1
こんなジョークを、聞いたことがあるかな?
『私を会員にするようなクラブには、決して入りたくない』
これは、恋愛に使われるジョークだけど
わたしにとっては、人生そのものかもしれないね
わたしだってさ
だれかとお話がしたい
だれかに見つめてもらいたい
認められて
受け入れられたい
そういう風に、思うときがあるよ
でもさ
そのだれかのことを
わたしは、きらいになっちゃうの
だって、そうでしょう?
わたしを受け入れてくれるのは
わたしと同じ、ロクデナシにちがいないもの
だから
キャッチ・アンド・リリース
いいえ
キャッチ・アンド・ローズ
手に入った瞬間、興味がなくなるの
だれとも関わりたくない
そう思うようになったのは、いつからかしら?
わたしに友だちが出来てもさ
きっと、すぐに、あきちゃうの
そしたらさ
一緒にいても苦痛なだけ
そんな風になるかもしれない
そんなのって、とっても、つかれちゃうでしょ?
だったら、友だちなんていらないわ
わたしなんて、路傍の小石で、けっこうよ
だれも、わたしに、かまわないでちょうだい
なんて、考えるようになってもさ
おかしくないんじゃないかなぁ
こういう気持ちってさ
だれにだって
あるんじゃない?
ツラいときほど
放って置いてもらいたい
わたしのことを
だれも知らない
そんな場所に行きたい
みたいなね
でも
そんなこと、出来るわけなくて
仕方なく
生活の中に、埋もれていくの
ずぶずぶー、って
ひとは、いつだって、自分を殺すわ
お皿を洗うとき
床を掃くとき
だれかとお話ししているとき
わたしだって、そうだったもの
わたしがさ、なぜ瞳を閉ざしたのか、わかる?
みんなに、きらわれたくない
それも、理由のひとつだったわ
でも、それだけじゃないの
邪魔だったのよ
言ったでしょう?
だれとも関わりたくないって
この瞳はね、ちょっとビンカンすぎたの
見たくないものが、見えちゃうの
だから、閉ざしたの
ぎゅむむー、ってね
そしたらね
みんなが、わたしを、見なくなったの
わたしのことを、わすれちゃうの
わたしは、だれとも関わらなくていい
傍観者として
世界をながめる
そんな風になったの
じぶんでも、ビックリだわ
世界の見え方が、変わったわ
モノクロームの世界が
急に、あかるく、色づくような
そんなカンジ
そうね
例えるなら
ショーケースのできごと、かな
趣味のわるい、お人形だって
ショーケースの中で
綺麗に飾られていれば
魅力的に映るじゃない?
それと同じ
ガラス一枚へだてて
手の届かない世界だと思えば
愛おしくもなるわ
そう、すべてが愛おしく映るの
無邪気にはしゃぐ子供たちも
幸せそうに手をつなぐ恋人たちも
神経質そうな若い男も
口やかましい中年太りの女も
目のギョロギョロした物乞いでさえも!
すべてが愛おしく見えるわ
わたしと関わらないかぎりは!
2
だれも、わたしのことなんて、見えてないし
だれも、おぼえていない
だから、この世界が大好きなの
好きなままでいられるの
でもね、そうじゃない人もいる
わたしのことを
いつまでも、おぼえていて
わすれようとは、しない人
ちょっと、はしゃぎすぎちゃって
服が泥だらけになったりするとさ
じぶんで洗うのも面倒だから
着替えを取りに、家に帰るんだけどね
わたしの部屋は
わたしがいたころと変わらない
きれいなまま
ふつうはさ
主のいなくなった部屋なんて
すぐに埃をかぶるし
物置代わりにされて
ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃない?
わたしの部屋は
きれいなままなの
死んだ息子の部屋を
そのままにしておく
母親みたい
気持ち悪いったら、ありゃしないわ
それでね
わたしが泥だらけにしちゃった服も
次に帰ったときには
きれいに洗濯して
たたんであるのよ
文句ひとついわず
部屋の掃除をして
服の洗濯をしてくれるの
おかしいでしょ?
それにね
その人は、いつも、ご飯を作り過ぎちゃうの
わたしよりも、小食なのにね
ずっと、ふたり分のご飯を用意してきた
だから、無理もないのかな
そう思っていたわ
でも、そうじゃないの
わたしが、いつ帰ってきてもいいように
ちょっぴり多めに作ってるんだわ
その人はね
わたしのことが、見えないの
でも、いつだって、心配してる
だから
わたしのことを、わすれてくれないんだわ
3
それでね、わたし、思ったの
ああ
この人は
なにがあっても
わたしを見捨てない
わたしを受け入れてくれるんだわ、ってね
でも、それって、しあわせなことなのかしら?
そうね
ふつうなら、きっとしあわせなんだわ
でも、わたしにとっては、そうじゃないの
だって、そうでしょう?
『私を会員にするようなクラブには、決して入りたくない』
これが、わたしの人生なんだもの
だからね
わたしは、その人のことが、大っ嫌いなの
そうでなければ、おかしいじゃない?
世界でいちばん、嫌いな人は? って聞かれれば
わたしは迷わず、その人の名前をあげるわ
世界中のみんなが
わたしを拒んでも
その人だけは
わたしを受け入れてくれる
根拠はないけど、確信しているもの
その人だけは
ショーケースの
こちら側にいるの
ガラス越しに飾られた
綺麗な、お人形たちじゃなくって
わたしの隣にいて
わたしと、同じものを見たい
そんな風に、願う人
だから
わたしは、世界中のみんなのことが、大好きだけど
その人のことだけは、大っ嫌い
こんなのって、おかしいかな?
この気持ち、わかってもらえるかな?
ここに、投稿するのであれば他の作品を読んでからのほうがいいと思う。
これでは評価できません。
こういう真っ直ぐなのも、いいですね。
でもそこを飲み込ます何かが無いと評価しきれないんじゃないかとも思う。少なともあとがきで補強しなければ私は評価できなかった
こういう感じの作品は苦手なんですが、「目を閉じてから世界が色づいていく」という描写にはちょっとどきっとさせられた。普通は逆なんだけど、こいしちゃんにとっては正しいんですね。
なんという孤独な言葉なんでしょう。
このSSはつまり
「自分をロクデナシと思っているこいしが、
さとりの事を嫌いだと「思い込もうとしている」」ということで良いのでしょうかね?
更に言うなら、「そう思い込まないと、自分ではなくなる」みたいな。
私はこう解釈しましたが、どうでしょうかね。