「咲夜さん、何を被っているんですか?」
「これ? お嬢様のパンツ」
そう言って笑う咲夜さんの笑顔が見れなくなるなんて思っても居なかった。
「美鈴?」
咲夜が声を掛けると、美鈴が驚いて顔を上げた。
「咲夜さん!」
今まで書き綴っていたノートを閉じて机に置くと、椅子を回転させて体を向ける。
「どうしたんですか?」
「いいえ、特に。偶には、ね。それより何を書いてたの?」
「日記です。最近書き始めたんです」
「へえ。ちょっと見せてもらって良い?」
「え? 駄目です、駄目です!」
そう言って美鈴がノートを必死で隠そうとするので、咲夜がおかしそうに笑った。
「まあまあ、ちょっと位良いじゃない。ね?」
咲夜が日記を奪いとろうとするので、美鈴は必死で日記の上に覆いかぶさった。
「駄目です!」
「ちょっとだけだから」
咲夜に力強く引っ張られあわや奪われそうになった時、部屋の扉が開いて美鈴が入ってきた。
「ちょっと咲夜さん! 私が嫌がってるじゃないですか! 止めてあげてください」
たしなめられた咲夜が慌てて首を横に降った。。
「違うのよ。ただちょっと日記を。そんな酷い事をしようとした訳じゃ」
そう言って、咲夜が傍らの美鈴を見下ろすと、美鈴は泣きながら日記の上にすがり付いている。その様子に咲夜は慌てた声を上げる。
「え? 嘘。あ、そんな! ごめんなさい。そんなつもりじゃ」
泣きじゃくっている美鈴を必死であやそうとするが、美鈴は泣き止まない。
「ごめんなさい。あ、じゃあ、ほら、これ少し貸してあげるから。ね、泣き止んで」
そう言って、咲夜は懐からそれを取り出し差し出したが、泣いている美鈴は泣き止むどころか打ち払ってしまったので、咲夜はもうどうしようも無くなって途方に暮れてしまった。その様子を扉の傍に立った美鈴が呆れた様子で眺めていた。
そんな事ばかりが書かれた美鈴の手記には、おかしな点ばかりで、不整合が目立つ。何もかもが始終ふざけた調子で、どれが本当かも分からない。寝ぼけて書いたんじゃないかと疑いたくなる位。本当のところを知りたいけれど、本当の事は分からない。この手記を書いた美鈴なんて存在、何処にも居ないから。
一体どうなったんだろうと、鈴仙がページをめくると後は白紙だった。途中で飽きたのか、あるいは書く事が出来なくなったのか。聞いてみたかったが、何となく聞くのが怖かった。何処か懐かしい気持ちが湧いた理由が良く分からない。ノートを返して部屋を出ると、遠くから怒鳴り声が聞こえてきた。驚いて声のする方へ向かうとそこは輝夜の部屋で、輝夜が仁王立ちして、永琳が正座していた。
「こんなのあかんやろ!」
そう言って、輝夜がノートを永琳の前に叩きつける。
「でも、こういう方が」
「あかんあかん! あたし達の沽券に関わるわ!」
何か只ならぬ様子だった。
「どうしたんですか?」
「あ? ああ、鈴仙か。実はな、今度の子供の会で漫才をやろうと思ってん。せやから、あたしもこうして大阪人になりきって喋ってるし」
「ああ、だからさっきから、関西を馬鹿にしてるとしか思えない、ド下手くそな関西弁を喋ってたんですね」
「きつい事言うなぁ、自分。まあ、それで永琳はネタ出しをやっとった訳やけど、こいつ下ネタしか書きよらねん」
「え? すみません、もう一回」
「せやから、こいつ下ネタしか書きよらんの!」
「すみません、下手すぎて上手く聞き取れませんでした」
「一一言わんといて、そういう事。とにかくそんな訳なんよ」
「何で、師匠は下ネタばっかり?」
「だって、子供に受けるって言ったら下ネタでしょ? 下品な事を言えば、子供は無条件で笑うじゃない。馬鹿だから」
「多分今の師匠よりは賢いと思いますけど。そっか、お笑いをやろうとしてたんですね」
「そうよ」
「せや」
「じゃあ、その人とトリオ漫才なんですね?」
そう言って、鈴仙が笑ったので、永琳と輝夜は不思議そうな顔をした。
「その人?」
「誰の事や? あたし等は二人でやるつもりやってん」
「もしかして優曇華もやりたいの?」
「え? だからその人とトリオなんじゃないんですか?」
