「……んぁっ……うっ」
目を開けて身体を起こそうとすると思わず声が漏れるほどの痛みが身体を襲った。ここは……地霊殿の随分奥のほうだが、私は何でこんな場所で寝ていたのだろうか。
「お燐大丈夫?」
「……お空?」
お空が心配そうに私を覗きこんできた。……何となく思い出してきた。私はお空と弾幕ごっこをしたんだった。朧気な記憶をたどれば目の前が真っ白な光りに包まれていった光景が思い出される。ズタボロで倒れていた自分、そしていつもと変わらぬ様子で私に声をかけてくるお空。……勝敗は明白だ。
「……大丈夫、これくらい平気」
「よかった……。ごめんね?この力うまく加減できなくて……」
「……」
「お燐?」
「……ん?」
あぁ、駄目だ。お空の頭はよくないかも知れないが、特別鈍いわけじゃない。とりあえず今はやり過ごさなきゃ。
「さてそろそろ仕事に戻らなきゃ。いつまでも遊んでるわけにはいかないし」
「……ごめん。もう今日の仕事は終わっちゃった」
「そ、そっか。ずっとあたいについていてくれたのかい?ありがとう、お空」
「当然だよ。私達は友達でしょ?」
「……そうだね」
ちょっと前までの私なら今のお空の言葉にも自然に反応できただろう。お空は八咫烏の力によって見た目が変わってしまったが、それ以上に持っている力の大きさが変わった。……そして私たちの力関係も。
「お空……」
「何?」
「……その……今日できなかった仕事の調節はあたいが何とかしておくけど、明日は少し忙しくなるかもしれないよ」
「うん、でも平気だよ!今の私なら」
「そっか。じゃああたいは明日に備えて部屋で休むから。お休み」
「うん、お休み」
少し歩くとお空が喜んではしゃぐ声が聞こえてきた。私の前では遠慮していたのかもしれないが、やはり勝てたことが嬉しかったのだろう。私の耳がいいことはすっかり忘れているようだ。
「神の力……か……」
声を振り切るように走って自室に向かった。その間に目から零れた涙は傷の痛みのせいか、負けたことへの悔しさか、お空に『おめでとう』と言って頭をなでてあげられなかった後悔か、それとも……今の私には分からなかった。
◇◇
お空に負けてから二週間程経った。あれ以来お空と会話する機会がほとんどなかった。いや、正確には会話する機会がないようにしていた。数日の間は包帯を丈の長い服で隠し、体の痛みをごまかしながら仕事を続けていたが、少し前には完治して妖精やペットの仕事のまとめ役にも復帰している。だというのにここ最近は小さなミスをしてばかりだ。
「貴方達は死体の分別をおねがい」
私はここが地獄だった時代から生きている。当時の私は生きるために必死だった。火車は妖怪からも嫌われ、仲間のいない私はただ強く、賢くなることが必要だった。魑魅魍魎や怨霊を食べ、努力の末に身につけた力でここを生き抜いてきたのだ。
「貴方達は興奮してる怨霊を鎮めてきて」
ある日ここに地霊殿が建ち、新しい主が現れ仮初とはいえ秩序が生まれた。主の名前は『古明地さとり』、嫌われ者の覚妖怪だった。彼女の能力に惹かれた者や彼女の周りの平穏に惹かれた者達が集まるまで時間はかからず、その全てを古明地さとりはペットとして受け入れた。
「え?鬼達からの意見書?後で目を通しておくから置いておいて」
増え続けるペットは限がなかったが、管理しきれなくなってもさとり様は追い出すことはせず、自身の仕事を任せるようになった。さとり様は元からこの仕事に乗り気でなかったのか、すぐにペットが全ての仕事を管理するようになり、要領の良さや力の大きさ、怨霊を操る能力と世話焼きな性格から自然と私が仕切るようになった。
「灼熱地獄跡の様子が変ね……前にお空の様子を見に行った子達は何をしてるのよ」
「それが……誰もお空を止められなくて」
それから変わることなく続くと思っていた日常は、地上からやってきた神によってあっけなく崩れ去ろうとしている。お空はいとも簡単に神の力を手に入れ、私ではどうすることもできなくなってしまった。もし他の妖精やペット達もこの力を手に入れたら……私はそれでも必要なのだろうか……。
「あぁもう……じゃあ死体補充係から適当に何人か連れて行って構わないから止めてきて。なんなら見張りの子達を連れて行ってもいいわ」
「あの……」
「何よ!」
……らしくもなく声を荒らげてハッとする。周りの視線、目の前の妖精の震える姿、急激に頭が冷えていく。八つ当たりなんてらしくない。
「……ごめん、あたいが悪かった。それで、どうしたの?」
「……すいませんお燐。もう私達では何人で束になってもお空を止める事ができそうにありません」
視線の高さを合わせて優しく声をかけてやると、震えながらもぽつりぽつりと話し始める。少し考えれば分かるはずだった。今のお空をこの子達が止められるわけなどないのだ。
「……分かった。貴方はもう休憩に入っていいわ。お空のところにはあたいが行く」
「すいません……」
「大丈夫!無茶な仕事を振ったあたいが悪いから気にしないで」
久しぶりにお空に会いに行く。最近お空は地上進出がどうのこうのと言って力を暴走させることがあると報告にある。このままいけばさとり様に迷惑がかかりかねない。お空を力で止められるとは思えないが、見過ごすわけにもいかない。とりあえず説得を試みる他ないだろう。
◇◇
「あ、お燐久しぶり!」
「……そうだね」
久しぶりに見たお空は二週間前と何も変わってなかった。……いやお空から感じる力は増していた。
「ねぇ見てお燐、私の力どんどん強くなってる。まだコントロール出来てないけど、使いこなせたらきっとすごいことになるよ」
「お空の仕事はここの温度調節。他の仕事は今は必要ないでしょ」
ここ最近の報告では、灼熱地獄跡の温度は目標値を随分上回っている。過ぎたるは猶及ばざるが如し、このままではいけない。
「私考えたんだけどさ……地上に進出しようと思うの」
「妖精の子達もそんなこと言ってたわね。一体どうしたのさ?」
「今の私の力ならできると思うんだ」
今の地上がどうなっているのかは分からないが、ここが存在する以上少なくても境界の妖怪、楽園の巫女、そしてお空に力を与えた山の神がいるはずだ。いくら強いといってもお空一人でどうにかなる相手ではない。
「いくらなんでも無理よ」
「でも……」
「何で突然そんなことを言い出したのさ」
「……最近全然さとり様が会いに来てくれないでしょ?」
さとり様が私達に会いにこないのは最近の話ではない。いつの間にか会う機会を逸してしまい、かなりの月日が経つ。それに対しては寂しく思う反面、私達を信頼しているからと受け取ることにしていた。
「それがどうかしたの?」
「私……さとり様に嫌われちゃったんじゃないかと思って……」
「……それでなんで地上進出に繋がるの?」
『そんなわけない』とは言えなかった。私も心のどこかでその考えがあったからだ。
「地上に進出して仲間を増やすの!そしたらさとり様も友達がいっぱいになるでしょ?そしたらきっと私達のことを褒めてくれると思うんだ」
「……無理よ」
「どうして!?」
「……言わせないで」
「お燐……」
さとり様の能力は私達動物には本当に『便利な能力』だった。心を読んでくれるおかげで意思疎通が可能となり、優しいさとり様は私達の要望を叶えてくれる。食・住も言うことがなくまさに理想の飼い主だった。そして何より一緒に過ごす内に私達はさとり様のことを好きになっていった。さとり様の魅力に惹かれたのだ。しかし今は……違う。今なら心を読まれることの恐ろしさ、それを嫌悪する人妖の気持ちが分かる。
「お燐は今のままでもいいの?」
「……あたいは今のままでも良かった」
