もう秋だというのに例外的な暑さだった。
朦朧としていたというのはいいわけだろうか。
それを咥えた時にはもう色々と末期だったのかもしれない。
「や……ぁぁ」
彼女の小さくて柔らかい子供の唇から漏れる嬌声に鳥肌が立つくらいの興奮を覚えた私は、抑えきれずもう一度それを舐めた。抑える必要も、今となってはもう感じ取れなくなっていた。
「あぅ、や、だぁ……よ、っ」
めーりん、と震える声で名前を呼ばれる。答えるように舌を這わせた。
「溶けちゃう、よぉ」
きゅっとつむった瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。可愛かった。思わずほおが緩む。
彼女は荒い息をつきながら、手の甲で額の汗をぬぐっている。
そのしぐさで慌てて我に返り、彼女から飛び退くように離れた。まるで怯えているようだった。
気持ちの悪い体液が背中をつたう。自己嫌悪が血の巡りと一緒に体中をかけめぐって、気がつくと館壁に頭を打ち付けていた。少しでも中身を出したかったのかもしれない。
隣にはチルノがいて、アクリル玉のような目を潤ませていた。
「ひ、冷やして、これで。血、たくさん出てる……」
そう言って彼女が差し出したのは、さっきまで私が虐めていた氷の羽だった。だいぶ溶けていて、握るとかしゃっ、と音を立てて淡く砕けた。
しばらく手のひらの上で水と化していく彼女を見つめていたが、やがてそれらが消えきる前に口に含んだ。
同じ味がした。
チルノの味だ。
「飛べない?」
私が尋ねると彼女はふるふると首を振った。
「だいじょうぶだよ。あれは、本当はほれいざいなの。みんなにはないしょだよ。めーりんだけだよ」
忘れて久しい独占欲を煽るような言葉に胸が高鳴った。
それから彼女は、まだあとみっつ残ってるから、湖までならへっちゃらだよ、と控えめに笑った。
きっと妖精のことだから、明日には元通りになるのだろう。それにしたって申し訳なくて、彼女と顔を合わせているのが辛かった。
「ぜんぶ溶けたら消えちゃうから、もう帰るね」
汗で貼り付いた前髪を軽く分けてから、彼女は湖の方へふらふらと歩いて行った。飛ばないのだろうか。
ぼーっと小さくなっていくシルエットを見つめ続けながら、どうしてこんなことしてるんだろうなーと思う。
そんなことを考えても、夏の声がいろいろな思考を暑さに溶かしてしまって、結局は呆けているだけだった。
あぁ、早く夏が終わればいいのに。
けなげなチルノが可愛いです
確かにここへの投稿前に同じSSが別所に投稿されていました。
点数は保留とさせて頂きます。