「こころちゃーん」
「うわッ!」
驚いた声だが、秦こころの表情筋はまったく動いていない。
たとえ、後ろから突然抱き着かれようと、まったくだ。
しかし、それは驚いていないわけではなく、むしろ、人並以上に驚いていた。
胸のあたりに手を当てて、深呼吸している。まったくの無表情で。
それから、おもむろに怒りのお面をつけて、こころは怒った。
「ふざけるな。こいし」
「ふざけてないですけど、なにか?」
「突然、抱き着いてくるやつがあるか」
「なにか問題でも?」
「おおありだ」
「具体的には?」
「具体的には、驚かされると私が驚く」
「まあそりゃそうだね。でもよく考えてみて、こころちゃんが驚いても私はまったく困らないわ」
「それは迷惑というものだぞ」
今度は狐のお面をかぶって、ちょっとシリアスモードらしい。
こいしは楽しくなった。
そう【楽しい】のだ。
普段のこいしは自身の感情どころか、自分が何を思っているかすら正確には認識できていない。(そもそも自分の心を正確に認識できる存在なんて誰ひとりいないだろうけど)
けれど、こころのそばにいると、なんとなく感情の揺れ幅が大きくなる。
それはこいしにとって忘れていた何かを思い出させるようで、うれしい反面こわくもあり……、
うーん、なんといえばいいか、お家のテレビデオで怖いお話を見ていると、指の隙間から覗いちゃうことってあるじゃない。
それに近い感じ?
「あのね?」とこいしは微笑を浮かべて語りかける。
「なによぉ……」
ムスっとした表情のお面。
「こころちゃんって、仮面つけると感情が変わるよね?」
「そうだけど?」
平静をつかさどるお面につけかえる。
「じゃあさ。たとえば怒ってるときに無理やり哀しいお面をつけるとどうなるの?」
「やめてください。死んでしまいます」
下手にでているようだ。
「これなーんだ?」
「は、それは喜びのお面」
つけているのは驚きのお面だ。
「いまのこころちゃんは外形的に観察する限り、驚きと困惑と怒りが、それぞれ23パーセントと、29パーセントと12パーセントほど混ざってるね」
「足りないじゃないか」
「細かいことは気にしない。私が今もっとも気になっているのは、この状態で無理やり喜びの仮面をかぶったらどうなるのかってことだけど」
「感情が変化するだけよ」
泣き顔お面。
「哀しいのに喜んじゃうの? 興味深いわ。ぜひ見せてください」
「なぜ敬語」
「育ちがいいものですから」
おほほと笑い、こいしは無理やりこころに仮面をつけようとする。
当然のことながら、無意識パワーでリミッターをはずした、妖怪でさえも手こずる力だ。
生まれたての妖怪であるこころでは抵抗しようもない。
暴れるこころ。
あくまで楽しそうなこいし。
「やーめーてー。私、哀しい。私、哀しいー」
「問題ない。そんなものはすぐに消え去る」
音もなく喜びの仮面は、こころの顔にすっぽりとはまった。
普段であれば、半分素顔が覗く状態なのであるが、いまは仮面にすべての顔が隠れてしまっている状態だ。
一見するとフリーズしたパソコンのように、手を仮面のほうにもっていっている状態で固まっている。
「ん? どうしたの?」
「んー。今の私、確かに喜んでるんだけど、なんか違う気がするわ」
「ふぅん? 喜びのお面だよ。喜んでないの?」
「喜んではいる……よ?」
困惑のお面にゆっくりとした動作でつけかえ、それでもまだ納得しきれていないようだった。
「なんだ。仮面が本体だと思ってたのに。拍子抜けだわ。表紙のない本みたい」
「私は付喪神なのよ。仮面がなくなったら私じゃなくなるわ」
「ふぅん? じゃあさ。仮面をひとつずつとっていったら、いつかはこころちゃんはこころちゃんじゃなくなるの?」
「わからない。でも今度は本当にやめてね。一個とか二個とかだったらまだしも、たくさんとられちゃうと暴走どころじゃなくなっちゃう」
「しかたないなー」
微笑を浮かべながらもこいしはおとなしい。
こころの方はドキドキしている。
「こわかった?」
「いいえ、ぜんぜんこわくないわ」
「恐怖のお面つけてるけど」
「こわくないのッ!」
「恥ずかしがってるお面つけてるけど」
さて、茶屋での一風景だったわけだが、こいしはお寺の屋根の上あたりで休みつつ、どこかで計算している。
べつにこころを害そうとか、消滅させてしまおうというような気配はない。
そう、無意識の挙動を自身でコントロールしようとすると、それはあくまでもまとわりつくような気配としかいえないようなものになる。
いまの無意識はおとなしそうだ。
こんなにも見られているのに。
こんなにも認識されているのに。
どうしてだろう。
どうして、こんなにも関わり合いたいのだろう。
恋?
