Coolier - 新生・東方創想話

俺とお前とデュラハンナイト

2013/07/28 22:45:14
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 波乱と熱狂に満ちた夏が終わり、徐々に元の姿を取り戻しつつある幻想郷。
 人間の里の居酒屋は、今夜も憩いを求める人々で大いに賑わっていた。

「前々から気になっていたんだが……」

 卓のひとつに、二人の若い男が向かい合って座っている。
 彼らは名も無き里人であるため、片方を甲、もう片方を乙と呼称する事を、まずはご了承願いたい。

「彼女、どっちだと思う?」
「彼女って?」
「ほら、隅っこのあの子だよ……」

 甲は親指を立て、カウンター席の端に座る一人の少女を指し示した。
 その頭髪も、首元を隠すかのように襟を立てられたマントも、燃え立つような赤い色。
 二人の与り知らぬ事ではあるが、彼女の名は赤蛮奇という。

「どうよ?」
「俺の経験から言わせてもらうと、彼女は間違いなくレズビアンだと思う」
「誰もそんな事聞いてねえよ! 人間か妖怪かって聞いてるんだよ!」
「マントを纏った女ってのは、たった一人の例外も無く同性愛者らしいぜ」
「知るか! どこ情報だそれは!」
「男の場合はどうなんだろうな?」
「知りたくもねえよ! その話いつまで続ける気だ!」

 どこまでも脱線を続ける乙を前に、頭を抱える甲であった。

「で、あのビアン妖怪がどうかしたか?」
「ビアンかどうかは兎も角として、妖怪と決め付けるのは早計じゃないか? ひょっとしたら人間かもしれないだろ」
「いや、あれはどう見てもビアンだよ。そんでもって妖怪の女は全員ビアンだ。よってあの子は妖怪。C.E.O」
「Q.E.Dって言いたかったのか? 土台ガタガタの三段論法で、一体何を証明したつもりなんだオマエは」

 下世話極まりない会話ではあるが、当の本人たちは至って真剣。
 偏見と信念は切っても切れない関係にある。乙の発言を受けて、甲はそのような思いを抱かずにいられなかった。

「あ、彼女いまこっち見たぜ」
「マジかよ!? まさか聞かれちまったんじゃあるまいな」

 慌てて視線を向ける甲。しかし、赤蛮奇の顔を拝むまでには至らなかった。
 彼女は二人に背を向けたまま、一定のペースで酒を呷っている。

「おい、ホントにこっち見たのか?」
「ああ、見たよ。なんかこう、首がグルンと一回転してさ」
「首が!?」

 思わず立ち上がってしまった甲に、店内の視線が集中する。
 ただし……赤蛮奇ひとりを除いて。

「まあ落ち着けって。モロキュウ食うか?」
「オマエの箸で摘んだやつなんかいらねえよ……それより今の話、ホントなのか?」
「うん。時計回りに一回転。あっ、いや、一回とは限らないな。俺が見てなかっただけで、本当は何回転もしてたかもしれん」
「回数の問題じゃねえだろ! 首が回った時点でおかしいと思わねえのかよ!」
「別に普通じゃん? 彼女妖怪なんだし」
「だから! まだそうと決まった訳じゃ……ああ、うん……」

 何かを察してしまった様子の甲は、言い終えぬ間に意気消沈し、うなだれた。
 そんな彼を見て、これまた何かを察した様子の乙が、そっと顔を寄せ小声で問いかける。

「ひょっとしてお前……彼女の事が好きなのか?」
「はあ!? ばっ、ち、違ぇーし! そんなんじゃねーし! かんけーし!」
「分かりやすい反応だなあ。分かりやす過ぎて裏がありそうなくらいだ……おっ、またこっち見てる」
「何ィ!?」

 再度視線を向ける甲。赤蛮奇は相変わらず二人に背を向けたままだ。
 ただし、髪が僅かに揺れている。この事実をどう解釈するかは、受け手によって異なるところだ。
 甲の場合は……?

