月はなく、風もない。力強い波音が、間断なく響いている。
漆黒の海は所々に青白く泡立ち、波の輪郭を闇の中に浮き上がらせた。
幻想的というほど綺羅びやかでもなく、質素というほど見窄らしくもなく、どこか憐憫を想起する儚げな輝きに、私は言葉が出なかった。
彼らは刺激を与えられると光るのだ、だから飛沫が立った所や、波打ち際が光るのだと、村紗に教えられた。
湿った砂浜で手を握り、肩を寄せて座っていた。
一週間前、七夕に雨が降るという予報を聞いた。
村紗が香霖堂のパソコンを用いて調べた時に、今年は二人は会えないのかしらね、と私が口にすると、村紗がここに来ようと言い出したのだった。
「雲があっても、天の川は地球の遥か彼方に離れているのだから、関係ないはずだがな」
彼女の穏やかな声がした。
「天の川は地上の夜空に張り付いているものだから、そんな噂があってもいいと思うわ」
「ロマンってやつかね。核融合をし続けるガスの集合の只中に住んでいるとしたら、織姫と彦星はよっぽど暑さに強いと見える。実は八咫烏なんじゃないか」
「もっと素敵なこと言ってよ。せっかく綺麗な景色なのに」
「それじゃあ、素敵かどうかは分からないが、夜光虫は恒星と違って他の生物を捕食しながら立派に生きている。波のさんざめくたまゆらに、生命を賛美するかのごと明滅する彼らの幽き光が、我々に何かを語りかけるようじゃないか、一輪」
「そうね。海って生きてるのよね。夜光虫じゃなくても、いろんな生き物が棲んでるのよね」
「天の川も綺麗で結構だが、私はこいつらも好きだ。なんていうかさ、必死なんだよ、みんな」
七夕に天の川が見えないから隠岐の島で代わりを見て来る。
村紗の口実だったが、私の口実でもあった。
二日前に姐さんから外の世界の通貨をもらい、宿を取り、電車や船で移動した。
幻想郷から離れて、今はふたりぼっち。
ふいに肩を掴まれ、目を閉じると、波の音がにわかに高くなった。
漆黒の海は所々に青白く泡立ち、波の輪郭を闇の中に浮き上がらせた。
幻想的というほど綺羅びやかでもなく、質素というほど見窄らしくもなく、どこか憐憫を想起する儚げな輝きに、私は言葉が出なかった。
彼らは刺激を与えられると光るのだ、だから飛沫が立った所や、波打ち際が光るのだと、村紗に教えられた。
湿った砂浜で手を握り、肩を寄せて座っていた。
一週間前、七夕に雨が降るという予報を聞いた。
村紗が香霖堂のパソコンを用いて調べた時に、今年は二人は会えないのかしらね、と私が口にすると、村紗がここに来ようと言い出したのだった。
「雲があっても、天の川は地球の遥か彼方に離れているのだから、関係ないはずだがな」
彼女の穏やかな声がした。
「天の川は地上の夜空に張り付いているものだから、そんな噂があってもいいと思うわ」
「ロマンってやつかね。核融合をし続けるガスの集合の只中に住んでいるとしたら、織姫と彦星はよっぽど暑さに強いと見える。実は八咫烏なんじゃないか」
「もっと素敵なこと言ってよ。せっかく綺麗な景色なのに」
「それじゃあ、素敵かどうかは分からないが、夜光虫は恒星と違って他の生物を捕食しながら立派に生きている。波のさんざめくたまゆらに、生命を賛美するかのごと明滅する彼らの幽き光が、我々に何かを語りかけるようじゃないか、一輪」
「そうね。海って生きてるのよね。夜光虫じゃなくても、いろんな生き物が棲んでるのよね」
「天の川も綺麗で結構だが、私はこいつらも好きだ。なんていうかさ、必死なんだよ、みんな」
七夕に天の川が見えないから隠岐の島で代わりを見て来る。
村紗の口実だったが、私の口実でもあった。
二日前に姐さんから外の世界の通貨をもらい、宿を取り、電車や船で移動した。
幻想郷から離れて、今はふたりぼっち。
ふいに肩を掴まれ、目を閉じると、波の音がにわかに高くなった。
ただ、SSにしてはあまりに量が短すぎて、私的には物足りなかったです。
文体も綺麗ですし、これだけ短いのにしっかりとSSの中身が伝わるのですから、書く力がきっと凄いんだと思うんです。
ぜひとも次は、作者さんの書かれたもっと長い話を読んでみたいですね。
ただ、現実世界を旅する二人の様子が書かれていたらもっと良かったと思います。電車の中とか、船の中とか、そういった移動途中の二人の会話を読んでみたいです。
欲を言えば、結界を越えるまでの過程や、外の世界に出てから彼女達が過ごした日常も見てみたかったですね……この辺の詳細を添えるだけでも、話をより膨らませたり盛り上げたりできたかと。
次回も楽しみにしております。
が、他の方も仰られているように、もっと長いものを読んでみたいと思いました。
欠けた10点は次回への期待点ということで
ラストがお気に入りです。