Coolier - 新生・東方創想話

ドールハウス

2013/08/18 00:58:41
最終更新
サイズ
4.99KB
ページ数
1
閲覧数
2331
評価数
11/36
POINT
2060
Rate
11.27

分類タグ

 霧雨魔理沙は、アリス・マーガトロイド宅のソファーに座り込んでいる。
 室内には美味しそうな匂いが漂っている。これなら、今日の昼食の味には期待してもいいだろう。
 しかし、アリスはテーブルの上の巨大な何かをかたずけようとはしない。
 卓上にそれが鎮座している限りは、どうにも食事は始まりそうになかった。

 巨大な何かはその形状から、すぐに何であるか察する事が出来た。家だ。
 所謂ドールハウスというやつだろう。
 アリスはと言えば、そのドールハウスに張り付いて目を輝かせている。
 どうにも、鍋を火にかけている事も忘れて、夢中になっているらしい。
 彼女は魔法使いにして人形遣いで、彼女の研究テーマは自律人形の完成である。
 しかし、その背景とアリスの人形じみた端正な容姿をしても、その姿はちょっと
危ない人に見えてしまう。何よりこれでは昼食がいつまで経っても始まらない。

「アリス、研究熱心なのはいいんだけどさ。はっきり言って危ない人にしか見えないぜ」
 どうにも返事が返ってこないので、もう一度同じ言葉を投げかけてみた。
 自称友人のストレートな忠告にアリスは若干赤面しつつも、返事を忘れていた事を思い出した。
「ああ、魔理沙。つい夢中になっちゃってごめんね。それよりこれを見てくれない?」
「いつもの操り人形じゃなくて、そのドールハウスをか?私はそっち方面疎いから何ともなあ」
 頭ごなしに否定から入っても昼食は遠のくだけだろう。魔理沙は怪訝な顔をしつつも
友人兼家主兼シェフの言葉に従って、ドールハウスの窓から中を覗き込んだ。

 そこには魔理沙とアリスが居た。
 実物と比べると当然お人形サイズだが、どこからどう眺めても魔理沙であり、アリスだった。
 本当に生き生きと動いており、本棚に手を伸ばす小さな魔理沙の仕草や
 テーブルで紅茶を淹れる小さなアリスの表情など、まるで当人としか思えなかった。
 これではアリスが夢中になって張り付いているのも無理ないわけだ。
 事実、魔理沙もしばらくドールハウスから目を離す事が出来なかった。
 感嘆の溜息を落とした後、魔理沙は言う。
「しかしこの人形達、本当に良く出来てるな。こんな小さいと操るの大変じゃないか?」
 アリスから返ってきた返答は予想外のものだった。
「そう、そこよ!魔理沙ならそれを言ってくれると思ったわ!」

 聞けばこのドールハウスと人形は遂に自律人形完成の為の一歩に踏み出した証なのだと言う。
 彼女のこれまでに培ってきた人形遣いとしてのノウハウと魔法使いとしての知識。
 それに彼女の産みの親たる魔界神が用いていた技術を組み込んで作られたものこそが
このドールハウス一式だと言うのだ。

「まだ流石に大きい子は作れないからね。まずは小さいところからと思って」
 成る程、来るべき日に向けてのささやかな雛形と言うわけか。
 アリスは独力でこれを成し遂げる事が出来ず、彼女の出身地である魔界の技術を転用した事が
口惜しいと言っていたが、それでも魔理沙にはこのドールハウスは神の御業にしか見えなかった。
 ドールハウスの中で紅茶の味について語りあう魔理沙とアリスは、細部に至るまで
人間臭い動作をしており、むしろ人形らしさを欠くようにすら見えた。
「おめでとう。遂にお前の研究が形になったんだな」
口から祝福の言葉が飛び出した。それを受けてアリスは満面の笑みを浮かべ、答える。
「ありがとう。でもここからが大変なのよ」
 彼女によれば、現状ではドールハウスと人形達でワンセットで動くようになっており
ドールハウスから出す事も出来ないし、出せたとしても外部への認識力に問題があると言う。
その為、思考や行動のパターンを観察し、次の研究に繋げていくステップに過ぎないという事だ。
それを聞いた魔理沙はつい苦笑してしまった。全く魔法使いという奴等は気の長い生き物だ。


