注――
・本当にワケわかんない話です。
・その一言につきます。ワケわかんないです。
身体の活動の限界が近い。
このままでは何れ遅からぬうちに私は倒れるだろう。
――その前に
その前に、あいつを
――殺す――
月日は流れる。
どこぞのメイド長のように時空間を停滞させることはできても、時間そのものの概念を一時に繋ぎ止めることはできない。
人は年を取る。
妖怪だって同じだ。
ごく一部の例外……蓬莱人のような人外の何かを覗いて、生物は等しく滅びを迎える。
博麗の巫女であっても、そこに例外はない。
普通の魔法使いであっても例外はない。
だが、月の頭脳と永遠と須臾の罪人が蓬莱の薬を創りだした。例外を自ら創りだした。
普通の魔法使いは丹の生成に成功した。
最大限の努力と、多少の才能。そして数多くの偶然の力で。
普通の魔法使いは例外になった。
月日が流れて年はとっても、その経過が身体に与える影響はない。
博麗の巫女は、そんな魔法使いをいつも悲しそうに見つめていた。
魔法使いは巫女にも丹を飲むように奨めたが、巫女がそれを受け取ることはなかった。
月日は流れる。例外でない人間は時の経過とともに老いてゆく。
変化していく巫女。変化を失った魔法使い。
一緒にいれば、どうしても避けられない別れが来るだろう。
魔法使いはそれが耐えられなかった。
そして、魔法使いは姿を消した。
それきり二度と、その神社に黒と白の魔砲使いが訪れることはなかった。
巫女は相変わらず、暢気に暮らしていた。
暢気に。
暢気に……見えただろう。
人から見れば巫女は何も変わらない。
本人にしてみても変わったところはないと思っている。
しかし、消えた魔法使いが今の巫女を見たら、彼女はきっとこういうだろう。
『よう霊夢、いつからお前はそんなに能面になったんだ?』
と。
巫女の顔からは表情が消えていた。
その顔におかしなところはない。
笑う事だってある。
だが、フィルターがかかったように、誰にも心の内にあるものをうかがい知る事はできなかった。
巫女は
霊夢は、力を得るために修行をしていた。
ずっと昔からそれが当然であったかのように。
だが、ごく近しい者には、それがどれほど異様なことなのかがわかる。
霊夢は天才だ。
修行などしなくても、彼女が屈したことはなかった。
本人も気付かないほど、ごく当たり前に。
霊夢は力をつけていた。
何のためなのか、それは彼女が気付かない以上、誰にもわからない。
やがて、終わりのときが近づいてくる。
自身の死が迫ったときに、彼女は漸く思い出した。
昔、自分には目的のために努力を惜しまない、魔法使いの友がいたことを。
今まで忘れていた。
何故忘れていたのかはわからない。時間の流れか、それともその魔法使いは記憶に残るほど自分にとって大事な人ではなかったのだろうか。
思い出を振り返る。
彼女はいつも滅茶苦茶だった。
よく自分を面倒ごとに引き込むし、彼女自身が面倒を引き起こしたことは数え切れない。
自分は呆れてそれを見ている。
だが、嫌な感情はない。
むしろ、楽しい――
楽しかった。
そして、気付いた。
彼女が消えてから、自分に思い出というものがないことに。
楽しいとか、悲しいとか、そう感じたことが一度もなかった。
咲夜が倒れ、死に隣接したときも、霊夢は何も感じなかった。
咲夜がこの世から去ってしまったときにさえ、自分は咲夜の存在に何も感じていなかった。
レミリアはそんな霊夢に怒りを抑えきれなかった。