意図せず絞り出すようになってしまった声は、まるで二度と戻ってこない日々のようだった。私は満足していた。優しい主人、恵まれた環境、自分を嫌悪しない仲間達、確立した自分の居場所、頼られているという自覚、そして……ちょっと抜けてるけど大切な親友。
「でも」
「とにかく余計なことはしないで。何よりもさとり様のために」
「……うにゅ」
言い聞かせつつここから立ち去る。お空は納得してないだろうし、このままじゃ何も解決していないが、今の私にはこれ以上どうすることもできない。もはや私の手に余る案件になってしまっている。ならばどうするべきか。……決まっている。上司に、さとり様に報告して指示を仰ぐべきだろう。しかしそれはしたくない。お空が私の手に余ることを認めたくない、さとり様に知られたくない。それによって今の私の居場所が揺らぐのが怖い。そして何より……そんな今の私の考えをさとり様に読まれるのが恐ろしいのだ。
◇◇
お空と話した後、今日の仕事を終えて自室に戻る。私の部屋は誰も寄ってこないので考え事をするにはちょうどいい。これからのことを考えながら溜息をつく。いつもはこの悪趣味な部屋に入ればなんだかんだでリラックスできるのに、今日は流石にそうもいかない。
「相変わらず趣味のいい部屋だね♪」
「っ!?」
後ろから突然声が聞こえた。頭で考えるよりも早く体が反応し、振り返りざまに爪で引き裂き……そしてすぐに後悔した。
「……お燐のそういう反応は珍しいね。いや初めてだっけ?」
「こ、こいし様!すみません、私としたことが」
後ろにいたのはこいし様だった。こいし様がこうして突然声をかけてくることは珍しいことではない。だから普段は常に周りの気配を少し気にし、その上で気づけなかったらそれをこいし様だと判断するようにしている。それ以来こいし様に驚かされることはあっても、目に見えて反応することはなくなっていた。しかし自室にいるという無意味な安心感と今の自分の余裕のなさがそれを許さなかった。鍵をかけていようが、私が扉を開けた時に一緒に入られては意味が無いのに。
「せっかく驚かせてるんだから反応がないのはつまんないし、今のはよかったよー」
「本当ににすいませんでした……」
「そんな顔しなくて平気だよ?お燐は泣き顔や困った顔なんかより笑った顔が素敵なんだから」
振りぬき切らなかったのが幸いしたが、それでもこいし様の頬には切り傷ができ、血が止まること無く流れている。慌てて傷を舐め、血を止めようとするがなかなか止まらない。
「こいし様、血が……」
「拭ったって止められなきゃ意味ないし、私も止め方が分かんなかったからお燐も気にしないで。それより……本当に悪いと思ってる?」
「もちろn」
「許してあげる代わりに私のペットになって、って言ったらどうする?」
主の妹に事故とはいえ危害を加えたのだ。本来なら簡単に許されることではない。それでも今までならそれだけはとすぐに断っただろう。こいし様がこういう冗談を言うのは珍しいことでもない。だが一瞬反応が遅れてしまった。もしもを想像してしまった。
「……」
「あれ?ひょっとして脈があるのかな?私は昔からお燐のことは目をつけてたんだ~♪強いし賢いし、何より趣味が合うしねー」
「……あたいはさとり様のペットです」
「でも今一瞬考えたでしょ?」
「それは……!」
「返事は今度でいいや。今お空に八咫烏の力を与えた神様を探してるんだ。見つけたら私のペットを強くしてもらおうと思って」
「本当ですか!?」
「楽しみにしててね~♪」
そう言うとこいし様はいなくなってしまった。こいし様の言葉とお空の記憶はあてにならない。地霊殿では常識だ。それでもなお神の力は私の興味を引いた。だが今はそれより大事なことがある。こいし様のお陰で問題の解決法が浮かんだ。自分でどうにもならない、さとり様にも頼りたくない、ならば外の力を借りるしかないだろう。異変の時は楽園の巫女をあてにする。幻想郷では常識だ。
◇◇
いくつか問題は起きたが、それでも巫女をけしかけてお空を大人しくさせることには成功した。お空の元まで通してもいいか自ら観察して確認し、妖精と共に誘導させることには成功した。しかし問題が起きた。巫女がさとり様と出会ってしまったのだ。異変解決を目的とするのなら必要以上に暴れることはないと思っていたが、予想に反して暴れまわったせいで、異変についてさとり様に知られてしまった。そうなるといくらさとり様でも私達を放っておけなくなる。私のしたことは結局問題を大きくしてしまっただけであった。
「お燐、さとり様が皆揃って食事する機会を作りたいって言ってるけど身体は大丈夫でしょうか?」
「……うん、平気。いつ?」
「今日の夕食です。確かに伝えました」
「ありがと」
異変から数日の間、私はさとり様を避けるために巫女との戦いの傷が痛むと言って仕事を休んで自室で過ごしていた。いつまでも逃げているわけにはいられないのは分かっていたが、こちらの覚悟が出来る前にさとり様が行動を起こしたようだ。少なくても現時点まで地霊殿の仕事をしきっているのは私であり、状況を考えれば怨霊を地上に流したことも知っているだろう。ならば私から話を聞こうとするのは当然の流れ。これ以上先延ばしにするのは難しかった。
それでも話す内容を整理しようとしたが、しかしあっという間に時が流れた。もう夕食の時間だ。暗い表情のまま長い廊下を重い足取りで歩く。食堂の扉の前で立ち止まり取っ手に手を掛けるが、開けることができない。そうやって少しの間迷っていると、不意に扉が開いた。
「あっ……」
「あら、お燐。随分と久しぶりね」
さとり様が私に気づいて微笑みかける。私を拾ってくれた時と同じように、私に名前をくれた時と同じように、私に居場所をくれた時と同じように、私の思っていたのと同じように。だから余計に……自分の心がさとり様の知っている『火焔猫燐』と違うであろうことを思い知らされる。
「あ、えっと、その……お久しぶりです……さとり様」
「……」
反射的に動揺を悟られないように取り繕う。そんなことは無駄なのに。さとり様は私の顔を少し見た後、何も言わずに悲しそうな表情をした。あぁだめだ……違う……そんな表情をさせるつもりなんてなかったのに。そんな表情をさせたくなかったのに……。
「……すいませんさとり様、今日は部屋でゆっくりさせてもらいます」
「お燐……」
「失礼しました」
結局一歩も入ることなく食堂をあとにし、走って自室に戻った。なぜこんなことになってしまったんだろうか。
◇◇
ベッドで目を覚ます。鍵のかかった自室の扉を見ながら頭の中を少し整理する。……残念ながら寝る前のことははっきりと覚えていた。シーツは乾いたままだったが、目が何となく腫れぼったいから随分と泣いたんだろうと他人事のように思った。時計で時刻を確認するとちょうど日付が変わった頃だった。
「お燐、今大丈夫?」
「……はい」
こいし様が扉を開けて入ってきた。外から帰ってきたところなのか服の胸のあたりが濡れている。私はいつもの癖か、無意識に返事をしてしまった。今は一人になりたい気分だったのに。もう手遅れだが。
「うーんそうだなぁ……何から話せばいいんだろう?あ、とりあえずさっきは余計なことをしてごめんね?」
「はい……」
よく分からないが謝られた。私は何かされたのだろうか?こいし様の言葉は相変わらずよく分からない。
「あとは……あ、お燐をペットにする話!今は保留ね」
「……分かりました」
これは良かった……いや、どうなのだろうか。今こいし様から誘われたらはたして断れただろうか?そして何より私はどうするのが正しいのだろうか?私はまださとり様のペットでいてもいいのだろうか?
