もういい加減にしろと言わんばかり、キャラの性格が違う気がします。
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『数ある運命の内に一つくらいはあってほしいような話 前編』
幻想郷、魔法の森。
人を寄せ付けない雰囲気(結界)で覆われるここは、人間以外の妖怪も含めた生き物と、
普通の人間と区別される人間が暮らしていた。平和に、あるいは平和じゃなく。
その中の一人にして人間、自称『普通の魔法使い』霧雨魔理沙。森にひっそりと佇む
彼女の館は少女が一人で暮らすには少し大きい家であるが、中は主が集めた蒐集品で
ごった返しているため問題ない。いや問題は別のところに移行している。
本人は気にもしない。盗人と言われてさえも気にしない彼女の心は広いのである。心が
広いのは決して良い事だけではない・・・・言い方が違うだけか。
さておき。
そんな霧雨邸で、
「・・・・・と、言う訳だぜ」
満足といった表情でフラスコの中に入っている薬品を見つめる魔理沙と、
「・・・・・・・・・・・」
それを不安一杯といった表情で見つめるアリス・マーガトロイドが向かい合っていた。
「・・・これまた、トンチなモノを作ったわね・・・・・」
げんなり顔のアリスがため息を一つ。
「何を言う。ちゃんとレミリアの協力を得てまでして完成させた『運気上昇』の薬だぜ?」
魔理沙はフラスコの中身――濃い緑色で泡が立ちまくってる液体――をちゃぷちゃぷ
振りながら応えた。どう見ても毒薬にしか見えない。ドクロ印でも貼ったらさぞ似合うだろうに。
「レミリア曰く、運気・・・『運命』ってのは、それこそ無数に存在する『結果』への『過程』
なんだそうだ。ある運命に乗ればこの結果、別の運命に乗れば別の結果・・・・まぁ私達にゃ、この
運命も先の結果も解らないわけだが。レミリアの運命操作ってな、この『結果』を先読みして、
そうなるように『運命』を変えてやる能力の事らしい」
「聞いた事はあるわね。つまり、例えば私が『博麗神社に行く』か『霧雨邸に行く』か
という選択でその分かれ道に立った場合。私ではどちらに行った方が得か損か解らない。でも
レミリアならその場でその『結果』が解る。そして私に得をさせるも損をさせるも彼女の自由
・・・って事でしょう?」
「私は霊夢なんかよりお得だぜ?失礼な」
「少なくとも、来客者にお茶も出さないって点では霊夢の方がお得だわ」
ジト目で、アリスはテーブルをコンコンと叩いた。大事な用があるって言うからわざわざ来て
あげたのに、いきなり自分の発明を自慢、説明し始めたのだ。いつもいつも勝手な奴だと思う。
しかし何だかんだ言って、そんな魔理沙だと知っていても呼ばれればお洒落までして来る
あたり、アリスは本気で嫌っているわけではないようである。
「おお、こりゃ気が付かなかったぜ。失礼失礼」
魔理沙はいそいそと立ち上がり台所へ向かう。途中で積み上げてある本につまずいて、
当人は無傷だが雪崩が起きかけた。こう大量にあれば人間ならあっさり圧死できる。
慌ててアリスも加勢し事なきを得るが、
「あ・な・た・は!少しは片付けるって事をしなさいよ!」
別の場所で災害が起きていた。思いっきり人災である。
「これまた何を言う。これは私にとってベストポジションの配置なんだ。どこに何が
あるか一発で解る。私はこれを『霧雨八卦陣』と呼んでいるんだぜ」
片付けられない人が決まって使う言い訳である。やれやれと、アリスは諦めのため息を吐いた。
「あっれ?茶葉はどこに置いたっけなぁ」
「全っ然解ってないじゃないのよッ!」
何が霧雨八卦陣だ。
「いやーははは・・・、ほら飲んで落ち着けって」
台所から戻ってきた魔理沙が、ほのかに湯気の立つ紅茶をアリスの前に差し出した。
「紅魔館ほど美味いものは出来ないけどな」
さらに言えば何時の頃から放置していた茶葉かも解らないが。
「・・・・まぁ、あなたの家でちゃんとしたものが出てくるなんて期待してないわ」
カップを受け取るアリス。熱さを確認して一口飲んだ。
「・・・で、話を戻すけど。レミリアに聞いた『運』の在り方と、あいつが運命操作の際に
放出する魔力の波長なんかを参考にしたんだ」
「ああ、薬の話ね」
「これを服用すると、当人がこれから直面する運命が、望んだ形としてやって来る可能性を
上げる。可能性だぜ?完全はやっぱり難しいけど、まぁ『運気上昇』にはなってるって訳だ」
「これから先、何が起こっても『ラッキー♪』って思える結果になるって事よね。ああやっぱり
胡散臭いわ。具体的には月の天才薬師がニヤニヤ笑いながら差し出した薬と同じくらい胡散臭いわ」
「酷いぜ」
これで幾度目かも解らないため息を吐いて、アリスはまた紅茶を口にする。しかしこの紅茶も微妙な
味だと思った。ちゃんとしたものは出ないと思っていたが、せめてお茶くらいは『普通』程度に出して
ほしいものである。
「・・・・話は解ったわよ。それで、今日私が呼ばれたのはその講釈を聞かせる為だったのかしら?」
「おいおい、お前は本当に魔法使いか?目の前にこんな良いモノがあるのに、好奇心も働かないのか?」
「好奇心をかき消すほど怪しいのよ」
などと反論するアリスだが、興味が無いかと言えば嘘である。むしろ津々だ。もし本当に成功している
薬ならただ運が良くなるという話だけではない。例えば弾幕ごっこの際でも、些細な事が全て自分に有利に
働くとすればその勝率はグンと跳ね上がるだろう。
新しい魔法の実験などは、失敗すると周囲を灰塵と化す事態だってあり得る。だから細心の注意をはらい
行う訳だが、これも無くなるとなればどれほど嬉しい事か。今まで成功率があまり高くないので断念
していた実験だって出来る。成功すればどれほどのものを得られるか想像もつかない。
