「…ない、ないないない。ここにもない そこにもない 何処にもない」
たしか最後に使った時には、ここらへんにしまったはずなんだが…どうにも見当たらない。
あれがないと別段とても困るというわけではないが…いややっぱり困る。
最後に手入れしたのはいつだったか忘れたが、少なくとも一ヶ月以上は前のことだ。気付いてしまうとどうにも落ち着かない。
私、霧雨魔理沙は今、耳かきを探していた。
「…あーもう無理だ。そもそもこんなとこであんな小さな物、探せるわけないな」
で、たった今諦めた。いやだって、いくら探したって見つかる気配もないし。
ぺたりとその場に座り込んで、普段から掃除してればこんなことにはならないんだろうなぁ、などと今さらなことをぼんやり考えたりもするが、目の前の部屋の惨状は変わるはずもなく。
たまには掃除ぐらいしなさいよ、と言ったのは霊夢…いやアリスだったか。まぁどちらからも同じようなことを言われているので、どっちも正解か。
だが、私は耳かきを諦めたわけではない。耳かきを探し出すことを諦めただけだ。こういう時はやっぱり…
「しゃあない、香霖の所からふんだくるか」
まぁ耳かきぐらいならあまり文句は言われないだろう、多分。いや、やっぱ言うか。
とにかく思いたったら後は早く。チャンスの神様の後ろ頭はつるっ禿げってね。
こういう時に限って誰かが同じようなことを言っていて、でもってアレだ、商品は一つしかなかったりするのだ。
考えすぎだろうとは思うけれど、先んずれば人を制す、善は急げなどの言葉もある。
香霖からしたら善どころか悪なんだろうが…ほら、独善も善には違いないしな。無問題ってやつだ。
そんなことを考えてるうちに用意は完了。もちろん財布は持っていかない。
「待ってろ耳かき。今ふんだくってやるぜ」
外に出て、堂々と窃盗予告をして飛び立つ。みるみるうちに遠ざかる我が家。少し離れると、もう木に隠れて見えなくなってしまった。
面白そうなものがあったら、ついでにいただくというのも悪くはないな、なんて考えながら飛んでいると、顔の横を毛玉がかすめた。
よいこの皆、前方不注意はいけないぞ!
「たのもー!」
「いらっしゃい…ってなんだ魔理沙か」
「なんだとは酷いな…悲しくて思わず、そこに置いてある本とか色々持っていきたくなりそうだぜ」
言って本を手に取ろうとしたところを、いち早く香霖がブツを確保。死守するつもりのようだ。
ふっふっふ、愚かなことを…まだまだ盗るものはいくらでもあるってのに。
「あら魔理沙。あんたも買いもの?」
「…げげ」
手をわきわきとさせながら物色していると、後ろから聞き慣れた声がして。ゆっくりと振り返ると、案の定そこには霊夢の姿があった。
殺那に衝撃と共に目の前に星が浮かぶ。叩かれた、と気付くのは数秒後になってからだった。もの凄く痛い。
…相変わらず、手の早い奴だ。私が言うのもなんだとは思うが、短気は良くないぞ、短気は。
「げげ、とは失礼ね…殴るわよ?」
「そういうことは今度から殴る前に言ってくれると嬉しいな…後、手加減はしてくれ」
「してるわよ、手加減。目を突いたりはしてないでしょ?」
さらっと怖いことを言ってくる霊夢。いやまぁ、確かに目を突かれるよりかはマシだが。
「そういう手加減ではなくて…もっとこう、ソフトに出来ないもんか?」
「魔理沙はじわじわいたぶられるのがお好き…と。これからの参考にしとくわ」
「…………勘弁してください私がわるうございました」
「わかればよろしい」
くそう…なんで殴られた私が謝ってるんだ…
「ところで、霊夢は何を買いに来たんだ? まさか、耳かきとかじゃないよな?」
「あら、実はそうなの」
「嘘っ!?」
