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京都からそう遠くないところまで私たちは足を運んでいた。いわゆる小旅行、日帰り旅行というわけだ。そこの結界があると思しきスポットを巡っていたけれども、どれもハズレだった、畜生め、と内心舌を打った。まあメリーと一緒にいることができただけで良しとしよう。
帰り道、ほんの少しだけ歩かなければならない道があった。巡回バスもなく駅も近くに無い山の中、まさしく辺鄙なところに来たもんだとなぜかしみじみとしてしまう。
首都京都とのギャップやあからさまなデマを垂れ流している観光協会、これはないわね、みたいな突っ込みどころを私たちは話し合っていた。
とにかく、満喫はできたと思う。でなければこうして嫌味無く笑い合うことができるのだから。私は大胆に、メリーはクスリ、と。たまにメリーの感性がわからなくなるぐらい大袈裟に笑い転げることもあるのだが。
そんな私たちの笑い声を妨げるものが、ある時突然姿を現した。通りに面したそれは小さな施設だ。とは言っても百人は簡単に収容できるみたいだ。門はとうの昔に取り壊され、植えられていただろう木々は不気味なほど存在していない。そして、風化しかけている廃墟が、その全貌を晒しながら私たちを睨んでいた。
Jackpot. メリーには言ってなかったが、実はこの施設のことを私はすでに知っている。下調べをしている最中に見つけたもので、所謂心霊スポットというやつだ。現地の人なら誰もが知っているような、古くから伝わる言い伝えがある。
唖然としているメリーに私は入ってみない? と提案した。メリーは最初首を縦に振らなかった。まさか怖いのかしら、とメリーをからかってみると、メリーは急にやる気になって私の手を引っ張ってずんずんと施設に進み始めた。ムキになるメリーもかわいいなと場違いなことを考えてしまったが。
メリーが境界について言わないということは、恐らく結界の中に迷いこむこともないだろう。もし結界があるのなら、メリーは私を引き留めただろうから。
実際のところ、行きの時にこの建物は存在していなかったはずだ。伝承によるとこの廃墟は夜になると姿を現し、日中は雲隠れをしているらしい。まさに伝承の通り、つまり本物。
ガラス張りの玄関だっただろう玄関に辿り着いたとき、私はメリーにその伝承を打ち明けた。また、伝承の肝となる部分を付け加えておいた。
ここは病気の人を隔離するために昔々建てられた政府の施設で、体が痛い、目が見えない、足が動かない、死んだ方がましだ、殺してくれ、そんな悲鳴が毎日のように響いてきたという。不治の病と闘っているのにも関わらず家族との面会も許されず、まるで囚人のような生活、雑な扱い、世間からの謂れの無い風評が彼らを苦しめていた。。だから収容された人は押し込められて以来笑ったことがなく、施設が破棄された後も、ここで亡くなった人の怨霊がここから出たがっていて、時たま訪れる人間の笑顔を見つけると嫉妬のあまりその人を殺してしまうという流れの話。
それを聞いた途端それはそれは面白いようにメリーの顔色が青くなった。あれだけ勇ましかった歩みもピタリと止まり、体も小刻みに震えている。
この話には続きがあってね、と私は続けた。ある時若い男女が数人遊びに来てて、ここで肝試しをすることにしたらしい。肝の据わった集団で、二人の女子を除いてはゲラゲラと笑いながら散策した。しかし、その女子以外が急に倒れ、何事かと調べてみると倒れた全員が心臓発作を起こしていた。二人は彼らをおいて一目散に逃げ出した。くる日もくる日も呪いに怯えながら暮らしていたが、結局長生きして天寿を全うしたんだとさ。だから笑わなければ大丈夫、と私はメリーをなだめた。今度は私がメリーを引っ張る番だった。
やはり誰かがいる、と思わずにはいられなかった。至るところから視線を感じる。レンズの割れたアンティークものの監視カメラ。原型のとどめていない人形の黒い目。割れたガラスの縁。天井の染み。懐中電灯で辺りを照らしながら進むが、さすがの私も躊躇を感じるほどに異質さが存在していた。
メリーは手を繋ぐだけでなくとうとう私の腕にしがみついてきた。恥ずかしがる暇もなく、できるだけ私に近づきたいのだろう。とてもかわいい。正気に戻ったらいったいどんな反応をするのか楽しみだ。
