八雲藍は、幻想郷でも指折りの妖怪の式だった。
だがその主人はつかみどころが無く、『ずぼら』という言葉が良く似合う。
よっぽどのことが無い限りは式神である自分を使役することで問題を解決し、彼女自身が動くことは滅多に無い。
そんな主に仕え始めてから、もう何年になるだろうか?
あまりの昔のことなので、靄が掛かっているように思い出せない。
ひょっとしたら千年ぐらいは経っているのかもしれないのだ。
一週間前の夕食を覚えていることも難しいのに、そんな昔のことなど言うべくもない。
しかし、一つだけはっきり覚えていることがある。
それは今もなお藍の胸の中に息づいていており、何物にも代え難い存在。
『私はあなたが好きだもの。だからずっと傍にいらっしゃいな』
そんな戯曲に書くこともできなさそうな、陳腐な言葉だった。
その日の八雲紫は、珍しく自らの仕事に勤しんでいた。
普段ならそんなことはしないのだが、最近はそうもいかなくなっているのだ。
近頃、幻想郷と外界の境界が綻びやすくなってきている。修復するのは簡単だが、その数は日に日に増えていった。
それを認識するたびに、紫の胸には黒いものが広がっていく。
頭の中にある考えを否定したいのだが、どうもうまくいかない。
「ふぅ……まさかこんなに早くなっているなんて。焦る何とかは貰いが少ないって言うのを知らないのかしら」
誰ともなしに呟くと、展開したスキマをマヨヒガに繋げる。
そして彼女は自分の家へと戻っていった。
「お帰りなさいませ。お疲れ様でした」
藍が帰ってきた紫に声をかける。その頭には三角巾が巻かれており、夕食の準備をしていたのが見てとれる。
「ええ、ただいま藍」
少し気だるげに言葉を返しつつ、ぱちんとお気に入りの日傘を閉じた。
昨日よりも疲労の色を見せる主人に、心配しながら歩み寄る。
「大丈夫ですか?最近お気分が優れないようですが……」
何があっても飄々としている紫である。藍がこんな姿を見るのは初めてだった。
しかし紫はぎこちない笑顔を浮かべながら答える。
「近頃サボりすぎたせいかしら。私もそろそろ引退かもね」
その言葉を冗談と受け取ったのか、式神はため息を一つついた。
「普段私に任せっきりにしているからですよ。少しは私の苦労も知ってください」
そう言うと、藍は調理場に戻って行く。九本の尻尾がふわふわと揺れていた。
「そうね……時間が掛かるとはいえ、あなたはもう私と同じことができるようになったんだものね……」
遠くなっていく背中に、小さく言葉を放った。
幾許かの寂しさをこめて――
夕食はいつものように賑やかだった。
今日あったことを、橙が嬉しそうに藍に報告する。それを聞きながら、藍は眼を細める。
紫はその時紛れも無く幸せを感じていた。一人でいた過去からは考えられない。
誰かの存在をこんな風に感じるなんて。この二人を愛おしく感じるなんて。
紫も、自分では知らぬうちに口に笑みを浮かべていた。
だが言わねばならない。
そう、決めたのだ。
「あなたたちに大事な話があるの。寝る前に二人で私の部屋にいらっしゃい」
――もう後戻りはできない。
紫は自室から、ぼんやりと外を眺めていた。
もう秋も深い。葉は色を変えるどころか、もう残っているのを探すほうが難しい。
開いた窓から流れてくる冷たい空気が、煙管から立つ紫煙に動きを与えていた。
その境界は酷く曖昧で、見ているものを物悲しい気分にさせる。
紫はそんなことを思っている自分に苦笑した。
そろそろ時間だ。
かんっ、と煙管の灰を落とす。
それを合図にしたかのように廊下から声がかけられた。
「八雲藍、橙でございます。お話を伺いに参りました」
「入りなさい」
障子が開く。
二人は「失礼します」と言うと、畳の縁を踏まないようにしてこちらへ歩いてきた。
そして紫の目の前で正座する。
橙は少し緊張しているのか二本の尻尾がぴん、と立っている。
「話というのは他でもないわ。まずは橙から…」
ゆっくりとした様子で話し始める。そこには普段の不真面目な様子など微塵も感じられない。
再び言葉が紡がれる。
「あなたに『八雲』の名を授けます。以後更なる精進をなさいな。」
静寂。
橙は何のことだかわからないように。藍は信じられないといったように。
まだ混乱しているようだが、藍が紫に問う。
「紫様?それは一体どういう」
「言葉通りよ。そろそろ橙にも本格的な修行をさせようと思っていたところだし」
藍の言葉を遮って、紫が告げる。
「紫様、それはまだ早いのではないのでしょうか?」
