『シ……ン……るか……シル……聞こ……るか……シルフ1聞こえるか。応答しろ、シルフ1!』
インカムから聞こえる声に不安を覚えつつ、部下達へ待てを意味するジェスチャーをする。
一糸乱れぬ動きを見せる一団を横目に司令部への返答をし、館内を注意深く睨みつけた。
紅魔館メイド妖精第一遊撃隊――通称”シルフ”――40名を超える大部隊のリーダーこそがシルフ1である。
平常では館の警邏を仕事としているが、有事となれば敵対勢力への対抗の要となる存在である。
そして今はその有事――どうやら館の主人であるレミリア・スカーレットを討伐しようという輩が現れたらしい。
『すでに美鈴様とノームは突破され、現在ウンディーネが交戦中だ。だが被害は甚大……間もなくそちらの網へかかることになるだろう。だが相手も消耗しているはず。おまえたちが頼りだ――健闘を祈る』
その言葉を最後に何も聞こえなくなり、周りの音が鮮明に聞こえ始める。
不自然なほどに静か――まるで戦闘など行われていないようだ。
しかし、それはウンディーネがすでに敗北したことを意味している。
「総員第一戦闘配置!鋒矢の陣で敵を迎え撃つ!先頭は私だ!」
シルフ1は部下と己に活を入れるように叫び素早く指示を伝えると、たちまちメイド妖精による矢印が完成し、侵入者の襲来に備えた。
まだか、まだかと誰もが1秒を1分にも5分にも感じる中、ついにその姿が現れた。
すかさず突撃の声を張り上げ、巨大な矢が招かれざる客へと放たれる。
それを察知した侵入者――博麗霊夢は大きく飛び上がりその一撃を躱しつつ、自分が先ほどまでいた場所に多数の弾幕が注ぎ込まれるのを見た。
(さっきまでのやつらとは違う……厄介ね)
(今の動きは……予測されていた……?)
視線を交差させつつ次の一手を繰り出すべく姿勢を立て直し、同時に相手の動きを警戒する。
大きな一手が来ないと確信した両者は飛び出し、霊夢の針弾とシルフのクナイ弾が空間を支配を彩る。
弾速は早いが軌道が読みやすい針弾はシルフ1の的確な指示によって躱され、またクナイ弾も霊夢特有の直感によってすべて当たることなく消えていった。
交戦からおよそ200秒が経っただろうか、数で圧倒される霊夢の動きが一瞬止まる。
刹那、霊夢の周りに5つの光の球が現れシルフに突撃をかけてくる。
シルフ1はすかさず回避の指示を出すが、逃げても逃げても追いかけてくるそれに追いつかれた者が倒れ、さらに発生した小爆発によって陣形が引き裂かれてしまう。
「くっ……臆するな!残った者は私に魚鱗の陣で続け!」
動揺するメイドたちを一喝しつつその身を躍らせ、皆を奮い立たせんと弾幕を張りながらの突撃を敢行する。
我も続けとばかりに一団が霊夢へと押し寄せるがそれを全て紙一重で躱し、陣の後方へ四角い弾幕を放つ。
針状の弾幕と違い速度こそないが、目標を執拗に追い立てて一人、また一人と撃墜スコアを伸ばしていく。
ジリ貧になりつつも何度も交差を重ね、シルフはすでに7人へと人数を減らしていた。
シルフ1にも激しい焦りと疲れが見え、部隊の士気も限界に達していることは明白であった。
「……これから私が突貫する。シルフ3、おまえが残った者をまとめて咲夜様の下へ行け」
被弾を免れていた右腕に部下を任せ、自分が囮となる――その考えを汲んだシルフ3は黙って頷き、残りをまとめて撤退姿勢を取った。
「御武運を」という最後の言葉を受け取り、目の前の敵対者に集中する。
霊夢はその様子を興味なさ気に見ていたが、シルフ1が目の前に来ると面倒そうに戦闘態勢を取った。
勝負は一瞬で決まる――そう確信したシルフ1は高速で飛び回り、霊夢を攪乱する戦法にでた。
対する霊夢はついていけないのか付き合うつもりがないのか、最低限の動きで攻撃を避けつつホーミングアミュレットを発射して牽制をする。
互いに決め手に欠ける弾幕戦を続け、徐々に消耗していく。