「う・そ♪ お茶を切らしちゃったから買いに来ただけよ」
…手玉に取られているようで、なんかすんげー悔しい。
からからと笑っている霊夢の笑顔に、なんだかもの凄く黒いものが見えたような気がする。
なんかこう、『これだから魔理沙をからかうのはやめられないわ』みたいな。なんか合ってそうで嫌だ。
「ほーぉ、買いに来たのか…てことは、今度こそ代金を払ってもらえるんだろうな?」
そこまできて、今まで黙秘していた香霖が口を挟む。
商売をしている以上、きちんと代金を払ってもらえるかどうかはとても重要なことだ。
当然のことのような気もするが……悲しいかな、霊夢にはそんな常識は一切通用しないのだ。
「払いますとも、もちろん。そのうちね」
霊夢がさわやかに笑いながら言う。幻想郷にいる鬼は萃香だけなはずだが…そこにはまさに鬼がいた。踏み倒しの鬼。
香霖が無言で後ろを向いた。一瞬、その眼鏡の奥で何かがきらりと輝いた気がする。あれはきっと、心の汗だろう。
「あー香霖、落ち込んでるところ悪いが…実は耳かきが欲しいんだが」
「当然、あるにはあるが………ツケはダメだぞ」
恐る恐る話しかけると、香霖は何事もなかったかのようにこちらを向いた。
その顔からは『決してタダではやらないぞ』という強い意志が感じられる。今日の香霖は手強そうだ。くそ、霊夢の奴め…はた迷惑な。
「真に残念ながら、今日は持ち合わせがないんだが」
「あいにくと、ここには文無しに売るような品は置いてなくてね」
「むー。耳かきの一つや二つどーんと持っていけ、ぐらい言えないのか? そんなんじゃあ客の信望なくすぜ?」
「馬鹿を言わないでくれ。ここに出してあるのは全て売り物、無料でやる道理はない。それに、金も払わないような客の信望ならいらないよ」
「まったく…冷たいな、私と香霖の仲じゃないか。それとも私のことは遊びだったのか。乙女の純情を弄んだのか」
「でたらめ言ってるんじゃない。とにかく、不良債権は二人もいらないんだ」
ち…やっぱりガードが堅くなってやがる。厄介な。
文句の一つでも言ってやろうと霊夢の姿を探してみると、奥の方で引出しを調べたりごそごそしている。
あ、何か袋っぽいもの掲げ上げた。
「ねんがんの 玉露を てにいれたぞ!」
「あ、待て、それは売り物じゃなくて僕が愉しむ用の…!!」
「えーと、さっきの話だけど出してあるのは売り物なのよね? で、今この玉露は外に出ている…つまりこれは売り物。客の私が持っていくのは、道理よね~」
お茶が切れたらまた来るわ、と言って足早に去ってしまった。外に出てるって…引出しの奥にしまってあったのを引っ張り出したの間違いだろ。
香霖はよっぽどショックだったのか、なんだかとても落ち込んでる。とっておきだったのに…とかの呟きも聞こえてきた。
…ちょっと可哀相な気がしてきた。だからといって耳かきを諦めるということにはならないのだが。
しかしこの状態の香霖から品物を強奪するというのは、流石に気が引ける。強奪は今回は諦めるとなると…交渉か。
「あー香霖、元気出せ。ほら眼鏡がずれてるぜ。ついでに耳かきくれ」
「ああ、すまない。…だが、それとこれとは別だ。だいたい耳かきぐらい安いものだろう、なんで金を払わないんだ」
「小さな出費を抑えるのが家計を助ける…とかいう話をこないだ読んだな」
「で、君はその小さな出費で僕の家計に地味に打撃を与えるわけか」
「…自己犠牲の精神って、素晴らしいと思うぜ香霖」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~少女交渉中~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…ああもう、埒があかないな。金でなくてもいいから、何か対価になりそうなものはないのか」