「見てたんだ……彼女こっちを見てたんだ……!」
「感激するのは勝手だが、彼女は妖怪で、しかもレズビアンだ。これではフラグの立ちようが無い」
「いや待て。まだ妖怪と決め付けるには早過ぎる。ひょっとしたら、首が回るよう特殊な訓練を受けたのかもしれん」
「全然関係ないけど、借金で首が回らないって言葉があるよな。あれっておかしくね? 借金と首って関係なくね?」
「彼女の首が回るということは……借りた金を返せるだけの金銭感覚を持ち合わせているってことだ! 外見だけでなく内面も素晴らしい……!」
「やっぱり惚れてんじゃん」

 これまた無関係で恐縮なのだが、お金に困った時は二ッ岩マミゾウという妖怪を頼るといいらしい。
 無職でも妖怪でも借り入れ可能。初めての方でも安心のブランド力。ご利用は計画的に。

「よしんば俺が彼女に惚れていたとして、それの何がいけないと言うのだ?」
「だから、彼女は同性愛者で……」
「その話はもういい。人間と妖怪が恋に落ちる事だってあるだろう? ここは幻想郷だ、腐ったミカンの方程式だよ!」
「言葉の意味はよく分からんが……まあ、気持ちは分からんでもないな。ここだけの話、俺も薬売りの妖怪にグッときた事があったよ」
「薬売りの妖怪? ああ、あの赤と青の……」
「その人は妖怪じゃねえよ。兎だよ兎。くっそー、彼女がレズビアンでさえなければなあ……」

 乙の過去に何があったのかは、いずれ語られる機会もあるだろう。
 それより今は赤蛮奇だ。彼女は先程から、頻繁に二人の様子を窺っている。

「でもさあ、やっぱ妖怪が相手ってのは、色々とハードル高いと思うな」
「そんなもん百も承知だよ。首が回るくらい何だってんだ。むしろこれを進化の過程と歓迎するものもいた」
「それだけとは限らんさ。なんかいっぱい増えたり、目からビームとか出しちゃうかもしれないぜ?」
「彼女がそんなバンカラな事をやる筈ないだろう。どっかの兎じゃあるまいし……」
「やるよ」
「えっ」
「えっ」

 何者かが会話に介入。その第一声は肯定であった。
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった二人。周囲を見回してみるが、声の主の特定には至らない。

「どこ見てんのさ。アンタらの足元だよ、足元」
「なに、足元……?」
「おっと、見ない方がいいと言っておきましょうか。見たらアンタら腰抜かしちゃうよ」
「やった! 腰を抜かせるぞ!」

 乙は迷う事無く卓の下を覗き込む。彼は果敢であった。無謀とも言う。要するに馬鹿。
 そして硬直。馬鹿らしからぬリアクションを目の当たりにした甲が、恐る恐る彼に問いかける。

「おい、何があったんだ?」
「うーん……お前は見ない方がいいと思う。多分だけど……」
「くそっ、気になるじゃないか!」

 乙の忠告に耳を貸さず、甲も卓の下を覗き込む。
 ……眼と眼が合った。相手は生首だった。ニタニタ笑う赤蛮奇の生首。
 甲は眉間にシワを寄せて、カウンター席の赤蛮奇に視線を向ける。
 彼女の頭部は健在。では、卓の下に潜むコイツは何だ? あらゆる可能性を吟味した結果、甲が導き出した結論とは……。

「……見なかったことにしよう♪」
「アンタそれでいいワケ?」
「まあ、大目に見てやってくださいよ。コイツはコイツなりに色々と思うところがあって……」
「知ってるわよ。つうか、アンタらの話全部聞こえてたし」
「ホヒェッ!?」

 カッと目を見開き、口を限界まですぼめて奇声を上げる甲。
 乙としては腹を抱えて大笑いしたいところであったが、レディーの前なので自重した。

「随分好き勝手言ってくれたわね。同性愛者がどうとか……」
「いやあ、まあその……で、どうなんすか?」
「何がよ?」
「だからその、姐さんの性的指向というか」
「Laser!」
「熱ッ! ありがとうございます!」

 乙の足元スレスレを焦がす、赤蛮奇の熱視線。
 咄嗟に口を衝いて出たのは、どういう訳か感謝の言葉だった。

「くだらない馬鹿話なんかしてないで、家帰ってマスかいて寝なさい」
「……ッ! 今、何て言った……?」

 出来の悪いヒョットコのような表情で固まっていた甲が、突如として息を吹き返した。

「な、なによ。マスかいて寝ろって言ったけど、それが何か?」
「違う! その前だ!」
「くだらない馬鹿話って言ったのよ。悪い?」
「くだらない……馬鹿話だと!? よくもそんな事が言えるな!」

