その日の早苗の帰宅は、普段よりも早かった。
幻想郷の平和を守るため、周辺の見回りを日課としている。会う妖怪全てに因縁吹っかけてぶちのめすのだが、運良くその日に限って誰とも会わずに済んだのだった。運が良かったのは早苗と妖怪のどちらかは置いといて。
もしかすると、朝から眠気を感じていたから、無意識的に奇跡を起こしていたのかもしれない。
空き時間ができたのをよいことに、早苗はとりあえず自分の部屋で一眠りすることにした。
盛夏の暑さで頭が茹だっていたためか、それとも眠気が先行していたためか、「ただいま」と言いもしなかったし、部屋の中の気配にも気づかなかった。早苗は障子を開けた。
すると、そこには、鏡の前でセーラー服を体に合わせている神奈子の姿が!
「もう二度と『ただいま』も言わずに帰宅したりしないよ」
これには早苗も苦笑い……する余裕もなく、漂白された表情で意味不明な言葉をつぶやくと障子を閉め、後ろ向きに立ち去ろうとした。このまま後ろ向きに巡回ルートを逆行するのだ。
しかし、本人の願い通りに時間の巻き戻しが叶うはずもなく、血相を変えた神奈子に止められる。
「ま、ままま待って、早苗、これは、これは違うの!」
「ハイ、ソーデスネー、チガイマスネー」
「こっちを見て話してぇええっ」
「すみません、では落ち着いて話をするために、少しいいですか」
「いいけど、何?」
「奇跡の力で記憶を脳ごと吹っ飛ばしたいんです」
「落ち着くためにそこまでしないと?!」
「いえ、大丈夫です、少しは気分が良く……うぼぁー」
「早苗?!」
神奈子の胸に倒れ込んだ早苗は、身体を細かく震わせ始める。その死んだ魚のような目の有様は、今にもダゴン教に改宗せんほどだった。
「あれ、おかしいな、おかしいな、なんで夏真っ盛りなのに私の心には極寒のブリザードが吹雪いてるんだろう」
「そんなにトラウマ植えつけるほどの光景だったのっ? むしろ私のトラウマになりそうだよ! とにかくしっかりして早苗ーっ!」
「ああ、窓に、窓に」
SAN値直葬の凄染蝕品と化した早苗は、いあいあとうわ言を漏らし出す。神奈子は世間体もあるので、とりあえず部屋に連れ込んだ。
「ひっひっふー、ひっひっふー」
「ゆっくり呼吸して、早苗」
神奈子の膝枕で荒い息を整える早苗。少しは顔色が良くなってきたようだ。
団扇で早苗をあおぎながら、神奈子は気になっていたことを聞く。
「それにしても、そんなに酷かった? 私に似合わなかった? その、……セ、セーラー服」
「……あ、いえいえ、先ほどは突然のことで取り乱してしまいましたが、」
膝の上から見上げつつ、早苗は答える。
「ほほえましいお姿を拝見させていただいて、私も何だか甘酸っぱいものが込み上げてきました。胃の中から」
「吐き気催してるじゃん!」
「どのような理由であのようなことをなされていたんですか? 場合によっては緊急入院の必要が、」
「病気みたいに言わないで! ……いや、その、ほら、早苗も諏訪子も参拝客とかに人気じゃない?」
「そう、でしょうか……ね?」
自信なさげに答える早苗。現代では失われた大和撫子の奥ゆかしさだ。
「そうだよ! 少なくとも私よりは人気者だ」
「それはわかります」
「そこは断言?!」
Yesと言える日本人でもあった。
「だって、こないだの文々新聞での人気投票(守矢神社編)では、大差がついてましたし。ダントツ一位の諏訪子様と比べると、神奈子様は、その」
「言うな! くっ、諏訪子の奴……ビニールプールで遊んでいるところを撮らせるならまだしも、早苗のスクール水着を着るなんてあざとい真似しやがって……」