あれからしばらく話していたが、交渉はまとまる気配を見せていない。
タダでよこせという私と、金を払えという香霖。二人の間に妥協点がないのだから、まとまるはずがない。
まとまるとすれば、私がまけてもらって買うというものだが…まけてもらっても財布を持ってきていないのだからしょうがない。
あーもう、香霖の奴め。耳かきぐらいぽんっとくれても良いのに…ケチ臭い奴だ。
「ん~…ないと思うけどなぁ。財布もないし、特に何も持ってきてないし」
ドロワーズの中をごそごそと漁ってみるが、やはり何もない。普段なら色々とよくわからないものも入っているのだがー…
先に耳かきを探してる時に一回全部出したから、何も入ってないのだから当然と言えば当然だ。
「うーん、やっぱ何もないな…じゃあ、今私が穿いてるドロワーズでどうだ」
「よしそれで手を打とう」
「冗談だ馬鹿」
「…漢の純情を弄んだな」
「そんな邪な純情捨てちまえ」
「さて、と。冗談はおいといて…本当にどうするんだ? 僕は無料で提供するつもりはないぞ」
ものすごい目が本気だったような気がするんだが…まぁ気にしないでおこう。精神衛生上その方がいい感じだ。
さて本当にどうしたものか。金もなければ物もない、強奪もナシとくればやはり労働か。
労働とはいっても何をするか…面倒なことは出来れば遠慮したいんだが…
……自分で考えてて、舐めてるなぁという自覚はある。ったく、こんなことになるなら財布持ってくりゃ良かったぜ。
自分で自分に悪態を吐いて、一つ溜息。霊夢の笑い声が聞こえた気がした。
「いたたたたた!もうちょっと優しく扱ってくれっ」
「何言ってんだ。ほら、こんなにすごい…」
「…見せてくれなくていいから。もうちょっと優しく頼むよ、僕のは繊細なんだからね」
「わかってるわかってる、任せとけって」
「不安だ…」
私の膝の上には横になった香霖の頭がある。手には耳かき。そう、私は香霖の耳掃除を買ってでたのだ。
耳かきの対価としてふさわしいし、実は一回やってみたかったから丁度良い。
で、やってみると…香霖の耳の中は酷い有り様だった。私の家の中と言えばわかりやすいだろうか。
いやそれはちょっと言いすぎかもしれないけど、実際想像出来る酷さとしては限界レベルだと思う。手入れサボり歴は年単位だろうな、こいつは。
思わず耳かきを持つ手に力をいれて、根こそぎやりたくなってしまう。その度に香霖が悲鳴を上げるのだが、気にしない。
「しっかし、これは酷いぜ。最後に耳掃除したのいつだよ」
耳かきを持つ手の動きは止めずに話しかける。取っても取ってもまだまだある感じだ。
奥に押し込まないように気を付けないと駄目だな。それはそれで面白そうだが。
「んー…いつだったかな」
香霖はしばらく考えたあと、わからないとだけ言ってまた目を閉じた。
少なくともわからなくなるぐらいには古い、ということだろう。このものぐさめ。
「まったく、その内耳が腐ってキノコが生えるぜ」
「耳から生えるキノコ、というのは聞いたことがないな…虫に生えるのなら聞いたことはあるが」
「冗談がわからないのは年よりの証拠だぜ。耳掃除ぐらい定期的にやっとけよなー」
「耳のこととはいえ、魔理沙に掃除をまめにやれと言われるとは…なるほど、確かに僕も年を取ったのかもしれないな」
「…鼓膜を突き破ったら痛いだろーな」
「………………僕が悪かった、やめてくれ」
「耳から血をダラダラ流したくなかったら、下手に出るのが私のオススメだぜ」
言いつつ少し力を込めてまたこそぎ落とすと、香霖が痛そうな声をあげた。…………ちょっと楽しいかもしれない。
