「スースースー…」
穏やかな寝息が部屋を支配する。
自分の部屋、というものは誰でも一番安心するものだろう。
例えそれが兎、ましてや月の兎だとしても例外は無かった。
「ムニャムニャ…」
寝ている人の表現でよくこれを見るが実際は言わないだろう。確実に。
だが何故これが定着しているか、我々は真相を追い続けよう。
とりあえず、鈴仙は熟睡していた。
部屋を見渡せば、机、本棚、それぐらいしか見当たらない。
それは随分と質素な部屋。
本人が望んだのかもしれないが、流石に物が少なすぎる。
きっと他に理由があることが伺えた。
「に、にんじんだ!! 遂に念願のにんじんが…!!」
寝言にしては何か切ないニュアンスを含むものを発する。
苦労してんだなぁ…若いのに大変だね、と言いたくなるのもやむを得ない。
「…なんだ、にんじんと思ったら只の巫女か…」
夢なのだからせめていい思いをして欲しい。
だが、夢でさえこの扱い。
夢は願望を映すもの、と誰かが言った気がする。
え? 君はこんなものを望むのかい? ははは、君は優しいんだね。
優しいとか関係ないですから。ていうか誰だおまえ。
「う、う~ん…」
寝返りをうち、気難しい顔をする。
最初の頃と比べて、若干寝苦しくなったようだ。
寝ているときとは、五感が休んでいると言っても過言ではない。
つまり、六感が逆に冴えているわけだ。
金縛りなどもきっと六感が反応しすぎるから起こってしまうのだろう。
嫌な予感、なども概ね六感が管理している。
鈴仙は自分が知らないうちに今から起こる悲劇を察知していた。
まあ悲劇なんて見る人からすれば喜劇でしかないのだけど。
ドンガラガッシャーン!!
ふすまが豪快に開く。
「こらーー!! 早く起きろ、このへにゃ耳!!」
ふすま開幕と同時に大声で怒鳴るてゐ。
その出で立ちは、何故かいつもの服にサングラス、という妙なものだった。
「あー? 起きないのならこっちにも手はあるよー」
そう言って、竹刀を持ち出す。
竹刀の先端が人参の形になっているのがポイントだ。
「ふっ…私の人参竹刀が火を吹く、か。この部屋の強度でどれだけ持つかな?」
ニヤリと笑みを浮かべるてゐ。
その姿は、まさに兎が竹刀を持ったものだった。
「お、起きてますから、どうか怒りをお鎮め下さい!!」
「ん? 起きた? なら話は早い。私が何故ここにいるか…分かる?」
そうして飛び起きた鈴仙に向かい、不敵に問いかけるてゐ。
鈴仙は蛇に睨まれた兎のように萎縮してしまった。
「え、えと…約束の期日…です」
「うむ。話が早くてこっちも助かるよ。じゃあ、早速払ってもらおうか?」
「は、はい。どうぞ…」
おずおずと机の引き出しからいかにも重要そうなアタッシュケースを取り出す。
そうして、相手に見せる形でそのケースを開けた。
「ひーふーみー…よし。ちゃんと貸した分はあるみたいだね」
ほっ、と胸を撫で下ろす鈴仙。
だが、次の瞬間にそれはまた絶望に変わる。
「貸した分はあるみたいだけど…、物を借りたのならそれなりの誠意を見せるものじゃないかな?」
頭に疑問マークを浮かべる鈴仙。
何故、こいつはこんなにも笑顔なのか。
何故、こいつはこんなにもサングラスが似合わないのか。
何故、こいつはこんなにも耳がへにょ、なのか。
浮かぶ疑問は少なくなかった。
「まあ、誠意ってものを分かりやすく言うなら利子、だよ」
全てを悟ったように鈴仙の顔面は蒼白になった。
「え!? そ、そんな!? 契約書にはそんなこと一言も…!!」
「んー? なんならちゃんと見る?」
一枚の紙をペラッと出す。
そこにはこう書かれていた。
『この契約書にサインするということは、この契約を認めるということとする。
契約後に何かが発覚しても、サインをした時点であなたに何か言う権利はない。
それを踏まえたうえでサインをして下さい。
にんじん × 5 を借りるね。
3 日 以内に返すからね。
無理だったら、 にんじん × 2 を余分にあげるよ。
鈴仙・優曇華院・イナバ 』
「期日は今日までじゃないですか!! 問題無いはずです!!」
「んー、普段は目がいいのに…ほら、この3日のとこ…」
3 日 以内に返すからね。
目を凝らして見てみる。
3 日 以内に返すからね。
虫眼鏡を使用する。
0.3 日 以内に返すからね。
見えたよ!!