結局『運気を上昇させる』という事は、全てにおいての『勝率』を上げる事と同義なのである。
これを目の前にして、アリスが興味を持たない訳が無い。
「呼んだって事は、実験に付き合ってほしいって事で?」
「おうさ」
満面の笑顔でうなずく魔理沙。それを眺めながら、またアリスは紅茶を一口。
「・・・・・・ま、良いわ。確かに興味はあるし・・・・じゃ、さっさと飲みなさいよそれ。見ててあげるから」
緑の液体を指差して言った。
だが。
「いや、もし失敗して何かあったら、対処できる奴が居ないと困るだろ?」
あっさり服用を拒否する。
「・・・じゃあ、どうやって実験するのよ」
「さっき実験に付き合うって言ったじゃないか」
これまた、意地が悪いほど可愛らしい笑顔で魔理沙は言い放った。
その顔と言葉の意味を、ほんの少し静寂を設けて、アリスはよくよく吟味する・・・・・
「ぜっっったいお断りよ!」
「何だよ、アリスは嘘吐きだなぁ」
「あなたに嘘吐き呼ばわりされたくないわよ!これは『実験に付き合う』じゃなくて
『実験台になる』って言うのよ!」
「同じ意味だろ?」
「違いすぎるわッ!!」
一際大声をあげた後、つっこみ疲れて息を荒げるアリス。
「まぁまぁ、ほれお茶でも飲んで落ち着けって」
アリスのカップにはまだ紅茶が残っていたが、魔理沙はそこへ保温されてまだ温かい紅茶を注ぎ足した。
言われるままにカップを受け取り、一口。
アリスの動きがぴたりと止まった。
紅茶の味が違う。先ほどまでの微妙な味ではなく、
ごく普通の紅茶であったのだ。
「あ、あ、あなた、まさかッ・・・・・!?」
「やぁ、持つべきものは頑丈な友達だぜ。人間と違って妖怪は滅多な事じゃ死なないもんな」
笑顔はまったく崩れなかった。
「・・・・・・・・こぉのぉ、野良魔法使いーッ!!」
我慢ならず。アリスはついに武器である、常に持ち歩いているグリモワールを手に
とって立ち上がった。
「おお?さっそく実験に付き合ってくれるか」
魔理沙も、愛用の箒を取ってアリスに習う。
外に出て、二人はいつものように弾幕ごっこを始めたのだった。
因みに、薬の効果と見られる現象は一切起こらなかった。
その日の夜。
霧雨邸と同じく魔法の森にひっそりと佇むマーガトロイド邸。魔理沙の家は古ぼけた洋館という感じで
薄暗い森の中の雰囲気とマッチしているのだが、アリスの家は小奇麗な洋風宅といった感じがある。これは
これで森の雰囲気と同調している。つまりどちらも『森の奥に住む魔女の家』としての雰囲気を別の形で
体現しているわけである。
まぁ、ぶっちゃけると、どっちも不気味って事なのだが。
「まったく、いつもいつも魔理沙のやる事には付いて行けないわ・・・!」
まだイライラが収まっていないアリスは、テーブルの上にちょこんと座っている人形・・・、アリスが
弾幕ごっこの際に使役する呪術触媒、上海人形と蓬莱人形に向かって、ぐちぐちと文句をたれていた。
上海と蓬莱はそんなアリスの両肩を、それぞれぽんぽんと叩く。
「・・・ありがと、二人とも」
アリスが両方の頭を軽く撫でてやる。褒められて嬉しくなった二体は手を取り合って嬉しそうに
くるくる回った。
「ふふっ・・・」
その微笑ましさに、やっとアリスは怒りを溜飲して笑顔になる。
「・・・さて、今日は疲れたし、もう着替えて寝ちゃおう」
アリスは椅子から腰を離した。クローゼットから寝巻きを取り出すと胸元のリボンを外す。しゅるしゅると
布が擦れる音だけが、静かなマーガトロイド邸の一角に響く。
ぱさり、と、その衣服が足元に落ちた。
上半身は何も身につけていないアリスが寝巻きに手を伸ばす。
がちゃり。
「夜分遅くごめんなさい、アリス・・・・あ」
ノックも無しにいきなりドアを開けたのは、まったく想定外の人物・・・・・
十六夜咲夜だった。
だからという訳ではないだろうが、少々時が止まった。
「き、きゃあッ!?」
持っていた寝巻きで、咄嗟にアリスは前を隠した。
「あ、あら、ごめんなさい」
慌てて咲夜も後ろを向く。
「な、何であなたがこんなところに居るのよッ!って言うか魔理沙じゃあるまいし、ノックくらい
しなさいよッ!!」
咲夜がこちらを見ていない事を確認し、アリスは急いで寝巻きを着込んだ。
「・・・・あ、あれ?そういえばそうね。・・・何で私、こんな礼儀も無い事したのかしら・・・」
疲れてるのねと、勝手に解釈した。
「・・・・それで、こんな時間に何よ?」
まだ顔の赤いアリスがじろりと咲夜を睨む。いくら同性とは言っても、やはり恥ずかしい事は恥ずかしい。
「実は、ちょっとこの辺りで取れる希少品を夢中で採取してたら、とっぷり日が暮れちゃって」
・・・・完璧で瀟洒な従者は、時々こんな大ボケをかます時がある。しかし何と間の悪い事だろうか。
「・・・・・森を案内しろと?私、今着替えたばかりなんだけど・・・・」
「でも、もうお嬢様もお目覚めになられている事だろうし、一刻も早く帰りたいのよ」
だったら時間くらいしっかり把握しておけ時の魔術師だろうにと、こっそり思うアリス。ここで皮肉でも
言ってあーだこーだするほどには、もう体力も残っていなかった。疲れて寝るところだったのだから。
「お礼はするから、何とかお願い出来ないかしら」
本当はもう着替え直してまた外出するのはうんざりだったが、ここで断って変な恨みを買うのも得策では
ないと考えた。それこそ逆恨みなのだが、咲夜という人物は主・・・レミリアが絡むと、理不尽など粉々に
粉砕する人間なのだ。へたに力など持っているから性質が悪い。
「・・・・解ったわよ。・・・着替えるから外で待ってて」
渋々了解した。
咲夜は礼を言って頭を垂れ、入ってきたドアから外に出て行った。