今まで見たことのない、本当の吸血鬼の王の力。
本気で霊夢に殺意を向けるレミリアをみても、霊夢は何も感じなかった。
いつも通りとばかりに、レミリアを下す霊夢。
そのときのレミリアの顔を覚えている。
跪き、崩壊しながらも殺意を緩めない、必死のレミリアの表情。
自分はそれをおそらくは哀れみの表情を向けてみていたはずだ。
レミリアには、そこになんの感情もないのがわかっていたのだろうが。
「随分、酷いことをしちゃったのね」
それ以来、紅魔館の者には会っていない。
「でも、貴方がありのままの姿で居てくれたら」
いつ以来かの、感情が伴う表情。
「私はきっと、今も幸せに最後を迎えられたのに」
涙がぽろぽろと畳を濡らす。
「ずっといっしょに居たかった……もっと、いっしょに居たかったのに……っ」
悲しい。
長らく忘れていた感情。
おそらくは魔理沙が姿を消したときから、ふたをしていたもの。
悲しみを忘れるために、感情にふたをしてしまった。
自分の心には、どこだって魔理沙がいたから。
魔理沙を忘れるためには、全てをなかったことにしなければならないから。
「今からでも遅くない」
霊夢は顔を上げた。
「魔理沙……いっしょに、逝きましょう?」
当てもなく彷徨う。
確率としてはどれほど低いことだかわからない。
それでも、絶対に会えると、根拠のない自信を持っていた。
里を越える。山を越える。国を越える。
それでも、魔理沙は見つからなかった。
「あぁ、そうか……魔理沙ならきっと……」
魔理沙はみつからない。
にも関わらず、根拠のない自信は確信にも近くなっていた。
博麗神社。
住み慣れた我が家にもどってきた。
なぜなら、魔理沙はきっと。
いや、絶対、ここににもどってくるはずだから。
アレから魔理沙が二度とここを訪れることはなかった。
それは自分の死を認めたくないからなのだろう。
死んだら本当に二度と会えない。
魔理沙が死なない限りは。
だから霊夢は魔理沙を殺すことにしたのだ。
向こうで、ずっといしょに暮らしたいと、そう考えたから。
そして魔理沙は霊夢がそう考えると、わかっているだろう。
だから、戻ってくる。
決着をつけに。
「……遅いわ……私が死んじゃってたらどうするのよ」
魔理沙は来た。
昔見た光景と同じように、黒と白のエプロンドレスを身に付けて、箒に乗って飛んできた。
本当に、昔見た魔理沙と、何も変わらない。
「さぁな……泣いて欲しいか?」
「死んで欲しいわね、後を追って」
「酷いぜ」
宙に静止する魔理沙に近づいて、陰陽玉を取り出す。
「魔理沙。あなたは私の手で殺してあげる」
「……なら、こうしよう。私が勝ったらお前には丹を飲んでもらう。……あのときから、ずっと取ってあるんだ」
「……大丈夫なの?それ。……それに、私は、人よ」
「私だって人だぜ」
「……さぁね」
「……さぁ……か」
「もう話はおしまい。いくわよ魔理沙!!」
「そうだな、おしまいにしないために、私は勝つぜ!霊夢!!」
博麗神社の空に、久方ぶりの弾幕が舞う。
「まだまだ、魔理沙には負けないわ!」
霊夢の追尾弾が魔理沙を追う。
相変わらずずるい弾だと、魔理沙は弾に追われながらも懐かしく思う。
「甘いぜ!」
以前とは比べ物にならないほどの精度のマジックミサイルで、それらをすべて相殺する。
「……あ」
追尾弾は魔理沙を囲むように迫っていた。
そのため相殺した際の爆風が魔理沙の視界を覆うように広がる。
