「今日はどこへ行くのかなー♪それは、それは無意識が決めること~。」
ミーン、ミンミン、ミーン・・・・
シャア、シャア、シャア、シャア・・・・
ここは、地上の何処かである。
こいしの周りはセミの鳴声が響き渡り、上空にはさんさんと輝く太陽が居座っていた。
「今日も今日とて、誰かに会うのか♪それとも何かに遭うのかな~♪旅は道ずれ、世は情け~♪」
こいしは今日も通常運転な様子で森の中を歩き回る。
「んー歩けど、歩けど、周りはセミの合唱団だけ。なにか、面白いものが落ちてないのかなー?はたまた、木々に実ってるのかな?」
体をクルクルと回しながら、目線を上に、下にと忙しく動かしながらも、器用に進んでいく。
「それにしても暑い、暑い。あついのは、灼熱地獄だけで十分だよばかやろう。太陽のばかやろー、お空のばかやろー!」
なにか、身内に八つ当たりした様なこいしだったが、暑さで頭がお空になったからであろうか。いや、そうに決まっている。
『うにゅー、ゆで卵が欲しいよー。』
「こんな暑い中、何言ってんの?バカなの?鳥なの?そんなことより、冷やし卵が欲しいわ。」
こいしが無意識にお空の口癖を呟いたら、どこか怒りを含んだ言葉が返ってきた。
「わたしの縄張りに入ってくるなんて、いい度胸してるじゃない。それに、あんた見かけない顔ね。誰かしら?」
「?、あなたこそ誰?見かけない顔ね。それに・・・・、変な羽が6つも付いてて、可笑しな様ね。」
こいしの目の前には、羽の付いた妖精が尊大に立ち塞がっていた。
「あら、質問を質問で答えるのは感心しないわね。まぁ、その程度の品性なのね。可哀想に。・・・・いいわ、私がレディの手本を見してあげる。あたしは、チルノ。この湖畔に住む氷の妖せ・・『ーヒュンっー』って!危なわね!!」
自慢げに自己紹介を始めたチルノの顔面を手がかすめた。
「ちょっと、妖精さん。動いたら、そのキレイなお目目が取れないでしょうに。じっとしてて!大丈夫よ、直ぐに終わるからさー。」
宝石を取るような気持ちで、こいしは再びチルノに近づく。
「何わけわかんないこと言ってるのよ、あなたは。寝言は寝てから言いなさいよ。それよりも、それ以上近づいたらヤケドするわよ!低温のね!」
「あはっ、面白いこと言ってくれるのね。あなたは氷の妖精さんでしょ?お空とは違うでしょ?」
「低温ヤケドも知らないの?まぁ、困った嬢ちゃんね。・・・・仕方が無いわね、無知であることを後悔しなさい!氷符『アイシクルフォール』!!」
バァーン!ピキピキピキ・・・・
「あらあら、少しやり過ぎてしまったかしら?」
チルノの辺り一面は霧が発生し、木々は一瞬にして氷付けにされた。
「?、何も喰らってないよ?そうね、しいて言うなら、涼しくなったくらいで♪」
しかし、霧が晴れると、肝心のこいしは無傷であった。
(しまった、また黄色のホーミング弾を出し忘れた!私ったら、忘れん坊さんね・・・・)
「それじゃ、いただきまーす♪」
グリグリグリ・・・・
「ぎゃー!」
ーピチューンッ!ー
「やっぱり素敵な目玉ね!キレイなスカイブルー♪そうだわ!持ち帰って、皆んなに自慢でもしましょ!うん、そうしましょー♪」
こいしは、大事そうに戦利品をポケットにしまい込むと、旅の続きを再開した。しかし、後で気づくことだが、残念なことに、ポケットの中には、キレイなお目目は無くなっていた。それは、ちょうどチルノが復活したのと同じ頃に。
◇
こいしは、気の向くままに森の中を散策していると、彼方に手提げ袋を持った人型の妖怪が歩いていた。
「今日のお昼は冷やしそうめん~♪のどこしちゅルリと、暑い夏にはうってつけ!」
なにやら楽しそうに歌っている様子だったので、こいしもあとについて行く。
「ご飯のあとには、舌触り滑らかな杏仁豆腐が待っている~♪」
「でも、杏仁豆腐って猫には毒じゃないかしら?」
「うにゃっ!?誰かいるの?」
不意に後ろからこいしの声を聞いた妖怪は、驚きのあまり上ずった声をあげた。
「あ!尻尾が2本あるのはお燐と同じだね♪」
ふにふにふに、ニギニギニギ、
目の前にゆらゆらと揺れる2本の尻尾に、こいしは思わず手を伸ばし、おもむろに掴んだ。
「にゃにゃ!!にゃにをしてんの!?そ、そこは繊細な部分だから強く握らにゃいで!」
またもや不意打ちをくらい、挙句に敏感な所を容赦なく掴まれた妖怪は、勘弁してくれと言いたげな表情であった。
「あら、ごめんね!あまりにも魅力的な尻尾だったから。・・・・ところで、あなたはここの森の妖怪かしら?」
「違うよ!私はあっちの妖怪の山ほうに住んで居るの。それで私は、向こうの方にある八雲家の式神の式神として仕えている、橙と言うの。・・・・・これでも高等な妖怪という自負はあるんだから、この辺の妖怪と一緒にしてもらっちゃ困るんだからね!」
「ふーん、・・・・そう。それは失礼しました。橙ちゃん。」
外見からは同じ猫妖怪のお燐と比べて幼く、どちらかというと飼っているペットの子猫に近い気がする、とこいしは尻尾から手を離し、橙をまじまじと見ながらそう感じた。
「うー、信じてない目つきだね、その目は。はぁー、まぁいいや、私のことは大体紹介したんだし、今度は貴方について聞かせてもらおうかな。」
「いいよー。私はね、こいしって言うの。住んでる場所はこの下の地底でね、楽しい家族と暮らしているの。どれくらい楽しいかっていうとね、太陽がどーんっ!!て光って眩しいくらいなの。」
太陽の眩しさを表現しているのか、こいしは両手をいっぱいに広げて、手のひらを握っては広げる動作を繰り返す。
「あにゃー、よくわからないけど、あなたの生活は豊かなんだね。・・・・でも、私の方だって、優しくてナイスボディな紫様や、頭の回転が速くて、九尾がモフモフな藍様に囲まれた羨ましい生活を送っているんだから!」
と、胸の前で山を手で作ったり、わしわしと手を動かし、あたかも目の前に気持ちの良い尻尾をモフって、この上ない表情を作る橙であった。
「ぴかぴかの、テカテカなんだよー!」
「こっちは、ボインボインのモフモフにゃのだー!」
そうやって、お互いとも自分のとこの素晴らしさを張り合うこと、四半刻。
「はぁはぁ、・・・・ところで猫って杏仁豆腐は食べらないでしょ、確か。ウチのとこでは結構ペットに考慮して、食べるものを制限しているの。」
「フーフー・・・・、あぁ、さっきの疑問ね。それはね、杏の代わりに旬の枇杷の種から作っているから大丈夫なんだ。えへへ、ほんと、甘くて美味しいの!」
「そうなんだ!なるほど、代用品で克服する手があったのね。でも、いいなー、地底じゃそんな願いを叶えるほどの多様性なんか無いもの・・・・。だから、珍しいものに出会うために地上にやって来たんだけどね!」
「へーそうだったんだー。だったら今度からはウチのとこに相談しなよ。紫様の力を使えば、手に入らないものはないんだよ!スキマを使ってどこからでも一瞬なんだから!」
「え!そんな力を持ったのが橙ちゃん家にはいるの!?そんなの、ズルいよー!・・・・あら?でもそうなら、何で橙ちゃんは手提げ袋を持っているの?」
こいしは素朴な疑問を感じ、橙が持つ手提げ袋を指差した。
「あにゃ?・・・・あ!そうだった!私は使いで買い物に行く途中だったんだ!・・・・え!?今何時?えーと、とにかく落ち着こう。太陽がそこにあって、影がこのあたりに位置しているから・・・・!!あ、油揚げのタイムセールがもう始まっている!!どうしよう!買えなかったら藍様に怒られる!こいしちゃん悪いけど、また会った時にでも相談にのるから、バイにゃら!」
「うん!バイにゃら!」
あぁまた会えるんだな、と勝手な思い込みであったが、はて次に会う時はどうやって不意打ちをしようかなと思案しながら、こいしは人里に向かってぴゅーっと飛んで行った橙を見送った。
◆
いよいよ太陽も、青く澄んだお空のてっぺんから、地上へと下り始めようと、ゆっくりのそのそと動く。そんな昼食後の気だるい気分みたいな太陽を、こいしは空を仰いで恨めしく思う。
今日は地上に出て来てから、こいしは何も口にして無かったので、そう思うのも無理なかった。
