――――――その昔、河童族(私たち)はかわうそ族と妖怪の山に流れている川の、一番良い場所の所有権を巡るべく、
日夜戦いに明け暮れていた時期があった。
資金難や食糧危機、川周辺の森や雑木林が焼け野原状態となり、犠牲者が日に日に増えていった。
このままでは山そのものが無くなりかねないということで、山の一番偉い人によって停戦協定が結ばれた。
戦いが終わっても私達と彼等の対立状態は続いていて、何か切欠さえあればいつ戦いが再開してもおかしくない状態だった。
例えるならば、外の世界で「冷戦」と呼ばれたものと全く一緒の構図になってたに違いない。
幼かった私は少し遠出する際必ずと言っていいほど周りの大人達から「かわうそを見たら逃げろ」と言われ続けてきた。
戦争をしていたなんて知る由もなかったから「どうして逃げなきゃいけないのか」と聞いたら皆決まってこう言った。
「かわうそは凶暴な妖怪だから、近づいたら喰われちまう。」と。
勿論かわうそなんて見たことない。だから凶暴かどうかは分からない。だけど一度でもいい、一度でもいいから
その姿が見てみたかった。大人達には分からないだけで本当はいい奴なのかも……?
私は決心した。釣りに行くという口実でかわうそに会ってくると。もし何もされなかったら大人達はただの怖がりなんだと。
「にとりー、何処に行くの?」
「魚釣りだよ。見て分からない? 」
「そういや・・・・釣竿とバケツ持ってたね。」
かわうその住むとされる上流の方に行こうとしたら、友人の白狼天狗の少女に出会った。
「魚釣り行くなら…………あっちだよ? 」
彼女は下流の方向を指さして不思議そうな顔をして言った。
「あ…………ねぇ、知ってる?下流って今汚れてきてるからフナしか釣れないんだよ!
私が食べたいのはフナじゃなくてアユだから!アユ!」
そもそも私は魚なんて食べない。だから川魚のことはよく知らない。だから出任せを言った。
川の下流が排水等で昔よりだいぶ汚れてきてるのは事実だが魚がいないという訳ではない。
「アユかぁー…………塩焼きにすると美味しいよね~」
アユの塩焼きの想像をしている椛の顔が本能丸出しだった。目が怖い……怖いから。
「たくさん釣れたら私にも少し分けて? ね? 」
「いいよー。」
「じゃあ気をつけてね! 」
二十分程タイムロスした気がするけどまぁいいか。
河童の里から出た事なんてなかったから川の上流がどんなふうになってるのか知らなかった。
私はこの山を舐めていた。上にいくにつれて足場はどんどん悪くなって、川の周辺は誰も手を加えないものだから
原生林が広がっている所為で太陽が届かず昼間だというのに薄暗い。
鳥やリス・イタチのような小動物はいても妖怪はおろか人間すらいない。聞こえてくるのはざわざわという
木々のざわめき、鳥のさえずり音、小さな流水音。想像を絶するものだった。早く帰りたい。でも何処を見ても同じ風景だから
何処に向かえばいいのかも分からなくなってきた。
「あぃて! 」
昔隣のお姉さんから聞いたでっかい毛むくじゃらのお化けが追いかけてこないか心配になって後ろをチラチラ向きながら
歩いていたら大きな岩に足を取られて転んでしまった。
「っ…………?! 」
起き上ろうにも起き上れない、足首をやられていたみたい。私はここで死んじゃうのか……
こんなことならお昼ご飯は塩もみキュウリにしておけばよかった…………
幼き日の思い出が、映画のフィルムのように、走馬灯のように蘇った。
もう煮るなり焼くなり好きにしてくれよ…………
視界がぼんやりしてきて意識がなくなる寸前、目の前に何か小さな影が映ったのが見えた。
――――――「あれ…………」
目が覚めたら川岸にいた。何故か怪我をして痛かった筈の足首も全然痛くなくなっていた。
私はどれくらい寝てたんだろうか…………
「「「「「っー!! 」」」」」
