喫煙と独占欲は両立出来ない
↑前作です。
茹る様な夏の暑さの記憶も日に日に遠のいて行き、道々目にする梢にぶら下がる葉っぱも色付き始めて来た。季節の変わり目ってのは、何千と経験してもその度に新しい発見や感慨なんかを運んでくれて、飽きる予兆は微塵も無い。
薫風は徐々に冬の顔つきを微かに見せ始め、やがて来る厳しい寒さへの準備をしろとばかりに動物たちの心を掻き乱す。天高く馬肥ゆる秋とは良く言った物で、日が落ちた後の寒さを感じ始める様になると、死なない身体を持つ私さえも食欲はいや増して来る。働いた後の飯が美味いとなりゃ、頼まれ事にも精が出る。そして仕事を熟せば熟す程に、休憩の合間に吸う煙草もまた、素晴らしく味を増してくるという寸法だ。
年明けすぐの冬の最中に道具屋で貰ったパイプだが、すっかり私は虜になってしまって居る。一度吸い始めれば一時間は吸ってられる代物だ。時間ばかりは誰かに売却したいほどに有り余っている私にとっちゃ、これ以上に人生への彩りを与えてくれる物は無い。
永遠亭へと誰かを送り迎えしたり、畑を荒らす獣を追っ払ったり、そんなささやかな仕事の終わりに適当な場所へ腰を落ち着け、道具を並べ、詰めた葉っぱに燐寸で火を灯す時の充実感たるや、病み付きになる。煙草の為に仕事を頑張っている節すらある。良い物を教えてくれたあの店主には感謝せにゃなるまい。
面倒事もあったけど。
さて、折しも昨日葉っぱが切れてしまったので、私はまたぞろ道具屋香霖堂への道を歩いている。落ち葉に埋め尽くされた道はすっかりと秋の装いへと様変わりしていて、嫌でも季節の流転を悟らされる。空中をクルクルと舞いながら落ちて行く葉は黄色や赤と色取り取りで、目にも鮮やかな秋の小路は歩いているだけで鼻歌でも奏でたくなる。
紅葉舞い 紫煙混じりて 虹を成す 空に掛けたる 薫風の色
なんてな。
あぁ、秋とは良い物だ。過ごしやすいし、食べ物も美味い。食後に吸う煙草もまた、それに比例してか実に素晴らしい。煙草を吸いつつ歩けば更に気分は高揚するだろうが、そこはそこ。私はマナーをきっちり守る愛煙家を気取っているので、歩き煙草はご法度と決めている。腰を落ち着けて景色を眺めつつ味わう事こそが醍醐味って奴だ。
「――おーい!」
そろそろ道具屋が見えて来るかって所で、そんな元気の良い声が空から降ってくる。見上げれば真っ青な空に黒白の点がポツリと見え、その点はどんどんこちらへと近づいて霧雨魔理沙の姿となった。
「よぅ。魔理沙か」
「魔理沙だぜ。どうしたこんな所で」
私の前へと箒から飛び降りた魔理沙は元気溌剌といった感じで、少女ってよりかは少年染みた旺盛な生命力が滲んでいる様にも見えた。
しかし私の脳裏に妙な予感が過る。
年初以来これまで、何度か葉っぱを買いに道具屋へと赴きはしたが、その道中や店内で香霖堂店主以外と顔を合わせた事は無かった。世間話やパイプの色付きについての話こそ少しはするが、基本的に葉っぱを買ったら用は終わり、とっとと帰路に着く事を繰り返して来た。
何だろう。また面倒事に巻き込まれそうな、そんな良く判らない予感がする。
「どうした?」
私が黙っているのを訝しんでか、魔理沙は小首を傾げながら私の目を見つめて来る。
目指す香霖堂はすぐそば。嘘を吐けば変な勘繰りをされる可能性も高まる。疾しい事なんか何も無いのに、疑惑の目を向けられるのは御免だ。そう考えた私は正直に「ちょっと香霖堂へな。煙草の葉が切れたんだ」と言う事とした。
「そうか。奇遇だな。私も香霖のとこへ行く所だったんだ。暇潰しだが」
あっけらかんと魔理沙。そこには疑惑も不信もまるで無い。
――あれ? 何だか思ってた反応と違うなぁ。
もっと嫉妬心剥き出しで、色々と噛み付いて来るとばかり思ってた。
「一緒に行こうぜ。あの唐変木を煙草で燻製にしてやろう。水煙草じゃ、煙が冷たいせいか効き目が薄いみたいだからな」
そう言って意気揚々といった具合に香霖堂への道を進み始める魔理沙の背に、私は何だかホッとした様な心地を抱く。
……何だ、杞憂だったか。
年初には誤解のせいで大変に面倒な思いをさせられたが、その時の印象を私は引き摺り過ぎていたんだろう。長生きしてると半年程度じゃ相対的には一瞬とほぼ変わらない。私が色濃く覚えているあの面倒事も、十数年ちょい程しか生きてないだろう魔理沙にとっちゃ随分昔の出来事だと、そう言う事なのか。
「葉っぱを買ったら帰るつもりだったが……ま、用事も無いし、あちらさんが良いならゆっくりして行こうかね」
「良いに決まってるさ。いつも客が居ないんだから。居るとしたら閑古鳥の群れだ」
当人不在ながら、茶化しの言葉にケラケラと魔理沙は笑う。噂をされてきっとあの店主はクシャミの一つでも催してる所だろう。うん。普通に接してれば、魔理沙に面倒な所は微塵も無くて安心するな。
取り立てて報告せにゃならん事がある訳でも無し。他愛もない事をポツポツと喋りつつ微かに左へと曲がった道を進んだ先に、香霖堂が見えて来た。年季の入ったボロい一軒家も、紅葉に囲まれてれば風情がある様に見えるんだから不思議だ。
「まーた煙草吸ってるみたいだな」
「ん? どうして判る?」
恋する乙女の第六感か? と茶化してやりたい衝動に刹那駆られたが、我慢した。
「ホラ。窓から煙が」
「どれどれ……あー、マジだ」
魔理沙が指差す方へと目を凝らして見れば成程、薄らとだが煙が漏れている。中はどんだけの煙に包まれてるんだか。道具が傷むんじゃないのか?
「今日はいつにも増して多いなぁ。七輪でも焚いてんのか?」
「……ん」
その言葉が呼び水となり、私は違和感を覚える。
確かに、煙が多過ぎる。パイプの煙は肺に入れない分紙巻きよりは濃密だが、それにしたってあの量は多い。
何でだろう。他に誰かが居るのかも知れないな。
「……来客があるんじゃないのかね。あの煙の量は」
私が一人ごちると、「ん?」と魔理沙が首を傾げつつ振り向いて来る。
「まさか。アイツの店で煙草を吸う様な奴に心当たりは無いぜ」
「……あ」
「どうした?」
「何でも無い。気にするな」
八雲紫じゃ無かろうか、と言おうとしたが止めといた。もしそうなら、魔理沙が哀れだ。あのスキマ妖怪と店主は、どこか親密そうだったしな。邪推でしかないが。
「どれ、ちょっと様子を窺ってみるか」
自然に。あくまで自然な風を装いつつ、それでも有無を言わさぬ様に。私は魔理沙の脇をすり抜けて道具屋の入口へと向かう。入口の戸は平時と変わらず、今も営業はしている様だから、入られて困る様な事をしてる訳じゃ無いらしい。少し安心。
だが、話し声が聞こえるな。
店主の声と、もう一人。
女だな。それも若い。
だが、聞き覚えはない。少なくとも顔見知りじゃ無い事は確かだ。
「誰か来てるのか?」
戸口で聞き耳を立てていた私の横に陣取り、魔理沙が気持ち声を落として聞いて来る。
「あぁ、若い女みたいだな」
「……ふぅん」
あ、面白く無さそう。
いやぁ、淡い思いは健在のご様子で。
『……しも君が良ければ――』
店主の声が微かながら漏れて来る。どこか真剣そうな声音に思えた。
「んん? 何の話をしてるんだ?」
魔理沙がべったりと戸口に耳を押し付ける。若干、目が怖い。
野次馬としちゃ、このまま成り行きを静観するのが得策なんだろうが私にその気は無い。ガチな未成年立ち入り禁止区域と化してるんなら時間を改めるが、そういう訳じゃ無い事は知れた。それに、そろそろ口寂しくもなって来た。私は魔理沙の肩を押して戸口の取っ手を確保して、さっさと店の中へと入る事にした。
「おいちょっと待てって……」
「おっす。客だぞ」
「――もしも君が良ければ、僕に所有されてみる気は無いかい?」
瞬間。場の空気が凍りつく。
目に飛び込んで来たのは、いつも通りの香霖堂店内の雑然とした様相。薄らと煙が立ち込め、その最中に立つ香霖堂店主は、何やらハイカラな服を纏って紙巻き煙草を左手の指に挟んだまま、椅子に腰掛ける一人の女性の右手を握っていた。
赤い髪。チェックのシャツ。上着とスカートは白で、ネクタイは紫色。やはり見慣れない若い女性が、私に気付いてこちらを向く。
フ、と。唇に笑みを描き、次いで店主を見上げ、彼女は掴まれていた手を解いた。
「お客さんみたいよ。霖之助さん……きちんとお相手しなさいな」
??
????
…………えっと?