「あと……神様の力!これはダメだった。代わりに面白そうな人間と会えたけどねー」
「そうですか……それは残念でしたね」
「ねえお燐、私にできることない?」
「……何のことですか?」
「とぼけてもダメ!見たら分かるもん。私は無意識を操れるんだよ?お燐が私を認識していない間、私はいつだって近くにいるかもしれないってことを覚えておいたほうがいいと思うな」
「それって」
「……やっぱり私にはどうすればいいのか分かんないや。せっかくお燐をペットにするチャンスだと思ったのに」
そう言ってこいし様はポケットから何かを取り出す。あれはたしか……巫女が使っていた陰陽玉?
「頼まれて無断で借りてきたの。あとはお姉ちゃんに任せるね」
そう言って私に背を向けて部屋を出ようとし、扉に手をかけたところで少し立ち止まる。
「安心して!今回は盗み聞きしたりしないから。それとお燐が元気になったらまた誘いに来るからね♪」
そう言ってウィンクをして今度こそ部屋を出て行った。
陰陽玉の使い方は見れば分かる。つながっている相手も何となく予想はつく。何度か深呼吸をした後、意を決して通話をかける。
「もしもし?」
「……」
「……さとり様、ですよね?」
「……妖怪『会話いらず』です」
「へっ?」
「……すいません、今のは忘れてください」
何やらおかしな事を言っているが、聞き違えるはずがない。この声は間違いなくさとり様のものだ。
「心の読めない相手と会話するのは不慣れなもので、失敗してしまいました」
「……先程はすいませんでした」
「それは……気にしてないと言えば嘘になりますが、覚妖怪として生まれた以上こういうことは珍しくありません。あの時お燐は『心を読まれたくない』と思っていたのが見えました。だからこういう形ならと思ったのですが、どうでしょうか?」
「……ありがとうございます」
ここでさとり様の言葉を肯定することはさとり様の能力を否定することになるのかもしれない。それでも私はさとり様の気遣いに感謝するしかなかった。
「まずは、そうですね。長い間仕事を任せきりになってしまいすいません。今までありがとうございました」
「……」
『今まで』というのはどういう意味だろうか。嫌な考えが頭をよぎる。
「ですが形だけとはいえ私は地霊殿の管理者、今回の件について正確に把握する必要があります。怨霊を地上に放ったのはお燐で間違いないですね?」
「……はい」
「何故そのようなことをしたのか、話していただけますか?」
……覚悟を決めて全て話す。さとり様の私への信頼を裏切ることはしたくなかった。
お空が神の力を手に入れて自分の手に負えなくなったこと、そのお空が地上侵略を考えていたこと、その解決手段として怨霊を使い楽園の巫女を呼び寄せたこと、そしてそれらの問題をさとり様に相談しなかったこと。
「話は大体わかりました。嫌われるのを恐れるあまり、私はペットに対して来る者拒まず去る者追わずのスタンスをとっていました。その結果、お燐が不信感を抱いてしまった」
「そんなことは……」
「私を信じることができたのなら賢いお燐にはどう行動すべきだったか分かっていたはずですよ?それも私の責任ですけどね。今後はもう少しペットと関わるようにした方が、地霊殿の仕事は私が仕切った方がいいのかもしれませんね。……ところでお燐」
今まではどこか幼い子供に語りかけるように話していたさとり様の声色が変わった。
「……私の能力は恐ろしいですか?」
「……」
さっき嘘はつかないと決めた。だからこそこの言葉には返事するのは難しい。返してしまうと自分の居場所が……音をたてて崩れていきそうで。
「貴方は今まで地霊殿を仕切っていました。だから代表としてあなたが私の介入を拒むのなら引き下がるべきなのでしょう。そうした場合は別の改善策を考える必要がありますが」
「……」
「お燐?」
「さとり様と……一緒にいたいです……」
……これがさとり様への私の本音だ。任せてくれるのは信頼の証だとか何とか言い聞かせたところで、やはりさとり様の側にいたい気持ちが私にはある。結局私もお空と一緒なのだ。
「そうですか」
「でも……さとり様の、その……第三の目は………………今は怖いです」
「そんなに気にしないでください。心を読まれることを嫌悪するのはごく自然なこと、お燐が悪いわけでは」
「そうじゃないんです!私が怖いのは心を読まれることで……私がさとり様の知ってる私じゃなくなってることを知られるのが怖いんです。それでさとり様に嫌われたら……私は」
「火焔猫燐」
私の言葉を遮るようにさとり様が私の名前を静かに呼んだ。
「私を、覚妖怪を、古明地さとりをなめないでください。今までどれだけの心を読んできたと思っているんですか?心が不変のもの、純粋で穢れを知らないものなんて幻想はとっくの昔に捨てています。ちょっとくらい変わったからってなんですか、そんなことで失望するほど私は甘い人生を送ってはいません。……それにここまで私のことを思ってくれるお燐を嫌いになるほど器が小さくもありません」
「でも……」
「貴方がどのように変わったのか、どれだけ変わったのかはわかりません。それでもお燐は変わらずに私のことを思ってくれている事はわかります。ならば貴方が私の大切なペットであることは何ら変わりのないことなのです」
「さとり様……」
「私にとって貴方は、貴方にとっての私も必ずしも必要というわけではないかもしれません。ですが私は貴方がいたほうが幸せですし、貴方も私といることを幸せだと感じるように努力することは出来ます。改めて言わせてもらいます。火焔猫燐、私のペットでいてくれませんか?もう一度私と共に歩んでくれませんか?」
さとり様の能力への恐怖は一度感じてしまった以上消えることはないかもしれない。さとり様が私達に歩み寄るということは色々な問題を引き起こす原因になりかねないだろう。それでも答えは決まっている。私はさとり様のことが大好きなのだ。だからこそ
「……ありがとうございます。さとり様の言葉、本当に嬉しかったです」
「なら」
「だからこそ今返事をすることは出来ません」
「……どうしてか聞いてもいいですか?」
「今はその時でないと思ったからです。明日の朝、時間は空いていますか?今の言葉の返事を面と向かってしたいです。それと今日出来なかった食事を」
「分かりました、明日を楽しみにしておきます。この道具を使っていた楽園の巫女と境界の妖怪のようになりたいと思ってこいしに頼んだのですが」
「こいし様には感謝しないといけないですね」
◇◇
翌朝、さとり様に無事答えを告げることが出来た。あとは……お空だ。さとり様とも上手くいったんだ、きっと大丈夫。自分にそう言い聞かせお空のもとに向かう。
「お空、今ちょっt」
「お燐久しぶりー!」
お空の自室に向かうといきなり飛びつかれた。呆気にとられたが、なんとか受け止めることは出来た。
「随分会ってなかったから寂しかったんだよ!あ、ケガ大丈夫?巫女にやられて仕事を随分休んでたって聞いたけど?」