ボーっとしてたら足元からピーピーという音がたくさん聞こえたものだからイタチなのか音の方を見たら大きな尻尾を生やした細長くて茶色い、小動物が足の周りに群がっていた。
当然動物語なんて分からないから彼等が何を言っているのかは理解できない。
「~~! 」
小動物の内の一匹は水に潜るや否やアユと思しき魚を取ってきてバケツの中に入れた。
それも口でくわえるんじゃなくてしっかり手で掴んでいた。なんて器用なんだ…………
「ーっ! ーっ!」
「なに…………? お前も魚取れって? 」
「~~~っ! 」
私まだ泳げないんだけど! と言う暇も無しに小動物軍団に体を持ち上げられて、私は川に投げ捨てられた。
当然泳げない私は必死で手足をばたつかせてもがき苦しむ。お前ら見てないで早く助けてくれ。
この後河童の谷に帰った後も私は彼等の元へと通い続け、彼等に泳ぎ方や魚の取り方をいろいろ教えてもらったんだ。
最初は水に入るだけでやっとだったのに、いつの間にやらすいすいと泳げるようになっていた。
泳ぐことがこんなに楽しかったなんて私は知らなかったよ。
――――――彼等と出会ってから3カ月ほどが経とうとしていた。
「にとりー、最近毎日釣りばっか行ってるねー」
「そっかー? 」
「だっていつも釣竿とバケツ持って上流の方行くじゃん。」
「まーね。だって楽しいんだもん。」
「その割には1回も魚くれないじゃん。」
言えない。小動物軍団に全部あげてるなんて言えない。たまには椛にも持って帰ってやるか。
この日も私は彼等のいる所へ向かったんだ。だけど今日は様子が違った。
「おーい! おちびさんやーい! 」
いつもだったら呼べばぞろぞろと駆け寄ってくるのに今日は一匹も姿を現さなかった。
川はいつもと変わらない。それにまだ冬にもなっていない。彼等は一体何処へ行ったんだろうか…………
待っていても彼等は現れなかったからそのまま河童の谷へ帰る途中だった。
「河童さん! 短い間だったけど私達と一緒に遊んでくれてありがとう。」
何処からか声がした。
「河童さんと過ごした時間を私達は一生忘れないから、河童さんも私達の事を忘れないで。 」
一体何処にいるの…………? 出てきてよ……
折角仲良くなれたのに…………お別れなんていやだよ…………
「にとり! あれみてみて! へんなのがいるよ! 」
「へんなの…………? 」
椛が横から話しかけてきた。いつからそこにいたんだ。
「なんだろうねー? イタチって泳げたかな…………? 」
「あっ! おっ! おっ! おちびさんっ?! 」
「知り合い? 」
椛が言った「へんなの」はかつて私が一緒に遊んだおちびさん達のうちの一匹だった。
おちびさんは私達の方をじっと見つめた後、スーッと消えていった。
私に「さようなら」と別れを告げるかのようにも見えた。
「おちびさん! また会おう! おちびさんの事は忘れないから、だから…………ッ!! 」
おちびさんを追いかけていたら、小石に躓いて転んだ。そこで言葉は途切れて、結局「さようなら」って言えなかった。
また会えると信じていたからなのか、それとももう会えないと分かっていてもそれを受け入れたくなかったからなのか…………
それは今でも分からない。
――――あれから三十年以上の時が経った。
「にとりー、知ってる? かわうそって妖怪。」
「なんか昔河童と戦争してたっていう妖怪だっけ? 」
「うん。見たことないから何とも言えないけど、凄く泳ぐのが得意なんだっけ。」
「らしいねぇ。今もいるのかい? 」
「昔は川の上流に結構いたけど…………川が汚れたせいかな。最近は見なくなったね。絶滅したのかな? 」
「いくら彼等が適応力がないからって絶滅はないと思うよ。動物ならまだしも、妖怪だし。聞いた話によると
人間に化ける事も出来るからさ、人間に化けて里で生活してるんじゃない? 」
「それ考えられるかも! でもさ、妖力の弱い、何も出来ない子達は? 」
「そのまま淘汰されるか………………それか私達の知らないところでひっそり生きてんじゃない?