着替えながら、これはもしかしたら魔理沙の薬の所為じゃないかと思うアリス。運気上昇は見事に失敗し、
今自分の運は最低になっているのではないか。
・・・・明日あたり、ちょっと本気でこらしめてやろう。いつも本気を出さないアリスにしては珍しい衝動で
あった。
咲夜と並んで森の木々の間を飛んでいく。森の上を飛べば楽だしアリスの手を煩わせる事も
ないと思う咲夜だが、それは駄目だと、以前アリスに何故か止められていた。理由は今も解っていない。
「・・・ほら、湖が見えてきたわよ」
アリスが指差す方、木々は途切れ広大な水溜りが姿を現した。対岸も見えないこの湖のちょうど中心に、
咲夜が仕える紅魔館が存在する。
「助かったわ」
進みを止めて、咲夜はアリスにニコリと微笑んだ。
「良かったら、今夜は泊まっていってくれないかしら?出来得る限りおもてなしさせてもらうわ」
この申し出は正直ありがたい。また来た道を戻って帰る事を考えて、うんざりしていたところである。
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
アリスはそう答えた。
月光が明るく幻想郷を照らす。アリスは別に暗闇でもモノが見えるのだが、人間の咲夜にはありがた
かった。加えてこんな夜は主の気分も決まって良い。早く帰らねばと咲夜の進みは若干速くなっていた。
その後ろをアリスが続く。
その後、アリスは紅魔館でも上等の客室に案内された。個室なのだがアリスの家が半分以上入って
しまうほど広い。外から見てこれほどの部屋が内部に存在しているとは思えなかったが、以前魔理沙と
来たときに『空間をいじってある』と聞いたことがある。そうやってこしらえた部屋なのだろう。
上質の、ふかふかで巨大なベッドに体を預ける。そこでアリスの疲れは限界に達した。
ものの一分も経たない内に、ベッドの中心から安らかな寝息が聞こえてきた・・・・・・
やがて月は沈み、太陽がゆっくりと昇っていく。
「・・・・・ん・・・・・・」
背中に感じるふかふかとした心地よい感触。全身に感じる為、アリスはゆっくりと寝返りをうった。
・・・・ああ、ゆうべに紅魔館へ来ていたんだった。思い出した。
のっそりと体を起こす。まだ少々寝足りない気もするが、とろんとした目で辺りを見回した。
紅魔館は窓が極端に少なく、廊下においては一つも存在しない。主が日光を苦手としているから仕方
無いが、それでもまったく存在しないわけではない。こうして個人が使う部屋などには少ないながらも
窓がちゃんと存在している。と言っても、これだけ広い部屋に、たった一つっきりだが。
その窓から優しく朝日が入り込んでくる。小鳥のさえずりも聞こえてきた。
疲れていた所為か、それとも上質のベッドの所為か、とにかくぐっすり眠れた。二度寝も良いが、
そんなだらしない所を他人に見せるのは、都会派魔法使いとしてプライドが許さなかった。
―――私は野良魔法使いや万年春巫女や、常眠スキマ妖怪とは違うんだから。
などと思いながら、ゆっくりとベッドを降りた。しかしこの感触はちょっと勿体無い。もう一度
ここで眠りたいなぁなどと、少々未練が残った。
ふと見ると、ゆうべ寝巻きを借りた時に脱いだ服が綺麗にたたまれていた。だらしなく脱ぎ
捨てた訳ではないが、もうちょっと雑だった気がする。
手にとってみると、どうやら洗われたようであった。洗剤の良い匂いがする。こんな短時間で
洗って、しかも乾かせるなんて・・・・・・出来るな。彼女には時間など関係無い。
どうも他人の家で寝巻きのままというのも、ベッドから降りてしまえば落ち着かない。アリスは
いそいそと着替えを始めた。ワンピース型の寝巻きは、胸元のひもをゆるめて肩を
出せばするりと落ちる。
咲夜に見られたアリスの白い肌。闇に浮けば艶を醸し出し、朝日に晒せば美しい。インドアな
性格の為かはたまた元からそうなのか、透き通るような肌はただただ美しかった。
しなやかな手足。
ゆるくウェーブのかかった金色の髪。
母性よりも芸術性を喚起させる胸、ふたつのふくらみ。
寝起きのとろんとした表情だって様になってしまう顔立ち。
アリスは美少女である。
そんな乙女の絶対領域。決して人に見せたくない、しかし少女がもっとも美しく見える瞬間。
今も昔も、これからも、多くの芸術家達を魅了し続ける。
人がこの美しさに結界を張ったのは、
―――この神々しいまでの美が、人を狂わすからに違いない―――
「よぅアリス、おはようさんだぜ・・・・・あ」
魔理沙が何の予告も無くドアを開けたのは、寝巻きがアリスの足元に落ちた瞬間だった。
・・・・・・・
悲鳴。
あやまる魔理沙。
・・・少女謝罪中・・・・・
魔理沙が後ろを向いたり、アリスが着替えたり、ゆうべとまったく同じ。
故に描写は省略する。
「・・・・・なんで、あなたがここに居るのよ・・・・・!」
咲夜に見られた時以上に顔を真っ赤にして、涙目のアリスが魔理沙を睨んだ。
「・・・あー、ほら、昨日の薬。効果が出なかったんで、パチュリーとレミリアに色々
相談しようと思って来たんだ。そしたらお前が居るって聞いたから・・・・・・」
ぽりぽりと頬を掻く魔理沙。流石にばつが悪そうである。
だがそれ以上に居心地が悪いのはアリスの方だ。
体面上はともかく、内心では少なからず・・・・・と言うより、盛大に好意を持っている相手に、
殆ど全裸の状態を見られてしまった。もはや恥ずかしいの一つ上くらいを行ってる。それを何と
呼ぶのかは知らないが、今のアリスは殆ど思考停止状態。頭がくらくらして気絶しそう。
「・・・・おいおい、大丈夫かアリス?」
「ひゃっ!?」
心配そうにアリスの顔を覗き込む魔理沙。こんな近くに顔を寄せられても、声をかけられるまで
気付かないほどアリスはボーッとしていた。それで途端に、間近にその顔があるわけで、アリスは