「お腹が減っては、やる気がでないー♪オムライスにハンバーグー、食べたいものあるけれど、お金が無ければ、絵空事ー♪世の中甘くは生きられない、せめて、私にギブミーチョコレート♪」
「なによ昼間から、煩い奴がいるものね!何時だと思っているの?煩くしていいのは、夜になってからよ!」
昼食後の気だるさを味わっていたのは、なにも太陽だけではなかったらしい。こいしの腹ペコソングにイチャモンを付ける声が木々の中から聞こえた。
「およ?上から鳥が泣き喚いて、どうしたのさ。そうか!お昼ご飯は焼鳥定食なのね♪」
バサーっ、バサバサバサ、
「あら、聞き捨てならない言葉ね。おかげで、すっかり眠気も覚めちゃったし、お返しに本物の歌声を披露してあげるわ・・・と言いたい所だけど、まだ昼なのよねー、鳥目に出来ないから、夜にでも出直してらっしゃい。」
木の中から、羽ばたきおりて来たのは、鳥の人型妖怪だった。しかし、今のこいしには美味しそうな食べ物にしか映らなかった。
「そんなことより、鳥の唐揚げが食べたいわ。」
「ちょ、ちょっと、涎垂らしながらこっちに来ないでくれる!?」
「レモンがあればパーフェクトー♪」
カラッと揚げたての唐揚げにしか見えないのか、こいしは目を蘭々と輝かせて獲物に近づく。
「い、いやー、私は美味しくないわよー。」
「よいではないか、よいではないか。まずは、味見にペロペロペロリんちょー♪」
こいしの舌がミスティアの首を狙っているその時、二人の間に、セミが割り込み、
ジージージー、ピシャピシャ、
っと、二人の顔に、セミのおしっこが降りかかる。あたかもレモン汁の代わりに応えたかのようだった。
「んんっ⁈しょっぱい!!ってセミのオシッコ!?まぁ!汚いの舐めちゃったじゃない!どうしてくれるの!?あたしはもう、お、お嫁に行けないのね。」
シクシクと泣き崩れるこいし。
「あんたみたいな卑下にはお似合いで良かったじゃない。」
二人の前にマント姿の変わった人型の妖怪が現れた。
ミ「あら!リグルじゃない!助かったわー♪」
リ「ちょっとミスチー、気持ちは分かるけど、近づかないで、アンモニア臭いから。」
リグルは抱きつこうしたミスティアを払いのけると、こいしに目をやる。
リ「あんたは、誰かしら?ここじゃ見かけない妖怪ね。どうせ低俗で卑しい妖怪みたいだけど。名前だけは聞いてやるから、さっさとどっかへ行っちまいな。」
こ「あらあら、ずいぶん冷たいのね。でも、ショートの髪にぺったんこなお胸、それに短パンみたいな姿ときたら・・・・、あなたはまるで男の『言わせないわよ!!』」
リ「違うわよ!私はホタルの妖怪で女の子よ。まったく、気にしてることを言うなんて、ほんと最低だわ!・・・見逃してやろうとした私が馬鹿だったわ。こうなったら、キツイお灸を据えてもらおうかしら。覚悟しな!」
こ「おまけにその触覚とマントときたら、あなたはまるでゴキブ『だから、言わせないって言ってるでしょ!?』」
リ「もぉ、男の娘でもないし、ましてやGだなんて・・・・、でも、やっぱり、やっぱりそう見られるのかな?そんなどうしよう・・・・。私こそお嫁に行けないかも・・・・。そんなのが運命だって言うの!?知らない!知らない!うわーん、幽香さんに慰めてもらうから、いいもん!バイバイミスティア。」
あっと言う間に、去ってしまったリグルであった。
ミ「触れてはいけないコトを、平然と言えるあなたは、ただ者では無いわね・・・・。覚えときなさい!」
続いてミスティアもリグルを追うように去っていった。
「泣く子も黙るこいしちゃんだよー。」
ひとり残されたこいしは、今日はよく羽の付いたやつに遭遇するなーと考え、まぁ、それも悪くないなと納得したところで、
パタンッ!
っと、空腹からであろうか、力無く地面に倒れたのであった。
◇
「う・・・・ん、あら?ここはどこかしら・・・・。なんだか懐かしい温もりを感じるような・・・そんな気がするわ。」
こいしはボンヤリとした頭を懸命に働かせ、周囲の状況を把握しようとした。
「・・・いし、・・・・こいし。起きましたか?」
「あっ、お姉ちゃん?・・・お姉ちゃんなのね!」
「そうですよ、どうしたの?そんなに気持ちを昂らせて・・・・、変な妹ね。」
あぁそうだと、この温もり、この深い包容力は、まさしく私のお姉ちゃんであったのだ。膝枕をしてもらっているであろうか、こいしは頭の下に感じる決してふくよかではないが、安らぎを与える太ももを堪能しながら、満足感を味わっていた。
「やっぱりお姉ちゃんの膝枕は気持ちいいわ。ついでに頭ナデナデしてくれたら嬉しいな♪」
「もう、甘えん坊な妹で困るわね。それよりも寝る時間だから、起き上がって歯を磨きに行きなさい。」
てっきり、面倒くさいながらも頭をナデりんこしてもらえると思っていたこいしには、この対応におどろいた。
「お姉ちゃんのケチんぼ!それに、私はお腹が空いてるの。だから、美味しいご飯が食べたいなー。」
「何バカなことを言ってるの。先ほどたらふく食べて、私の膝の上で寝ちゃったのは、どこの誰かさんかしら?」
はて、そうであったのか?いよいよ自分の記憶力がお空と同じにまで落ちてしまったかな、悲しいかな、悲しいなと思う反面、本当にお腹の中が空っぽな感覚も感じていたわけで・・・・。
それにしても、今日のお姉ちゃんは私に冷たい気がするなーと違和感を抱いていた。
ぐ~~、ぐるぅぐりゅぐるぅ~~。
やはり、体は正直であった。
「ほら、お姉ちゃん!今の聞いた?私のお腹はハングリーでハンバーグが欲しいって言ってるよ!」
「こいし、いいかげんにしなさい。はしたない音を出さないで頂戴。それでも、私の妹ですか。いいから、私の膝から離れなさい。」
「お姉ちゃんの意地悪!なんで、今日はそんなに冷たくあしらうのかしら?ホントに私のお姉ちゃんなの?・・・・いいわよ、確かめるだけだもん!」
スリスリスリ、くんか、くんかくんか、すーはー、すーはー、
そう言うと、こいしはさとりのお股に顔を押し付け、お姉ちゃんの証を求めるように、獣みたく匂いを嗅いだ。
(あら?いつもの甘い匂いを感じるけど、どこか違う。・・・・そう、甘い匂いの中にも、お姉ちゃんがいつも可愛がるペットの獣臭さがしないわ!それよりも、何かしらこの匂いは。例えるなら、太陽の陽射しを浴びた肥沃な土が放つなんとも言えない匂いってとこかしら。・・・・でも、それだとおかしいな。このジメジメした地底に、カビのように棲息するお姉ちゃんからは絶対に漂わない匂いだもの。)
「・・・ん///、やん、ちょっちょっと、止めて!止めなさいよ!」
むぎゅむぎゅ、ぷにんぷにん、
こいしの蛮行を止めるべく体を押し付けて、どかそうとしたからか、こいしの頭には柔らかい物がうるさいほど自己主張している。
「あら?何かしらこの頭を蕩けさせる物体は?もしかして・・・・おっぱい?オッパイという名の桃かしら?」
なんと、こいしのお姉ちゃんには本来あるはずの無い、たわわなお胸が、今まさにこいしの頭を埋めているのであった。
「・・・・こんなの、私のお姉ちゃんじゃない!!これは・・・私のお姉ちゃんの皮を被った大地から採れたぷるぷるの桃なのよ!・・・そうよ、そうに決まっているのよ。空腹で死にそうな私への、天からの恵みに違い無いわ♪そうであるなら、目の前にある桃を食べないという選択肢は無いのも同然!いえ、むしろ食べなければバチが当たる程ね。・・・・それでは食べる正当化が出来たところで、頂こうかしら♪」
はむはむ、モミモミ、れろれろ、ペロペロ、ちゅっちゅっ、チュパちゅパチュリー?、
「い、いや!止めて!あ・・・・ん、そんなに激、激しくしちゃダ、ダメー!」
「ぷはっ!・・・・桃源郷はここにあった。」
「ん、はぁはぁ、・・・・人の胸を桃源郷と勘違いしないで欲しいな。・・・・倒れていたあなたをせっかく助けたのに、そんな仕打ちはあんまりだわ。」
黙って食われればよい桃がなにを抜かしやがる、とこいしはぷんすこしながら相手の顔を仰ぎ見ると、緑色の髪をサイドに結わえ、紅潮させた顔がそこにはあった。
ゴロゴロ、バシーンッ!!!