「しかしこの人形達、本当に良く出来てるな……」
 そう呟いた魔理沙の顔色は優れず、言葉も歯切れが悪い。
 棚に置かれたドールハウスから目を離した魔理沙に、そろそろご飯にしましょうとアリスは呼びかけた。
 気が付けば、部屋の中には食欲をそそるシチューの匂いが充満している。

 薄暗い室内で二人で昼食を取っていたが、どうにも今いち会話が弾まない。
 気まずい空気の中で魔理沙が不意に問いかけた。
「なあ、将来アリスが自律人形を完成させたとして。例えばだけどさ。反乱とかしないのか?
前にパチュリーから借りた、外の世界の本にそんな話が載ってたんだ」
 表情からいささか精彩を欠くアリスは、魔理沙を宥めるように答えた。
「流石にそれはないわよ。人形を作る段階で反乱防止のプロテクトを掛けるわけだし」

 だが、魔理沙が本当に聞きたい質問はそこではない事を、アリスは知っていた。
 今のは場つなぎの会話に過ぎず、本当に聞きたい事は違うのだ。
 けれども、それを口にする勇気がないのだ。アリスにしても同じである。
 彼女自身もある質問を魔理沙にしたいが、どうにも踏ん切りがつかない。

 アリスが以前、自律人形制作の第一歩として完成させたドールハウス。
 完璧な出来映えだったその住人達は、サイズを除けばアリスと魔理沙の生き写しのようだった。
 そして今日、ドールハウスの中のアリスがドールハウスを完成させるのを二人は目撃してしまったのだ。
 ドールハウスの中の二人のやりとりから察するに、かつてアリスがドールハウスを作った時と寸分違わず
これまでの研究に、魔界の技術を転用して盛り込むというところまで再現されていた。
 その時に恐らくアリスも、魔理沙も同じ事を考えたのは、お互いの顔色から伺う事が出来た。
 ただ、それをお互い口にしてしまえば後戻りが出来ない気がして、こうして二人で
 盛り上がりに欠ける昼食を過ごす事になってしまった。

 天気のよい昼下がりだと言うのに、先程から妙に薄暗い。何かに窓から入る光を遮られているような気がする。
「自分達もドールハウスの住人ではないのか?」
 その問いの答えは窓の向こうにあるような気がしたが、二人は外を覗く気分にはなれなかった。
二作目。たまには窓から外を眺めてみて下さい。
アイ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1060簡易評価
9.90名前が無い程度の能力削除
よくある話ながらゾクッときました。
よかったです。
12.90奇声を発する程度の能力削除
うおお…
13.無評価名前が無い程度の能力削除
世にも奇妙なものがたりにありそう・・・すごいです。
14.100名前が無い程度の能力削除
すみません、評価忘れてました。 連投失礼いたします。
20.90がま口削除
想像できるけど、想像したくないラストにぞわりとしました。
21.80名前が無い程度の能力削除
一度は誰もが考えること。けれど、それは自分や自分の世界、自分の幸せとは関わりの無いこと。
23.100はつ♂削除
た、ただの曇り空に決まってる……うん……
26.100名前が無い程度の能力削除
自分、そして自分が生きる世界が虚構である可能性……
ゾクッと来た
前作「スワン」とはがらりと雰囲気がかわったね
29.703削除
話そのものは完成されていると思います。
ですが大変申し訳無い、この題材は何度も読んでいるもので、
過去のSSを覆すような何かが入っているわけでもないため、あまり高い点数は入れられませんでした。ごめんなさい。
30.100名前が無い程度の能力削除
うおお……よくある話のはずなのにやたら怖い…
34.80名前が無い程度の能力削除
「そっくりハウス」を思い出しましたよ。こういう話は好きです。
36.100名前が無い程度の能力削除
外を見て覗いてるのが大きいアリスじゃなかったら
と考えるのもなかなか怖い