Coolier - 新生・東方創想話

ぜったい咲夜なんかに負けたりしない(キリッ

2013/07/04 22:00:53
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「人を“バラす”ときってさ、どんな気持ち?」

 出来心というほど上等なものじゃなく、ほんのつまらないいたずらのつもりで魔理沙は訊いた。ぬるくなったコーヒーを喉の奥まで流し込んで、その言葉についてくるやけに血生臭いにおいを消し去ろうと努める彼女。古ぼけたテーブルの下で、そのとき、ごつんと鈍い音がした。咲夜が、膝頭をぶつけたのだ。彼女の分のコーヒーが、未だ湯気残る黒い水面をカップのなかで揺らめかせた。自分から淹れたものなのに、咲夜はコーヒーに口をつけてはいなかった。

「……なぜ?」

 至極、当然の問いだろう。

 んん、と、魔理沙がうなる。
 問うた彼女が、しかし、それらしい回答を用意しかねて相手の顔から眼を逸らすと、咲夜はコーヒーでも皿に盛られたクッキーやチョコレートの小山でもなく、自分の手元にいちばん近い煙草の箱に手を掛けている。天狗が仲介して、近ごろ幻想郷に出回り始めた地底産の煙草だった。喫煙に興味があるんだということを、魔理沙は何度か咲夜に言ってみたことがある。煙草というやつは、格好を良く見せるためには最適のマスト・アイテムだ。けれど咲夜は、どんなに頼んでも一本の煙草も恵んではくれない。仮にも魔法使いを目指すのなら、身体を汚すような娯楽は控えろということらしい。だからなのか、手を掛けただけで、咲夜はいっこうに煙草の封を切ろうとはしなかった。魔理沙に遠慮をしているのだろう。申しわけないとは、この期に及んで考えないけれど。

「なぜって……社会勉強?」

 と、半分だけ笑いながら魔理沙は返した。

「“解体”の感触を問うことが?」
「人の身は有限だぜ。明日にも私や咲夜は、死んでしまうかもしれない。その前に、私はこの宇宙の真理の一端に触れておく必要がある」
「諸行無常というものね。聖の尼公に教わったのかもしれないけれど――ほどほどにしておいた方が賢明ですわ。私からは、単なるニヒリズムにしか見えない」

 それに、その前に“他人の物を盗まない”という常識を身につけるのが先決では?
 皮肉と言うには直截に過ぎる批判を、魔理沙はあえて黙殺した。咲夜のこういうところは嫌いじゃないと彼女は思う。自分でも、この、どこか“読み切れない”ところのある瀟洒なメイドに甘えるのは良くないことだとは思うのだけど。思うのだけど、魔法図書館からパチュリー・ノーレッジの書物を持ち出したとき、ときどきはこうやって自室にかくまってくれる十六夜咲夜という人のことが、魔理沙は本当に好きだった。たとえ一時の気まぐれとはいえ。咲夜が、魔理沙を自室に連れ込んでくれるのは、決まって彼女が何だか泣き腫らしたような眼をしている日。香水の薄い香りの奥に、血と脂の混じったようなべたつきを感じる日。そして、今も、また。

「レミリアは、吸血鬼だろう」
「そうね」
「吸血鬼は人の血を吸うだろう。つまり、人を食べるんだ」
「そうね」
「食べもしないものに、その、刃を入れるんだろう、咲夜は。その気持ちが、知りたいと思うときがある」

 ず、ず……と、唇に触れたコーヒーを、ことさら音を立てて魔理沙は飲んだ。
 お世辞にも品が良いとは言えない行為だとは解っている。未だ少女とはいえ、そこまで物の道理が解らないほど、どうしようもなく子供でいるわけじゃないのだ。ただ、眼の前に在る銀色の髪をした少女について、そんなことでしか近づけない自分が恥ずかしいと思った。別に、魔理沙は咲夜を救いたいと願っているわけじゃない。悪魔の犬が悪魔の犬たるところの生は、咲夜自身が選んだところなのだと思う。けれど、好奇心は魔女を貫く背骨である。真理の探究を忘れた魔女は、魔女としては死んだも同じだ。人が人を殺すときの心を、咲夜が咲夜でなくなるときの姿を知りたいのだ。彼女の怜悧な鉄面皮を剥ぎ取ってみたい。そういう気持ちもなくはなかった。ひょっとしたら、煙草の一本も譲ってはくれないことへの意趣返しも混じっていたのかもしれない。