「えっ?あー……うん、それは大丈夫」
「心配してたんだけど今は会っちゃダメってこいし様が言って……元気そうでよかったよ。あ……ごめんね?やっぱりお燐の言うとおり皆に迷惑かけちゃったね……」
異変のことだろうか?楽園の巫女を手引きしたのは私だが、あのままお空を放っておいたらどうなったかは分からないのも事実だ。今回の件にお空の責任はあるのだろうか?判断するのはさとり様に任せればいいし、少なくても私はお空を責めるつもりはない。
「あたいは責任をとれる立場にないから滅多なことは言えないけど、お空に対して怒ってないよ?」
「さとり様も私の能力についていくつか注意しただけだったし、よく分かんないや」
これならお空は大丈夫だろう。地霊殿の誰もがお空を止められなくなったとしてもお空はさとり様の言うことは聞く。さとり様が側にいる限りお空はもう暴走することはない。
「そうだ、大事なことを忘れてた!さとり様が会いに来てくれたんだよ!それにこれからは頻繁に会いに来てくれるって約束してくれたよ!」
「うん、知ってるよ。本当に良かったね」
「さとり様私達のこと嫌いじゃないって!またみんな一緒だよ!さとり様と私とお燐とこいし様、それに妖精や他のペット達も一緒!」
「……そうだね」
お空が本当に嬉しそうに屈託なく笑う。私と初めてであった時のように、私と友達になった時のように、私に褒めてもらった時のように、私の知っているお空と同じように。
「……あれ?お燐?どうしたの?」
「なんでもないよ。あのさ、お空。……あたい達って」
「友達だよ?お空は私の大事な友達!」
「……そうだよね。ありがとう、お空」
「うにゅ?」
いつまでも私に抱きついているお空を優しく引き剥がす。今まで気づかなかったけど、神の力をもらったお空は私よりも少し身長が高くなっていた。
「お空、ちょっと頭を下げてくれないかい?」
「うん」
よくわからないといった表情をしているが素直に指示に従う。確かにお空の見た目は大きく変わった。それ以上にお空の力の大きさは変わった。それに伴い私達の実力は逆転してしまった。でもお空自身は何も変わっていない。ならば私が変わらなければ今までどおりの関係でいられるのではないだろうか。今の私はお空に頭を下げてもらわなければ撫でることができない。それでも今なら胸を張って言える。お空は私の大切な友達だ。
◇◇
お空と別れた後、私は自室に戻り二人分の紅茶を入れる。あの方はプライバシーよりも好奇心を優先し、そして意外と姉以上に面倒見がよくて心配症な一面がある。きっとあの時も、さっきも……最早いつ側にいたのか分からないが、少なくても今はいるだろう。
「こいし様、お茶を一緒にいかがですか?」
「うーん……お燐のことは気に入ってるけど驚かしがいのないところは減点対象だねー」
突然私の隣に現れたこいし様は少し甘目の紅茶を口にする。
「ペットの件、お断りさせていただきます」
「そっか。残念だね」
言葉とは裏腹にその表情はニコニコと愉快そうに笑っている。
「また明日にでも新しいペット探しにでも行こうかな」
「地上にですか?」
「うん!地上は楽しいよ」
こいし様は昔から能力を使って地上を行き来していた。だが今回の異変を機にある程度の地上との交流が可能となった。
「こいし様は地上との条約のことは耳にしていますか?」
「なんだか緩くなったんだっけ?関係ないけど」
「そんなことはないですよ。これであたい達もこいし様と一緒に地上に行けます」
紅茶を飲む手が止まってぽかんとした表情をしている。
「……一緒って?」
「こいし様がよろしいのであればあたいとお空は喜んでお供しますよ」
「お姉ちゃんも?」
「……とりあえず提案してみますね。地底に来た巫女はあまりさとり様を恐れなかったようですし」
「せっかくお姉ちゃんがペットの面倒をちゃんと見るようになったのに、今度はペットが地上に逃げちゃうんだ。お姉ちゃん人望ないね~」
「そ、そういう意味じゃなくて」
「……お姉ちゃんも来るならいいよ。地上を案内してあげる」
「……難しそうですね」
「どうだろ?地上も変わってきてるし変なのもいっぱいいる。案外お姉ちゃんの能力を気にしない奴もいるんじゃないかな?まぁ期待せずに待っておくよ」
そう言ってこいし様は紅茶を飲み終えて去ってしまった。さとり様は地霊殿の代表、今後は嫌でも地上に出向く機会が出てくるだろう。もし地上への苦手意識があるなら無理強いは良くないでも、克服できたほうがいいだろう。なにより私はこいし様も含めて皆一緒がいいのだ。……こいし様が地上にいかなければ手っ取り早いのだが。
今日はこいし様は地上に行かないようだ。さとり様も出かけることはないだろう。私もお空も夜にそこまで仕事が入っているわけじゃない。今日の夕食は私が作ろうか。久しぶりに皆で夕食を一緒に取れるかもしれない。今晩のメニューを考えながら少しぬるくなった紅茶を口に含む。
「とりあえず仕事をしなきゃだね」
紅茶のカップを片付け、身なりを整えて仕事に向かう。私には愛しい主人と大好きな主人の妹、そして大切な親友がいる。この地はかつて地獄だったかもしれないが、私は今幸せだ。
目を開けて身体を起こそうとすると思わず声が漏れるほどの痛みが身体を襲った。ここは……地霊殿の随分奥のほうだが、私は何でこんな場所で寝ていたのだろうか。
「お燐大丈夫?」
「……お空?」
お空が心配そうに私を覗きこんできた。……何となく思い出してきた。私はお空と弾幕ごっこをしたんだった。朧気な記憶をたどれば目の前が真っ白な光りに包まれていった光景が思い出される。ズタボロで倒れていた自分、そしていつもと変わらぬ様子で私に声をかけてくるお空。……勝敗は明白だ。
「……大丈夫、これくらい平気」
「よかった……。ごめんね?この力うまく加減できなくて……」
「……」
「お燐?」
「……ん?」
あぁ、駄目だ。お空の頭はよくないかも知れないが、特別鈍いわけじゃない。とりあえず今はやり過ごさなきゃ。
「さてそろそろ仕事に戻らなきゃ。いつまでも遊んでるわけにはいかないし」
「……ごめん。もう今日の仕事は終わっちゃった」
「そ、そっか。ずっとあたいについていてくれたのかい?ありがとう、お空」
「当然だよ。私達は友達でしょ?」
「……そうだね」
ちょっと前までの私なら今のお空の言葉にも自然に反応できただろう。お空は八咫烏の力によって見た目が変わってしまったが、それ以上に持っている力の大きさが変わった。……そして私たちの力関係も。
「お空……」
「何?」
「……その……今日できなかった仕事の調節はあたいが何とかしておくけど、明日は少し忙しくなるかもしれないよ」
「うん、でも平気だよ!今の私なら」
「そっか。じゃああたいは明日に備えて部屋で休むから。お休み」
「うん、お休み」
少し歩くとお空が喜んではしゃぐ声が聞こえてきた。私の前では遠慮していたのかもしれないが、やはり勝てたことが嬉しかったのだろう。私の耳がいいことはすっかり忘れているようだ。
「神の力……か……」