「そんなことはないわ。あなたが修行を始めたのは、私の式になってちょうど今ぐらいの時期だったでしょう?」
「いや、しかし……」
納得できない、といった感じの藍。だがそこで、
「私頑張ります!!紫様、よろしくお願いします」
と橙の言葉が返ってきた。その眼は煌煌と輝いている。
「ふふっ、その意気よ橙。だけど教えるのは私じゃないわ。あなたは藍の式でしょう?」
紫の言葉に藍と橙は驚いた。そんな二人はお構い無しに、紫は続ける。
「橙についての話はこれで終わりよ。下がりなさい」
そう言いながら、煙管に新たな火を熾した。しかしまだ納得できない藍が息を荒げる。
「紫様っ!!私はまだ……」
しかしそれを受け流すように紫は煙を吐き出した。
「藍、少し黙りなさい。今、私は橙と話をしていたの。あなたの話はこれからよ」
ぞっとするような声とともに、一睨みされた藍はそれ以上反論することができなかった。
「橙、私の言葉が聞こえなかったのかしら?」
紫の妖気に中てられたのか、藍だけでなく橙も動けずにいた。無理もないだろう。
「ご、ごめんなさい。失礼します」
それだけ言うと、そそくさと退室する橙。
そして、部屋には二人だけが残った。
「じゃあ本題に入りましょうか……」
紫が藍と向かい合う。
これから橙の件以上に、真剣な話をしようとしているのがわかる。
だからもう藍は口を挟むことをしなかった。
ただじっと言葉を待つ。
短いような、長いような、ねっとりとした時間が過ぎる。
そして言葉が発された。
「藍、幻想郷が外界に侵食されているのには気づいているかしら?」
それは藍も感じていたことだった。最近の結界の綻びの数は異常だ。
酷い時など大きな穴が開いていて、そこから外界が見えるほどに……
これを見過ごせるほど藍は間抜けではなかった。
「ええ、外界における幻想が薄れてきているのでしょうか。幻想郷自体が少しずつ狭まっているのも感じます」
「やっぱり。あなたもそこまで感じているのなら、どうやら私の気のせいでもなさそうね」
ふう、と紫はため息をついた。その後、最近の人間は科学とやらが発達してるせいかしらねぇ、と付け足した。
「どうやら、結界を張りなおす必要がありそうね。」
心底面倒くさそうに言う。
「霊夢にも付き合ってもらわないといけないし……もちろん藍、あなたにもよ」
急に矛先を向けられ、藍は少々驚いた。
「私も…ですか?」
自らを指差しながら聞き返す。すると紫は当然のように答えた。
「あなたも後学のために見ておくのよ」
成程、と納得する。結界を張りなおしたからといって、未来永劫保障されるわけではないのだ。
「明日にでもやるわよ。あまり悠長にもしていられないからね」
その言葉を聞いて藍は紫を見つめる。そこには堂々たる幻想郷の主がいた。
絶対的な存在――
藍はこんな紫を見るたびに喜びに打ち震える。この方の式であることに誇りを抱く。
そして、
「仰せのままに」
藍も紫の式として、恥じぬ態度で答えた。
藍が出て行き、独りになった紫は杯を傾けていた。
「私も嘘が巧くなったわねぇ」
誰に聞かせるわけでもない、自嘲的な呟き。
そして寂しそうに続ける。
「藍、あなたには苦労をかけてばっかり……」
ぐっ、と喉に冷酒を流し込む。上等なはずなのに、ひどく不味かった。
次の日の朝、紫は珍しく朝食を作っていた。
藍と橙がそれに驚き、今日は雨が降るんじゃないかと失礼なことを言った。
久しぶりに三人でとる朝食。
――充実していた。
それは他人から見たら、なんでもない日常の象徴のようなものだ。
だが、八雲紫にとっては……
今日の八雲紫にとっては、それは何よりも輝いていた。
紫と藍の二人が、玄関にたつ。
「それじゃあ入ってくるからな、橙。しっかり留守番してるんだぞ」
「わかりました。行ってらっしゃいませ!!」
藍の言いつけに、橙が応じる。
紫も橙に言葉を送るために歩み寄った。
しゃがんで自分よりも背の低い、式の式と視線を合わせる。
そして紫は、初めて橙を抱きしめた。
「あなたは今日から『八雲橙』よ。その名に恥じぬよう頑張りなさい。」
強く抱きしめたまま言葉をかける。
予想外の状況に橙は少々面喰っていたが、
「はいっ、いつか紫様みたいな妖怪になれるように頑張りますっ!!」
飛び切りの笑顔と元気で答えた。
それを聞いた紫は満足した風に大きく頷き、頭を優しく撫でた。
「いい返事ね。それじゃあ行ってくるわね、橙」
そう言うと、紫は藍とともにスキマに消えていった。
黒猫が見た主人の主人の顔は、美しく笑っていた。