思わず逃げて距離をとる。
「・・・・あー、そんなにショックを受けないでくれよ。女同士じゃないか」
右手をひらひらさせる魔理沙。
「・・・・・・・・ぅ・・・・・・」
しかしアリスはその顔を直視せず、言葉にも答えず、小さく呻くだけ。
「えーと・・・・・・」
「・・・・・ぅぅ・・・・・・」
突然。
魔理沙はすくっと立ち上がり、うずくまるアリスの手を半ば無理矢理に握った。
びくりと体をすくませて、アリスは恐る恐る魔理沙の顔を見上げる。
「朝飯、食いに行こうぜ」
いつも通りの、やんちゃなようで女の子らしいような、まぶしい笑顔。
初めてアリスが魔理沙に対して胸が高鳴ったのも、この笑顔を見たときだった。
少しだけ、その笑顔に見惚れた後、
「・・・・・・・うん」
小さく頷く。
「よっし!ほらほら早く立てよ、腹が空いてるんだから」
「あッ!ちょっと魔理沙、引っ張らないでよ!」
「やだね。こうと決めたらすぐさま行動こそ、音速の魔法使いが所以だぜ?」
「・・・まったく、いつも勝手なんだから・・・・・フフッ」
「・・・へへッ」
紅い長い廊下を、魔理沙に手を引かれて歩いていく。
まだ少し顔が赤いが、アリスはやっと小さく笑った。
いや。
今この瞬間こそ、彼女が顔を赤らめている原因なのかもしれないが。
・・・・・・・・・・・
紅魔館、ダイニングルーム。
大きいテーブルの上には、すでに豪勢な朝食が並んでいた。
席に座るのは、紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
隣に咲夜が立っている。
ヴワル図書館の管理者、パチュリー・ノーレッジ。
朝から非常に不健康そうな顔をしていた。
そして客席にアリス・マーガトロイド。
隣に霧雨魔理沙が付いた。
「ゆうべは咲夜が世話になったそうね、アリス。主として礼を言うわ」
テーブルの対面からレミリアが言った。
「上質のベッドで寝かせてもらえて、こんな朝食までご馳走になって、礼なら十分頂きましたわ」
にっこり笑って、上品に言葉を返すアリス。
「なーなー、今度私にもあの部屋使わせてくれよモグモグ」
魔理沙が全部台無しにした。
「万に一つ、あなたが客人としてここへ招かれたら使わせてあげるわ」
「客人だろ、いつも」
「泥棒は客と言わないわ」
横からそう言うパチュリー。一かけらのパンと少量のスープを腹に収めるだけでも
手間取っていた。もはや小食とも言えないレベル、拒食症ぎみだ。
「『招かざる客』だろ?客じゃんか」
「招いてないじゃない」
・・・・・などと、とりとめも無い会話で朝食は和やかに終わっていった。
「・・・・ところで、アリス」
一番最後に食事を終えたパチュリーが、アリスの顔を覗き込みながら言う。
「はい?」
「魔力の波長がいつもと違うわね・・・・、魔理沙の薬の所為かしら」
すっかり忘れていた、ゆうべから変に不運だった事を。
やはりあの薬が原因だったか。アリスは隣で、食べ過ぎてぱんぱんのお腹を苦しそうに擦る
魔理沙のこめかみを拳でぐいぐい押した。
「あたたたッ!?何だよアリス何だよッ!?」
「結局全部が全部あなたの所為じゃないのよ!このこのこのこの!」
「や、やめッ!今はまずいぜ止めろアリス!出る出る食ったモン出ちまうーッ!」
幸い、魔理沙の口からゲ(マスタースパーク)が放たれる事は無かった。
「ううう・・・・、で、どんな調子なんだ?今のアリスは」
ひりひり痛むこめかみを押さえながら、魔理沙が涙目で訊ねた。
パチュリーはアリスの顔に引っ付かんばかりに接近して、その目の中を凝視している。
「・・・・・・あなたの薬で、アリスの『運気』が動いているのは確かよ」
「んー、じゃあ半分くらいは成功していたのか」
しばらくうーとかんーとか唸っていたパチュリーがアリスから顔を離す。
「・・・・レミィなら解らない?」
「んー?」
夜型の紅魔はもうすぐ就寝の時間。少し眠たげな目をしながら、ちょこちょことアリスの間近まで
歩み寄った。
「失礼するわね」
両手でアリスの頬を支え、くいっと自分の方に寄せる。パチュリーと同じようにアリスの
青い両目を深々と覗き込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらくそのままが続く。アリスも体勢的にちょっと辛くなってきた。後、まばたきして
良いのか困る。開きっぱなしで両目が痛くなってきた。
「・・・・・・・・・これは・・・・・」
小さく呟いて、レミリアは手と顔を離した。
「んー・・・・、何でわざわざ数ある中から、こんな運命に引っ掛かったのやら・・・・・・」
「単純に不運ってわけじゃないのか?」
「違うわ。アリスは今、ある一つの『結果』に強制的に行き着くような『運命』にあるのよ」
少し同情的な目で、レミリアはアリスを見つめた。
「・・・・・それって」
「・・・・・・まさか」
アリスと魔理沙は互いに顔を見合わせる。
ゆうべと今朝、どちらにもあった『運命』と『結果』
それを思い出し、すべての辻褄を合わせた答えに、アリスの顔がさっと青ざめる。
そしてレミリアの口からそれは告げられた。
「必ず誰かにハダカを見られてしまう運命に」
アリスの悲鳴が紅魔館に響くのは、そのすぐ後であった。
~続く~
*重要*びみょ~~~なえちが含まれているかもしれません。
お嫌いな方、クリックに消費したカロリーとここまで読んでいただいた労力を
お返し出来ずに申し訳ありません。
『数ある運命の内に一つくらいはあってほしいような話 前編』
幻想郷、魔法の森。
人を寄せ付けない雰囲気(結界)で覆われるここは、人間以外の妖怪も含めた生き物と、
普通の人間と区別される人間が暮らしていた。平和に、あるいは平和じゃなく。