「くっ」
初めから霊夢の狙いは魔理沙の視界を奪い、死角をつくることだった。
年老いた自分では体力はどうしても劣る。
弾幕にしても、魔理沙が以前の魔理沙でないことは一目瞭然だ。
短期決戦で勝負をつける。
死角はつくった。魔理沙といえど、爆風の中、背後を取られれば逃げることは出来ないだろう。
――ヒュン――
「!?」
真後ろから、正確すぎる角度とタイミングで、魔理沙の心臓めがけて針が放たれる。
「くそっ」
なんとか反応して体をそらす。
が、完全に避けることは出来ず、左腕に針が突き刺さる。
「がっ……」
痛みに声が漏れる。
しかし、身構える暇なく、また第二、第三の針が放たれる。
「手加減無しか……いいぜ、やってやる」
「スターダストレヴァリエ!!」
弾幕ごっこなんかじゃない。
これは殺し合いだ。
魔理沙にだってわかっている。
あの後、魔理沙は世界を回った。
そして知識と経験を積み重ねて、昔よりずっと強くなった。
でも、何年生きてても、心の中の中芯がぽっきり折れて、治らない気がしたんだ。
それは霊夢、お前が居ないから。
お前に会えないから。
お前に、二度と会えないから。
「ケリをつけようぜ霊夢!!」
星を撒き散らして、爆風をかき消して。
普通の魔法使いは吼えた。
「な……に?」
爆風は消えたが、魔理沙の視界には見慣れた大きな弾がいくつも浮かんで静止していた。
「夢想封印……集」
星屑を覆うように、霊夢の夢想封印が魔理沙を包囲していた。
「柄にもなく修練を積んでみたら、いろいろと出来るようになって」
霊夢が微笑みを浮かべながら魔理沙に近づく。
「さぁ、これでおしまい」
霊夢は目を閉じて魔理沙の体を抱きしめる。
「馬鹿!!この距離じゃお前まで……」
覆っていた弾幕がいっせいに爆発する。
それは霊夢の霊力を全て注ぎ込んだ、最強のスペルだった。
爆音。破壊音。爆風。それらはどれをとっても見たこともない規模の破壊を、博麗神社周辺に与えた。
かつて神社だったところには、荒地というのもおこがましい、荒廃した大地だけが残った。
魔理沙は、考えていた。
なぜこうなってしまったのだろうか。
自分が丹という禁薬にてを出してしまったから?
霊夢が頑なに人であることを捨てようとしなかったから?
わからない。
死んだのか……?
霊夢も……?
ならなぜ意識があるのだろう。
まさか冥界にでもきちまったんじゃないだろうか。
にしては、どうも明るい気がする。
……沙…魔理……沙…………
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。
五月蝿い声だ。少し静かに――
「起きろ!!」
神経に何か、異常を感じる。そう、これは、まるで胸を揉まれている様な……
「……あ?」
「あら、やっと目が覚めまして?」
目の前に霊夢が居た。自分と同じ年頃の霊夢が、手を自分の胸に乗せて。
「……霊夢?お前……なんで……」
「寝ぼけてるの?今日は魔理沙が朝食当番でしょ?」
そして揉む。
「ひゃぁ!やめろ霊夢!」
「うりーうりうりー」
笑う霊夢。何故かその顔にとても安心して、急に泣き出したくなった。
「うりー……って、どうしたの魔理沙……」
「うっ……ふぐ……霊夢~」
霊夢の胸に顔をうずめて泣く。
「あーもー、よしよし」
霊夢は頭をポンポンと撫でてくれた。
そうだ……私は家の温泉が壊れて、霊夢の家に泊まりにきていたんだった。
今までのは夢……か?