 激昂し、卓を叩いて立ち上がる甲。
 その勢いは、店内の喧騒を吹き飛ばして余りあるものであった。

「アンタに想いを伝えようとする事が、そんなにくだらない事だって言うのかよ!? こっちは真剣なんだよ!」
「ちょっ、落ち着きなさいって。なにもそこまで必死にならなくても……」
「ああ、必死だよ! 必死じゃなかったら、それは嘘だよ! ……アンタが好きだァー! 結婚を前提にお付き合いしてくれェーッ!」

 再び店中の視線が集まる中、甲は気後れすることなく堂々と告白。
 赤蛮奇(本体)の頭部が酒を吹き出したが、気に留める者など居はしない。

「里で見かけた時から、アンタに心奪われちまったんだ! 俺の想いは制御不能で、地獄極楽メルトダウン寸前なんだよ!」
「ちょっと待った。少し落ち着け。この雰囲気……何かがヤバい」

 暴走気味の甲を制しつつ、乙は自分達の置かれた状況を把握しようと努めた。
 まずは位置関係。直立した甲と、座ったままの乙。二人は卓を挟んで向かい合っている。
 その卓の下には、赤蛮奇の生首。ただし陰になっているため、周囲の者は彼女の存在に気付いていない。
 すなわち、客観的に見た場合、甲の視線が向けられた先は……乙の顔から血の気が引いた。

“うわぁ……男同士の求婚シーンなんて初めて見たわ……”
“薄い本が分厚くなるわね……”
「あーあ、やっぱり誤解されちまってるじゃねーか」

 ギャラリーの会話を耳にした乙が、打ちひしがれた表情で呟いた。
 片や熱情のハイテンション。片や絶望のローテンション。
 あまりにも対照的な二人の男の狭間で、赤蛮奇の頭部が必死に笑いを堪えている。

「俺は本気だ! 本気と書いてマジと読むんだッ!」
「ひいっ!?」

 いきなり卓の下に潜り込んで来た甲に対し、赤蛮奇が思わず情けない声を上げてしまう。
 そんな彼女の両頬を掴み、情熱的なベーゼを迫る甲。
 尋常ならざる空気を察した乙が、慌てて卓の下を覗き込んだ。

「おい、何してるんだ? ……って、それはマズいだろ!」
「うぎぎ……見てないで助けなさいよッ……!」
「実際こんなコト初めてだから、上手く出来るか分からないけど……ジュルッ、ズビビッ、ジュビジュビッ!」
「ひいぃキモ過ぎる!」

 舌舐めずりをする甲を振り切って、乙の足元へと逃げる赤蛮奇。
 軽い気持ちで茶々を入れた見返りが、このような恐怖体験であったとは、さしもの彼女も予想出来なかったに違いない。
 恐怖体験はまだまだ続く。下品極まりない音を立てながら、四つん這いの甲が彼女を追い詰める。
 その時、ギャラリーの、特に御婦人方から黄色い声が上がった。

“ヒエ~ッ! アイツ求婚だけでは飽き足らず、吸茎までおッ始めやがったんですよー!”
“ナイスな展開だわ! 今晩のオカズはコレで決まりね”

 重ねてお伝えしておくが、周囲の者達は赤蛮奇(生首)の存在に気付いていない。
 誤解に誤解が重なってしまうのも、致し方ない事であろう。

「ええい、Laser! Laser,Laser,Laser!」
「なんの! 顔面セーフ!」
「コイツ無敵か!?」

 立て続けの「目からレーザー攻撃」も、今の甲に対してはまったくの無力。
 文字通り手も足も出ない赤蛮奇。そんな彼女に、熱い男の熱い唇が迫り来る。
 まだ製品版も出ていないというのに、このような無法が許されてしまっても良いのだろうか?

