【紅魔郷EXの舞台裏】
※フランドールの扱いについて、かなりのオリジナル設定を含みます。
「レミィ!」
パチュリーはノックもせずにレミリアの書斎の扉を開いた。そのまま早足で歩いて、レミリアの向かいに座る。珍しく急いで歩いたせいで、軽く息が切れた。
「どうしたのよ、パチェ。そんなに慌てて」
「あなた、博麗の巫女のところに行ったって本当!?」
「霊夢のとこ? 行ったけど? それがどうかした?」
何事もなかったように言うレミリア。
しかし。
だがしかし、パチュリーの脳内では大変なことが起こっていた。
ま、まさか本当に行くなんて!
しかも霊夢って名前で呼びつけ!?
わたしなんか、博麗の巫女としか呼べないのに。なんでレミィは平然と「霊夢」なんて言えるのよ。
もしわたしが呼んだら……。わたしが「霊夢」って呼んだら、霊夢も「パチェ」って呼んでくれるのかな?
うわ! どうしよう。霊夢が「パチェ」って呼んでくれるなんて!
もし、そんな関係になれたら、一緒に本を読んだりできるのかしら?
できれば一冊の本を一緒に読んだりとか。でも霊夢が隣にいたら、本の内容なんかぜんぜん頭に入ってこないかも。
そうしたら「パチェ、ちゃんと読んでる?」なんて言って、「仕方ないわねぇ」って言ったあと、本の内容を教えてくれたりして。
霊夢の東洋魔術、凄かったから。
たくさんの札や針を同時に扱って、結界も張って。それでも息一つ切らさずに、凛とした表情で戦っていた。
わたしも全部のスペルカードを見せたわけじゃないし、とっておきは残してあるけど、使ったところで勝てはしないだろう。
でも、霊夢に見てもらいたい気もする。わたしが見た東洋魔術師のなかで一番だったあの人に。わたしの全力のスペルカードを。
「本当にかっこよかったなぁ。黒髪をなびかせて」
「おーい。パチェー、戻ってこーい」
「えっ!」
どうやらいつの間にか自分の世界に入り込んでしまっていたらしい。すっかり目の前の親友のことを忘れていた。
「とりあえず、パチェが霊夢に一目惚れしたってことはわかったわ」
「べっ、別に一目惚れなんかしてないわよ! ただ……、ちょっと憧れただけだもん」
「はいはい。目をハートマークにして妄想してた魔法使いが言っても、説得力ないわよ」
「そんな目してない!」
ぎゅっと手に持った魔導書を抱きしめながらレミィに抗議。もう、なんでこんなにこの親友は意地悪なんだろう。結構得意なジト目でにらめつけてやったが、レミィは目に薄く涙を浮かべながらクスクス笑っていた。
「はぁ、それにしても、パチェが霊夢に一目惚れなんてねぇ」
「なによ? 悪い?」
「いや、霊夢なら安心だよ。わたしの親友の恋人として」
「レミィ……」
さっきまでの憎たらしい笑顔を引っ込めて言ったレミリアの言葉は、すんなりとパチュリーの胸に入り込んだ。
思わず言葉を失ったパチュリーに、レミリアは言葉を続ける。
「ずっと図書館にいたパチェが、外の世界に目をむけてくれるなんてね。ちょっと親友を奪われたみたいで悔しいけど」
「ごめん」
「いいわよ。親友なんてそんなものだから。それで、大切な親友のためにわたしは何をすればいいかしら?」
「えっと……」
特にレミリアに頼みごとをするつもりはなかったパチュリー。
けれども、今のレミリアにはなんでも要望を受け付けてくれそうな雰囲気があった。
今、頼みたいこと。それは博麗の巫女をここに呼んでもらうこと。自分から博麗神社に行くなんてことなんて、恥ずかしくてできない。
だから、わたしはこう言った。
「ねぇ、博麗の巫女を呼ぶために、もう一回異変起こしてくれない?」
「えっ!?」
わたしが言った瞬間、レミィは固まった。
あれ? わたし変なこと言ったかしら?