なんだ……なん……だ……。
安心したら涙があふれてきた。
霊夢は黙って私を抱きしめてくれた。
「落ち着いた?」
「あぁ……みっともないところをみせたな」
「いやいや、魔理沙が私を頼ってくれるなんてあまりないし、嬉しかったわよ?」
「よくそんなこと真顔で言えるな」
ざっと一時間は泣いていただろうか、その間霊夢はずっと抱きしめてくれていた。
「時に魔理沙、見せたいものがあるのよ」
霊夢はそういうと表に出た。
「見ててね」
霊夢の霊力の高まりを感じる。
「夢想封印・集……はぁっ」
その弾が宙に静止する。
「柄にもなく修練を積んだらこんなことも出来るように……って魔理沙?魔理沙ーー?」
魔理沙は箒星にのって一目散に逃げ出した。
・本当にワケわかんない話です。
・その一言につきます。ワケわかんないです。
身体の活動の限界が近い。
このままでは何れ遅からぬうちに私は倒れるだろう。
――その前に
その前に、あいつを
――殺す――
月日は流れる。
どこぞのメイド長のように時空間を停滞させることはできても、時間そのものの概念を一時に繋ぎ止めることはできない。
人は年を取る。
妖怪だって同じだ。
ごく一部の例外……蓬莱人のような人外の何かを覗いて、生物は等しく滅びを迎える。
博麗の巫女であっても、そこに例外はない。
普通の魔法使いであっても例外はない。
だが、月の頭脳と永遠と須臾の罪人が蓬莱の薬を創りだした。例外を自ら創りだした。
普通の魔法使いは丹の生成に成功した。
最大限の努力と、多少の才能。そして数多くの偶然の力で。
普通の魔法使いは例外になった。
月日が流れて年はとっても、その経過が身体に与える影響はない。
博麗の巫女は、そんな魔法使いをいつも悲しそうに見つめていた。
魔法使いは巫女にも丹を飲むように奨めたが、巫女がそれを受け取ることはなかった。
月日は流れる。例外でない人間は時の経過とともに老いてゆく。
変化していく巫女。変化を失った魔法使い。
一緒にいれば、どうしても避けられない別れが来るだろう。
魔法使いはそれが耐えられなかった。
そして、魔法使いは姿を消した。
それきり二度と、その神社に黒と白の魔砲使いが訪れることはなかった。
巫女は相変わらず、暢気に暮らしていた。
暢気に。
暢気に……見えただろう。
人から見れば巫女は何も変わらない。
本人にしてみても変わったところはないと思っている。
しかし、消えた魔法使いが今の巫女を見たら、彼女はきっとこういうだろう。
『よう霊夢、いつからお前はそんなに能面になったんだ?』
と。
巫女の顔からは表情が消えていた。
その顔におかしなところはない。
笑う事だってある。
だが、フィルターがかかったように、誰にも心の内にあるものをうかがい知る事はできなかった。
巫女は
霊夢は、力を得るために修行をしていた。
ずっと昔からそれが当然であったかのように。
だが、ごく近しい者には、それがどれほど異様なことなのかがわかる。
霊夢は天才だ。
修行などしなくても、彼女が屈したことはなかった。
本人も気付かないほど、ごく当たり前に。
霊夢は力をつけていた。
何のためなのか、それは彼女が気付かない以上、誰にもわからない。
やがて、終わりのときが近づいてくる。
自身の死が迫ったときに、彼女は漸く思い出した。
昔、自分には目的のために努力を惜しまない、魔法使いの友がいたことを。
今まで忘れていた。
何故忘れていたのかはわからない。時間の流れか、それともその魔法使いは記憶に残るほど自分にとって大事な人ではなかったのだろうか。
思い出を振り返る。
彼女はいつも滅茶苦茶だった。
よく自分を面倒ごとに引き込むし、彼女自身が面倒を引き起こしたことは数え切れない。
自分は呆れてそれを見ている。
だが、嫌な感情はない。
むしろ、楽しい――
楽しかった。
そして、気付いた。
彼女が消えてから、自分に思い出というものがないことに。
楽しいとか、悲しいとか、そう感じたことが一度もなかった。
咲夜が倒れ、死に隣接したときも、霊夢は何も感じなかった。
