※色々幻想入りしてたり、キャラ崩壊がひどかったり、いろんな意味でノンフィクションだったりします。
どうにも筆が進まない。小説を書いてみはするものの、スランプだろうか、時間だけが過ぎていく。第三の目も乾き気味だ。こういうときは歩き回るのが一番よね。久しぶりに家に帰ってきたこいしにでも会いに行こうかしら。
自分の部屋にいるとは限らないし……居間の共用パソコンはどうだろう。
「……」
やっぱりいた。こいしがパソコンを食い入るように見つめてる。あの子がこんなに夢中になってるなんて、いったい何を見ているのかしら。
「こいし、何を見てるの?」
なんて言いながら画面を覗いてみた。
「お姉ちゃんも大好きなやつだよ」
「!?」
たいして嫌がる素振りも見せずこいしが見せてきたそこには、大手同人シューティングゲームの二次創作動画が映っていた。ってこれは!
「な、何でこいしが見てるのよ!」
「なんでって……面白そうだし」
いや確かに面白い。私も大好きだ。しかしそれとこれとは話が別だ。なぜ我が妹がそういうジャンルを見始めているのか、それが問題だ。
「ちなみにお姉ちゃんは誰が好き?」
「え、あ? そ、そうね、わたしは果苗さんだわ。こいしは誰か好きなキャラいるのかしら?」
「うーん、まだ少ししかわからないから……」
「そ、そうなの」
よかった、まだ軽傷のようだ。もしかしたら偶然その動画にたどり着いてしまって、偶然私がここに居合わせただけかも知れない。そうだと信じたい。地霊殿にネットが普及し初めてからネットで流行りの音楽を私が聴かせ続けたからじゃないと信じたい。私のせいじゃないはずだ。
苦笑いを浮かべたままこいしから遠ざかると、私は深くため息をついた。
「こいし……何でそうなってしまったの?」
「さとり様がよく大変なものをとか狂気のシリーズを聞かせてたからじゃないですか?」
私のそんな願望は、たまたま近くにいたお燐の非情な一言で打ち砕かれた。
◇
「……あれ?」
いつのまにか私の部屋が綺麗になってる。というか、小物の配置が微妙に違う。
「あ、さとり様が出掛けてらっしゃるときに勝手ながらお掃除をさせてもらいました」
後ろからお燐の声が聞こえてきた。
お燐ったら、勝手にって何よ。主人の部屋に勝手に出入りするって非常識じゃないのかしら。
「掃除をしてくれたのはありがたいけど、今度からは私に一言言ってからにしてくれるかしら」
「なんでですか。さとり様最近めっきりお部屋にいれてくれなくなりましたし、何かあったんですか?(やっぱり隠し事されてるのね)」
そりゃあ多少なりともあるわよ。近しい人ほど知られたくないことってあるじゃない? それなのに勝手にずけずけと……。色々としまわなくちゃいけないってのに。
「……わかりました。次から気を付けますね。……それとさとり様、同人誌、買い始めたんですね」
!?
見 ら れ た !
ああ、なんてこと! 私が恐れていたことがついに起きてしまったわ! ラノベやネットでもさんざんその悲惨な結果は取り上げられてきた。十八禁は幸い持っていなかったものの、私はそんなヘマはしない、そう思っていた。だからあまり人が触らないだろうところに隠しておいたのに、それなのに。
「ちょっ、お燐!」
「何を慌ててるんですかさとり様(ついにさとり様も手を出してしまったのですね)」
「ついにってなによ、ついにって! まるで私がその内手を出すんだろうなって予想してたみたいじゃない!」
「いやーだってさとり様オタクじゃないですか、だったら……ねぇ(恥ずかしがることなんでしょうか)」
「オタク=同人誌みたいな認識はやめなさい! それと今私スッゴい恥ずかしいから! 自分でも顔が紅潮してるなーってわかるぐらいだから!」
「……私も昔描いてたもので偏見みたいなものは持ってませんよ(コミケとか懐かしいなー)」
「そ、そうなの……へ?」
今なんと言った。お燐は今なんと。同人誌を描いていた。そしてコミケに参加していた。確かそう言ったはずだ。
「お燐!」
気がつくとお燐はもういなかった。この場には、ペットに同人誌を発見され、さらにそのペットの衝撃的カミングアウトに唖然とする哀れなさとり妖怪が一人、残されていた。
◇
「さとり様、ヤマトの実写版のDVD手に入ったんですけど一緒に見ませんか?」
「……これから仕事片付けようと思ってたんだけど」