「あれはカラスの盗撮だったので狙ってやったわけじゃないと思いますが、まぁそれだけ需要が高かったということですよ。そっち方面の」
どっち方面かの詳細は省く。
なお、神奈子は四位のドンケツ。三位は諏訪子の帽子だった。
「せめて写真付きの人気投票じゃなかったら……私、写真写りは悪いんだよ」
「いえ、まだフィルター通した方が見られたものになるんじゃないでしょうk……ゲフンゲフン」
神奈子がすごい形相であおいでいた団扇を縦にしたので、チョップを食らう前に早苗は咳でごまかした。
「にしても! 『洩矢諏訪子・スクール水着で水浴』に負けるだけじゃなく、『Zun帽・生まれたままの姿で鎮座』にも惨敗って! あれ以下の人気か、私は!」
「はぁ、それで人気を得ようと、同じような服を着てみることを考えたわけですね。年甲斐もなく」
「諏訪子と同い年だよ、私! ……くぅ、いいじゃないか、私だって、私だって、短いスカート履いて『きゃっ、イタズラな風さんが☆』とかやってみたいよ! くそっ、何だよ、このガチガチの服は! しかも、オプションにしめ縄と石柱って! 台風が来ても揺るがねえよ!!」
「表現を変えてみたらどうでしょう? 『タイトな和風装束、魅惑の曲線しめ縄とおこりんぼオンバシラを添えて』みたいな」
「どこのおしゃれレストランだ。もういい!」
神奈子は決然と立ち上がった。膝枕を取っ払われた早苗は、頭を畳に打ちつけ「ぎゃふん」と言った。
「こうなったら服なんぞとっぱらってパンモロで人前に出てやる! 己のパンティーを衆目にさらし、セックスアピールするのだ!」
「神奈子様、実はパンティー派?! いやいやそんなことじゃなくて」
「世の男どものオンバシラをエクスパンデッドしてやる!」
「ちょ、落ち着いてください。全年齢対象、全年齢対象ですから、ここ!」
「くそっなんて時代だ! こんないい女ほっとくなんて、世の中どうかしてるよ!」
「そ、そうですよ。きっと草食系男子ばかりになったからです」
「だよな、みんな奥手なんだよな」
「ええ、そのうち悪食系が現れますって」
「慰めてるふりして落とすなーッ!」
涙目で神の粥をパイ投げの持ち方で構える神奈子に、早苗は流石に言い過ぎたかと反省し、「どうどう」と鼻息の荒いガンキャノンをなだめる。火傷はしたくない。
「要は分析と対策です。人気が出ない理由を考え、どうすれば人気が出るのかを考えましょう。それで道は開けるはずです。ね?」
「道は、開ける……」
「世の需要は、JKと出産経験済み幼女にしかないわけじゃないですから。神奈子様のようなBBAでもお好きな方はいますし」
「BBAって?」
「あっ……」
「どういう意味?」
「び、ビューティフル・ビヨンド・アクターです。飾らない美しさを持った存在とでもいいますか」
「目をそらし気味なのが若干気になるが……まあ、いい。そうだな、やればできるか。男に人気が出ない理由ねぇ、うーん」
神奈子は腕組みをして考え込む。何とか取り繕えた早苗は、ホッとしつつ神奈子の考察の手助けをする。
「何かありませんか。飲み会のときとか、たくさんの人がいる中でハメを外し過ぎちゃう失敗、珍しくないそうですし」
「飲み会……あっ、そういえば」
「心当たりがありますか。飲み会には男の人も同席することが多いですから」
早苗は身を乗り出す。神奈子は視線を斜め上にし、記憶を掘り起こす。
「酔っぱらうと記憶が定かじゃなくなるんだが、あぁ、あれだ、誰彼構わず接吻しちゃうみたいだな」
「キス魔になるんですね」
「まあ、でもほら、女はともかく、男たちにはサービスみたいなもんだろ?」
「あとで確認しておきます。心的外傷後ストレス障害(PTSD)になった人がいないか」
