私は今日もカフェで待つ。
ここは大学から少し離れた、客も少ないカフェテラス。その店内の一番奥、私たち秘封倶楽部がいつも使っていた席に、私は腰掛けていた。あれから毎日飲んでいるこの店自慢の珈琲を啜りながら、私は今日も彼女を待つ。
メリーがいなくなって早三年。私は色彩のなくなったこの世界に飽き飽きしていた。三年の月日というのは、こうも人間を弱らせるものなのか。大学は無事卒業し、院に入った。でもいない。一緒に卒業するはずだった相棒が、いない。バイトをし、細々ながらも生活もできてる。でも、自分の体で働いているのに、自分じゃないみたい。体に、魂に火が灯らない。この世のすべてのことに魅力を感じない。
メリーを探し出すために学生の頃は使える時間をすべて使った。西へ東へ、北へ南へ、蓮台野へ、サナトリウムへ。メリーがいそうなところはすべて探した。でもいない。境界すらも、月と星しか見ることのできない私には無いのと同義だ。そして、少しでも自分自身を元気づけるために院に入ったが、しかしそれは逆効果で前まで光り輝く宝石のように見えた物理学は、今は黒ずんだ石炭にしかみえなくなり自由に使える時間も少なくなってしまった。もし、メリーが今の私を見たらなんて言うだろう。きっと「あら、どうしたの蓮子。まるで蓮子じゃないみたい。」なんて言って笑われてしまうだろう。でも、その笑顔が見たい。三年間見れなかった、何物にも変えがたい、どんな理論よりも輝いて見えるその笑顔が見たい。しかし、やはり三年という月日は人間には長すぎた。時より、メリーはもう帰ってこないんじゃないかという想いがよぎる。そんなときは顔を左右に振り、そんなことはないと自分に言い聞かせる。そして、珈琲を啜って思考を安定させる。こうすることで、核分裂のように暴走してしまいそうな思考を鎮め、安定した自分に引き戻す。気持ちが落ち着くと、またメリーのことを考える。そして、メリーがいなくなる前日のことを想起する。
私は六時限目を終え、若干眠くなりながらもいつも私たちが集まるカフェ「ヴィダーヘレン」へと歩みを進めた。あまり人気のない通りに面しているので、テラスから見える景色はあまり変化が無い。店内に入ると、スーツを着た男性が二、三人。たまに思うが、よくこの客の数で店をやっていけるなと思う。まぁ、そういう私もこの店に通う数少ない客の一人なのだが。店の一番奥、壁際の方の席に目をやると私の相棒、マエリベリー・ハーンがカップを口につけながらジーっと私を見つめていた。
「五分三十八秒の遅刻よ、蓮子。」
目つきが鋭く、三白眼のような目になって私を見つめて今となっては恒例の遅刻時間を告げる。
「ごめんねメリー。やっと六時限目が終わって眠くて…。」
「はぁ…まぁいいわ。それより、今度は何処に行くの?」
メリーは呆れたようにため息を吐き、言ってもいないのに本題を聞いてきた。さすが私の相棒。話が早くて助かる。
「よくぞ聞いてくれました!今度の目的地はね…島根よ。」
「島根?またどうしてそんなとこに。」
「この時期はトルコギキョウの旬で、店にはたくさんのトルコギキョウが並ぶそうよ。」
「わざわざ花を見に?」
「ちなみに花言葉は優美、清清しい美しさ。」
「あら素敵。もしかしてプレゼントしてくれるのかしら?私の目の前にいる素敵な紳士さんは。」
またも先ほどのようにメリーは上瞼を下げてこちらを見つめるが、今度は口角が上がっている。
「それもいいわね。でもそんなあなたにはもっとふさわしい花を用意しましょう。」
「それはなにかしら?」
「結界暴き…という花とか?」
「素晴らしい花ね。その花。」
「なんでも、とある神社で神隠しが多発しているそうよ。目撃情報はほとんど無かったけど、その神社には紫のトルコギキョウがたくさん咲いているんだって。それも一年中。」
「一年中?枯れることも無く?」
「そう。神社、神隠し、枯れることのない花。絶対何かあるはずよ。」
「…日時は。」
「明日は?」
「いいわよ。」
「…決まりね。時間はどうする?」
「時間は朝八時、このカフェテラスで。」
「了解。」
それかも私たちは他愛の無い会話をしていた。カフェの外に目をやると外はもう闇に包まれていて、人通りの少ない道をいくつかの街頭が寂しく照らしている光景が目に入ってきた。
「それじゃあ。」
「ええ、このカフェテラスで。」
「さようならメリー。」
「さようなら、蓮子。」
