働きたくない。
繰り返す。私は働きたくない。
『その中身は』
先日偶然にも外の世界の一部を見る機会に恵まれた。人間達が、妙な箱に映し出される映像や絵や文章を見ていた。そしてそれらの中身は、ここ幻想郷の生活であった。
最初は結界の外から私達の世界を覗いているのかと思った。でもそれは勘違いだった。よく画面を見ていると、画面の中の私たちは、実際にはしていないはずの行動をしたり、喋らないはずの台詞を喋ったり、色々な目にあったり、していた。
幻想は所詮、幻想でしかない。
====
「********の動きまわる姿って何か斬新かも」
「あー、今まで気にしたこと無かった。まあ今まで動かないのが当然みたいな扱いだったしな」
「色々と壊れたりしてるのはあったけどね」
====
私は、妙なものを見つけた。画面の中の私。そこで私はとても活発に働いていた。客をもてなし、丁寧に中まで案内する。活発に動いている私は生き生きとしていた。
おかしな話。一体どうして私が働かなければならないの。働くなんてもってのほか。人が動くと書いて働く。私は人、ではないわよね。
守矢神社の山の神。彼女らが人里に降りてきて、店番をしたり、花屋の手伝いをしたりなんてのは似合わない。神様は神様であることが仕事じゃないかしら。
私も同じ。私はここにいるだけ。ここにいること、私が私であること、それが仕事。
なんだけど。
だったんだけど。
====
「俺、*****か**の魅力に気づいたかもしれない」
「おかしいと言いたくはないがおかしいだろ。それでも一応聞いておいてやるけどどこがいいんだ」
「別に分かって欲しくないしー。それでも一応答えておいてやるとだな――」
====
「『お客様』がいらっしゃいました。いかがなさいます?」
彼女は長い髪をなびかせそう言った。
私の確認出来る範囲には誰も居ない。彼女の能力が存分に機能していた。
優秀で、身体能力に優れる彼女。主に外を守ってくれている。性格も真面目、私の下に置いておくにはもったいないほどだ。
あまりに真面目だから、主からよくいじられている。
きっとそれくらいの関係が丁度良い。私は彼女の過去を想った。
「中に案内して。丁重におもてなしするわ」
「分かりました。それでは、行ってきますね」
そう言って、動きやすい服装であっという間に姿を消してしまった。
さて、おもてなしの準備を進めねば。
====
「*う******と言ったら、やっぱ周りとの関係も色々想像するよな」
「***とか、***とか?」
「他にも色々キャラいるけど、その二人が一番気になるよなぁ」
「俺にはよく分からん世界だ」
====
常に私の中に仕える彼女。
今の私が在るのはひとえに彼女のお陰と言っても過言ではない。
それは、単純に彼女に世話になったという意味でもあるし、もちろん彼女の能力によるところも大きい。
一度、何故この身を永くしたのか彼女に聞いてみたことがある。
彼女は、
「ふふ、私にそのことを聞くの?
そうね、最初は過ちだった。貴女も知っての通り。
だけど、今はそうは思っていないわよ。
貴女と一緒に長い年月を過ごせるのだから」
銀髪を揺らしてそう答えた。
我ながら酷い愚問だったと思ったものだ。
それからも、彼女との関係は変わることはない。
====
====
ぬれている。私はぬれている。私は赤く染まっている。頭の一番てっぺんのてっぺんから、足の先の先までぬれている。
まるで咎人のようだと自分で思う。実際に私は罪を背負っている。私に近づいた人に地獄を見せた。多くの生物に永遠の闇を提供した。私という存在が罪といってもいいかもしれない。
働きたくはないけれど、動きたいと思うことは結構あるの。私はこんな性格だけれど、それでも他所に迷惑を掛けるのはいい気分じゃない。それで、前に一度、中の皆が出払った隙を見て、「仕事」を放棄したことがあったわ。私は私であることから逃げ出した。
なんでアンタがここに居るわけ?