スキマの中を移動しているとき、藍は問いかけた。
「どうしたんですか、紫様?随分と珍しいことをなさるんですね」
「あら、酷いわね藍。私だってこれから頑張る子には優しくしてあげるわよ」
苦笑しながら答える。何にしても、そんな言い方はあんまりだろう。
「でも、安心しました。昨日聞いたときは反発してしまいましたが、紫様も橙のことを真剣に考えていてくださった」
「当たり前よ、他ならぬあなたの式じゃない。自分の大事なものの大事なものは、大事なものよ」
また珍しいことを言う紫に、藍は照れた。
正面きって、自分の事を言われたのは随分と久しぶりだったからだ。
「紫様、同じ言葉を重ねすぎですよ……」
照れ隠しのようにそっぽを向き、我ながらかわいくない返答をする。
「ふふっ、偶にはいいじゃない。素直な時には、言葉を飾らないものなのよ」
今日の紫様は変だ。藍は赤くなった顔を隠しながらスキマの出口に向かった。
そこは博麗神社。
幻想郷の中心だった。
面倒くさそうに境内を掃除していた霊夢は、空中から現れた二人にうんざりした様子だった。
「何よ、あなたたちが揃ってくるなんて珍しいわね。今日はあの猫はいないのかしら?」
箒を操る手を止め、石段に座りながら聞く。
「橙は家でお留守番だ」
藍が答え、
「霊夢、今日はとても真剣な話よ」
紫が本題を切り出した。
「話なら中でお茶でも……って感じでもなさそうね。いいわ、聞きましょう」
霊夢はやっぱり面倒くさそうに答えた。
「じゃあ私は張りなおした結界を補強すればいいのね?」
簡潔な説明を受けた霊夢が聞きなおす。
「そうね。大元となるのは私と藍で作るから、あなたは後始末といったところかしら」
「なんか表現が悪いわよ、紫」
眉間に皺を寄せながら、渋い顔をする。
「じゃああなたは私たちの尻拭い」
「わかった、弾幕りあうつもりなのね」
お札を取り出して、殺気を漲らせる。その眼は本気だった。
「やぁねぇ、冗談よ。重大な話だから宜しく頼むわよ。っと、藍は先にスキマに戻ってなさいな」
そう言いながら、スキマを展開する。
「承知しました」
藍がスキマへと入っていく、そして紫は霊夢に語りかけようとすると、
「紫、あなた話してないみたいね、藍に」
霊夢に先を越された。聡い娘だ、と紫は思う。
「いつ気づいたのかしら?」
「ついさっきかしらね。あなたはもっと胡散臭く笑っているもの」
悪びれもせず言う。それが博麗霊夢の人となりをよく表していて、紫は嬉しくなった。
「そういう娘だったわ、あなたは」
「そういう人間よ、私は。だって巫女だもの」
そうね、と呟く。
「じゃあ用件だけ。あの二人のことをよろしく頼むわね」
「私は巫女だから、えこひいきはできないのよ」
そんなやり取りだったが、十分だった。
これ以上の言葉は二人らしくない。そう思った。
「じゃあね、霊夢」
「ええ、さよなら紫」
やはり博麗の巫女は、全てに平等だった。
スキマを抜け、幻想郷の端に立つ。
そこには紫が昨日修復したにもかかわらず、大きな穴が開いていた。
「本当に困ったものねぇ」
「ええ、予想以上です」
その穴は人一人どころか、マヨヒガにある自宅をすっぽり覆えそうなぐらい広がっていた。
「それじゃあ始めましょう。藍、あなたは私の周りに力が漏れないように結界を張って頂戴」
気軽な紫の声。
しかし――
「紫様、その前に全てをお話になってください」
重い藍の声が、それを拒絶した。
「何のことかしら、藍?」
紫は普段のように答えて見せる。
だが、それはあくまで他人から見たものであって、幾千霜もの月日を仕えた藍にとっては違和感を感じるもの。
「私は主人の異変に気づけないほど、愚鈍な式ではございません」
きっぱりと紫に言い放った。
数分の沈黙の後、紫はやれやれといったように藍に背を向けた。
「霊夢といい、あなたといい、鋭くて困るわねぇ。わかったわ、私の負けよ」
「流石にここ数日の紫様の動向は変でしたからね」
藍は紫の正面へと移動する。足元に生えている草が何だか煩わしかった。
紫と藍は近い距離で向き合う。
紫は少し寂しそうに。藍は今にも泣きそうだった。
「やはり紫様はその御身と引き換えに、結界を張りなおすおつもりなんですか……?」
震える声の藍を、紫は抱きしめた。橙のときよりも強く、強く、強く。
相手の体に自分を刻み付けるかのように、腕を強く背に回して力を込めた。
藍もそれに応じるように、紫にしがみ付く。
久しぶりに触れる主の体は、とても温かくて、とても落ち着く香りがした。
そのままどれくらい経っただろうか?