状況確認。
一、 香霖堂店主は椅子に座る女性の手を握っていた。
二、女性は店主を名前で呼んだ。
三、私が入った瞬間に聞こえた言葉の内容。
Q,以上の情報を基にして、店内で行われていた事を推測しなさい。
A,プロポーズ以外に考えられる物がありませんが、それは……。
成程。
この野郎。どんだけ女たらしなんだよ。以前と言い今日と言い、罪作りな男だな。私はこんな男に引っかからない様にしようっと。あ、引っ掛かるもクソも無いのか。もうコイツは、この女の人と結婚するんだもんな。良かった良かった。
って良くねぇ。
跳ねる様に背後の魔理沙へと視線をやる。先ほどまでは天真爛漫に輝いていた瞳のハイライトは完全に消失して、案山子の様に立ち尽くしている。その能面みたいな表情に既視感を覚えた。アレだ。私とこの唐変木が口付けしてると誤解された時と同じ顔だ。
うん。ヤバイな。
「その……魔理沙?」
「……ふ」
「へ?」
ピクン、と。魔理沙の唇が痙攣みたく跳ねるのが見えた。
「――うふ、うふふ、うふふふふふ……香霖、プロポーズ、うふふふふふふ……」
壊れちゃった!
おわぁ……トラウマをバールの様な物でグチャグチャに抉られたみたいな顔をしている……今にも腰だめにした包丁と共に突進して来たり、中に誰も居ませんよとか言い出したり、素敵なボートが出て来たりしそうな表情だ。怖過ぎる。
「魔理沙、良いか魔理沙、落ち着くんだ!」
殺人……否、殺半妖事件に巻き込まれるのは御免被る私が、兎にも角にも立ち尽くす魔理沙へと歩み寄り、焦点の合わない両目を見据えながら肩を掴む。
「ハイ、深呼吸。吸って、吐いて、ひっひっふー、ひっひっふー」
「ラマーズ法? 何で? その子妊娠してるの?」
正体不明のハイカラさんが、冷静な声で私の背中へ突っ込みを入れて来る。途端、魔理沙の両眼がカッと見開かれた。
「妊娠! そうだ忘れてた! 私は妊娠してるぞ! そのバカの子供が腹の中に!」
「嘘を吐くな! 嘘じゃないなら今この場で私が店主を殺さにゃならん!」
「嘘じゃないさ! この前アイツが使った湯呑と間接キスした時に孕んだ!」
「そんな面白い生物が居て堪るか!」
微生物だってそんな子孫の残し方はしないだろ!
真っ当な判断が月まで飛んで行ってしまったらしい魔理沙の肩をガクンガクンと揺さぶりつつ、私はこのまま魔理沙が精神的ショックで死んでしまわない様に名前を呼び続ける。すると背後から、店主の溜め息が聞こえて来る。
「……何だい? 話が見えないな」
コイツ……マジか。
眼鏡変えろ。
もしくは眼球を引っこ抜いてゴルフボールと変えろ。
「霖之助さん、取り敢えずお茶の準備でもして来たら? アナタがここに居ても、話がややこしくなるばっかりだと思うもの」
この狂乱の只中に居ながらも、ハイカラさんは実に落ち着き払った声音で最も正しいだろう打開策を提案する。確かに彼女の言う通りだ。店主が居た所で微塵も役には立たない。釈明も出来なさそうだし、説明すら面倒がりそうだ。
「そうだそうだ! 茶を出せ! 私等は客だぞ!」
「その前に認知しろ! リピートアフターミー! 『魔理沙の中には僕の子供が居るよ』!」
「うるせええええええええええ! 居て堪るかあああああああ! お前は黙ってろ魔理沙あああああああああ!」
大声出させるなよ! 声を張り上げるって喫煙者にはキツいんだぞ! あぁ! 喉が痛い! 本気で飲み物が必要だ!
すると、また大きな溜め息を吐いた店主が肩を竦める。
「仕方ないな……あんまり暴れないでくれよ?」
良いから早く行け。
じゃないと私が暴れるぞ。
この店を巨大な焼き芋精製用の焚き火にしてやる。
店主がのそのそと店の奥へと引っ込み、後には私と魔理沙がゼィゼィと荒げる息の音だけが残り、漸く狂騒が一段落してくれた。どうやら魔理沙の焦点も戻って来た様だ。
と、背後からクスクス笑いが聞こえて来る。
店主にプロポーズされたばかりのハイカラさんは、煙草を片手に保持したままに、私たちを見て肩を震わせていた。
「……あぁ、おっかしい……良く出来たコントみたいだったわ……貴女たちきっと、テレビで引っ張りだこの芸人になれるわよ?」
「――てれび?」
私が首を傾げると、彼女はゆったりとした挙動で足を組む。
「外の世界の情報端末……幻想郷にだって、残骸くらいは流れ込んでそうだけど。ブラウン管の奴とか」
成程、全然判らんな。
にしてもこの口ぶり……外の世界の奴なのか? 最近幻想郷に流れ着いたとか? 仮にも顔馴染みが求婚した相手だが、私は全くコイツについての情報が無い。
目の前のハイカラさんを眺めていた私の身体を押し退け、魔理沙が彼女の下へと矢庭に歩み寄る。一触即発の空気だ。すわ殴り掛かるんじゃ在るまいな、なんて心配が鎌首をもたげた所で、魔理沙は彼女の目の前で立ち止まる。
「雷鼓。お前、何でこんな所に居るんだよ。何しに来たんだよ」
うわ、スゲェ喧嘩腰。
というか、魔理沙とは顔馴染みだったのか。
魔理沙に雷鼓と呼ばれたハイカラさんは、しかし煙草を唇に挟んだかと思うと、全く気圧された様子も無く座ったままに魔理沙を見上げ、ホゥ、と煙を吐き出した。
「外の煙草を買いに来たの。里には私の好きな銘柄、無かったみたいだもの」
言うと、雷鼓は不意に立ち上がり、親の仇でも見る様な目つきで睨み付け続ける魔理沙を無視して何故か私の下へと近づいて来る。胸ポケットに入れていた携帯灰皿に煙草を仕舞うと、私を見てニッコリと友好的に微笑みながら、右手を差し出してくる。
「初めまして……付喪神の、堀川雷鼓です」
「あ、あぁこりゃご丁寧に……藤原妹紅だ。一応、人間だ」
自己紹介か。私は素直に、差し出された手を握った。
ってか付喪神……? あぁ、成程、この前起きた異変に絡んでるんだな。愛用の筆が暴れ出したとか何とかで、慧音が困っていたのをふと思い出した。なら、魔理沙と顔馴染みだった理由も判る。きっと弾幕ごっこで一戦交えたんだろう。
にしても、物腰が実に穏やかだ。たった今求婚されたばかりとはとても思えない。浮かれてる様子も嫌悪感も何も見えない。さっきの光景が嘘だったみたいに。
「……無視とは良い度胸じゃないか」
今にも八卦炉を取り出しかねない程に殺気立った魔理沙が、低い声で雷鼓の背に言う。首だけで魔理沙を顧みた雷鼓は、フフ、と意味有りげに笑って肩を竦めた。
「無視なんてしてないわ。ここに何をしに来た? と聞かれたから、煙草を買いに来たって本当のことを言ったじゃない。それで会話はお終い。でしょ?」
「嘘を吐くなよ」
「嘘なんか吐かないわ。補足説明が必要? 私は今日初めて、このお店に来た。霖之助さんから煙草を買って、自己紹介をした。その時にアナタたちが来た……それで全部」
「ん? それで何で、あんな話に繋がって来るんだ?」
雷鼓の説明に疑問を感じた私が口を挟む。
コイツの話が本当なら、あのバカは初対面の女と自己紹介中に、あんな気障ったらしい文句を吐いたって事になる。盛ったナンパ野郎なんかこの世界にゃ腐る程居て、その中には初対面の女に求婚するなんて酔狂な奴だっているだろう。
だが、香霖堂店主は何か深刻な病気なんじゃないかって位に鈍感で、しかも基本的に他人には興味を持ちゃしないと来てる。そんな唐変木が、ナンパな真似をするか?