十分時間を稼いだ――シルフ1は高度を取り霊夢に向けて大玉を放ち、それを直撃させずに大玉同士をぶつけ爆発させた。
驚いた霊夢はたじろぎ、一瞬の隙を作ってしまう――それを見逃すシルフ1ではなかった。
「せめて、刺し違える……!」
まさしく集中砲火というクナイ弾を放ちつつ突貫してくるシルフ1とそれを迎え撃つホーミングアミュレット。
巻き起こる大爆発の後に残るのは深手を負い落下する霊夢――そして、片翼を失い落下するシルフ1であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「と、まぁこんな感じですかねー」
熱演とも言えるほどに激しい身振り手振りで話をしていたメイド妖精があっけらかんと締めくくり、せんべいをぽりぽりと齧りだす。
「な、なるほど……そんな伝説があるのですね」
対する稗田阿求は何とも言えないような苦笑いを浮かべつつ、すっかり冷めてしまった茶を一口すすった。
幻想郷縁起を充実させるために何か手はないか――そう考えた阿求は先の異変である紅霧異変をよく知るであろうメイド妖精が人里を歩いているのを目にし、家まで招待した次第である。
さて、それで聞くことができた情報というのがまた「伝説のメイド妖精」という眉唾物であったのだから苦笑するしかない。
(あの霊夢さんが負けるとは思えませんが……しかし、何か活かせないものでしょうか。細部を改変して子ども用の本や演劇の材料に――)
物思いにふける阿求とそれを見てきょとんとするメイド妖精――どこぞの新聞記者でもいれば珍しい写真が撮れたであろうが、幸か不幸か奇妙で静かな時が流れただけだった。
阿求はハッと我に返り、自分が見つめられていることに気づくと恥ずかしそうに笑いながら新しい茶菓子を勧めた。
喜んで茶菓子を頬張る相手に質問をいくつか重ね、自分なりに納得できるところまで話を聞き出した阿求は「また話を聞かせてくださいね」と言いつつメイド妖精を見送った。
「さて、どういうお話にしましょうか……ふふっ、楽しみです」
鼻歌を歌いつつ執筆する様子は外見相応の少女のようであったとは、これを覗き見していた紫の談であった。
インカムから聞こえる声に不安を覚えつつ、部下達へ待てを意味するジェスチャーをする。
一糸乱れぬ動きを見せる一団を横目に司令部への返答をし、館内を注意深く睨みつけた。
紅魔館メイド妖精第一遊撃隊――通称”シルフ”――40名を超える大部隊のリーダーこそがシルフ1である。
平常では館の警邏を仕事としているが、有事となれば敵対勢力への対抗の要となる存在である。
そして今はその有事――どうやら館の主人であるレミリア・スカーレットを討伐しようという輩が現れたらしい。
『すでに美鈴様とノームは突破され、現在ウンディーネが交戦中だ。だが被害は甚大……間もなくそちらの網へかかることになるだろう。だが相手も消耗しているはず。おまえたちが頼りだ――健闘を祈る』
その言葉を最後に何も聞こえなくなり、周りの音が鮮明に聞こえ始める。
不自然なほどに静か――まるで戦闘など行われていないようだ。
しかし、それはウンディーネがすでに敗北したことを意味している。
「総員第一戦闘配置!鋒矢の陣で敵を迎え撃つ!先頭は私だ!」
シルフ1は部下と己に活を入れるように叫び素早く指示を伝えると、たちまちメイド妖精による矢印が完成し、侵入者の襲来に備えた。
まだか、まだかと誰もが1秒を1分にも5分にも感じる中、ついにその姿が現れた。
すかさず突撃の声を張り上げ、巨大な矢が招かれざる客へと放たれる。
それを察知した侵入者――博麗霊夢は大きく飛び上がりその一撃を躱しつつ、自分が先ほどまでいた場所に多数の弾幕が注ぎ込まれるのを見た。
(さっきまでのやつらとは違う……厄介ね)
(今の動きは……予測されていた……?)