声を振り切るように走って自室に向かった。その間に目から零れた涙は傷の痛みのせいか、負けたことへの悔しさか、お空に『おめでとう』と言って頭をなでてあげられなかった後悔か、それとも……今の私には分からなかった。
◇◇
お空に負けてから二週間程経った。あれ以来お空と会話する機会がほとんどなかった。いや、正確には会話する機会がないようにしていた。数日の間は包帯を丈の長い服で隠し、体の痛みをごまかしながら仕事を続けていたが、少し前には完治して妖精やペットの仕事のまとめ役にも復帰している。だというのにここ最近は小さなミスをしてばかりだ。
「貴方達は死体の分別をおねがい」
私はここが地獄だった時代から生きている。当時の私は生きるために必死だった。火車は妖怪からも嫌われ、仲間のいない私はただ強く、賢くなることが必要だった。魑魅魍魎や怨霊を食べ、努力の末に身につけた力でここを生き抜いてきたのだ。
「貴方達は興奮してる怨霊を鎮めてきて」
ある日ここに地霊殿が建ち、新しい主が現れ仮初とはいえ秩序が生まれた。主の名前は『古明地さとり』、嫌われ者の覚妖怪だった。彼女の能力に惹かれた者や彼女の周りの平穏に惹かれた者達が集まるまで時間はかからず、その全てを古明地さとりはペットとして受け入れた。
「え?鬼達からの意見書?後で目を通しておくから置いておいて」
増え続けるペットは限がなかったが、管理しきれなくなってもさとり様は追い出すことはせず、自身の仕事を任せるようになった。さとり様は元からこの仕事に乗り気でなかったのか、すぐにペットが全ての仕事を管理するようになり、要領の良さや力の大きさ、怨霊を操る能力と世話焼きな性格から自然と私が仕切るようになった。
「灼熱地獄跡の様子が変ね……前にお空の様子を見に行った子達は何をしてるのよ」
「それが……誰もお空を止められなくて」
それから変わることなく続くと思っていた日常は、地上からやってきた神によってあっけなく崩れ去ろうとしている。お空はいとも簡単に神の力を手に入れ、私ではどうすることもできなくなってしまった。もし他の妖精やペット達もこの力を手に入れたら……私はそれでも必要なのだろうか……。
「あぁもう……じゃあ死体補充係から適当に何人か連れて行って構わないから止めてきて。なんなら見張りの子達を連れて行ってもいいわ」
「あの……」
「何よ!」
……らしくもなく声を荒らげてハッとする。周りの視線、目の前の妖精の震える姿、急激に頭が冷えていく。八つ当たりなんてらしくない。
「……ごめん、あたいが悪かった。それで、どうしたの?」
「……すいませんお燐。もう私達では何人で束になってもお空を止める事ができそうにありません」
視線の高さを合わせて優しく声をかけてやると、震えながらもぽつりぽつりと話し始める。少し考えれば分かるはずだった。今のお空をこの子達が止められるわけなどないのだ。
「……分かった。貴方はもう休憩に入っていいわ。お空のところにはあたいが行く」
「すいません……」
「大丈夫!無茶な仕事を振ったあたいが悪いから気にしないで」
久しぶりにお空に会いに行く。最近お空は地上進出がどうのこうのと言って力を暴走させることがあると報告にある。このままいけばさとり様に迷惑がかかりかねない。お空を力で止められるとは思えないが、見過ごすわけにもいかない。とりあえず説得を試みる他ないだろう。
◇◇
「あ、お燐久しぶり!」
「……そうだね」
久しぶりに見たお空は二週間前と何も変わってなかった。……いやお空から感じる力は増していた。
「ねぇ見てお燐、私の力どんどん強くなってる。まだコントロール出来てないけど、使いこなせたらきっとすごいことになるよ」
「お空の仕事はここの温度調節。他の仕事は今は必要ないでしょ」
ここ最近の報告では、灼熱地獄跡の温度は目標値を随分上回っている。過ぎたるは猶及ばざるが如し、このままではいけない。
「私考えたんだけどさ……地上に進出しようと思うの」
「妖精の子達もそんなこと言ってたわね。一体どうしたのさ?」
「今の私の力ならできると思うんだ」
今の地上がどうなっているのかは分からないが、ここが存在する以上少なくても境界の妖怪、楽園の巫女、そしてお空に力を与えた山の神がいるはずだ。いくら強いといってもお空一人でどうにかなる相手ではない。
「いくらなんでも無理よ」
「でも……」
「何で突然そんなことを言い出したのさ」
「……最近全然さとり様が会いに来てくれないでしょ?」
さとり様が私達に会いにこないのは最近の話ではない。いつの間にか会う機会を逸してしまい、かなりの月日が経つ。それに対しては寂しく思う反面、私達を信頼しているからと受け取ることにしていた。
「それがどうかしたの?」
「私……さとり様に嫌われちゃったんじゃないかと思って……」
「……それでなんで地上進出に繋がるの?」
『そんなわけない』とは言えなかった。私も心のどこかでその考えがあったからだ。
「地上に進出して仲間を増やすの!そしたらさとり様も友達がいっぱいになるでしょ?そしたらきっと私達のことを褒めてくれると思うんだ」
「……無理よ」
「どうして!?」
「……言わせないで」
「お燐……」
さとり様の能力は私達動物には本当に『便利な能力』だった。心を読んでくれるおかげで意思疎通が可能となり、優しいさとり様は私達の要望を叶えてくれる。食・住も言うことがなくまさに理想の飼い主だった。そして何より一緒に過ごす内に私達はさとり様のことを好きになっていった。さとり様の魅力に惹かれたのだ。しかし今は……違う。今なら心を読まれることの恐ろしさ、それを嫌悪する人妖の気持ちが分かる。
「お燐は今のままでもいいの?」
「……あたいは今のままでも良かった」
意図せず絞り出すようになってしまった声は、まるで二度と戻ってこない日々のようだった。私は満足していた。優しい主人、恵まれた環境、自分を嫌悪しない仲間達、確立した自分の居場所、頼られているという自覚、そして……ちょっと抜けてるけど大切な親友。
「でも」
「とにかく余計なことはしないで。何よりもさとり様のために」
「……うにゅ」
言い聞かせつつここから立ち去る。お空は納得してないだろうし、このままじゃ何も解決していないが、今の私にはこれ以上どうすることもできない。もはや私の手に余る案件になってしまっている。ならばどうするべきか。……決まっている。上司に、さとり様に報告して指示を仰ぐべきだろう。しかしそれはしたくない。お空が私の手に余ることを認めたくない、さとり様に知られたくない。それによって今の私の居場所が揺らぐのが怖い。そして何より……そんな今の私の考えをさとり様に読まれるのが恐ろしいのだ。
◇◇
お空と話した後、今日の仕事を終えて自室に戻る。私の部屋は誰も寄ってこないので考え事をするにはちょうどいい。これからのことを考えながら溜息をつく。いつもはこの悪趣味な部屋に入ればなんだかんだでリラックスできるのに、今日は流石にそうもいかない。
「相変わらず趣味のいい部屋だね♪」
「っ!?」
