風が木の葉を撫ぜていく度、さらりさらりと柔らかな音を立てているのが聞こえてくる。
何気なしに店の窓から夜空を覗いてみると、丁度半分になった月が浮かんでいるのが見えた。
ちょっと前に満月を見た記憶があるので、あの月は恐らく下弦の月であるはずだ。
これからゆっくりと一日ごとに欠けていき、新月の日には空っぽになっていることだろう。
僕は窓枠の中の月から手元にある読物に目を戻した。
まったく静かな月夜の日というほど、この世に読書に適した時間はない。
外に出て月明かりの下に頁を捲るも良し、今の僕のように家の中でゆったりと読み進めるも良し。
誰にも邪魔をされずに独り悠々と本を嗜むことが出来る。実に気ままで素晴らしいじゃないか。
まあ別に月が出ていなくたって、僕は昼でも夜でもいつも本を読んでいるけれど。
僕が月夜の静寂の中で文字の世界をさすらっていると、ドアのカウベルが鳴る音がした。
その音を以てようやく僕は一応今が営業時間中であることを思い出して、店先に視線をやる。
店の扉を開いたその人物は、口元を隠すほどに羽織ったマントをひらひらさせながら店の中へ入って来た。
赤と黒を基調とした服。頭へつけた大きなリボン。シルエットはスマートだ。
そう、あの姿は、最近になって店に訪れるようになった妖怪の…
「邪魔するわよ」
「いらっしゃ…うお!?」
出迎えの台詞は全て発する事叶わずに、途中で遮られてしまった。
なぜならば、出し抜けに何か大きな物体が僕に向かって飛んで来たからだ。
僕は反射的に持っていた書籍を取り落とし、その謎の物体を両腕で抱きかかえるように受け止めた。
手触りから察するにどうもこの物体はボールのような形をしている。だが、ボールでないことは確かなようだ。
というか、なんだか温かいぞ。相手が誰だか既に悟っていた僕は心の中にうごめく嫌な予感をひしひしと感じていた。
僕は恐る恐る「それ」を見た。
僕は「それ」と目があった。
「それ」は少女の頭だった。
「こんばんは、霖之助。出会い頭に抱きしめてくれるなんてお熱いわね」
僕は数秒の間硬直した。
ろくろ首の赤蛮奇は僕の腕の中でにこやかに微笑んだ。…頭だけで。
僕はちらと店の入り口の方を見やる。ポツンと取り残された彼女の体が手を振っていた。
一体どういう原理なのかついぞ見当もつかない。だが、彼女はそういう妖怪なのだから仕方ない。
ろくろ首が何故首を飛ばせるかなどと考えるのは、人間は何故歩けるのかと思うのと同じ事だ。
理解しがたい事柄についてはスルーに徹するのに限るというのが僕の基本的な方針である。
そんなことを考えるよりもまず、今の僕にはやらねばならぬことがあるのだ。
再起動した僕は赤蛮奇の頭を両手にしっかりと抱え直した。そして。
「ぬん」
「ぎゃー!?」
思いっきり指に力を込めた。
丁度、彼女のこめかみに指をあてるようにして。
人、これをアイアンクローと呼ぶそうな。
「いだだだだ!!ちょっ、ギブ!ギブギブ!!」
「抱きしめたくて抱きしめていたわけではないよ。急に頭が来たのでね」
「ひいいい!し、死んじゃうから!!死んじゃうからぁ!!」
僕の視界の端っこで赤蛮奇の体が悶えているのが見える。
手の中で赤蛮奇が必死に極め技から逃れようとするが、そうは問屋がおろさない。
きっかり10秒、彼女のこめかみを締め上げてくれる。いくら悲鳴をあげようがおかまいなしだ。
テンカウント経過した後、僕は彼女の頭を体に向かって放り投げてやる。
くるくる回って飛んでいく頭を空中で器用に方向転換し、赤蛮奇はなんとか体と頭を合体させた。
「な、なによあんた。いたいじゃないの」
「そっちこそ、いきなり頭を人にぶん投げる奴があるかい」
「ろくろ首に驚かずに反撃してくるなんて。私は悲しいわ。しくしく」