全く人の手が入らないところでさ。だからもし見つけてもそっとしといてやってくれないか? 」
「そうだね、見つけて騒いだらまた彼等の居場所は失われてしまうものね。」
「んだんだ。」
かわうそもおちびさん達も、きっと何処かでひっそりと生きている。世間ではもう存在しないとい云われても
誰も知らない世界で生きている。
日夜戦いに明け暮れていた時期があった。
資金難や食糧危機、川周辺の森や雑木林が焼け野原状態となり、犠牲者が日に日に増えていった。
このままでは山そのものが無くなりかねないということで、山の一番偉い人によって停戦協定が結ばれた。
戦いが終わっても私達と彼等の対立状態は続いていて、何か切欠さえあればいつ戦いが再開してもおかしくない状態だった。
例えるならば、外の世界で「冷戦」と呼ばれたものと全く一緒の構図になってたに違いない。
幼かった私は少し遠出する際必ずと言っていいほど周りの大人達から「かわうそを見たら逃げろ」と言われ続けてきた。
戦争をしていたなんて知る由もなかったから「どうして逃げなきゃいけないのか」と聞いたら皆決まってこう言った。
「かわうそは凶暴な妖怪だから、近づいたら喰われちまう。」と。
勿論かわうそなんて見たことない。だから凶暴かどうかは分からない。だけど一度でもいい、一度でもいいから
その姿が見てみたかった。大人達には分からないだけで本当はいい奴なのかも……?
私は決心した。釣りに行くという口実でかわうそに会ってくると。もし何もされなかったら大人達はただの怖がりなんだと。
「にとりー、何処に行くの?」
「魚釣りだよ。見て分からない? 」
「そういや・・・・釣竿とバケツ持ってたね。」
かわうその住むとされる上流の方に行こうとしたら、友人の白狼天狗の少女に出会った。
「魚釣り行くなら…………あっちだよ? 」
彼女は下流の方向を指さして不思議そうな顔をして言った。
「あ…………ねぇ、知ってる?下流って今汚れてきてるからフナしか釣れないんだよ!
私が食べたいのはフナじゃなくてアユだから!アユ!」
そもそも私は魚なんて食べない。だから川魚のことはよく知らない。だから出任せを言った。
川の下流が排水等で昔よりだいぶ汚れてきてるのは事実だが魚がいないという訳ではない。
「アユかぁー…………塩焼きにすると美味しいよね~」
アユの塩焼きの想像をしている椛の顔が本能丸出しだった。目が怖い……怖いから。
「たくさん釣れたら私にも少し分けて? ね? 」
「いいよー。」
「じゃあ気をつけてね! 」
二十分程タイムロスした気がするけどまぁいいか。
河童の里から出た事なんてなかったから川の上流がどんなふうになってるのか知らなかった。
私はこの山を舐めていた。上にいくにつれて足場はどんどん悪くなって、川の周辺は誰も手を加えないものだから
原生林が広がっている所為で太陽が届かず昼間だというのに薄暗い。
鳥やリス・イタチのような小動物はいても妖怪はおろか人間すらいない。聞こえてくるのはざわざわという
木々のざわめき、鳥のさえずり音、小さな流水音。想像を絶するものだった。早く帰りたい。でも何処を見ても同じ風景だから
何処に向かえばいいのかも分からなくなってきた。
「あぃて! 」
昔隣のお姉さんから聞いたでっかい毛むくじゃらのお化けが追いかけてこないか心配になって後ろをチラチラ向きながら
歩いていたら大きな岩に足を取られて転んでしまった。
「っ…………?! 」
起き上ろうにも起き上れない、足首をやられていたみたい。私はここで死んじゃうのか……
こんなことならお昼ご飯は塩もみキュウリにしておけばよかった…………
幼き日の思い出が、映画のフィルムのように、走馬灯のように蘇った。
もう煮るなり焼くなり好きにしてくれよ…………
視界がぼんやりしてきて意識がなくなる寸前、目の前に何か小さな影が映ったのが見えた。
――――――「あれ…………」
目が覚めたら川岸にいた。何故か怪我をして痛かった筈の足首も全然痛くなくなっていた。
私はどれくらい寝てたんだろうか…………
「「「「「っー!! 」」」」」
ボーっとしてたら足元からピーピーという音がたくさん聞こえたものだからイタチなのか音の方を見たら大きな尻尾を生やした細長くて茶色い、小動物が足の周りに群がっていた。
当然動物語なんて分からないから彼等が何を言っているのかは理解できない。
「~~! 」
小動物の内の一匹は水に潜るや否やアユと思しき魚を取ってきてバケツの中に入れた。