その時、こいしの脳内に一筋の雷が落ちた。
(あぁ、なんて可愛らしくて、それでいでどこか大人びた風貌を持ち合わせた顔つきなのかしら。)
こいしはいっぺんにその顔を気に入ってしまった。
(この聖母マリアのようなオーラを放つ顔を私の知っている顔で言い表すとしたら・・・・そうね、お姉ちゃんの顔をベースにお空の屈託の無い笑顔をブレンドし、そして、隠し味にお燐の凛とした目つきが備わった感じ。そんな理想があるだなんて、やっぱり、地上に出て来て正解だった。そんな感動が今まさに私を支配しているわ。)
「ちょっと、顔が半分天国に行ったような顔をしてるけど、大丈夫?何か食べたい物とかあるかな?」
「あなたは、私の女神だわ。いや、その透き通った羽をみるに、天使なのかしら・・・・。」
「これは大丈夫そうじゃないっぽい・・・・。ねぇ、あなたさん。今から手頃な食べ物持って来てあげるから、名前を教えて。」
「私は・・、私の名前はこいしと言います。」
「そう、こいしと言うのね。可愛らしい名前ね。喉も渇いてそうだから、ついでに飲み物も持って来るから、ここの木陰で待っててね!こいしちゃん!」
「うん。」
シュンッ!
力無く答えたこいしをみて、妖精はその場から突然と消えた。
こいしは未だに脳裏に焼き付く天使の顔を恍惚な眼差しで見ていた。
「・・・・あらいけない、天使さんの名前を聞くの忘れちゃった。助けてくれた身分なのに失礼な対応だったな。あぁでも、緑の天使なんて昔読んだ絵本なんかにも出てこないかったし、なんだか夢でも見てるみたい・・・・。でも、夢なんかじゃ無いんだよね♪」
木々の葉から溢れる太陽の光に手をかざしてみると、そこにはしっかりと血筋が浮かび上がっていた。
シュゥゥン!
「ごめんなさい、少し手間取って遅れてしまって。・・・・その、チルノという友達がいきなり私の家の中で復活してて、・・・まったく今日はどんなことをやらかしたのか後で聞かなくちゃ。あら、身内の話なんかしててもしょうがないですね。・・・・はい!残り物だけどパンと木の実、あとスイカ一切れがあるけど、食べる?」
はて?どこかでその名を聞いたような気がしたこいしであったが、今は目の前の食べ物でそれどころでは無かった。
「良いの!?まぁ、腹ペコちゃんの私には豪勢な食事と変わらなくて。でも、頂く前にお礼を言いたいのだけれど、貴方のお名前をお聞きしてもよろしいかな?」
・・・・・・・・・・・・
(あら?なぜか、この天使さんは顔をわずかに強張らせてないかしら。何か無礼なことを言ってしまったのかしら。また無意識のうちに・・・・。)
「あの・・・・、そ、その、自分で言うのも何なのですけどね、私は名前という名前を持っていないの。恥ずかしい話なんだけど、あえて申すれば、大妖精という種族名であります・・・・。」
「!!・・・・あら、ごめんなさい。失礼な質問をしてしまって、でも、悪気は無かったの。ほんとに・・・・ゴメン・・・なさい。」
「分かってますよ。だからそんなに悲しい顔にならないで下さい。・・・・せっかくの豪勢な食事が不味くなってしまうので。」
優しい声でこいしにそう掛けながら、優しく頭を撫でてくれる大妖精の姿に、こいしは天使ではなく自分のお姉ちゃんと被らせていた。
「それに、友達のみんなは私のことを大ちゃんって親しみを込めて読んでくれます。・・・・あなたにもそう呼ばれたら私は十分ですよ。」
「大・・・・ちゃん。いい名前ね。でも、もし、嫌ではなかったら私はあなたのことを大姉ちゃんって呼んでも良いかしら?・・・・ダメかな?」
「うふふ、ダメなんて思いませんよ。むしろこんな可愛い妹さんを持てるなんて、私は幸せですよ。ですから、私もあなたのことを・・・こいちゃんって呼んでも良いですか?」
「うん!良いよ!大姉ちゃん!!」
「それはそれは良かったです。・・・・でも、そのように呼ばれるということは、こいちゃんにはお姉さんがいるのかな?」
「そうなの、私には優しくて美しい自慢のお姉ちゃんがいるの。・・・・だから、あなたを見ているとなんだかお姉ちゃんと居るような錯覚を起こしてしまうの。・・・・あはは、また変なことを言ってごめんなさい。」
「いいえ、こんなにも妹さんから慕われるなんてお姉さんは幸せだと思いますよ。それに、たぶんこいちゃんと同じぐらいお姉さんもあなたのことを想っていますよ。・・・・だから、お腹が膨れて動けるようになったら、自慢のお姉ちゃんの元へ帰りましょう。ほら、辺りは間も無く暗くなりますから。」
みると、大妖精の背には、これから太陽が沈みゆこうとしていた。
「うん!そうするわ。お姉ちゃんに心配は掛けたく無いもの。・・・・だけど、この森をどうやって抜け出すかわからなくなってしまったの。面倒無ければ、森を出るまで案内してもらってもいいかな?」
「安心して、困った妹を見捨てる姉はいませんよ。この森を抜けるまで一緒に行きましょう。」
正面にまわって、食べ終わったこいしを優しく引っ張り起こした大妖精は、笑顔でこいしの頼みに答える。
太陽の光と地上付近の空が作り出す濃淡なオレンジ色が大妖精の顔を照らし、あたかもその笑顔の温かさを表しているかのようであった。
・・・・・こいしは、大妖精の優しさが、ただ、ただ、嬉しかった。
「ありがとう!大姉ちゃん!!あと・・・・良かったら、手をつないで欲しいな・・・・迷ってしまうかもしれないから。」
「はいはい、お手てを繋いで帰りましょうね。」
「えへへ・・・・、大姉ちゃんの手は温かくて気持ちいいな~♪」
(ホントは、飛んで帰れるけど、そんなつまらないコトはしたくないもの。)
ちょっぴり罪悪感を抱きながら、こいしは大妖精とつないだ左手をブンブンと振り回しながら森を歩いた。
カナカナカナカナカナ・・・・
遠くのほうでセミの鳴き声が響き渡る。あたかも、太陽が沈むのを惜しむような、そんな切ない感じだった。
「ここまで来たらあとはひとりで帰れるわ。ありがとう大姉ちゃん!」
「そうですか、・・・・少し寂しいけれど、ここまでにしときますね。」
「・・・・お別れだね。でも、楽しかったよ。また遊びにいってもいいかな?」
「もちろんですよ、これ切りだなんて惜しいです。・・・・こいちゃん!ちょっとこちらに寄ってくれないかな?」
「?いいよ、こうかな?って、ほわ!?」
ポフッ!