その中の一人にして人間、自称『普通の魔法使い』霧雨魔理沙。森にひっそりと佇む
彼女の館は少女が一人で暮らすには少し大きい家であるが、中は主が集めた蒐集品で
ごった返しているため問題ない。いや問題は別のところに移行している。
本人は気にもしない。盗人と言われてさえも気にしない彼女の心は広いのである。心が
広いのは決して良い事だけではない・・・・言い方が違うだけか。
さておき。
そんな霧雨邸で、
「・・・・・と、言う訳だぜ」
満足といった表情でフラスコの中に入っている薬品を見つめる魔理沙と、
「・・・・・・・・・・・」
それを不安一杯といった表情で見つめるアリス・マーガトロイドが向かい合っていた。
「・・・これまた、トンチなモノを作ったわね・・・・・」
げんなり顔のアリスがため息を一つ。
「何を言う。ちゃんとレミリアの協力を得てまでして完成させた『運気上昇』の薬だぜ?」
魔理沙はフラスコの中身――濃い緑色で泡が立ちまくってる液体――をちゃぷちゃぷ
振りながら応えた。どう見ても毒薬にしか見えない。ドクロ印でも貼ったらさぞ似合うだろうに。
「レミリア曰く、運気・・・『運命』ってのは、それこそ無数に存在する『結果』への『過程』
なんだそうだ。ある運命に乗ればこの結果、別の運命に乗れば別の結果・・・・まぁ私達にゃ、この
運命も先の結果も解らないわけだが。レミリアの運命操作ってな、この『結果』を先読みして、
そうなるように『運命』を変えてやる能力の事らしい」
「聞いた事はあるわね。つまり、例えば私が『博麗神社に行く』か『霧雨邸に行く』か
という選択でその分かれ道に立った場合。私ではどちらに行った方が得か損か解らない。でも
レミリアならその場でその『結果』が解る。そして私に得をさせるも損をさせるも彼女の自由
・・・って事でしょう?」
「私は霊夢なんかよりお得だぜ?失礼な」
「少なくとも、来客者にお茶も出さないって点では霊夢の方がお得だわ」
ジト目で、アリスはテーブルをコンコンと叩いた。大事な用があるって言うからわざわざ来て
あげたのに、いきなり自分の発明を自慢、説明し始めたのだ。いつもいつも勝手な奴だと思う。
しかし何だかんだ言って、そんな魔理沙だと知っていても呼ばれればお洒落までして来る
あたり、アリスは本気で嫌っているわけではないようである。
「おお、こりゃ気が付かなかったぜ。失礼失礼」
魔理沙はいそいそと立ち上がり台所へ向かう。途中で積み上げてある本につまずいて、
当人は無傷だが雪崩が起きかけた。こう大量にあれば人間ならあっさり圧死できる。
慌ててアリスも加勢し事なきを得るが、
「あ・な・た・は!少しは片付けるって事をしなさいよ!」
別の場所で災害が起きていた。思いっきり人災である。
「これまた何を言う。これは私にとってベストポジションの配置なんだ。どこに何が
あるか一発で解る。私はこれを『霧雨八卦陣』と呼んでいるんだぜ」
片付けられない人が決まって使う言い訳である。やれやれと、アリスは諦めのため息を吐いた。
「あっれ?茶葉はどこに置いたっけなぁ」
「全っ然解ってないじゃないのよッ!」
何が霧雨八卦陣だ。
「いやーははは・・・、ほら飲んで落ち着けって」
台所から戻ってきた魔理沙が、ほのかに湯気の立つ紅茶をアリスの前に差し出した。
「紅魔館ほど美味いものは出来ないけどな」
さらに言えば何時の頃から放置していた茶葉かも解らないが。
「・・・・まぁ、あなたの家でちゃんとしたものが出てくるなんて期待してないわ」
カップを受け取るアリス。熱さを確認して一口飲んだ。
「・・・で、話を戻すけど。レミリアに聞いた『運』の在り方と、あいつが運命操作の際に
放出する魔力の波長なんかを参考にしたんだ」
「ああ、薬の話ね」
「これを服用すると、当人がこれから直面する運命が、望んだ形としてやって来る可能性を
上げる。可能性だぜ?完全はやっぱり難しいけど、まぁ『運気上昇』にはなってるって訳だ」
「これから先、何が起こっても『ラッキー♪』って思える結果になるって事よね。ああやっぱり
胡散臭いわ。具体的には月の天才薬師がニヤニヤ笑いながら差し出した薬と同じくらい胡散臭いわ」
「酷いぜ」
これで幾度目かも解らないため息を吐いて、アリスはまた紅茶を口にする。しかしこの紅茶も微妙な
味だと思った。ちゃんとしたものは出ないと思っていたが、せめてお茶くらいは『普通』程度に出して
ほしいものである。
「・・・・話は解ったわよ。それで、今日私が呼ばれたのはその講釈を聞かせる為だったのかしら?」
「おいおい、お前は本当に魔法使いか?目の前にこんな良いモノがあるのに、好奇心も働かないのか?」
「好奇心をかき消すほど怪しいのよ」
などと反論するアリスだが、興味が無いかと言えば嘘である。むしろ津々だ。もし本当に成功している
薬ならただ運が良くなるという話だけではない。例えば弾幕ごっこの際でも、些細な事が全て自分に有利に
働くとすればその勝率はグンと跳ね上がるだろう。
新しい魔法の実験などは、失敗すると周囲を灰塵と化す事態だってあり得る。だから細心の注意をはらい
行う訳だが、これも無くなるとなればどれほど嬉しい事か。今まで成功率があまり高くないので断念
していた実験だって出来る。成功すればどれほどのものを得られるか想像もつかない。
結局『運気を上昇させる』という事は、全てにおいての『勝率』を上げる事と同義なのである。
これを目の前にして、アリスが興味を持たない訳が無い。
「呼んだって事は、実験に付き合ってほしいって事で?」
「おうさ」
満面の笑顔でうなずく魔理沙。それを眺めながら、またアリスは紅茶を一口。
「・・・・・・ま、良いわ。確かに興味はあるし・・・・じゃ、さっさと飲みなさいよそれ。見ててあげるから」
緑の液体を指差して言った。