そう言って、鈴仙が輝夜の背後を指さしたので、輝夜は驚いて振り返った。
振り返ると闇があった。気がつくと辺りが闇に覆われていた。
「ルーミア、何か面白い事無い?」
チルノが問うと、闇が答えた。
「お笑いの舞台とか?」
「お笑いの部隊? 何それ? 強いのか?」
「強いかは分からないけど、面白いんじゃない? 何組か集まって、コントとか漫才で対決したんだって」
「そっかー! 面白いかはどうでも良いけど、強いって言うなら挑まなきゃ!」
「え? でもお笑いの舞台は終わっちゃったよ?」
「え?」
「もう終わっちゃったよ?」
「え?」
「だから終わっちゃったって」
「誰が最強だったの?」
「えーっとね、確か」
「終わった」
パチュリーが呆然として呟いた目の前には、まだ煙の立ち上る崩壊した紅魔館がある。
「何よこれ!」
崩れ去った紅魔館を見て、お姉様が悲鳴を上げた。美鈴が美鈴と一緒に頭を下げる。
「すみません、爆発オチは必須だろうと思いまして」
「すみません、お嬢様。加減が分からなくて」
「いえ、美鈴は悪くないんです。私が頼み込んだだけだから。叱るなら私だけを」
真摯に頭を下げる二人に悪気が無い事が分かって、お姉様が泣き笑いの様な顔になった。
その隣に立った咲夜が悲しげな顔をする。
「美鈴、あまり無茶はしないで」
美鈴は顔を上げて、笑った。
「大丈夫です。無茶な事なんてしませんから。絶対に咲夜さんの笑顔を取り戻してみせます」
二人の背景には、まだ煙の立ち上る崩壊した紅魔館が在る。
「頑張ってね、美鈴」
「はい! 美鈴もアシスタントお願いします!」
「はい!」
二人の美鈴は拳を打ち合わせる。
「絶対に咲夜さんの笑顔を取り戻しましょう!」
「はい! きっと!」
向こうからは観客の喝采が聞こえてくる。前の組は随分と盛り上がったらしい。満面の笑みで舞台袖に戻ってくる。
美鈴が不安そうな顔をしたので、もう一人の美鈴はその手をぎゅっと握り締める。
「大丈夫。一番面白いから」
「はい!」
美鈴はもう一人の美鈴の頭を撫でると、快活に笑って歩き出す。
ステージの照明に照らされたその後姿は、格好良くて頼り甲斐があって、何だか神々しく見えた。
その日記を読み終えた永琳はそっと息を吐いて天井を仰いだ。その後ろから輝夜が永琳の手元を覗きこむ。
「大分疲れてるみたいだけど、どうしたの?」
「ちょっと、精神科医の真似事を」
永琳が溜息を吐いたので、輝夜は笑った。
「大変なの?」
「だって何もおかしくないのに、家の人が病気だって言って聞かないんだもの」
「大変ね」
輝夜が楽しそうに笑うので、永琳は非難がましく輝夜を睨む。輝夜は目を逸らしながら、日記を指さした。
「それ、私も読んで良い?」
永琳はちらりと横を伺ってから、頷いた。
「ええ、本人も読んで貰いたがっている様だし」
「じゃあ、遠慮無く」
輝夜は早速ノートを開き、そしてほんの一瞬でその短い日記を読み終えた。
「何これ」
「日記、というより手記ね。連続的に書いた物じゃないし、時系列もばらばらだから。きっとこの子には世界がそういう風に見えているんでしょうね」
「でも」
輝夜は反論しようとして、言い淀んだ。
「これが日記か。お家の方が心配するのも分かる気がする」
「そう? 可愛いものだと思うけど。酷さで言うなら、ここに来たばかりの頃の鈴仙の日記の方が。本人は覚えてないらしいけど」
「ああ、あれはね」
輝夜はうんざりとした顔になって、気を紛らわす様に再び日記に目を通した。
「この前の漫才の事も書かれてるのね。あのややウケだった」
「思い出したくないわ」
永琳が頭を抱えて仰け反った。
輝夜は苦笑しながら日記を閉じる。
「そう言えば、結局咲夜はどうなったの? 美鈴やあなたが私達と漫才に参加したのって、笑えなくなった咲夜を笑わせたかったからなんでしょ?」
輝夜が尋ねてきたので、美鈴は首を横に振った。
「ごめんなさい、美鈴。いまいち笑い所が分からなかったんだけど、教えてくれない?」
そう言って、さっきの漫才の説明を求められたので、美鈴は泣く泣く台本を片手にギャグの説明をしていた。