結局私たちは本能が警鐘を鳴らすところまで行った。あまりにも定番で面白味もなかったのだが、それは地下へ続く階段までだった。これはマズイ、と私は慌てた。メリーは息も荒くもう失神する寸前だった。
私はメリーの体を支えながら急いで屋外に脱出した。振り替えること無く、脇目も振らず、一目散に駅を目指した。
なんとか人の明かりが眩しいところまでたどり着き、落ち着くことができた。電車の中でも私たちはずっと無言だった。
なんとか京都に戻ってきたのだが、メリーに帰りは一緒についてきて、と鬼気迫る表情で頼まれ、メリーをマンションに送ってあげた。
メリーを送ってあげた後、私が帰宅したのはもう十二時を廻ろうかという時間だった。明日は講義が早いし、早めに寝なきゃいけない。
その前にメリーに電話してあげようと考えた。すごく怯えてたし、安心させてあげないと。シャワーを浴びた後、私はメリーに電話を掛けたのだが、もう寝てしまったのだろうか、繋がることはなかった。
京都からそう遠くないところまで私たちは足を運んでいた。いわゆる小旅行、日帰り旅行というわけだ。そこの結界があると思しきスポットを巡っていたけれども、どれもハズレだった、畜生め、と内心舌を打った。まあメリーと一緒にいることができただけで良しとしよう。
帰り道、ほんの少しだけ歩かなければならない道があった。巡回バスもなく駅も近くに無い山の中、まさしく辺鄙なところに来たもんだとなぜかしみじみとしてしまう。
首都京都とのギャップやあからさまなデマを垂れ流している観光協会、これはないわね、みたいな突っ込みどころを私たちは話し合っていた。
とにかく、満喫はできたと思う。でなければこうして嫌味無く笑い合うことができるのだから。私は大胆に、メリーはクスリ、と。たまにメリーの感性がわからなくなるぐらい大袈裟に笑い転げることもあるのだが。
そんな私たちの笑い声を妨げるものが、ある時突然姿を現した。通りに面したそれは小さな施設だ。とは言っても百人は簡単に収容できるみたいだ。門はとうの昔に取り壊され、植えられていただろう木々は不気味なほど存在していない。そして、風化しかけている廃墟が、その全貌を晒しながら私たちを睨んでいた。
Jackpot. メリーには言ってなかったが、実はこの施設のことを私はすでに知っている。下調べをしている最中に見つけたもので、所謂心霊スポットというやつだ。現地の人なら誰もが知っているような、古くから伝わる言い伝えがある。
唖然としているメリーに私は入ってみない? と提案した。メリーは最初首を縦に振らなかった。まさか怖いのかしら、とメリーをからかってみると、メリーは急にやる気になって私の手を引っ張ってずんずんと施設に進み始めた。ムキになるメリーもかわいいなと場違いなことを考えてしまったが。
メリーが境界について言わないということは、恐らく結界の中に迷いこむこともないだろう。もし結界があるのなら、メリーは私を引き留めただろうから。
実際のところ、行きの時にこの建物は存在していなかったはずだ。伝承によるとこの廃墟は夜になると姿を現し、日中は雲隠れをしているらしい。まさに伝承の通り、つまり本物。
ガラス張りの玄関だっただろう玄関に辿り着いたとき、私はメリーにその伝承を打ち明けた。また、伝承の肝となる部分を付け加えておいた。
ここは病気の人を隔離するために昔々建てられた政府の施設で、体が痛い、目が見えない、足が動かない、死んだ方がましだ、殺してくれ、そんな悲鳴が毎日のように響いてきたという。不治の病と闘っているのにも関わらず家族との面会も許されず、まるで囚人のような生活、雑な扱い、世間からの謂れの無い風評が彼らを苦しめていた。。だから収容された人は押し込められて以来笑ったことがなく、施設が破棄された後も、ここで亡くなった人の怨霊がここから出たがっていて、時たま訪れる人間の笑顔を見つけると嫉妬のあまりその人を殺してしまうという流れの話。
それを聞いた途端それはそれは面白いようにメリーの顔色が青くなった。あれだけ勇ましかった歩みもピタリと止まり、体も小刻みに震えている。