「そこまでのレベル?!」
「自分のことキス魔っていう人は、加害者だという自覚が足りないことが多いんですよ。嫌がってる素振り、絶対にあったでしょう?」
「え、でも前にキスした人、喜んで白目剥いてブリッジしたまま走り出したけど」
「それ、何かに取り憑かれていますよ! 早く神社に連れてきてください、除霊しますから!」
よく異変扱いにならなかったものである。(byちびまる子のナレーション)
「じゃあ、あとでお詫びに私のプロマイドを御・進・呈☆ってことで」
「呪いのアイテムもらっても死の罰ゲームにしかなりませんよ」
「酷っ!」
「どっちがですか! 嫌われるに十分なことしてて自覚がないなんて! いったい何様ですか!」
「とんでもねえ、あたしゃ神様だよ」
※神いわゆるゴッド。
「何というか……もう神といっても、新世界の神としてリンゴ好きの死神に殺されるレベルですね。ともかく、わかりましたよ、一番の原因はそこ、」
早苗は合点がいったように頷く。
「つまり、性格が最悪だったわけですね。やれやれです。年齢、容姿ときて、ここまでクズ要素満載とは」
「どこまでけなしたら気が済むの?!」
さりげなく性格以外にもダメ出しするあたり、早苗もいい性格をしている。
「いや、ちょっと待って、多少性格に欠点があった方が魅力的ってこともあるでしょ」
「確かに言う人が言えば魅力的でしょうね。ちなみに神奈子様は言わない方がいい部類の有機物です」
「いっ、いくらなんでも神性を剥奪した上、生物かも怪しい位置づけにするのは……!」
「そのくらい酷いんですよ、神奈子様は。目が覚めないようなら、合掌捻りを二回食らわせた後、ヘッドバットをかましましょうか?」
「そ、そういう二拍一礼はいらないかなぁ…………ゴ、ゴメンナサイ」
ジト目の早苗から発される殺意の波動に、後ずさりするほど気圧されてしまう神奈子であった。
早苗としては信仰心がリーマンショック並に下がるのを危惧しているのだろう。怒るのも当然と言えた。
「でも、問題点がいくらあっても、ここは一発逆転で、早苗が奇跡を起こしてくれたらいいんじゃないかな? ダメ?」
両手をこすりあわせてお願いする神奈子に、もはや威厳もいの字も存在してなかった。
そこまでしてモテたいのか、と早苗はため息をついて答える。
「たしかに0.0000000000001%の確率をも100%に引き上げるのが奇跡です」
「でしょ!」
「しかし、可能性0はどうにもできません」
「ミッション・インポッシブル?!」
「もういい加減あきらめたらどうですか。男日照りの役満完成してるんですよ」
「ああ、そうだよ、どうせモテないよ! ミレニアムバージンだよ、くそぅ! 諏訪子ーっ、何とかしてくれーっ! 諏訪子ォーッ!」
「ちょっ、突然トチ狂って叫ばないでください! いくら雨乞いの神様だからって、男日照りは解決できませんよっ!」
「女恋(アマゴイ)の神様だろ!」
「上手いこと言っても事実は改変不能です!」
「ぐ、ぐぅうう、自分はモテてると思ってぇっ!」
「私は神奈子様のように残念なことしてませんから」
「何ぃ? おい、早苗!」
神奈子はビシッと人差し指を早苗に突きつける。その剣幕に思わずのけぞる早苗。
「な、何ですか」
「お前だって! いともたやすくえげつない行為してるじゃないか!」
「何を根拠にっ! そんなD4Cなことはしてません!」
「ほぉ~お? じゃあ、こないだの宴会で村の若い衆に相談してたのは何だ? 『男の人って、胸が小さいの気にするんでしょうか……?』だっけ?」
「ぎくっ」