だが。
「いや、もし失敗して何かあったら、対処できる奴が居ないと困るだろ?」
あっさり服用を拒否する。
「・・・じゃあ、どうやって実験するのよ」
「さっき実験に付き合うって言ったじゃないか」
これまた、意地が悪いほど可愛らしい笑顔で魔理沙は言い放った。
その顔と言葉の意味を、ほんの少し静寂を設けて、アリスはよくよく吟味する・・・・・
「ぜっっったいお断りよ!」
「何だよ、アリスは嘘吐きだなぁ」
「あなたに嘘吐き呼ばわりされたくないわよ!これは『実験に付き合う』じゃなくて
『実験台になる』って言うのよ!」
「同じ意味だろ?」
「違いすぎるわッ!!」
一際大声をあげた後、つっこみ疲れて息を荒げるアリス。
「まぁまぁ、ほれお茶でも飲んで落ち着けって」
アリスのカップにはまだ紅茶が残っていたが、魔理沙はそこへ保温されてまだ温かい紅茶を注ぎ足した。
言われるままにカップを受け取り、一口。
アリスの動きがぴたりと止まった。
紅茶の味が違う。先ほどまでの微妙な味ではなく、
ごく普通の紅茶であったのだ。
「あ、あ、あなた、まさかッ・・・・・!?」
「やぁ、持つべきものは頑丈な友達だぜ。人間と違って妖怪は滅多な事じゃ死なないもんな」
笑顔はまったく崩れなかった。
「・・・・・・・・こぉのぉ、野良魔法使いーッ!!」
我慢ならず。アリスはついに武器である、常に持ち歩いているグリモワールを手に
とって立ち上がった。
「おお?さっそく実験に付き合ってくれるか」
魔理沙も、愛用の箒を取ってアリスに習う。
外に出て、二人はいつものように弾幕ごっこを始めたのだった。
因みに、薬の効果と見られる現象は一切起こらなかった。
その日の夜。
霧雨邸と同じく魔法の森にひっそりと佇むマーガトロイド邸。魔理沙の家は古ぼけた洋館という感じで
薄暗い森の中の雰囲気とマッチしているのだが、アリスの家は小奇麗な洋風宅といった感じがある。これは
これで森の雰囲気と同調している。つまりどちらも『森の奥に住む魔女の家』としての雰囲気を別の形で
体現しているわけである。
まぁ、ぶっちゃけると、どっちも不気味って事なのだが。
「まったく、いつもいつも魔理沙のやる事には付いて行けないわ・・・!」
まだイライラが収まっていないアリスは、テーブルの上にちょこんと座っている人形・・・、アリスが
弾幕ごっこの際に使役する呪術触媒、上海人形と蓬莱人形に向かって、ぐちぐちと文句をたれていた。
上海と蓬莱はそんなアリスの両肩を、それぞれぽんぽんと叩く。
「・・・ありがと、二人とも」
アリスが両方の頭を軽く撫でてやる。褒められて嬉しくなった二体は手を取り合って嬉しそうに
くるくる回った。
「ふふっ・・・」
その微笑ましさに、やっとアリスは怒りを溜飲して笑顔になる。
「・・・さて、今日は疲れたし、もう着替えて寝ちゃおう」
アリスは椅子から腰を離した。クローゼットから寝巻きを取り出すと胸元のリボンを外す。しゅるしゅると
布が擦れる音だけが、静かなマーガトロイド邸の一角に響く。
ぱさり、と、その衣服が足元に落ちた。
上半身は何も身につけていないアリスが寝巻きに手を伸ばす。
がちゃり。
「夜分遅くごめんなさい、アリス・・・・あ」
ノックも無しにいきなりドアを開けたのは、まったく想定外の人物・・・・・
十六夜咲夜だった。
だからという訳ではないだろうが、少々時が止まった。
「き、きゃあッ!?」
持っていた寝巻きで、咄嗟にアリスは前を隠した。
「あ、あら、ごめんなさい」
慌てて咲夜も後ろを向く。
「な、何であなたがこんなところに居るのよッ!って言うか魔理沙じゃあるまいし、ノックくらい
しなさいよッ!!」
咲夜がこちらを見ていない事を確認し、アリスは急いで寝巻きを着込んだ。
「・・・・あ、あれ?そういえばそうね。・・・何で私、こんな礼儀も無い事したのかしら・・・」
疲れてるのねと、勝手に解釈した。
「・・・・それで、こんな時間に何よ?」
まだ顔の赤いアリスがじろりと咲夜を睨む。いくら同性とは言っても、やはり恥ずかしい事は恥ずかしい。
「実は、ちょっとこの辺りで取れる希少品を夢中で採取してたら、とっぷり日が暮れちゃって」
・・・・完璧で瀟洒な従者は、時々こんな大ボケをかます時がある。しかし何と間の悪い事だろうか。
「・・・・・森を案内しろと?私、今着替えたばかりなんだけど・・・・」
「でも、もうお嬢様もお目覚めになられている事だろうし、一刻も早く帰りたいのよ」
だったら時間くらいしっかり把握しておけ時の魔術師だろうにと、こっそり思うアリス。ここで皮肉でも
言ってあーだこーだするほどには、もう体力も残っていなかった。疲れて寝るところだったのだから。
「お礼はするから、何とかお願い出来ないかしら」
本当はもう着替え直してまた外出するのはうんざりだったが、ここで断って変な恨みを買うのも得策では
ないと考えた。それこそ逆恨みなのだが、咲夜という人物は主・・・レミリアが絡むと、理不尽など粉々に
粉砕する人間なのだ。へたに力など持っているから性質が悪い。
「・・・・解ったわよ。・・・着替えるから外で待ってて」
渋々了解した。
咲夜は礼を言って頭を垂れ、入ってきたドアから外に出て行った。
着替えながら、これはもしかしたら魔理沙の薬の所為じゃないかと思うアリス。運気上昇は見事に失敗し、
今自分の運は最低になっているのではないか。
・・・・明日あたり、ちょっと本気でこらしめてやろう。いつも本気を出さないアリスにしては珍しい衝動で
あった。
咲夜と並んで森の木々の間を飛んでいく。森の上を飛べば楽だしアリスの手を煩わせる事も
ないと思う咲夜だが、それは駄目だと、以前アリスに何故か止められていた。理由は今も解っていない。
「・・・ほら、湖が見えてきたわよ」