お空が誘ってきたが、正直今はやめてほしかった。私も年がら年中暇というわけではなく、それにお空にも仕事はあったはず。というかどこでDVDを入手する余裕があるのだろう。
「……(さとり様……)」
「……わかったわ、わかったから涙目になるの早めなさい」
「やったぁ!」
まったく、お空の涙と笑顔は恐ろしい武器ね。しょうがないから一緒に見てあげましょう。私もヤマト好きだし。
お空の影響で劇場版を見てみるとそれなりに面白く、絵の中の人物の心理を読み解くのももちろんだが、某技師長の活躍と主砲、そして波動砲の清々しさがグッと来るものがあった。実写化されるのは前から聞いていたけど、期待していいものかしらね。
「個人的にはデスラーが誰か楽しみね。あと第三艦橋」
「私は波動砲がどんなものかワクワクしてきました」
少女鑑賞中……
「……」
「……」
「それじゃあ仕事に戻るわ」
「……はい」
……まあSFとしてはよかったんじゃないかしら。それしか言えないけど。
◇
床にこいしが落ちていた。訂正、こいしが寝転がっていた。
「……何をしてるのよ」
「……はぇ?」
私が声をかけても反応が鈍い。ただボーッとしてるのか、寝ようとしてるのか。前者にせよその内寝てしまいそう。となるとすごい邪魔だ。
「起きないと踏むわ」
「……」
無視しやがった。意地でもどかないつもりか。……ほんとにやっちゃうわよ?
「うー……」
無駄に気持ち良さそうにしてる。言ったからにはほんとにやっちゃおうかな。さすがに靴を履いたままじゃないけど。お腹辺りなら大丈夫か。
「てゐ」
踏みっ
「あうぅん」
……まだ起きないかこいつ。
「てゐ」
踏みっ
「ぅうん」
……ちょっと笑ってる?
「……てゐ」
踏みっ
「キモチィィ……」
「!?」
き、聞き間違いでしょ、たぶん。念のためもう一回。
踏みっ
「もっとぉ……」
「!!?」
なんということ、私の妹はMだった……!? しかし斯く言う私もちょっと楽しくなってきた。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ……。
「……なにやってんですかさとり様」
お燐の冷静な突っ込みが入るまで続けちゃいました。
◇
お燐がテレビを見ながら熱心にノートをとっていた。それはいいだろう。よく見かける光景だ。しかし、研究しているその中身が問題だと思う。
「なんでお燐がアニメ見てるの」
「えー、見ちゃいけなかったですか?」
「いやそうじゃないけれども」
うん、少なくともこいしと違ってお燐には私に影響されるものも少なかったはず。同人誌を描いていたという意外すぎる過去があったとしても、詳しく話を聞けばオリジナルの少女漫画を描いていただけらしくオタクと言われる部類じゃないと思っていた。
けれど、そのお燐がなんでアニメを見てるのかしら……。
「昔出版社に持ち込んだときの話なんですけどね」
「漫画家志望だったのね」
「絵は上手いけどストーリーがダメだってダメ出しされてですね。どういうストーリーが売れるのかを研究し始めるようになったんです」
「それはわかったわ。でもなんで今さら始めたの?」
「え、昔からやってましたけど」
「嘘!」
気づかなかった、それほどにお燐の隠匿性能が高いということなのね……。負けたわ。
「……ちなみにその、お燐の書いた漫画見せてくれるかしら」
「いいですけど……さとり様にとって面白いかどうか」
「そんなのどうだっていいわ。さあ早く」
「えらい必死ですね」
何て言いながらもお燐に原稿を見せてもらったが、なんというか、普通に絵が上手くて嫉妬してしまった。ストーリー云々より絵の出来が知りたかったのだが、予想以上だった。
私も最近描き始めたのよ。文章書いたり読んだりするだけじゃなくて絵も描いてみようかななんて思ってましたよ。私の中に芽生えていた小さな意欲をさらに縮小させるぐらいだったということは言えるかもね。
トホホ……。
◇
お空はサッカー観戦が好きだ。どれくらい好きかって言うと、いつものんびりやっている仕事を、サッカーの試合がある日になるとその時間帯に間に合うようにパパっと終わらせて試合前の練習風景から熱心に見始めるぐらい好きだ。
私もたまにお空のとなりで観るときがあるが、正直に言ってつまらないと思う。もっと心理戦があるような、将棋や囲碁、スポーツなら剣道ぐらいは見ることがあるかもしれない。剣道って心理戦なのって? オフコースよ。
「いけいけいけいけっ……シューッ! 惜しいっ」