それも口でくわえるんじゃなくてしっかり手で掴んでいた。なんて器用なんだ…………
「ーっ! ーっ!」
「なに…………? お前も魚取れって? 」
「~~~っ! 」
私まだ泳げないんだけど! と言う暇も無しに小動物軍団に体を持ち上げられて、私は川に投げ捨てられた。
当然泳げない私は必死で手足をばたつかせてもがき苦しむ。お前ら見てないで早く助けてくれ。
この後河童の谷に帰った後も私は彼等の元へと通い続け、彼等に泳ぎ方や魚の取り方をいろいろ教えてもらったんだ。
最初は水に入るだけでやっとだったのに、いつの間にやらすいすいと泳げるようになっていた。
泳ぐことがこんなに楽しかったなんて私は知らなかったよ。
――――――彼等と出会ってから3カ月ほどが経とうとしていた。
「にとりー、最近毎日釣りばっか行ってるねー」
「そっかー? 」
「だっていつも釣竿とバケツ持って上流の方行くじゃん。」
「まーね。だって楽しいんだもん。」
「その割には1回も魚くれないじゃん。」
言えない。小動物軍団に全部あげてるなんて言えない。たまには椛にも持って帰ってやるか。
この日も私は彼等のいる所へ向かったんだ。だけど今日は様子が違った。
「おーい! おちびさんやーい! 」
いつもだったら呼べばぞろぞろと駆け寄ってくるのに今日は一匹も姿を現さなかった。
川はいつもと変わらない。それにまだ冬にもなっていない。彼等は一体何処へ行ったんだろうか…………
待っていても彼等は現れなかったからそのまま河童の谷へ帰る途中だった。
「河童さん! 短い間だったけど私達と一緒に遊んでくれてありがとう。」
何処からか声がした。
「河童さんと過ごした時間を私達は一生忘れないから、河童さんも私達の事を忘れないで。 」
一体何処にいるの…………? 出てきてよ……
折角仲良くなれたのに…………お別れなんていやだよ…………
「にとり! あれみてみて! へんなのがいるよ! 」
「へんなの…………? 」
椛が横から話しかけてきた。いつからそこにいたんだ。
「なんだろうねー? イタチって泳げたかな…………? 」
「あっ! おっ! おっ! おちびさんっ?! 」
「知り合い? 」
椛が言った「へんなの」はかつて私が一緒に遊んだおちびさん達のうちの一匹だった。
おちびさんは私達の方をじっと見つめた後、スーッと消えていった。
私に「さようなら」と別れを告げるかのようにも見えた。
「おちびさん! また会おう! おちびさんの事は忘れないから、だから…………ッ!! 」
おちびさんを追いかけていたら、小石に躓いて転んだ。そこで言葉は途切れて、結局「さようなら」って言えなかった。
また会えると信じていたからなのか、それとももう会えないと分かっていてもそれを受け入れたくなかったからなのか…………
それは今でも分からない。
――――あれから三十年以上の時が経った。
「にとりー、知ってる? かわうそって妖怪。」
「なんか昔河童と戦争してたっていう妖怪だっけ? 」
「うん。見たことないから何とも言えないけど、凄く泳ぐのが得意なんだっけ。」
「らしいねぇ。今もいるのかい? 」
「昔は川の上流に結構いたけど…………川が汚れたせいかな。最近は見なくなったね。絶滅したのかな? 」
「いくら彼等が適応力がないからって絶滅はないと思うよ。動物ならまだしも、妖怪だし。聞いた話によると
人間に化ける事も出来るからさ、人間に化けて里で生活してるんじゃない? 」
「それ考えられるかも! でもさ、妖力の弱い、何も出来ない子達は? 」
「そのまま淘汰されるか………………それか私達の知らないところでひっそり生きてんじゃない?
全く人の手が入らないところでさ。だからもし見つけてもそっとしといてやってくれないか? 」
「そうだね、見つけて騒いだらまた彼等の居場所は失われてしまうものね。」
「んだんだ。」
かわうそもおちびさん達も、きっと何処かでひっそりと生きている。世間ではもう存在しないとい云われても
誰も知らない世界で生きている。
かわうそはきっとその辺で魚食ってんじゃない?w
ちょっとした異文化交流もので、ほのぼのとしていてよかったです。
でも色々ひっかっかってしまいまして、「せっかくの幻想郷からカワウソは逃げるのか」とか。
「足くじいても添え木でなんとかなるし諦めが早すぎるだろう」とか。
ああ、素敵だなと素直に思えませんでした。
よごれっちまったかなしみです。
伝えたいことがあるのはいいことです。それを伝えるための文章力をもっとアップさせると良いと思いました。