そうだ。あの日、私たちはこうして別れた。そして、次の日メリーはカフェに来なかった。家に行ったがメリーは居らず、行き違いかもしれないと思ってカフェに戻ったが、やはりメリーはいなかった。白昼夢から戻ってきたせいか、手に持っていた珈琲の匂いがやけに鼻につく。
やれることはすべてやった。だけど、私はメリーを見つけられなかった。ならば望みは一つ。ここで彼女を待つこと。彼女は言った。
『このカフェテラスで。』
ここで待っていたら、必ず来てくれる。そのために、私は今日も紫のトルコギキョウの小さな花束を持って、カフェで待つ。
カランと鈴が鳴り、カフェの扉が開いた。
ここは大学から少し離れた、客も少ないカフェテラス。その店内の一番奥、私たち秘封倶楽部がいつも使っていた席に、私は腰掛けていた。あれから毎日飲んでいるこの店自慢の珈琲を啜りながら、私は今日も彼女を待つ。
メリーがいなくなって早三年。私は色彩のなくなったこの世界に飽き飽きしていた。三年の月日というのは、こうも人間を弱らせるものなのか。大学は無事卒業し、院に入った。でもいない。一緒に卒業するはずだった相棒が、いない。バイトをし、細々ながらも生活もできてる。でも、自分の体で働いているのに、自分じゃないみたい。体に、魂に火が灯らない。この世のすべてのことに魅力を感じない。
メリーを探し出すために学生の頃は使える時間をすべて使った。西へ東へ、北へ南へ、蓮台野へ、サナトリウムへ。メリーがいそうなところはすべて探した。でもいない。境界すらも、月と星しか見ることのできない私には無いのと同義だ。そして、少しでも自分自身を元気づけるために院に入ったが、しかしそれは逆効果で前まで光り輝く宝石のように見えた物理学は、今は黒ずんだ石炭にしかみえなくなり自由に使える時間も少なくなってしまった。もし、メリーが今の私を見たらなんて言うだろう。きっと「あら、どうしたの蓮子。まるで蓮子じゃないみたい。」なんて言って笑われてしまうだろう。でも、その笑顔が見たい。三年間見れなかった、何物にも変えがたい、どんな理論よりも輝いて見えるその笑顔が見たい。しかし、やはり三年という月日は人間には長すぎた。時より、メリーはもう帰ってこないんじゃないかという想いがよぎる。そんなときは顔を左右に振り、そんなことはないと自分に言い聞かせる。そして、珈琲を啜って思考を安定させる。こうすることで、核分裂のように暴走してしまいそうな思考を鎮め、安定した自分に引き戻す。気持ちが落ち着くと、またメリーのことを考える。そして、メリーがいなくなる前日のことを想起する。
私は六時限目を終え、若干眠くなりながらもいつも私たちが集まるカフェ「ヴィダーヘレン」へと歩みを進めた。あまり人気のない通りに面しているので、テラスから見える景色はあまり変化が無い。店内に入ると、スーツを着た男性が二、三人。たまに思うが、よくこの客の数で店をやっていけるなと思う。まぁ、そういう私もこの店に通う数少ない客の一人なのだが。店の一番奥、壁際の方の席に目をやると私の相棒、マエリベリー・ハーンがカップを口につけながらジーっと私を見つめていた。
「五分三十八秒の遅刻よ、蓮子。」
目つきが鋭く、三白眼のような目になって私を見つめて今となっては恒例の遅刻時間を告げる。
「ごめんねメリー。やっと六時限目が終わって眠くて…。」
「はぁ…まぁいいわ。それより、今度は何処に行くの?」
メリーは呆れたようにため息を吐き、言ってもいないのに本題を聞いてきた。さすが私の相棒。話が早くて助かる。
「よくぞ聞いてくれました!今度の目的地はね…島根よ。」
「島根?またどうしてそんなとこに。」
「この時期はトルコギキョウの旬で、店にはたくさんのトルコギキョウが並ぶそうよ。」
「わざわざ花を見に?」
「ちなみに花言葉は優美、清清しい美しさ。」
「あら素敵。もしかしてプレゼントしてくれるのかしら?私の目の前にいる素敵な紳士さんは。」
またも先ほどのようにメリーは上瞼を下げてこちらを見つめるが、今度は口角が上がっている。
「それもいいわね。でもそんなあなたにはもっとふさわしい花を用意しましょう。」
「それはなにかしら?」
「結界暴き…という花とか?」
「素晴らしい花ね。その花。」
「なんでも、とある神社で神隠しが多発しているそうよ。目撃情報はほとんど無かったけど、その神社には紫のトルコギキョウがたくさん咲いているんだって。それも一年中。」
「一年中?枯れることも無く?」
「そう。神社、神隠し、枯れることのない花。絶対何かあるはずよ。」
「…日時は。」
「明日は?」
「いいわよ。」