「しおらしい演技しやがって! 相手は貧乳好きだって計算の上でのことだろうが! あざといんだよ!」
「そ、そんなことは! 違いますよ!」
こんなに自分に対して観察眼の鋭い方だったのだろうか? 早苗は図星を突かれてマドマギ、もといドギマギする。こんなの絶対おかしいよ。
「本気で悩みを相談したいのならなぁ、『男の人って、腹毛が濃いの気にするかな?』ぐらい言ってみろ!」
「ひぃい?! なぜそれを!」
「知らいでか! 私は早苗が産湯に浸かったときから今日まで、入浴シーンは一切見逃したことはない!」
「堂々と覗き魔宣言?!」
「どうしてだよ、あんなに均整の取れた体つきしてて……! しかも顔もかわいくて……!」
「えっ」
「その上、性格まで良いなんてなったら、私なんか早苗の近くにいられないじゃないか……っ」
「神奈子様……」
涙ぐみ顔を伏せる神奈子、その両肩を早苗の手がガシッとつかむ。
「早苗っ?」
「神奈子様も素晴らしいです!」
「ええっ?」
「美人でグラマー! なのに自覚なく残念なことをしてしまうというギャップ! 何とか魅力的に見せようと努力するところも、自身の魅力を卑下してしまう慎ましさも、その全てが最高です! 好きです!」
「えええっ?!」
「私のセーラー服を着ようとしてたとき、本当は嬉しかったです! これで一年はオカズに困らないって!」
「私の覗きを上回る性癖暴露とな?!」
「男にモテたいなんてとんでもない! 神奈子様は私だけ見ていればいいんです! ずっと!」
「早苗……」
「神奈子様……」
見つめ合う二人。紡ぐべき言葉は、そう、一つしかなかった。
「結婚しよ」
「喜んで」
HAPPY END!
幻想郷の平和を守るため、周辺の見回りを日課としている。会う妖怪全てに因縁吹っかけてぶちのめすのだが、運良くその日に限って誰とも会わずに済んだのだった。運が良かったのは早苗と妖怪のどちらかは置いといて。
もしかすると、朝から眠気を感じていたから、無意識的に奇跡を起こしていたのかもしれない。
空き時間ができたのをよいことに、早苗はとりあえず自分の部屋で一眠りすることにした。
盛夏の暑さで頭が茹だっていたためか、それとも眠気が先行していたためか、「ただいま」と言いもしなかったし、部屋の中の気配にも気づかなかった。早苗は障子を開けた。
すると、そこには、鏡の前でセーラー服を体に合わせている神奈子の姿が!
「もう二度と『ただいま』も言わずに帰宅したりしないよ」
これには早苗も苦笑い……する余裕もなく、漂白された表情で意味不明な言葉をつぶやくと障子を閉め、後ろ向きに立ち去ろうとした。このまま後ろ向きに巡回ルートを逆行するのだ。
しかし、本人の願い通りに時間の巻き戻しが叶うはずもなく、血相を変えた神奈子に止められる。
「ま、ままま待って、早苗、これは、これは違うの!」
「ハイ、ソーデスネー、チガイマスネー」
「こっちを見て話してぇええっ」
「すみません、では落ち着いて話をするために、少しいいですか」
「いいけど、何?」
「奇跡の力で記憶を脳ごと吹っ飛ばしたいんです」
「落ち着くためにそこまでしないと?!」
「いえ、大丈夫です、少しは気分が良く……うぼぁー」
「早苗?!」
神奈子の胸に倒れ込んだ早苗は、身体を細かく震わせ始める。その死んだ魚のような目の有様は、今にもダゴン教に改宗せんほどだった。
「あれ、おかしいな、おかしいな、なんで夏真っ盛りなのに私の心には極寒のブリザードが吹雪いてるんだろう」
「そんなにトラウマ植えつけるほどの光景だったのっ? むしろ私のトラウマになりそうだよ! とにかくしっかりして早苗ーっ!」
「ああ、窓に、窓に」