後ろから突然声が聞こえた。頭で考えるよりも早く体が反応し、振り返りざまに爪で引き裂き……そしてすぐに後悔した。
「……お燐のそういう反応は珍しいね。いや初めてだっけ?」
「こ、こいし様!すみません、私としたことが」
後ろにいたのはこいし様だった。こいし様がこうして突然声をかけてくることは珍しいことではない。だから普段は常に周りの気配を少し気にし、その上で気づけなかったらそれをこいし様だと判断するようにしている。それ以来こいし様に驚かされることはあっても、目に見えて反応することはなくなっていた。しかし自室にいるという無意味な安心感と今の自分の余裕のなさがそれを許さなかった。鍵をかけていようが、私が扉を開けた時に一緒に入られては意味が無いのに。
「せっかく驚かせてるんだから反応がないのはつまんないし、今のはよかったよー」
「本当ににすいませんでした……」
「そんな顔しなくて平気だよ?お燐は泣き顔や困った顔なんかより笑った顔が素敵なんだから」
振りぬき切らなかったのが幸いしたが、それでもこいし様の頬には切り傷ができ、血が止まること無く流れている。慌てて傷を舐め、血を止めようとするがなかなか止まらない。
「こいし様、血が……」
「拭ったって止められなきゃ意味ないし、私も止め方が分かんなかったからお燐も気にしないで。それより……本当に悪いと思ってる?」
「もちろn」
「許してあげる代わりに私のペットになって、って言ったらどうする?」
主の妹に事故とはいえ危害を加えたのだ。本来なら簡単に許されることではない。それでも今までならそれだけはとすぐに断っただろう。こいし様がこういう冗談を言うのは珍しいことでもない。だが一瞬反応が遅れてしまった。もしもを想像してしまった。
「……」
「あれ?ひょっとして脈があるのかな?私は昔からお燐のことは目をつけてたんだ~♪強いし賢いし、何より趣味が合うしねー」
「……あたいはさとり様のペットです」
「でも今一瞬考えたでしょ?」
「それは……!」
「返事は今度でいいや。今お空に八咫烏の力を与えた神様を探してるんだ。見つけたら私のペットを強くしてもらおうと思って」
「本当ですか!?」
「楽しみにしててね~♪」
そう言うとこいし様はいなくなってしまった。こいし様の言葉とお空の記憶はあてにならない。地霊殿では常識だ。それでもなお神の力は私の興味を引いた。だが今はそれより大事なことがある。こいし様のお陰で問題の解決法が浮かんだ。自分でどうにもならない、さとり様にも頼りたくない、ならば外の力を借りるしかないだろう。異変の時は楽園の巫女をあてにする。幻想郷では常識だ。
◇◇
いくつか問題は起きたが、それでも巫女をけしかけてお空を大人しくさせることには成功した。お空の元まで通してもいいか自ら観察して確認し、妖精と共に誘導させることには成功した。しかし問題が起きた。巫女がさとり様と出会ってしまったのだ。異変解決を目的とするのなら必要以上に暴れることはないと思っていたが、予想に反して暴れまわったせいで、異変についてさとり様に知られてしまった。そうなるといくらさとり様でも私達を放っておけなくなる。私のしたことは結局問題を大きくしてしまっただけであった。
「お燐、さとり様が皆揃って食事する機会を作りたいって言ってるけど身体は大丈夫でしょうか?」
「……うん、平気。いつ?」
「今日の夕食です。確かに伝えました」
「ありがと」
異変から数日の間、私はさとり様を避けるために巫女との戦いの傷が痛むと言って仕事を休んで自室で過ごしていた。いつまでも逃げているわけにはいられないのは分かっていたが、こちらの覚悟が出来る前にさとり様が行動を起こしたようだ。少なくても現時点まで地霊殿の仕事をしきっているのは私であり、状況を考えれば怨霊を地上に流したことも知っているだろう。ならば私から話を聞こうとするのは当然の流れ。これ以上先延ばしにするのは難しかった。
それでも話す内容を整理しようとしたが、しかしあっという間に時が流れた。もう夕食の時間だ。暗い表情のまま長い廊下を重い足取りで歩く。食堂の扉の前で立ち止まり取っ手に手を掛けるが、開けることができない。そうやって少しの間迷っていると、不意に扉が開いた。
「あっ……」
「あら、お燐。随分と久しぶりね」
さとり様が私に気づいて微笑みかける。私を拾ってくれた時と同じように、私に名前をくれた時と同じように、私に居場所をくれた時と同じように、私の思っていたのと同じように。だから余計に……自分の心がさとり様の知っている『火焔猫燐』と違うであろうことを思い知らされる。
「あ、えっと、その……お久しぶりです……さとり様」
「……」
反射的に動揺を悟られないように取り繕う。そんなことは無駄なのに。さとり様は私の顔を少し見た後、何も言わずに悲しそうな表情をした。あぁだめだ……違う……そんな表情をさせるつもりなんてなかったのに。そんな表情をさせたくなかったのに……。
「……すいませんさとり様、今日は部屋でゆっくりさせてもらいます」
「お燐……」
「失礼しました」
結局一歩も入ることなく食堂をあとにし、走って自室に戻った。なぜこんなことになってしまったんだろうか。
◇◇
ベッドで目を覚ます。鍵のかかった自室の扉を見ながら頭の中を少し整理する。……残念ながら寝る前のことははっきりと覚えていた。シーツは乾いたままだったが、目が何となく腫れぼったいから随分と泣いたんだろうと他人事のように思った。時計で時刻を確認するとちょうど日付が変わった頃だった。
「お燐、今大丈夫?」
「……はい」
こいし様が扉を開けて入ってきた。外から帰ってきたところなのか服の胸のあたりが濡れている。私はいつもの癖か、無意識に返事をしてしまった。今は一人になりたい気分だったのに。もう手遅れだが。
「うーんそうだなぁ……何から話せばいいんだろう?あ、とりあえずさっきは余計なことをしてごめんね?」
「はい……」
よく分からないが謝られた。私は何かされたのだろうか?こいし様の言葉は相変わらずよく分からない。
「あとは……あ、お燐をペットにする話!今は保留ね」
「……分かりました」
これは良かった……いや、どうなのだろうか。今こいし様から誘われたらはたして断れただろうか?そして何より私はどうするのが正しいのだろうか?私はまださとり様のペットでいてもいいのだろうか?
「あと……神様の力!これはダメだった。代わりに面白そうな人間と会えたけどねー」
「そうですか……それは残念でしたね」
「ねえお燐、私にできることない?」
「……何のことですか?」
「とぼけてもダメ!見たら分かるもん。私は無意識を操れるんだよ?お燐が私を認識していない間、私はいつだって近くにいるかもしれないってことを覚えておいたほうがいいと思うな」
「それって」
「……やっぱり私にはどうすればいいのか分かんないや。せっかくお燐をペットにするチャンスだと思ったのに」
そう言ってこいし様はポケットから何かを取り出す。あれはたしか……巫女が使っていた陰陽玉?