視線を交差させつつ次の一手を繰り出すべく姿勢を立て直し、同時に相手の動きを警戒する。
大きな一手が来ないと確信した両者は飛び出し、霊夢の針弾とシルフのクナイ弾が空間を支配を彩る。
弾速は早いが軌道が読みやすい針弾はシルフ1の的確な指示によって躱され、またクナイ弾も霊夢特有の直感によってすべて当たることなく消えていった。
交戦からおよそ200秒が経っただろうか、数で圧倒される霊夢の動きが一瞬止まる。
刹那、霊夢の周りに5つの光の球が現れシルフに突撃をかけてくる。
シルフ1はすかさず回避の指示を出すが、逃げても逃げても追いかけてくるそれに追いつかれた者が倒れ、さらに発生した小爆発によって陣形が引き裂かれてしまう。
「くっ……臆するな!残った者は私に魚鱗の陣で続け!」
動揺するメイドたちを一喝しつつその身を躍らせ、皆を奮い立たせんと弾幕を張りながらの突撃を敢行する。
我も続けとばかりに一団が霊夢へと押し寄せるがそれを全て紙一重で躱し、陣の後方へ四角い弾幕を放つ。
針状の弾幕と違い速度こそないが、目標を執拗に追い立てて一人、また一人と撃墜スコアを伸ばしていく。
ジリ貧になりつつも何度も交差を重ね、シルフはすでに7人へと人数を減らしていた。
シルフ1にも激しい焦りと疲れが見え、部隊の士気も限界に達していることは明白であった。
「……これから私が突貫する。シルフ3、おまえが残った者をまとめて咲夜様の下へ行け」
被弾を免れていた右腕に部下を任せ、自分が囮となる――その考えを汲んだシルフ3は黙って頷き、残りをまとめて撤退姿勢を取った。
「御武運を」という最後の言葉を受け取り、目の前の敵対者に集中する。
霊夢はその様子を興味なさ気に見ていたが、シルフ1が目の前に来ると面倒そうに戦闘態勢を取った。
勝負は一瞬で決まる――そう確信したシルフ1は高速で飛び回り、霊夢を攪乱する戦法にでた。
対する霊夢はついていけないのか付き合うつもりがないのか、最低限の動きで攻撃を避けつつホーミングアミュレットを発射して牽制をする。
互いに決め手に欠ける弾幕戦を続け、徐々に消耗していく。
十分時間を稼いだ――シルフ1は高度を取り霊夢に向けて大玉を放ち、それを直撃させずに大玉同士をぶつけ爆発させた。
驚いた霊夢はたじろぎ、一瞬の隙を作ってしまう――それを見逃すシルフ1ではなかった。
「せめて、刺し違える……!」
まさしく集中砲火というクナイ弾を放ちつつ突貫してくるシルフ1とそれを迎え撃つホーミングアミュレット。
巻き起こる大爆発の後に残るのは深手を負い落下する霊夢――そして、片翼を失い落下するシルフ1であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「と、まぁこんな感じですかねー」
熱演とも言えるほどに激しい身振り手振りで話をしていたメイド妖精があっけらかんと締めくくり、せんべいをぽりぽりと齧りだす。
「な、なるほど……そんな伝説があるのですね」
対する稗田阿求は何とも言えないような苦笑いを浮かべつつ、すっかり冷めてしまった茶を一口すすった。
幻想郷縁起を充実させるために何か手はないか――そう考えた阿求は先の異変である紅霧異変をよく知るであろうメイド妖精が人里を歩いているのを目にし、家まで招待した次第である。
さて、それで聞くことができた情報というのがまた「伝説のメイド妖精」という眉唾物であったのだから苦笑するしかない。
(あの霊夢さんが負けるとは思えませんが……しかし、何か活かせないものでしょうか。細部を改変して子ども用の本や演劇の材料に――)
物思いにふける阿求とそれを見てきょとんとするメイド妖精――どこぞの新聞記者でもいれば珍しい写真が撮れたであろうが、幸か不幸か奇妙で静かな時が流れただけだった。
阿求はハッと我に返り、自分が見つめられていることに気づくと恥ずかしそうに笑いながら新しい茶菓子を勧めた。
喜んで茶菓子を頬張る相手に質問をいくつか重ね、自分なりに納得できるところまで話を聞き出した阿求は「また話を聞かせてくださいね」と言いつつメイド妖精を見送った。
「さて、どういうお話にしましょうか……ふふっ、楽しみです」
鼻歌を歌いつつ執筆する様子は外見相応の少女のようであったとは、これを覗き見していた紫の談であった。
最後までシルフ1のノリでいって欲しかったです、これはこれでオチがあって良かったのですが、個人的にはちょっと残念
例えば、霊夢と語り手妖精が人里ですれ違って「あ、シルフ1だ」とか。
「今日はシルフ1の一回休みが解ける日」とか。折角掌編ならもう一ひねり欲しかったです。
でもここまで脳内妄想で楽しんでしまったのでこの点数で。
物語のオチをうまくつけるのは難しいですね……少しずつでも精進していきたいです。
紅だけでなく他作品ver.も読んでみたいと思ったけど、難しいか···
自機を落とせばそれはもう鼻高々でしょうなぁ。
しかし現実のシューティングではザコ妖精に被弾することなどしばしば……