「突拍子もない出来事にはなれているからね」
赤蛮奇は目に涙を溜めながら抗議して来たが僕は受け流す。
こんなことを言ってはいるが、実のところ僕は結構肝を冷やしていた。
そりゃあ、突然生首を飛ばされたら誰だって固まるはずだろう。だけど驚いた事を教えてやるのは何か癪な話だから言わない。
今のアイアンクローは驚かされた事へのちょっとしたお返しというところだ。
「つまんないの。人里だとみんな驚いてくれるのに」
「ちょっと待って。人里であんなことをやっているのか?」
「そうよ。丑三つ時とかに仕掛けるのが最近の流行ね」
想像してみて欲しい。
深夜に道を歩いていると、突然大きなものを投げつけられる。
驚いて思わずキャッチしてみると、その正体はこちらを向いてにっこりと微笑む生首。
なんともそれは……。
「タチが悪すぎるぞ。無闇に危害を広めないほうがいいんじゃないか」
「怪我させてるわけじゃないもの。それに妖怪なんて驚かせてなんぼでしょ」
「しかしだね、下手にろくろ首被害が広まると巫女が飛んでくるよ?」
「ひえー。それは勘弁ね」
彼女は肩を竦めながら店の奥に歩いて行った。
がたごとと椅子を取り出して来たかと思うと、僕の斜向いになるように置いてそこに座る。
ちょこんと両手を膝の上に置いた座り方が妙に行儀いい。背筋もピンとしているし。
だが僕にとってこの際重要なのはそこではない。
「いったいなにをやっているんだいキミは」
「この斜にくる位置が一番しっくりくるのよ。真っ正面はなんだかイヤ」
「そうじゃなくて。店の模様替えを依頼した覚えはないよ。勝手にいじらないでくれるかな」
「固いコト言わないでよ。悲しくなるじゃないの」
「第一、キミはここに何しにきたんだ」
「うーんとね、暇つぶし?」
「そうか。ならば帰りたまえ。買い物をしないのならね」
「あー、いや、うん。買い物もするけど」
「そうか。ならばゆっくりしていきなさい。歓迎するよ」
「あんたって本当に分かりやすいわね。態度変え過ぎじゃない?」
ちゃんと買っていってくれるお客様はおいでませ、冷やかしはもっぱらお断りだ。
ここはれっきとしたお店なのだから買い物をしない相手に風当たりが強いのは当然だ。
どこかの巫女とか魔法使いとかはどうもその辺を分かっていない。
「夜更けにこんなとこまで来て暇つぶしなんて。まったくキミもどうかしているよ」
「むしろこんなとこがいいのよ。ここは同類のお店だから」
「同類って?」
「お互い、人との交流を避けるもの同士よ。なにしろこんな森の奥に店を建てるくらいだし」
赤蛮奇が口元をニッとさせるようにして笑った。
僕は手を振ってそれに答える。
「僕は静かな所が好きなだけなんだよ」
「あら、じゃあやっぱり同じね。私も静かな所って好きよ」
「人との交流を避けてるわけじゃない。キミとは違うよ」
「私こそ特に交流を避けてはいないわ。人里に住んでるし。ただ人も妖怪とも打ち解けないだけ。孤高なのよ」
「人とも妖怪とも打ち解けないって?しょっちゅう僕の店に来てるじゃないかキミは。十分打ち解けてないかね」
「だって霖之助は人間でも妖怪でもないから。数少ない、私の友達ね」
それってそう言う問題なのだろうか。確かに僕は半妖だけど。
だがまあ、友達と言ってもらえて悪い気はしない。
別に僕は激しく友人を求める性分ではないけれど、やはり友人というものは持つべきものであると思う。
「それに人里のお店ってどうも落ち着かないの。変に綺麗すぎるというか」
「綺麗にしてるのはいいことだろう」
「何か気に入らないのよ。如何にもお客が来るから綺麗にしますって感じがして。裏の汚さを隠してるんだわ」
「キミは物事を斜に見過ぎだ」