「頼まれて無断で借りてきたの。あとはお姉ちゃんに任せるね」
そう言って私に背を向けて部屋を出ようとし、扉に手をかけたところで少し立ち止まる。
「安心して!今回は盗み聞きしたりしないから。それとお燐が元気になったらまた誘いに来るからね♪」
そう言ってウィンクをして今度こそ部屋を出て行った。
陰陽玉の使い方は見れば分かる。つながっている相手も何となく予想はつく。何度か深呼吸をした後、意を決して通話をかける。
「もしもし?」
「……」
「……さとり様、ですよね?」
「……妖怪『会話いらず』です」
「へっ?」
「……すいません、今のは忘れてください」
何やらおかしな事を言っているが、聞き違えるはずがない。この声は間違いなくさとり様のものだ。
「心の読めない相手と会話するのは不慣れなもので、失敗してしまいました」
「……先程はすいませんでした」
「それは……気にしてないと言えば嘘になりますが、覚妖怪として生まれた以上こういうことは珍しくありません。あの時お燐は『心を読まれたくない』と思っていたのが見えました。だからこういう形ならと思ったのですが、どうでしょうか?」
「……ありがとうございます」
ここでさとり様の言葉を肯定することはさとり様の能力を否定することになるのかもしれない。それでも私はさとり様の気遣いに感謝するしかなかった。
「まずは、そうですね。長い間仕事を任せきりになってしまいすいません。今までありがとうございました」
「……」
『今まで』というのはどういう意味だろうか。嫌な考えが頭をよぎる。
「ですが形だけとはいえ私は地霊殿の管理者、今回の件について正確に把握する必要があります。怨霊を地上に放ったのはお燐で間違いないですね?」
「……はい」
「何故そのようなことをしたのか、話していただけますか?」
……覚悟を決めて全て話す。さとり様の私への信頼を裏切ることはしたくなかった。
お空が神の力を手に入れて自分の手に負えなくなったこと、そのお空が地上侵略を考えていたこと、その解決手段として怨霊を使い楽園の巫女を呼び寄せたこと、そしてそれらの問題をさとり様に相談しなかったこと。
「話は大体わかりました。嫌われるのを恐れるあまり、私はペットに対して来る者拒まず去る者追わずのスタンスをとっていました。その結果、お燐が不信感を抱いてしまった」
「そんなことは……」
「私を信じることができたのなら賢いお燐にはどう行動すべきだったか分かっていたはずですよ?それも私の責任ですけどね。今後はもう少しペットと関わるようにした方が、地霊殿の仕事は私が仕切った方がいいのかもしれませんね。……ところでお燐」
今まではどこか幼い子供に語りかけるように話していたさとり様の声色が変わった。
「……私の能力は恐ろしいですか?」
「……」
さっき嘘はつかないと決めた。だからこそこの言葉には返事するのは難しい。返してしまうと自分の居場所が……音をたてて崩れていきそうで。
「貴方は今まで地霊殿を仕切っていました。だから代表としてあなたが私の介入を拒むのなら引き下がるべきなのでしょう。そうした場合は別の改善策を考える必要がありますが」
「……」
「お燐?」
「さとり様と……一緒にいたいです……」
……これがさとり様への私の本音だ。任せてくれるのは信頼の証だとか何とか言い聞かせたところで、やはりさとり様の側にいたい気持ちが私にはある。結局私もお空と一緒なのだ。
「そうですか」
「でも……さとり様の、その……第三の目は………………今は怖いです」
「そんなに気にしないでください。心を読まれることを嫌悪するのはごく自然なこと、お燐が悪いわけでは」
「そうじゃないんです!私が怖いのは心を読まれることで……私がさとり様の知ってる私じゃなくなってることを知られるのが怖いんです。それでさとり様に嫌われたら……私は」
「火焔猫燐」
私の言葉を遮るようにさとり様が私の名前を静かに呼んだ。
「私を、覚妖怪を、古明地さとりをなめないでください。今までどれだけの心を読んできたと思っているんですか?心が不変のもの、純粋で穢れを知らないものなんて幻想はとっくの昔に捨てています。ちょっとくらい変わったからってなんですか、そんなことで失望するほど私は甘い人生を送ってはいません。……それにここまで私のことを思ってくれるお燐を嫌いになるほど器が小さくもありません」
「でも……」
「貴方がどのように変わったのか、どれだけ変わったのかはわかりません。それでもお燐は変わらずに私のことを思ってくれている事はわかります。ならば貴方が私の大切なペットであることは何ら変わりのないことなのです」
「さとり様……」
「私にとって貴方は、貴方にとっての私も必ずしも必要というわけではないかもしれません。ですが私は貴方がいたほうが幸せですし、貴方も私といることを幸せだと感じるように努力することは出来ます。改めて言わせてもらいます。火焔猫燐、私のペットでいてくれませんか?もう一度私と共に歩んでくれませんか?」
さとり様の能力への恐怖は一度感じてしまった以上消えることはないかもしれない。さとり様が私達に歩み寄るということは色々な問題を引き起こす原因になりかねないだろう。それでも答えは決まっている。私はさとり様のことが大好きなのだ。だからこそ
「……ありがとうございます。さとり様の言葉、本当に嬉しかったです」
「なら」
「だからこそ今返事をすることは出来ません」
「……どうしてか聞いてもいいですか?」
「今はその時でないと思ったからです。明日の朝、時間は空いていますか?今の言葉の返事を面と向かってしたいです。それと今日出来なかった食事を」
「分かりました、明日を楽しみにしておきます。この道具を使っていた楽園の巫女と境界の妖怪のようになりたいと思ってこいしに頼んだのですが」
「こいし様には感謝しないといけないですね」
◇◇
翌朝、さとり様に無事答えを告げることが出来た。あとは……お空だ。さとり様とも上手くいったんだ、きっと大丈夫。自分にそう言い聞かせお空のもとに向かう。
「お空、今ちょっt」
「お燐久しぶりー!」
お空の自室に向かうといきなり飛びつかれた。呆気にとられたが、なんとか受け止めることは出来た。
「随分会ってなかったから寂しかったんだよ!あ、ケガ大丈夫?巫女にやられて仕事を随分休んでたって聞いたけど?」
「えっ?あー……うん、それは大丈夫」
「心配してたんだけど今は会っちゃダメってこいし様が言って……元気そうでよかったよ。あ……ごめんね?やっぱりお燐の言うとおり皆に迷惑かけちゃったね……」
異変のことだろうか?楽園の巫女を手引きしたのは私だが、あのままお空を放っておいたらどうなったかは分からないのも事実だ。今回の件にお空の責任はあるのだろうか?判断するのはさとり様に任せればいいし、少なくても私はお空を責めるつもりはない。
「あたいは責任をとれる立場にないから滅多なことは言えないけど、お空に対して怒ってないよ?」
「さとり様も私の能力についていくつか注意しただけだったし、よく分かんないや」
これならお空は大丈夫だろう。地霊殿の誰もがお空を止められなくなったとしてもお空はさとり様の言うことは聞く。さとり様が側にいる限りお空はもう暴走することはない。