なかなか手を離せずにいた、こいしを大妖精は優しく抱き寄せた。
(あ!この匂いはあの時の甘く土っぽいやつだ!・・・・それにこの感触は大姉ちゃんのおっぱい!)
こいしは先ほどの大妖精に対して行った蛮行を思い出し、顔から火が出そうな勢いであった。
「あ、あの、初対面の時に大姉ちゃんに対して失礼な行ないをしてごめんなさい!」
「あぁ、あれですか、確かに驚きましたけど、状況が状況でしたし、許しますよ。・・・・それよりも、今度あなたの自慢のお姉さんを紹介して欲しいです。」
「うん、いいよ!お安いことね。あ、でも、私のお姉ちゃんはかなりのヒッキーだから、大姉ちゃんがウチに来てくれたら嬉しいな♪」
(地底のみんなに大姉ちゃんを紹介したいし。)
「あら、そうなの?・・・・でも、それは難しいことかな。」
「どうしてかしら?」
大妖精は目を伏せて言ったので、こいしは覗き込むように尋ねた。
「ん・・・・、それはね、私が妖精である所以だから。この森から遠くには行けないの。」
そんなこいしに、大妖精はしっかりと目を見つめて答える。
「そうなの・・・・、じゃ、じゃあ、お姉ちゃんをここに引きずり出してでも紹介するよ。お姉ちゃん慢性的な運動不足で、いい機会だし!」
大妖精の真剣な思いに、どうにか出来ないかと頑張って答えるこいし。
「うふっ♪楽しみに待っているけど、あまり無理をしないでね。」
大妖精の顔が綻んで、ホッと安心する。
そんな一挙一動がこいしの心をかき乱す。
「大丈夫!他にも愉快な仲間を連れて来るから楽しみにしててね!・・・・それじゃ、バイバイ大姉ちゃん!」
「ばいばい、こいちゃん。」
少々強引に、別れる踏ん切りをつけ、サヨナラをした。
けれど、こいしはときどき振り返っては、森の方を見た。
最後まで大妖精は手を振って応えてくれた。
◆
トタトタトタ、ばたーん!
「ただいまー!!お姉ちゃん!」
「お帰りなさい、こいし。でも、ドアは静かに開けて下さい。壊れますからね。」
こいしのダイナミック帰宅にも、冷静に対処するさとりは、今日のこいしの様子がいつもと少し違うことに気がつく。
「それは失礼しましたわ。でも、聞いてお姉ちゃん、今日もね地上でいろんなことがあったのよ!それをお姉ちゃんに聞かせたくて、少しせっかちになっただけなの。」
「あら、それはそれは楽しみなことですね。それじゃ、その話は夕食の時にみんなに聞かせてもらうとして、こいしは手を洗いに行きなさい。それに、今日の夕食はあなたの話をもっと盛り上げそうなものですから。」
「え!?なになに?私の大好物ってことなのね!」
「はい、そうですよ。ちなみに、何か当ててみて下さい。」
「えーと、そうねー・・・・、ハンバーグ!!」
「残念、正解はオムライスでした。」
「本当に!?わーい、オムライスも食べたかったの!そうだと分かれば早く手を洗わなくちゃね!」
こいしが手を洗いにドアに向かうと、その先からお空とお燐がはいってきた。
「あら!妹様帰ってたのですか。お帰りなさいませ。」
「ホントだ!こいし様が帰って来たー!わー、こいし様ーー!!」
むぎゅー!!スリスリスリ、
お空はこいしを見つけると、一目散に駆け寄って抱きつき、頬ずりを始めた。
「ちょっと、ちょっと、お空ったら、いきなり妹様に抱きつかないの!」
「えー、でもこいし様は可愛いから、しょうがないですよー。」
「んー、お空なんかに負けてたまるものかー!」
スリスリスリ、スリスリスリ、
こいしも負けじと、お空に頬ずりをする。
(あらあら・・・、妹様も妹様で楽しんでるみたいだから、いっか。)
「相変わらず、仲のよいコンビですね。お燐。」
「そうですね、さとり様。・・・・羨ましいですか?」
「いえ、微笑ましいです。こんなにも、賑やかな家族を持てる私は幸せものです。お空に感謝しないと。・・・・・・もちろんあなたにも感謝してますよ。」
お燐の心の中を感じとったさとりは、お燐の手をそっと握って感謝の念を表した。
「確かに、そうですね。でも、こうなったのも、あの異変以降ですよね。・・・・あれから、妹様は何かと地上に行くようになって、それからですよ、元気に明るく他人に接するようになったのは。・・・・、でも今日の妹様はさらに明るいというか、幸せな感じだと思うんですが。どうしてでしょう?さとり様。」
「あの子はたぶん、地上で新しくお友達が出来たんでしょう。素敵なお友達をね。そうであれば、私の不安も少しは減って、嬉しい限りです。」
こいしの成長ぶりに、目を細める二人。
その二人を横にして、こいしとお空は頬ずりから、どう発展したのか、いつの間にかお互いの頬をつねり合う戦いへと移っていた。
「おくふの、ほっへた、やはらかくて、すほいのひるー。」
「うにゅー、うにゅうにゅうにゅ、のうにー。」
「こら、こいし!あなたの手はまだ汚いままでしょ!・・・・しょうがないわね、お空と一緒に手を洗いに行きなさい。ほらほら、いつまでも、そんなことやっていると、オムライス無しですよ。」
「それは、いや!・・・・それに、お空とお燐にも地上でのお話しをたくさん話したいの!!」
「そうなんですか!こいし様!それは早く聞きたいです!」
「あたいも、早く聞きたいです!妹様!」
「よーし、お空ー!洗面所までどちらが早く着くか競争よ!!」
「それは負けられない戦いですね!たとえ、こいし様であろうと全力で勝負しますよ!」
ドタドタドタ!!
