Coolier - 新生・東方創想話

東方夢幻丘 上

2005/08/29 11:08:38
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序章
 「……妖夢……」
西行寺幽々子が、どこまでも高い妖木によりかかっていた。
妖夢に言われたことが、幽々子の無い筈の心臓を刺した。

些細な、口論。そこから放たれた言の葉の、刃。
『あなたなんて大嫌いだ!』

(痛い…)
胸を押さえ、うずくまる。
(本気だったはずはないけれど……。でも、もし…あれがあの子の本音だったとしたら……)
わずかな気持ちの蔭り。その小さな闇は、背後の桜に小さく、広がった。

西行妖。月日を重ねること幾星霜……。その桜は、数多の死を内包し、死の魅力を放つまでになっていた。
冥界の妖怪桜。不吉な桜は月に照らされ、亡霊と共に、そこに在った。


       本章
魂魄妖夢は、己の内側に負の感情が湧いてくる感覚を味わっていた。同時に、彼女は戸惑いがあることがわかっていた。
「幽々子様、どうしたんですか?」
「別に、どうもしないわよ」
棘のある言葉で眼をそらす幽々子。それはいつもの幽々子と違う。
「この御飯まずいわよ。妖夢、手を抜いているんじゃないの?」
「幽々子様、そんなことあるわけないじゃないですか!」
「ふん、どうだか」
思わず叫んだ妖夢の言葉はさらに幽々子の機嫌を悪くしたようだった。その表情はいつもの穏やかで、何を考えているのかよくわからない亡霊ではない。
「もういらないから。片付けておいてね」
妖夢のことを見ることもなく、幽々子は部屋から出て行ってしまった。
「なんなんですか。いったい」
悪態をつく。妖夢は主人の変わりようと、ぎくしゃくしたこの空気にとてつもない嫌気を感じていた。

(幽々子様、おかしくなったのは、私が悪いの…ですよね…)
滅多に怒らない、いや、怒ったところなど見たことのない妖夢は、原因と成りうるただ一つのことを思い出していた。


一週間ほど前。
妖夢はくだらない理由で幽々子にあたった。少し仕事について注意されただけだった。それはいつも行っている庭師の仕事のことだったが、疲れていたこともあり心にもない雑言を浴びせてしまった。思えば、本当に恥ずべき言葉まで。
幽々子は怒らなかった。
少なくとも、妖夢には怒っていないように見えた。
次の日には頭も冷え、謝ろうと思った。顔を合わせたとき、幽々子は今日ほどではなかったが、明らかに様子がおかしかった。
「…妖夢は、私が嫌いなんでしょう?」
そう言って、すれ違っていった。
驚いた妖夢は言葉が出ず、目を細くし、俯いただけだった。


(そう、あの日から、あの日から幽々子様がおかしい。謝らないといけない。……でも、幽々子様だっていくらなんでも大人気ないじゃないですか。そんないつまでも怒っているなんて……)
食器が大きな音を立て、妖夢は我に返る。
「そういえば、最近は庭の手入れもろくにしていないな…」
外を見た。
まだ荒れてこそいなかったが、雑草が伸び始めていた。
(冥府で育つなんてしぶといよ、本当に)
とても手入れするような気分ではなかった。しかし、先代が愛したこの屋敷を荒れ果てさせるのはあまりに心痛い。
妖夢は思い、空気を振り払って刀を握る。
戸口を開け、暗い、冥府の夜の空気を吸い、歩き出す。
思いのほか細かい手入れが必要だったため、庭全てに手が回らない。大まかにこそできるとはいえ、きちんと仕事をしたかった。
こんな時だから、なおのこと集中したいと、妖夢は思った。

冥府の夜は、永い。


翌日、妖夢は屋敷のどこを歩いても幽々子を捉えることはできなかった。
妖夢は主人が自分のことを避けている、そんな気がしてならなかった。
時間が経過してゆく。
屋敷は一人で過ごすにはあまりにも広く、あまりにも寂しかった。一歩外に出ようものなら幽霊がそこら中に漂っているはずだと言うのに、この屋敷の静けさは異常だった。

雑務をこなし、妖夢は一日を過ごす。そうなるはずだった。だが、妖夢は見つけてしまった。
裏口から外に出ようとする幽々子を。
その姿はまさしく幽霊としか言いようがなく、存在感があまりに希薄だった。しかし、一度気がついてしまうと、その何か伝わってくる空気は、あまりに黒く、重い。
(なんで、気がつかなかったんだ?)
後ろから声をかける。
「幽々子様、連日連夜どこへ出かけているのですか?」
「…………………」
幽々子は答えない。振り向きもしない。
妖夢は、どこか怖気を感じた。これは、本当に自分のよく知っている主のなのだろうか?振り向いたら、顔などないのではないか?そんな、恐ろしさ。
「いつまで怒っているのですか?いい加減にしてください。私にそんなに当たって…」
おかしいですよ幽々子様。いつもの幽々子様に戻ってください。私が悪かったのはわかっています。だから、お願いします。
そう言おうとした。
だが、
その言葉は、続かなかった。