☆☆☆
「パチュリー様。博麗の巫女さんがいらっしゃいましたよ」
「わかったわ」
決行当日。
小悪魔の声で図書館の外に出た。
今日の作戦は以下のようなものだ。
・妹様に、ずっと監禁されて、始末のつかない暴れん坊という不幸な設定を背負ってもらう
・雨を降らせて博麗神社に行ったレミィを戻れなくして、代わりに霊夢に来てもらう
・パチュリーが玄関と妹様の部屋の間で待ち伏せ
・そのあとは頑張る
最初の設定は、妹様は嫌がったが、霊夢と戦ってみたいという気持ちが勝ったらしい。結局受け入れてくれた。まぁ、こんな設定なんて、あとで訂正すればいいだけだ。
それよりも問題の部分は「頑張る」のところである。
何をどう頑張ればいいのだろうか?
霊夢と戦うことを頑張るのだろうか?
それとも、何か別のことをするのだろうか?
たとえば、霊夢を図書館に連れ込んで、「紅茶でもどう?」とか。
そこで、「今日は博麗の巫女さん……、じゃなくて霊夢と会いたくて、ちょっとイタズラをしたの。本当は妹様もいい子なのよ? それでお話なんだけど……」みたいな。
できるかバカ野郎。そんなスラスラ話せるなら、とっくに博麗神社に行ってるわ。
まだ名前ですら呼べないのに。
三日三晩悩んだ挙句、パチュリーは以下の手順を踏むことにした。
1.とりあえず自身が霊夢と全力で戦う
2.さらに妹様と戦ってもらう、
3.霊夢が疲れたところを小悪魔にお茶に誘ってもらう
4.小悪魔に助けてもらいながら、なんとか話す
非常に回りくどい。
でも、近づく方法がこれくらいしか浮かばないのだ。回りくどいではなく、用意周到と言ってもらいたい。いかにも魔法使いらしいじゃない。
「ふぅ」
パチュリーは小さく溜息をついて、廊下の角で立ち止まった。
奥からは弾幕を打ち合う音と、妖精の悲鳴が聞こえてくる。この先に、霊夢がいる。
そのことを意識すると、わずかに鼓動が早くなった。
呼吸が浅くなり、手に持っている魔導書がやけに重たく感じる。
今日は喘息の調子もよかったはずなのに。
でも、もう戻れない。
霊夢はすぐそこまで来ている。妖精メイドなど、足止めにもならないはずだ。
10メートル。
5メートル。
3メートル。
2メートル。
霊夢が1メートル手前まで来た瞬間、パチュリーはふわりと浮かび、とびだした。
「おっと」
いきなり飛び出してきたパチュリーに、思わず霊夢も攻撃の手が止まった。
そして、2人の間に沈黙が降りる。
…………。
…………。
…………。
傍から見れば、達人達が機をうかがっているようにも見えるが、パチュリーの内心はそれどころではなかった。
え、えっと。なんて言えばいいのよ!
それともノンディレクショナルレーザーでも撃つ?
でも、いきなり攻撃なんて。
最初に会ったときも多少は会話したし。
あ、ちょっと髪が濡れてるし、服も透けてる。そういえば、館の周りの雨を通って来てるのよね。
そんな中来るなんて大変だなぁ。
って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!
相変わらず霊夢は無言でじっとこちらを見つめている。
あぁ、もう沈黙が辛い!
「なによ、また来たの?」
沈黙に耐えかねて言った瞬間、パチュリーは自身にシルフィホルンでも撃とうかと思った。
もっとまともな言葉、いくらでもあるのに!
