Coolier - 新生・東方創想話

椛と趣味2

2013/08/30 20:44:32
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※この話は作品集188「椛と趣味」の続きになっています。駄文です。
 また、頂いたコメントも読むと、何故こんな話なのかわかると思います。









犬走椛は妖怪の山に住む白狼天狗である。妖怪の山は閉鎖的で、特に天狗は一部の例外を除きほとんどを山で過ごす。
彼女も例外ではなかったのだが、最近は非番になると頻繁に出かけるようになった。
場所も一貫性が無く博麗神社、守矢神社、人間の里、香霖堂、挙句に紅魔館にまで足を延ばしているのだ。
突然の変化に周囲はどうしたものかと思ったが、なんてことはない。単に将棋好きが高じて、話をしに行ったり実際に指しに行ったりしているのだ。
妖怪の山は基本的に外部を受け入れない。だから彼女が行くのである。
これはそんな彼女の休日。



「サラリーマンって何ですか?」
ここは人里の喫茶店、外の世界から定住した人間が開いたものだ。先ほどまで、彼の店先で椛は村人と本将棋を指していたのだ。
長くても数時間程度で終わる、広く知られている将棋だ。外の世界もほとんど同じルールらしい。
朝から対局した為、昼前には対局が終わり、彼女は相手が帰った後に一服をしていた。
冷茶のお代わりを持ってきてくれた店主に、以前別の外来人が漏らしたことを尋ねてみた。
特に意味は無い、単に思い出したのだ。
その時は外の世界のプロ棋士という将棋指しの制度と成り方についての話に夢中で聞き流していたのだが、彼女は今さらになって引っかかったのだ。
幻想郷で生まれた椛は若い。長年生きている妖怪や神達から話を聞くと、専業の将棋指しは昔から居たらしい。中には俸禄を受ける家もあった様だが、ほとんどは別に職を持ったり賭博だったようだ。
話がずれた。
「要は勤め人だよ」
もう中年になる店主は、苦笑しながら答えた。
「ところで何でそんなことを?」
「大したことじゃないんですが、この前『定年退職したサラリーマンみたい』と言われたもので」
ああ、と店主は苦笑いをする。
対局後に差し入れられた団子を頬張りながら細かく話を聞く。勤め先によっては一定の年齢になると仕事を辞めさせられてしまう。これを定年退職という。その時には老人といっても良い年齢なのだが、それまで『勤め先で仕事をすること』で長年過ごし、趣味を持たずに過ごした者の中には、人生にむなしくなってしまったり、これまでの生活との差から日常生活に支障が出るようになることもあるらしい。そして、中には趣味を探して四苦八苦する者までいる様だ。
「そこまで酷くは無いですよ。だいたい私は現役です」
現役というか、若く、下っ端だ。
確かに趣味を探してにとりと霊夢に相談したが、そこまで酷くは無いと彼女は思った。
頬を丸く膨らませている椛が子供っぽく見え、店主は小さく笑った。
「しかし、剣は趣味というわけではないでしょう?」
横に置いた剣と楯を見て、店主が言う。
「……友人にも話しましたが、完全な日課です。今朝も素振りをしましたし。
 趣味といえば趣味ですけど、せっかくの非番に丸一日を剣を振るう気にもなれないですね」
ここで冷茶を一口飲む。
「非番が合わず、友人と会わないことも多いです。家でごろごろするよりも、何か別の事を、と考えたんですよ。
 結局、やっていることは将棋に絡んでいますから、あまり変わらないわけですがね」
「そんなことは無いでしょう。今までお見かけすることはなかったですし」
店主は初めて会った時のことを思い出す。寺子屋の先生である上白沢慧音と共に、白狼天狗が訪ねてきた。剣と楯を持ち、真剣な面持ちで佇む若い女の天狗。正直、何事かと思った。
「肝が冷えましたよ、あれは」
「そんなにすごい顔をしていましたかね」
「してました」
初対面なのでどういうふうに話そうか考えていただけなのだ、椛は。振り返った慧音先生がぎょっとして、知り合いか、本当に大丈夫なのかと問われたのもいい思い出だ。尻尾も逆立っていたらしい。そのせいで、将棋をする天狗の話が広まってしまった。
噂ってすごい。冷静に考えれば、将棋くらいするだろう。常識的なことが驚かれるまで、交流が無かったと言うべきか。
妖怪の山の閉鎖性、ここに極まれり。
その後、店主と少し話をし、お茶の代金を払うつもりで財布を出したところ、店主は笑顔で今日はお金をいらないと言う。対局すると人だかり(妖怪も混じっているが)ができて、いつもより繁盛するとのこと。
せっかくの好意なので素直に受け取ることにする。礼を言うと椛は少し早目の昼食にすることにした。