勢いよく洗面所に向かっていった、こいしとお空であった。
「それじゃ、私は夕食の配膳の準備でもしましょか。お燐、手伝ってくれますよね。」
「もちろんです!さとり様。」
そんな二人とは対照的に、さとりとお燐は食卓へと歩き出した。
ミーン、ミンミン、ミーン・・・・
シャア、シャア、シャア、シャア・・・・
ここは、地上の何処かである。
こいしの周りはセミの鳴声が響き渡り、上空にはさんさんと輝く太陽が居座っていた。
「今日も今日とて、誰かに会うのか♪それとも何かに遭うのかな~♪旅は道ずれ、世は情け~♪」
こいしは今日も通常運転な様子で森の中を歩き回る。
「んー歩けど、歩けど、周りはセミの合唱団だけ。なにか、面白いものが落ちてないのかなー?はたまた、木々に実ってるのかな?」
体をクルクルと回しながら、目線を上に、下にと忙しく動かしながらも、器用に進んでいく。
「それにしても暑い、暑い。あついのは、灼熱地獄だけで十分だよばかやろう。太陽のばかやろー、お空のばかやろー!」
なにか、身内に八つ当たりした様なこいしだったが、暑さで頭がお空になったからであろうか。いや、そうに決まっている。
『うにゅー、ゆで卵が欲しいよー。』
「こんな暑い中、何言ってんの?バカなの?鳥なの?そんなことより、冷やし卵が欲しいわ。」
こいしが無意識にお空の口癖を呟いたら、どこか怒りを含んだ言葉が返ってきた。
「わたしの縄張りに入ってくるなんて、いい度胸してるじゃない。それに、あんた見かけない顔ね。誰かしら?」
「?、あなたこそ誰?見かけない顔ね。それに・・・・、変な羽が6つも付いてて、可笑しな様ね。」
こいしの目の前には、羽の付いた妖精が尊大に立ち塞がっていた。
「あら、質問を質問で答えるのは感心しないわね。まぁ、その程度の品性なのね。可哀想に。・・・・いいわ、私がレディの手本を見してあげる。あたしは、チルノ。この湖畔に住む氷の妖せ・・『ーヒュンっー』って!危なわね!!」
自慢げに自己紹介を始めたチルノの顔面を手がかすめた。
「ちょっと、妖精さん。動いたら、そのキレイなお目目が取れないでしょうに。じっとしてて!大丈夫よ、直ぐに終わるからさー。」
宝石を取るような気持ちで、こいしは再びチルノに近づく。
「何わけわかんないこと言ってるのよ、あなたは。寝言は寝てから言いなさいよ。それよりも、それ以上近づいたらヤケドするわよ!低温のね!」
「あはっ、面白いこと言ってくれるのね。あなたは氷の妖精さんでしょ?お空とは違うでしょ?」
「低温ヤケドも知らないの?まぁ、困った嬢ちゃんね。・・・・仕方が無いわね、無知であることを後悔しなさい!氷符『アイシクルフォール』!!」
バァーン!ピキピキピキ・・・・
「あらあら、少しやり過ぎてしまったかしら?」
チルノの辺り一面は霧が発生し、木々は一瞬にして氷付けにされた。
「?、何も喰らってないよ?そうね、しいて言うなら、涼しくなったくらいで♪」
しかし、霧が晴れると、肝心のこいしは無傷であった。
(しまった、また黄色のホーミング弾を出し忘れた!私ったら、忘れん坊さんね・・・・)
「それじゃ、いただきまーす♪」
グリグリグリ・・・・
「ぎゃー!」
ーピチューンッ!ー
「やっぱり素敵な目玉ね!キレイなスカイブルー♪そうだわ!持ち帰って、皆んなに自慢でもしましょ!うん、そうしましょー♪」
こいしは、大事そうに戦利品をポケットにしまい込むと、旅の続きを再開した。しかし、後で気づくことだが、残念なことに、ポケットの中には、キレイなお目目は無くなっていた。それは、ちょうどチルノが復活したのと同じ頃に。
◇
こいしは、気の向くままに森の中を散策していると、彼方に手提げ袋を持った人型の妖怪が歩いていた。
「今日のお昼は冷やしそうめん~♪のどこしちゅルリと、暑い夏にはうってつけ!」
なにやら楽しそうに歌っている様子だったので、こいしもあとについて行く。
「ご飯のあとには、舌触り滑らかな杏仁豆腐が待っている~♪」
「でも、杏仁豆腐って猫には毒じゃないかしら?」
「うにゃっ!?誰かいるの?」
不意に後ろからこいしの声を聞いた妖怪は、驚きのあまり上ずった声をあげた。
「あ!尻尾が2本あるのはお燐と同じだね♪」
ふにふにふに、ニギニギニギ、
目の前にゆらゆらと揺れる2本の尻尾に、こいしは思わず手を伸ばし、おもむろに掴んだ。
「にゃにゃ!!にゃにをしてんの!?そ、そこは繊細な部分だから強く握らにゃいで!」
またもや不意打ちをくらい、挙句に敏感な所を容赦なく掴まれた妖怪は、勘弁してくれと言いたげな表情であった。
「あら、ごめんね!あまりにも魅力的な尻尾だったから。・・・・ところで、あなたはここの森の妖怪かしら?」
「違うよ!私はあっちの妖怪の山ほうに住んで居るの。それで私は、向こうの方にある八雲家の式神の式神として仕えている、橙と言うの。・・・・・これでも高等な妖怪という自負はあるんだから、この辺の妖怪と一緒にしてもらっちゃ困るんだからね!」
「ふーん、・・・・そう。それは失礼しました。橙ちゃん。」
外見からは同じ猫妖怪のお燐と比べて幼く、どちらかというと飼っているペットの子猫に近い気がする、とこいしは尻尾から手を離し、橙をまじまじと見ながらそう感じた。
「うー、信じてない目つきだね、その目は。はぁー、まぁいいや、私のことは大体紹介したんだし、今度は貴方について聞かせてもらおうかな。」
「いいよー。私はね、こいしって言うの。住んでる場所はこの下の地底でね、楽しい家族と暮らしているの。どれくらい楽しいかっていうとね、太陽がどーんっ!!て光って眩しいくらいなの。」
太陽の眩しさを表現しているのか、こいしは両手をいっぱいに広げて、手のひらを握っては広げる動作を繰り返す。
「あにゃー、よくわからないけど、あなたの生活は豊かなんだね。・・・・でも、私の方だって、優しくてナイスボディな紫様や、頭の回転が速くて、九尾がモフモフな藍様に囲まれた羨ましい生活を送っているんだから!」
と、胸の前で山を手で作ったり、わしわしと手を動かし、あたかも目の前に気持ちの良い尻尾をモフって、この上ない表情を作る橙であった。
「ぴかぴかの、テカテカなんだよー!」
「こっちは、ボインボインのモフモフにゃのだー!」
そうやって、お互いとも自分のとこの素晴らしさを張り合うこと、四半刻。
「はぁはぁ、・・・・ところで猫って杏仁豆腐は食べらないでしょ、確か。ウチのとこでは結構ペットに考慮して、食べるものを制限しているの。」
「フーフー・・・・、あぁ、さっきの疑問ね。それはね、杏の代わりに旬の枇杷の種から作っているから大丈夫なんだ。えへへ、ほんと、甘くて美味しいの!」
「そうなんだ!なるほど、代用品で克服する手があったのね。でも、いいなー、地底じゃそんな願いを叶えるほどの多様性なんか無いもの・・・・。だから、珍しいものに出会うために地上にやって来たんだけどね!」
「へーそうだったんだー。だったら今度からはウチのとこに相談しなよ。紫様の力を使えば、手に入らないものはないんだよ!スキマを使ってどこからでも一瞬なんだから!」
「え!そんな力を持ったのが橙ちゃん家にはいるの!?そんなの、ズルいよー!・・・・あら?でもそうなら、何で橙ちゃんは手提げ袋を持っているの?」
こいしは素朴な疑問を感じ、橙が持つ手提げ袋を指差した。
「あにゃ?・・・・あ!そうだった!私は使いで買い物に行く途中だったんだ!・・・・え!?今何時?えーと、とにかく落ち着こう。太陽がそこにあって、影がこのあたりに位置しているから・・・・!!あ、油揚げのタイムセールがもう始まっている!!どうしよう!買えなかったら藍様に怒られる!こいしちゃん悪いけど、また会った時にでも相談にのるから、バイにゃら!」
「うん!バイにゃら!」
あぁまた会えるんだな、と勝手な思い込みであったが、はて次に会う時はどうやって不意打ちをしようかなと思案しながら、こいしは人里に向かってぴゅーっと飛んで行った橙を見送った。
◆
いよいよ太陽も、青く澄んだお空のてっぺんから、地上へと下り始めようと、ゆっくりのそのそと動く。そんな昼食後の気だるい気分みたいな太陽を、こいしは空を仰いで恨めしく思う。
