・・・私のことについて話して欲しい?どうしたの、いきなり。入院生活が退屈だから?そんな理由で言われてもねぇ・・・まぁいいわ。ちょっと話してあげる。
私は月の都で生まれ、月の姫として育てられてきたわ。その生活に不自由はなく、勉強を教わり、月の兎達と唄を唄い、呑気に暮らしていたわ。物心ついた時からこんな生活だったのよ?ある時からそんな単調な生活に嫌気が差したの。刺激的なことを望んだのよ。その時の私はとても愚かだったわ。そしてそんな非日常を打破するべく色々考えたわ。でもそんな簡単に思いつくものじゃなかったわ。どんなに考えてもどうせ途中で挫けてしまうようなものばかり。でも兎が餅をついているのも見て思いついたのよ。その方法を。私は早速実行に移したわ。え?それは何かって?いいから聞いてなさいな。
私の教育を担当していた永琳、そうそう今ここで医者をやってたりするあの人ね。その永琳に頼んだのよ。「蓬莱の薬を作って」ってね。そしてそれを私は服用したの。そこからはもう非日常の連続だったわ。作ることを指示した私は罪に問われ処刑された。でも私はすでに不老不死の躰。そこで月の民は私を地上へ落としたの。そう、ここよ、ここ。この穢れで満ちた地上。それからは貴方の知っている竹取物語よ。え?端折らないで喋って欲しい?我儘ねぇ・・・まぁいいわ、今日はそういうのを話したい気分だし。鈴仙にお茶でももってきてもらおうかしら。ちょっとれいせーん。お茶二つよろしくー。良いやつをね。
こほん。地上に落とされた私は竹の中で誰かに見つけられるのを待ったわ。そういえばなんか赤子の状態で竹の中に入れられていたって言われているらしいけど、あれ嘘よ?月のテクノロジーで小さくさせられて、竹の中に入れられたの。それであの人に拾われたわ。そう、竹取の翁って呼ばれているあの人ね。その人の家で私は育てられたわ。
うん、別に恨んでもないし、こうして今生活していられるのもあの人達のおかげだしね、ちょっとは感謝しているわ。それからは一応月の時とは違うけど不自由なく過ごせたわ。え?今まで竹を切って生計立ててきたのにどうやってもう一人養ったかって?それはあの人達が、私が不老不死だっていうのを見抜いて衣住しか与えなかったから・・・じゃなくて普通に月の都からの支給があったわ。竹の中にね。
それで不自由なく生活していたのだけど、私の周りを虫のように人が集り始めたの。迷惑極まりないわね。今そんなことしたら犯罪よ、犯罪。で、そのことをあの人から聞かれたの。
「いま家の周りに男が沢山いらっしゃっているがどうするか。」
私は言ったわ。
「即刻、帰らせなさい。」
ってね。で、それでも執拗にやってくる奴らがいたのよ。確か四人・・・あ、違う違う五人ね。五人いたわ。名前は確か・・・多治比嶋、藤原不比等、阿部御主人、大伴御行、石上麻呂だっけ?一三〇〇年も前の話なのだからもう忘れていたっていいのにね。私は頭が良いからまだまだ覚えてられるわ。いやそりゃまぁ永琳には敵わないけどね。で、その五人なんだけど、しつこいったらありゃしなかったわ。垣根の隙間から覗きこんだりしてきてすごくイライラしたわ。それが何ヶ月も続いたのよ?男ってしつこい生き物ね。馬鹿みたい。
で、あの人にあのうちの誰かと結婚するようにって言われたの。でも歴史の表舞台には立ちたくなかったし、うーん・・・って考えたのよ。そしたら私、思いついたの。それをあの人を通して五人に言い放ったわ。何を言ったかって?ええっと確か・・・