「ということがあったんですよ」
場所は変わって紅魔館の大図書館。椛はメイド長である、十六夜咲夜とチェスをしていた。
昼食後、人里を歩いているとばったり遭遇し、誘われたのだ。
彼女は乾いた笑みを浮かべていた。いつも涼しい顔をする彼女にしては珍しい。
そういえば紅魔館のメンバーは最近まで外の世界にいたのだ。
「咲夜さん、何か他に意味があるのですか?」
「気にしないで下さい」
彼女とは人里で将棋をしていた時に知り合った。
はさみ将棋やまわり将棋、じゃんけんで勝った方が駒を動かせる将棋他、変則将棋(ローカルルール)を里に住む子供たちと遊んでいたところ、見ていた彼女に声を掛けられたのが始まりだった。彼女は将棋を知らなかったのだ。
本将棋について教えたところ、チェスの話になった。
椛はチェスを知らなかった。西洋のものだという。
紅魔館の大図書館に移動して、チェスのルールを教えて貰いながら実際にしてみるとなかなか面白い。やがてパチュリー・ノーレッジと小悪魔も加わった。
両方とも古代の印度(インド)のチャトランガとかいうボードゲームが起源らしい。どうも起源を同じとするゲームは世界中にあり、将棋やチェスはその一部のようだ。ある本に書かれていたらしい。その本は小悪魔が時間を見つけて探している。魔法で管理しているのに、見つからないのが司書としてのプライドに触れたらしい。
膨大な書籍の数だ。一冊や二冊、行方不明になるもの無理はないと思うのだが。何か白黒も出没するらしいし。
「しかし、不思議ですね」
注いでもらった紅茶を飲みながら、一手進める。クッキーも頬張る。咲夜お手製らしい。
甘いお茶と美味しいお菓子は大好きなのである。思わず尻尾が左右に動くが、意識して止める。はしたない。
「何が不思議なのかしら」
咲夜が盤面から顔を上げる。
「外の世界で現役なのに、幻想郷でも楽しめるんですから」
椛の一言にきょとんとした顔を見せた。そして彼女は笑った。男だったら惚れていたかもしれない。