「雨の中、わざわざ来たの?」とか、「いらっしゃい」とか。
それがよりによって、「また来たの?」だなんて。しかも「なによ」のオマケつき。
もう死にたいくらいだ。
「また来たの」
けれども霊夢は何事もなかったように言った。
しかも、小さな微笑みと一緒に。
とりあえずなんとか最悪の事態は回避できたが、霊夢は攻撃をしてこなかった。
つまりはまだ会話をしなくてはならないわけで。
またしても、パチュリーの頭の中は大パニックに陥っていく。
なんて返せばいいのよ!
いまさら「いらっしゃい」なんて言えないし。
それにしても、今日も霊夢はかっこいいなぁ。
ちょっと濡れた髪に、凛とした顔。巫女服の着こなしも完璧。
黒い瞳は黒曜石みたいだ。
あぁもう、また見とれてた。霊夢に見とれてる場合じゃなくて!
なにか言わないと。
それともやっぱり弾幕?
できればスペルカードの前に挨拶したいのよね。
でも、ノンディレクショナルレーザーくらいしかないし。
二度ネタは……。
じゃあ、話すしかないじゃない!
えっと。
えっと。
あ、そういえば今日は喘息の調子がよかった。
「今日は、喘息も調子いいから、とっておきの魔法。見せてあげるわ!」
ま、まただ。
なんでこんなにも言葉が不器用なのだろう。
いきなり喘息とか言ってしまった。
しかも、とっておきの魔法を見せると言ったので、いきなりスペルカードを打ち込むしかない。
ー月符ーサイレントセレナ
パチュリーは霊夢にばれないようにこっそりと溜息をついてスペルカードを宣言した。
☆☆☆
【監禁】
「ねぇ、暇なんだけど」
パジャマ姿の霊夢がパチュリーの膝に頭を乗っけながら言った。
大きなソファーにコロンと横になった霊夢は、まるで猫のようだ。
お風呂から出たばっかりなので、なんとなく甘い香りもする。
「そう? ならそろそろ寝る? ちょっと早いけど」
図書館にある時計は夜の8時を指していた。いくら朝が早い霊夢とはいえ、まだ寝るには早い時間だ。
「パチュリー、日本語は正しく使った方がいいわ。あんたの場合、ベッドに行かない? でしょ?」
「霊夢、誘ってるの? それと、またわたしのこと、パチュリーって呼んだわね?」
「はいはいすみませんでした、ご主人様。どうせ好き勝手やるくせに」
「まぁ権利は持ってるし、大人しく遊ばれなさい」
言いながら、霊夢の首筋を指先でくすぐると、「ひゃん!」と可愛い声で鳴いてくれる。もう襲ってしまっても構わないだろうか?
くすぐったそうに身をよじる度に、首輪や手錠の鎖がカチャカチャと音をたてて、支配欲が高まってしまう。
「でも、こんなことしなくても、逃げないわよ?」
霊夢は手錠を鳴らしながら言った。
手錠も、図書館の柱に鎖がのびる首輪も、パチュリーがつけたものだ。もちろんどちらの鍵も、パチュリーのポケットに入っている。
「いいのよ。一回やってみたかったの。霊夢の監禁」
「監禁って……。なんか、あんまりされてる気分じゃないけどなぁ」
「何? もっとされたいの? 霊夢って、意外とマゾ?」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ」
お仕置きとばかりに、また霊夢をくすぐって遊ぶ。手を使えない霊夢は、パチュリーの膝の上で鳴くことしかできない。
今日、霊夢が監禁されてるのは、単純にパチュリーが頼み込んだからである。
冗談混じりに「ねぇ、1日図書館に監禁されてみない?」と尋ねたら、「お茶と玉露1缶と引き換えならいいわよ」と言ってくれたのだ。
本人曰く、「どうせ図書館で1日過ごすなんてよくあることだから」ということらしい。「それだけで玉露1缶なら、喜んで監禁されてあげるわ」と言った。