「……」
「……」
ニコッと笑う鈴仙。
それに応えるようにニコッと笑うてゐ。
その動と静の均衡を先に破ったのは鈴仙だった。
「ふ、ふざけるな!! なんだこの0.って!!
最初からあったとしか思えないじゃんか!!
ていうか0.3日? 7時間と12分で返せってこと!?
無理に決まってるじゃない!!」
言いたいことを言いまくる鈴仙。
彼女の中で、数少ない何かが音も立てずに切れていた。
あと、多分無理じゃない。
「んー? でもほら。契約書にサインしちゃってるよ?」
「え? う…いや、その…」
それを言われたらどうしようもない。
言い淀む鈴仙に、てゐは追い討ちをかける。
「まあ私の作った契約書、って時点で警戒するべきだったんじゃない?」
「だ、だって、あの時、ああするしか手が無かったし…」
─── 話は四日ぐらい前まで遡る
永遠亭では月に一度だけ賭場が開かれていた。
永遠亭で仕える兎は、毎日三本のにんじんが支給される。
だが、それで足らない兎はちょっとずつ貯めて、このイベントで勝負する。
いわば、『合法的ににんじんが手に入る』という願ってもみないものなのだ。
そこでは、一夜にして百本のにんじんが動くと言われ、誰もが皆チャレンジャー。
鈴仙もその一人だった。
賭けのジャンルはルーレット、ポーカーなどメジャーなものから、
隅では麻雀や花札といった胴元が関係無いものまで幅広く行われていた。
そのポーカーをやる一角が、何故か他のところより数倍盛り上がっていた。
「…レートを五本に変えない?」
「え? いいんですかぁ?」
永琳の提案に鈴仙はすぐ飛びつく。
この日はなぜか珍しく勝ちが続き、テンションもちょっとあがっていたのだろう。
だが、気づくべきだった。
全てはこの瞬間の為の布石だったことに。
「じゃあ、勝負はさっきと同じポーカーでいいかしら?」
「いいですよー。あとで泣いても知りませんからね?」
二人の一騎打ち勝負、ということで変則ルールで行われる。
この勝負、負けたほうが勝ったほうの役の倍率から自分の倍率を引いた分払う。
つまり、一方がストレートでもう一方がスリーカードだったとする。
この永遠亭のルールでは、ストレートは四倍、スリーカードは二倍。
この場合、賭けにんじんの二倍を敗者が払うというもの。
一見、安全とも見えるこの仕組み。だが、リスクは相当高かった。
「(よし、順調なカードだ。これならストレートでいける!)」
「ふふふ、なかなかいいカードみたいね?」
永琳は相手の表情から心理を察する。
ポーカーフェイスというものが、なんか大切な気がしてきた。
ちなみに、鈴仙とは無縁っぽそうな言葉だ。
「私はこのカードとこのカードをチェンジで」
「…私はチェンジなしで」
この変則ポーカー。カードのチェンジは一回きり。
遊びでやるみたいな感覚のもの。
もしかしたらそれが罠なのかもしれない。
「(え? 変えない!? ってことは、師匠の手は…少なくともストレート以上と考えたほうがよさそうね)」
ディーラーから配られるカード。
それを見るや否や、鈴仙の顔は満面の笑みに変わった。
「(ストレート狙いが…こんなに化けるなんてやっぱり今日はついてる!!)」
鈴仙の手札は、5,6,7,8,9というストレートに加え、全てハート。
ストレートフラッシュ。
配当十倍の勝ち確実と言える手だった。
「どうです!! 師匠!! このカード!!!」
バッ! と勢いよく手札を公開する鈴仙。
だが、永琳の不敵な笑みは止まらなかった。
「ふふふ、すごいわね。この状況でそのカードを持ってくる…。
確かにあなたは今日ついている。でも相手が悪かったわね…」
そうして自分のカードを一枚ずつ公開していく。
10、J、Q、K。全てスペード。
一枚カードをめくるたび、鈴仙の顔は蒼白になっていた。
「まあ、この場面でそれは最善の一手だったわ。
最悪七十五本のにんじんを払うことになったんですもの」
喋り終わると同時に、最後の一枚、スペードのAを見せる。
ロイヤルストレートフラッシュ。最強の手。
永琳の表情は、勝負前から何ひとつ変わっていない。
まるで、こうなることが必然であるかのように。
「そ、そんな…!!」
「さて、あなたは十倍、私は十五倍。…二十五本の人参をもらおうかしら?」
「あ、ありません…」
鈴仙は確かに今日勝っていた。
だが、勝っていたというのは飽くまで自分の中の範疇。
二十五、という数字はあまりにも天文学的なものだった。
「無い、か。ウドンゲ、それは駄目ねぇ…」
永琳の瞳が怪しく光る。
力の弱い兎が見たら、多分深い眠りに落ちるだろう。
「え、あ、あの!! 明日には払えますから!!」
「勝負に負けて、それは無いんじゃないかしら?」
どこからか注射器を持ち出しそれをいじる永琳。
注射器の中身は、何故か光っていた。
「え!? そ、それを打つんですか!?