今日は地上に出て来てから、こいしは何も口にして無かったので、そう思うのも無理なかった。
「お腹が減っては、やる気がでないー♪オムライスにハンバーグー、食べたいものあるけれど、お金が無ければ、絵空事ー♪世の中甘くは生きられない、せめて、私にギブミーチョコレート♪」
「なによ昼間から、煩い奴がいるものね!何時だと思っているの?煩くしていいのは、夜になってからよ!」
昼食後の気だるさを味わっていたのは、なにも太陽だけではなかったらしい。こいしの腹ペコソングにイチャモンを付ける声が木々の中から聞こえた。
「およ?上から鳥が泣き喚いて、どうしたのさ。そうか!お昼ご飯は焼鳥定食なのね♪」
バサーっ、バサバサバサ、
「あら、聞き捨てならない言葉ね。おかげで、すっかり眠気も覚めちゃったし、お返しに本物の歌声を披露してあげるわ・・・と言いたい所だけど、まだ昼なのよねー、鳥目に出来ないから、夜にでも出直してらっしゃい。」
木の中から、羽ばたきおりて来たのは、鳥の人型妖怪だった。しかし、今のこいしには美味しそうな食べ物にしか映らなかった。
「そんなことより、鳥の唐揚げが食べたいわ。」
「ちょ、ちょっと、涎垂らしながらこっちに来ないでくれる!?」
「レモンがあればパーフェクトー♪」
カラッと揚げたての唐揚げにしか見えないのか、こいしは目を蘭々と輝かせて獲物に近づく。
「い、いやー、私は美味しくないわよー。」
「よいではないか、よいではないか。まずは、味見にペロペロペロリんちょー♪」
こいしの舌がミスティアの首を狙っているその時、二人の間に、セミが割り込み、
ジージージー、ピシャピシャ、
っと、二人の顔に、セミのおしっこが降りかかる。あたかもレモン汁の代わりに応えたかのようだった。
「んんっ⁈しょっぱい!!ってセミのオシッコ!?まぁ!汚いの舐めちゃったじゃない!どうしてくれるの!?あたしはもう、お、お嫁に行けないのね。」
シクシクと泣き崩れるこいし。
「あんたみたいな卑下にはお似合いで良かったじゃない。」
二人の前にマント姿の変わった人型の妖怪が現れた。
ミ「あら!リグルじゃない!助かったわー♪」
リ「ちょっとミスチー、気持ちは分かるけど、近づかないで、アンモニア臭いから。」
リグルは抱きつこうしたミスティアを払いのけると、こいしに目をやる。
リ「あんたは、誰かしら?ここじゃ見かけない妖怪ね。どうせ低俗で卑しい妖怪みたいだけど。名前だけは聞いてやるから、さっさとどっかへ行っちまいな。」
こ「あらあら、ずいぶん冷たいのね。でも、ショートの髪にぺったんこなお胸、それに短パンみたいな姿ときたら・・・・、あなたはまるで男の『言わせないわよ!!』」
リ「違うわよ!私はホタルの妖怪で女の子よ。まったく、気にしてることを言うなんて、ほんと最低だわ!・・・見逃してやろうとした私が馬鹿だったわ。こうなったら、キツイお灸を据えてもらおうかしら。覚悟しな!」
こ「おまけにその触覚とマントときたら、あなたはまるでゴキブ『だから、言わせないって言ってるでしょ!?』」
リ「もぉ、男の娘でもないし、ましてやGだなんて・・・・、でも、やっぱり、やっぱりそう見られるのかな?そんなどうしよう・・・・。私こそお嫁に行けないかも・・・・。そんなのが運命だって言うの!?知らない!知らない!うわーん、幽香さんに慰めてもらうから、いいもん!バイバイミスティア。」
あっと言う間に、去ってしまったリグルであった。
ミ「触れてはいけないコトを、平然と言えるあなたは、ただ者では無いわね・・・・。覚えときなさい!」
続いてミスティアもリグルを追うように去っていった。
「泣く子も黙るこいしちゃんだよー。」
ひとり残されたこいしは、今日はよく羽の付いたやつに遭遇するなーと考え、まぁ、それも悪くないなと納得したところで、
パタンッ!
っと、空腹からであろうか、力無く地面に倒れたのであった。
◇
「う・・・・ん、あら?ここはどこかしら・・・・。なんだか懐かしい温もりを感じるような・・・そんな気がするわ。」
こいしはボンヤリとした頭を懸命に働かせ、周囲の状況を把握しようとした。
「・・・いし、・・・・こいし。起きましたか?」
「あっ、お姉ちゃん?・・・お姉ちゃんなのね!」
「そうですよ、どうしたの?そんなに気持ちを昂らせて・・・・、変な妹ね。」
あぁそうだと、この温もり、この深い包容力は、まさしく私のお姉ちゃんであったのだ。膝枕をしてもらっているであろうか、こいしは頭の下に感じる決してふくよかではないが、安らぎを与える太ももを堪能しながら、満足感を味わっていた。
「やっぱりお姉ちゃんの膝枕は気持ちいいわ。ついでに頭ナデナデしてくれたら嬉しいな♪」
「もう、甘えん坊な妹で困るわね。それよりも寝る時間だから、起き上がって歯を磨きに行きなさい。」
てっきり、面倒くさいながらも頭をナデりんこしてもらえると思っていたこいしには、この対応におどろいた。
「お姉ちゃんのケチんぼ!それに、私はお腹が空いてるの。だから、美味しいご飯が食べたいなー。」
「何バカなことを言ってるの。先ほどたらふく食べて、私の膝の上で寝ちゃったのは、どこの誰かさんかしら?」
はて、そうであったのか?いよいよ自分の記憶力がお空と同じにまで落ちてしまったかな、悲しいかな、悲しいなと思う反面、本当にお腹の中が空っぽな感覚も感じていたわけで・・・・。
それにしても、今日のお姉ちゃんは私に冷たい気がするなーと違和感を抱いていた。
ぐ~~、ぐるぅぐりゅぐるぅ~~。
やはり、体は正直であった。
「ほら、お姉ちゃん!今の聞いた?私のお腹はハングリーでハンバーグが欲しいって言ってるよ!」
「こいし、いいかげんにしなさい。はしたない音を出さないで頂戴。それでも、私の妹ですか。いいから、私の膝から離れなさい。」
「お姉ちゃんの意地悪!なんで、今日はそんなに冷たくあしらうのかしら?ホントに私のお姉ちゃんなの?・・・・いいわよ、確かめるだけだもん!」
スリスリスリ、くんか、くんかくんか、すーはー、すーはー、
そう言うと、こいしはさとりのお股に顔を押し付け、お姉ちゃんの証を求めるように、獣みたく匂いを嗅いだ。
(あら?いつもの甘い匂いを感じるけど、どこか違う。・・・・そう、甘い匂いの中にも、お姉ちゃんがいつも可愛がるペットの獣臭さがしないわ!それよりも、何かしらこの匂いは。例えるなら、太陽の陽射しを浴びた肥沃な土が放つなんとも言えない匂いってとこかしら。・・・・でも、それだとおかしいな。このジメジメした地底に、カビのように棲息するお姉ちゃんからは絶対に漂わない匂いだもの。)
「・・・ん///、やん、ちょっちょっと、止めて!止めなさいよ!」
むぎゅむぎゅ、ぷにんぷにん、
こいしの蛮行を止めるべく体を押し付けて、どかそうとしたからか、こいしの頭には柔らかい物がうるさいほど自己主張している。
「あら?何かしらこの頭を蕩けさせる物体は?もしかして・・・・おっぱい?オッパイという名の桃かしら?」
なんと、こいしのお姉ちゃんには本来あるはずの無い、たわわなお胸が、今まさにこいしの頭を埋めているのであった。
「・・・・こんなの、私のお姉ちゃんじゃない!!これは・・・私のお姉ちゃんの皮を被った大地から採れたぷるぷるの桃なのよ!・・・そうよ、そうに決まっているのよ。空腹で死にそうな私への、天からの恵みに違い無いわ♪そうであるなら、目の前にある桃を食べないという選択肢は無いのも同然!いえ、むしろ食べなければバチが当たる程ね。・・・・それでは食べる正当化が出来たところで、頂こうかしら♪」
はむはむ、モミモミ、れろれろ、ペロペロ、ちゅっちゅっ、チュパちゅパチュリー?、
「い、いや!止めて!あ・・・・ん、そんなに激、激しくしちゃダ、ダメー!」
「ぷはっ!・・・・桃源郷はここにあった。」
「ん、はぁはぁ、・・・・人の胸を桃源郷と勘違いしないで欲しいな。・・・・倒れていたあなたをせっかく助けたのに、そんな仕打ちはあんまりだわ。」
黙って食われればよい桃がなにを抜かしやがる、とこいしはぷんすこしながら相手の顔を仰ぎ見ると、緑色の髪をサイドに結わえ、紅潮させた顔がそこにはあった。
ゴロゴロ、バシーンッ!!!