「猫には九つの命があると言うわね」
「聞いたことあるぜ」
「でも、好奇心は猫をも殺すとも」
「そっちの方が有名だな」

 少し考えごとをするような素振りを見せた後、すゥ――と、咲夜はかすかに笑う。
 九つの命を持った猫の顔でも、猫に自らの首を絞めさせる好奇心の色でもない。自分自身の思うところのまま、猫に刃物を突きつける子供みたいな顔になっていた。

「良いわ。眼をつぶって。手をこちらに出して」

 ようやく、咲夜はコーヒーに最初のひと口をつける。
 それとは逆に、魔理沙はもうカップの中身を全て飲み干し、真白いソーサーにかちりと戻した。実際のところは――、果たしてどんなものだったのだろうか。ほんの数分前の出来事なのに、もう彼女にはよく解らなかった。歓喜と後悔とが交錯している。互いに突き出し合った好奇心で切り刻まれるのは、いったいどちらが先だろうか。

 言われるがまま眼を閉じて、魔理沙は真っ直ぐ片手を突き出した。
 ぬらりとした空気が全身を余さず撫でていく。ごくりと緊張を呑み込んで、次に始まるものを待つ。かちりと軽い音がした。咲夜も、自分のカップをソーサーに置いたのだった。

「いま“私”は、ある部屋の扉を押し開いた。地上と地下とを隔てる、固く、重い鉄の扉。何のためらいもなく足を踏み入れ、魔法の火種を宿したランプで中を照らす」

 指先に、何か針のようなものが触れていると気づいたのはそのときだった。
 一瞬、魔理沙は手を引っ込めそうになったけれど、「だめよ」という咲夜の声でわれに帰る。直ぐに五本の指を包み込むように、冷たい何かが手を這った。それはあっという間に指と指のあいだ、関節の根元にたどり着き、かすかな力で魔理沙の手を握り締めた。

「作業台には、ひとりの女が横たわっている。歳は……たぶん、未だ二十年も生きてはいないわね。薬が効いていて、彼女は穏やかな寝息を立てている。きっと良い夢を見ているわ。ランプの火で試しにその顔を照らそうとしてみるけれど、明るさがちょっと足りないみたい。髪の毛の色はよく解らない。きっときれいなのだろうふたつの眼を覆う目蓋の上で、長い睫毛がじっと主が醒めるのを待っている」

 そのときようやく魔理沙は気づいた。
 いま自分の手指に触れているものは咲夜の手指だ。彼女が、自分の手指を絡ませているのだと。指先をわずかに震えさせ、咲夜は魔理沙の手の甲を撫でた。ほう、と、短い息が漏れる。澱(おり)めいて地下に淀んだ昏い熱が、じわじわと自分を犯そうとしているように感じてしまった。

「手早く作業に取り掛からなければならない。何せ、美食家の姉君とお腹を空かせた妹君が、“私”のご主人さまなのだから。“私”は手慣れた精肉業者さながらに、革のエプロンを身にまとい、やはり革の手袋で両手を覆う。万が一にも唾が飛んでしまわないよう、口元もしっかりとマスクで隠すの」

 その言葉とともに、音もなく、咲夜が椅子から立ち上がったのが解った。
 絡ませたままの彼女の手から、細かな鼓動や震えさえも魔理沙の身体には伝わってくる。咲夜は魔理沙と手を繋いだまま、彼女のかたわらにやって来る。そして、――両方の手で、突き出されたままでいる魔理沙の手を包み込んだ。指先から、手首を少し過ぎた辺りまで、余すところなんてひとつもないよう、ていねいにだ。指先と指先がこすれあう。手の甲が手のひらをしきりに愛撫する。手首の輪郭を描き出しながら、少女の薄い皮膚に宿った血管の影を、大事に大事にたどっていく。

 人の手が触れているはずなのに、それなのに魔理沙は咲夜の体温をあまり感じなかった。
 彼女が語ることに、あまり没入し過ぎていたせいだろうか。
 それともこの手の感覚は始めから幻で、本当は冷たく冷え切った銀のナイフを握らされているのだろうか。