SAN値直葬の凄染蝕品と化した早苗は、いあいあとうわ言を漏らし出す。神奈子は世間体もあるので、とりあえず部屋に連れ込んだ。
「ひっひっふー、ひっひっふー」
「ゆっくり呼吸して、早苗」
神奈子の膝枕で荒い息を整える早苗。少しは顔色が良くなってきたようだ。
団扇で早苗をあおぎながら、神奈子は気になっていたことを聞く。
「それにしても、そんなに酷かった? 私に似合わなかった? その、……セ、セーラー服」
「……あ、いえいえ、先ほどは突然のことで取り乱してしまいましたが、」
膝の上から見上げつつ、早苗は答える。
「ほほえましいお姿を拝見させていただいて、私も何だか甘酸っぱいものが込み上げてきました。胃の中から」
「吐き気催してるじゃん!」
「どのような理由であのようなことをなされていたんですか? 場合によっては緊急入院の必要が、」
「病気みたいに言わないで! ……いや、その、ほら、早苗も諏訪子も参拝客とかに人気じゃない?」
「そう、でしょうか……ね?」
自信なさげに答える早苗。現代では失われた大和撫子の奥ゆかしさだ。
「そうだよ! 少なくとも私よりは人気者だ」
「それはわかります」
「そこは断言?!」
Yesと言える日本人でもあった。
「だって、こないだの文々新聞での人気投票(守矢神社編)では、大差がついてましたし。ダントツ一位の諏訪子様と比べると、神奈子様は、その」
「言うな! くっ、諏訪子の奴……ビニールプールで遊んでいるところを撮らせるならまだしも、早苗のスクール水着を着るなんてあざとい真似しやがって……」
「あれはカラスの盗撮だったので狙ってやったわけじゃないと思いますが、まぁそれだけ需要が高かったということですよ。そっち方面の」
どっち方面かの詳細は省く。
なお、神奈子は四位のドンケツ。三位は諏訪子の帽子だった。
「せめて写真付きの人気投票じゃなかったら……私、写真写りは悪いんだよ」
「いえ、まだフィルター通した方が見られたものになるんじゃないでしょうk……ゲフンゲフン」
神奈子がすごい形相であおいでいた団扇を縦にしたので、チョップを食らう前に早苗は咳でごまかした。
「にしても! 『洩矢諏訪子・スクール水着で水浴』に負けるだけじゃなく、『Zun帽・生まれたままの姿で鎮座』にも惨敗って! あれ以下の人気か、私は!」
「はぁ、それで人気を得ようと、同じような服を着てみることを考えたわけですね。年甲斐もなく」
「諏訪子と同い年だよ、私! ……くぅ、いいじゃないか、私だって、私だって、短いスカート履いて『きゃっ、イタズラな風さんが☆』とかやってみたいよ! くそっ、何だよ、このガチガチの服は! しかも、オプションにしめ縄と石柱って! 台風が来ても揺るがねえよ!!」
「表現を変えてみたらどうでしょう? 『タイトな和風装束、魅惑の曲線しめ縄とおこりんぼオンバシラを添えて』みたいな」
「どこのおしゃれレストランだ。もういい!」
神奈子は決然と立ち上がった。膝枕を取っ払われた早苗は、頭を畳に打ちつけ「ぎゃふん」と言った。
「こうなったら服なんぞとっぱらってパンモロで人前に出てやる! 己のパンティーを衆目にさらし、セックスアピールするのだ!」
「神奈子様、実はパンティー派?! いやいやそんなことじゃなくて」
「世の男どものオンバシラをエクスパンデッドしてやる!」
「ちょ、落ち着いてください。全年齢対象、全年齢対象ですから、ここ!」
「くそっなんて時代だ! こんないい女ほっとくなんて、世の中どうかしてるよ!」
「そ、そうですよ。きっと草食系男子ばかりになったからです」
「だよな、みんな奥手なんだよな」
