかもう完全にお母さんですね。しかも親馬鹿。あぁ、いいなぁ。
朔夜さんのアタックと運命による援護射撃をなんも気付かずに美鈴がスルーし、その度に美鈴の朴念仁を愚痴るレミリア様と辟易した溜め息を吐きながら相手するパチュリー、枕を濡らす朔夜と変わらず平和な美鈴、といった絵が浮かびました。ラブコメや。
是非とも続きをっ!
と言うか俺の中で咲夜×美鈴の株が上がってきた所にこれはクリティカルっすよ!!
GJ!!
愛され美鈴、とても甘い!
続きを期待しております。
これは最後まで気づかないな美鈴(笑
こんな悶絶必至な激甘咲×美を書いて書き逃げとは何て残酷な!
是非続きをお願いします。是非。
まさかレミリア様がおかーさんとは...最後の一行に撃沈されました。
あなたはぜひこちらの世界にも
>>あー。その異音がなくて・・・
確かに其のとおり・・ってか、あの擬音、人が死ぬってw
何があったのか凄く気になる。
投稿した後怖くて見に来ていなかったのですが、
えらくポイントをいただいて恐縮です。
個別レスは長くなるので省かせていただきますが、
コメントくださった方、ポイントいただいた方、
他にもいるであろう目を通していただいた方、
本当にありがとうございましたー。
に、しても初投稿で別世界からのお誘い……
ある意味快挙かな(笑)
二人の寝顔が重なった所でもうっ!ハァハァ・・・甘々最高でした
ツボにスッボリ嵌りました。
レミリア様ガン( ゚д゚)ガレ
そんな馬鹿なっ!!!
是非ネチョm(殺人ドール
咲夜さんと美鈴だけでもすごくいいですが、最後のお嬢様が
なんという母親
早くベッドインしてくれ!