「その点、ここはいい感じに小汚いから好き。いやー落ち着くわー」
「それ、褒めてないだろ。けなしてるよな?」
「褒めてるわよ。お客を全く顧みてないところがニクいわね」
「一応、香霖堂としてはお客様への真摯な対応をモットーとしておりますが」
「どこまで本当かしらね、それも。結局自分が第一でしょうあんた」
反論しようとしたが、思い当たる節が多すぎるので黙っておく事にした。
いや、これでも僕はお客様には真面目に対応しているつもりだ。
頻繁にウチにくるのがお客様とは到底言えないような連中ばかりというのが悪いだけで。
僕は席を立ち、赤蛮奇にお茶を淹れてあげた。
赤蛮奇は来るたんびに何かしら買い物をしていってくれているから僕もそこまで邪険にしない。
ただ、しっかりと暇つぶしもしていくので、上客と言えるかどうかは微妙な所ではあるけれど。
「お茶請けはないのかしら」
「流石にそこまではしない。茶屋にでも行ってくれ」
「にひひ、冗談よ。ありがとね」
「どういたしまして」
ついでに淹れた自分のお茶を飲みながら僕は席に戻った。
湯のみを受け取った彼女はゆっくりとお茶を啜っている。
なんてことのない、普通の光景だ。だが、その光景を見て僕の中に突然ある疑問が沸き起こった。
僕はその疑問を解消すべく、手に持った湯のみを机に置いて斜向いの赤蛮奇に話しかけた。
「ねえ、キミ。ちょっと首を飛ばしてもらってもいいかな?」
「なにそれ。リストラしてやるってこと?」
「違う。そのままの意味でだよ」
「いいけど。はい」
赤蛮奇は右の拳を握ってから親指だけを立て、自分の首に当ててクイッとスライドさせた。
するとその動きに呼応するようにしゅぽーんと赤蛮奇の首が宙に浮き上がった。
わざわざそうしないと首が外れないのだろうか?僕は赤蛮奇に尋ねた。
「そんなことはないわ。やらなくても首は外せる。でも、どうせならやりたいじゃない?」
特に意味はなかったようだ。どうせならやりたいと言われても、僕にはあまり共感できない。
僕は改めて目の前の妖怪を眺めた。お茶を手にし、椅子に腰を下ろした首無しの体。その隣に生首がぷかぷか浮いている。
うーむ、けっこうホラーな光景だぞ、これは。
「考えてみるとスゴいことだよ。首が分離するとは」
「結構便利よ。首を切られたって死なないし。打首の時でも安心ね」
「普通は打首になんてならないけどね」
「あ、待てよ。だとすると介錯でも死ねないわね。うーん、切腹のときに困っちゃうわ。痛みに長く苦しむ事になる」
「切腹をさせられるようなことでもしたのか?」
「別にしてないけど」
「じゃあ、切腹で苦しむ心配なんてしなくていいじゃないか」
「まーね。それで、私のクビを切って何がしたいの」
会話中、彼女の頭は僕の周りを右へ左へふよふよと動き回っていた。
自分の前にいる相手と喋っているはずなのに声は自分の左右から聞こえてくる。
考えてみればみるほどろくろ首とは奇妙な妖怪である。胴体は未だ行儀良く座っているのもなんだかおかしな話だ。
まあそんなおかしな話はここまでにしておこう。それよりも、先ほど生まれた疑問を解決せねば。
「実はだね、僕はちょっと気になることがあるんだ」
「ははん。聞いてしんぜよう」
「ありがとう。それでは、ろくろ首がモノを食べたら、食べたものはどこへ行くんだろうか?」
「え…そりゃあ私のお腹じゃないかしら。食べ物はお腹の中へ、よ」
「普通ならそうだろうね。でも首が離れた今の場合は、キミの口とお腹は繋がっていない」
「あ、確かに」
僕が気になったことというのは、つまりそういうことだった。
首を飛ばす事の出来る妖怪、ろくろ首。古くは飛頭蛮とも呼ばれたらしい。
そのろくろ首が頭と体が離れた状態で物を食べたら、いったいどういうことになるのだろうか?
