縁側で聖と日向ぼっこを楽しんでいた時、ふと気になることを思い出した。それは、この間聖が繰り広げていた弾幕ごっこのことだ。
わからないことは人に訊くべきらしい。ので、率直に訊いてみた。
「なぁなぁ聖。質問質問」
「なんですか、こころさん?」
「聖って仏教徒なんでしょ?」
「……? そうですけど、それがどうしました?」
私の質問に聖は首を傾げる。もっとも、これは確認作業みたいなものだ。
短い間とは言え、命蓮寺で修行していたのだから、それくらいはわかっている。
だからこそ、気になったのだ。
「だったら、なんで使ってるデッキは全部道教タイプなの?」
「……こころさん」
一瞬、不自然な硬直があったが聖は、優しい笑顔を浮かべて私の頭を撫でる。私より少し大きいくらいの手なのに、不思議とそれ以上に大きく優しく感じられた。
聖は頭を撫でながら、言い聞かせるように続ける。
「こころさん、確かに私は仏教徒です。しかし、勝負は勝たねば意味が無いです。そのためには道教の力も使いましょう。だから、別に使いたくて道教デッキなわけじゃないのです。これは仕方なくです、使いやすいから使っているだけです。わかりましたか?」
「なるほど、使いやすいから仕方なくか」
「ええ、そうです仕方なくです」
「そっかー」
確かに、勝負は勝ったほうが嬉しい。それはついこの間学んだ感情だ。
んー、だけど、この間聖が使ってたデッキって? あれ?
「……けど、笏と剣積みまくったデッキって使いやすいの?」
「はい! おしまい! この話終了です! はい、この話もうやめ!」
そう言った途端、聖は顔を赤くして必死にまくし立ててきた。
普段物静かな彼女が見せた激しい一面に、私も思わず体ごと驚いてしまった。
しかし、それ以上に興味が湧いた。どうしてここまで感情を露わにしたのか。構わず私は質問を続ける。
「使いやすいのー? ほんとに? スペルとスキルの枠余ってないんじゃないの?」
「で、ですから! これは、そう! ハンデです! 強いスキル、スペルを使えば勝つのは当たり前! それを敢えて使わないことで強者であることをアピールしているのです!」
「あー、なるほど」
敢えて弱い技を使って勝つ。所謂魅せプレイという奴か。それで勝つのもなかなか楽しそうだけど。
「でもそれって、さっき言ってることと矛盾してますよね?」
「そ、それはその……」
指摘された聖は、見るからに動揺していた。
『強い』から使っているのに、そこから『強い』要素を削っているのでは、まったく意味が無い。考えるまでもなく、破綻した論理である。
ますます興味が湧いた。聡明な聖がここまで乱れるなんて、余程何かあるに違いない。狼狽え続ける彼女を逃がすまいと、私は腕を掴んで離さない。
「ねーねー、なんでなんで?」
「で、ですから……それはその……」
「なんだ、随分と賑やかそうじゃないか」
不意にかけられた声に、私と聖はそちらを向く。
キラキラしたオーラとマントを翻しながら現れたのは、私の新しい希望の面を作ってくれた神子様だった。
彼女は皮肉っぽい笑みを浮かべて、聖を見やる。
「面霊気も御し切れないとは、仏教も底が知れる。聖よ、私はいつでも道教への鞍替えを歓迎しているよ」
「お断りします。毎日毎日あなたも飽きませんね。そんなに通い詰めるなら、いっその事仏教徒になればいいんです」
先ほどまでの狼狽え振りは鳴りを潜め、毅然とした視線をぶつける聖。対する神子様は余裕の表情を崩さない。やっぱり、宗教家同士は仲が悪いんだろうか。
ああ、ちょうどいいや。せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ。じゃなくて、せっかくだから神子様にも訊いてみよう。
「神子様、質問質問」
質問するときは挙手をした方がいいらしいので、ビシっと遠くからでもわかりやすいように手を挙げる。
神子様は肩をすくめてやれやれ、と言いたげだったけど、先を促してくれた。なので、遠慮せず訊ねる。
「神子様って道教?」
まあ、これも確認作業だ。
神子様も、さっきの聖と同じく首をひねった。