思わず、「そんなにわたしのこと信頼してくれてるの? そのまま逃がさない可能性もあるのよ?」と尋ねたら、「パチュリーにそんなことできるの?」と返されてしまった。
もちろん、できるわけない。それは、物理的ではなく、精神的に。霊夢の信頼を裏切るなんてこと、できるわけがない。
でも、霊夢と恋人になる前は、本気で監禁しようと思ったことが何度もあった。
霊夢は誰にでも優しいしので、思わずヤキモチを妬きたくなってしまうのだ。それに、人間だからすぐに死んでしまう。
だったら、監禁してわたし以外見えなくしてしまい、捨虫の術をかけてしまえばいい。そうすれば、霊夢はずっとわたしのものになる。別に魔女として何も問題はない。
けれども、パチュリーにはできなかった。
なぜできなかったのか、霊夢と恋人になってしばらくするまでわからなかった。
だけど今なら……。
そう思った瞬間、わき腹にくすぐったさが走った。
「ひゃうっ! れ、霊夢?」
「隙だらけよ、ご主人様」
キラキラとした瞳で霊夢が笑いながら、不自由な手でくすぐってくる。
いたずらっぽい顔が小さな少女のようで、トクンと鼓動がはねた。
純粋無垢。
そんな言葉がぴったりな表情だ。こんな表情ができる人間は、他にはいないだろう。純粋で真っ白な霊夢が、わたしは好きだ。
「こら。いたずら娘にはお仕置きが必要ね」
くすぐったさを我慢して、霊夢の手を抑えた。
「ねぇパチュリー、今ドキドキしてるでしょ」
ほとんど抵抗できないはずの霊夢は、イタズラっぽい笑みのまま言った。
「そんなことないわよ……」
口では抵抗するが、真っ黒な瞳でじっと見つめられると少しずつ鼓動が大きくなっていく。
もしかすると、顔もすこし赤くなってるかもしれない。
「ふふふ、大丈夫よ。ちゃんと顔も赤くなってるから」
「なっ」
言われた瞬間、顔が沸き立つような気がした。
無垢なくせして読心術を使ってくる霊夢。一瞬霊夢が人間ではなく悪魔のように見えた。
ーーいや、霊夢はもしかしたら本当に悪魔なのかもしれない。
パチュリーはふと思った。
霊夢の体の自由を奪って、霊夢を支配している。
それなのに、霊夢の行動や言葉一つでわたしの心は簡単に支配されてしまう。
まるで、心が霊夢のものになってしまったみたいだ。
わたしの心は、霊夢という悪魔の檻の中でもてあそばれている。
けれども、不思議とその感覚が嫌いでなかった。
おそらく、それが霊夢を監禁しなかった理由だ。
わたしは、霊夢を支配したかったと同時に、霊夢に支配されたかったのだ。
「パチュリー?」
霊夢の声で、想像の世界から現実に引き戻された。膝の上では霊夢がキョトンとした表情を浮かべている。「どうしたの?」と、聞きたそうな表情だ。
そっと頭を撫でて、お姫様だっこをして立ち上がった。
霊夢の重さと暖かさを感じて、手に入れた幸せを静かにかみしめる。
そして、そこで2人の幸せな時間は終わった。
「ねぇ、霊夢?」
自分でも驚くほど優しい猫撫で声がでた。逆に怖かったのか、霊夢の体が腕の中でビクンと跳ねる。
怯えた瞳をする霊夢を無視して、柱に繋がれた首輪の鎖を外した。
そして、そのまま寝室に運んで、ベッドの柱に鎖をつなぐ。
これで、霊夢はベッドから逃げられない。完全にわたしのもの。今夜限定だけど。
これからは、わたしが霊夢で遊んで幸せを感じる時間だ。
「霊夢? さっきはよくもわたしをもてあそんでくれたわね?」
「あ、あれはパチュリーが勝手に赤くなっただけでしょ?」
「さっきいたずら娘にはお仕置きって言ったわよね? ついでに言葉使いも直させないと。何度言ったらご主人様って言えるのかしら?」