太陽は既に傾き、燃えるような赤い光が二人を照らしていた。
抱き合ったまま、紫は藍に囁く。
「ねえ藍、もう寒くなってくるわ。そろそろ始めないと……」
紫のその言葉が、切欠となった。
いままで堪えていた涙が、ぼろぼろと零れる。
それは紫の首筋を容赦なく濡らしたが、冷たさを感じることは無かった。
「嫌です……嫌ですよ、紫様……あなたがいなくなったら私は、私はっ!!」
子供のように泣きじゃくる藍に、紫はゆっくりと背中を摩った。
「大丈夫よ、藍。あなたはもう立派な式―いや、もう私無しでも十分にやっていける程成長したわ」
紫の声はどこまでも優しい。
「そんなっ、まだ紫様のお傍に仕えていたいんです!!もっとたくさんのことを学んで、もっと多くの時間を過ごして――」
と、そこで藍の言葉が途切れた。
紫が藍の唇を塞いでいたのだ。
突然のことだったが、藍はそれに身を任せた。
そして唇が離れ、紫は目を閉じて藍と額を合わせて語りだした。
「あなたがとっても甘えん坊だってこと、忘れていたわ……
式になりたてのころなんて、一人で寝てたら泣いちゃうぐらいだったもんね」
懐かしそうな紫の声に、藍の心はもう落ち着いていた。
「紫様……私を式にした時のことを覚えておいでですか?」
藍の声も懐かしさを含んでいる。まるで昔話を話すようだった。
「えぇ、覚えているわ、まるで昨日のことのように。あの時のあなたへの言葉ももちろんね」
眼を開いて藍と見つめ合う。
「その言葉だけで、私は生きていけます」
藍の眼には、強い意志が宿っていた。そこには先ほどみっともなく泣いていた様子など微塵も無い。
「やりましょう、紫様」
紫から体を離すと、藍は力強く言った。その姿たるや、威風堂々という言葉がよく似合う。
「それでこそ私の式よ、八雲藍」
紫は満足したように両手を広げた。
「「さあ」」
そこには二人の境界を操る妖怪が、
「「始めましょう」」
全てのものを背負って立っていた。
まずは藍が、紫の周囲に大きな結界を張る。それは美しい藍色。
そして紫がその中で小さな、だが力が凝縮された結界を張る。それは美しい紫色。
幻想郷一美しい結界だった。しかしその二つの色は決して重ならない。
それが二人の未来を表しているようで悲しくもあった。
紫がそっと幻想郷の結界に触れる。すると大きな穴がみるみる塞がれていった。
そしてそのまま藍に向き直った。
「ねえ藍、橙へはあなたから説明しておいて頂戴ね。辛い役目かもしれないけど、頑張りなさいな」
「はいっ」
「それとあなたはちょっと橙を甘やかしすぎる点があるわ。時には厳しくなさい」
「はいっ」
「あなたも私と同じことができるようになったとはいえ、力はまだまだよ。以後更なる精進をなさい」
「はいっ」
紫の体がだんだんと薄れていく。
「あのときの言葉……私が違えることになっちゃったわね。ごめんなさい、藍」
「謝ることはありません、紫様…」
藍の眼にまた涙が溜まり始める。
紫の姿が、より霞んでしまうとわかっているのに、それを止めることができない。
「藍、私はあなたと出会えて幸せ、だった、わ……本当に、ありが、とう」
「紫様っ!!!!!!!!」
紫も涙を流しているのだろうか。声が途切れ途切れになる。
藍は思わず紫に駆け寄った。しかし最後に一度抱きしめようとしたその手は、虚しく空を切る。
もう、触れられない。
もう、感じれない。
もう、もう、もう…………!!!!