新しい自分の目覚めを予感しながら、耳の中を傷つけないように、かつ痛がらせるように耳掃除を続ける。
楽しい楽しい耳掃除は、まだ始まったばかりだ。
途中、くしゃみの拍子に深いところをえぐってしまうというハプニングがあったりしたが
それと終始香霖の痛そうな声が聞こえていた以外は、無事に終了した。
あー、まぁ香霖の耳は無事じゃあないが、気にしちゃいけないというかなんというか。
「ほら、これで終いだ。どうだ香霖、耳がスースーするだろ?」
「………ズキズキするんだが」
「あ、あははははは。それはあれだ、時間が解決してくれるさ」
笑ってごまかすことにする。香霖がジト目でこちらを恨みがましく見ているが、ここで折れてはいけない。
これは心が折れた方が負けの根競べ。そしてこの勝負に関して、私は香霖相手に負け知らずだ。
ずっと笑っていると、案の定香霖は溜息を吐いてそっぽを向いた。勝利。
「……ほら、お望みの品だ。渡すからもう帰ってくれ…」
「おー、悪いな。今度やる時はもうちょっと丁寧にやるからさ」
投げ渡された耳かきをしっかり受け取り、店の外に飛び出す。やれやれ、ようやく用事が終わった。
背筋をうーんと伸ばし、箒に跨って家路を辿る。霊夢のおかげで思ったよりも手間取ったぜ。
気晴しに……そうだな、自分の耳かきが終わったらアリスの奴にでもやってやろうか。とても良い声で鳴いてくれそうな気がする。
目に涙を浮かべて痛がるその顔を想像するだけで、ご飯三杯は軽くいけそうだ。
自然と箒を握る手に力が入る。胸の高なりに合わせて速度はどんどん上がっていく。
「待ってろよ…うふ、うふふ、うふふふふふふふふ」
つづかない
たしか最後に使った時には、ここらへんにしまったはずなんだが…どうにも見当たらない。
あれがないと別段とても困るというわけではないが…いややっぱり困る。
最後に手入れしたのはいつだったか忘れたが、少なくとも一ヶ月以上は前のことだ。気付いてしまうとどうにも落ち着かない。
私、霧雨魔理沙は今、耳かきを探していた。
「…あーもう無理だ。そもそもこんなとこであんな小さな物、探せるわけないな」
で、たった今諦めた。いやだって、いくら探したって見つかる気配もないし。
ぺたりとその場に座り込んで、普段から掃除してればこんなことにはならないんだろうなぁ、などと今さらなことをぼんやり考えたりもするが、目の前の部屋の惨状は変わるはずもなく。
たまには掃除ぐらいしなさいよ、と言ったのは霊夢…いやアリスだったか。まぁどちらからも同じようなことを言われているので、どっちも正解か。
だが、私は耳かきを諦めたわけではない。耳かきを探し出すことを諦めただけだ。こういう時はやっぱり…
「しゃあない、香霖の所からふんだくるか」
まぁ耳かきぐらいならあまり文句は言われないだろう、多分。いや、やっぱ言うか。
とにかく思いたったら後は早く。チャンスの神様の後ろ頭はつるっ禿げってね。
こういう時に限って誰かが同じようなことを言っていて、でもってアレだ、商品は一つしかなかったりするのだ。
考えすぎだろうとは思うけれど、先んずれば人を制す、善は急げなどの言葉もある。
香霖からしたら善どころか悪なんだろうが…ほら、独善も善には違いないしな。無問題ってやつだ。
そんなことを考えてるうちに用意は完了。もちろん財布は持っていかない。
「待ってろ耳かき。今ふんだくってやるぜ」
外に出て、堂々と窃盗予告をして飛び立つ。みるみるうちに遠ざかる我が家。少し離れると、もう木に隠れて見えなくなってしまった。
面白そうなものがあったら、ついでにいただくというのも悪くはないな、なんて考えながら飛んでいると、顔の横を毛玉がかすめた。
よいこの皆、前方不注意はいけないぞ!