「ええ、そのうち悪食系が現れますって」
「慰めてるふりして落とすなーッ!」
涙目で神の粥をパイ投げの持ち方で構える神奈子に、早苗は流石に言い過ぎたかと反省し、「どうどう」と鼻息の荒いガンキャノンをなだめる。火傷はしたくない。
「要は分析と対策です。人気が出ない理由を考え、どうすれば人気が出るのかを考えましょう。それで道は開けるはずです。ね?」
「道は、開ける……」
「世の需要は、JKと出産経験済み幼女にしかないわけじゃないですから。神奈子様のようなBBAでもお好きな方はいますし」
「BBAって?」
「あっ……」
「どういう意味?」
「び、ビューティフル・ビヨンド・アクターです。飾らない美しさを持った存在とでもいいますか」
「目をそらし気味なのが若干気になるが……まあ、いい。そうだな、やればできるか。男に人気が出ない理由ねぇ、うーん」
神奈子は腕組みをして考え込む。何とか取り繕えた早苗は、ホッとしつつ神奈子の考察の手助けをする。
「何かありませんか。飲み会のときとか、たくさんの人がいる中でハメを外し過ぎちゃう失敗、珍しくないそうですし」
「飲み会……あっ、そういえば」
「心当たりがありますか。飲み会には男の人も同席することが多いですから」
早苗は身を乗り出す。神奈子は視線を斜め上にし、記憶を掘り起こす。
「酔っぱらうと記憶が定かじゃなくなるんだが、あぁ、あれだ、誰彼構わず接吻しちゃうみたいだな」
「キス魔になるんですね」
「まあ、でもほら、女はともかく、男たちにはサービスみたいなもんだろ?」
「あとで確認しておきます。心的外傷後ストレス障害(PTSD)になった人がいないか」
「そこまでのレベル?!」
「自分のことキス魔っていう人は、加害者だという自覚が足りないことが多いんですよ。嫌がってる素振り、絶対にあったでしょう?」
「え、でも前にキスした人、喜んで白目剥いてブリッジしたまま走り出したけど」
「それ、何かに取り憑かれていますよ! 早く神社に連れてきてください、除霊しますから!」
よく異変扱いにならなかったものである。(byちびまる子のナレーション)
「じゃあ、あとでお詫びに私のプロマイドを御・進・呈☆ってことで」
「呪いのアイテムもらっても死の罰ゲームにしかなりませんよ」
「酷っ!」
「どっちがですか! 嫌われるに十分なことしてて自覚がないなんて! いったい何様ですか!」
「とんでもねえ、あたしゃ神様だよ」
※神いわゆるゴッド。
「何というか……もう神といっても、新世界の神としてリンゴ好きの死神に殺されるレベルですね。ともかく、わかりましたよ、一番の原因はそこ、」
早苗は合点がいったように頷く。
「つまり、性格が最悪だったわけですね。やれやれです。年齢、容姿ときて、ここまでクズ要素満載とは」
「どこまでけなしたら気が済むの?!」
さりげなく性格以外にもダメ出しするあたり、早苗もいい性格をしている。
「いや、ちょっと待って、多少性格に欠点があった方が魅力的ってこともあるでしょ」
「確かに言う人が言えば魅力的でしょうね。ちなみに神奈子様は言わない方がいい部類の有機物です」
「いっ、いくらなんでも神性を剥奪した上、生物かも怪しい位置づけにするのは……!」
「そのくらい酷いんですよ、神奈子様は。目が覚めないようなら、合掌捻りを二回食らわせた後、ヘッドバットをかましましょうか?」
「そ、そういう二拍一礼はいらないかなぁ…………ゴ、ゴメンナサイ」
ジト目の早苗から発される殺意の波動に、後ずさりするほど気圧されてしまう神奈子であった。
早苗としては信仰心がリーマンショック並に下がるのを危惧しているのだろう。怒るのも当然と言えた。