ひ、光ってますよ!? なんですかそれ!!」
「敗者に何か言う権利があるのかしら?」
「マ、マジですか!? 絶対やばいじゃないですか、それ!!」
「大丈夫、痛くないのは一瞬だから」
「ずっと痛いんですかっ!?」
いつもの笑みで近寄る永琳。
自分の色々なものがここで終わったなぁ、と鈴仙が諦めたけたその時、奇跡は起こった。
タラッタラッタラッタ~
踊りながら登場するてゐ。
この場になんて不相応な登場のしかた。
なんという挑発。
なんといううさぎのダンス。
「困っているようだねぇ」
そう言って笑顔で問うてゐ。
このとき、鈴仙には多分神にしか見えなかっただろう。
そして、何ひとつ疑うことなくサインをしたのだった。
――― そうして現在に至る
「とはいっても、この部屋から持ち出すものももう無いしねぇ…」
てゐはそう言ってぐるっと部屋を見渡す。
この部屋の質素さは、全ててゐのせいだった。
多分、最初は観葉植物や、秘蔵コレクションなどもあったのだろう。
だが、すべて借りたにんじんの肩代わりに持っていかれたということだった。
「…どうする気よ?」
「うーん、ちょっと待って…」
唸りながら、頭を抑える。
なんていうか、ダメージが大きいうえに、こっちが回復するような。
オルランドゥの闇の剣みたいな、こう反則的な…。
「はっ!?」
何かが降りてきた。
鈴仙→耳→へにゃ。
この、耳をなくせば…。
鈴仙→へにゃ。
「お、おもしろい!!」
「え!? 何!?」
いきなり笑いだ出すてゐに、少し恐怖を覚えた。
笑いながら近づく、てゐ。
その手は、妙にわきわきしたいた。
「ちょっとだけだから…ね?」
「え、え!? 痛っ! 痛い痛い! ちょっと! 耳引っ張らないで!!」
「ちょっとだけだからー!」
鈴仙の耳を引っ張るてゐ。
他人に耳を引っ張られるというのは意外に痛い。
ジャ○アンの母親も、こうやって引っ張っていた気がする。
「無理無理―!! ちょ、やめて、痛いって!!」
「ファイトー、いっぱーつ!」
スポン!
謎の擬音が辺り一面を覆う。
何事かと辺りを見渡す二人。
そして、二人の視線は、てゐの右腕に注がれた。
てゐの手には、だらしなくぶら下がった…耳。
「「取れたーーっ!?」」
突然の出来事にパニックになる。
そりゃ、耳が取れたら驚く。
かの騒霊長女も目を見開くだろう。
「って、何でてゐも驚くのよ!!」
「いや、普通取れないでしょ!!」
「そりゃ、そうでしょ!! 取れるわけ無い…」
ぶらーん、とてゐの右手にあるもの。
紛れも無く、耳だ。
「取れるのかよっ!!」
「落ち着いて鈴仙!! にんじんはキャロットだから!」
両者バグっていた。
「うわーん、お嫁に行けないよー!!」
「大丈夫、きっとかわいい猫が見つかるから!!」
耳が取れてお嫁に行けないかは定かではない。
泣き喚く鈴仙、何故かロボットダンスを始めるてゐ。
地獄絵図、とはまさにこれだった。
「この耳が…、この耳が!!」
「え!? ちょっ、痛い鈴仙!!」
突然てゐの耳を引っ張る鈴仙。
いきなりの行動に、てゐも反応できなかった。
「この耳――!!」
スポン!!