失敗したギャグの説明をする美鈴も辛そうだし、笑う事が出来ずに皆に迷惑を掛けている咲夜も辛そうな顔をしている。
美鈴はそんな咲夜と美鈴の様子を見て、何とかして上げたいと思った。その時ふとポケットの中にそれがある事に気がついた。それは咲夜が美鈴の部屋に忘れていった物で、返そう返そうと思っていたものの、何だかそれどころじゃなくて返せなかった物だった。丁度美鈴が泣いていた時に、咲夜が美鈴を慰める為に貸してくれようとした物だ。
これならば咲夜を慰められるかもしれない。そんな気がした。
「咲夜さん、あの、これ。そんな辛そうな顔をしないでください」
美鈴の説明を聞いてた咲夜は辛そうな顔を美鈴へ向け、それを見た途端に目を見開いて立ち上がった。
「それ! 何処に!」
「私の部屋に。咲夜さんが忘れていったから」
咲夜は瞳から涙をながす。
「良かった、無くしたのかと思って」
そうしてまるで神聖な物でも受け取るかの様に両手で捧げ受け、ぎゅっと握りしめた。そのまま涙の溢れ出る顔に両手を当てて鼻を啜り出す。
「もしかして咲夜さんが笑わなくなったのって、それを無くしたからですか?」
美鈴がネタ帳を片手に咲夜へ尋ねると、咲夜が顔を覆ったまま頷いたので、美鈴はアホらしと言ってネタ帳を放り投げてソファに倒れこんだ。
私は新たに書き加えたページをもう一度読みなおしてちゃんと書けている事に満足する。
何だか更に書き足したくなって文章だけじゃなくて絵も書いてみた。
始めにパンツを被って嬉しそうにしている咲夜を書く。咲夜のとても嬉しそうな顔に私まで嬉しくなる。それから疲れた顔の美鈴とパンツを被る咲夜を見て怪訝そうにしているお姉様と嬉しそうな顔で美鈴の隣に並ぶ美鈴といつもの通り無表情のパチュリーを書いた。
日記の中で紅魔館のみんなが幸せそうに並んでいる。
それを見ていると私まで幸せな気分になった。
「これ? お嬢様のパンツ」
そう言って笑う咲夜さんの笑顔が見れなくなるなんて思っても居なかった。
「美鈴?」
咲夜が声を掛けると、美鈴が驚いて顔を上げた。
「咲夜さん!」
今まで書き綴っていたノートを閉じて机に置くと、椅子を回転させて体を向ける。
「どうしたんですか?」
「いいえ、特に。偶には、ね。それより何を書いてたの?」
「日記です。最近書き始めたんです」
「へえ。ちょっと見せてもらって良い?」
「え? 駄目です、駄目です!」
そう言って美鈴がノートを必死で隠そうとするので、咲夜がおかしそうに笑った。
「まあまあ、ちょっと位良いじゃない。ね?」
咲夜が日記を奪いとろうとするので、美鈴は必死で日記の上に覆いかぶさった。
「駄目です!」
「ちょっとだけだから」
咲夜に力強く引っ張られあわや奪われそうになった時、部屋の扉が開いて美鈴が入ってきた。
「ちょっと咲夜さん! 私が嫌がってるじゃないですか! 止めてあげてください」
たしなめられた咲夜が慌てて首を横に降った。。
「違うのよ。ただちょっと日記を。そんな酷い事をしようとした訳じゃ」
そう言って、咲夜が傍らの美鈴を見下ろすと、美鈴は泣きながら日記の上にすがり付いている。その様子に咲夜は慌てた声を上げる。
「え? 嘘。あ、そんな! ごめんなさい。そんなつもりじゃ」
泣きじゃくっている美鈴を必死であやそうとするが、美鈴は泣き止まない。
「ごめんなさい。あ、じゃあ、ほら、これ少し貸してあげるから。ね、泣き止んで」
そう言って、咲夜は懐からそれを取り出し差し出したが、泣いている美鈴は泣き止むどころか打ち払ってしまったので、咲夜はもうどうしようも無くなって途方に暮れてしまった。その様子を扉の傍に立った美鈴が呆れた様子で眺めていた。
そんな事ばかりが書かれた美鈴の手記には、おかしな点ばかりで、不整合が目立つ。何もかもが始終ふざけた調子で、どれが本当かも分からない。寝ぼけて書いたんじゃないかと疑いたくなる位。本当のところを知りたいけれど、本当の事は分からない。この手記を書いた美鈴なんて存在、何処にも居ないから。