『どなたが劣っていてどなたが優れているのかはわからないので、私の見たいと思っているものをお見せくださればその人がもっとも優れているということがわかるはずです。結婚相手は、それによって決めます。』
ここで五人が喜ぶわけよ。でもそんなに私は甘くないわ。続け様にこう言わせたの。
『多治比嶋には仏の尊い石の鉢という物がありますので、それを取ってきてください。大伴御行には、龍の頸に五色に光る珠がありますから、それを取ってきて下さい。もう一人の方には、唐にある火鼠の皮衣をもってきて下さい。石上麻呂には、燕の持っている子安貝を一つ取ってきて下さい。藤原不比等には、東の海に蓬莱という山にある蓬莱の玉の枝を一枝、もってきてもらいましょう。起源は三年後の中秋の満月までに。』
それを聞いた時の五人の様子と言ったら笑いものだったわ。呆然として肩震えて静かに帰っていったの。阿呆みたいでしょ?私はそういう男は好きじゃないわ。この時点で全員脱落ね。そう、一発アウトよ。スリーアウトまで許すほど優しくはないわ。
そしてあっという間に月日が流れ三年も経ったわ。え?その間に何かあったかって?何かあったら端折ってなんか無いわよ。それでさ、中秋というのは雨の日になることが多くて、月を見ることができる天気はそうそう無いじゃない?でもその日は雲一つなくて、美しく、儚く、妖しく光り輝く満月が地上を輝らしていの。綺麗だったわ。月から見る地球も綺麗だけど、その時は地上から見る月も悪く無いなって思ったわ。そんなことを思っていたら現れたの。五人がね。三年ぶりに見ても相変わらずな感じだったわ。それで私は言ったの。
「それでは、一人一人私の言ったものを持って来ることができたのか見せてもらいましょうか。まずは・・・多治比嶋。」
多治はおぼつかない足で何かが入ってそうな箱をあの人を通じて私に渡しわ。その中、何が入っていたと思う?そこにはね、黒い煤がついた穢い鉢があったのよ。それを見た瞬間吹き出しそうになったわ。こんな偽物で私が騙せるの?ってね。ちなみに本物の仏の御石の鉢っていうのはすごく大きくてダイヤモンドで出来た鉢なの。そしてこれが本物。あ、駄目駄目。重いから普通の人には持てないわ。とりあえず高価なものはしまっておくとして・・・で、その渡された偽物の鉢なんだけど、穢すぎて月明かりに輝らしても光が反射してこなかったわ。そしたらそいつ、私がすでに偽物だと見抜いていたのにいけしゃあしゃあと話し始めたの。
「それを手に入れるのは大変でした。はるか遠い天竺へ精根尽き果てるまで苦労を重ね・・・」
ってね。嘘を聞いても特しないから言い終わらないうちに、私はその鉢を男の足元目掛けて投げつけて言い放ったわ。
「本物ならそれはそれは光り輝く美しい鉢であるはず。しかしそれは月の光に輝らしても輝きもしない。こんなものを私に見せないで頂戴。恥を知りなさい。」
そういったらあいつ、その場で倒れかかって部下と一緒に一目散に逃げ帰っていったわ。周りに集まっていた人たちに笑われてて可哀そうだったわー。でも私に嘘をついたのよ?それぐらいの罰受けても仕方ないわね。その様子をみて三人が後に続いて帰っていったの。多分、そいつらが持っていたのは偽物ね。恥をかく前に逃げていったのは利口だと思ったわ。まぁ逃げていく様を見られていたから当分は後ろから指差される日が続いただろうけどね。残るは藤原不比等だけになっていたの。そしたらあいつなんて言ったと思う?