「だって、なかなか慣れないっていうか、つい……」
「言葉でわからない娘には、体で覚えさせないと!」
言いながらパチュリーは霊夢の肩を軽く突き飛ばした。手が使えない霊夢は悲鳴をあげて簡単に押し倒される。
「せっ、せめて灯りくらい消してよ! 恥ずかしいじゃない!」
ようやく回避が無理なことを悟ったらしい霊夢は、せめてもの抵抗をしてきた。たしかに、明るいままでは恥ずかしい。
けれども、「たまには明るいままで、霊夢が恥ずかしがるのをじっくり楽しむのも……」なんて考えも頭をよぎる。
数秒の考慮の後、パチュリーの頭の中で、1つの結論に達した。
つまり、霊夢は暗くて、わたしが明るければいいのだ。
それなら……。
「霊夢、勝手にほどいたら、手もベッドに縛り付けるから」
紫色のリボンで目隠しをしながら、霊夢に脅しをかける。
時間を確認すれば、まだ8時30分。
「ふふふ、まだまだ夜は長いわよ。れ・い・む」
そっと霊夢の耳もとで囁いて、パチュリーの楽しい夜がはじまった。
☆☆☆
【ありがとう】
夜の博麗神社。
夕食を終えた和室では、来客達が思い思いの時間を過ごしていた。
ルーミアはお煎餅を食べ、妹紅はお茶を飲み、自分、パチュリー・ノーレッジは本を読む。
この神社の主である霊夢は、台所で食器洗いをしていた。
「ここに来るたびに、霊夢にご馳走になってる気がするわね」
静かにお茶を啜っていた妹紅が言った。
「ここに来れば、みんな食べてくよ?」
「ルーミアも、いつも食べてくの?」
「うん。霊夢、いっつも食べさせてくれるから」
「なら、ちゃんと『ありがとう』って言っておかないとね」
「えー、霊夢に『ありがとう』は言う必要ないよ」
ルーミアは当然のように言った。
妹紅は驚いて、「食べさせてもらったら、ちゃんとお礼を言わなくちゃだめだよ」とルーミアを軽く叱る。
けれどもルーミアは引き下がらなかった。
「もちろん、霊夢に感謝はしてるよ? でも、霊夢が優しいのはいつものことだよ? 『ありがとう』っていうのは、滅多にないことに使うんだから、いつも優しくてご飯を食べさせてくれる霊夢に使うのはおかしいもん」
ルーミアの言葉に、妹紅は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに「有り難いか……」とつぶやいた。
それっきり、会話は途切れた。
理由は、妹紅が焦点の合ってない瞳で物思いにふけり始めたからである。
パチュリーには妹紅が考えていることが、手に取るようにわかった。
それは、人間なら誰しもが思い悩むことであり、ゆくゆくは自分自身も立ち向かうであろう問題。
「ルーミア、ちゃんと霊夢には『ありがとう』って言った方がいいわ。言おうと思ったときには、言えなくなってるかもしれないから」
妹紅の言葉は、パチュリーの予想通りのものだった。
それは人間が書いた物語で、たびたび出てきた後悔。
当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではなかったこと。
そしてそのことに気付くのは、失ってからで。
そのときに「ありがとう」と言おうと思っても、言う相手はすでにいなくなってしまっているのだ。
けれども、人間は決してこの運命から逃れることはできない。
なぜなら、「ありがとう」と言おうと思えるのは、「有り難い」と気づいてからだから。
日常の当たり前に組み込まれているうちは、「有り難い」とは思えない。
そして、それはパチュリー自身も例外ではない。
恋をした相手は人間。
その寿命は、決して長いとはいえない。
だから、この優しい日常も、そう遠くはない未来には崩れてしまう。
ーーなにもしなければ。