「たのもー!」
「いらっしゃい…ってなんだ魔理沙か」
「なんだとは酷いな…悲しくて思わず、そこに置いてある本とか色々持っていきたくなりそうだぜ」
言って本を手に取ろうとしたところを、いち早く香霖がブツを確保。死守するつもりのようだ。
ふっふっふ、愚かなことを…まだまだ盗るものはいくらでもあるってのに。
「あら魔理沙。あんたも買いもの?」
「…げげ」
手をわきわきとさせながら物色していると、後ろから聞き慣れた声がして。ゆっくりと振り返ると、案の定そこには霊夢の姿があった。
殺那に衝撃と共に目の前に星が浮かぶ。叩かれた、と気付くのは数秒後になってからだった。もの凄く痛い。
…相変わらず、手の早い奴だ。私が言うのもなんだとは思うが、短気は良くないぞ、短気は。
「げげ、とは失礼ね…殴るわよ?」
「そういうことは今度から殴る前に言ってくれると嬉しいな…後、手加減はしてくれ」
「してるわよ、手加減。目を突いたりはしてないでしょ?」
さらっと怖いことを言ってくる霊夢。いやまぁ、確かに目を突かれるよりかはマシだが。
「そういう手加減ではなくて…もっとこう、ソフトに出来ないもんか?」
「魔理沙はじわじわいたぶられるのがお好き…と。これからの参考にしとくわ」
「…………勘弁してください私がわるうございました」
「わかればよろしい」
くそう…なんで殴られた私が謝ってるんだ…
「ところで、霊夢は何を買いに来たんだ? まさか、耳かきとかじゃないよな?」
「あら、実はそうなの」
「嘘っ!?」
「う・そ♪ お茶を切らしちゃったから買いに来ただけよ」
…手玉に取られているようで、なんかすんげー悔しい。
からからと笑っている霊夢の笑顔に、なんだかもの凄く黒いものが見えたような気がする。
なんかこう、『これだから魔理沙をからかうのはやめられないわ』みたいな。なんか合ってそうで嫌だ。
「ほーぉ、買いに来たのか…てことは、今度こそ代金を払ってもらえるんだろうな?」
そこまできて、今まで黙秘していた香霖が口を挟む。
商売をしている以上、きちんと代金を払ってもらえるかどうかはとても重要なことだ。
当然のことのような気もするが……悲しいかな、霊夢にはそんな常識は一切通用しないのだ。
「払いますとも、もちろん。そのうちね」
霊夢がさわやかに笑いながら言う。幻想郷にいる鬼は萃香だけなはずだが…そこにはまさに鬼がいた。踏み倒しの鬼。
香霖が無言で後ろを向いた。一瞬、その眼鏡の奥で何かがきらりと輝いた気がする。あれはきっと、心の汗だろう。
「あー香霖、落ち込んでるところ悪いが…実は耳かきが欲しいんだが」
「当然、あるにはあるが………ツケはダメだぞ」
恐る恐る話しかけると、香霖は何事もなかったかのようにこちらを向いた。
その顔からは『決してタダではやらないぞ』という強い意志が感じられる。今日の香霖は手強そうだ。くそ、霊夢の奴め…はた迷惑な。
「真に残念ながら、今日は持ち合わせがないんだが」
「あいにくと、ここには文無しに売るような品は置いてなくてね」
「むー。耳かきの一つや二つどーんと持っていけ、ぐらい言えないのか? そんなんじゃあ客の信望なくすぜ?」
「馬鹿を言わないでくれ。ここに出してあるのは全て売り物、無料でやる道理はない。それに、金も払わないような客の信望ならいらないよ」
「まったく…冷たいな、私と香霖の仲じゃないか。それとも私のことは遊びだったのか。乙女の純情を弄んだのか」
「でたらめ言ってるんじゃない。とにかく、不良債権は二人もいらないんだ」
ち…やっぱりガードが堅くなってやがる。厄介な。
文句の一つでも言ってやろうと霊夢の姿を探してみると、奥の方で引出しを調べたりごそごそしている。
あ、何か袋っぽいもの掲げ上げた。
「ねんがんの 玉露を てにいれたぞ!」
「あ、待て、それは売り物じゃなくて僕が愉しむ用の…!!」
「えーと、さっきの話だけど出してあるのは売り物なのよね? で、今この玉露は外に出ている…つまりこれは売り物。客の私が持っていくのは、道理よね~」