その時、こいしの脳内に一筋の雷が落ちた。
(あぁ、なんて可愛らしくて、それでいでどこか大人びた風貌を持ち合わせた顔つきなのかしら。)
こいしはいっぺんにその顔を気に入ってしまった。
(この聖母マリアのようなオーラを放つ顔を私の知っている顔で言い表すとしたら・・・・そうね、お姉ちゃんの顔をベースにお空の屈託の無い笑顔をブレンドし、そして、隠し味にお燐の凛とした目つきが備わった感じ。そんな理想があるだなんて、やっぱり、地上に出て来て正解だった。そんな感動が今まさに私を支配しているわ。)
「ちょっと、顔が半分天国に行ったような顔をしてるけど、大丈夫?何か食べたい物とかあるかな?」
「あなたは、私の女神だわ。いや、その透き通った羽をみるに、天使なのかしら・・・・。」
「これは大丈夫そうじゃないっぽい・・・・。ねぇ、あなたさん。今から手頃な食べ物持って来てあげるから、名前を教えて。」
「私は・・、私の名前はこいしと言います。」
「そう、こいしと言うのね。可愛らしい名前ね。喉も渇いてそうだから、ついでに飲み物も持って来るから、ここの木陰で待っててね!こいしちゃん!」
「うん。」
シュンッ!
力無く答えたこいしをみて、妖精はその場から突然と消えた。
こいしは未だに脳裏に焼き付く天使の顔を恍惚な眼差しで見ていた。
「・・・・あらいけない、天使さんの名前を聞くの忘れちゃった。助けてくれた身分なのに失礼な対応だったな。あぁでも、緑の天使なんて昔読んだ絵本なんかにも出てこないかったし、なんだか夢でも見てるみたい・・・・。でも、夢なんかじゃ無いんだよね♪」
木々の葉から溢れる太陽の光に手をかざしてみると、そこにはしっかりと血筋が浮かび上がっていた。
シュゥゥン!
「ごめんなさい、少し手間取って遅れてしまって。・・・・その、チルノという友達がいきなり私の家の中で復活してて、・・・まったく今日はどんなことをやらかしたのか後で聞かなくちゃ。あら、身内の話なんかしててもしょうがないですね。・・・・はい!残り物だけどパンと木の実、あとスイカ一切れがあるけど、食べる?」
はて?どこかでその名を聞いたような気がしたこいしであったが、今は目の前の食べ物でそれどころでは無かった。
「良いの!?まぁ、腹ペコちゃんの私には豪勢な食事と変わらなくて。でも、頂く前にお礼を言いたいのだけれど、貴方のお名前をお聞きしてもよろしいかな?」
・・・・・・・・・・・・
(あら?なぜか、この天使さんは顔をわずかに強張らせてないかしら。何か無礼なことを言ってしまったのかしら。また無意識のうちに・・・・。)
「あの・・・・、そ、その、自分で言うのも何なのですけどね、私は名前という名前を持っていないの。恥ずかしい話なんだけど、あえて申すれば、大妖精という種族名であります・・・・。」
「!!・・・・あら、ごめんなさい。失礼な質問をしてしまって、でも、悪気は無かったの。ほんとに・・・・ゴメン・・・なさい。」
「分かってますよ。だからそんなに悲しい顔にならないで下さい。・・・・せっかくの豪勢な食事が不味くなってしまうので。」
優しい声でこいしにそう掛けながら、優しく頭を撫でてくれる大妖精の姿に、こいしは天使ではなく自分のお姉ちゃんと被らせていた。
「それに、友達のみんなは私のことを大ちゃんって親しみを込めて読んでくれます。・・・・あなたにもそう呼ばれたら私は十分ですよ。」
「大・・・・ちゃん。いい名前ね。でも、もし、嫌ではなかったら私はあなたのことを大姉ちゃんって呼んでも良いかしら?・・・・ダメかな?」
「うふふ、ダメなんて思いませんよ。むしろこんな可愛い妹さんを持てるなんて、私は幸せですよ。ですから、私もあなたのことを・・・こいちゃんって呼んでも良いですか?」
「うん!良いよ!大姉ちゃん!!」
「それはそれは良かったです。・・・・でも、そのように呼ばれるということは、こいちゃんにはお姉さんがいるのかな?」
「そうなの、私には優しくて美しい自慢のお姉ちゃんがいるの。・・・・だから、あなたを見ているとなんだかお姉ちゃんと居るような錯覚を起こしてしまうの。・・・・あはは、また変なことを言ってごめんなさい。」
「いいえ、こんなにも妹さんから慕われるなんてお姉さんは幸せだと思いますよ。それに、たぶんこいちゃんと同じぐらいお姉さんもあなたのことを想っていますよ。・・・・だから、お腹が膨れて動けるようになったら、自慢のお姉ちゃんの元へ帰りましょう。ほら、辺りは間も無く暗くなりますから。」
みると、大妖精の背には、これから太陽が沈みゆこうとしていた。
「うん!そうするわ。お姉ちゃんに心配は掛けたく無いもの。・・・・だけど、この森をどうやって抜け出すかわからなくなってしまったの。面倒無ければ、森を出るまで案内してもらってもいいかな?」
「安心して、困った妹を見捨てる姉はいませんよ。この森を抜けるまで一緒に行きましょう。」
正面にまわって、食べ終わったこいしを優しく引っ張り起こした大妖精は、笑顔でこいしの頼みに答える。
太陽の光と地上付近の空が作り出す濃淡なオレンジ色が大妖精の顔を照らし、あたかもその笑顔の温かさを表しているかのようであった。
・・・・・こいしは、大妖精の優しさが、ただ、ただ、嬉しかった。
「ありがとう!大姉ちゃん!!あと・・・・良かったら、手をつないで欲しいな・・・・迷ってしまうかもしれないから。」
「はいはい、お手てを繋いで帰りましょうね。」
「えへへ・・・・、大姉ちゃんの手は温かくて気持ちいいな~♪」
(ホントは、飛んで帰れるけど、そんなつまらないコトはしたくないもの。)
ちょっぴり罪悪感を抱きながら、こいしは大妖精とつないだ左手をブンブンと振り回しながら森を歩いた。
カナカナカナカナカナ・・・・
遠くのほうでセミの鳴き声が響き渡る。あたかも、太陽が沈むのを惜しむような、そんな切ない感じだった。
「ここまで来たらあとはひとりで帰れるわ。ありがとう大姉ちゃん!」
「そうですか、・・・・少し寂しいけれど、ここまでにしときますね。」
「・・・・お別れだね。でも、楽しかったよ。また遊びにいってもいいかな?」
「もちろんですよ、これ切りだなんて惜しいです。・・・・こいちゃん!ちょっとこちらに寄ってくれないかな?」
「?いいよ、こうかな?って、ほわ!?」
ポフッ!
