Coolier - 新生・東方創想話

過去形と進行形

2013/10/06 19:10:46
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 世界は終わりに向かって行った。
 誰も止めることはできなかった。
 古明地こいしの世界は終わった。





 過去形と進行形~Finishing is Starting





 こいしは旧都を歩いていた。
 特に深い理由はなかったが、唯一家と呼べる場所へ向かっていた。
 汚い空気を吸い込んで、誰にも聞こえない鼻歌を歌っていた。
 汚れた水を踏み散らし、誰にも見られずに歩いていた。

 こいしが何かをしようと思った時には、既にすべて終わっているのだ。

 目の前に茶屋があった。
 興味を惹かれ、そっと足を止めた。
 昼間から、そこそこのにぎわいを見せていた。
 店先の長椅子に、一組の妖怪がいた。
 橋姫と、土蜘蛛だ。
 二人は談笑していた。
 その手に、団子が握られていた。

 団子はこいしのお腹に収まった。
 そして、こいしは再び歩き始めた。

 旧都を見知った顔が歩いていた。
 星熊勇儀という鬼だ。
 すれ違って、なんとなく、興味を惹かれた。

 手元に団子の串があった。
 勇儀の髪の毛に串を刺した。
 そこで、こいしの興味は終わった。
 結局挨拶せずに、横を通り過ぎた。

 旧都を抜けた。 
 ここから家までは一本道だ。
 風が吹いて、小さな石が転がった。
 こいしはそのまま歩いた。

 石は粉々になった。
 特に意味はなかった。
 強いて言えば、そこに石があったから踏みつぶした。
 楽しかった。
 再びこいしは歩き始めた。
 彼女の家の門は、もう少しだった。



 こいしは小さな部屋にいた。
 一人の少女が、ケーキを食べていた。
 古明地さとり。こいしの姉だ。
 さとりの向かいの席が空いていた。
 ケーキももう一つあった。

 もう一つのケーキがなくなった。
 こいしは頬にケーキのクリームをつけた。
 満足げに息をついて、そっと席に座った。

「ただいま、お姉ちゃん!」

 返事はなかった。
 さとりはこいしに気付いていなかった。
 気付くわけがなかった。
 こいしはそっと手を伸ばした。
 ティーカップだ。
 紅茶が湯気を立てていた。

「あちちっ」

 入れたてだった。
 さとりはまだこいしに気付いていなかった。

 これが古明地姉妹の付き合い方だった。

 この一日のために、何個のケーキが無駄になったのか。
 この一日のために、何杯の紅茶が無駄になったのか。
 そんなことは些細な問題だった。
 さとりは笑った。
 ケーキがなくなっていることに気付いたのだ。

 さとりはこいしに向かってほほ笑んだ。
 まだこいしの姿は見えていなかったと言うのに。

「ケーキ、おいしかった?」
「おいしかったよ!」

 さとりの声はこいしに届いた。
 こいしの声は、さとりには届かなかった。
 こいしの能力がある限り、さとりからこいしの姿を見ることは出来なかった。

「ただいま、お姉ちゃん!」

 始まりは終わりであった。
 こいしは能力を切った。



 こいしは能力を切る。
 終わりは始まりである。

「ただいま、お姉ちゃん!」
「あら、おかえりこいし」

 こいしの声はさとりに届く。
 さとりの声も、こいしに届く。
 そこにもう能力はない。

「あっ、お姉ちゃんケーキ食べてる! ずるい!」
「あら、もう食べたでしょう?」
「私が食べたって証拠がどこにあるの!」
「ほっぺたにクリームが付いているわよ」

 こいしは頬を指で拭って、口に含んだ。
 クリームはもうついていない。

「てへっ」 
「もう。今度からは姿を見せて頂戴」
「やだー、こっちの方が楽しいもん!」

 つまらない事はしたくない。
 こいしは、彼女なりにこの世界を楽しんでいる。
 終わった世界は、再び始まる。

「こいし。この一週間、楽しかった?」
「楽しいよ!」
「それはよかったわ」

 さとりはくすりと笑う。
 こいしもにこにこと笑う。

「紅茶おかわり!」
「勿論……の、前に。やらなきゃいけないことがあるみたいね」
「んー?」
「こいし。貴方は外で何をしてきたの?」
「無意識の赴くままに歩くの」
「……あら、そう。お客さんよ、こいし」

 さとりはこいしの肩を抱く。
 そして、こいしを引っ張るようにして歩く。

「えっ、えっと、私何かされる?」
「さぁどうでしょうね、私にはわからないわ」

 じたばたともがくこいしを連れ、さとりは部屋を出る。
 地霊殿の玄関に、三つの人影がある。

「逃げるが勝ち!」

 こいしは能力を使う。


 こいしは能力を使った。
 さとりの拘束から離れ、逃げ出そうとした。

「こいし、一緒にいて頂戴」 

 さとりがそう呼びかけた。

「どうしよっかな……」
「たまにはいいでしょう? お姉ちゃん、寂しいの」

 こいしが消えて、さとりは確かに寂しそうだった。
 少しだけ悩んだ。
 こいしは、姉が寂しそうにするのが楽しくなかった。

 答えが決まった。

 虚空へと手を伸ばしたさとりに抱きついて、能力を切った。

 さとりはこいしのぬくもりを感じて、そっと抱きしめ返す。
 楽しい。嬉しい。二人の心が一致する。
 抱き合ったまま二人は玄関へと向かうのだ。





 これがこいしの新しい世界。
 何度でも、世界は回る。
 古明地こいしの世界はまた始まる。
 終わりは始まりで、始まりは終わりなのです。
 こいしの世界は終わり続けていますし、始まり続けています。
 
沢田
http://twitter.com/hakutakusawada
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コメント



0.520簡易評価
3.70非現実世界に棲む者削除
こいしちゃんの能力を活かした作品だと思います。
>感情なんてもとよりもちあわせてないから
・・・なぜか心綺楼でのこいしちゃんの台詞が想起されました。
寂しくも、侘しい台詞だと思います。
4.70奇声を発する程度の能力削除
良かったです
7.80名前が無い程度の能力削除
切ないようでもあり、それが2人の関係ならとも思ったり。
素敵なお話でした。
15.70名前が無い程度の能力削除
テンポがいいですね。
このあと三人に怒られちゃうのかな?
16.100サク_ウマ削除
これは良いこいしちゃん