「ふん、あいつら姫に偽物を渡そうとしていたのだな?全く、悪い奴らだ。しかし、これで私が姫に最も相応しい男だということが証明された。嬉しい事だ。」
だってさ。展開を先に行っちゃうとこいつも偽物もってきたんだけどね。それで私はそいつに言ったわ。
「では不比等さん、貴方がもってきた蓬莱の玉の枝、見せてもらいましょうか。」
私がそう言ったあとに、もってきた箱の蓋を開けるとそこには綺麗な蓬莱の玉の枝があったの。びっくりしちゃったわ。まさか地上にあるとは夢にも思わなかったから。だって蓬莱の玉の枝、つまり優曇華は、根が銀、茎が金で、真珠の実をつける月の都にしか存在しないものなの。地上ではそれにちなんで滅多に咲くことのない花にその名を付けたそうだけど、本物はこっちのやつね。ちなみに咲いていない状態の優曇華はこれね。うん、そうね、これは確かに色が落ちていて普通の盆栽とは見分けがつかないわね。それもそうよ。優曇華の花は地上の穢れを栄養として咲く花なの。だからこの前まで歴史を止めていたここでは穢れが出ることもなくそのままだったのだけれど、多分これもそのうち綺麗な花が咲くと思うわ。きれいなものよ?月の民が度々これを時の権力者に与えてそれを切っ掛けにして争い事を起こしたりするんだけど、まぁそれは別の機会に話そうかしらね。
で、それを見た時本物っぽくて少し焦ったのよ。あ、やっちゃった。どうしようこれ、ってね。そしたら複数人が人混みのところから藤原不比等に駆け寄っていったの。お世辞にも綺麗とは言えないような服装をしたその人達は言ったわ。
「藤原殿、一体いつになったらお手当をいただけるのですか?我々は食べる間も惜しんで立派な玉の枝を作ったのです!」
そう、なんかさっきネタバレしちゃったかもだけどそれは人が作った偽物だったのよ。それでね、藤原不比等ったら呆然と立ち尽くし、足元を見てガタガタと震えていたのよ。その様子を心では笑っていたけど取り敢えず顔に出さないようにして不比等に言ったの。
「不比等さん、これはどういうことですか?」
そしたら彼、何も言わずに前の四人と同じく走り去っていったの。これで五人は敢え無く私の難問の前に敗れ去っていったとさ。あ、まって。まだ拍手は早いわよ、続きがあるんだから。
五人が五人、全員が敗れ去ったというのは瞬く間に広まっていったわ。それは時の天皇も聞いてたんだって。そしてたらある日、その使いが私達の家にやってきたの。なんでも私の器量を見に来たとか何とかでね。もちろん私は会いたくないからさっさと帰ってもらうように言ったわ。そしたら使いの奴、非常識なやつだとかなんとか詰ってから帰っていったわ。そしたら天皇、次はあの人に私を献上せよって言ったらしいのよ。本当に男って我儘で自分勝手よね。それでさ、あの人が私を説得しようとするのよ。もちろん嫌だって言ったわ。仕えるぐらいなら死んでやるって言ったわ。まぁ死なないんだけど。
そしたら御狩の行幸とかいうのの後に私達の家に来たのよ。ズケズケと私のところまで入ってきたから、私はとっさに身を隠したわ。でも敢え無く見つかってそれでも必死に抵抗したの。それで諦めたのか、どうして私に仕えようとしないのか、と聞いてきたのよ。別にここで天皇にだけ自分が月の民の姫だってカミングアウトしても良かったんだけど、時期がまだ早かったから取り敢えず「いずれ時が来たら話します。」って言っておいたわ。そしたら普通に帰っていったの。案外素直なんだなって思ったわ。
それから何月か経ったある日のことなんだけど、たまたまその日、真夜中に目が覚めてしまったの。別にそのまま寝て良かったんだけど、なんとなく月が見たくなってね。ぼーっと眺めてたのよ。そしたら茂みから何かが見えたわ。子猫かなんかかと思ったら長い耳を持った兎、そう月の兎だったの。驚いた私はそいつに話しかけようとしたの。そしたら逆に相手から話しかけられたわ。
「姫様、姫様。貴方の罪が許されました。中秋の満月に使いの者がやってまいりますのでご準備願います。」
兎はそう言うとすぐに月の羽衣を身につけて月へと戻っていったわ。いきなりやってきていきなり帰る支度をしろなんて身勝手だと思ったわ。取り敢えずそのことをどうあの人達に伝えるのかつきを見ながらぼーっと考えてたの。でもその日には結論が出なかった。その次の日も、その次の日もね。とうとう中秋の満月があと十数日ってところでとうとう言ったの。自分が実は月の民で、次の満月に迎えが来ることを、ね。それを聞いたその人達は嘆き悲しんでいたわ。私もそれを見てなんとなくしんみりしてしまったの。私の素性はすぐさま天皇の耳に入ったわ。そして私を月の使いから守るために兵隊が家に送られてきたの。月の科学力に対しては全くの非力なのにね。