恋しちゃってる?
こころちゃんに?
そう、なのだろうか?
正直なところ、その計算はエラーがでてしまい、うまく処理ができない。
恋は暴走するものだから。
「えへへ。楽しかったなぁ……」
いや、ある程度時間が経過してしまえば、
そして、ある程度距離が開いてしまえば、
その言葉は虚偽になる。
こいしには感情と呼ばれるペルソナをつけるための土台がない。
はっきり言おう。
こいしには顔がない。
感情というソフトウェアは入っているものの、肝心のOSが入っていないパソコンのようなものである。
だから、楽しかったふりをしている。
どうして?
システムに従って。すなわち、自動的に選択された行動パターンとして。
たぶん、お姉ちゃんがそうしなさいって言うから。
つまるところ、姉の顔をたてている。
そんなこいしはちゃんと存在しているわけだ。
すべての心を持つとされる存在は――きっと、完全に顔を捨て去ることはできないのだろう。
こいしのOSは機能不全レベル。
お寺で三時間くらい正座していた後の、しびれてしまった足のようなもの。
きっと、いつかはしびれもとれる。
「それが希望というものだわ」
「いきなりすぎて脈絡がわからないのだけど」
こいしの意識からすれば場面が飛んで、なぜか目の前にこころがいたので、
そんなことを言ってみたのだけれども、当然、こころからすれば、なんのことやらわからない。
わかろうとする気もない。
たじたじの仮面だ。
「こころちゃんって、もしも仮面を全部どこかに持っていったら、その躰はどうなるの? 顔無しのアンパンマン状態?」
「まーた。ヤバそうなこと考えてる。ヤバいよー。ヤバいよー」
「こころちゃんってサトラレみたい。仮面で何考えてるからもろばれだもん」
「うう、幻想郷は危険がいっぱいです」
「ねーねー、仮面を全部どこかにもっていったらどうなるの?」
「知らない。だってそんな状況になったことないし。もしも、戻らなかったら、消滅――」
「消えちゃう?」
「いや、考えたくもない。だいたいそんなことになったことはないの。私はわりと強いし」
「でも、もしも仮面が全部なくなっちゃったら、ようやく素面状態になるんじゃないの?」
「常時酔っ払いみたいにゆーな!」
「私はこころちゃんの素面状態みたいなー」
「おのれ、こめいじ」
「ヒャッハー。こころちゃんは凌辱だー」
感情というソフトウェアを多重起動させているこころ。
そして、感情どころか心さえも短絡してしまえるこいし。
経路の少なさから考えてもわかるとおり、こいしが本気になれば、すべてが反射のスピードである。
あっという間に仮面ははぎとられ、あれよあれよという間に数が少なくなっていく。
「あといっちまい。あといっちまい」
「やめてくだしあ」
本体といってよいのかわからないが、生身の肉体のほうも、いつもの無表情が剥がれて、ちょっと半泣き状態である。
「無表情キャラが壊れちゃってるね」
「鬼、悪魔」
「鬼でも悪魔でもないわ。ただの一匹妖怪よ。そして幻想郷は残酷なジャクニクキョーショクの世界なのであった!」
どや顔のこいしである。
「最後に残ったのは希望のお面。まさに私にとっての最後の希望だわ」
こころの手元に残ったのは、希望のお面だった。
「その仮面だけはとられたくないって、素面のこころちゃんは考えてるね」
「当然じゃない。この仮面は私のアイデンティティなの! 返して!」
「怒りのお面をつけてないのに怒っている」
誰が怒っている?