「……そうか。お前は、道具だもんな」
何やら納得した様に多少険の薄れた声音で、魔理沙が呟く。
「喋ったり、動いたり、自分の意志のある道具……成程な。あの道具バカなら喉から手が出る程に欲しいだろうぜ。だからお前に触った途端、店に並べたくなってあんな台詞を吐いたって訳だ」
やれやれと肩を竦め、先ほど店主が消えた暖簾の向こうへと目をやった魔理沙が、小さく舌打ちをする。
確かにな。あの偏屈者なら、そんな事をしそうだ。道具バカなのは今に始まった事じゃないし、なら今魔理沙が納得した理由が真実なんだろう。なんて馬鹿馬鹿しい。去勢された猫だってもうちょっと異性を意識するぞ。
すると、黙ったままに魔理沙の方を向いていた雷鼓がニィ、と唇をどこか嗜虐的に歪めて見せた。如何にも、悪い事を思い付いた、みたいな表情だ。
「――安心した?」
「へ?」
不意に紡がれた雷鼓の言葉に、魔理沙が頓狂な声を上げる。面食らった様な表情を携えた魔理沙の方へ、雷鼓は一歩一歩を確認するみたいにゆったりと近づいて行く。
「確かに私は付喪神。私は道具。喋ったり、動いたりする道具……けれど果たして霖之助さんは、こうして人間と同じ身体を持って動く私を、本当に、道具としてしか認識していないのかしら?」
「……どういう意味だ?」
魔理沙の声音に、再び剣呑な色合いが混じる。そこで雷鼓は勿体ぶる様に上着のポケットから煙草を取り出し、燐寸で火を点けて紫煙を吐き出した。魔理沙の鼻先をくすぐろうとしているかの様に。
「お、おい……」
挑発染みた台詞を口にした雷鼓の下へ、私は思わず歩み寄る。横に陣取る私をチラと流し見た彼女は艶めかしく煙草を唇に挟み、火口をジリジリと赤熱させた。
「道具にフェティッシュのある存在なら、当然見た目に拘るわ……デザイン、用途、そういった諸々に異常な程の拘りを持つ……霖之助さんは私が道具だから、だけじゃなくて、私の見た目をも気に入って、あんな甘い言葉を言ってくれたのでしょう……? それ、本当に、ただの物質に対する所有欲しか無いのかしら……そこに性欲なんか欠片も無いと思う……? あの人、男の人よ? 仮に私を所有したとして――何もせず、この店の片隅に置いておくだけ、と、アナタは本当に思う……?」
まるで気取った猫の様に、雷鼓はどこか甘く崩れた言葉を吐く。魔理沙は何も言わない。明確に女を感じさせるその態度に、雰囲気に呑まれて、青白い顔で両目を見開いている。口の開き方さえ、忘れてしまったのではないかと。そんな風に思えた。
「アナタ、さっき、妊娠してるって……あの人の子を孕んだって、言ったわよね……?」
「おい雷鼓、それはコイツの世迷言だろ――」
「世迷言でも何でも」
私の言葉尻を飲みこむと、雷鼓は窄めた唇から薄い煙を吐き出した。
「それは過程を経た結果である事に変わりは無いわ……。過程。魔理沙、アナタ位の歳なら、流石にコウノトリとかキャベツ畑を信じてる訳じゃ無いわよね……プロセス無しに、結果は訪れない。アナタはそのプロセスを、踏める……? 受け入れるという事。任せるという事。それに対する覚悟は、あるの……? ほわほわした夢想としてじゃ無くて、肉薄した現実として。そのプロセスに殉じる用意、出来てる……?」
ゴクリ、と。魔理沙が唾を嚥下したのが、喉の動きで判った。
雷鼓の挑発を止めた方が良いと。そんな事は判り切っているにも関わらず、私は何も口にする事が出来ずに居た。雷鼓の纏うどこか退廃的な雰囲気に呑まれてるのは魔理沙だけじゃない。私もだった。
自分の知らない世界を知っている存在からの問いかけ。
それは例えるなら、真夜中の川面を見つめている様な物だ。何が待っているのか、知識としては知っていても経験としては知らない。夜の河を泳ぐ事への忌避感。それは一度も水中へと身を投げた過去が無いからこその思念だ。
だからこそ、河の中からの誘いに微かな恐怖を覚える。
水の中は楽しいよ、と言われても、唯々諾々と踏み出す事は簡単じゃない。
私と魔理沙が目の当たりにしてるのは、まさに、そういった知らない世界から覚悟を問い質す声に相違ないのだ。
「知ってる……? 道具って、他者から『使われて』こそ存在意義があるのよ……?」
紫煙の臭いを纏った雷鼓の声はどこまでも蠱惑的で、底なし沼に足を取られた様な気分になる。
「まして私は楽器。乱暴に叩かれる事だって、思うがままに音色を『奏でさせられる』事だって、息をする事と同じくらいに自然。奏者とのハーモニーを生み出す事こそ、私の存在意義。私を構成する根本。相手の思うがまま、相手の欲する所に従って、相手と私は調和の名の下に一つになる……。勿論、私好みの『やり方』はある。けど、相手を受け入れるという事に置いて、相手に身を任せるという点に置いて、私、結構上手な方だと自分で思うわ……」
トロン、と午睡染みて蕩けた両目で魔理沙を見据えつつ、雷鼓が片手で自分の身体をスルリと撫ぜた。肋骨の辺りから、太腿まで。舐める様なその手の動きが括れた腰つきを経由すると、如何にも女性的な曲線の軌跡を描く。
「求められるがままに、与えて、相手の全てを受け入れて……そして最後には相手は、私無しじゃ居られなくなるの……私じゃなきゃ、ダメになってしまうの……魔理沙、アナタ、そこまで霖之助さんに尽くせる……? あの人がしたいって思った事……それがどんな事でも、許して、従って、あの人の欲望を全部、ぜぇんぶ満たす事……出来る?」
「――わ、私は……わた、しは……」
唇を噛み締めたまま、わなわなと震える魔理沙は、前掛けを両手でギュッと握り締めていた。その目は実に落ち着きなく、雷鼓の肢体の様々な部位へと情けない程の速度で次々に飛んで行く。腰回り。太腿。胸。腹部。二の腕。顔。付喪神として自我を持ってからの期間は短いのだろうが、少なくとも魔理沙よりずっと成熟した身体。
それを順繰りに眺めた魔理沙は、最後に視線を落としてしまう。今しがた視界に収めた雷鼓のパーツを自分と比較しようとしているかの様に。
不憫だと思った。
私がもう少し考えなしだったら、雷鼓の胸ぐらを掴んでいただろうとも思った。
それをしようとしなかったのは、する気にならなかったのは、偏に暴力はつまり、魔理沙じゃ反論出来ない、私も言葉じゃ否定出来ないと認める事になると思ったからだ。三角関係における、優位者と不利者の差異。そこには私の出る幕なんて無い。前回と違って私は気付けば完全に蚊帳の外へと位置していて、それにもどかしささえ覚えていた。
色恋沙汰は、本来外部から強引に巻き込まれる物じゃない。
誰も彼も望む相手を一人に見定める以上、駆け引きとは邪魔な要素を一つ一つ取り除いていく作業に他ならない。一人、一人とライバルを排除して行って、その結果として一対一の関係性を成り立たせる為の自由競争。それを理解しているからこそ、雷鼓は無理に私を巻き込もうとは決してしない。それは以前の魔理沙や妖夢とは違って、ライバルを増やす事が益にならないと知り尽くしているからなのだろう。
駆け引きに精通している雷鼓を相手取って、果たして魔理沙に勝機はあるのか――。
「……おやおや、随分仲良くなっている様だね」
おっと、トラブルメーカーが帰って来やがった。
途端、雷鼓はスッと魔理沙から身を引き、店主に向けて小さく微笑む。
「えぇ……とーっても、仲良くなったわ……」
店主に対するその言葉は、魔理沙に長々と覚悟の所在を質した声音と何ら変わらない。媚びている訳でも無ければ、取り繕っている訳でも無い。全くの素。
成程、やっぱコイツはプロなんだな。
何のプロかは良く判らんが、取り敢えずプロと言うしかない。駆け引きの、っつーか女としてプロなんだろう……何の事やら自分でも意味が判らなくなってきた。
「ハイ、お茶」
カウンターに盆を置いた店主が、湯呑の一つに緑茶を注いで私に手渡して来る。
「あー……悪いな」
「今日は、いつものかい?」
「そうだ。昨日切れた」
「判った。持ってくるよ……魔理沙? お茶、ここに置いて行くよ」
カウンターに置いていた湯呑に茶を注いだかと思うと、店主は魔理沙を顧みて朗らかに言う。そしてまた店の奥へと私の煙草葉を取りに行こうとした店主の背中に
「――霖之助さん? さっきのお話なんだけど……」
と。雷鼓が気持ち落とした声音で語り掛ける。
途端、ぞわり、と。何かとんでもない物の予兆を感じて、背中が総毛立つような思いを抱く。
横目で魔理沙を見る。
まだ縋り付く様に前掛けを掴む魔理沙が、助けを求めるみたいな瞳で私を見る。
何とかしてくれ、と。
何か、打開策を探しちゃくれないか、と。
弾幕ごっこや異変解決時の勇猛果敢さは鳴りを潜め、全く弱々しい少女然とした目で。
けれど。
――私は首を横に振った。
突き放した訳じゃ無い。
ここで私が救いの手を差し伸べちゃいけない、と。そう思った。
それは魔理沙の為にはならない。
そもそも、私が出て良い幕じゃ無い。
これは魔理沙と雷鼓の一騎打ちだ。
望む物を互いに手に入れんと突き進む二人きりの決闘だ。
そこに加勢があっちゃいけない。
加勢しちゃ、フェアじゃない。
私が強引に身を滑り込ませて得る勝利に、一体何の価値がある?
野暮ってのは理由の無いカッコつけの美学じゃないんだ。
誰かの助けを借りる事こそが正義な場面もあれば、自分で何とかしなくちゃならない場面もある。
こと恋愛に関しちゃ、殆どは後者だ。
勇気を出さなきゃ、何も始まらない。
自分の力で勝ち取らなきゃ、続きゃしない。
だから、自分でやらなきゃ駄目だ、魔理沙……。
魔理沙の両眼を見据えたままに、私は小さく頷いて見せる。
私の想いは通じたのだろうか。細部は怪しい。けれど少なくとも魔理沙は、キッと覚悟を決めた表情を作り上げ、私に向かって頷いて見せた。
行ける――!
何とかなる!
推進力とパワーこそ、お前の神髄だろ!!
――行けっ!
「……こ、香霖……っ!」
店主が雷鼓の台詞に応答するよりも早く、魔理沙が店主を呼んだ。半ば雷鼓の方へと視線を向けかけていた店主が、その言葉に魔理沙の方へとベクトルを捻じ曲げる。
良し! 言った! 小さく拳を握ってガッツポーズをする私。
思い詰めたような表情でエプロンの端を未だ握る魔理沙に、さしもの鈍感店主も無視は出来なかったと見えて、眼鏡の位置を直しつつ「――何だい?」と、どこか平時よりも緊張感を滲ませた声を出す。良し! 良し! 一歩前進だ! そのままブチ込め!
