ポツッ、ポツッ
青天から、いきなり雨粒が滴り落ちてくる。生気にあふれるこの空気を、緑の風景を切り裂いて。青天の霹靂、読んで字の如くとはいかないけれど、風情がある。
「こんなに晴れていて、雨が降るなんて変わったこともあるのね。
何で雨が降ってきたのかしら?」
日傘だけど雨傘となってしまったコウモリのしたから、お嬢様が空を覗きながら聞いてくる。
「何ででしょうね?もしかしたら、藍さんがお嫁にいったせいかもしれませんよ?」
私はそっけないふりをして、瀟洒に切り返す。
「それは、ロマンチックね」
お嬢様は、頬を緩めてそっと言葉を返してくれる。
今日は、なぜか心が落ち着く。
嗚呼、そういえばこんなことが前にもあった。
隣にお嬢様が座って私は給仕をして。
そして突然の狐の嫁入り。
あの時もお嬢様は、あのお嬢様は同じ言葉を返してくれた。
本当に懐かしい。
不意なことで、忘れていたはずの記憶が蘇る。
例えば、音楽を聞いたり、本を読んで自分の姿を重ね合わせてしまって。
例えば、友達と遊んで、杯を傾けていつの間にか朝になって、綺麗な朝日を見たりして。
例えば、記憶に深く刻まれた大事な・・・大事な思い出と同じことが起きたせいで想いをその当時へ馳せたりして。
それは本当に突然で、唐突で、そして不意打ちで私の心を揺さぶる。それも、心の堰が決壊するほどの威力を持ってだ。
こんなの耐えきれる訳がないじゃない。
私は必死に瀟洒に涙に耐える。
悲しくて、寂しくて肩を抱いて、膝を抱えて、小さくなってしまった背中が余計に小さくなろうとするけど、必死に耐える。
そういえば、若い頃からの多くの友人とはお別れを済ましてしまった。
毎日のようにこの屋敷にきて、いたずらばかりしていた、あのやんちゃな黒白のネズミや誰にも囚われないけどみんなから愛されていて鳥のような紅白。
みんな懐かしい
お転婆な緑は、今も変わらない姿で現人神をしているけど。
もう多くの人とはお別れを告げてしまった。
そういえば、純粋な人間では私が最後か・・・
いつまでも変わらないあの方が、あの方が私のそばにいるので、すっかり忘れていた。
でも、私より長生きだと思っていたあの方とですら、この間別れを迎えてしまった。
原因は結界の局所崩壊という話だった。こんなに唐突で理不尽な別れは流石に、辛い。
そんなことを考えていたら、自分の最後はどうなるのだろうと考えてしまう。
今までは、サヨナラを言われるだけだったけど、今度は私がサヨナラを言うばんなのかしら。
これで、もうこんなに悲しい思いをしなくてすむ・・・
いえ、むしろサヨナラを告げることが寂しいのかしら?
「咲夜?大丈夫かしら?」
隣に座っていたあの方は、完璧に瀟洒に給仕を続けていた私の変化に気づく。
「何のことでしょうか?お嬢様」
私はそっけないふりをして言葉を返す。
「言いたくないなら、言わなくてもいいけど・・・」
お嬢様は物憂げな顔をして、ふぅと息を吐く。
「いろいろあったあとだから、辛いでしょうけれど、無理はしないでね。今は私が主なんだから、従者の精神衛生を考えるのも私の仕事。何かあったらなんでも言って。できることは何でもするから」
そんな優しい言葉に私の心はぐらついてしまう。
「では、一つわがままをよろしいでしょうか?」
嗚呼、わがままなんて、瀟洒な私が崩れ去ってしまう。そんなことをしてはダメ。
「いいわよ」
お嬢様は、真摯に私の目を見つめて答えてくれる。そんな目で見られたら、言葉を心の中に押しとどめることはできない。どうしても、今の私の気持ちを知って欲しい。
「では、今はとても寂しくて泣いてしまいそうなので、抱きしめてもらってもよろしいでしょうか?フランお嬢様」
口に出してしまった。もう気持ちを抑えることはできない。
「普段あんなに元気そうな素振りをしていたのに、やっぱりお姉様がいなくなって寂しかったんじゃない。いいわよ。貴方を温めてあげる」
それからは、お互い言葉を交わさずに歩み寄り、抱きしめあっていた。
「ねぇ、咲夜」
フランお嬢様は、捨てられた子猫のようにか細い声で問いかけてくる。