「ということがあったんですよ」
今度は博麗神社、紅魔館の出来事を話しながら、霊夢を相手にオセロをやっていた。香霖堂の店主は曰く、似たゲームにリバーシ、源平碁というものもあるらしい。細かい違いはわからないし、オセロしか知らない。
別にオセロで良いじゃない。碁石ではなく、専用の石を使っているんだし。
盤に石を打って、霊夢の石を引っくり返しながら、椛は思った。
「外の世界で行われているのに、幻想郷でも楽しめるもの、か」
紅魔館で咲夜とのやりとりを話すと、霊夢は少し考え
「それを言ったら極端な話、服やお米もそうなるんじゃない? こっちは必需品だけど。
 外来人から入ってくることもあるし。このオセロも早苗から教わったわ」
守矢神社にオセロの実物があったので、覚えるのは簡単だった。話を聞いたにとりがすぐ石と盤を作ってくれたし。
最初に軋轢があったので守矢神社との関係はどうなのかと思っていたが、意外と良好らしい。聞けば東風谷早苗は頻繁に遊びに来る様だ。
椛は咲夜から分けて貰ったクッキーを一つ摘まみ、口に入れる。日本茶との相性も良い。
「そういえば、この前人里で早苗さんがオセロしてました」
「へぇ、それで結果は?」
「最後まで見ませんでしたよ。私も将棋を指したので」
「そう。それにしても」
霊夢の口元が緩む。
「何です」
「白黒といえば、魔理沙なのにね」
「確かに」
二人して笑う。霊夢が石を打ち、椛の石を引っくり返す。
「しかし『定年退職したサラリーマン』か」
ある意味事の発端ともいえる言葉だ。
「霊夢は巫女ですよ。勤め人とは違います」
「というより勤め人が少ないわよね」
「ん、宗教関係だとなんか違う気がしますし、妖怪の山と人里くらいですかね。ああ、永遠亭はどうですか?」
「確かにあそこは薬屋だし。そうかも。
 ああ、冥界や死神関係もそれっぽいわね」
「言われてみれば。宗教以外で組織の頭でもない。何だ、探せば結構いそうですね」
 主に誰かの従者か? そんなことを考えながら椛が石を打つ。
 霊夢が自分の石の色がだいぶ減ったことを見ながら、
「そこにいる鴉天狗はどうかしら? 仕事辞めたらどうなると思う?」
「新聞を取り上げられたら、何をするんでしょうか。公私問わず取材するのは立派とは思いますが。
 他に何かしている所を見たことは無いですし、それこそ『定年退職したサラリーマンみたい』になるのでは?」
射命丸だ。盗み聞きしているわけではないだろう。そうなら気配を消し、徹底していたはずだ。単に博麗神社に相性の悪い椛がいるので、入りにくいだけかもしれない。
ばさばさ。羽をこする音がした。帰ったらしい。
「……すすり泣くような声がしました。言い過ぎたかも」
「……神社に来たらフォローしておくわ」
「頼みます」
少し言い過ぎたかもしれない。椛は少し反省した。



「ということがあったんですよ」
ミスティアの屋台で八目鰻のかば焼きを頬張りながら、椛は言った。
隣にはにとり。霊夢も誘ったが断られた。『ちょっとスキマと話がある』らしい。何だろう。
既に日没。仕事を終えたにとりと屋台で合流した椛は、今日一日について話をしていた。
にとりは顔を引きつらせ、乾いた笑い声を出していた。ミスティアの笑顔も固まっているように見えた。
「しかし、随分出かけるようになったよねぇ」
「うん」
話を聞きに行ったり対局しに行ったり、とにかく行動範囲が広がった。
気分転換にもなるので仕事にも身が入る。暇なときは次の手でも考えていればいいのだ
「そういや、ルールを書いたメモが溜まってから整理しようと思う」
「そう。ってどのくらいの種類やったの?」
「そんなでもないけど、見たことのないものが結構あったからね。
 将棋もあんなに遊び方があったなんて知らなかったし」
子供や外来人がやっていた変則的な将棋を簡単に伝える。
「ほー」
「そんな遊びがあるんですか」
他にもチェスやオセロ、今日はやっていないが例の謎の駒をつかう軍人将棋。いろいろ覚えたものだ。
ここでにとりが
「でも遊び天狗にはならないでよ」
遊び人ならぬ遊び天狗。手を休めて飲んでいたミスティアが噴き出した。
将棋狂い、碁狂いの話くらいは聞いたことがある。
「……趣味の範囲に留めるから安心してくれ」
酒を一口飲んだ。
「ところで」
ミスティアが口を挟む。珍しい。
椛はあれから何度か訪れたが、彼女は歌うことはあっても会話に口を挟まないのだ。
「これを見てもらえます? 先ほどの届いた号外ですが」
差し出されたのは文々。新聞。
射命丸文の新聞だ。椛は嫌な予感と共に、不機嫌な顔で受け取った。にとりも覗き込む。
そして椛は完全に固まり、にとりは大爆笑を始めた。
見出しは『趣味を探して三千里』。
勝手に椛の特集が組まれていた。
写真も充実している。今朝、椛が人里で村人と将棋を指す場面、子供と将棋を指す場面、霊夢とオセロをしている場面だ。他にも以前に対局したものが使われている。
随分前の対局もある、一体いつの間に撮ったのか。過去の写真は何故持っている。
文章は椛の行動だけが書かれ、本人の談話などは一切ない。対局相手と話相手の話はあったが。
いつ聞き出しだんだ。相手の名前を知らないこともあるのに。
椛の知る範囲では嘘が無いだけに、捏造が無いだけに始末が悪い。
というか、早い。
最後は『射命丸文は生涯現役です』と締めくくられていた。



後日、椛が射命丸を追っかけ回すのはまた別の話。
更に人間の里で子供に「将棋のお姉ちゃん」と呼ばれ、対局が増えるのもまた別の話。
天狗ってどういう制度なんだろう。定年まで後何千年?