全ての生き物は食物を口にすると、体の中で消化してエネルギーとして変換する。
その場合例外なく、食べ物の入り口である口と胃袋や腸などの消化器官は直結している。
ろくろ首も基本的には首が繋がっているから、特に平常時に関しては心配は要らないだろう。
だが、分離状態で物を口にいれたときというのは処理はどのようなことになるのか、非常に興味が湧く。
「自分でもどうなるのか分からないのかい?」
「分からないわよ。試した事なんてなかったし」
「じゃあいますぐやってみようじゃないか。丁度お茶もあることだし」
「そうね。お茶だけじゃ嫌だから、お茶菓子をつけてくれるのならいいわよ」
「ふむ。まあ、許そう」
「やた♪」
赤蛮奇は嬉しそうに頭だけで宙返りを決めた。何気に胴体の方も小さくピースサインを決めている。
僕はお勝手に行き、棚を探って饅頭の入った箱をとってきた。気まぐれに人里で買った、とっておきの良い奴である。
お高いものだったので彼女にあげてしまうのはなんとなく気が引けるが、あいにく今はコレしかない。
少しもったいないけど、どうしたって僕の中の知的好奇心にあらがう事は出来なかった。
まあ、一個くらいならあげちゃっても良いだろう。全部で十個入りだし。
だけど今度からは安っぽいせんべいなんかも常備しておこうかな。
「さあ、持って来たよ。早速食べてみてくれ」
言って赤蛮奇の方を見やると、彼女の頭はぷかぷか浮かんだ状態で大きく口を開けていた。
僕が目を瞬かせて体の方に視線をやると、彼女の手が僕に向かって手招きしているのが見えた。
おい、つまりこれは、そういうことか?
「…食べさせろというんだね?」
「そのとおりよ。良くわかってるわねあんた」
「分離してても手は動くんだろ?自分で食べればいいのに」
「せっかくくだらない思いつきに付き合ってあげてるのよ?ほら、早く」
くだらない思いつきと一蹴されてしまった。僕としてはとても興味深い案件なんだが。
だがわざわざ反論を講じるのもなんだか無駄な気がしたので大人しく彼女の言に従おう。
僕は饅頭を一つ取り出して二つに割り、赤蛮奇の浮かんだ頭に差し出した。
「はい、どうぞ」
「ちょっと、こういう時はあーんって言いなさいよ」
「お断りだね。僕に何を期待してるんだ」
「もう…いいけどさ。あーんっ」
僕が言わないので彼女は自分で言う事にしたようだ。
赤蛮奇は僕の差し出した饅頭にぱくりとかぶりついた。
ひとしきり口をもぐもぐさせている。
「おいひいふぁねこのおまんひゅう」
「物を食べながら喋るんじゃないよ」
「ふぁーい」
赤蛮奇はもぐもぐしながら僕の周りを頭だけでふよふよと回り始めた。
なんだかもの凄く落ち着かない。冷静に考えてみると、僕の周囲には生首が飛び回っているというわけだ。
なんというかシュールだ。シュールすぎる。ここが幻想郷でよかった。幻想郷は全てを受け入れてくれるのだ。
で、肝心の饅頭はどうなったかな。
「ごくん」
「飲み込んだかい?」
「ちゃんと飲み込んだわ」
「で、饅頭は?」
「私の口の中にはないわね」
赤蛮奇が口を開けてみせてくれた。
確かに彼女の口の中に饅頭は残っていないようだった。
飲み込んだのなら当然の話ではあるのだが。
「饅頭はどこにいったんだろう」
「胃袋じゃない?食べたんだし」
「でも胃袋は繋がってないじゃないか」
「そう言われたって困るんだけど…」
おかしい。飲み込まれた饅頭はどこへ消えたのだろうか。
今、彼女の頭と胴体は分離している。そして胃袋は胴体の部分にある。
一般的な常識に基づいて考えた場合、喉から食道、そして胃袋への食物の移動は不可能なはずだ。
ならば、一般的でない常識に基づいて考えたらどうなるか。
例えば、饅頭は彼女の口の中から胃袋に向けて零時移動を行ったとか。
有り得る。有り得る話だ。幻想郷ではテレポーテーションは不可能なことではない。
しかしそんなものは巫女だけの特権だけと思っていた。まさか饅頭にも瞬間移動が可能だとは知らなかった。
あるいはこういう説はどうだろうか。
ろくろ首の食道の途中にはスキマが開いていて、そのスキマは胃袋の中へ通じているとか。
これも面白い案だ。スキマは空間をねじ曲げて繋げてしまう力を持つ。
この説ならば分離していても食事が可能な事に納得がいく。だがあの八雲紫以外にスキマを操る妖怪がいるのか?
