Coolier - 新生・東方創想話

類感呪術(ベース・クラック)

2013/08/11 23:13:27
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 いつでも暗い魔法の森の茂みから、それでもかすかに明るい場所を塗りつぶすように、そろそろと夕闇が空気を染める──、そんな時刻のアリス・マーガトロイド邸。その小奇麗な庭で終わった話が、これだ。

 そもそもその日、アリスは一日中をかけて家の中を大掃除していた。
 しかしながら、どこぞの憎たらしい、しかしコケティッシュな白黒の家とは違って、彼女の家は内側であろうと外側であろうと、勢い余って生活感ごと一掃してしまったよこの少女は、と思われる程度には美しく整えられているのが常である。それは彼女の律義さと品性と、意固地さとを声高に主張することに他ならなかったが、魔女の家がお菓子で作られていようと肉で作られていようと、あるいは本で作られていようとも、どこの国でも大して気にもされないのだから、幻想郷という土地においてはさらに言うに及ばずであった。
 つまり、彼女が自身にとってほぼ必要のない大掃除に精を出しすぎて、黄昏時には精も根も尽き果てていたとしても、笑う者もいなければ褒める者もいなかった──そういうことだった。
 実はアリスにとって、これは自分でも不可解なことであった。
 身も蓋もないことを言えば、アリスは掃除が嫌いなのである。普段の掃除でさえ自分でも訳が分からなくなるほどの嘔吐感を我慢しながら、割と白目を剥きつつ終わらせているというのに。大掃除なんかすれば私は月まで飛んで行ってしまうだろう、そこまではきちんと論理的に考えた。次の瞬間には虫干しのためにさまざまな魔道書を人形に運ばせていた。人形にやらせるといっても操っているのは自分だ。自立人形の完成、つまり自身の悲願がいつまでも達成されない焦燥も合わさって、アリスの両目はそうそうに白く変わっちまったものだ。
 いつの間にやら見当たらなくなっている魔道書の冊数を前回(一週間前)の虫干しの際に作成したリストと照らし合わせてきっちりと確認したアリスは、今こそ己の家のトラップの殺傷力を、白黒が無残な事故で偶然にも死にやがったあとに調査されたら言い訳できないレベルまで引き上げる時と確信した。星狂いのファンキー黒白にとって幸いだったのは、アリスが潰殺を決定したちょうどそのとき、全ての物事をどうでもよい事象に変えるくらいの吐き気に襲われたせいで、計画が事象の地平線へ飛んでったことだ。天誅は今しばらく、例えば紅魔館在住の紫色さんの堪忍袋の緒が引きちぎれる頃か、あるいはその使い魔であるところの正式名称不明・仮名小悪魔女史の地味ながらも情念の籠もった果物ナイフ攻撃かを待たなければならない。
 しかしながら、何の手も打たないという怠惰はアリス・マーガトロイドの信念に反していた。では何をしようかといえばやはり呪いだわうふふ、とアリスは無理やり半分だけ黒目を引きもどした右目で秘蔵の藁人形コレクションを見つめた。これはつまり、何のひねりもなく丑の刻参りの模倣──類感呪術をやらかそうというわけである。そんな由緒正しき内向的な乙女&おちゃっぴいな彼女はもちろん、何やら五寸釘をどうのこうのという悪意に満ちた風評が自身を揶揄するために用いられていることをよく知っていた。心外にもほどがある、とアリスは沈痛な面持ちで藁人形の頭部をぎりぎりと左手で掴み持ち上げつつ嘆いた。右手には鈍く光る牛刀。今日の献立は藁人形のつま先から一寸刻み遊戯でございます。藁人形の頭部に埋め込まれているのはある普通の魔法使用者の頭髪ですの。もちろん別の人形(類感済み)も用意しておりますし、金槌もこのように準備してございます。使用法? もちろんダイレクトアタック(指一本から丁寧に)ですわ。
 幻視力の高さなどを生かして手癖の悪いだぜだぜ女の悶絶の様子を夢見心地に見つめながら、アリスの思考の半分は自分自身の愚行の根拠を推察することに裂かれていた。ちなみに呪うことは乙女の必須技能なので別に愚行ではない。
 まあやっぱり、とアリスは思う。全ての道はローマに通ず、私の場合は人形に通ず。自立人形を作りたいのならば、人形の思考を推察し実行し検証し破壊し僅少な差異を含ませて再構築しなければならない、そういうことがよくわかっている結果なのだ。それは膨大な反復作業。いうなればおままごと、その大真面目な輪唱。
 ママの場合もよく似ている。あの人は神だから別に必要なかったんだけど、下位の存在を作成するにはやはりその思考をトレースする必要があったみたいだ。あの人は掃除が割と好きだったのだけれど、ただでさえ低級の存在を模倣することにやっぱりストレスを感じていたのと、おままごとが見た目に反して大っ嫌いということの合わせ技一本でこの私の掃除嫌いが決定されたという。私は忠実に、なるべきようになったというわけだ。だから結局のところ──人形なのだ。嘔吐感嘔吐感嘔吐感(出るものは何もない)

 ともかく、憎悪に満ち満ちた大掃除は夕方に終わり、アリスは痛む頭を抱えながらも楚々として庭に佇んだのだ。
 彼女の心の中は相変わらず人形でいっぱいだったし、彼女の脳髄の中は相変わらず人形どもの綿みたいなぬるい思考経路に浸食されていた。実際のところ、アリス・マーガトロイドのオリジナリティが勝利するか、人形どもの単純極まりない伝達系統が勝利するかは微妙なところだったが、今日もなんとかアリスが勝利した。その要因はどうやら黒白の可愛いニセ魔法使いモドキ。彼女がアリス個人を個体としてかき乱してくれるせいだということが、アリスにはだいぶわかってきた。
 ──それはそれとして魔道書は取り返す、一冊残らずだ。
 アリスはその瞳を、滲むような夕闇にうっすらと染めながら、藁人形に頬ずりをした。
こころちゃんかわいい。
雨宮ヒノ
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コメント



0.250簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
自律人形を作りたいというより、人形の自分が自律したいアリス。
極めて不可解わけわかめな文章でしたが、なぜか魅力があります。
8.100名前が無い程度の能力削除
文章回しが面白い。
好きです
11.50名前が無い程度の能力削除
文章自体は好きな方ですが、これは文章しか楽しめる部分が感じられない。
いやまあただ単に、私がSSにストーリーやオチを求めすぎてるだけなのかも知れないので、結局は好みの問題でしょうけど。
文章について強いて言うなら、ほんの少しですが回りくどすぎる印象を受けましたので、もうちょっとテンポ重視でもいいと思います。
12.70名前が無い程度の能力削除
なんだか病的な文章だなあ。
少し粗いものの、惹かれるものはあります。
ストーリーはよく分かりませんでした。
13.803削除
妙な地の文ですね。それが一番の魅力でしょうか。
内容がそれにそぐうようなものになれば一層引き立つと思います。