喜怒哀楽のすべての感情を司っているのはどこの誰?
こいしは無意識にその場を飛びのいた。
今までで一番距離を詰められた。
ちょっとだけドキドキした。恋の音だと思った。
「どうしてこんないやがらせするの。私のことが嫌いなの? それとも私からお面を全部奪う気?」
「そんなんじゃないよ。ただ単に――」
みたかったのだ。
こころの心の源泉を。
あらゆる感情の始まりを。
心が生まれる瞬間を!
こ こ ろ し て や る !
といった次第で、こいしはこころに首を絞められていた。
何度も何度もエミュレートしていたし、実現可能性は98パーセントと超高確率であったが、
実際に見てみなければ納得できなかった。
心の一番始まりにあるのは【殺意】だって、気づいたのはいつごろだろう。
おそらく自分の中に殺意がまったくなくなっていると気づいてからじゃないだろうか。
こいしは慌てた。
だって、あるはずのものが無いのだから、慌てるのは当然だ。
あら、ま。
どうしましょうという感じ。
せっかくおいしそうな料理ができているのに、なぜかスプーンも箸もないような、そんな気持ちになった気がした。
だから、時々行為としてだけでも補完しようとする。
つまりは、無意識に殺してしまおうとするわけですが、ご納得いただけましたでしょうか?
仮面はパラパラと地面に落ちた。
こいしは澄み切った眼でこころを見つめていた。
こころの表情を解析することはこいしには不可能だった。
なぜなら、先にも述べたとおり、こいしは本質的には殺意というものが無いので、判断不可能なのだ。
まあ本気で殺しにきていることくらいはわかるが。
ともかく、このままだと生命活動に支障をきたすので、こいしはポンポンと首を絞めている腕を軽く叩いた。
死にそうなくらい苦しかったが、それは肉体的なレベルであって、精神的にはなんら問題がない。
むしろ、結果が予想したとおりだったから、【嬉しい】に相当するはずである。
「死ぬかと思った」
「……なんで?」
「ん?」
「なんで、仮面をとろうとするの。違うな……、なんで私に殺されようとする」
「殺されようとしたわけじゃないよ。ただ、見れば真似できるかなって思って」
「感情の真似?」
「違うよ。こころちゃんの生み方!」
「またわけのわからないことを」
「あ、恥ずかしいお面」
「なにかつけちゃいけないお面をつけてるみたいじゃない」
「でも、私にだって希望はあるもの」
「その仮面はもう無意味かもしれないよ」
「私の場合は、感情よりもっと前の段階だから、もともと仮面なんてどうでもよいのであった」
「どうでもいいなら、あのとき返してよ」
「あ、もうこんな時間かー。お姉ちゃんが待ってるからそろそろ帰るね?」
「また唐突なのね……。もういいわ好きにして」
「好きにするよ。だって好きだもん」
結局のところ、古明地こいしは諦めていないということなのである。
こいしは綿菓子のようにふわりと飛び上がり、いつものように微笑を浮かべて、
先ほどの殺意など何事もなかったように軽く手を振った。
こころは困惑とどうしようもないような、そんな表情を浮かべて、それから手を振りかえした。
こいしは家路につく。
いつか生まれることをこころして。
「うわッ!」
驚いた声だが、秦こころの表情筋はまったく動いていない。
たとえ、後ろから突然抱き着かれようと、まったくだ。
しかし、それは驚いていないわけではなく、むしろ、人並以上に驚いていた。
胸のあたりに手を当てて、深呼吸している。まったくの無表情で。
それから、おもむろに怒りのお面をつけて、こころは怒った。
「ふざけるな。こいし」
「ふざけてないですけど、なにか?」
「突然、抱き着いてくるやつがあるか」
「なにか問題でも?」
「おおありだ」
「具体的には?」
「具体的には、驚かされると私が驚く」
「まあそりゃそうだね。でもよく考えてみて、こころちゃんが驚いても私はまったく困らないわ」