そしてとうとうその日がきたの。綺麗な満月から雲のようなものに乗った大勢の月の死者がね。それはそれは無駄に派手だったわ。で、それをみた兵隊たちはやる気を失って、その場で黙りこんだりしたわ。それでも弓矢で落とそうとする人もいたけどそれは明後日の方向に飛んでいったわ。私は厳重な鍵が何個もかかった部屋の奥にいさせられたけど、いとも簡単に開いたわ。そして月の使者が言うの。
「姫様、お迎えに上がりました。」
ってね。私は無言で後をついていったわ。そのまま月へ帰っても良かったけどやっぱりお世話になった人への恩と情、心のある地上での生活、どうしても心残りがあったの。やっぱり地上にいたい。でもそんなことは叶わないんだけどね。そう思ってたのよ。そしたらその使者の中に永琳を見つけたの。彼女、私一人が罪をかぶって自分だけ無罪になったことになんか罪悪感を持ってたらしいの。まぁ、等の本人である私は別に責めたりとかはしてなかったんだけどね。それで永琳に頼んだの。月には帰りたくないってね。そしたら永琳はこういったの。
「分かりました。では目をつぶって、耳を塞いで、じっとしていてください。」
私はその通りにしたわ。え?耳で手を塞いでいても音が聞こえる?多分、永琳が何かしらの術を使っていたのかもしれないわね。とにかく半刻ほど経ったあとに永琳に話しかけられたの。
「姫様、もう、すべて終わりました。」
ってね。そこは私があの人に拾われた竹林の中だったわ。それから各地を点々としていったわ。もしかしたらまた月の使者が来るかもしれないからね。それでね、山奥のいい感じの竹林を見つけてその中にあった屋敷で住み始めたの。それでもって現在に至る。そんな感じかしら?え?妹紅との色々な話がない?いや、別にあいつとの話なんて言わなくてもわかるでしょ。ただの殺し殺される仲よ。え、もっと詳しく教えて欲しいの?しょうがないわねぇ・・・
・・・あ、永琳だ。じゃ、とりあえず今日のお話はこれまでね。機会があったらまたその時にはなそうかしらね。それまで永生きすることよ?いいわね?
私は月の都で生まれ、月の姫として育てられてきたわ。その生活に不自由はなく、勉強を教わり、月の兎達と唄を唄い、呑気に暮らしていたわ。物心ついた時からこんな生活だったのよ?ある時からそんな単調な生活に嫌気が差したの。刺激的なことを望んだのよ。その時の私はとても愚かだったわ。そしてそんな非日常を打破するべく色々考えたわ。でもそんな簡単に思いつくものじゃなかったわ。どんなに考えてもどうせ途中で挫けてしまうようなものばかり。でも兎が餅をついているのも見て思いついたのよ。その方法を。私は早速実行に移したわ。え?それは何かって?いいから聞いてなさいな。
私の教育を担当していた永琳、そうそう今ここで医者をやってたりするあの人ね。その永琳に頼んだのよ。「蓬莱の薬を作って」ってね。そしてそれを私は服用したの。そこからはもう非日常の連続だったわ。作ることを指示した私は罪に問われ処刑された。でも私はすでに不老不死の躰。そこで月の民は私を地上へ落としたの。そう、ここよ、ここ。この穢れで満ちた地上。それからは貴方の知っている竹取物語よ。え?端折らないで喋って欲しい?我儘ねぇ・・・まぁいいわ、今日はそういうのを話したい気分だし。鈴仙にお茶でももってきてもらおうかしら。ちょっとれいせーん。お茶二つよろしくー。良いやつをね。
こほん。地上に落とされた私は竹の中で誰かに見つけられるのを待ったわ。そういえばなんか赤子の状態で竹の中に入れられていたって言われているらしいけど、あれ嘘よ?月のテクノロジーで小さくさせられて、竹の中に入れられたの。それであの人に拾われたわ。そう、竹取の翁って呼ばれているあの人ね。その人の家で私は育てられたわ。
うん、別に恨んでもないし、こうして今生活していられるのもあの人達のおかげだしね、ちょっとは感謝しているわ。それからは一応月の時とは違うけど不自由なく過ごせたわ。え?今まで竹を切って生計立ててきたのにどうやってもう一人養ったかって?それはあの人達が、私が不老不死だっていうのを見抜いて衣住しか与えなかったから・・・じゃなくて普通に月の都からの支給があったわ。竹の中にね。
それで不自由なく生活していたのだけど、私の周りを虫のように人が集り始めたの。迷惑極まりないわね。今そんなことしたら犯罪よ、犯罪。で、そのことをあの人から聞かれたの。