「ううん。霊夢だけはいいの」
ルーミアが妹紅にきっぱりと言った。
その言い方に、妹紅は小さな驚きを隠せなかった。子供のような妖怪の言葉としては、あまりに強い物言いだったから。
「パチュリーがね、絶対に霊夢は人間のまま死なせないって言ってるの。わたしも霊夢が好きだから、それを信じてる。だから、まだまだずっと生きてる霊夢に『ありがとう』とは言わないの」
ルーミアの言葉に、迷いは一切なかった。
妹紅がルーミアから視線をそらし、こちらに向ける。
その視線には、様々な感情が混ざっていた。
本気? という驚き。
そんなことしていいと思ってるの? という怒り。
それは辛い運命なのにいいの? という慈しみ。
パチュリーよりもはるかに長い時を生き、これからも永遠に生きる妹紅。蓬莱人とはいえ、基本的には人間である妹紅には受け入れがたい感覚かもしれない。
けれども、わたしは魔法使いだ。魔法使いには魔法使いの流儀がある。
「霊夢がわたしとずっと一緒に居たいと思えば、霊夢も人間であることをやめるはずよ。人間の寿命は、あまりに短すぎる」
「霊夢は博麗の巫女よ? 簡単に人間をやめるとは思えないわ」
「簡単にやめてくれるとは思ってないわ。でも、可能性はある。それがあるなら、わたしは諦めない」
霊夢のことが大切だから、無理矢理術をかけることはしない。
手段を取るなら、霊夢が自分から求めたとき。
もし、人間のまま死ぬつもりなら、その意思を喜んで受けいれる覚悟はできている。
そのときは、霊夢がずっと一緒にいたいと思える相手として、自分が未熟なだけだから。
「わたしはあなたより少しだけ長く生きてる。だから言わせてもらうわ」
パチュリーの言葉を聞いた妹紅が静かに言った。
「あなたの覚悟は甘すぎるわ。現実は、それよりもはるかに厳しい。それでもその道を行くの?」
「行くわ」
妹紅の問いに、パチュリーは即答した。強く輝く妹紅の瞳を真っ直ぐに見つめる。
自分の覚悟が甘ったるいことも、自覚はしているつもりだ。
「そう。ならわたしは何も言わないわ。頑張りなさい」
数秒の沈黙のあと、妹紅は穏やかに言った。「頑張りなさい」の部分には、暖かな優しさすら感じられた。
わたしは、人間に恋をしてしまった魔法使い。
その人間は、強くて、優しくて、わたしを魅了し続ける。
そんな輝きを、人間の寿命なんかで手放せはしない。
だから。
「はぁ。やっと食器洗い終わったわ」
「お疲れ様、霊夢。今日も美味しかったわよ」
「どういたしまして」
「ありがとう」は、言わない。
それなりに甘くてよろしいのだが、ちょっと行き過ぎる場面も...だがそれを何故書かなかったのだと言ってしまうのがこの私だ。
まあ、霊夢にとってはありえないことなんだけど。
フランの出番もあったほうが良かったと思うんだけどなあ…。
次回作を楽しみにしております。
二項目目ですが、行動の描写がちょっとおかしいです。
パチュリーは霊夢をお姫さま抱っこをしているのに、何故突き飛ばせるのですか?
それに両手がふさがっているのによく鎖を外せましたね。魔法で外したのならまだわかるのですが...。
あとフランが登場しないなら、最初の注意書きは必要ないと思います。
そして更なる感想を。
小悪魔がかわいそうだ。
ちなみに「書かなかった」のは続きの事です。
妄想だけに止めておきます。
では失礼いたしました。
読み進めるに連れて少しずつ慣れていくことが出来ました。
短編×3の構成も珍しいですね。中々面白かったです。
個人的には、フランの設定が全部捏造ってところが一番面白かったので、
折角なのでフランも出して欲しかった所ですが、本筋から外れてしまいますよね。難しい。