最後まで読んでいただき有難うございます。
先日、初投稿をした者です。

嬉しい事に、私が書いた駄文「椛と趣味」にコメントがありました。
ざっくりと「退職した団塊サラリーマンみたいです」「定年で引退した仕事に生きてきた人みたいだ」
……椛は現役、下っ端(多分若い)なんですが。
納得できず、否定もできず、さて困った。

んー、これ言われたら椛はどんな反応するんだろう。
書いてみました。
続けるかどうかはわかりません。

さて、本文中にありましたチャトランガやリバーシ、源平碁他についてはネットで調べながら書いたので、細かいことはわかりませんし、したこともありません。
「どこかにある本に書かれていた様だ」等⇒ネットで調べてみた。


感想がありましたら、よろしくお願いします。



対局の勝ち負け? 椛が楽しんでいるから、どっちでもいいです。

追加
誤字修正:守谷神社⇒守矢神社
「~らしい」「~様だ」が多いので修正 
脱字修正 
烏天狗⇒鴉天狗 他
ガラスサイコロ
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コメント



0.1070簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
守矢神社が守屋や守谷になってるのでマイナス10点
話自体は幻想郷の様々の場面が見れて面白かったです
2.90名前が無い程度の能力削除
あー。定年退職の件なのですが、前作に『スペルカードルールが導入されてから、特に顕著だな。とにかく時間が余る』とあったので、仕事がなくなって生きがいを無くしているイメージがそれっぽい、と思った次第なのです。

閉鎖的な妖怪の山はしかも労働力が硬直的なのかもしれません。でなければ、必要のなくなった哨戒任務の代わりに、何か他の仕事が生まれていくことでしょう。市場原理万歳。

ともかく、当の椛は周囲に引かれるくらいに将棋に熱中しているようで、無事別の生きがいを見つけられたようで何よりです。
6.80名前が無い程度の能力削除
「将棋のお姉ちゃん」で子供達をぞろぞろ引き連れて歩く椛を想像しました
淡々としてたり、でも悩んだり、色々と椛がかわいい
8.80名前が無い程度の能力削除
根に持つ射命丸が地味にかわええ……………
10.100名前が無い程度の能力削除
尻尾ふりふりは抑えなくてもいいのよ?
この椛は可愛い。真面目可愛い。
11.90奇声を発する程度の能力削除
お互い可愛らしくて良かったです
12.100絶望を司る程度の能力削除
楽しんだ者勝ちだと思うぜ
16.70名前が無い程度の能力削除
特に霊夢との会話のシーンが気に入りました。

ただ、本文が読みづらいです。
読点を打ち過ぎです。
結構気になりました。

そんな事より椛かわいいよっ!
17.90名前が無い程度の能力削除
椛は絶対堅牢で手堅く真面目な戦法だと思っているのはきっと僕だけ
18.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
ぜひまた投稿して欲しい
20.90名前が無い程度の能力削除
牧歌的な幻想郷の日常と、仲の悪い椛と文がいい感じで面白かったです。ただ、余計な物言いかとは思いますが、あまり駄文などといってご自分の文章を卑下しないほうがいいと思います。自分以外にも、たくさんの人が評価しているのですし。
28.100名前が無い程度の能力削除
面白い!
34.803削除
コメント拾いましたかw 私もコメントを見て何となく納得した覚えがあります。
「将棋のお姉ちゃん」ですか、いいですね。椛かわいい。
さてさてこの話は続くのでしょうか。
あと椛の戦法はきっと堅実でありながら、隙を見せた相手の喉元に一気に食いつく感じに違いない。