この話には続きがあってね、と私は続けた。ある時若い男女が数人遊びに来てて、ここで肝試しをすることにしたらしい。肝の据わった集団で、二人の女子を除いてはゲラゲラと笑いながら散策した。しかし、その女子以外が急に倒れ、何事かと調べてみると倒れた全員が心臓発作を起こしていた。二人は彼らをおいて一目散に逃げ出した。くる日もくる日も呪いに怯えながら暮らしていたが、結局長生きして天寿を全うしたんだとさ。だから笑わなければ大丈夫、と私はメリーをなだめた。今度は私がメリーを引っ張る番だった。
やはり誰かがいる、と思わずにはいられなかった。至るところから視線を感じる。レンズの割れたアンティークものの監視カメラ。原型のとどめていない人形の黒い目。割れたガラスの縁。天井の染み。懐中電灯で辺りを照らしながら進むが、さすがの私も躊躇を感じるほどに異質さが存在していた。
メリーは手を繋ぐだけでなくとうとう私の腕にしがみついてきた。恥ずかしがる暇もなく、できるだけ私に近づきたいのだろう。とてもかわいい。正気に戻ったらいったいどんな反応をするのか楽しみだ。
結局私たちは本能が警鐘を鳴らすところまで行った。あまりにも定番で面白味もなかったのだが、それは地下へ続く階段までだった。これはマズイ、と私は慌てた。メリーは息も荒くもう失神する寸前だった。
私はメリーの体を支えながら急いで屋外に脱出した。振り替えること無く、脇目も振らず、一目散に駅を目指した。
なんとか人の明かりが眩しいところまでたどり着き、落ち着くことができた。電車の中でも私たちはずっと無言だった。
なんとか京都に戻ってきたのだが、メリーに帰りは一緒についてきて、と鬼気迫る表情で頼まれ、メリーをマンションに送ってあげた。
メリーを送ってあげた後、私が帰宅したのはもう十二時を廻ろうかという時間だった。明日は講義が早いし、早めに寝なきゃいけない。
その前にメリーに電話してあげようと考えた。すごく怯えてたし、安心させてあげないと。シャワーを浴びた後、私はメリーに電話を掛けたのだが、もう寝てしまったのだろうか、繋がることはなかった。
前作はかなり酷評を言ってしまいました。本当にごめんなさい。無知で申し訳ない。
この後の連子は言うまでもなく、悲しみながらメリーを捜したんでしょうねえ...
夏はやっぱりホラー。どんどん涼んでいきましょう。
急に手のひらを返したようなコメントでごめんなさい。
本気で反省してるんです。
どうかその辺、分かってください。お願いします(泣)。
車で来た、もしくは予約していたホテルで・・・・・・といった方がよかったかも。
それと旅行先の描写にリアルっぽさを全然感じませんでした。
京都からの近場と場所を決めて作るなら、福井の東尋坊とか具体的名を出して演出した方が怖さがより強調されると思います。
最近怖い話ばっかり読んでるせいで感想が辛辣になって申し訳ない。
やっぱ遊び半分でこういうところに行ってはだめですね・・・滅びを招く。
相変わらず氏の作品は怖い・・・
つまりメリーはくすり、と秘かに笑ってしまっていたのですか?それで心臓発作で倒れた…という結末なのでしょうか?
何度読み返してもピンと来ません。
それはさておき、意味が分かると怖い話は大好物です。この話も淡々とした語りが良い味出してますね。
>>私は大胆に、メリーはクスリ、と。
蓮子も笑ってたのに、死んだのはメリーだけ。
蓮子さん、実は嫁さんをうざったく思っていた!?
(秘封倶楽部は)もう手遅れ。これであってる?間違ってたらすみません。
でもこの解釈だと、どうして家に帰るまで無事だったかが説明つかないんだよね……。
次作投稿してからで良いから模範解答がほしいなぁ(チラッチラッ
メリーの結界の下りとか、肝試しの生き残りの話とか、地下室に何があるのか、など、重要な事柄か否かの判断が難しかった。
前作を楽しめた分、余計に悔しいですね(笑)
意味が分かると怖い、というよりも、怖い部分をわざと避けてあっさり書いただけというような印象でした。私の解釈の仕方が間違っているだけかもしれないけど。
読みやすくて好きな文章なんだけどなあ。
蓮子は大胆に笑ったから助かったけどメリーは・・・・
ってことですかね?だとしたら怖っ・・・・・・・
こういうものを書ける人は希少
若い男女は「心臓発作」で、しかも「その場で」倒れたはず。
それが正しいとすれば、秘封倶楽部もやはり散策途中に倒れないとおかしいし、
間違っているとすれば解答へ辿り着くことが不可能に思えます。