「そうだ、大事なことを忘れてた!さとり様が会いに来てくれたんだよ!それにこれからは頻繁に会いに来てくれるって約束してくれたよ!」
「うん、知ってるよ。本当に良かったね」
「さとり様私達のこと嫌いじゃないって!またみんな一緒だよ!さとり様と私とお燐とこいし様、それに妖精や他のペット達も一緒!」
「……そうだね」
お空が本当に嬉しそうに屈託なく笑う。私と初めてであった時のように、私と友達になった時のように、私に褒めてもらった時のように、私の知っているお空と同じように。
「……あれ?お燐?どうしたの?」
「なんでもないよ。あのさ、お空。……あたい達って」
「友達だよ?お空は私の大事な友達!」
「……そうだよね。ありがとう、お空」
「うにゅ?」
いつまでも私に抱きついているお空を優しく引き剥がす。今まで気づかなかったけど、神の力をもらったお空は私よりも少し身長が高くなっていた。
「お空、ちょっと頭を下げてくれないかい?」
「うん」
よくわからないといった表情をしているが素直に指示に従う。確かにお空の見た目は大きく変わった。それ以上にお空の力の大きさは変わった。それに伴い私達の実力は逆転してしまった。でもお空自身は何も変わっていない。ならば私が変わらなければ今までどおりの関係でいられるのではないだろうか。今の私はお空に頭を下げてもらわなければ撫でることができない。それでも今なら胸を張って言える。お空は私の大切な友達だ。
◇◇
お空と別れた後、私は自室に戻り二人分の紅茶を入れる。あの方はプライバシーよりも好奇心を優先し、そして意外と姉以上に面倒見がよくて心配症な一面がある。きっとあの時も、さっきも……最早いつ側にいたのか分からないが、少なくても今はいるだろう。
「こいし様、お茶を一緒にいかがですか?」
「うーん……お燐のことは気に入ってるけど驚かしがいのないところは減点対象だねー」
突然私の隣に現れたこいし様は少し甘目の紅茶を口にする。
「ペットの件、お断りさせていただきます」
「そっか。残念だね」
言葉とは裏腹にその表情はニコニコと愉快そうに笑っている。
「また明日にでも新しいペット探しにでも行こうかな」
「地上にですか?」
「うん!地上は楽しいよ」
こいし様は昔から能力を使って地上を行き来していた。だが今回の異変を機にある程度の地上との交流が可能となった。
「こいし様は地上との条約のことは耳にしていますか?」
「なんだか緩くなったんだっけ?関係ないけど」
「そんなことはないですよ。これであたい達もこいし様と一緒に地上に行けます」
紅茶を飲む手が止まってぽかんとした表情をしている。
「……一緒って?」
「こいし様がよろしいのであればあたいとお空は喜んでお供しますよ」
「お姉ちゃんも?」
「……とりあえず提案してみますね。地底に来た巫女はあまりさとり様を恐れなかったようですし」
「せっかくお姉ちゃんがペットの面倒をちゃんと見るようになったのに、今度はペットが地上に逃げちゃうんだ。お姉ちゃん人望ないね~」
「そ、そういう意味じゃなくて」
「……お姉ちゃんも来るならいいよ。地上を案内してあげる」
「……難しそうですね」
「どうだろ?地上も変わってきてるし変なのもいっぱいいる。案外お姉ちゃんの能力を気にしない奴もいるんじゃないかな?まぁ期待せずに待っておくよ」
そう言ってこいし様は紅茶を飲み終えて去ってしまった。さとり様は地霊殿の代表、今後は嫌でも地上に出向く機会が出てくるだろう。もし地上への苦手意識があるなら無理強いは良くないでも、克服できたほうがいいだろう。なにより私はこいし様も含めて皆一緒がいいのだ。……こいし様が地上にいかなければ手っ取り早いのだが。
今日はこいし様は地上に行かないようだ。さとり様も出かけることはないだろう。私もお空も夜にそこまで仕事が入っているわけじゃない。今日の夕食は私が作ろうか。久しぶりに皆で夕食を一緒に取れるかもしれない。今晩のメニューを考えながら少しぬるくなった紅茶を口に含む。
「とりあえず仕事をしなきゃだね」
紅茶のカップを片付け、身なりを整えて仕事に向かう。私には愛しい主人と大好きな主人の妹、そして大切な親友がいる。この地はかつて地獄だったかもしれないが、私は今幸せだ。
こいしちゃんがとても可愛いかったです。
ほのぼのとしてて良い作品でした。
仕事してるお燐はやはり素晴らしい
そしてそれを支える地霊殿メンバーも同様に素晴らしかったです
彼女らがいる限り地底は安泰ですね
そして僭越ですが、誤字の指摘を…
冒頭の注意書きの『何よ人称』は、『何人称』と書きたかったのかも知れませんが、正確には『人称』が正しい表記です。従って、『人称(わざと変えてる部分があります)』で十分に意味が伝わります。
また、お燐が他のペットに仕事を割り振りながら、地霊殿の来歴を説明する場面の『灼熱地獄後』は『灼熱地獄跡』ではないでしょうか?
1さん
八咫烏の力を手に入れた6ボスのお空、素の状態で5ボスのお燐。この二人が親友ならお空が力を手に入れる前の関係、そして手に入れた後それがどう変わるのか……という作品を書いてみたいなぁと思って1年以上放置してました。当初はもっと劣等感とかそういったものについて書くつもりだったんですけどね。
4さん
当初はお燐とお空のすれ違いをさとり様が解決する話のつもりだったのに……どうしてこうなった?この作品で個人的に重要の点の一つは『こいしはどこまで知っていて、何をしたか』のつもりですが……描写不足が否めない。まだまだ精進せねば!
5さん
みんな仲良し!そんな話が書いてて楽しい!
非現実さん
私の中で幸せになってほしいキャラ(というか不幸になるのを見るのが辛いキャラ?)で古明地姉妹はかなり上位です!
南条さん
たとえ『旧地獄』でも『嫌われ者の覚妖怪』でも彼女達は幸せになれるといいですね。
8さん
実力不足ですね。お燐の葛藤とさとり様との和解はもうちょっと頑張りたかったのですが……試行錯誤してもこれ以上はという判断でこうなりました。強いて言うならお空とお燐の和解があまり複雑になるイメージが沸かなかったので、葛藤はこの程度のレベルに。……すいません、単純にこれ以上暗かったり悩んだりする話を書くのが得意ではないからです。
ゆんゆんさん
誤字報告有り難うございます。
面白かったです
地霊殿のお燐サイドはいろいろ妄想し甲斐があっていいですね。
戦闘力はあるけど頭の軽い空に、外に出ない主に、こいしはどこをふらついてるか分からない。二次創作において地霊殿の雑務を引き受けるポジションとしては、他に居ないでしょうね。そう言うと頼り甲斐のありそうに聞こえるけれど、お燐自体は特別強くも賢くもなくて、二癖もある周囲を取り纏めるのは荷が勝ちすぎている。云わば中間管理職として、自分の能に悩みながらも友人や主がために働くお燐が非常に好感触でした。
最後にお空やらこいしやらの何かしらで全部崩れるとかじゃなくて良かったです。本当に。
さとりの大物っぷりがいい感じでした。これくらいの余裕があるさとりは好みですね。
お燐はこういう役回りがよく似合いますなぁ。