一体どうなったんだろうと、鈴仙がページをめくると後は白紙だった。途中で飽きたのか、あるいは書く事が出来なくなったのか。聞いてみたかったが、何となく聞くのが怖かった。何処か懐かしい気持ちが湧いた理由が良く分からない。ノートを返して部屋を出ると、遠くから怒鳴り声が聞こえてきた。驚いて声のする方へ向かうとそこは輝夜の部屋で、輝夜が仁王立ちして、永琳が正座していた。
「こんなのあかんやろ!」
そう言って、輝夜がノートを永琳の前に叩きつける。
「でも、こういう方が」
「あかんあかん! あたし達の沽券に関わるわ!」
何か只ならぬ様子だった。
「どうしたんですか?」
「あ? ああ、鈴仙か。実はな、今度の子供の会で漫才をやろうと思ってん。せやから、あたしもこうして大阪人になりきって喋ってるし」
「ああ、だからさっきから、関西を馬鹿にしてるとしか思えない、ド下手くそな関西弁を喋ってたんですね」
「きつい事言うなぁ、自分。まあ、それで永琳はネタ出しをやっとった訳やけど、こいつ下ネタしか書きよらねん」
「え? すみません、もう一回」
「せやから、こいつ下ネタしか書きよらんの!」
「すみません、下手すぎて上手く聞き取れませんでした」
「一一言わんといて、そういう事。とにかくそんな訳なんよ」
「何で、師匠は下ネタばっかり?」
「だって、子供に受けるって言ったら下ネタでしょ? 下品な事を言えば、子供は無条件で笑うじゃない。馬鹿だから」
「多分今の師匠よりは賢いと思いますけど。そっか、お笑いをやろうとしてたんですね」
「そうよ」
「せや」
「じゃあ、その人とトリオ漫才なんですね?」
そう言って、鈴仙が笑ったので、永琳と輝夜は不思議そうな顔をした。
「その人?」
「誰の事や? あたし等は二人でやるつもりやってん」
「もしかして優曇華もやりたいの?」
「え? だからその人とトリオなんじゃないんですか?」
そう言って、鈴仙が輝夜の背後を指さしたので、輝夜は驚いて振り返った。
振り返ると闇があった。気がつくと辺りが闇に覆われていた。
「ルーミア、何か面白い事無い?」
チルノが問うと、闇が答えた。
「お笑いの舞台とか?」
「お笑いの部隊? 何それ? 強いのか?」
「強いかは分からないけど、面白いんじゃない? 何組か集まって、コントとか漫才で対決したんだって」
「そっかー! 面白いかはどうでも良いけど、強いって言うなら挑まなきゃ!」
「え? でもお笑いの舞台は終わっちゃったよ?」
「え?」
「もう終わっちゃったよ?」
「え?」
「だから終わっちゃったって」
「誰が最強だったの?」
「えーっとね、確か」
「終わった」
パチュリーが呆然として呟いた目の前には、まだ煙の立ち上る崩壊した紅魔館がある。
「何よこれ!」
崩れ去った紅魔館を見て、お姉様が悲鳴を上げた。美鈴が美鈴と一緒に頭を下げる。
「すみません、爆発オチは必須だろうと思いまして」
「すみません、お嬢様。加減が分からなくて」
「いえ、美鈴は悪くないんです。私が頼み込んだだけだから。叱るなら私だけを」
真摯に頭を下げる二人に悪気が無い事が分かって、お姉様が泣き笑いの様な顔になった。
その隣に立った咲夜が悲しげな顔をする。
「美鈴、あまり無茶はしないで」
美鈴は顔を上げて、笑った。
「大丈夫です。無茶な事なんてしませんから。絶対に咲夜さんの笑顔を取り戻してみせます」
二人の背景には、まだ煙の立ち上る崩壊した紅魔館が在る。
「頑張ってね、美鈴」
「はい! 美鈴もアシスタントお願いします!」
「はい!」
二人の美鈴は拳を打ち合わせる。
「絶対に咲夜さんの笑顔を取り戻しましょう!」
「はい! きっと!」
向こうからは観客の喝采が聞こえてくる。前の組は随分と盛り上がったらしい。満面の笑みで舞台袖に戻ってくる。
美鈴が不安そうな顔をしたので、もう一人の美鈴はその手をぎゅっと握り締める。
「大丈夫。一番面白いから」
「はい!」
美鈴はもう一人の美鈴の頭を撫でると、快活に笑って歩き出す。
ステージの照明に照らされたその後姿は、格好良くて頼り甲斐があって、何だか神々しく見えた。