「レザマリでもつらくない~っとお」
空を散歩(?)しているのは普通の魔法使い霧雨魔理沙。箒の上に座り、片手を柄の先部分にあて、帽子を片手で押さえる危険きわまりない乗り方。魔力で固定しているので落ちるということはないにしても。
「あ~あ、胸騒ぎがして出てきてみたけど何にもなさそうだな。そろそろ帰って実験の下準備でもしたほうがよさそうだ」
引き返そうとしたときだった。魔理沙は視界に移った大きな門が嫌に気になった。
「そういえば、最近あいつら見てないな。ま、行ってみるかな。何もないならないで、何か酒でも奢ってもらうとするか」
そう言いつつ、速度は速まっていた。この予感は的中する、そんな予感に突き動かされ。

冥界の門。結界は申し訳程度のもの。あいつらも本気を出せば誰も出入りできないような強力なものができるだろうに。だが、今はそのおかげで中の様子を確認できるのだから感謝しとくべきか。口の端に魔理沙は笑みを浮かべ、門をこえた。
中に入ればあるのは白玉楼階段。どこまでも続くかと思われるほど長い階段。
そこを飛ばす。いつぞやとは違い邪魔するものもいない。故、そこまで長い時間はかからない。
冥府に一歩踏み入れる。
そこに満ちていたのは穢れた空気。負の感情に満ちた大気。身体が、震える。
「………こりゃ、私の土俵じゃないみたいだぜ。…だが…、この雰囲気は放っておけないな。とりあえず、あいつらに聞くとしよう」
西行寺家。この広い屋敷にはたくさんの幽霊どももいたはず、なのに、なぜ何もいないのか?……霊というのは感情に敏感なものらしい。なら、原因は簡単だ。この空気に耐えられずどこかに逃げた。そうなるはずだ。
「おい!いるのか!?」
こんな空気だ。多少の無礼だって許されるはず。縁側から中に入らせてもらう。
誰もいない。
「誰もいないのか!」
自分の声だけがうねって響いた。まるで、喉から搾り出すような響き。
「………こいつは、多分というか、かなりやばいんじゃないのか?」
冷たい汗が流れる。肺から体温を奪われていく感覚。
一歩、踏み出したときだった。何か、淡い光がふすまの間から、見えた。
「………いた……のか?」
ゆっくりと慎重に歩く。が、物音のない屋敷の中、その音はやけに耳につき、かえって身を曝しているように感じた。
「性に合わんな。あたって砕けろ、だぜ」
走る。視界に幽霊が確認できた。その幽霊は誘導するように動く。
幾度も中を曲がり、たどり着いた。
突如、それが止まったからだ。
「……?どうしたんだ?」
魔理沙が近づいてくるのを待ち、それはゆっくりと空中を動いていった。

「……裏口…か。で、どうしたんだお前。どこかで見たような気がするが」
もちろん、会話など成り立たない。最後にそれは振り向くように前に進むと、ゆっくりと地面に降りた。
そこには、見慣れた姿が横たわっていた。
「妖夢!」
魔理沙が勢い良く飛びつく。触れた肌は生気などまるでない、死者の臭いがした。
「っく…!心臓がほとんど動いてないじゃないか!それに、この変色した皮膚は…」
妖夢の右半身の大部分は黒く炭のようになっていた。特に腕が酷く、完全に生きたものではなくなっていた。
懐から薬ビンを取り出すと、魔理沙は妖夢の口に運んだ。
「助かってくれよ!」
口の端から液体が伝う。わずかに、飲んだ気配があった。
その口が、わずかに動き、かすれるような声が、した。
「ゅ……………っ…」
「喋るな!」
うつろな瞳で妖夢が必死に訴えかける。それを魔理沙は制するが、妖夢は止めようとはしない。
「ぁ……ゅゅ…こ…さ………ま…」
「幽々子?」
魔理沙は今更気がついた。幽々子の姿がここにないことに。見捨てるなんてありえない、その思考が魔理沙を突き動かした。
「あいつに何かあったんだな!?安心しろ、私が行ってくる」
魔理沙は小さな護符を取り出すと妖夢のそばに置く。
「治癒の護符だ。絶対にここから出るな。今の身体じゃ危なすぎる。なぁに、安心して寝てるといいさ」
魔理沙は歯を見せ笑い、走り去った。

妖夢の瞳が、次第に光を宿してゆく。
「ち…が……うん…だ…。魔理沙……危な…い…の……は幽々………こさ…ま…」
妖夢は、手に力を込める。が、動かすこともままならない。
が、従者は身体を叱咤し、半霊と共に立ち上がった。
右足を引きずり、従者は魔法使いの小さな背中を、追いかける。
初投稿です。
えーと、こういうところに投稿するのは初めてなので、かなり心臓に負荷がかかっていますが、幽々子様好きだったので、つい書いてしまいました。
読んでいただけたら、幸いです。 
あと、誤字ありました…本当にすいません。
                                           蓬籠ノラ
蓬籠ノラ
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コメント



0.330簡易評価
8.無評価名前が無い程度の能力削除
いきなりの誤字で少し萎えた・・・
西行字ではなく西行寺ですね 2行目
15.100どどど削除
あなたの頑張りにこの点数をw