「それは迷惑というものだぞ」
今度は狐のお面をかぶって、ちょっとシリアスモードらしい。
こいしは楽しくなった。
そう【楽しい】のだ。
普段のこいしは自身の感情どころか、自分が何を思っているかすら正確には認識できていない。(そもそも自分の心を正確に認識できる存在なんて誰ひとりいないだろうけど)
けれど、こころのそばにいると、なんとなく感情の揺れ幅が大きくなる。
それはこいしにとって忘れていた何かを思い出させるようで、うれしい反面こわくもあり……、
うーん、なんといえばいいか、お家のテレビデオで怖いお話を見ていると、指の隙間から覗いちゃうことってあるじゃない。
それに近い感じ?
「あのね?」とこいしは微笑を浮かべて語りかける。
「なによぉ……」
ムスっとした表情のお面。
「こころちゃんって、仮面つけると感情が変わるよね?」
「そうだけど?」
平静をつかさどるお面につけかえる。
「じゃあさ。たとえば怒ってるときに無理やり哀しいお面をつけるとどうなるの?」
「やめてください。死んでしまいます」
下手にでているようだ。
「これなーんだ?」
「は、それは喜びのお面」
つけているのは驚きのお面だ。
「いまのこころちゃんは外形的に観察する限り、驚きと困惑と怒りが、それぞれ23パーセントと、29パーセントと12パーセントほど混ざってるね」
「足りないじゃないか」
「細かいことは気にしない。私が今もっとも気になっているのは、この状態で無理やり喜びの仮面をかぶったらどうなるのかってことだけど」
「感情が変化するだけよ」
泣き顔お面。
「哀しいのに喜んじゃうの? 興味深いわ。ぜひ見せてください」
「なぜ敬語」
「育ちがいいものですから」
おほほと笑い、こいしは無理やりこころに仮面をつけようとする。
当然のことながら、無意識パワーでリミッターをはずした、妖怪でさえも手こずる力だ。
生まれたての妖怪であるこころでは抵抗しようもない。
暴れるこころ。
あくまで楽しそうなこいし。
「やーめーてー。私、哀しい。私、哀しいー」
「問題ない。そんなものはすぐに消え去る」
音もなく喜びの仮面は、こころの顔にすっぽりとはまった。
普段であれば、半分素顔が覗く状態なのであるが、いまは仮面にすべての顔が隠れてしまっている状態だ。
一見するとフリーズしたパソコンのように、手を仮面のほうにもっていっている状態で固まっている。
「ん? どうしたの?」
「んー。今の私、確かに喜んでるんだけど、なんか違う気がするわ」
「ふぅん? 喜びのお面だよ。喜んでないの?」
「喜んではいる……よ?」
困惑のお面にゆっくりとした動作でつけかえ、それでもまだ納得しきれていないようだった。
「なんだ。仮面が本体だと思ってたのに。拍子抜けだわ。表紙のない本みたい」
「私は付喪神なのよ。仮面がなくなったら私じゃなくなるわ」
「ふぅん? じゃあさ。仮面をひとつずつとっていったら、いつかはこころちゃんはこころちゃんじゃなくなるの?」
「わからない。でも今度は本当にやめてね。一個とか二個とかだったらまだしも、たくさんとられちゃうと暴走どころじゃなくなっちゃう」
「しかたないなー」
微笑を浮かべながらもこいしはおとなしい。
こころの方はドキドキしている。
「こわかった?」
「いいえ、ぜんぜんこわくないわ」
「恐怖のお面つけてるけど」
「こわくないのッ!」
「恥ずかしがってるお面つけてるけど」
さて、茶屋での一風景だったわけだが、こいしはお寺の屋根の上あたりで休みつつ、どこかで計算している。
べつにこころを害そうとか、消滅させてしまおうというような気配はない。
そう、無意識の挙動を自身でコントロールしようとすると、それはあくまでもまとわりつくような気配としかいえないようなものになる。
いまの無意識はおとなしそうだ。
こんなにも見られているのに。
こんなにも認識されているのに。
どうしてだろう。
どうして、こんなにも関わり合いたいのだろう。
恋?