彼女の目は私にそう言っていた。無理もないわ。私がこうして出歩くなんて彼女は想像もしたことが無かったでしょうから。でも私も、彼女がこうして外に出てくるなんて思ってもいなかった。
彼女は私にとって一番の宿敵。隙あらば私の内面まで血に染めようとする。彼女の力はとても恐ろしい。死の概念がない私を砕かんとするほど。あの炎の前には私もついに燃え尽きるかと何度思ったか分からない。普段は決して目にしたくない相手だったわね。
だけどあの時は半分自棄になっていて、そのまま体の底の底まで染まってしまうのも悪くないと考えた。だから私は彼女を無視して歩き続けた。すぐに彼女は私をめちゃくちゃにしてくれるはずだった。
私のからだに、彼女の両の手が巻き付いた。
「何をしようとしているのかは知らない。知りたくもない。
アンタは私を何百年にも渡って囚えていたんだから。
だけど今のアンタは何? 今のアンタなら拳一つで消し飛ばせちゃいそうよ。
もっと、自分に素直になりなよ。
……私が捕まっていた期間は間違いじゃなかったって、証明して見せてよ」
そう言って、彼女は飛んでいった。
その日からだ、私が「働いても良い」と思うようになったのは。
====
「いいなぁ、行ってみたいなぁ。画面の中に飛び込みたいわ」
「好きにしろよ。俺は止めない」
====
――さて、ここまで私のことを読んでくれたところで、私の正体は分かったかしら?
何、最初の一行目からバレバレだった? それはどういう意味かしら?
今は普通に働くようになったのよ。途中でも書いたけどね。
この前も記念式典のチラシを自分の足で配ったり……何、長くなるから良いって? しょうがないなぁ。
ここまでお付き合いいただき有り難うございました。
いつの日かお会いできることを楽しみにしているわ。
その時は、私の「中」にご案内するわよ。
それじゃあね。
紅魔館より
繰り返す。私は働きたくない。
『その中身は』
先日偶然にも外の世界の一部を見る機会に恵まれた。人間達が、妙な箱に映し出される映像や絵や文章を見ていた。そしてそれらの中身は、ここ幻想郷の生活であった。
最初は結界の外から私達の世界を覗いているのかと思った。でもそれは勘違いだった。よく画面を見ていると、画面の中の私たちは、実際にはしていないはずの行動をしたり、喋らないはずの台詞を喋ったり、色々な目にあったり、していた。
幻想は所詮、幻想でしかない。
====
「********の動きまわる姿って何か斬新かも」
「あー、今まで気にしたこと無かった。まあ今まで動かないのが当然みたいな扱いだったしな」
「色々と壊れたりしてるのはあったけどね」
====
私は、妙なものを見つけた。画面の中の私。そこで私はとても活発に働いていた。客をもてなし、丁寧に中まで案内する。活発に動いている私は生き生きとしていた。
おかしな話。一体どうして私が働かなければならないの。働くなんてもってのほか。人が動くと書いて働く。私は人、ではないわよね。
守矢神社の山の神。彼女らが人里に降りてきて、店番をしたり、花屋の手伝いをしたりなんてのは似合わない。神様は神様であることが仕事じゃないかしら。
私も同じ。私はここにいるだけ。ここにいること、私が私であること、それが仕事。
なんだけど。
だったんだけど。
====
「俺、*****か**の魅力に気づいたかもしれない」
「おかしいと言いたくはないがおかしいだろ。それでも一応聞いておいてやるけどどこがいいんだ」
「別に分かって欲しくないしー。それでも一応答えておいてやるとだな――」
====
「『お客様』がいらっしゃいました。いかがなさいます?」
彼女は長い髪をなびかせそう言った。
私の確認出来る範囲には誰も居ない。彼女の能力が存分に機能していた。
優秀で、身体能力に優れる彼女。主に外を守ってくれている。性格も真面目、私の下に置いておくにはもったいないほどだ。
あまりに真面目だから、主からよくいじられている。
きっとそれくらいの関係が丁度良い。私は彼女の過去を想った。
「中に案内して。丁重におもてなしするわ」
「分かりました。それでは、行ってきますね」
そう言って、動きやすい服装であっという間に姿を消してしまった。
さて、おもてなしの準備を進めねば。
====
「*う******と言ったら、やっぱ周りとの関係も色々想像するよな」
「***とか、***とか?」
「他にも色々キャラいるけど、その二人が一番気になるよなぁ」
「俺にはよく分からん世界だ」
====
常に私の中に仕える彼女。
今の私が在るのはひとえに彼女のお陰と言っても過言ではない。
それは、単純に彼女に世話になったという意味でもあるし、もちろん彼女の能力によるところも大きい。
一度、何故この身を永くしたのか彼女に聞いてみたことがある。
彼女は、
「ふふ、私にそのことを聞くの?