「……今更何を言っているんだ。さっきからそう言ってたじゃないか」
「じゃあ、仏教デッキばかり使ってるのはなんで?」
僅かに顔を強張らせたのを私は見逃さない。やっぱり何かあるようだ。
しかし、神子様はすぐに余裕の笑顔を浮かべ応える。
「……こころ、君にはまだわからないことかもしれないが、勝負は勝たねば」
「あと、数珠四積みデッキって強いの?」
「はい、この話おしまい! あー何も聞こえない聞きたくない!」
続けざまに訊ねると、神子様はヘッドホン越しに耳を抑え、背中を向けてうずくまってしまった。こんな格好でもカリスマがあるような気がするからすごいと思う。
だけど、そんなことはどうでもいい。私が興味あるのは、彼女たちが言っていることとやっていることの矛盾だ。
「神子様ー? 訊いたんだから応えてよー」
「アーアーキコエナーイ」
肩を揺すってみるが、護身完成してしまったようで一切応える気はないようだ。
うむむ、どうしよう。聖を見やるが、ぽうっとした熱っぽい目で神子様を眺めているだけだった。
「ひょっとしてお困り? 助けて欲しい?」
む、この声は、
「その声は我が友、古明地こいしではないか」
「せいかーい」
いつからいたのか、もしかしたら最初からいたのかもしれない。目前に現れたこいしと、いえーいとハイタッチを交わす。
相変わらず、感情が感じられない。まったくないとも思えないのが、不思議な所ではあるが。
それはさておき、助けて欲しいと言ったら助けてくれるのだろうか。
「んー、助けるって言ったけど、私が知ってることを教えてあげるだけかな」
「むう、こいしは何を知っているのだ」
「んーとね」
……? あれ、おかしいな。無感情なはずのこいしからちょっと黒いものが感じられたが。気のせいかしら。
ふふっ、とこいしは神子様をちらりと見てから、唄うように続ける。
「この間の異変が起きた直後、神子が『あのマントかっこ良かったな……私もつけてみようか、いやだけど、真似してるって思われたら恥ずかしいし……』ってマントつけるか付けないかで、散々悩んでたこととかー」
「なぁ!? どこでそれを!?」
うずくまった体勢から一転、神子様は機敏な動きでこいしを捕まえにかかる。が、一瞬でこいしの姿が消え、神子様の手は空を切る。
「えっ、った、わっ!」
「きゃっ!?」
そして、小石も落ちていないのに、何かに躓いたようによろけた神子様は、その先の縁側に座っていた聖と真正面から接触する。ちょうど、抱きあうような感じで。
「あとはねー」
いつの間にか、こいしは私の隣に腰掛けていた。……ああ『こいし』は落ちてたか。
顔を真っ赤にしたまま固まる神子様と聖をよそに、こいしは唄い続ける。
「聖が『ノースリーブで可愛かったですけど……やっぱりいきなりは恥ずかしいですし……ここは半袖にするところから……』って袖の長さをどうするか悩んでたことくらいかなー」
それだけ言うと、後はわかるでしょ、とこいしは私に笑いかけた。
えーと、つまり、その感情の名は――。
「違う! 違うからね! 確かにほんの僅かちょっとマント格好良いなと思ったりもしましたが! 別にそんなんじゃないですよ!」
「そうですそうなんです! 腕が細くて綺麗だなとか思ったりしませんでしたよ!? 本当ですよ!」
あー、そうですかそうですか。ええ、わかってますよ。
「なんだこころその顔は! いや、無表情だけどなんだかムカツクぞ!」
「そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
私も育ててもらった覚えはない。というか、そんなこと言ってるとお父さんとお母さんみたいだ。
そう言うと、二人は染まる場所がなくなるまで顔を朱に染める。
「な、何を言っているんだ! そんなことがあるわけ、あるわけないだろう!」
「へ、変なことをいわないんでください!」
必死に違う違うと否定する神子様と聖を眺めているのも、なかなか楽しいのだけど。その、どうしよう。言ったほうがいいのかな。
「「『神子』『白蓮』が好きとかじゃないから!」」
二人とも、いつまでくっついているつもりなの?