「お姉様が結界の崩壊に巻き込まれてから私はお姉様の代わりができているのかな?私は咲夜の心の穴を埋めることができているかな?」
それも、レミリアお嬢様がいなくなってから、久しく使うことのなかった昔と同じ口調で問いかけてくる。
「レミリアお嬢様の代わりという点では、難しいですね」
私の言葉を聞いてフランお嬢様は体を震わせ、私を抱きしめていた腕の力を弱めてしまう。でも、続きを聞いて欲しくてフランお嬢様の小さな体を引き寄せて言葉を繋げる。
「ですが、今の私には小さい体で気丈に振る舞って、こんなに私のことを思ってくれる主がいる。それは、私にとって身に余る光栄です」
私の言葉を聞いて、フランお嬢様は腕に力を込めて抱き返してくれる。
「私はこんなに素晴らしい主に使えることができて幸せです。しかも、その主は二人もいて姉妹なんですから」
フランお嬢様は、私に言葉を返すことなく小さく体を揺らして嗚咽を漏らしていた。そんなお嬢様を体全体で感じて、改めて思う。
私は、幸せ者だと。
こんなに素晴らしい人生ならもう思い直すことはない。さっきまでの暗澹たる気持ちはすっかり晴れわたっていた。さながら狐の嫁入りが終わった今の晴天のように。
「嗚呼、私は幸せです」
私の言葉が響いてからは、私もフランお嬢様も動かずに、レミリアお嬢様がいなくなったせいで空いてしまった心の穴を埋め合うように、ずっと抱きしめあっていた。
青天から、いきなり雨粒が滴り落ちてくる。生気にあふれるこの空気を、緑の風景を切り裂いて。青天の霹靂、読んで字の如くとはいかないけれど、風情がある。
「こんなに晴れていて、雨が降るなんて変わったこともあるのね。
何で雨が降ってきたのかしら?」
日傘だけど雨傘となってしまったコウモリのしたから、お嬢様が空を覗きながら聞いてくる。
「何ででしょうね?もしかしたら、藍さんがお嫁にいったせいかもしれませんよ?」
私はそっけないふりをして、瀟洒に切り返す。
「それは、ロマンチックね」
お嬢様は、頬を緩めてそっと言葉を返してくれる。
今日は、なぜか心が落ち着く。
嗚呼、そういえばこんなことが前にもあった。
隣にお嬢様が座って私は給仕をして。
そして突然の狐の嫁入り。
あの時もお嬢様は、あのお嬢様は同じ言葉を返してくれた。
本当に懐かしい。
不意なことで、忘れていたはずの記憶が蘇る。
例えば、音楽を聞いたり、本を読んで自分の姿を重ね合わせてしまって。
例えば、友達と遊んで、杯を傾けていつの間にか朝になって、綺麗な朝日を見たりして。
例えば、記憶に深く刻まれた大事な・・・大事な思い出と同じことが起きたせいで想いをその当時へ馳せたりして。
それは本当に突然で、唐突で、そして不意打ちで私の心を揺さぶる。それも、心の堰が決壊するほどの威力を持ってだ。
こんなの耐えきれる訳がないじゃない。
私は必死に瀟洒に涙に耐える。
悲しくて、寂しくて肩を抱いて、膝を抱えて、小さくなってしまった背中が余計に小さくなろうとするけど、必死に耐える。
そういえば、若い頃からの多くの友人とはお別れを済ましてしまった。
毎日のようにこの屋敷にきて、いたずらばかりしていた、あのやんちゃな黒白のネズミや誰にも囚われないけどみんなから愛されていて鳥のような紅白。
みんな懐かしい
お転婆な緑は、今も変わらない姿で現人神をしているけど。
もう多くの人とはお別れを告げてしまった。
そういえば、純粋な人間では私が最後か・・・
いつまでも変わらないあの方が、あの方が私のそばにいるので、すっかり忘れていた。
でも、私より長生きだと思っていたあの方とですら、この間別れを迎えてしまった。
原因は結界の局所崩壊という話だった。こんなに唐突で理不尽な別れは流石に、辛い。
そんなことを考えていたら、自分の最後はどうなるのだろうと考えてしまう。
今までは、サヨナラを言われるだけだったけど、今度は私がサヨナラを言うばんなのかしら。
これで、もうこんなに悲しい思いをしなくてすむ・・・
いえ、むしろサヨナラを告げることが寂しいのかしら?