――だが。
「そ、その……さっきの話って奴なんだが……その、だな……私は……」
と。
切り込む場所がマズかった。
一手。
魔理沙は遅れを取ってしまった。
既にチェック・メイトが目前に見えている雷鼓を相手取って、その迂回路的な話の切り出し方は余りにも痛いミスだった。
何故なら。
その魔理沙の言葉を引き継ぐ形で雷鼓が、
「……そうそう、さっきの話。アナタが私を所有したいって話なんだけどね……?」
と。
会話の主導権を掻っ攫うチャンスを与えてしまったからだ。
強引を強引と感じさせないスムーズな話題の転換法にまんまと嵌った店主が、雷鼓の方へと視線を戻してしまう。途端。魔理沙の表情がサッと青褪める。自分の犯した致命的なミスに気付いて、愕然とする絶望がありありと浮かぶ。
あぁ……ダメなのか……。
地の底までも落ちて行く様な魔理沙の痛々しい表情の変遷に伴って、私もまた多大なるショックを抱く。敗北。打つ手なし。他人事の筈で一時はクソ面倒臭いとさえ思った筈の魔理沙の淡い恋心の終焉に、胸が張り裂けそうになってしまう。
でも、お前は一歩踏み出せただろ……?
勇気の出し方が、判っただろ……?
酒なら幾らでも付き合ってやる。全額奢ってやるし、飲み過ぎて道端で戻すお前の背中だって擦ってやるし、お前を負ぶって家まで運ぶ事だってしてやるさ。
そんな諦めムードの漂う私ら二人を丸っきり無視したまま、店主の目を見据えたまま、フ、と。雷鼓は唇に艶やかな笑みを描いて、ポツリと呟く様に。
「――お断りするわ」
と。何でも無い様に言ってのけたのだった。
◆◆◆
「お前バカだろ。迸る程にバカだろ。バカバカバカバーカ。スゲェ趣味悪い」
「何とでも言って。何と言われても私は平気よ」
香霖堂から人里への道すがら。大銀杏の根元に腰掛けて。私は購入したばかりの煙草をパイプに詰めて燐寸で火を灯しながら、大木の幹に背中を預けて紙巻き煙草を吸う雷鼓を罵ってやる。
何の事は無い。コイツが見せた店主に対する思わせ振りな態度も、魔理沙を挑発した台詞も、何もかもが茶番以外の何物でも無かったという訳だ。最初から店主の申し出を受け入れる気なんかサラサラ無く、店主の思惑も最初に魔理沙が思い当たった通りで、長々と語った言葉も口から出まかせだったとの事。
趣味が悪過ぎる。
一時は本気で魔理沙が泣きそうになってたんだぞ。
「……でも私がお芝居したから、あの子は少しだけ自分に正直になれたじゃない」
「結果論だろ」
「違うわ。あぁなるって最初から判ってたわよ。危機感が無くちゃ人間は成長しない。私が外の世界の魔力を手にした時みたく、ね」
紙巻き煙草を咥えたまま、雷鼓はヒラリヒラリと落ちて来た銀杏の葉を手に取り、それをジッと眺めたかと思うと地面へ捨てる。読めない奴だ。いや、私も鈍感なだけなのかもしれない。挑発を始める前のコイツのあの悪戯っぽい笑みで、気付けた筈だった。
「――アイツは、これからどうすると思う?」
葉に火が点き、膨らんだ煙草を落ち着かせる為にコンパニオンで平らに均しながら、私はふと雷鼓に尋ねてみる。
あのバカ店主に断りを入れて、雷鼓は即座に店を後にした。その背を追い掛けて真意を問おうとした私は、魔理沙をあの店に置いて来た。店の中には、店主と魔理沙の二人きり。その後の成り行きを見ようとは思わなかったし、見るのは野暮だと思う。
だが結果が気になるのは人情って奴だ。
酸いも甘いも味わった様な口ぶりで滔々と語った雷鼓が、あの二人の現在にどんな予測を立てるのか、それが少し気になった。
「……さて、ね」
地面に吸い殻を放って踏み消した雷鼓は、律儀にもその吸い殻を指で抓み上げ、先ほどの携帯灰皿の中へと回収する。
「物事が上手く行くためには、調和は不可欠なの。リズムの同調、と言っても良いかもしれない。心音。仕草。思考……そういった不可視不可触の生きるリズム。誰しもが固有のリズムを持っていて、誰かが誰かと繋がる時、不協和音は許されない……我慢は出来るかもしれないけど、テンポがどうしても合わないなら、いずれ限界は来るわ」
「……あの二人は、合ってない、って……?」
「霖之助さんは、ゆっくり落ち着いたスローテンポ。魔理沙は、性急でワクワクして来る様なアップテンポ。ボサノヴァと、ロックンロール。生きるステージは、ちょっと違って来ちゃうかも」
「……やれやれ、だな」
大きく溜め息を吐き、パイプの煙を空へと押し上げる。
色恋沙汰は、私にゃ良く判らん。誰かとのリズムだのテンポだの、そんな事を考えた記憶は全然ない。全くの門外漢。難しい、と雷鼓が言うのなら、きっとあの二人の行く先は茨の道なんだろう。
しかし私が溜め息を吐いたのを見て、雷鼓は「あら」と肩を竦める。矢庭に私の横へと腰を降ろしたかと思うと、私の手からパイプを引っ手繰った。
「あ、ちょ、お前! 何すんだ!」
「……上手く行かないなんて、私は言ってないわ」
クス、と笑った雷鼓が吸い口に唇を寄せる。その過程を私に見せつけるかの様に、ゆっくり、ゆっくりと。そして彼女の唇が私のパイプをハム、と咥える。一々エロい奴だ。
「言っただろ」
「言ってない。難しいかも、とは言ったわ……でも、それは魔理沙の、霖之助さんの変化を度外視するなんて、在り得ない仮定の下での判断。人は変わるの。変われるの。そこに想いがあるのなら。思いやりがあるのなら。好きな人の為に、自分のリズムを変えるなんて、そんな事は誰にだって出来る事なんだもの……」
パイプの吸い口を離し、煙を大銀杏の梢向けて吐いた雷鼓が、パイプを返して来る。「ありがと。美味しかった」なんて、私の顔を上目使いでニッコリと見上げながら。
「――じゃ、結局お前にも判らないって事なんだな」
「そういう事」
「食えない奴だ」
「あら……私、美味しいわよ?」
「黙れ色情魔」
「そ。残念……さっきの例えで言うなら、私とアナタ。テンポはかなり合ってるのに」
「私の耳にゃ、不協和音しか聞こえないね」
「強情ね……さっきの言葉、アナタも肝に銘じといて」
「あん?」
パイプを咥えつつ雷鼓の方へと向き直る。相も変わらず読めない笑顔を携えたまま、雷鼓が小首を傾げる。
「大事な人の為に、自分を変えなきゃいけない場合もあるって事……我が強いのも良い事だけど、あんまり誰かを蔑ろにしたら、見捨てられちゃうわよ?」
「は? 何、言ってんだ?」
「アナタの大事な人……煙草嫌いでしょ?」
その言葉に私は思わずムグと声を詰まらせ、その拍子にパイプの煙を肺一杯に吸い込んでしまう。必然咽た私が大きく咳を繰り返す様を、雷鼓はニヤニヤ笑いながら見て来た。
「ゲッホ……ゴホ……何故判る……」
「アナタのテンポに、罪悪感の旋律が微かに混じるもの。それも煙草を吸い始めた途端に……。判らない訳ないわ」
フフン、と何故か勝ち誇った様に両目を細めた雷鼓は立ち上がって、私を見降ろしたままに数秒視線を固定させる。私の呼吸が落ち着いたのを見て取ってから両手を背後で組み、そして人懐こそうな微笑みを携えた。
「それじゃ私、もう行くわ……アナタと知り合えて、楽しかった。また、お話しましょ。今度はお酒でも呑みながら。好きなだけ、煙草を吸いながら……」
ヒラヒラと片手を振った雷鼓が、落ち葉の降り積もった小路へと去って行く。一人残された私は刹那自分の手中にあるパイプを眺め、ややあってそれを唇へと誘う。
あちらを立てればこちらが立たぬ。単純な二者択一なんかは非現実だとは思う。しかしながら、どう足掻いても両立出来ない物ってのには、やっぱり生きている間に直面する物なんだろう。
口内を煙で満たし、それを空へと目掛けて吐き出す。どこまでも高く青い空に横たわる雲の一部になってしまえとばかりに。重厚な香りは私の精神を安らがせるが、去り際に雷鼓が言った言葉を忘失してしまう事は無かった。
風が吹き、大銀杏の枝が擦り合って囁き染みた音を立てる。根元から風にさらわれた銀杏の黄色い葉が、私の目の前へと先を急ぐように降って来る。秋の彩りを感じさせる風も、近々身に染みる木枯らしへと変化するだろう。
変化の只中に居て、変化を目の当たりにしながら、千年超も変わっちゃいない私は今、いつもと変わらない様に思えるパイプを味わいながら、銀杏の幹へと静かに背中を預けた。
Fin
↑前作です。