アリスが指差す方、木々は途切れ広大な水溜りが姿を現した。対岸も見えないこの湖のちょうど中心に、
咲夜が仕える紅魔館が存在する。
「助かったわ」
進みを止めて、咲夜はアリスにニコリと微笑んだ。
「良かったら、今夜は泊まっていってくれないかしら?出来得る限りおもてなしさせてもらうわ」
この申し出は正直ありがたい。また来た道を戻って帰る事を考えて、うんざりしていたところである。
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
アリスはそう答えた。
月光が明るく幻想郷を照らす。アリスは別に暗闇でもモノが見えるのだが、人間の咲夜にはありがた
かった。加えてこんな夜は主の気分も決まって良い。早く帰らねばと咲夜の進みは若干速くなっていた。
その後ろをアリスが続く。
その後、アリスは紅魔館でも上等の客室に案内された。個室なのだがアリスの家が半分以上入って
しまうほど広い。外から見てこれほどの部屋が内部に存在しているとは思えなかったが、以前魔理沙と
来たときに『空間をいじってある』と聞いたことがある。そうやってこしらえた部屋なのだろう。
上質の、ふかふかで巨大なベッドに体を預ける。そこでアリスの疲れは限界に達した。
ものの一分も経たない内に、ベッドの中心から安らかな寝息が聞こえてきた・・・・・・
やがて月は沈み、太陽がゆっくりと昇っていく。
「・・・・・ん・・・・・・」
背中に感じるふかふかとした心地よい感触。全身に感じる為、アリスはゆっくりと寝返りをうった。
・・・・ああ、ゆうべに紅魔館へ来ていたんだった。思い出した。
のっそりと体を起こす。まだ少々寝足りない気もするが、とろんとした目で辺りを見回した。
紅魔館は窓が極端に少なく、廊下においては一つも存在しない。主が日光を苦手としているから仕方
無いが、それでもまったく存在しないわけではない。こうして個人が使う部屋などには少ないながらも
窓がちゃんと存在している。と言っても、これだけ広い部屋に、たった一つっきりだが。
その窓から優しく朝日が入り込んでくる。小鳥のさえずりも聞こえてきた。
疲れていた所為か、それとも上質のベッドの所為か、とにかくぐっすり眠れた。二度寝も良いが、
そんなだらしない所を他人に見せるのは、都会派魔法使いとしてプライドが許さなかった。
―――私は野良魔法使いや万年春巫女や、常眠スキマ妖怪とは違うんだから。
などと思いながら、ゆっくりとベッドを降りた。しかしこの感触はちょっと勿体無い。もう一度
ここで眠りたいなぁなどと、少々未練が残った。
ふと見ると、ゆうべ寝巻きを借りた時に脱いだ服が綺麗にたたまれていた。だらしなく脱ぎ
捨てた訳ではないが、もうちょっと雑だった気がする。
手にとってみると、どうやら洗われたようであった。洗剤の良い匂いがする。こんな短時間で
洗って、しかも乾かせるなんて・・・・・・出来るな。彼女には時間など関係無い。
どうも他人の家で寝巻きのままというのも、ベッドから降りてしまえば落ち着かない。アリスは
いそいそと着替えを始めた。ワンピース型の寝巻きは、胸元のひもをゆるめて肩を
出せばするりと落ちる。
咲夜に見られたアリスの白い肌。闇に浮けば艶を醸し出し、朝日に晒せば美しい。インドアな
性格の為かはたまた元からそうなのか、透き通るような肌はただただ美しかった。
しなやかな手足。
ゆるくウェーブのかかった金色の髪。
母性よりも芸術性を喚起させる胸、ふたつのふくらみ。
寝起きのとろんとした表情だって様になってしまう顔立ち。
アリスは美少女である。
そんな乙女の絶対領域。決して人に見せたくない、しかし少女がもっとも美しく見える瞬間。
今も昔も、これからも、多くの芸術家達を魅了し続ける。
人がこの美しさに結界を張ったのは、
―――この神々しいまでの美が、人を狂わすからに違いない―――
「よぅアリス、おはようさんだぜ・・・・・あ」
魔理沙が何の予告も無くドアを開けたのは、寝巻きがアリスの足元に落ちた瞬間だった。
・・・・・・・
悲鳴。
あやまる魔理沙。
・・・少女謝罪中・・・・・
魔理沙が後ろを向いたり、アリスが着替えたり、ゆうべとまったく同じ。
故に描写は省略する。
「・・・・・なんで、あなたがここに居るのよ・・・・・!」
咲夜に見られた時以上に顔を真っ赤にして、涙目のアリスが魔理沙を睨んだ。
「・・・あー、ほら、昨日の薬。効果が出なかったんで、パチュリーとレミリアに色々
相談しようと思って来たんだ。そしたらお前が居るって聞いたから・・・・・・」
ぽりぽりと頬を掻く魔理沙。流石にばつが悪そうである。
だがそれ以上に居心地が悪いのはアリスの方だ。
体面上はともかく、内心では少なからず・・・・・と言うより、盛大に好意を持っている相手に、
殆ど全裸の状態を見られてしまった。もはや恥ずかしいの一つ上くらいを行ってる。それを何と
呼ぶのかは知らないが、今のアリスは殆ど思考停止状態。頭がくらくらして気絶しそう。
「・・・・おいおい、大丈夫かアリス?」
「ひゃっ!?」
心配そうにアリスの顔を覗き込む魔理沙。こんな近くに顔を寄せられても、声をかけられるまで
気付かないほどアリスはボーッとしていた。それで途端に、間近にその顔があるわけで、アリスは
思わず逃げて距離をとる。
「・・・・あー、そんなにショックを受けないでくれよ。女同士じゃないか」
右手をひらひらさせる魔理沙。
「・・・・・・・・ぅ・・・・・・」
しかしアリスはその顔を直視せず、言葉にも答えず、小さく呻くだけ。
「えーと・・・・・・」
「・・・・・ぅぅ・・・・・・」
突然。
魔理沙はすくっと立ち上がり、うずくまるアリスの手を半ば無理矢理に握った。
びくりと体をすくませて、アリスは恐る恐る魔理沙の顔を見上げる。