「…決まりね。時間はどうする?」
「時間は朝八時、このカフェテラスで。」
「了解。」
それかも私たちは他愛の無い会話をしていた。カフェの外に目をやると外はもう闇に包まれていて、人通りの少ない道をいくつかの街頭が寂しく照らしている光景が目に入ってきた。
「それじゃあ。」
「ええ、このカフェテラスで。」
「さようならメリー。」
「さようなら、蓮子。」
そうだ。あの日、私たちはこうして別れた。そして、次の日メリーはカフェに来なかった。家に行ったがメリーは居らず、行き違いかもしれないと思ってカフェに戻ったが、やはりメリーはいなかった。白昼夢から戻ってきたせいか、手に持っていた珈琲の匂いがやけに鼻につく。
やれることはすべてやった。だけど、私はメリーを見つけられなかった。ならば望みは一つ。ここで彼女を待つこと。彼女は言った。
『このカフェテラスで。』
ここで待っていたら、必ず来てくれる。そのために、私は今日も紫のトルコギキョウの小さな花束を持って、カフェで待つ。
カランと鈴が鳴り、カフェの扉が開いた。
まるで長編の出だしだけを見せられているような感覚でした。雰囲気は素敵ですけど。
救い無きこの作品に対して私が言える事は一つ。
是非続きを!
続きが読みたいです
コメントありがとうございます!(土下座
完璧思いつきの突貫工事でしたからね・・・(言い訳
私自身今現在時間をあまり取れない状況なので、時間が取れるようになれば設定を練り直し、まだやったこと無いですけど長編とかに挑戦してみたいですね。もちろんこの話で。
まだまだ文章力の足りない青臭い餓鬼ですが、どうか生暖かいめで見守っていただければ、幸いです。
一時間半で書き上げるのは構いませんが、もう少し読み直しをするともっとよくなるかと思います。
コメントありがとうございます!
文章を書き上げてテンションが上がってそのままの勢いで上げてしまったので見直しやその他予備知識を備えておくというとてつもなく重要なことを置いてけぼりにしてしまっていました。
今後秘封倶楽部を書くことや、その他SSを書くときはしっかりと調べ、その事に気をつけつつ、書いていこうと思います。
ご指摘、ありがとうございました!
コメントありがとうございます!
はい。すいません・・・。もっと調べておくべきでした・・・。最初は続編を書くつもりは無く、短編で書き上げたつもりでしたが、まさか続きが見たいというありがたい御声をいただけて本当に驚きでした。先のコメントにも書いてありましたが、今現在時間が取れる状況ではないので時間ができたらゆっくりと設定など考えて、もう一度書き直そうと思います。
それと、遅れましたがお褒めの言葉ありがとうございます!(土下座)そう言っていただけると、これからSSを書くときなど大きな励みになります。
本当に、ありがとうございました!
コメントありがとうございます!
そういっていただけてとてもうれしいです。同時に自分もまだまだだなと反省できるのでまたうれしいです。
次回は何時になるかわかりませんが、続き、というかきちんと練り直して、今度はよりしっかりと書こうと思います!
ありがとうございました!
非常に個人的にだけど、とってつけたようなラスト一文はいらなかったかな。その前一文が秀逸なだけに。
コメントありがとうございます!
やはりそうでしたか・・・。ぶっちゃけるとこういう終わり方をやってみたくてやってみたものの、なかなかうまくいかずああなってしまったというのが現状であります。いずれは、そんなとってつけたようなものじゃなく、自分の表現で引いてみたいですね。今はこんなことしか言えませんが・・・。
ご指摘、ありがとうございました!
しかし、いささか説明不足の部分があるように思います。元あった文章の一部を切り取ったように感じて若干の消化不良。
素人意見で恐縮ですが、トルコギキョウにもう少し意味を与えられたなら、もっと面白くなったのではないかと感じます。
コメントありがとうございます!
説明不足ですねぇ~・・・。今度はやはりそこも気をつけて書いていきたいですね。
ネタばれ&言い訳になるかもしれませんが、一応トルコギキョウやカフェの名前には意味を入れといたんですけどね(汗
でもそれは回を重ねることによって意味を成すことなので、やっぱり今後は設定を考え直して書きたいです。それに意味について自分の表現の仕方に問題があるので、まだまだ気をつけないといけないことは山済みです。
ご指摘、ありがとうございました!