茹る様な夏の暑さの記憶も日に日に遠のいて行き、道々目にする梢にぶら下がる葉っぱも色付き始めて来た。季節の変わり目ってのは、何千と経験してもその度に新しい発見や感慨なんかを運んでくれて、飽きる予兆は微塵も無い。
薫風は徐々に冬の顔つきを微かに見せ始め、やがて来る厳しい寒さへの準備をしろとばかりに動物たちの心を掻き乱す。天高く馬肥ゆる秋とは良く言った物で、日が落ちた後の寒さを感じ始める様になると、死なない身体を持つ私さえも食欲はいや増して来る。働いた後の飯が美味いとなりゃ、頼まれ事にも精が出る。そして仕事を熟せば熟す程に、休憩の合間に吸う煙草もまた、素晴らしく味を増してくるという寸法だ。
年明けすぐの冬の最中に道具屋で貰ったパイプだが、すっかり私は虜になってしまって居る。一度吸い始めれば一時間は吸ってられる代物だ。時間ばかりは誰かに売却したいほどに有り余っている私にとっちゃ、これ以上に人生への彩りを与えてくれる物は無い。
永遠亭へと誰かを送り迎えしたり、畑を荒らす獣を追っ払ったり、そんなささやかな仕事の終わりに適当な場所へ腰を落ち着け、道具を並べ、詰めた葉っぱに燐寸で火を灯す時の充実感たるや、病み付きになる。煙草の為に仕事を頑張っている節すらある。良い物を教えてくれたあの店主には感謝せにゃなるまい。
面倒事もあったけど。
さて、折しも昨日葉っぱが切れてしまったので、私はまたぞろ道具屋香霖堂への道を歩いている。落ち葉に埋め尽くされた道はすっかりと秋の装いへと様変わりしていて、嫌でも季節の流転を悟らされる。空中をクルクルと舞いながら落ちて行く葉は黄色や赤と色取り取りで、目にも鮮やかな秋の小路は歩いているだけで鼻歌でも奏でたくなる。
紅葉舞い 紫煙混じりて 虹を成す 空に掛けたる 薫風の色
なんてな。
あぁ、秋とは良い物だ。過ごしやすいし、食べ物も美味い。食後に吸う煙草もまた、それに比例してか実に素晴らしい。煙草を吸いつつ歩けば更に気分は高揚するだろうが、そこはそこ。私はマナーをきっちり守る愛煙家を気取っているので、歩き煙草はご法度と決めている。腰を落ち着けて景色を眺めつつ味わう事こそが醍醐味って奴だ。
「――おーい!」
そろそろ道具屋が見えて来るかって所で、そんな元気の良い声が空から降ってくる。見上げれば真っ青な空に黒白の点がポツリと見え、その点はどんどんこちらへと近づいて霧雨魔理沙の姿となった。
「よぅ。魔理沙か」
「魔理沙だぜ。どうしたこんな所で」
私の前へと箒から飛び降りた魔理沙は元気溌剌といった感じで、少女ってよりかは少年染みた旺盛な生命力が滲んでいる様にも見えた。
しかし私の脳裏に妙な予感が過る。
年初以来これまで、何度か葉っぱを買いに道具屋へと赴きはしたが、その道中や店内で香霖堂店主以外と顔を合わせた事は無かった。世間話やパイプの色付きについての話こそ少しはするが、基本的に葉っぱを買ったら用は終わり、とっとと帰路に着く事を繰り返して来た。
何だろう。また面倒事に巻き込まれそうな、そんな良く判らない予感がする。
「どうした?」
私が黙っているのを訝しんでか、魔理沙は小首を傾げながら私の目を見つめて来る。
目指す香霖堂はすぐそば。嘘を吐けば変な勘繰りをされる可能性も高まる。疾しい事なんか何も無いのに、疑惑の目を向けられるのは御免だ。そう考えた私は正直に「ちょっと香霖堂へな。煙草の葉が切れたんだ」と言う事とした。
「そうか。奇遇だな。私も香霖のとこへ行く所だったんだ。暇潰しだが」
あっけらかんと魔理沙。そこには疑惑も不信もまるで無い。
――あれ? 何だか思ってた反応と違うなぁ。
もっと嫉妬心剥き出しで、色々と噛み付いて来るとばかり思ってた。
「一緒に行こうぜ。あの唐変木を煙草で燻製にしてやろう。水煙草じゃ、煙が冷たいせいか効き目が薄いみたいだからな」
そう言って意気揚々といった具合に香霖堂への道を進み始める魔理沙の背に、私は何だかホッとした様な心地を抱く。
……何だ、杞憂だったか。
年初には誤解のせいで大変に面倒な思いをさせられたが、その時の印象を私は引き摺り過ぎていたんだろう。長生きしてると半年程度じゃ相対的には一瞬とほぼ変わらない。私が色濃く覚えているあの面倒事も、十数年ちょい程しか生きてないだろう魔理沙にとっちゃ随分昔の出来事だと、そう言う事なのか。
「葉っぱを買ったら帰るつもりだったが……ま、用事も無いし、あちらさんが良いならゆっくりして行こうかね」
「良いに決まってるさ。いつも客が居ないんだから。居るとしたら閑古鳥の群れだ」
当人不在ながら、茶化しの言葉にケラケラと魔理沙は笑う。噂をされてきっとあの店主はクシャミの一つでも催してる所だろう。うん。普通に接してれば、魔理沙に面倒な所は微塵も無くて安心するな。
取り立てて報告せにゃならん事がある訳でも無し。他愛もない事をポツポツと喋りつつ微かに左へと曲がった道を進んだ先に、香霖堂が見えて来た。年季の入ったボロい一軒家も、紅葉に囲まれてれば風情がある様に見えるんだから不思議だ。
「まーた煙草吸ってるみたいだな」
「ん? どうして判る?」
恋する乙女の第六感か? と茶化してやりたい衝動に刹那駆られたが、我慢した。
「ホラ。窓から煙が」
「どれどれ……あー、マジだ」
魔理沙が指差す方へと目を凝らして見れば成程、薄らとだが煙が漏れている。中はどんだけの煙に包まれてるんだか。道具が傷むんじゃないのか?
「今日はいつにも増して多いなぁ。七輪でも焚いてんのか?」
「……ん」
その言葉が呼び水となり、私は違和感を覚える。
確かに、煙が多過ぎる。パイプの煙は肺に入れない分紙巻きよりは濃密だが、それにしたってあの量は多い。
何でだろう。他に誰かが居るのかも知れないな。
「……来客があるんじゃないのかね。あの煙の量は」
私が一人ごちると、「ん?」と魔理沙が首を傾げつつ振り向いて来る。
「まさか。アイツの店で煙草を吸う様な奴に心当たりは無いぜ」
「……あ」
「どうした?」
「何でも無い。気にするな」
八雲紫じゃ無かろうか、と言おうとしたが止めといた。もしそうなら、魔理沙が哀れだ。あのスキマ妖怪と店主は、どこか親密そうだったしな。邪推でしかないが。
「どれ、ちょっと様子を窺ってみるか」
自然に。あくまで自然な風を装いつつ、それでも有無を言わさぬ様に。私は魔理沙の脇をすり抜けて道具屋の入口へと向かう。入口の戸は平時と変わらず、今も営業はしている様だから、入られて困る様な事をしてる訳じゃ無いらしい。少し安心。
だが、話し声が聞こえるな。
店主の声と、もう一人。
女だな。それも若い。
だが、聞き覚えはない。少なくとも顔見知りじゃ無い事は確かだ。
「誰か来てるのか?」
戸口で聞き耳を立てていた私の横に陣取り、魔理沙が気持ち声を落として聞いて来る。
「あぁ、若い女みたいだな」
「……ふぅん」
あ、面白く無さそう。
いやぁ、淡い思いは健在のご様子で。
『……しも君が良ければ――』
店主の声が微かながら漏れて来る。どこか真剣そうな声音に思えた。
「んん? 何の話をしてるんだ?」
魔理沙がべったりと戸口に耳を押し付ける。若干、目が怖い。
野次馬としちゃ、このまま成り行きを静観するのが得策なんだろうが私にその気は無い。ガチな未成年立ち入り禁止区域と化してるんなら時間を改めるが、そういう訳じゃ無い事は知れた。それに、そろそろ口寂しくもなって来た。私は魔理沙の肩を押して戸口の取っ手を確保して、さっさと店の中へと入る事にした。
「おいちょっと待てって……」
「おっす。客だぞ」
「――もしも君が良ければ、僕に所有されてみる気は無いかい?」
瞬間。場の空気が凍りつく。
目に飛び込んで来たのは、いつも通りの香霖堂店内の雑然とした様相。薄らと煙が立ち込め、その最中に立つ香霖堂店主は、何やらハイカラな服を纏って紙巻き煙草を左手の指に挟んだまま、椅子に腰掛ける一人の女性の右手を握っていた。
赤い髪。チェックのシャツ。上着とスカートは白で、ネクタイは紫色。やはり見慣れない若い女性が、私に気付いてこちらを向く。
フ、と。唇に笑みを描き、次いで店主を見上げ、彼女は掴まれていた手を解いた。
「お客さんみたいよ。霖之助さん……きちんとお相手しなさいな」
??
????
…………えっと?