お茶が切れたらまた来るわ、と言って足早に去ってしまった。外に出てるって…引出しの奥にしまってあったのを引っ張り出したの間違いだろ。
香霖はよっぽどショックだったのか、なんだかとても落ち込んでる。とっておきだったのに…とかの呟きも聞こえてきた。
…ちょっと可哀相な気がしてきた。だからといって耳かきを諦めるということにはならないのだが。
しかしこの状態の香霖から品物を強奪するというのは、流石に気が引ける。強奪は今回は諦めるとなると…交渉か。
「あー香霖、元気出せ。ほら眼鏡がずれてるぜ。ついでに耳かきくれ」
「ああ、すまない。…だが、それとこれとは別だ。だいたい耳かきぐらい安いものだろう、なんで金を払わないんだ」
「小さな出費を抑えるのが家計を助ける…とかいう話をこないだ読んだな」
「で、君はその小さな出費で僕の家計に地味に打撃を与えるわけか」
「…自己犠牲の精神って、素晴らしいと思うぜ香霖」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~少女交渉中~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…ああもう、埒があかないな。金でなくてもいいから、何か対価になりそうなものはないのか」
あれからしばらく話していたが、交渉はまとまる気配を見せていない。
タダでよこせという私と、金を払えという香霖。二人の間に妥協点がないのだから、まとまるはずがない。
まとまるとすれば、私がまけてもらって買うというものだが…まけてもらっても財布を持ってきていないのだからしょうがない。
あーもう、香霖の奴め。耳かきぐらいぽんっとくれても良いのに…ケチ臭い奴だ。
「ん~…ないと思うけどなぁ。財布もないし、特に何も持ってきてないし」
ドロワーズの中をごそごそと漁ってみるが、やはり何もない。普段なら色々とよくわからないものも入っているのだがー…
先に耳かきを探してる時に一回全部出したから、何も入ってないのだから当然と言えば当然だ。
「うーん、やっぱ何もないな…じゃあ、今私が穿いてるドロワーズでどうだ」
「よしそれで手を打とう」
「冗談だ馬鹿」
「…漢の純情を弄んだな」
「そんな邪な純情捨てちまえ」
「さて、と。冗談はおいといて…本当にどうするんだ? 僕は無料で提供するつもりはないぞ」
ものすごい目が本気だったような気がするんだが…まぁ気にしないでおこう。精神衛生上その方がいい感じだ。
さて本当にどうしたものか。金もなければ物もない、強奪もナシとくればやはり労働か。
労働とはいっても何をするか…面倒なことは出来れば遠慮したいんだが…
……自分で考えてて、舐めてるなぁという自覚はある。ったく、こんなことになるなら財布持ってくりゃ良かったぜ。
自分で自分に悪態を吐いて、一つ溜息。霊夢の笑い声が聞こえた気がした。
「いたたたたた!もうちょっと優しく扱ってくれっ」
「何言ってんだ。ほら、こんなにすごい…」
「…見せてくれなくていいから。もうちょっと優しく頼むよ、僕のは繊細なんだからね」
「わかってるわかってる、任せとけって」
「不安だ…」
私の膝の上には横になった香霖の頭がある。手には耳かき。そう、私は香霖の耳掃除を買ってでたのだ。
耳かきの対価としてふさわしいし、実は一回やってみたかったから丁度良い。
で、やってみると…香霖の耳の中は酷い有り様だった。私の家の中と言えばわかりやすいだろうか。
いやそれはちょっと言いすぎかもしれないけど、実際想像出来る酷さとしては限界レベルだと思う。手入れサボり歴は年単位だろうな、こいつは。
思わず耳かきを持つ手に力をいれて、根こそぎやりたくなってしまう。その度に香霖が悲鳴を上げるのだが、気にしない。
「しっかし、これは酷いぜ。最後に耳掃除したのいつだよ」
耳かきを持つ手の動きは止めずに話しかける。取っても取ってもまだまだある感じだ。