わからないことは人に訊くべきらしい。ので、率直に訊いてみた。
「なぁなぁ聖。質問質問」
「なんですか、こころさん?」
「聖って仏教徒なんでしょ?」
「……? そうですけど、それがどうしました?」
私の質問に聖は首を傾げる。もっとも、これは確認作業みたいなものだ。
短い間とは言え、命蓮寺で修行していたのだから、それくらいはわかっている。
だからこそ、気になったのだ。
「だったら、なんで使ってるデッキは全部道教タイプなの?」
「……こころさん」
一瞬、不自然な硬直があったが聖は、優しい笑顔を浮かべて私の頭を撫でる。私より少し大きいくらいの手なのに、不思議とそれ以上に大きく優しく感じられた。
聖は頭を撫でながら、言い聞かせるように続ける。
「こころさん、確かに私は仏教徒です。しかし、勝負は勝たねば意味が無いです。そのためには道教の力も使いましょう。だから、別に使いたくて道教デッキなわけじゃないのです。これは仕方なくです、使いやすいから使っているだけです。わかりましたか?」
「なるほど、使いやすいから仕方なくか」
「ええ、そうです仕方なくです」
「そっかー」
確かに、勝負は勝ったほうが嬉しい。それはついこの間学んだ感情だ。
んー、だけど、この間聖が使ってたデッキって? あれ?
「……けど、笏と剣積みまくったデッキって使いやすいの?」
「はい! おしまい! この話終了です! はい、この話もうやめ!」
そう言った途端、聖は顔を赤くして必死にまくし立ててきた。
普段物静かな彼女が見せた激しい一面に、私も思わず体ごと驚いてしまった。
しかし、それ以上に興味が湧いた。どうしてここまで感情を露わにしたのか。構わず私は質問を続ける。
「使いやすいのー? ほんとに? スペルとスキルの枠余ってないんじゃないの?」
「で、ですから! これは、そう! ハンデです! 強いスキル、スペルを使えば勝つのは当たり前! それを敢えて使わないことで強者であることをアピールしているのです!」
「あー、なるほど」
敢えて弱い技を使って勝つ。所謂魅せプレイという奴か。それで勝つのもなかなか楽しそうだけど。
「でもそれって、さっき言ってることと矛盾してますよね?」
「そ、それはその……」
指摘された聖は、見るからに動揺していた。
『強い』から使っているのに、そこから『強い』要素を削っているのでは、まったく意味が無い。考えるまでもなく、破綻した論理である。
ますます興味が湧いた。聡明な聖がここまで乱れるなんて、余程何かあるに違いない。狼狽え続ける彼女を逃がすまいと、私は腕を掴んで離さない。
「ねーねー、なんでなんで?」
「で、ですから……それはその……」
「なんだ、随分と賑やかそうじゃないか」
不意にかけられた声に、私と聖はそちらを向く。
キラキラしたオーラとマントを翻しながら現れたのは、私の新しい希望の面を作ってくれた神子様だった。
彼女は皮肉っぽい笑みを浮かべて、聖を見やる。
「面霊気も御し切れないとは、仏教も底が知れる。聖よ、私はいつでも道教への鞍替えを歓迎しているよ」
「お断りします。毎日毎日あなたも飽きませんね。そんなに通い詰めるなら、いっその事仏教徒になればいいんです」
先ほどまでの狼狽え振りは鳴りを潜め、毅然とした視線をぶつける聖。対する神子様は余裕の表情を崩さない。やっぱり、宗教家同士は仲が悪いんだろうか。
ああ、ちょうどいいや。せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ。じゃなくて、せっかくだから神子様にも訊いてみよう。
「神子様、質問質問」
質問するときは挙手をした方がいいらしいので、ビシっと遠くからでもわかりやすいように手を挙げる。
神子様は肩をすくめてやれやれ、と言いたげだったけど、先を促してくれた。なので、遠慮せず訊ねる。
「神子様って道教?」
まあ、これも確認作業だ。
神子様も、さっきの聖と同じく首をひねった。
「……今更何を言っているんだ。さっきからそう言ってたじゃないか」
「じゃあ、仏教デッキばかり使ってるのはなんで?」
僅かに顔を強張らせたのを私は見逃さない。やっぱり何かあるようだ。
しかし、神子様はすぐに余裕の笑顔を浮かべ応える。
「……こころ、君にはまだわからないことかもしれないが、勝負は勝たねば」
「あと、数珠四積みデッキって強いの?」
「はい、この話おしまい! あー何も聞こえない聞きたくない!」