そうね、最初は過ちだった。貴女も知っての通り。
だけど、今はそうは思っていないわよ。
貴女と一緒に長い年月を過ごせるのだから」
銀髪を揺らしてそう答えた。
我ながら酷い愚問だったと思ったものだ。
それからも、彼女との関係は変わることはない。
====
====
ぬれている。私はぬれている。私は赤く染まっている。頭の一番てっぺんのてっぺんから、足の先の先までぬれている。
まるで咎人のようだと自分で思う。実際に私は罪を背負っている。私に近づいた人に地獄を見せた。多くの生物に永遠の闇を提供した。私という存在が罪といってもいいかもしれない。
働きたくはないけれど、動きたいと思うことは結構あるの。私はこんな性格だけれど、それでも他所に迷惑を掛けるのはいい気分じゃない。それで、前に一度、中の皆が出払った隙を見て、「仕事」を放棄したことがあったわ。私は私であることから逃げ出した。
なんでアンタがここに居るわけ?
彼女の目は私にそう言っていた。無理もないわ。私がこうして出歩くなんて彼女は想像もしたことが無かったでしょうから。でも私も、彼女がこうして外に出てくるなんて思ってもいなかった。
彼女は私にとって一番の宿敵。隙あらば私の内面まで血に染めようとする。彼女の力はとても恐ろしい。死の概念がない私を砕かんとするほど。あの炎の前には私もついに燃え尽きるかと何度思ったか分からない。普段は決して目にしたくない相手だったわね。
だけどあの時は半分自棄になっていて、そのまま体の底の底まで染まってしまうのも悪くないと考えた。だから私は彼女を無視して歩き続けた。すぐに彼女は私をめちゃくちゃにしてくれるはずだった。
私のからだに、彼女の両の手が巻き付いた。
「何をしようとしているのかは知らない。知りたくもない。
アンタは私を何百年にも渡って囚えていたんだから。
だけど今のアンタは何? 今のアンタなら拳一つで消し飛ばせちゃいそうよ。
もっと、自分に素直になりなよ。
……私が捕まっていた期間は間違いじゃなかったって、証明して見せてよ」
そう言って、彼女は飛んでいった。
その日からだ、私が「働いても良い」と思うようになったのは。
====
「いいなぁ、行ってみたいなぁ。画面の中に飛び込みたいわ」
「好きにしろよ。俺は止めない」
====
――さて、ここまで私のことを読んでくれたところで、私の正体は分かったかしら?
何、最初の一行目からバレバレだった? それはどういう意味かしら?
今は普通に働くようになったのよ。途中でも書いたけどね。
この前も記念式典のチラシを自分の足で配ったり……何、長くなるから良いって? しょうがないなぁ。
ここまでお付き合いいただき有り難うございました。
いつの日かお会いできることを楽しみにしているわ。
その時は、私の「中」にご案内するわよ。
それじゃあね。
紅魔館より
紅魔館であるならば会話の主は咲夜とフランドールでしょうか。
とても面白かったです。
整合性に気をとられて自然な文体が死んでしまってると言うか
これが限界とは言わずにまた是非チャレンジしてもらいたいです
こんなネタですがひっそりと一年以上考えてやっと表に出せたネタです。
相変わらず遅筆ですが今後共よろしくお願いします。