咲夜がこの世から去ってしまったときにさえ、自分は咲夜の存在に何も感じていなかった。
レミリアはそんな霊夢に怒りを抑えきれなかった。
今まで見たことのない、本当の吸血鬼の王の力。
本気で霊夢に殺意を向けるレミリアをみても、霊夢は何も感じなかった。
いつも通りとばかりに、レミリアを下す霊夢。
そのときのレミリアの顔を覚えている。
跪き、崩壊しながらも殺意を緩めない、必死のレミリアの表情。
自分はそれをおそらくは哀れみの表情を向けてみていたはずだ。
レミリアには、そこになんの感情もないのがわかっていたのだろうが。
「随分、酷いことをしちゃったのね」
それ以来、紅魔館の者には会っていない。
「でも、貴方がありのままの姿で居てくれたら」
いつ以来かの、感情が伴う表情。
「私はきっと、今も幸せに最後を迎えられたのに」
涙がぽろぽろと畳を濡らす。
「ずっといっしょに居たかった……もっと、いっしょに居たかったのに……っ」
悲しい。
長らく忘れていた感情。
おそらくは魔理沙が姿を消したときから、ふたをしていたもの。
悲しみを忘れるために、感情にふたをしてしまった。
自分の心には、どこだって魔理沙がいたから。
魔理沙を忘れるためには、全てをなかったことにしなければならないから。
「今からでも遅くない」
霊夢は顔を上げた。
「魔理沙……いっしょに、逝きましょう?」
当てもなく彷徨う。
確率としてはどれほど低いことだかわからない。
それでも、絶対に会えると、根拠のない自信を持っていた。
里を越える。山を越える。国を越える。
それでも、魔理沙は見つからなかった。
「あぁ、そうか……魔理沙ならきっと……」
魔理沙はみつからない。
にも関わらず、根拠のない自信は確信にも近くなっていた。
博麗神社。
住み慣れた我が家にもどってきた。
なぜなら、魔理沙はきっと。
いや、絶対、ここににもどってくるはずだから。
アレから魔理沙が二度とここを訪れることはなかった。
それは自分の死を認めたくないからなのだろう。
死んだら本当に二度と会えない。
魔理沙が死なない限りは。
だから霊夢は魔理沙を殺すことにしたのだ。
向こうで、ずっといしょに暮らしたいと、そう考えたから。
そして魔理沙は霊夢がそう考えると、わかっているだろう。
だから、戻ってくる。
決着をつけに。
「……遅いわ……私が死んじゃってたらどうするのよ」
魔理沙は来た。
昔見た光景と同じように、黒と白のエプロンドレスを身に付けて、箒に乗って飛んできた。
本当に、昔見た魔理沙と、何も変わらない。
「さぁな……泣いて欲しいか?」
「死んで欲しいわね、後を追って」
「酷いぜ」
宙に静止する魔理沙に近づいて、陰陽玉を取り出す。
「魔理沙。あなたは私の手で殺してあげる」
「……なら、こうしよう。私が勝ったらお前には丹を飲んでもらう。……あのときから、ずっと取ってあるんだ」
「……大丈夫なの?それ。……それに、私は、人よ」
「私だって人だぜ」
「……さぁね」
「……さぁ……か」
「もう話はおしまい。いくわよ魔理沙!!」
「そうだな、おしまいにしないために、私は勝つぜ!霊夢!!」
博麗神社の空に、久方ぶりの弾幕が舞う。
「まだまだ、魔理沙には負けないわ!」
霊夢の追尾弾が魔理沙を追う。
相変わらずずるい弾だと、魔理沙は弾に追われながらも懐かしく思う。
「甘いぜ!」
以前とは比べ物にならないほどの精度のマジックミサイルで、それらをすべて相殺する。
「……あ」
追尾弾は魔理沙を囲むように迫っていた。
そのため相殺した際の爆風が魔理沙の視界を覆うように広がる。
「くっ」
初めから霊夢の狙いは魔理沙の視界を奪い、死角をつくることだった。
年老いた自分では体力はどうしても劣る。
弾幕にしても、魔理沙が以前の魔理沙でないことは一目瞭然だ。
短期決戦で勝負をつける。
死角はつくった。魔理沙といえど、爆風の中、背後を取られれば逃げることは出来ないだろう。
――ヒュン――
「!?」
真後ろから、正確すぎる角度とタイミングで、魔理沙の心臓めがけて針が放たれる。
「くそっ」