 なおも咲夜の話は続く。

「作業台のかたわらには、よく研がれ磨かれた幾本ものナイフや鋏。包丁、鋸たち。“私”は……そうね。まずは鋏を手にとって、女が来ている服を脱がさなきゃ。襟元から入れられた鋏は、紙を手で裂くよりもたやすく服を切り裂くわ」

 咲夜は魔理沙の指を曲げさせて、鋏を握るかたちにつくり変えた。
 想像の暗闇のなかに、彼女もまた重々しい鉄の鋏を幻視する。中世の異端審問の空間じみた地下室の真ん中で、手足を枷で戒められたひとりの少女が横たわり、何も知らずに眠っている。自分の手には、さっきまで少女が着ていた衣服、もう片方の手には、竜の牙でも削ったみたいな大げさな鋏。作業台の上に『在る』裸体(はだか)の少女は、決して眼を醒ましてはくれない。未だ快楽も苦痛も受け容れたことのないだろう彼女の肉体自身が、暗みのなかに煙っている。

「そして、いよいよ“本番”が始まるの。“私”は鋏の代わりに、用意されたなかでいっとう大きなナイフに持ち替える。眠ったままの女の首筋に指先を当て、そこに鼓動があることを確かめたら。そうしたら、ナイフの刃を首筋にあてがう。屠ることには、情けが大事よ。薬で眠らせているとはいえ、余計な苦しみを与えないよう、一気に力を込める」

 ナイフを握るかたちへと魔理沙の指を『持ち変えさせ』、咲夜は一瞬ばかりその語気を強めた。瞬間、暗闇のなかにあった魔理沙の視界に幻の火花が飛んだ。ぞわり、とした、気持ち悪さとも心地よさとも取れない感触が背筋を駆ける。われ知らず、感覚の末端が蕩けていく感じがする。咲夜と繋いでいない方の手を、腿のつけ根の近くでぎゅうと握り締めていた。身体が熱くて、ばらばらになってしまいそうだ。咲夜の手指の感触は、もう魔理沙の指や手首をはるかに越えて、肘の辺りまで犯してしまっていた。

「……とても、驚いたわね。真っ赤な血が吹き出して、“私”の肘までをべっとりと濡らしてしまったのだもの。こういうことがあるから、このお仕事は大変なの。引き返すなら今のうちよ」

 声音は相変わらず怜悧なのに、くすと笑っているに違いない。
 耳元近くで囁かれた咲夜の言葉から魔理沙はそう察したけれど、いったいどこまで近くに彼女が来ているのかまでは解らずじまい。何度も唇を舐めながら、空想のなかで殺された少女を取り戻そうとする。ぱっくりと切り開かれた首筋から、壊れたおもちゃみたいに血が噴き出す。それは、たぶん心臓の鼓動に歩を合わせて勢いを強めたり弱めたりしているのだ。黒く濡れた肘から、命のにおいが漂っている。痛々しく、厭らしい。だけれど。

「――――嫌じゃあ、ないぜ」
「どうして」
「咲夜が、横に居るからだろ。そしたら怖くない」

 強がりなのか負け惜しみなのか、まるで解ったものじゃなかった。
 魔理沙自身にもよくわからないことを、咲夜は「そう」とだけ応えて引き受ける。耳元に届いたのは、やけに安堵めいた声音だった。と、そのとき。今まで肘の周りを撫でていた咲夜の手が片方、魔理沙の手まで戻ってくる。最初のように指を絡ませて、ぎゅうと手を握っていた。しかし魔理沙は答えなかった。相手の手が、再び魔理沙の手まで動くとき。どうしてか、そこに名残惜しそうなものを宿していると思えて仕方がなかった。

「とどめを刺したら、血抜きをしなければいけないわね。作業台には、たくさんの溝が彫られている。流れ出した血はその溝を通って、別の部屋にある樽の中にたっぷりと溜められるのよ」

 絶えず肘を撫でられて、魔理沙も少しだけ、初めての感覚に耐えることができるようになっていた。跳ね上がっていた息も意識して整えられるほど。でも、何かが足りない。早く次を知りたいという欲求だろうか。何なのかは解らない。解らないが、いま弱々しく肘の周りに触れている咲夜の指だけでは、ひどく物足りなくなっている。