「いま家の周りに男が沢山いらっしゃっているがどうするか。」
私は言ったわ。
「即刻、帰らせなさい。」
ってね。で、それでも執拗にやってくる奴らがいたのよ。確か四人・・・あ、違う違う五人ね。五人いたわ。名前は確か・・・多治比嶋、藤原不比等、阿部御主人、大伴御行、石上麻呂だっけ?一三〇〇年も前の話なのだからもう忘れていたっていいのにね。私は頭が良いからまだまだ覚えてられるわ。いやそりゃまぁ永琳には敵わないけどね。で、その五人なんだけど、しつこいったらありゃしなかったわ。垣根の隙間から覗きこんだりしてきてすごくイライラしたわ。それが何ヶ月も続いたのよ?男ってしつこい生き物ね。馬鹿みたい。
で、あの人にあのうちの誰かと結婚するようにって言われたの。でも歴史の表舞台には立ちたくなかったし、うーん・・・って考えたのよ。そしたら私、思いついたの。それをあの人を通して五人に言い放ったわ。何を言ったかって?ええっと確か・・・
『どなたが劣っていてどなたが優れているのかはわからないので、私の見たいと思っているものをお見せくださればその人がもっとも優れているということがわかるはずです。結婚相手は、それによって決めます。』
ここで五人が喜ぶわけよ。でもそんなに私は甘くないわ。続け様にこう言わせたの。
『多治比嶋には仏の尊い石の鉢という物がありますので、それを取ってきてください。大伴御行には、龍の頸に五色に光る珠がありますから、それを取ってきて下さい。もう一人の方には、唐にある火鼠の皮衣をもってきて下さい。石上麻呂には、燕の持っている子安貝を一つ取ってきて下さい。藤原不比等には、東の海に蓬莱という山にある蓬莱の玉の枝を一枝、もってきてもらいましょう。起源は三年後の中秋の満月までに。』
それを聞いた時の五人の様子と言ったら笑いものだったわ。呆然として肩震えて静かに帰っていったの。阿呆みたいでしょ?私はそういう男は好きじゃないわ。この時点で全員脱落ね。そう、一発アウトよ。スリーアウトまで許すほど優しくはないわ。
そしてあっという間に月日が流れ三年も経ったわ。え?その間に何かあったかって?何かあったら端折ってなんか無いわよ。それでさ、中秋というのは雨の日になることが多くて、月を見ることができる天気はそうそう無いじゃない?でもその日は雲一つなくて、美しく、儚く、妖しく光り輝く満月が地上を輝らしていの。綺麗だったわ。月から見る地球も綺麗だけど、その時は地上から見る月も悪く無いなって思ったわ。そんなことを思っていたら現れたの。五人がね。三年ぶりに見ても相変わらずな感じだったわ。それで私は言ったの。
「それでは、一人一人私の言ったものを持って来ることができたのか見せてもらいましょうか。まずは・・・多治比嶋。」
多治はおぼつかない足で何かが入ってそうな箱をあの人を通じて私に渡しわ。その中、何が入っていたと思う?そこにはね、黒い煤がついた穢い鉢があったのよ。それを見た瞬間吹き出しそうになったわ。こんな偽物で私が騙せるの?ってね。ちなみに本物の仏の御石の鉢っていうのはすごく大きくてダイヤモンドで出来た鉢なの。そしてこれが本物。あ、駄目駄目。重いから普通の人には持てないわ。とりあえず高価なものはしまっておくとして・・・で、その渡された偽物の鉢なんだけど、穢すぎて月明かりに輝らしても光が反射してこなかったわ。そしたらそいつ、私がすでに偽物だと見抜いていたのにいけしゃあしゃあと話し始めたの。
「それを手に入れるのは大変でした。はるか遠い天竺へ精根尽き果てるまで苦労を重ね・・・」
ってね。嘘を聞いても特しないから言い終わらないうちに、私はその鉢を男の足元目掛けて投げつけて言い放ったわ。
「本物ならそれはそれは光り輝く美しい鉢であるはず。しかしそれは月の光に輝らしても輝きもしない。こんなものを私に見せないで頂戴。恥を知りなさい。」
そういったらあいつ、その場で倒れかかって部下と一緒に一目散に逃げ帰っていったわ。周りに集まっていた人たちに笑われてて可哀そうだったわー。でも私に嘘をついたのよ?それぐらいの罰受けても仕方ないわね。その様子をみて三人が後に続いて帰っていったの。多分、そいつらが持っていたのは偽物ね。恥をかく前に逃げていったのは利口だと思ったわ。まぁ逃げていく様を見られていたから当分は後ろから指差される日が続いただろうけどね。残るは藤原不比等だけになっていたの。そしたらあいつなんて言ったと思う?