なかなか手を離せずにいた、こいしを大妖精は優しく抱き寄せた。
(あ!この匂いはあの時の甘く土っぽいやつだ!・・・・それにこの感触は大姉ちゃんのおっぱい!)
こいしは先ほどの大妖精に対して行った蛮行を思い出し、顔から火が出そうな勢いであった。
「あ、あの、初対面の時に大姉ちゃんに対して失礼な行ないをしてごめんなさい!」
「あぁ、あれですか、確かに驚きましたけど、状況が状況でしたし、許しますよ。・・・・それよりも、今度あなたの自慢のお姉さんを紹介して欲しいです。」
「うん、いいよ!お安いことね。あ、でも、私のお姉ちゃんはかなりのヒッキーだから、大姉ちゃんがウチに来てくれたら嬉しいな♪」
(地底のみんなに大姉ちゃんを紹介したいし。)
「あら、そうなの?・・・・でも、それは難しいことかな。」
「どうしてかしら?」
大妖精は目を伏せて言ったので、こいしは覗き込むように尋ねた。
「ん・・・・、それはね、私が妖精である所以だから。この森から遠くには行けないの。」
そんなこいしに、大妖精はしっかりと目を見つめて答える。
「そうなの・・・・、じゃ、じゃあ、お姉ちゃんをここに引きずり出してでも紹介するよ。お姉ちゃん慢性的な運動不足で、いい機会だし!」
大妖精の真剣な思いに、どうにか出来ないかと頑張って答えるこいし。
「うふっ♪楽しみに待っているけど、あまり無理をしないでね。」
大妖精の顔が綻んで、ホッと安心する。
そんな一挙一動がこいしの心をかき乱す。
「大丈夫!他にも愉快な仲間を連れて来るから楽しみにしててね!・・・・それじゃ、バイバイ大姉ちゃん!」
「ばいばい、こいちゃん。」
少々強引に、別れる踏ん切りをつけ、サヨナラをした。
けれど、こいしはときどき振り返っては、森の方を見た。
最後まで大妖精は手を振って応えてくれた。
◆
トタトタトタ、ばたーん!
「ただいまー!!お姉ちゃん!」
「お帰りなさい、こいし。でも、ドアは静かに開けて下さい。壊れますからね。」
こいしのダイナミック帰宅にも、冷静に対処するさとりは、今日のこいしの様子がいつもと少し違うことに気がつく。
「それは失礼しましたわ。でも、聞いてお姉ちゃん、今日もね地上でいろんなことがあったのよ!それをお姉ちゃんに聞かせたくて、少しせっかちになっただけなの。」
「あら、それはそれは楽しみなことですね。それじゃ、その話は夕食の時にみんなに聞かせてもらうとして、こいしは手を洗いに行きなさい。それに、今日の夕食はあなたの話をもっと盛り上げそうなものですから。」
「え!?なになに?私の大好物ってことなのね!」
「はい、そうですよ。ちなみに、何か当ててみて下さい。」
「えーと、そうねー・・・・、ハンバーグ!!」
「残念、正解はオムライスでした。」
「本当に!?わーい、オムライスも食べたかったの!そうだと分かれば早く手を洗わなくちゃね!」
こいしが手を洗いにドアに向かうと、その先からお空とお燐がはいってきた。
「あら!妹様帰ってたのですか。お帰りなさいませ。」
「ホントだ!こいし様が帰って来たー!わー、こいし様ーー!!」
むぎゅー!!スリスリスリ、
お空はこいしを見つけると、一目散に駆け寄って抱きつき、頬ずりを始めた。
「ちょっと、ちょっと、お空ったら、いきなり妹様に抱きつかないの!」
「えー、でもこいし様は可愛いから、しょうがないですよー。」
「んー、お空なんかに負けてたまるものかー!」
スリスリスリ、スリスリスリ、
こいしも負けじと、お空に頬ずりをする。
(あらあら・・・、妹様も妹様で楽しんでるみたいだから、いっか。)
「相変わらず、仲のよいコンビですね。お燐。」
「そうですね、さとり様。・・・・羨ましいですか?」
「いえ、微笑ましいです。こんなにも、賑やかな家族を持てる私は幸せものです。お空に感謝しないと。・・・・・・もちろんあなたにも感謝してますよ。」
お燐の心の中を感じとったさとりは、お燐の手をそっと握って感謝の念を表した。
「確かに、そうですね。でも、こうなったのも、あの異変以降ですよね。・・・・あれから、妹様は何かと地上に行くようになって、それからですよ、元気に明るく他人に接するようになったのは。・・・・、でも今日の妹様はさらに明るいというか、幸せな感じだと思うんですが。どうしてでしょう?さとり様。」
「あの子はたぶん、地上で新しくお友達が出来たんでしょう。素敵なお友達をね。そうであれば、私の不安も少しは減って、嬉しい限りです。」
こいしの成長ぶりに、目を細める二人。
その二人を横にして、こいしとお空は頬ずりから、どう発展したのか、いつの間にかお互いの頬をつねり合う戦いへと移っていた。
「おくふの、ほっへた、やはらかくて、すほいのひるー。」
「うにゅー、うにゅうにゅうにゅ、のうにー。」
「こら、こいし!あなたの手はまだ汚いままでしょ!・・・・しょうがないわね、お空と一緒に手を洗いに行きなさい。ほらほら、いつまでも、そんなことやっていると、オムライス無しですよ。」
「それは、いや!・・・・それに、お空とお燐にも地上でのお話しをたくさん話したいの!!」
「そうなんですか!こいし様!それは早く聞きたいです!」
「あたいも、早く聞きたいです!妹様!」
「よーし、お空ー!洗面所までどちらが早く着くか競争よ!!」
「それは負けられない戦いですね!たとえ、こいし様であろうと全力で勝負しますよ!」
ドタドタドタ!!
勢いよく洗面所に向かっていった、こいしとお空であった。
「それじゃ、私は夕食の配膳の準備でもしましょか。お燐、手伝ってくれますよね。」
「もちろんです!さとり様。」
そんな二人とは対照的に、さとりとお燐は食卓へと歩き出した。
適切なタグと注意書きって、大事ですね。
出版物と違ってレーベルも表紙も作者名(無名な場合)もわからない以上、読み手に必要な情報はタグと概要に書き込むしかないのです。
もう一味ふたあじ欲しい
説明
台詞
説明
以下略。どう読めと。
>2さん
勘違いを招くタグ付けで申し訳ありませんでした。必要な情報は概要に載せました。
>3さん
まさに「偶然の出会い」を意図したかったのですが、通じないですね。ご指摘ありがとうございます。
参考にして訂正します。
>7さん、8さん
言われると、バラバラに其々の表面的な絡みだけしか表せてないですね。全文を通して一貫したメッセージを伝える構成にすればよかったかなと反省しています。良い勉強になりました。率直な意見でありがとうございます。
こういうゆるいのも嫌いじゃないです。