「次は?」
「そう慌てないの」

 答えて、咲夜は少し思案をする。
 穏やかな息遣いが頬に掛かる。目尻を攫うくすぐったさは、魔理沙と咲夜、いったいどちらの髪の毛だっただろうか。

「ところで。“私”は、そこで無性に気になったことがあったわ。いま屠って血を抜いた眼の前の女の人は、もしかしたらどこかで見覚えがある相手だったような、なんて。むかしお屋敷で雇っていた妖精メイドに似ているのかもしれないし、買い物のときに里ですれ違った女の子だったかもしれない。あるいは日傘を差して日がな向日葵を見て回る花の妖怪にそっくりだったのかもしれないし、もしかしたら神社の縁側でお茶ばかり飲んでいる紅白の巫女っぽかったのかもしれない。いいえ、ひょっとして、」

 咲夜の指が、魔理沙の二の腕を犯し始めた。
 感覚はじわじわと壊れていく。雨が石造りの彫刻を溶かすような残酷さと、夜闇が黎明に歿してしばしのまどろみを求める優しさとで、ゆっくりと、しかし確実に、魔理沙の魂を侵略していった。気持ちの悪さはもうなかった。否、本当は未だ少し燻ぶっていはずだったのだけれど、今、ここに在るすべてのものを受け容れるために、自ら遠く遠くに押し遣る備えがまったくできてしまっているのだ。心地よさだけを、ただ気持ちの良いことだけを、魔理沙は待ち望んでいる。それに応えるかのように、咲夜の手は優しかった。二の腕を通り、脇をかすめ、背筋を歩いた。癖ある金色の髪の毛を泳ぎ、うなじを慈しみ、耳の裏を刺し、頬を凌辱し、顎に証を突き立てた。「ひょっとして?」と、けれど魔理沙は、無邪気なまでに続きを聞きたがるだけだった。

「それは、誰に似ているんだよ」
「金色の髪の毛をした、黒白の魔法使いの子に瓜二つだったかも」

 咲夜の指が、唇の端に触れた気がしたのだ。
 驚いて開きかけた目蓋を、何も言わずに咲夜は制する。そのときはっきりと、魔理沙は咲夜の体温を感じた。いま自分に触れている人が冷たい銀のナイフではなく、温かな人間なのだということを。

「ほんの好奇心、ほんのいたずら心。“私”はナイフを放り出し、作業台の上の女へ向けてうずくまる。ランプで彼女の顔をよく照らす。けれど、もう我慢なんてできやしない。それが誰だったかを確かめる前に、“私”は彼女に顔を被せて、その後は――」

 空想の中で、魔理沙は確かに咲夜を幻視した。
 咲夜の屍を幻視した。作業台に横たわり、首筋を切り開かれて絶命した銀色の髪の少女。自分の腕を犯した血の持ち主。厭わしい快楽を与えた人。もう動かなくなった彼女は、しかし、いま魔理沙のかたわらでこの物語を導いている。現実と幻が融けてひとつになってしまう。不用意で、不埒で、不正義なことだ。解っている。ぜんぶ解っている。それなのに、いやだからこそ、もう魔理沙には耐えられなかった。これを耐えろというのは酷だ。この現実も幻想も、すべては霧雨魔理沙のものなのだ。だから、今ここにある十六夜咲夜のことも、魔理沙は、たぶん――――――。

 ――――――。

 そして、唇に冷たい何かが触れた。
 今度こそ本当の驚きにとらわれて、魔理沙はぱッと眼を開けてしまう。しまった、と、約束を破ってしまったことを嘆くよりも前に、彼女の感覚に真っ先に飛び込んできたのは。

「チョコレート……」

 咲夜の指がつかみ、自分の唇に押し当てる、小さなチョコレートひとつでしかなかった。
 きっと魔理沙が眼を閉じているうちに、テーブルの上に盛られたものをひとつ、手に取ったのだろう。彼女が小さく口を開けると、咲夜は遠慮なくチョコレートを魔理沙の口まで押し込んでくる。舌先でそれを受け止め、少しいら立ち気味に噛み砕き、飲み込んでしまった。

「な、何するんだよう」
「どきどきしたでしょう、その様子だと、すごく」
「そりゃ、まあ……」

 どきどきは、した。
 虚勢を張れるだけの余裕など、とっくに失くしてしまっていた。
 その一方で、抗議をするほどの怒りもない。
 ただ少し、がっかりしただけだ。
 今の今まで、自分は咲夜にからかわれていただけだったのだということを。