「でも、問題点がいくらあっても、ここは一発逆転で、早苗が奇跡を起こしてくれたらいいんじゃないかな? ダメ?」
両手をこすりあわせてお願いする神奈子に、もはや威厳もいの字も存在してなかった。
そこまでしてモテたいのか、と早苗はため息をついて答える。
「たしかに0.0000000000001%の確率をも100%に引き上げるのが奇跡です」
「でしょ!」
「しかし、可能性0はどうにもできません」
「ミッション・インポッシブル?!」
「もういい加減あきらめたらどうですか。男日照りの役満完成してるんですよ」
「ああ、そうだよ、どうせモテないよ! ミレニアムバージンだよ、くそぅ! 諏訪子ーっ、何とかしてくれーっ! 諏訪子ォーッ!」
「ちょっ、突然トチ狂って叫ばないでください! いくら雨乞いの神様だからって、男日照りは解決できませんよっ!」
「女恋(アマゴイ)の神様だろ!」
「上手いこと言っても事実は改変不能です!」
「ぐ、ぐぅうう、自分はモテてると思ってぇっ!」
「私は神奈子様のように残念なことしてませんから」
「何ぃ? おい、早苗!」
神奈子はビシッと人差し指を早苗に突きつける。その剣幕に思わずのけぞる早苗。
「な、何ですか」
「お前だって! いともたやすくえげつない行為してるじゃないか!」
「何を根拠にっ! そんなD4Cなことはしてません!」
「ほぉ~お? じゃあ、こないだの宴会で村の若い衆に相談してたのは何だ? 『男の人って、胸が小さいの気にするんでしょうか……?』だっけ?」
「ぎくっ」
「しおらしい演技しやがって! 相手は貧乳好きだって計算の上でのことだろうが! あざといんだよ!」
「そ、そんなことは! 違いますよ!」
こんなに自分に対して観察眼の鋭い方だったのだろうか? 早苗は図星を突かれてマドマギ、もといドギマギする。こんなの絶対おかしいよ。
「本気で悩みを相談したいのならなぁ、『男の人って、腹毛が濃いの気にするかな?』ぐらい言ってみろ!」
「ひぃい?! なぜそれを!」
「知らいでか! 私は早苗が産湯に浸かったときから今日まで、入浴シーンは一切見逃したことはない!」
「堂々と覗き魔宣言?!」
「どうしてだよ、あんなに均整の取れた体つきしてて……! しかも顔もかわいくて……!」
「えっ」
「その上、性格まで良いなんてなったら、私なんか早苗の近くにいられないじゃないか……っ」
「神奈子様……」
涙ぐみ顔を伏せる神奈子、その両肩を早苗の手がガシッとつかむ。
「早苗っ?」
「神奈子様も素晴らしいです!」
「ええっ?」
「美人でグラマー! なのに自覚なく残念なことをしてしまうというギャップ! 何とか魅力的に見せようと努力するところも、自身の魅力を卑下してしまう慎ましさも、その全てが最高です! 好きです!」
「えええっ?!」
「私のセーラー服を着ようとしてたとき、本当は嬉しかったです! これで一年はオカズに困らないって!」
「私の覗きを上回る性癖暴露とな?!」
「男にモテたいなんてとんでもない! 神奈子様は私だけ見ていればいいんです! ずっと!」
「早苗……」
「神奈子様……」
見つめ合う二人。紡ぐべき言葉は、そう、一つしかなかった。
「結婚しよ」
「喜んで」
HAPPY END!
でも、神奈子様の人気がZUN 帽に負けるなんて、こんなの絶対おかしいよ!
楽しみに待ってますww
あー!幸せ!
最後の展開が最高にムカついた。
やるからにはこのレベルくらいに突っ走って欲しい、そう思わされるようなSSでした。
メタ要素とか、変なパロディとかが、寒いキャラ崩壊とかが、全て笑いに昇華されています。