「ふん、あいつら姫に偽物を渡そうとしていたのだな?全く、悪い奴らだ。しかし、これで私が姫に最も相応しい男だということが証明された。嬉しい事だ。」
だってさ。展開を先に行っちゃうとこいつも偽物もってきたんだけどね。それで私はそいつに言ったわ。
「では不比等さん、貴方がもってきた蓬莱の玉の枝、見せてもらいましょうか。」
私がそう言ったあとに、もってきた箱の蓋を開けるとそこには綺麗な蓬莱の玉の枝があったの。びっくりしちゃったわ。まさか地上にあるとは夢にも思わなかったから。だって蓬莱の玉の枝、つまり優曇華は、根が銀、茎が金で、真珠の実をつける月の都にしか存在しないものなの。地上ではそれにちなんで滅多に咲くことのない花にその名を付けたそうだけど、本物はこっちのやつね。ちなみに咲いていない状態の優曇華はこれね。うん、そうね、これは確かに色が落ちていて普通の盆栽とは見分けがつかないわね。それもそうよ。優曇華の花は地上の穢れを栄養として咲く花なの。だからこの前まで歴史を止めていたここでは穢れが出ることもなくそのままだったのだけれど、多分これもそのうち綺麗な花が咲くと思うわ。きれいなものよ?月の民が度々これを時の権力者に与えてそれを切っ掛けにして争い事を起こしたりするんだけど、まぁそれは別の機会に話そうかしらね。
で、それを見た時本物っぽくて少し焦ったのよ。あ、やっちゃった。どうしようこれ、ってね。そしたら複数人が人混みのところから藤原不比等に駆け寄っていったの。お世辞にも綺麗とは言えないような服装をしたその人達は言ったわ。
「藤原殿、一体いつになったらお手当をいただけるのですか?我々は食べる間も惜しんで立派な玉の枝を作ったのです!」
そう、なんかさっきネタバレしちゃったかもだけどそれは人が作った偽物だったのよ。それでね、藤原不比等ったら呆然と立ち尽くし、足元を見てガタガタと震えていたのよ。その様子を心では笑っていたけど取り敢えず顔に出さないようにして不比等に言ったの。
「不比等さん、これはどういうことですか?」
そしたら彼、何も言わずに前の四人と同じく走り去っていったの。これで五人は敢え無く私の難問の前に敗れ去っていったとさ。あ、まって。まだ拍手は早いわよ、続きがあるんだから。
五人が五人、全員が敗れ去ったというのは瞬く間に広まっていったわ。それは時の天皇も聞いてたんだって。そしてたらある日、その使いが私達の家にやってきたの。なんでも私の器量を見に来たとか何とかでね。もちろん私は会いたくないからさっさと帰ってもらうように言ったわ。そしたら使いの奴、非常識なやつだとかなんとか詰ってから帰っていったわ。そしたら天皇、次はあの人に私を献上せよって言ったらしいのよ。本当に男って我儘で自分勝手よね。それでさ、あの人が私を説得しようとするのよ。もちろん嫌だって言ったわ。仕えるぐらいなら死んでやるって言ったわ。まぁ死なないんだけど。
そしたら御狩の行幸とかいうのの後に私達の家に来たのよ。ズケズケと私のところまで入ってきたから、私はとっさに身を隠したわ。でも敢え無く見つかってそれでも必死に抵抗したの。それで諦めたのか、どうして私に仕えようとしないのか、と聞いてきたのよ。別にここで天皇にだけ自分が月の民の姫だってカミングアウトしても良かったんだけど、時期がまだ早かったから取り敢えず「いずれ時が来たら話します。」って言っておいたわ。そしたら普通に帰っていったの。案外素直なんだなって思ったわ。
それから何月か経ったある日のことなんだけど、たまたまその日、真夜中に目が覚めてしまったの。別にそのまま寝て良かったんだけど、なんとなく月が見たくなってね。ぼーっと眺めてたのよ。そしたら茂みから何かが見えたわ。子猫かなんかかと思ったら長い耳を持った兎、そう月の兎だったの。驚いた私はそいつに話しかけようとしたの。そしたら逆に相手から話しかけられたわ。