「その、なんだ。何ていうか、どうせならもっと良いものが欲しかったぜ」
「あら。いったい何を“もらえる”と思っていたのかしらね」
「ばッ、ばか! “そんなん”じゃない! その煙草とかのことだよ!」
「あらあら」 

 笑って笑って、咲夜は自分の席に戻る。
 そしてついに煙草の封を切り、古ぼけたライターが噴きあげる古ぼけた火で、一本ばかりの紫煙を燻らせ始めるのだった。

「ずるいぜ」
「そうかしら」
「ずるい。咲夜は、ずるい」
「そうかもしれないわね」
「結局、私はあんたのことがよく解らん!」

 叫んでも、咲夜はろくに答えてくれなかった。
 底の部分に悪魔の翼が彫刻された灰皿へ向け、熱い灰をトントンと落とす。

「意地悪い女なのよ、私。自分の秘密を、ただひとりを除いて明かさないくらいにはね」

 そんな言葉、もう魔理沙は聞いてなんかいなかった。
 自分の帽子と箒を引っつかみ、咲夜のベッドによじ登ると、いちばん近くの窓の鍵を勝手にがちゃがちゃと開けてしまった。がちゃり乾いた音を立て、一気に開け放たれる窓。冷たい空気が、どこか淀んだ咲夜の部屋に流れ込んできた。

「もう、帰る」
「そう」
「邪魔した」
「そうでも……ないわ」

 窓の桟に足を掛け一分の躊躇もなく飛び下りると、魔理沙は空中で御自慢の箒にまたがって、風より早くか魔法の森を目指し始めた。パチュリーの所からくすねてきた書物をぜんぶ、わすれているのにも気づかぬまま。ひらひらと手を振って別れのあいさつをする咲夜の眼が、やけに寂しそうだったことなど知らぬまま。


――――――


 あまり早く空を飛ぶと、風が顔に当たって眼が渇き、涙がこぼれてしまうものだ。
 いつも、魔理沙はゴーグルなんか嵌めてみたりして凌いでいたが、今日はゴーグルの気分じゃなかった。我慢だ。とにかくやせ我慢して、涙がこぼれるのに耐えていたい気分だった。

 魔法使いのトレードマークである真っ黒いとんがりの帽子は、空気の整流からすればほとんどマイナスにしかならない。それが頭から脱げ落ちてしまわないよう気を払いながら、彼女は少しずつ心を落ち着けていく。昂ぶっていた感覚も、みなすべて。

 すると、最後に。
 ひとつばかり、気づいたことがあった。

「さっきのチョコレート、――何だか、血の味がしたような気がする」
咲夜には勝てなかったよ……。
こうず
http://twitter.com/kouzu
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コメント



0.940簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
一生、勝てそうもありません。
3.90名前が無い程度の能力削除
色んな意味で咲マリらしい作品だと感じました。
5.90名前が無い程度の能力削除
背筋がぞくっとなった
6.90奇声を発する程度の能力削除
うわお…
10.100名前が無い程度の能力削除
淡々としてるのがたまらない
11.100名前が無い程度の能力削除
呑気なようでシリアスでよかったです
13.90非現実世界に棲む者削除
これまたホラー...ゾクゾクするね。
20.90名前が無い程度の能力削除
こわいこわい……
22.80名前が無い程度の能力削除
(キリッ
だっておwwwwww(バンバン

いつもの含蓄ほっぽり出した分だけきちんとホラーが備わっていました。
24.80名前が無い程度の能力削除
血の味がするチョコレートなんて夏には丁度良すぎる一品。さすが咲夜さん、瀟洒です。
29.100名前が無い程度の能力削除
すごく、良かったです。咲マリの危うさをいっぺんに閉じ込めたようなチョコレートを、舌の上で蕩けさせてねっとりと味わえるお話でした。このチョコレートを蕩かせるのに熱なんて要りません。必要なのは血の脈動にも似た好奇心の昂ぶり。果たしてそれが甘いかどうかは言うに及ばず、ですが。
比喩・暗喩がとてもスパイシー。特に『悪魔の翼が彫刻された灰皿』に咲夜さんが煙草の灰を落とす件は、読んでいて『キタコレ!』と唸ってしまいました。
30.803削除
ゾクゾクしました。
こんなの書けるのが羨ましい。