バランスを失った藍は、紫の足元に跪く格好になる。
そんな藍に紫は優しく言葉をかけた。
「藍、私は消えるわけじゃない。幻想郷と一つになるの。だからいつでも傍にいる。
姿は見えないけど、あなたが望めば感じることだってできるわ。
そう、境界なんてものはいつだって曖昧なものよ」
もう背景が透けて見えるぐらいに、存在が希薄になってしまった紫の目から一粒の涙が零れ落ちる――
「特に出会いと別れの境界なんて、いつだって曖昧だもの」
そう言って笑うと
静かに
――消えた。
藍の掌に、ぽたりと涙が落ちた。
続けて、ばさりとお気に入りだった日傘が落ちる。
「紫様ぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
もう月が輝く時間になっていた幻想郷に、九尾の咆哮が悲しく木霊した。
「それでは行ってきまーーーーすっ」
自慢の二本の尻尾を揺らしながら、橙は今日も元気に結界の見回りに出発した。
姿もすっかりと成長し、既に立派な一人前の式になっている。
「ただもう少し落ち着きを持ってくれるといいんだがな」
苦笑しながら、空を飛んでいく背中を眺める。あの分では、橙が式を持つのは当分先になりそうだった。
紫が犠牲になって張った結界は、この数百年変わらずに幻想郷を守り続けている。
しかもその月日にも関らず、まだ何の問題もでてきてはいない。
「それだけ紫様のお力が強大だったということだな」
藍は誇らしげに言った。
藍は、時々不安になる。
今の私は、あの方に恥じぬ力を身につけているだろうか?
いざという折に、幻想郷を守ることができるのだろうか?
しかし、それに答えてくれるものはいない。
そんな時、藍は空を見ることにしている。
すると少し気が晴れるのだ。
まるで姿の見えない主人が、自分に向けて柔らかく笑いかけてくれているような気がする。
「さて、私もでかけるか。最近では結界に悪さもするやつもいるみたいだし――」
と、ちょうどその時だった。
近くで、結界に不自然な力が加わるのを感じる。
「おもしろい。その所業、後悔させてくれる!!」
今着ている道士服にはあまり似合っていないお気に入りの日傘を持つと、藍はスキマを展開する。
そしてその者達の真上に転移すると、声高に叫んだ。
「私は八雲紫の式、八雲藍!!
わが主の結界に害をなす下賎なる輩よ、今すぐ滅するがいい!!!」
八雲を継ぐ者は、幻想郷を護る――
その使命は守護者が変わっても、永遠のものだった。
<終幕>
まだ涙が止まりません・しばらくは寝れないです。。(泣
ちょうど幻視力が高まってる時に読んだものだから……ああ、もうっ!
ゆあきーんっ!(涙
紫が最後まで紫だったのが嬉しいです(ノД`)
いろいろと強い紫と藍様が見れて満腹です。
いつの日か、藍と橙の間にも世代交代はあるんでしょうねぇ……
八雲一家大好きな自分にとっては忘れられない作品です。
藍や橙がそうなったときのことを考えると・・(つロT)
ホロリとくる切ない話でした。
こんな紫様と藍が好きです。
大好きだった人が守ろうとしていたものを引き継ぎ、受け継ぎ、繋げていく。
それこそが連綿と続くヒューマンシステム。
妖でありながら、妙に人間臭いあの一家に相応しい『式』
良い話でした。ありがとうございました。
「特に出会いと別れの境界なんて、いつだって曖昧だもの」
。゚゚(´□`。)°゚。ワーン!!
この一言で堪えられなくなりました。
作品に感想をくれた方々、点数を付けてくれた方々に
心より感謝を申し上げます。
これを励みにして頑張りたいと思う次第です。
本当は個別にレスを返したいのですが、お眼汚しになりそうな気もするので
控えさせていただきます。申し訳ありません。
本当にありがとうございました!!
愛する幻想郷と家族の為に、その身を捧げる姿でしか思い浮かばない…。
…普段のグータラぶりが無ければ最高にカッコイイのですがw
泣かせるじゃねえか、ホロリ
忘れられない一作になりそうです
また八雲一家の話だといいなぁ
他の言葉はいらない。
あー、SS読んで感動で身体が震えるのは久々だー。
この話を読めて本当に嬉しい。
ありがとう。
涙腺ゆるいのにぃ
最後の最後で
「久しぶり♪」とか言いながら胡散臭い笑みを浮かべて隙間から現れるゆかりんを期待していたのは私だけでいいぜ。
紫様も藍様も橙もみんな大好きだ
感動的なストーリーだけに、私個人的にもうすこしじっくり書いてほしかったかな。