なんとか反応して体をそらす。
が、完全に避けることは出来ず、左腕に針が突き刺さる。
「がっ……」
痛みに声が漏れる。
しかし、身構える暇なく、また第二、第三の針が放たれる。
「手加減無しか……いいぜ、やってやる」
「スターダストレヴァリエ!!」
弾幕ごっこなんかじゃない。
これは殺し合いだ。
魔理沙にだってわかっている。
あの後、魔理沙は世界を回った。
そして知識と経験を積み重ねて、昔よりずっと強くなった。
でも、何年生きてても、心の中の中芯がぽっきり折れて、治らない気がしたんだ。
それは霊夢、お前が居ないから。
お前に会えないから。
お前に、二度と会えないから。
「ケリをつけようぜ霊夢!!」
星を撒き散らして、爆風をかき消して。
普通の魔法使いは吼えた。
「な……に?」
爆風は消えたが、魔理沙の視界には見慣れた大きな弾がいくつも浮かんで静止していた。
「夢想封印……集」
星屑を覆うように、霊夢の夢想封印が魔理沙を包囲していた。
「柄にもなく修練を積んでみたら、いろいろと出来るようになって」
霊夢が微笑みを浮かべながら魔理沙に近づく。
「さぁ、これでおしまい」
霊夢は目を閉じて魔理沙の体を抱きしめる。
「馬鹿!!この距離じゃお前まで……」
覆っていた弾幕がいっせいに爆発する。
それは霊夢の霊力を全て注ぎ込んだ、最強のスペルだった。
爆音。破壊音。爆風。それらはどれをとっても見たこともない規模の破壊を、博麗神社周辺に与えた。
かつて神社だったところには、荒地というのもおこがましい、荒廃した大地だけが残った。
魔理沙は、考えていた。
なぜこうなってしまったのだろうか。
自分が丹という禁薬にてを出してしまったから?
霊夢が頑なに人であることを捨てようとしなかったから?
わからない。
死んだのか……?
霊夢も……?
ならなぜ意識があるのだろう。
まさか冥界にでもきちまったんじゃないだろうか。
にしては、どうも明るい気がする。
……沙…魔理……沙…………
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。
五月蝿い声だ。少し静かに――
「起きろ!!」
神経に何か、異常を感じる。そう、これは、まるで胸を揉まれている様な……
「……あ?」
「あら、やっと目が覚めまして?」
目の前に霊夢が居た。自分と同じ年頃の霊夢が、手を自分の胸に乗せて。
「……霊夢?お前……なんで……」
「寝ぼけてるの?今日は魔理沙が朝食当番でしょ?」
そして揉む。
「ひゃぁ!やめろ霊夢!」
「うりーうりうりー」
笑う霊夢。何故かその顔にとても安心して、急に泣き出したくなった。
「うりー……って、どうしたの魔理沙……」
「うっ……ふぐ……霊夢~」
霊夢の胸に顔をうずめて泣く。
「あーもー、よしよし」
霊夢は頭をポンポンと撫でてくれた。
そうだ……私は家の温泉が壊れて、霊夢の家に泊まりにきていたんだった。
今までのは夢……か?
なんだ……なん……だ……。
安心したら涙があふれてきた。
霊夢は黙って私を抱きしめてくれた。
「落ち着いた?」
「あぁ……みっともないところをみせたな」
「いやいや、魔理沙が私を頼ってくれるなんてあまりないし、嬉しかったわよ?」
「よくそんなこと真顔で言えるな」
ざっと一時間は泣いていただろうか、その間霊夢はずっと抱きしめてくれていた。
「時に魔理沙、見せたいものがあるのよ」
霊夢はそういうと表に出た。
「見ててね」
霊夢の霊力の高まりを感じる。
「夢想封印・集……はぁっ」
その弾が宙に静止する。
「柄にもなく修練を積んだらこんなことも出来るように……って魔理沙?魔理沙ーー?」
魔理沙は箒星にのって一目散に逃げ出した。
霊夢が感情を押し殺し、人間として命を終えようとする姿はいつ見ても辛い。
だから夢オチで(笑
でも魔理沙はどうなんでしょう?
不死になりたいから丹を……とも思えないんですが(汗
丹の話ではもう一つギャグ的なものを書いていたんですが……これは書き終えるのか……(汗
超亀レスですが、大好きな作品なので。