その日記を読み終えた永琳はそっと息を吐いて天井を仰いだ。その後ろから輝夜が永琳の手元を覗きこむ。
「大分疲れてるみたいだけど、どうしたの?」
「ちょっと、精神科医の真似事を」
永琳が溜息を吐いたので、輝夜は笑った。
「大変なの?」
「だって何もおかしくないのに、家の人が病気だって言って聞かないんだもの」
「大変ね」
輝夜が楽しそうに笑うので、永琳は非難がましく輝夜を睨む。輝夜は目を逸らしながら、日記を指さした。
「それ、私も読んで良い?」
永琳はちらりと横を伺ってから、頷いた。
「ええ、本人も読んで貰いたがっている様だし」
「じゃあ、遠慮無く」
輝夜は早速ノートを開き、そしてほんの一瞬でその短い日記を読み終えた。
「何これ」
「日記、というより手記ね。連続的に書いた物じゃないし、時系列もばらばらだから。きっとこの子には世界がそういう風に見えているんでしょうね」
「でも」
輝夜は反論しようとして、言い淀んだ。
「これが日記か。お家の方が心配するのも分かる気がする」
「そう? 可愛いものだと思うけど。酷さで言うなら、ここに来たばかりの頃の鈴仙の日記の方が。本人は覚えてないらしいけど」
「ああ、あれはね」
輝夜はうんざりとした顔になって、気を紛らわす様に再び日記に目を通した。
「この前の漫才の事も書かれてるのね。あのややウケだった」
「思い出したくないわ」
永琳が頭を抱えて仰け反った。
輝夜は苦笑しながら日記を閉じる。
「そう言えば、結局咲夜はどうなったの? 美鈴やあなたが私達と漫才に参加したのって、笑えなくなった咲夜を笑わせたかったからなんでしょ?」
輝夜が尋ねてきたので、美鈴は首を横に振った。
「ごめんなさい、美鈴。いまいち笑い所が分からなかったんだけど、教えてくれない?」
そう言って、さっきの漫才の説明を求められたので、美鈴は泣く泣く台本を片手にギャグの説明をしていた。
失敗したギャグの説明をする美鈴も辛そうだし、笑う事が出来ずに皆に迷惑を掛けている咲夜も辛そうな顔をしている。
美鈴はそんな咲夜と美鈴の様子を見て、何とかして上げたいと思った。その時ふとポケットの中にそれがある事に気がついた。それは咲夜が美鈴の部屋に忘れていった物で、返そう返そうと思っていたものの、何だかそれどころじゃなくて返せなかった物だった。丁度美鈴が泣いていた時に、咲夜が美鈴を慰める為に貸してくれようとした物だ。
これならば咲夜を慰められるかもしれない。そんな気がした。
「咲夜さん、あの、これ。そんな辛そうな顔をしないでください」
美鈴の説明を聞いてた咲夜は辛そうな顔を美鈴へ向け、それを見た途端に目を見開いて立ち上がった。
「それ! 何処に!」
「私の部屋に。咲夜さんが忘れていったから」
咲夜は瞳から涙をながす。
「良かった、無くしたのかと思って」
そうしてまるで神聖な物でも受け取るかの様に両手で捧げ受け、ぎゅっと握りしめた。そのまま涙の溢れ出る顔に両手を当てて鼻を啜り出す。
「もしかして咲夜さんが笑わなくなったのって、それを無くしたからですか?」
美鈴がネタ帳を片手に咲夜へ尋ねると、咲夜が顔を覆ったまま頷いたので、美鈴はアホらしと言ってネタ帳を放り投げてソファに倒れこんだ。
私は新たに書き加えたページをもう一度読みなおしてちゃんと書けている事に満足する。
何だか更に書き足したくなって文章だけじゃなくて絵も書いてみた。
始めにパンツを被って嬉しそうにしている咲夜を書く。咲夜のとても嬉しそうな顔に私まで嬉しくなる。それから疲れた顔の美鈴とパンツを被る咲夜を見て怪訝そうにしているお姉様と嬉しそうな顔で美鈴の隣に並ぶ美鈴といつもの通り無表情のパチュリーを書いた。
日記の中で紅魔館のみんなが幸せそうに並んでいる。
それを見ていると私まで幸せな気分になった。
つまり、物語の中での日記ではなく、日記そのものであると
作者さんの意図しているものと違っていたらすみません
あとナンセンスを目指していたなら根源となる世界の歪みが弱すぎますよ!
もしかしてザ·クロケットマン?