ふむ、ろくろ首の構造原理とは思った以上に面白いもののようだ。
先ほどの言葉は訂正しよう。ろくろ首が何故首を飛ばせるかと考えてみるのも悪くないかも知れない。
聞く所によるとろくろ首の首は九つに分裂することもできるらしい。それもいつか見てみたいものだ。
そう言えば、首が多い妖怪というのは他にも色々居たな。
古いところだと八岐大蛇とか。西洋にはケルベロスなんていう三つ首犬の伝説もあるらしい。
もしかするとろくろ首も元々はそういう多頭妖怪の仲間だったりするのかも……
「ちょっとー!」
「おっ!?」
僕が思案の海を彷徨っていると突然、ごんっ、と頭に鈍い衝撃が走った。
少しふらついた僕が立ち直ってみてみると、既に体と頭を合体させた赤蛮奇が膨れっ面でこっちを見ていた。
それで、どうやら宙に浮いた赤蛮奇の頭が僕に頭突きを食らわせたらしいというのが分かった。
「女の子を放っといて考え事なんて、良い度胸してるじゃない」
「…それはすまなかった。だがね、いきなり頭突きはないだろう?」
「あんた…さっき自分が私に何したか忘れた?」
「さあ。なんだったっけ」
ぺしっ。
今度は直接手刀を頂いてしまった。
「おいおい、いたいじゃないか」
「うるさい。分かっててとぼけてるくせに」
「おっと。バレてたかな」
「ホントいい性格してるわね。罰としてもっとお饅頭を食べさせなさい」
「僕としてはキミの方がよっぽどいい性格してると思うよ」
「しりませーん。さ、早く早く」
僕が了承するより早く赤蛮奇は口を開けて待機している。
もう実験は終わったし、首も繋がった今では僕が彼女に饅頭を食べさせてやる義理もない気がするのだが。
だがややこしい事態になるのも面倒なので諦めて従おう。世の中は諦めが肝心なのだ。
僕はいそいそと饅頭を食べやすい大きさに割って彼女の口に運んでやる。
彼女は僕の手から直接口で饅頭を受け取っては、またもぐもぐと食べ進めていく。
「ごくん…本当に美味しいわね、このお饅頭。これならいくらでも食べられそう」
「おいおい、まだ食べるつもりか?一個だけだと思ったのに」
「そりゃあ、私が満足するまで食べるわ。ほら、あーん」
「はいはい。分かったよ」
彼女の勢いが留まる気配はない。まったくこの食いしん坊め。
もう深夜だというのに、そんなにお腹が空いているのか。
だがにこにこと幸せ顔で饅頭を食べていく赤蛮奇を見ていると、なんだか文句を言うのも憚られるような気がした。
ろくろ首はプライドが高い。
そんなことを誰かが言っていたような気がしたけれど、僕は信じない。
本当にプライドの高い妖怪は、こうして誰かに食べさせてもらうなんてことはしないだろう。
まったく、これではまるで餌付けのようだ。言ったら怒られるから、決して口には出さないが。
「霖之助ー。お茶おかわりー!」
椅子に座ったまま、足をバタバタさせて湯のみを差し出す赤蛮奇に僕は苦笑しながら席を立った。
やれやれ。ここは茶屋じゃないんだけどな。せめて、饅頭が全て彼女のお腹に消えていく前にはこのろくろ首を帰さないと。
待てよ。僕だって彼女に食べ尽される前に饅頭の一個くらい摘んだっていいじゃないか。
秋の夜長に読書もいいが、友人とともに饅頭を食べて過ごすのもオツだろう。だったら、僕のお茶のおかわりも淹れておくか。
コオロギの涼やかな鳴き声が窓の外から聞こえてくる。着実に秋が近づいてきている証拠だ。
日中、蝉の声を聞く事も少なくなった。これから先、もっと秋が深まれば気温もさがって過ごしやすくなっていく。
そうなると夜もますます冷えるようになるだろう。風邪などを引かないように十分留意しないといけない。
僕はおかわりのお茶を先ほどよりも幾分温かいものにして赤蛮奇に出してやった。
後書きのかっこつけたばんきっきも見てみたいです
要するにいくさんとかりんちゃんとかいう大人が傍にいると安定するというかなんというか
興味深い着眼点でした。面白かったです。
原作の会話を思い出してみるとだいたいこんな感じだったような気がしました。
食べ物がどうなるのかは最初に思い浮かぶ疑問でしょうなぁ。
テレポするのも謎ですが、食べ物が頭から胴体まで一直線に飛んで行くのが見えるのも怖そうです。