「「………」」
「取れるのかよっ!!」
「落ち着いててゐ!! にんじんは巫女だから!!」
バグ健在。
「うわーん、夜トイレに行けないよー!!」
「それはなんか違うから!!」
悪夢が再び繰り返される。
二人は、まるで祭りごとのように騒いでいた。
その姿はまるで…姉妹のような…。
「──はっ!?」
鈴仙は、耳に手を当てる。
ふわふわとしてへにゃ、した耳の手触り。
無くなってなかった。ちゃんとあった。
「夢、か……」
そこは、紛れも無く鈴仙の部屋だった。
そして何故か鈴仙はジャージ姿だった。
「ふー、昨日の出来事がこんな形で再現されるなんて…」
よし、状況を確認しよう。
確か、昨日寝てるときにてゐが襲撃。
それで、詐欺にあって…服をとられた。
夢はその時の騒動がごっちゃになったもの、ってことね。
あぁ、あの服大切な一張羅なのに…。
鈴仙は、起きて早々涙を流す。
不幸だ。うん。
「うーん、やっぱ返してもらうしかないか…」
そう判断するや否や、早足でてゐの部屋に向かっていった。
「てゐー? 居るー?」
「ん? ジャージの使徒じゃないですか。どうしたの?」
「ははは、朝から宣戦布告なんて止めようね?」
てゐの部屋に着いて早々に罵倒される鈴仙。
ここで戦うのは容易い。
だが、飽くまで話し合いに来たのだ。
「入るからねー」
「え? ちょ、ちょっと待って──」
ガラッ!
てゐの静止の声も空しく鈴仙は部屋に入っていった。
彼女も幻想郷に生きるもの。
『傍若無人』のスキルを身につけつつあった。
「え? これは…」
「あーあ、ばれちゃったか…」
鈴仙はこの部屋には、何か既視感があった。
本棚に机しかない質素な部屋。
それは、鈴仙の部屋と何一つ変わらないものだった。
「てゐ…どういうこと?」
「はは、私があれだけのにんじんをどうやって操っていたかわかる?」
鈴仙は少し考えて、すぐに結論に至る。
無いのなら、借りる。至極当たり前。
だがてゐほどの人物が誰に? 簡単だ。
実質この家を取り仕切る人物…八意永琳。
相手にリスクの高いことをするなら自分もそのリスクを背負わなければならない。
てゐは相当危ない橋を渡っていたのだった。
「師匠から…。それであのにんじんを」
「うん。だけど、ちょっとしたへまをしちゃってね…」
今のてゐから邪気は感じられなかった。
ただ、自分を嘲笑をするしかないような状態。
とても、切ない絵だった。
「じゃあ話は変わるけど…なんで、私の服着てるの?」
「そりゃ、私の服とられたし」
今、かえせー、と掴みかかってもよい。
だが、多分鈴仙と同じ状況。
これ以外に服が無いのだろう。
なら、そんなことをしても仕方がない──
「かえせー!!」
──ことも無かった。
「なんであんたが私の服着てるのよ!
ジャージあげるから、こっちにしなさい!!」
「え? 何言ってるの? これ私の服だよ?」
「あーもう!! どうせ胸のところもスカスカでしょ!?