うるさい。お空は八咫烏をマークにしているチームを応援している。やっぱり八咫様だからかしら。すごい安直だけど、わからないものでもない。
「アブっ、危ない! ……よーしよしよし」
大体試合の局面は周期的に変わる。その都度お空のテンションが上がったり下がったりしてむしろこっちを見ている方が面白いかも。
お空の応援しているチームがなかなかいい感じだ。……それと同時に悪寒もしたけれど。自分の身に何か危険が降りかかるときのあれだ。
「そこだっ行けっ! ッゴォォオオオオオオオル!」
「わぷっ」
ちょ、お空! いきなり抱きついてこないでよ! しかもあなたが抱き抱えるようにするとむ、胸がっ、息が、できない! 目の前に目、目が、でっかい目が怖いいいいぃぃぃぃぃ
◇
「お姉ちゃんってボカロ知ってる?」
「残念ながらボカロは専門外ね。少しは知ってるけど」
「じゃあさ、パルちゃんなうとユウくんなうって知ってる?」
「知らないわ」
「そう……」
「なんでそんな暗い顔するのよ」
「さとり様Twitterやってましたよね」
「……やってるわ」
「ちょっと質問があるんですけど」
「お空Twitterやるの?」
「ダメですか?」
「ダメじゃないわ、ダメじゃないけど……あとで設定変えないとダメね」
「さとり様、要らない同人誌ください」
「ぶっ……お、お燐?」
「何か変ですか」
「い、いや、なんでお燐が欲しがるのよ」
「今ってどういうのが流行りなのかなーって気になって」
「……」
「あ、それと昨日テレビでコミケについてやってたのを録画したんで一緒に観ますか?」
「……」
でも、私はこんな地霊殿が大好きだ。
どうにも筆が進まない。小説を書いてみはするものの、スランプだろうか、時間だけが過ぎていく。第三の目も乾き気味だ。こういうときは歩き回るのが一番よね。久しぶりに家に帰ってきたこいしにでも会いに行こうかしら。
自分の部屋にいるとは限らないし……居間の共用パソコンはどうだろう。
「……」
やっぱりいた。こいしがパソコンを食い入るように見つめてる。あの子がこんなに夢中になってるなんて、いったい何を見ているのかしら。
「こいし、何を見てるの?」
なんて言いながら画面を覗いてみた。
「お姉ちゃんも大好きなやつだよ」
「!?」
たいして嫌がる素振りも見せずこいしが見せてきたそこには、大手同人シューティングゲームの二次創作動画が映っていた。ってこれは!
「な、何でこいしが見てるのよ!」
「なんでって……面白そうだし」
いや確かに面白い。私も大好きだ。しかしそれとこれとは話が別だ。なぜ我が妹がそういうジャンルを見始めているのか、それが問題だ。
「ちなみにお姉ちゃんは誰が好き?」
「え、あ? そ、そうね、わたしは果苗さんだわ。こいしは誰か好きなキャラいるのかしら?」
「うーん、まだ少ししかわからないから……」
「そ、そうなの」
よかった、まだ軽傷のようだ。もしかしたら偶然その動画にたどり着いてしまって、偶然私がここに居合わせただけかも知れない。そうだと信じたい。地霊殿にネットが普及し初めてからネットで流行りの音楽を私が聴かせ続けたからじゃないと信じたい。私のせいじゃないはずだ。
苦笑いを浮かべたままこいしから遠ざかると、私は深くため息をついた。
「こいし……何でそうなってしまったの?」
「さとり様がよく大変なものをとか狂気のシリーズを聞かせてたからじゃないですか?」
私のそんな願望は、たまたま近くにいたお燐の非情な一言で打ち砕かれた。
◇
「……あれ?」
いつのまにか私の部屋が綺麗になってる。というか、小物の配置が微妙に違う。
「あ、さとり様が出掛けてらっしゃるときに勝手ながらお掃除をさせてもらいました」
後ろからお燐の声が聞こえてきた。
お燐ったら、勝手にって何よ。主人の部屋に勝手に出入りするって非常識じゃないのかしら。
「掃除をしてくれたのはありがたいけど、今度からは私に一言言ってからにしてくれるかしら」
「なんでですか。さとり様最近めっきりお部屋にいれてくれなくなりましたし、何かあったんですか?(やっぱり隠し事されてるのね)」
そりゃあ多少なりともあるわよ。近しい人ほど知られたくないことってあるじゃない? それなのに勝手にずけずけと……。色々としまわなくちゃいけないってのに。
「……わかりました。次から気を付けますね。……それとさとり様、同人誌、買い始めたんですね」
!?