「朝飯、食いに行こうぜ」
いつも通りの、やんちゃなようで女の子らしいような、まぶしい笑顔。
初めてアリスが魔理沙に対して胸が高鳴ったのも、この笑顔を見たときだった。
少しだけ、その笑顔に見惚れた後、
「・・・・・・・うん」
小さく頷く。
「よっし!ほらほら早く立てよ、腹が空いてるんだから」
「あッ!ちょっと魔理沙、引っ張らないでよ!」
「やだね。こうと決めたらすぐさま行動こそ、音速の魔法使いが所以だぜ?」
「・・・まったく、いつも勝手なんだから・・・・・フフッ」
「・・・へへッ」
紅い長い廊下を、魔理沙に手を引かれて歩いていく。
まだ少し顔が赤いが、アリスはやっと小さく笑った。
いや。
今この瞬間こそ、彼女が顔を赤らめている原因なのかもしれないが。
・・・・・・・・・・・
紅魔館、ダイニングルーム。
大きいテーブルの上には、すでに豪勢な朝食が並んでいた。
席に座るのは、紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
隣に咲夜が立っている。
ヴワル図書館の管理者、パチュリー・ノーレッジ。
朝から非常に不健康そうな顔をしていた。
そして客席にアリス・マーガトロイド。
隣に霧雨魔理沙が付いた。
「ゆうべは咲夜が世話になったそうね、アリス。主として礼を言うわ」
テーブルの対面からレミリアが言った。
「上質のベッドで寝かせてもらえて、こんな朝食までご馳走になって、礼なら十分頂きましたわ」
にっこり笑って、上品に言葉を返すアリス。
「なーなー、今度私にもあの部屋使わせてくれよモグモグ」
魔理沙が全部台無しにした。
「万に一つ、あなたが客人としてここへ招かれたら使わせてあげるわ」
「客人だろ、いつも」
「泥棒は客と言わないわ」
横からそう言うパチュリー。一かけらのパンと少量のスープを腹に収めるだけでも
手間取っていた。もはや小食とも言えないレベル、拒食症ぎみだ。
「『招かざる客』だろ?客じゃんか」
「招いてないじゃない」
・・・・・などと、とりとめも無い会話で朝食は和やかに終わっていった。
「・・・・ところで、アリス」
一番最後に食事を終えたパチュリーが、アリスの顔を覗き込みながら言う。
「はい?」
「魔力の波長がいつもと違うわね・・・・、魔理沙の薬の所為かしら」
すっかり忘れていた、ゆうべから変に不運だった事を。
やはりあの薬が原因だったか。アリスは隣で、食べ過ぎてぱんぱんのお腹を苦しそうに擦る
魔理沙のこめかみを拳でぐいぐい押した。
「あたたたッ!?何だよアリス何だよッ!?」
「結局全部が全部あなたの所為じゃないのよ!このこのこのこの!」
「や、やめッ!今はまずいぜ止めろアリス!出る出る食ったモン出ちまうーッ!」
幸い、魔理沙の口からゲ(マスタースパーク)が放たれる事は無かった。
「ううう・・・・、で、どんな調子なんだ?今のアリスは」
ひりひり痛むこめかみを押さえながら、魔理沙が涙目で訊ねた。
パチュリーはアリスの顔に引っ付かんばかりに接近して、その目の中を凝視している。
「・・・・・・あなたの薬で、アリスの『運気』が動いているのは確かよ」
「んー、じゃあ半分くらいは成功していたのか」
しばらくうーとかんーとか唸っていたパチュリーがアリスから顔を離す。
「・・・・レミィなら解らない?」
「んー?」
夜型の紅魔はもうすぐ就寝の時間。少し眠たげな目をしながら、ちょこちょことアリスの間近まで
歩み寄った。
「失礼するわね」
両手でアリスの頬を支え、くいっと自分の方に寄せる。パチュリーと同じようにアリスの
青い両目を深々と覗き込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらくそのままが続く。アリスも体勢的にちょっと辛くなってきた。後、まばたきして
良いのか困る。開きっぱなしで両目が痛くなってきた。
「・・・・・・・・・これは・・・・・」
小さく呟いて、レミリアは手と顔を離した。
「んー・・・・、何でわざわざ数ある中から、こんな運命に引っ掛かったのやら・・・・・・」
「単純に不運ってわけじゃないのか?」
「違うわ。アリスは今、ある一つの『結果』に強制的に行き着くような『運命』にあるのよ」
少し同情的な目で、レミリアはアリスを見つめた。
「・・・・・それって」
「・・・・・・まさか」
アリスと魔理沙は互いに顔を見合わせる。
ゆうべと今朝、どちらにもあった『運命』と『結果』
それを思い出し、すべての辻褄を合わせた答えに、アリスの顔がさっと青ざめる。
そしてレミリアの口からそれは告げられた。
「必ず誰かにハダカを見られてしまう運命に」
アリスの悲鳴が紅魔館に響くのは、そのすぐ後であった。
~続く~
ところでスランプ気味な私にもテンコー様が降りてきませんかね。
いや、アリスには災難だと思いますがそれはおいといて(ぉ
つまり、いつもの運気だともっと酷い生活が待ってるのか?
それとも、『ハダカを見られる=幸運』ということでアレな感性の持ち主なのか?
・・・・・・どこぞのスッパ様みたいな
さて、世の中には「Curiosity killed the cat.《好奇心は猫を殺す》」という
言葉もありますが、好奇心で橙・・・ではなく自分の色々なものを殺し---もとい、
殺されてしまったアリスがんばれ 蝶がんばれ
マリアリな気配に後編をどきどきしながら待たせていただきます。
・・・・実は後編、苦戦しております・・・・・
き、近日中には必ず仕上げますのでぇ・・・・・
俺なら絶対一緒に脱いじゃうのn(チャーミング
それに加えてあとがきがツボにはまりました(笑)
続き楽しみにしています。頑張って下さい。
ちょっとマーガトロイド邸に行ってくる~。