ほら、ジャージはそんな心配ないから!!」
「いや、そうでもないけど…。むしろジャスト?」
ザ・ワールド。
時は止まる。
人は驚愕の事実を受けたとき、脳がその事実を拒否する。
そのとき、脳がすべての命令を拒絶して動きが止まる。
この現象を、人は「ザ・ワールド」という。
咲夜がいなくても使える、お得なスペルカードだ。
ぜひお試しあれ。
「OK。これからどうするか、
同じ状況のもの同士、同じ体系のもの同士、仲良く話し合おう。ね?」
「…うん」
鈴仙は何かが抜けたかのように操り人形の如く喋る。
なんか、てゐに失礼のような気もしなくも無い。
まあ、あの外見だから仕方ないかもしれないが。
「ここで提案するんだけど、とりあえず私の質問に答えてくれる?」
「…うん」
「えーと、まず、にんじんは好き?」
「…うん」
「にんじんをたくさん食べたい?」
「…うん」
「自分の部屋に昔の栄光を取り戻したい?」
「…うん」
「永琳に少なからず怨みがある…?」
「はい」
最後だけとても明確な返事を得れた気がするが、多分気のせいだ。
いつの間にか、てゐはいつもの調子に戻っていた。
「今まで私がとったもの、私がとられたものは全て永琳が持っている」
「うん。そうだね」
「にんじんというものも全て永琳が持っている」
「…うん。だね」
じゅるり、と涎をすする音がする。
「なら、永琳から取り返すついでににんじんももらう」
「えー!? む、無理じゃない?」
「失敗しても私に無理やり付き合わされた、とでも言っとけばいいよ」
「え!? でも、それじゃてゐに悪いし…」
「いや、これは私のミスからの影響だからさ。責任は私が全て受け持つよ」
「て、てゐー!!」
ガバッと抱きつく鈴仙。
二人は友情という名の絆を取り戻した。
こうして、『永琳討伐隊(仮)』は結成されたのだった。
「そういえば姫は…?」
「ん? あー、妹紅のとこ…と思う」
─── その頃妹紅宅
「ちょっともこ―。醤油とってー」
「ん? はい。ってあんた目玉焼きに醤油かけるの!?」
「え? 普通そうでしょ?」
「いや、ソースでしょ。ね? 慧音?」
「いや、普通は塩だけで素材の味を楽しむものだろう…?」
「ソースだって!」
「醤油でしょう!?」
「塩だろう」
─── なんかくだらないことで揉めていた
「よし、じゃあ準備はいい鈴仙?」
「うん、オッケーだよ」
二人は、永琳の部屋の前まで来ていた。
>装備
てゐ 鈴仙
武器 人参竹刀 武器 指からなんか出る弾
防具 鈴仙の服 防具 ジャージ
うん。勝てないっしょ。
「居るのはわかっている!! 出て来い永琳!!」
「え、えーと、師匠! 出てきてください!」
「んー? 朝からなにー?」
ガラッと開く扉。
永琳はパジャマ姿で目をこすりながら出てきた。
「先手必勝ぉー!!」
そしてそれに対しいきなり殴りかかるてゐ。
バチコーン!
爽快な音と共に永琳は弾き飛んでいた。
「ちょっ、てゐ!? それ卑怯じゃない!?」
味方からも罵倒が出るくらいの不意打ち。
普通できねえ。さすがてゐ。
「鈴仙は分かっていない! これがうまくいっても1割くらいのダメージしかない!」
ガラッ…。
崩れた本棚の間から永琳が姿を現す。
その姿、無傷。
「ちょっとてゐ! いきなり何するのよ!」
「…ちっ、無傷ね。さすが月の頭脳といったところ」
多分、頭脳関係ないですから。
だが、不意打ちの攻撃でノーダメージ。
それだけで、戦力の差ははっきりしているようなものだった。
「で、一体二人して何なの?」
「このたびは貴女にとられた、色々なものを取り返させて戴きたく訪れました…」
深々と頭を下げて礼をする。
こうなった以上、真剣勝負をするしかないと踏んだのだろう。
「…ウドンゲもそうなの?」
「え、う…。はい」
「そう…。なら、こっちも本気にならないといけないのかしら?」
まだ普段の余裕を出す永琳。
だが、永琳ほどの人物。
戦力の差はとうに計っていた。
「この剣に懸けて! 永琳! 討つ!」
「そ、それは!? 虎竹刀に並ぶ宝具、人参竹刀!!