状況確認。
一、 香霖堂店主は椅子に座る女性の手を握っていた。
二、女性は店主を名前で呼んだ。
三、私が入った瞬間に聞こえた言葉の内容。
Q,以上の情報を基にして、店内で行われていた事を推測しなさい。
A,プロポーズ以外に考えられる物がありませんが、それは……。
成程。
この野郎。どんだけ女たらしなんだよ。以前と言い今日と言い、罪作りな男だな。私はこんな男に引っかからない様にしようっと。あ、引っ掛かるもクソも無いのか。もうコイツは、この女の人と結婚するんだもんな。良かった良かった。
って良くねぇ。
跳ねる様に背後の魔理沙へと視線をやる。先ほどまでは天真爛漫に輝いていた瞳のハイライトは完全に消失して、案山子の様に立ち尽くしている。その能面みたいな表情に既視感を覚えた。アレだ。私とこの唐変木が口付けしてると誤解された時と同じ顔だ。
うん。ヤバイな。
「その……魔理沙?」
「……ふ」
「へ?」
ピクン、と。魔理沙の唇が痙攣みたく跳ねるのが見えた。
「――うふ、うふふ、うふふふふふ……香霖、プロポーズ、うふふふふふふ……」
壊れちゃった!
おわぁ……トラウマをバールの様な物でグチャグチャに抉られたみたいな顔をしている……今にも腰だめにした包丁と共に突進して来たり、中に誰も居ませんよとか言い出したり、素敵なボートが出て来たりしそうな表情だ。怖過ぎる。
「魔理沙、良いか魔理沙、落ち着くんだ!」
殺人……否、殺半妖事件に巻き込まれるのは御免被る私が、兎にも角にも立ち尽くす魔理沙へと歩み寄り、焦点の合わない両目を見据えながら肩を掴む。
「ハイ、深呼吸。吸って、吐いて、ひっひっふー、ひっひっふー」
「ラマーズ法? 何で? その子妊娠してるの?」
正体不明のハイカラさんが、冷静な声で私の背中へ突っ込みを入れて来る。途端、魔理沙の両眼がカッと見開かれた。
「妊娠! そうだ忘れてた! 私は妊娠してるぞ! そのバカの子供が腹の中に!」
「嘘を吐くな! 嘘じゃないなら今この場で私が店主を殺さにゃならん!」
「嘘じゃないさ! この前アイツが使った湯呑と間接キスした時に孕んだ!」
「そんな面白い生物が居て堪るか!」
微生物だってそんな子孫の残し方はしないだろ!
真っ当な判断が月まで飛んで行ってしまったらしい魔理沙の肩をガクンガクンと揺さぶりつつ、私はこのまま魔理沙が精神的ショックで死んでしまわない様に名前を呼び続ける。すると背後から、店主の溜め息が聞こえて来る。
「……何だい? 話が見えないな」
コイツ……マジか。
眼鏡変えろ。
もしくは眼球を引っこ抜いてゴルフボールと変えろ。
「霖之助さん、取り敢えずお茶の準備でもして来たら? アナタがここに居ても、話がややこしくなるばっかりだと思うもの」
この狂乱の只中に居ながらも、ハイカラさんは実に落ち着き払った声音で最も正しいだろう打開策を提案する。確かに彼女の言う通りだ。店主が居た所で微塵も役には立たない。釈明も出来なさそうだし、説明すら面倒がりそうだ。
「そうだそうだ! 茶を出せ! 私等は客だぞ!」
「その前に認知しろ! リピートアフターミー! 『魔理沙の中には僕の子供が居るよ』!」
「うるせええええええええええ! 居て堪るかあああああああ! お前は黙ってろ魔理沙あああああああああ!」
大声出させるなよ! 声を張り上げるって喫煙者にはキツいんだぞ! あぁ! 喉が痛い! 本気で飲み物が必要だ!
すると、また大きな溜め息を吐いた店主が肩を竦める。
「仕方ないな……あんまり暴れないでくれよ?」
良いから早く行け。
じゃないと私が暴れるぞ。
この店を巨大な焼き芋精製用の焚き火にしてやる。
店主がのそのそと店の奥へと引っ込み、後には私と魔理沙がゼィゼィと荒げる息の音だけが残り、漸く狂騒が一段落してくれた。どうやら魔理沙の焦点も戻って来た様だ。
と、背後からクスクス笑いが聞こえて来る。
店主にプロポーズされたばかりのハイカラさんは、煙草を片手に保持したままに、私たちを見て肩を震わせていた。
「……あぁ、おっかしい……良く出来たコントみたいだったわ……貴女たちきっと、テレビで引っ張りだこの芸人になれるわよ?」
「――てれび?」
私が首を傾げると、彼女はゆったりとした挙動で足を組む。
「外の世界の情報端末……幻想郷にだって、残骸くらいは流れ込んでそうだけど。ブラウン管の奴とか」
成程、全然判らんな。
にしてもこの口ぶり……外の世界の奴なのか? 最近幻想郷に流れ着いたとか? 仮にも顔馴染みが求婚した相手だが、私は全くコイツについての情報が無い。
目の前のハイカラさんを眺めていた私の身体を押し退け、魔理沙が彼女の下へと矢庭に歩み寄る。一触即発の空気だ。すわ殴り掛かるんじゃ在るまいな、なんて心配が鎌首をもたげた所で、魔理沙は彼女の目の前で立ち止まる。
「雷鼓。お前、何でこんな所に居るんだよ。何しに来たんだよ」
うわ、スゲェ喧嘩腰。
というか、魔理沙とは顔馴染みだったのか。
魔理沙に雷鼓と呼ばれたハイカラさんは、しかし煙草を唇に挟んだかと思うと、全く気圧された様子も無く座ったままに魔理沙を見上げ、ホゥ、と煙を吐き出した。
「外の煙草を買いに来たの。里には私の好きな銘柄、無かったみたいだもの」
言うと、雷鼓は不意に立ち上がり、親の仇でも見る様な目つきで睨み付け続ける魔理沙を無視して何故か私の下へと近づいて来る。胸ポケットに入れていた携帯灰皿に煙草を仕舞うと、私を見てニッコリと友好的に微笑みながら、右手を差し出してくる。
「初めまして……付喪神の、堀川雷鼓です」
「あ、あぁこりゃご丁寧に……藤原妹紅だ。一応、人間だ」
自己紹介か。私は素直に、差し出された手を握った。
ってか付喪神……? あぁ、成程、この前起きた異変に絡んでるんだな。愛用の筆が暴れ出したとか何とかで、慧音が困っていたのをふと思い出した。なら、魔理沙と顔馴染みだった理由も判る。きっと弾幕ごっこで一戦交えたんだろう。
にしても、物腰が実に穏やかだ。たった今求婚されたばかりとはとても思えない。浮かれてる様子も嫌悪感も何も見えない。さっきの光景が嘘だったみたいに。
「……無視とは良い度胸じゃないか」
今にも八卦炉を取り出しかねない程に殺気立った魔理沙が、低い声で雷鼓の背に言う。首だけで魔理沙を顧みた雷鼓は、フフ、と意味有りげに笑って肩を竦めた。
「無視なんてしてないわ。ここに何をしに来た? と聞かれたから、煙草を買いに来たって本当のことを言ったじゃない。それで会話はお終い。でしょ?」
「嘘を吐くなよ」
「嘘なんか吐かないわ。補足説明が必要? 私は今日初めて、このお店に来た。霖之助さんから煙草を買って、自己紹介をした。その時にアナタたちが来た……それで全部」
「ん? それで何で、あんな話に繋がって来るんだ?」
雷鼓の説明に疑問を感じた私が口を挟む。
コイツの話が本当なら、あのバカは初対面の女と自己紹介中に、あんな気障ったらしい文句を吐いたって事になる。盛ったナンパ野郎なんかこの世界にゃ腐る程居て、その中には初対面の女に求婚するなんて酔狂な奴だっているだろう。
だが、香霖堂店主は何か深刻な病気なんじゃないかって位に鈍感で、しかも基本的に他人には興味を持ちゃしないと来てる。そんな唐変木が、ナンパな真似をするか?