「いいワケねえだろオラァ! 首もげろ!」
「でゅらららッ」

 ここで赤蛮奇(本体)、スライディング気味のキックで華麗にカット。
 頭部にクリティカルな打撃を受け、奇声を上げて吹き飛ぶ甲。
 ギャラリーからは拍手と歓声。乙もつられて拍手を送る。これでいいのか人間の里。

「って、こんな事やってる場合じゃねえな。おーい、生きてるかー?」
「ああ、顔面セーフだ……あれ? 彼女の頭が無いぞ?」

 赤蛮奇の生首は、既に本体によって回収済み。
 馬鹿二人は兎も角として、他の里人にまで素性を明かすつもりはなかったのだ。
 もっとも、先ほど何度か首を回転させた際は、周囲の目などまるで考慮に入れてなかったのだが。

「まったく、人間と関わるとロクな事がないわね。アディオス、お二人さん」

 服装の乱れを整えた後、マントを翻して去ろうとする赤蛮奇。
 そんな彼女の心中に、言い様の無い喪失感が去来する。
 それは寂寞か、惜別の念か……あるいは単なる気の迷いだろうか。
 止まりかけた足に力を込め、やや内股気味で彼女は店を後にした。

「やれやれ。今日は厄日だったな……お前、何持ってんだ?」
「スゥーッ……ハァーッ……スウゥゥゥーッ……ハアァァァーッ……!」

 床に伏せたままの状態で、不気味な呼吸音を立てる甲に、乙が訝しげな視線を送る。
 顔面を覆う甲の両手からは、なにやら白い布切れの様なモノが見え隠れしていた。

「ハンカチ……じゃあないよな。まさかオマエ……!」
「シュコオォォォォォォ……! ……そうよ、そのまさかよ!」

 布切れの正体について、今この場で明かすような事はしない。
 言える事があるとすれば、甲が生粋の幻想郷っ子である事と、愛の力は偉大であるという事だけだ。
 刹那の交錯の中で、見事チャンスをモノにした友人に対し、心の中で惜しみない拍手を送る乙であった。
 創想話の作家ってのは、たった一人の例外も無くノーパン主義者らしいぜ。
平安座
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コメント



0.1530簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
知ってるよ。創想話の中の人はみんな十歳前後の女の子だってこと。
あ、この話は下品だけど面白かったです(小並感
4.80名前が無い程度の能力削除
あれ…不思議だな、体験版やってた時にはなんとも思わなかったのにすげー可愛く見える。
7.80奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
8.100名前が無い程度の能力削除
ザ・ベスト・オブ・愛すべきバカ!甲も乙も最高のキャラクターだ!
こんなにスムーズに何の違和感もなく、男のオリキャラを好きになれたのは初めてだ!
甲と乙のテンポの良い漫才がとってもおもしろかった。
こんなにノリが良くて、おもしろい男なら、東方少女とくっついても良し!と思えちゃう。
10.80名前が無い程度の能力削除
まさかオリ男に筋を取られてかつ、許容できるオチとはな・・・
しかし、私はノーパン主義者ではない。穿いている娘も好みだ
12.90名前が無い程度の能力削除
ピシガシグッグッ
13.90名前が無い程度の能力削除
最低ですね
16.70名前が無い程度の能力削除
そっかー、あの作家さんもこっちの書き手さんも、みんな穿いてないんだなあ……。
あ、ばんきちゃん可愛いです。
17.90名前が無い程度の能力削除
濃いなあ、村人w
18.100名前が無い程度の能力削除
おう、生首が増える赤蛮奇ちゃんも変態里人もみんな大好きだよ!
19.100名前が無い程度の能力削除
かく言う私もノーパンでね
23.100名前が無い程度の能力削除
とってもお下劣でした(賞賛)
25.100名前が無い程度の能力削除
人間はたまにとんでもないですね。
とりあえず赤蛮奇さんのため、甲氏に怖いブラコン姉ちゃんがいないことを祈ります。

誤解しないでいただきたいのですが、私ははいてない娘も好むのであって、私自身が常にはいてないわけではないのです。
27.80名前が無い程度の能力削除
おう、かっとばしてんねぇ
41.80名前が無い程度の能力削除
怖いわー、幻想郷の村人怖いわー。
45.903削除
おい

なんだこれ
47.80名前が無い程度の能力削除
嫌いじゃないですぜ
50.100名前が無い程度の能力削除
赤蛮奇の事を書いた小説ってのは一つの例外も無く名作らしいぜ。