見 ら れ た !
ああ、なんてこと! 私が恐れていたことがついに起きてしまったわ! ラノベやネットでもさんざんその悲惨な結果は取り上げられてきた。十八禁は幸い持っていなかったものの、私はそんなヘマはしない、そう思っていた。だからあまり人が触らないだろうところに隠しておいたのに、それなのに。
「ちょっ、お燐!」
「何を慌ててるんですかさとり様(ついにさとり様も手を出してしまったのですね)」
「ついにってなによ、ついにって! まるで私がその内手を出すんだろうなって予想してたみたいじゃない!」
「いやーだってさとり様オタクじゃないですか、だったら……ねぇ(恥ずかしがることなんでしょうか)」
「オタク=同人誌みたいな認識はやめなさい! それと今私スッゴい恥ずかしいから! 自分でも顔が紅潮してるなーってわかるぐらいだから!」
「……私も昔描いてたもので偏見みたいなものは持ってませんよ(コミケとか懐かしいなー)」
「そ、そうなの……へ?」
今なんと言った。お燐は今なんと。同人誌を描いていた。そしてコミケに参加していた。確かそう言ったはずだ。
「お燐!」
気がつくとお燐はもういなかった。この場には、ペットに同人誌を発見され、さらにそのペットの衝撃的カミングアウトに唖然とする哀れなさとり妖怪が一人、残されていた。
◇
「さとり様、ヤマトの実写版のDVD手に入ったんですけど一緒に見ませんか?」
「……これから仕事片付けようと思ってたんだけど」
お空が誘ってきたが、正直今はやめてほしかった。私も年がら年中暇というわけではなく、それにお空にも仕事はあったはず。というかどこでDVDを入手する余裕があるのだろう。
「……(さとり様……)」
「……わかったわ、わかったから涙目になるの早めなさい」
「やったぁ!」
まったく、お空の涙と笑顔は恐ろしい武器ね。しょうがないから一緒に見てあげましょう。私もヤマト好きだし。
お空の影響で劇場版を見てみるとそれなりに面白く、絵の中の人物の心理を読み解くのももちろんだが、某技師長の活躍と主砲、そして波動砲の清々しさがグッと来るものがあった。実写化されるのは前から聞いていたけど、期待していいものかしらね。
「個人的にはデスラーが誰か楽しみね。あと第三艦橋」
「私は波動砲がどんなものかワクワクしてきました」
少女鑑賞中……
「……」
「……」
「それじゃあ仕事に戻るわ」
「……はい」
……まあSFとしてはよかったんじゃないかしら。それしか言えないけど。
◇
床にこいしが落ちていた。訂正、こいしが寝転がっていた。
「……何をしてるのよ」
「……はぇ?」
私が声をかけても反応が鈍い。ただボーッとしてるのか、寝ようとしてるのか。前者にせよその内寝てしまいそう。となるとすごい邪魔だ。
「起きないと踏むわ」
「……」
無視しやがった。意地でもどかないつもりか。……ほんとにやっちゃうわよ?
「うー……」
無駄に気持ち良さそうにしてる。言ったからにはほんとにやっちゃおうかな。さすがに靴を履いたままじゃないけど。お腹辺りなら大丈夫か。
「てゐ」
踏みっ
「あうぅん」
……まだ起きないかこいつ。
「てゐ」
踏みっ
「ぅうん」
……ちょっと笑ってる?