「……そうか。お前は、道具だもんな」
何やら納得した様に多少険の薄れた声音で、魔理沙が呟く。
「喋ったり、動いたり、自分の意志のある道具……成程な。あの道具バカなら喉から手が出る程に欲しいだろうぜ。だからお前に触った途端、店に並べたくなってあんな台詞を吐いたって訳だ」
やれやれと肩を竦め、先ほど店主が消えた暖簾の向こうへと目をやった魔理沙が、小さく舌打ちをする。
確かにな。あの偏屈者なら、そんな事をしそうだ。道具バカなのは今に始まった事じゃないし、なら今魔理沙が納得した理由が真実なんだろう。なんて馬鹿馬鹿しい。去勢された猫だってもうちょっと異性を意識するぞ。
すると、黙ったままに魔理沙の方を向いていた雷鼓がニィ、と唇をどこか嗜虐的に歪めて見せた。如何にも、悪い事を思い付いた、みたいな表情だ。
「――安心した?」
「へ?」
不意に紡がれた雷鼓の言葉に、魔理沙が頓狂な声を上げる。面食らった様な表情を携えた魔理沙の方へ、雷鼓は一歩一歩を確認するみたいにゆったりと近づいて行く。
「確かに私は付喪神。私は道具。喋ったり、動いたりする道具……けれど果たして霖之助さんは、こうして人間と同じ身体を持って動く私を、本当に、道具としてしか認識していないのかしら?」
「……どういう意味だ?」
魔理沙の声音に、再び剣呑な色合いが混じる。そこで雷鼓は勿体ぶる様に上着のポケットから煙草を取り出し、燐寸で火を点けて紫煙を吐き出した。魔理沙の鼻先をくすぐろうとしているかの様に。
「お、おい……」
挑発染みた台詞を口にした雷鼓の下へ、私は思わず歩み寄る。横に陣取る私をチラと流し見た彼女は艶めかしく煙草を唇に挟み、火口をジリジリと赤熱させた。
「道具にフェティッシュのある存在なら、当然見た目に拘るわ……デザイン、用途、そういった諸々に異常な程の拘りを持つ……霖之助さんは私が道具だから、だけじゃなくて、私の見た目をも気に入って、あんな甘い言葉を言ってくれたのでしょう……? それ、本当に、ただの物質に対する所有欲しか無いのかしら……そこに性欲なんか欠片も無いと思う……? あの人、男の人よ? 仮に私を所有したとして――何もせず、この店の片隅に置いておくだけ、と、アナタは本当に思う……?」
まるで気取った猫の様に、雷鼓はどこか甘く崩れた言葉を吐く。魔理沙は何も言わない。明確に女を感じさせるその態度に、雰囲気に呑まれて、青白い顔で両目を見開いている。口の開き方さえ、忘れてしまったのではないかと。そんな風に思えた。
「アナタ、さっき、妊娠してるって……あの人の子を孕んだって、言ったわよね……?」
「おい雷鼓、それはコイツの世迷言だろ――」
「世迷言でも何でも」
私の言葉尻を飲みこむと、雷鼓は窄めた唇から薄い煙を吐き出した。
「それは過程を経た結果である事に変わりは無いわ……。過程。魔理沙、アナタ位の歳なら、流石にコウノトリとかキャベツ畑を信じてる訳じゃ無いわよね……プロセス無しに、結果は訪れない。アナタはそのプロセスを、踏める……? 受け入れるという事。任せるという事。それに対する覚悟は、あるの……? ほわほわした夢想としてじゃ無くて、肉薄した現実として。そのプロセスに殉じる用意、出来てる……?」
ゴクリ、と。魔理沙が唾を嚥下したのが、喉の動きで判った。
雷鼓の挑発を止めた方が良いと。そんな事は判り切っているにも関わらず、私は何も口にする事が出来ずに居た。雷鼓の纏うどこか退廃的な雰囲気に呑まれてるのは魔理沙だけじゃない。私もだった。
自分の知らない世界を知っている存在からの問いかけ。
それは例えるなら、真夜中の川面を見つめている様な物だ。何が待っているのか、知識としては知っていても経験としては知らない。夜の河を泳ぐ事への忌避感。それは一度も水中へと身を投げた過去が無いからこその思念だ。
だからこそ、河の中からの誘いに微かな恐怖を覚える。
水の中は楽しいよ、と言われても、唯々諾々と踏み出す事は簡単じゃない。
私と魔理沙が目の当たりにしてるのは、まさに、そういった知らない世界から覚悟を問い質す声に相違ないのだ。
「知ってる……? 道具って、他者から『使われて』こそ存在意義があるのよ……?」
紫煙の臭いを纏った雷鼓の声はどこまでも蠱惑的で、底なし沼に足を取られた様な気分になる。
「まして私は楽器。乱暴に叩かれる事だって、思うがままに音色を『奏でさせられる』事だって、息をする事と同じくらいに自然。奏者とのハーモニーを生み出す事こそ、私の存在意義。私を構成する根本。相手の思うがまま、相手の欲する所に従って、相手と私は調和の名の下に一つになる……。勿論、私好みの『やり方』はある。けど、相手を受け入れるという事に置いて、相手に身を任せるという点に置いて、私、結構上手な方だと自分で思うわ……」
トロン、と午睡染みて蕩けた両目で魔理沙を見据えつつ、雷鼓が片手で自分の身体をスルリと撫ぜた。肋骨の辺りから、太腿まで。舐める様なその手の動きが括れた腰つきを経由すると、如何にも女性的な曲線の軌跡を描く。
「求められるがままに、与えて、相手の全てを受け入れて……そして最後には相手は、私無しじゃ居られなくなるの……私じゃなきゃ、ダメになってしまうの……魔理沙、アナタ、そこまで霖之助さんに尽くせる……? あの人がしたいって思った事……それがどんな事でも、許して、従って、あの人の欲望を全部、ぜぇんぶ満たす事……出来る?」
「――わ、私は……わた、しは……」
唇を噛み締めたまま、わなわなと震える魔理沙は、前掛けを両手でギュッと握り締めていた。その目は実に落ち着きなく、雷鼓の肢体の様々な部位へと情けない程の速度で次々に飛んで行く。腰回り。太腿。胸。腹部。二の腕。顔。付喪神として自我を持ってからの期間は短いのだろうが、少なくとも魔理沙よりずっと成熟した身体。
それを順繰りに眺めた魔理沙は、最後に視線を落としてしまう。今しがた視界に収めた雷鼓のパーツを自分と比較しようとしているかの様に。
不憫だと思った。
私がもう少し考えなしだったら、雷鼓の胸ぐらを掴んでいただろうとも思った。
それをしようとしなかったのは、する気にならなかったのは、偏に暴力はつまり、魔理沙じゃ反論出来ない、私も言葉じゃ否定出来ないと認める事になると思ったからだ。三角関係における、優位者と不利者の差異。そこには私の出る幕なんて無い。前回と違って私は気付けば完全に蚊帳の外へと位置していて、それにもどかしささえ覚えていた。
色恋沙汰は、本来外部から強引に巻き込まれる物じゃない。
誰も彼も望む相手を一人に見定める以上、駆け引きとは邪魔な要素を一つ一つ取り除いていく作業に他ならない。一人、一人とライバルを排除して行って、その結果として一対一の関係性を成り立たせる為の自由競争。それを理解しているからこそ、雷鼓は無理に私を巻き込もうとは決してしない。それは以前の魔理沙や妖夢とは違って、ライバルを増やす事が益にならないと知り尽くしているからなのだろう。
駆け引きに精通している雷鼓を相手取って、果たして魔理沙に勝機はあるのか――。
「……おやおや、随分仲良くなっている様だね」
おっと、トラブルメーカーが帰って来やがった。
途端、雷鼓はスッと魔理沙から身を引き、店主に向けて小さく微笑む。
「えぇ……とーっても、仲良くなったわ……」
店主に対するその言葉は、魔理沙に長々と覚悟の所在を質した声音と何ら変わらない。媚びている訳でも無ければ、取り繕っている訳でも無い。全くの素。
成程、やっぱコイツはプロなんだな。
何のプロかは良く判らんが、取り敢えずプロと言うしかない。駆け引きの、っつーか女としてプロなんだろう……何の事やら自分でも意味が判らなくなってきた。
「ハイ、お茶」
カウンターに盆を置いた店主が、湯呑の一つに緑茶を注いで私に手渡して来る。
「あー……悪いな」
「今日は、いつものかい?」
「そうだ。昨日切れた」
「判った。持ってくるよ……魔理沙? お茶、ここに置いて行くよ」
カウンターに置いていた湯呑に茶を注いだかと思うと、店主は魔理沙を顧みて朗らかに言う。そしてまた店の奥へと私の煙草葉を取りに行こうとした店主の背中に
「――霖之助さん? さっきのお話なんだけど……」
と。雷鼓が気持ち落とした声音で語り掛ける。
途端、ぞわり、と。何かとんでもない物の予兆を感じて、背中が総毛立つような思いを抱く。
横目で魔理沙を見る。
まだ縋り付く様に前掛けを掴む魔理沙が、助けを求めるみたいな瞳で私を見る。
何とかしてくれ、と。
何か、打開策を探しちゃくれないか、と。
弾幕ごっこや異変解決時の勇猛果敢さは鳴りを潜め、全く弱々しい少女然とした目で。
けれど。
――私は首を横に振った。
突き放した訳じゃ無い。
ここで私が救いの手を差し伸べちゃいけない、と。そう思った。
それは魔理沙の為にはならない。
そもそも、私が出て良い幕じゃ無い。
これは魔理沙と雷鼓の一騎打ちだ。
望む物を互いに手に入れんと突き進む二人きりの決闘だ。
そこに加勢があっちゃいけない。
加勢しちゃ、フェアじゃない。
私が強引に身を滑り込ませて得る勝利に、一体何の価値がある?
野暮ってのは理由の無いカッコつけの美学じゃないんだ。
誰かの助けを借りる事こそが正義な場面もあれば、自分で何とかしなくちゃならない場面もある。
こと恋愛に関しちゃ、殆どは後者だ。
勇気を出さなきゃ、何も始まらない。
自分の力で勝ち取らなきゃ、続きゃしない。
だから、自分でやらなきゃ駄目だ、魔理沙……。
魔理沙の両眼を見据えたままに、私は小さく頷いて見せる。
私の想いは通じたのだろうか。細部は怪しい。けれど少なくとも魔理沙は、キッと覚悟を決めた表情を作り上げ、私に向かって頷いて見せた。
行ける――!
何とかなる!
推進力とパワーこそ、お前の神髄だろ!!
――行けっ!
「……こ、香霖……っ!」
店主が雷鼓の台詞に応答するよりも早く、魔理沙が店主を呼んだ。半ば雷鼓の方へと視線を向けかけていた店主が、その言葉に魔理沙の方へとベクトルを捻じ曲げる。
良し! 言った! 小さく拳を握ってガッツポーズをする私。
思い詰めたような表情でエプロンの端を未だ握る魔理沙に、さしもの鈍感店主も無視は出来なかったと見えて、眼鏡の位置を直しつつ「――何だい?」と、どこか平時よりも緊張感を滲ませた声を出す。良し! 良し! 一歩前進だ! そのままブチ込め!
