お燐が見当たらない。
今日一度もお燐を見ていない。
食堂を覗く。
仲間たちがおやつを摘まんでいた。
お燐の大好きな煮干しだ。
「ねえ、お燐見なかった?」
「にゃあ」
どうやらお燐はいないようだ。
談話室を覗く。
仲間たちが使い込まれてボロボロになったゲームで遊んでいた。
お燐が地上で拾ってきたボードゲームだ。
「ねえ、お燐見なかった?」
「かぁ」
どうやらお燐はいないようだ。
廊下を端から端まで歩く。
動く影を見かける。
お燐ではない、お散歩中のこいし様だ。
「こいし様、お燐見なかった?」
「みてないよ」
どうやらお燐はいないようだ。
お燐の部屋に行く。
ノックをしてからドアを開ける。
部屋の隅に私のあげた爪とぎが埃をかぶっている。
「ねえ、お燐いる?」
「……」
どうやらお燐はいないようだ。
さとり様の部屋に行く。
ノックをしてからドアを開ける。
さとり様の膝の上にだれもいない。
「さとり様、お燐見なかった?」
「庭にいると思いますよ」
どうやらお燐はいないようだ。
庭に行く。
さとり様の手入れしている薔薇が咲き乱れる。
隅には綺麗な石が置いてある。
「ねえ、お燐いる?」
「……」
どうやらお燐はいないようだ。
自分の部屋に帰る。
お燐にもらったリボンを解く。
元々は緑だったけど、かなり色あせてしまっていてぼろぼろだ。
「お燐? 居ない?」
「……」
お燐がいなくて私は寂しい。
本当に大事なことは、誰かが覚えていないといけない。
ストレートに胸に来ました
埃かぶった、の下りでドキドキさせて、さとり様の言葉でおや、と思わせ、また落とす。
単純な手法ではありますが、これだけ短くまとめて、かつ、おくうの心理描写を的確に表現したSSを私は評価せずにはいられません。
この一行の破壊力がやばい
たったの1KBでこの濃さはすごいと思います。
でも、ここに至るまでの経緯を書いた話を見たいと思ってしまった…。
この短さでこの切なさよ。お空のお馬鹿なところを上手く使っていると思います。