「……てゐ」
踏みっ
「キモチィィ……」
「!?」
き、聞き間違いでしょ、たぶん。念のためもう一回。
踏みっ
「もっとぉ……」
「!!?」
なんということ、私の妹はMだった……!? しかし斯く言う私もちょっと楽しくなってきた。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ……。
「……なにやってんですかさとり様」
お燐の冷静な突っ込みが入るまで続けちゃいました。
◇
お燐がテレビを見ながら熱心にノートをとっていた。それはいいだろう。よく見かける光景だ。しかし、研究しているその中身が問題だと思う。
「なんでお燐がアニメ見てるの」
「えー、見ちゃいけなかったですか?」
「いやそうじゃないけれども」
うん、少なくともこいしと違ってお燐には私に影響されるものも少なかったはず。同人誌を描いていたという意外すぎる過去があったとしても、詳しく話を聞けばオリジナルの少女漫画を描いていただけらしくオタクと言われる部類じゃないと思っていた。
けれど、そのお燐がなんでアニメを見てるのかしら……。
「昔出版社に持ち込んだときの話なんですけどね」
「漫画家志望だったのね」
「絵は上手いけどストーリーがダメだってダメ出しされてですね。どういうストーリーが売れるのかを研究し始めるようになったんです」
「それはわかったわ。でもなんで今さら始めたの?」
「え、昔からやってましたけど」
「嘘!」
気づかなかった、それほどにお燐の隠匿性能が高いということなのね……。負けたわ。
「……ちなみにその、お燐の書いた漫画見せてくれるかしら」
「いいですけど……さとり様にとって面白いかどうか」
「そんなのどうだっていいわ。さあ早く」
「えらい必死ですね」
何て言いながらもお燐に原稿を見せてもらったが、なんというか、普通に絵が上手くて嫉妬してしまった。ストーリー云々より絵の出来が知りたかったのだが、予想以上だった。
私も最近描き始めたのよ。文章書いたり読んだりするだけじゃなくて絵も描いてみようかななんて思ってましたよ。私の中に芽生えていた小さな意欲をさらに縮小させるぐらいだったということは言えるかもね。
トホホ……。
◇
お空はサッカー観戦が好きだ。どれくらい好きかって言うと、いつものんびりやっている仕事を、サッカーの試合がある日になるとその時間帯に間に合うようにパパっと終わらせて試合前の練習風景から熱心に見始めるぐらい好きだ。
私もたまにお空のとなりで観るときがあるが、正直に言ってつまらないと思う。もっと心理戦があるような、将棋や囲碁、スポーツなら剣道ぐらいは見ることがあるかもしれない。剣道って心理戦なのって? オフコースよ。
「いけいけいけいけっ……シューッ! 惜しいっ」
うるさい。お空は八咫烏をマークにしているチームを応援している。やっぱり八咫様だからかしら。すごい安直だけど、わからないものでもない。
「アブっ、危ない! ……よーしよしよし」
大体試合の局面は周期的に変わる。その都度お空のテンションが上がったり下がったりしてむしろこっちを見ている方が面白いかも。
お空の応援しているチームがなかなかいい感じだ。……それと同時に悪寒もしたけれど。自分の身に何か危険が降りかかるときのあれだ。
「そこだっ行けっ! ッゴォォオオオオオオオル!」
「わぷっ」
ちょ、お空! いきなり抱きついてこないでよ! しかもあなたが抱き抱えるようにするとむ、胸がっ、息が、できない! 目の前に目、目が、でっかい目が怖いいいいぃぃぃぃぃ
◇
「お姉ちゃんってボカロ知ってる?」
「残念ながらボカロは専門外ね。少しは知ってるけど」
「じゃあさ、パルちゃんなうとユウくんなうって知ってる?」
「知らないわ」
「そう……」
「なんでそんな暗い顔するのよ」
「さとり様Twitterやってましたよね」
「……やってるわ」
「ちょっと質問があるんですけど」
「お空Twitterやるの?」
「ダメですか?」
「ダメじゃないわ、ダメじゃないけど……あとで設定変えないとダメね」
「さとり様、要らない同人誌ください」
「ぶっ……お、お燐?」
「何か変ですか」
「い、いや、なんでお燐が欲しがるのよ」
「今ってどういうのが流行りなのかなーって気になって」
「……」
「あ、それと昨日テレビでコミケについてやってたのを録画したんで一緒に観ますか?」
「……」
でも、私はこんな地霊殿が大好きだ。
見終わった後の何とも言えない倦怠感がすごいw
せっかく自身の体験を基にしているのなら、もっと細かい心理描写が欲しかったかな。
ただ思うだけじゃなくて、「オタク的なものと、どう付き合っていくのか」みたいな一歩踏み込んだ考察みたいなのも欲しかった。
こういう家族も悪く無いんじゃないですか。