――だが。
「そ、その……さっきの話って奴なんだが……その、だな……私は……」
と。
切り込む場所がマズかった。
一手。
魔理沙は遅れを取ってしまった。
既にチェック・メイトが目前に見えている雷鼓を相手取って、その迂回路的な話の切り出し方は余りにも痛いミスだった。
何故なら。
その魔理沙の言葉を引き継ぐ形で雷鼓が、
「……そうそう、さっきの話。アナタが私を所有したいって話なんだけどね……?」
と。
会話の主導権を掻っ攫うチャンスを与えてしまったからだ。
強引を強引と感じさせないスムーズな話題の転換法にまんまと嵌った店主が、雷鼓の方へと視線を戻してしまう。途端。魔理沙の表情がサッと青褪める。自分の犯した致命的なミスに気付いて、愕然とする絶望がありありと浮かぶ。
あぁ……ダメなのか……。
地の底までも落ちて行く様な魔理沙の痛々しい表情の変遷に伴って、私もまた多大なるショックを抱く。敗北。打つ手なし。他人事の筈で一時はクソ面倒臭いとさえ思った筈の魔理沙の淡い恋心の終焉に、胸が張り裂けそうになってしまう。
でも、お前は一歩踏み出せただろ……?
勇気の出し方が、判っただろ……?
酒なら幾らでも付き合ってやる。全額奢ってやるし、飲み過ぎて道端で戻すお前の背中だって擦ってやるし、お前を負ぶって家まで運ぶ事だってしてやるさ。
そんな諦めムードの漂う私ら二人を丸っきり無視したまま、店主の目を見据えたまま、フ、と。雷鼓は唇に艶やかな笑みを描いて、ポツリと呟く様に。
「――お断りするわ」
と。何でも無い様に言ってのけたのだった。
◆◆◆
「お前バカだろ。迸る程にバカだろ。バカバカバカバーカ。スゲェ趣味悪い」
「何とでも言って。何と言われても私は平気よ」
香霖堂から人里への道すがら。大銀杏の根元に腰掛けて。私は購入したばかりの煙草をパイプに詰めて燐寸で火を灯しながら、大木の幹に背中を預けて紙巻き煙草を吸う雷鼓を罵ってやる。
何の事は無い。コイツが見せた店主に対する思わせ振りな態度も、魔理沙を挑発した台詞も、何もかもが茶番以外の何物でも無かったという訳だ。最初から店主の申し出を受け入れる気なんかサラサラ無く、店主の思惑も最初に魔理沙が思い当たった通りで、長々と語った言葉も口から出まかせだったとの事。
趣味が悪過ぎる。
一時は本気で魔理沙が泣きそうになってたんだぞ。
「……でも私がお芝居したから、あの子は少しだけ自分に正直になれたじゃない」
「結果論だろ」
「違うわ。あぁなるって最初から判ってたわよ。危機感が無くちゃ人間は成長しない。私が外の世界の魔力を手にした時みたく、ね」
紙巻き煙草を咥えたまま、雷鼓はヒラリヒラリと落ちて来た銀杏の葉を手に取り、それをジッと眺めたかと思うと地面へ捨てる。読めない奴だ。いや、私も鈍感なだけなのかもしれない。挑発を始める前のコイツのあの悪戯っぽい笑みで、気付けた筈だった。
「――アイツは、これからどうすると思う?」
葉に火が点き、膨らんだ煙草を落ち着かせる為にコンパニオンで平らに均しながら、私はふと雷鼓に尋ねてみる。
あのバカ店主に断りを入れて、雷鼓は即座に店を後にした。その背を追い掛けて真意を問おうとした私は、魔理沙をあの店に置いて来た。店の中には、店主と魔理沙の二人きり。その後の成り行きを見ようとは思わなかったし、見るのは野暮だと思う。
だが結果が気になるのは人情って奴だ。
酸いも甘いも味わった様な口ぶりで滔々と語った雷鼓が、あの二人の現在にどんな予測を立てるのか、それが少し気になった。
「……さて、ね」
地面に吸い殻を放って踏み消した雷鼓は、律儀にもその吸い殻を指で抓み上げ、先ほどの携帯灰皿の中へと回収する。
「物事が上手く行くためには、調和は不可欠なの。リズムの同調、と言っても良いかもしれない。心音。仕草。思考……そういった不可視不可触の生きるリズム。誰しもが固有のリズムを持っていて、誰かが誰かと繋がる時、不協和音は許されない……我慢は出来るかもしれないけど、テンポがどうしても合わないなら、いずれ限界は来るわ」
「……あの二人は、合ってない、って……?」
「霖之助さんは、ゆっくり落ち着いたスローテンポ。魔理沙は、性急でワクワクして来る様なアップテンポ。ボサノヴァと、ロックンロール。生きるステージは、ちょっと違って来ちゃうかも」
「……やれやれ、だな」
大きく溜め息を吐き、パイプの煙を空へと押し上げる。
色恋沙汰は、私にゃ良く判らん。誰かとのリズムだのテンポだの、そんな事を考えた記憶は全然ない。全くの門外漢。難しい、と雷鼓が言うのなら、きっとあの二人の行く先は茨の道なんだろう。
しかし私が溜め息を吐いたのを見て、雷鼓は「あら」と肩を竦める。矢庭に私の横へと腰を降ろしたかと思うと、私の手からパイプを引っ手繰った。
「あ、ちょ、お前! 何すんだ!」
「……上手く行かないなんて、私は言ってないわ」
クス、と笑った雷鼓が吸い口に唇を寄せる。その過程を私に見せつけるかの様に、ゆっくり、ゆっくりと。そして彼女の唇が私のパイプをハム、と咥える。一々エロい奴だ。
「言っただろ」
「言ってない。難しいかも、とは言ったわ……でも、それは魔理沙の、霖之助さんの変化を度外視するなんて、在り得ない仮定の下での判断。人は変わるの。変われるの。そこに想いがあるのなら。思いやりがあるのなら。好きな人の為に、自分のリズムを変えるなんて、そんな事は誰にだって出来る事なんだもの……」
パイプの吸い口を離し、煙を大銀杏の梢向けて吐いた雷鼓が、パイプを返して来る。「ありがと。美味しかった」なんて、私の顔を上目使いでニッコリと見上げながら。
「――じゃ、結局お前にも判らないって事なんだな」
「そういう事」
「食えない奴だ」
「あら……私、美味しいわよ?」
「黙れ色情魔」
「そ。残念……さっきの例えで言うなら、私とアナタ。テンポはかなり合ってるのに」
「私の耳にゃ、不協和音しか聞こえないね」
「強情ね……さっきの言葉、アナタも肝に銘じといて」
「あん?」
パイプを咥えつつ雷鼓の方へと向き直る。相も変わらず読めない笑顔を携えたまま、雷鼓が小首を傾げる。
「大事な人の為に、自分を変えなきゃいけない場合もあるって事……我が強いのも良い事だけど、あんまり誰かを蔑ろにしたら、見捨てられちゃうわよ?」
「は? 何、言ってんだ?」
「アナタの大事な人……煙草嫌いでしょ?」
その言葉に私は思わずムグと声を詰まらせ、その拍子にパイプの煙を肺一杯に吸い込んでしまう。必然咽た私が大きく咳を繰り返す様を、雷鼓はニヤニヤ笑いながら見て来た。
「ゲッホ……ゴホ……何故判る……」
「アナタのテンポに、罪悪感の旋律が微かに混じるもの。それも煙草を吸い始めた途端に……。判らない訳ないわ」
フフン、と何故か勝ち誇った様に両目を細めた雷鼓は立ち上がって、私を見降ろしたままに数秒視線を固定させる。私の呼吸が落ち着いたのを見て取ってから両手を背後で組み、そして人懐こそうな微笑みを携えた。
「それじゃ私、もう行くわ……アナタと知り合えて、楽しかった。また、お話しましょ。今度はお酒でも呑みながら。好きなだけ、煙草を吸いながら……」
ヒラヒラと片手を振った雷鼓が、落ち葉の降り積もった小路へと去って行く。一人残された私は刹那自分の手中にあるパイプを眺め、ややあってそれを唇へと誘う。
あちらを立てればこちらが立たぬ。単純な二者択一なんかは非現実だとは思う。しかしながら、どう足掻いても両立出来ない物ってのには、やっぱり生きている間に直面する物なんだろう。
口内を煙で満たし、それを空へと目掛けて吐き出す。どこまでも高く青い空に横たわる雲の一部になってしまえとばかりに。重厚な香りは私の精神を安らがせるが、去り際に雷鼓が言った言葉を忘失してしまう事は無かった。
風が吹き、大銀杏の枝が擦り合って囁き染みた音を立てる。根元から風にさらわれた銀杏の黄色い葉が、私の目の前へと先を急ぐように降って来る。秋の彩りを感じさせる風も、近々身に染みる木枯らしへと変化するだろう。
変化の只中に居て、変化を目の当たりにしながら、千年超も変わっちゃいない私は今、いつもと変わらない様に思えるパイプを味わいながら、銀杏の幹へと静かに背中を預けた。
Fin
しかし雷鼓さん0歳なのにどこで女を磨いたんだ・・・。
雷鼓が良い味出してました。
グッド。
登場人物みんないいキャラしてるなぁと思いました
魔理沙もかわいいw
↑そのネタはやばいww
ないかな?
雷鼓さん、悪女ォォォォォォォォ!
一体どこに設置された太鼓の◯人ならこんなにハードボイルドな音色を奏でられるんだ。銀座の裏町のバーとかか。世慣れたホステスたちが「もう一回遊べるドン!」してたのか。
前作の最後の行で思ったけど、慧音が煙草嫌いな理由は煙草そのものより・・・だとしたら非常にキュンキュン来る