それは剣一本にして対軍宝具に匹敵する力とかなんとか!? 知らないけど」
「いざ、尋常に勝負ー!!」
こうして真の戦いは始まった。
なんか鈴仙置いてきぼりだ。どんまい。
前衛のてゐ、後衛の鈴仙。
バランスは決して悪くないパーティだった。
「ふふふ、いらっしゃい。一対二という状況も月の出来事以来。
貴方達には話より弾幕の薬の方が必要みたいね!」
決め台詞をびしっと言う。
ちなみにこのとき相手に向けて指を向けるのがかっこよく見えるコツだ。
そうして永琳から展開される弾幕。
周り一面にレーザーが放たれる。
「このくらい余裕! 行くよ鈴仙!」
「うん!」
レーザーの間を縫うように進む二人。
だが、前に進むにつれレーザーが増えていく。
「てゐ、ちょっと…やばくない?」
「ま、まだ大丈夫! ゴー!」
二人は焦りながらも進む。
そうして、永琳の前についにたどり着く。
だが、その頃には周りは蜘蛛の巣といわんばかりのレーザーで埋め尽くされていた。
「天網蜘網捕蝶の法。どう? あなた達はそこから逃げれる?」
「ちょ、ちょっと! 押さないでよ鈴仙!」
「いや、無理無理! ほら! 今かすった!」
「うわ、ジャージ焦げたね…」
「最後の服なのにー」
もう永琳の声なんか聞こえちゃいなかった。
いまいち緊張感に欠ける戦いだった。
レーザーに気をつけていると、前後に新たに発生した弾が迫る。
二人の避けられる範囲は更に少なくなっていく。
「う、うわ! 後ろから来た! てゐ! ちょっと横行って!」
「無理! うわ! レーザーかすった!」
「それ私の服じゃん!!」
もう、勝っても負けても鈴仙の服は無事じゃないだろう。
たぶん、これらもてゐの策略なのかもれない。
「あ、当たる!」
「くっ、こうなったら!」
てゐは鈴仙の頭を押さえつけ、自分ごと身を屈める。
二人の頭上を飛び交う弾幕。
「って、ありかよ!」
「いやまぁ…ねぇ?」
そうしてること数秒。
周りに展開していた弾幕が無くなった。
「はぁ…いいわよ。弾幕じゃなくていいから早くきなさい」
そうして、手でちょいちょいとする。
なんかもう永琳はいろんな意味で疲れていた。
「ははは! 解除したのが運の尽き! 行くよ!」
そうして竹刀を振りかぶりながら走る。
上段、中段、下段。
てゐは流れる様な動作で三連攻撃をする。
だが、永琳は斬撃を全て防いでいた。
「ふふふ、甘いわよてゐ。そんなコンビネーション、終わった後の隙が多すぎる」
そうして、手刀を振り下ろす。
なんかその速度が目に見えない当たり、永琳のやばさを物語っていた。
「くっ…」
だが、次の瞬間、地に足をついていたのは永琳だった。
その視線の先には、鈴仙が手を銃の形にして立っていた。
「甘いのはどっちかな? 私たちは二人。そっちは一人。
一人を囮にすれば、そこに絶対に隙ができる」
そうしててゐと鈴仙は二人頷きあう。
なんだかんだいって仲がいい。
「じゃあ、続きをしよ…ってうわ!」
再開しようと構えとしたてゐの目の前にレーザー…。
「もうなんかめんどくさいわねぇ…」
永琳が勝利の言葉を発する。
たぶん、この台詞は強い人が言うほど味が出るだろう。
「天網蜘網捕蝶の法(やや下方向ver.)」
「む、無理! うわ、てゐ! こっち来ないで!」
「そこが今安地なの! 鈴仙! そこどいて!」
「それこそ無理! うわ! 押さないで!」
「あー! あとちょっとそこ入れて! お願い!」
電車でお前詰めれば私座れるんですけど、ぐらいの隙間が空く。
だが、詰めたら鈴仙が被弾。詰めなればてゐ被弾。
まさにライフゲーム。
「うわ、光りだしたって! 当たる!」
あなたは、自分の危機に瀕したらどんな行動にでるだろうか?
このてゐ、という兎。
最後までとんでもなかった。
ドン!
「え!? ここで普通押す!?」
「死なばもろともー!!」
『ぎゃーーーー!!』
これが最後のカーテンコールぅー! ということもなく二人は散っていった。
今思い返せば楽しかったのかもしれない。
あの師匠に一矢報いたのだ。
永遠に忘れないだろう。
ていうか、このてゐの行動。
永遠に忘れないだろう。
いや、忘れてなるものか。うん。
─── あの悲劇から十五分後くらい
「う、うん…?」
「目を覚ました? ウドンゲ」
「し、師匠!? いや、あのですね。はい。犯人はこの中にいます!」
目を覚ました瞬間、全ての元凶ともいえる永琳を目にしバグる鈴仙。
まああれだけのことをやられればこうもなる。
「話は全ててゐから聞いたわ…」
「え!? てゐはどこですか!?」
「さっき泣きながら部屋に戻っていったわ…」
まさか、まさか…だが、あのてゐだ。
きっと、ただではいまい。
そうだ、きっと主犯を私あたりにしたか?