「姫様、姫様。貴方の罪が許されました。中秋の満月に使いの者がやってまいりますのでご準備願います。」
兎はそう言うとすぐに月の羽衣を身につけて月へと戻っていったわ。いきなりやってきていきなり帰る支度をしろなんて身勝手だと思ったわ。取り敢えずそのことをどうあの人達に伝えるのかつきを見ながらぼーっと考えてたの。でもその日には結論が出なかった。その次の日も、その次の日もね。とうとう中秋の満月があと十数日ってところでとうとう言ったの。自分が実は月の民で、次の満月に迎えが来ることを、ね。それを聞いたその人達は嘆き悲しんでいたわ。私もそれを見てなんとなくしんみりしてしまったの。私の素性はすぐさま天皇の耳に入ったわ。そして私を月の使いから守るために兵隊が家に送られてきたの。月の科学力に対しては全くの非力なのにね。
そしてとうとうその日がきたの。綺麗な満月から雲のようなものに乗った大勢の月の死者がね。それはそれは無駄に派手だったわ。で、それをみた兵隊たちはやる気を失って、その場で黙りこんだりしたわ。それでも弓矢で落とそうとする人もいたけどそれは明後日の方向に飛んでいったわ。私は厳重な鍵が何個もかかった部屋の奥にいさせられたけど、いとも簡単に開いたわ。そして月の使者が言うの。
「姫様、お迎えに上がりました。」
ってね。私は無言で後をついていったわ。そのまま月へ帰っても良かったけどやっぱりお世話になった人への恩と情、心のある地上での生活、どうしても心残りがあったの。やっぱり地上にいたい。でもそんなことは叶わないんだけどね。そう思ってたのよ。そしたらその使者の中に永琳を見つけたの。彼女、私一人が罪をかぶって自分だけ無罪になったことになんか罪悪感を持ってたらしいの。まぁ、等の本人である私は別に責めたりとかはしてなかったんだけどね。それで永琳に頼んだの。月には帰りたくないってね。そしたら永琳はこういったの。
「分かりました。では目をつぶって、耳を塞いで、じっとしていてください。」
私はその通りにしたわ。え?耳で手を塞いでいても音が聞こえる?多分、永琳が何かしらの術を使っていたのかもしれないわね。とにかく半刻ほど経ったあとに永琳に話しかけられたの。
「姫様、もう、すべて終わりました。」
ってね。そこは私があの人に拾われた竹林の中だったわ。それから各地を点々としていったわ。もしかしたらまた月の使者が来るかもしれないからね。それでね、山奥のいい感じの竹林を見つけてその中にあった屋敷で住み始めたの。それでもって現在に至る。そんな感じかしら?え?妹紅との色々な話がない?いや、別にあいつとの話なんて言わなくてもわかるでしょ。ただの殺し殺される仲よ。え、もっと詳しく教えて欲しいの?しょうがないわねぇ・・・
・・・あ、永琳だ。じゃ、とりあえず今日のお話はこれまでね。機会があったらまたその時にはなそうかしらね。それまで永生きすることよ?いいわね?
かぐや姫や聖徳太子のようなおとぎ話の超有名人を、「擬人化」するでもなく名前だけ借りるでもなくそっくりそのまま(現代アレンジして)出してしまうのが東方Projectの凄さでしょう。だから、読んでもすんなり「あ、輝夜の話だな」と受け入れてしまえる。
ただ、校内雑誌に永琳やら妹紅やら出してしまうのは、一気に話が陳腐化してしまうのでお勧めできないかもしれません。「実は東方」だから良いのであって。
だけど何故蓬来の薬を残していく場面が描写されていないのか不思議に思います。
妹紅の名前を出すならその辺が無いとどうもおかしく感じてしまいます。
そして11月に公開されるあの映画に対する期待度が何故か上がったことは言うまでもない。
面白かったです