Coolier - 新生・東方創想話

project-KISARAGI

2013/09/30 17:25:30
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秋の心地良い風がカフェテラスに吹く。
天蓋が一段上に引っ越したような、そんな爽快な空だ。
彼女はカフェテラスの端の席で、人を待っている。


不意に、後ろから声がした。
「ごめん、メリー。ちょっと手間取っちゃって」
「2分29秒の遅刻ね、蓮子」
蓮子の額は少し湿り、頬も些か紅くなっている。
いつもの相棒にしては誠意を(ある程度)持った遅刻をしてくれた。
その誠意で、今度は待ち合わせ時間に間に合ってほしい。
日頃から言っていることなのだし、能力も活用してくれ、とちょっぴり反省させるべきだろうか。

「突然で悪いけどメリー、お札は持って来てある?」
「念のためにね。久々にオカルトサークルみたいなことをした気分よ」
「私達、不良だものねえ」
「きさらぎ駅、行くんでしょう?不漁じゃなくて大漁よ」
二人は猫のように笑った。

__きさらぎ駅。かつて数々の人が迷い込んだ伝説的な駅。
その狂気じみた魅力に、ゴシップや噂、オカルトが大好きな多くの人間が惹かれたが、真相はまだ闇の中である。
妖しい言い伝えも残るきさらぎに、不思議集めに精を出す彼女達『秘封倶楽部』が興味を持たないわけが無かった。

さてと、とメリーは椅子から立ち上がり、蓮子と共に、目的地へ向けて歩みを進める。
駅へ向かう道中、メリーが話しかける。
「きさらぎ駅の話は本当だったの?」
「残念ながら嘘っぽい情報もあったんだけどね。でも割と濃厚な資料は得たつもりよ」
あとはメリーが見つけてくれればいいの、と蓮子はいたずらっぽく言った。
「ざっくり言えば都市伝説なのね」
「まぁね。それでも試してみる価値はあるんじゃないかな、と思って」
最近は特にすることも無く暇だったので都市伝説紛いのモノでもサークルとして活動できることは嬉しかった。

今ではヒロシゲに代表される高速鉄道が主流になり、昔ながらの在来線は殆ど運用されなくなっている。人は快適さを求め高速鉄道に流れ、旧在来線は過疎状態に陥っていた。そんな昔ながらの駅に女子大生が居る光景は、少し奇妙でもあった。
「こんな列車資料でしか見たことなかったのに乗れるなんて、感慨深いわねぇ」
「んもー。結界を探す人の身にもなってもらいたいものだわ」

列車が、がたん、ごとん、と単調な音を立てて線路を走る。
景色はヒロシゲのスクリーンよりも野性的で、生命の力に溢れている。
「メリー、結界はどう?」
「まだ人が入れそうなサイズは見つからないわ。場所は間違えてないわよね?」
「えぇ。もうすぐきさらぎ駅周辺につくはずよ」

そうこうしている内に、列車が止まる。
「蓮子、結界を見つけたわ」
メリーが蓮子に話すと蓮子は目を輝かせた。
「本当!?早く行こうよ!」
「手に捕まって、目を閉じて。……行くわよ」


ちらほらいた筈の乗客の気配がしない。もう降りてしまったのだろうか。
列車がホームを出発する音が遠ざかる。
それ以外の音は、風の音しか無かった。

「……もう眼を開けてもいい?メリー?」
「え、えぇ」
無人駅に二人は降りていた。
看板には『きさらぎ』とある。

「本当に着いたのね……」
いざ着いてみると、あまりの静寂に不気味さを覚える。
「蓮子の言っていた資料もヴォイニッチ手稿の様な物ではなかったのね」
「えぇ。ここまで来たからには調べつくして帰るわよ、メリー」
「言うと思ったわ」

さてこれから探索、と言ったところで蓮子が思い出したように言った。
「あぁ、そうだ。メリー、きさらぎのモノに干渉しないようにね」
「?どうしてよ」
「帰ってこれなくなるらしいよ?」
「いっつも物をいじってる蓮子が言うセリフかなぁ……」
どうやら曰くつきの危険地域らしい。

「あ!メリー!向こうにトンネルがあるよ!やっぱり資料は嘘をつかなかったのよ!」
「そっちって通ったらまずいんじゃないの?」
「あー、お札と火付けがあればいいのよ」
そういってポケットからライターを取り出して見せた。
「古いライターね。動くの?」
「動かないものは持ってこないわ」
そういって蓮子がライターの火を点ける。
「ね?」
「良しとしますか」