うん、存分にありえる。
「あなたがこんなこと企むなんて…」
「…って、予感的中かよ!! あんのへにょ耳!!
今度一日中ジャージ着せてやる!!」
「ちょっとポーカーでやりすぎたかしら…?」
「え? い、いや悪いのは全部てゐで…」
「いえ、こうなった責任は全部私にあるわ。ごめんね、ウドンゲ」
「(師匠が普通に誤ったーー!?)」
鈴仙の中で警鐘が鳴り響く。
きっとこの後に死に等しい何かがあるんだ、と絶望的な表情に変わっていく。
「え!? ちょっと! ウドンゲ!!」
「すいませんすいませんすいません…」
鈴仙は泣きながら同じ言葉を繰り返す。
もう、なんか怖い。
「何言ってるの。あなたは大事な家族なんだから…ね?」
「し、師匠…!!」
「ちゃんとにんじんも服も返すわ。だから…許してくれる?」
「し、ししょー!!」
永琳に抱きつく鈴仙。
これほど感動する場面があっただろうか。
永琳の器の広さを誤解していた。
鈴仙は、やっぱりこの人には敵わないと思う瞬間だった。
「わいの師匠は、わいの師匠は…最強やー!!」
鈴仙が歓喜の声を上げる。
やはり、この家で永琳に敵うものはいなかった。
だが、同時にこの優しさに敵うものもいない。
母、とか言ったら怒られるだろうがまさにそれだった。
こうして終わった、一つの冒険。
永遠亭で語り継がれていくだろう。
永琳と、子兎二人の物語。
物語とは、人や妖怪と同じで年月を経て力を得る。
力をもった物語──それが、伝説。
そう、これは一つの伝説の始まりにすぎない。
─── その頃妹紅宅
「醤油って言ってるじゃないこのもこたんめ!!」
「あー、もうこの馬鹿てるよ!! ソースだっつーの!」
「お、落ち着け二人とも!」
「ソースでしょ慧音?」
「醤油でしょ!?」
「いや、塩だ」
「「「………」」」
「「「うがーーーー!!」」」
── なんかまだ争っていた
…いあ、ねぇ。
とりあえずテンポが良くて面白いです。
やりすぎたのもいい感じです。こういうのは突き抜けたほうがいいです絶対。私みたいな中途半端は一番イカン。うん。
とりあえず闇の剣は最初に見れるガフガリオンのイメージで。
本当に色々ネタを散りばめてますね
面白かったです。
謝った じゃないかなと普通は思ってしまうが
師匠が謝るなんて誤り という意味にとれるから不思議なオーラを感じるw
いろいろ各所面白ネタが満載でしたね
バグった会話が面白かったです
なにやらがんばった二人に合掌(ヲ
それにしても永遠亭はなんでこうも楽しそうなんだろうなあw
笑いが止まりませんがな。GJ!!
私の最大のツボは、誰でも使えるザ・ワールドでした
なぜか顔の見えない妙な立ち方をした筋肉質な兄ちゃんが
通りすがってたりするんでしょうか?
ときに、安地が二次元で一人分なら肩車とかすればよかったんじゃ・・・
・・・どっちが下かでやっぱああなるのかな?
えー、はい。誤字です。
でもSETHさんの解釈、それはとても素晴らしいと思ったのですよ。
なので放置で。
…だめ?
でもてゐってどっちかって言うと弟子1号のような気がしないでもない。悪魔ロリ。
目玉焼きは塩コショウでもマヨネーズでも醤油でもいいや。ソースは却下。
……ぶるまぁ、体操服のてゐを幻視してしまった。
つか、えーりん師匠の事だから感涙にむせぶうどんげを部屋に返したあとで「ふっ」と
ほくそえんでおられそうです。
追伸:これが最後のカーテンコール……こちらのカブスカートをしのがれた後に見ると
お手軽に絶望感が感じられるのですがorz
>鈴仙→へにゃ。
お、おもしろい!!