奥に押し込まないように気を付けないと駄目だな。それはそれで面白そうだが。
「んー…いつだったかな」
香霖はしばらく考えたあと、わからないとだけ言ってまた目を閉じた。
少なくともわからなくなるぐらいには古い、ということだろう。このものぐさめ。
「まったく、その内耳が腐ってキノコが生えるぜ」
「耳から生えるキノコ、というのは聞いたことがないな…虫に生えるのなら聞いたことはあるが」
「冗談がわからないのは年よりの証拠だぜ。耳掃除ぐらい定期的にやっとけよなー」
「耳のこととはいえ、魔理沙に掃除をまめにやれと言われるとは…なるほど、確かに僕も年を取ったのかもしれないな」
「…鼓膜を突き破ったら痛いだろーな」
「………………僕が悪かった、やめてくれ」
「耳から血をダラダラ流したくなかったら、下手に出るのが私のオススメだぜ」
言いつつ少し力を込めてまたこそぎ落とすと、香霖が痛そうな声をあげた。…………ちょっと楽しいかもしれない。
新しい自分の目覚めを予感しながら、耳の中を傷つけないように、かつ痛がらせるように耳掃除を続ける。
楽しい楽しい耳掃除は、まだ始まったばかりだ。
途中、くしゃみの拍子に深いところをえぐってしまうというハプニングがあったりしたが
それと終始香霖の痛そうな声が聞こえていた以外は、無事に終了した。
あー、まぁ香霖の耳は無事じゃあないが、気にしちゃいけないというかなんというか。
「ほら、これで終いだ。どうだ香霖、耳がスースーするだろ?」
「………ズキズキするんだが」
「あ、あははははは。それはあれだ、時間が解決してくれるさ」
笑ってごまかすことにする。香霖がジト目でこちらを恨みがましく見ているが、ここで折れてはいけない。
これは心が折れた方が負けの根競べ。そしてこの勝負に関して、私は香霖相手に負け知らずだ。
ずっと笑っていると、案の定香霖は溜息を吐いてそっぽを向いた。勝利。
「……ほら、お望みの品だ。渡すからもう帰ってくれ…」
「おー、悪いな。今度やる時はもうちょっと丁寧にやるからさ」
投げ渡された耳かきをしっかり受け取り、店の外に飛び出す。やれやれ、ようやく用事が終わった。
背筋をうーんと伸ばし、箒に跨って家路を辿る。霊夢のおかげで思ったよりも手間取ったぜ。
気晴しに……そうだな、自分の耳かきが終わったらアリスの奴にでもやってやろうか。とても良い声で鳴いてくれそうな気がする。
目に涙を浮かべて痛がるその顔を想像するだけで、ご飯三杯は軽くいけそうだ。
自然と箒を握る手に力が入る。胸の高なりに合わせて速度はどんどん上がっていく。
「待ってろよ…うふ、うふふ、うふふふふふふふふ」
つづかない
「ねんがんの~」にも吹きましたw
その裏には絶対に膝枕があるんだこん畜生!!
そんな場所で店やってるこーりんに幸せあれ・・・おっと
もう「美少女に耳掻きしてもらう」という幸せがあったか
つまり、禍福は嘲笑う罠の如し理論により次はまた不幸が・・・がんばれ、こーりん
>魔理沙と(まともな)こーりんの掛け合いは~
はい、ええっと、さりげなーくまともじゃなかったりもしてよーな気がするけれど、そこはまぁ気にしないで!
気に入ってもらえて嬉しいっす!
>ちょ、おま、代わ、こーりん殺す
殺しちゃ駄目ですよ。そこはほら、生かさず殺さずって言いますしね♪(えー)
>耳かき如きに騙されないぞ!!
彼の巧妙なカモフラージュを見破ってしまいましたね…
知ってしまったからには只では うわなにをするきさm(ry
>つまり、禍福は嘲笑う罠の如し理論により次はまた不幸が・・・がんばれ、こーりん
彼の人はアレです。いくら不幸(簒奪霊夢)が襲ってこようとも、不幸ではないでしょう。
だってほら、かわいい女の子が自分の所に訪ねてくる…ほら、香霖冥利に尽きるって奴ですね!
>お、落ちっ着けけけけ・・・!
さぁ落ち着いてください。そしてこの銃を持って、しっかり手足を狙って!(えー)