「咲夜?大丈夫かしら?」
隣に座っていたあの方は、完璧に瀟洒に給仕を続けていた私の変化に気づく。
「何のことでしょうか?お嬢様」
私はそっけないふりをして言葉を返す。
「言いたくないなら、言わなくてもいいけど・・・」
お嬢様は物憂げな顔をして、ふぅと息を吐く。
「いろいろあったあとだから、辛いでしょうけれど、無理はしないでね。今は私が主なんだから、従者の精神衛生を考えるのも私の仕事。何かあったらなんでも言って。できることは何でもするから」
そんな優しい言葉に私の心はぐらついてしまう。
「では、一つわがままをよろしいでしょうか?」
嗚呼、わがままなんて、瀟洒な私が崩れ去ってしまう。そんなことをしてはダメ。
「いいわよ」
お嬢様は、真摯に私の目を見つめて答えてくれる。そんな目で見られたら、言葉を心の中に押しとどめることはできない。どうしても、今の私の気持ちを知って欲しい。
「では、今はとても寂しくて泣いてしまいそうなので、抱きしめてもらってもよろしいでしょうか?フランお嬢様」
口に出してしまった。もう気持ちを抑えることはできない。
「普段あんなに元気そうな素振りをしていたのに、やっぱりお姉様がいなくなって寂しかったんじゃない。いいわよ。貴方を温めてあげる」
それからは、お互い言葉を交わさずに歩み寄り、抱きしめあっていた。
「ねぇ、咲夜」
フランお嬢様は、捨てられた子猫のようにか細い声で問いかけてくる。
「お姉様が結界の崩壊に巻き込まれてから私はお姉様の代わりができているのかな?私は咲夜の心の穴を埋めることができているかな?」
それも、レミリアお嬢様がいなくなってから、久しく使うことのなかった昔と同じ口調で問いかけてくる。
「レミリアお嬢様の代わりという点では、難しいですね」
私の言葉を聞いてフランお嬢様は体を震わせ、私を抱きしめていた腕の力を弱めてしまう。でも、続きを聞いて欲しくてフランお嬢様の小さな体を引き寄せて言葉を繋げる。
「ですが、今の私には小さい体で気丈に振る舞って、こんなに私のことを思ってくれる主がいる。それは、私にとって身に余る光栄です」
私の言葉を聞いて、フランお嬢様は腕に力を込めて抱き返してくれる。
「私はこんなに素晴らしい主に使えることができて幸せです。しかも、その主は二人もいて姉妹なんですから」
フランお嬢様は、私に言葉を返すことなく小さく体を揺らして嗚咽を漏らしていた。そんなお嬢様を体全体で感じて、改めて思う。
私は、幸せ者だと。
こんなに素晴らしい人生ならもう思い直すことはない。さっきまでの暗澹たる気持ちはすっかり晴れわたっていた。さながら狐の嫁入りが終わった今の晴天のように。
「嗚呼、私は幸せです」
私の言葉が響いてからは、私もフランお嬢様も動かずに、レミリアお嬢様がいなくなったせいで空いてしまった心の穴を埋め合うように、ずっと抱きしめあっていた。
不快に思いましたら言ってください。削除しますので。
寿命ネタはやはり、耐えられない。
コメントを頂けただけでも個人的にはうれしいので、このまま残しておいてもらって大丈夫ですよ。あと配慮が足りなかったので修正をしておきました。
一度さっと最後まで読んでみて、ん、と思ってまた最初に戻りました。
寿命ネタというのはありがちだけれど、なんだか新鮮な感じに読めました。
勢いがある。ただ、もう少し文章を整えて頂ければもっとよかった。
良かったです
新鮮と言っていただきありがとうございます。
自分は寿命ネタを読んだことがないので新鮮かどうかはわからないのですが、文章は確かに荒いですね。
あと、ギミックはいくつか仕込んでいるつもりなのですが、メインのもの以外はあまりうまく伝わっていないようですので、今後精進します。
>奇声を発する程度の能力さま
うれしいです。
書いたかいがありました。
>10さま
素敵な文章を目指して描いたので、そういっていただけると嬉しいです。
もっと雰囲気でいかせるところがあったはずなので、次に投稿する時は推敲したうえでお見せできたらと思います。
すごく、素敵です。