続けざまに訊ねると、神子様はヘッドホン越しに耳を抑え、背中を向けてうずくまってしまった。こんな格好でもカリスマがあるような気がするからすごいと思う。
だけど、そんなことはどうでもいい。私が興味あるのは、彼女たちが言っていることとやっていることの矛盾だ。
「神子様ー? 訊いたんだから応えてよー」
「アーアーキコエナーイ」
肩を揺すってみるが、護身完成してしまったようで一切応える気はないようだ。
うむむ、どうしよう。聖を見やるが、ぽうっとした熱っぽい目で神子様を眺めているだけだった。
「ひょっとしてお困り? 助けて欲しい?」
む、この声は、
「その声は我が友、古明地こいしではないか」
「せいかーい」
いつからいたのか、もしかしたら最初からいたのかもしれない。目前に現れたこいしと、いえーいとハイタッチを交わす。
相変わらず、感情が感じられない。まったくないとも思えないのが、不思議な所ではあるが。
それはさておき、助けて欲しいと言ったら助けてくれるのだろうか。
「んー、助けるって言ったけど、私が知ってることを教えてあげるだけかな」
「むう、こいしは何を知っているのだ」
「んーとね」
……? あれ、おかしいな。無感情なはずのこいしからちょっと黒いものが感じられたが。気のせいかしら。
ふふっ、とこいしは神子様をちらりと見てから、唄うように続ける。
「この間の異変が起きた直後、神子が『あのマントかっこ良かったな……私もつけてみようか、いやだけど、真似してるって思われたら恥ずかしいし……』ってマントつけるか付けないかで、散々悩んでたこととかー」
「なぁ!? どこでそれを!?」
うずくまった体勢から一転、神子様は機敏な動きでこいしを捕まえにかかる。が、一瞬でこいしの姿が消え、神子様の手は空を切る。
「えっ、った、わっ!」
「きゃっ!?」
そして、小石も落ちていないのに、何かに躓いたようによろけた神子様は、その先の縁側に座っていた聖と真正面から接触する。ちょうど、抱きあうような感じで。
「あとはねー」
いつの間にか、こいしは私の隣に腰掛けていた。……ああ『こいし』は落ちてたか。
顔を真っ赤にしたまま固まる神子様と聖をよそに、こいしは唄い続ける。
「聖が『ノースリーブで可愛かったですけど……やっぱりいきなりは恥ずかしいですし……ここは半袖にするところから……』って袖の長さをどうするか悩んでたことくらいかなー」
それだけ言うと、後はわかるでしょ、とこいしは私に笑いかけた。
えーと、つまり、その感情の名は――。
「違う! 違うからね! 確かにほんの僅かちょっとマント格好良いなと思ったりもしましたが! 別にそんなんじゃないですよ!」
「そうですそうなんです! 腕が細くて綺麗だなとか思ったりしませんでしたよ!? 本当ですよ!」
あー、そうですかそうですか。ええ、わかってますよ。
「なんだこころその顔は! いや、無表情だけどなんだかムカツクぞ!」
「そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
私も育ててもらった覚えはない。というか、そんなこと言ってるとお父さんとお母さんみたいだ。
そう言うと、二人は染まる場所がなくなるまで顔を朱に染める。
「な、何を言っているんだ! そんなことがあるわけ、あるわけないだろう!」
「へ、変なことをいわないんでください!」
必死に違う違うと否定する神子様と聖を眺めているのも、なかなか楽しいのだけど。その、どうしよう。言ったほうがいいのかな。
「「『神子』『白蓮』が好きとかじゃないから!」」
二人とも、いつまでくっついているつもりなの?
唐突に脱力させてくれるぜ(笑)
もっと流行れー
いやー笑いが止まらない良い話でした。
と思ったら神子さまで気づけた。そして互いに一目惚れかあんたらw
なお現実は帚積み安定、なにあの世紀末ブースト
ひじみこに上手く絡めてすばらしい。すねいくさんは天才だ!
あとコンバット越前とか渋川先生とかがさりげなく、うるさくならない程度に、十分な存在感を持って登場しているところも嬉しい。小ネタの入れ方がとてもいいあんばい。
これからも応援してます。
ないわ
こころちゃん、いっそ混ざってひじみこころになってもええんじゃよ?
ひじみこも仲が悪そうに見えて互いをリスペクト(意味深)してていいですね
しかしネタは伝わりました。
いやおまわりさん違います! 小学生の思考が好きなんであって、小学生がストライクゾーンなわけじゃ(ry