太陽が二人を照らす。
辺りには、山と草原しかない。
ただ空空寂寂とした時間だけがきさらぎを包む。

「ねぇ、蓮子。駅の殆どを探索したのに、まだやるの?」
「うーん。線路沿いに歩いてみる?」
「何か手の込んだ自殺みたいね」
そう言いながらも、二人はそれとなく歩みを進める。
陽は、斜陽へと変化するために準備を始めていた。

「落ち着いてみると、この線路、相当寂れてるわね……」
メリーが感慨深そうに言う。
「まぁ、ただでさえ昔ながらの古い線路がさらに結界を隔ててるからねぇ」
「早めに切り上げますか」
えぇ、と蓮子が相槌を打とうとした時だった。

後ろから明らかに異質な気配がしたのだ。
人の様でヒトでない、そんな不気味な感覚である。
不安と幽かな恐怖と、そしてささやかな好奇心を抑えて、二人はトンネル方面へと歩く。
やはり気配は近づいてくる。

「ねぇ、蓮子。ちょっと心配だし早く帰ろうよ」
「そうなんだけど……燃やしてみても効果が無いのよね」
「結界を探すしかないのかしら」
「あるといいけど」
トンネルの向こうに光が見える。
「とにかく、外に出ないとね。結界の」

トンネルに近付くにつれ、太鼓を鳴らすような音がする。
「祭りかしら?」
「こういう時の祭りは大概が地獄への門だったりするのよ、メリー」
「そうねぇ。早く境界を探さないと」
そんなにトンネルは遠くなく、しばらくしないうちにトンネルへとたどり着いた。
看板の様な物からは伊佐貫、と幽かに読み取れる。
さらに囃子らしき音が大きくなる。
そして、後ろの気配の強さも次第に増していた。

メリーの直感がいよいよ危険だと叫んでいた。
「蓮子、走るわよ」
「え?どうしたのメリー?」
蓮子ってここまで鈍感だったっけ、とその時になって思い出した。
「結界が見えたの。それに、もたもたしてると取り込まれるわよ。結界の内側(不思議の塊)に」

あの不安定で寂れた線路をどう走ったかはよく覚えていない。
走って、走って、トンネルの向こうを目指して走って……
そしてとびっくらのゴールが見えて___


「おっと。危ねェなぁ。気ィ付けろよ」
「あ……はい」
駅はいつもの喧騒に包まれていた。
二人は呆気にとられていた。
「えっと……元の世界に戻れたのかしら……?」
結局、よく顛末も判らないまま、二人は戻ることにした。

__

「これじゃあダメね。リベンジしないと」
「ええ。まだ不思議が残っているものね」
__

高い、高い、雲さえも果てにありそうな空。
風や、鳥や、そんな物質の全てが合成に見えるほど澄んでいる。

メリーはカフェテラスで蓮子を待っていた。
今度こそ。今度こそ、きさらぎの不思議を集めてみせる。
__あんな形で、終われるもんですか。

木々は紅を落とし、天の白粉を待っているかのように見える。

待ち合わせの5分前。
いやが上にも、メリーは高揚してきていた。
秘封倶楽部の不思議探求紀行は、まだまだ終わりそうにない。
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コメント



0.100簡易評価
1.50絶望を司る程度の能力削除
おもしろかったです。おもしろかったんですが、なんか不完全燃焼感が否めないのでこの点でしつれいします。
2.90ボムの人削除
ブックレットにこの作品が載ってたらまさに秘封
追いかけられるのに振り返らずに逃げるとか、やっぱり賢い二人です
でも二次創作的な意味で、「不思議の塊」へ飲み込まれちゃうverも読んでみたいッ!
執筆の予定はありますか?お待ちしてまぁす
3.70非現実世界に棲む者削除
秘封らしくて面白かったです。
だからこそ、続編に期待したいです。
4.無評価名前が無い程度の能力削除
本家っぽい雰囲気がよかったです。
もっとこういう作品が見たいな
5.90名前が無い程度の能力削除
評価忘れ
6.70とーなす削除
うーん、もうちょい具体的な冒険譚が読みたいなあ。
ブックレットのような雰囲気と言えばそうなんだけど、SSとしては何か物足りない感。
8.70奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
もう少し読みたいなと思いました
9.無評価名前が無い程度の能力削除
これ、元ネタのきさらぎ駅読んだことないと意味不明なんじゃ...