恋しちゃってる?
こころちゃんに?
そう、なのだろうか?
正直なところ、その計算はエラーがでてしまい、うまく処理ができない。
恋は暴走するものだから。
「えへへ。楽しかったなぁ……」
いや、ある程度時間が経過してしまえば、
そして、ある程度距離が開いてしまえば、
その言葉は虚偽になる。
こいしには感情と呼ばれるペルソナをつけるための土台がない。
はっきり言おう。
こいしには顔がない。
感情というソフトウェアは入っているものの、肝心のOSが入っていないパソコンのようなものである。
だから、楽しかったふりをしている。
どうして?
システムに従って。すなわち、自動的に選択された行動パターンとして。
たぶん、お姉ちゃんがそうしなさいって言うから。
つまるところ、姉の顔をたてている。
そんなこいしはちゃんと存在しているわけだ。
すべての心を持つとされる存在は――きっと、完全に顔を捨て去ることはできないのだろう。
こいしのOSは機能不全レベル。
お寺で三時間くらい正座していた後の、しびれてしまった足のようなもの。
きっと、いつかはしびれもとれる。
「それが希望というものだわ」
「いきなりすぎて脈絡がわからないのだけど」
こいしの意識からすれば場面が飛んで、なぜか目の前にこころがいたので、
そんなことを言ってみたのだけれども、当然、こころからすれば、なんのことやらわからない。
わかろうとする気もない。
たじたじの仮面だ。
「こころちゃんって、もしも仮面を全部どこかに持っていったら、その躰はどうなるの? 顔無しのアンパンマン状態?」
「まーた。ヤバそうなこと考えてる。ヤバいよー。ヤバいよー」
「こころちゃんってサトラレみたい。仮面で何考えてるからもろばれだもん」
「うう、幻想郷は危険がいっぱいです」
「ねーねー、仮面を全部どこかにもっていったらどうなるの?」
「知らない。だってそんな状況になったことないし。もしも、戻らなかったら、消滅――」
「消えちゃう?」
「いや、考えたくもない。だいたいそんなことになったことはないの。私はわりと強いし」
「でも、もしも仮面が全部なくなっちゃったら、ようやく素面状態になるんじゃないの?」
「常時酔っ払いみたいにゆーな!」
「私はこころちゃんの素面状態みたいなー」
「おのれ、こめいじ」
「ヒャッハー。こころちゃんは凌辱だー」
感情というソフトウェアを多重起動させているこころ。
そして、感情どころか心さえも短絡してしまえるこいし。
経路の少なさから考えてもわかるとおり、こいしが本気になれば、すべてが反射のスピードである。
あっという間に仮面ははぎとられ、あれよあれよという間に数が少なくなっていく。
「あといっちまい。あといっちまい」
「やめてくだしあ」
本体といってよいのかわからないが、生身の肉体のほうも、いつもの無表情が剥がれて、ちょっと半泣き状態である。
「無表情キャラが壊れちゃってるね」
「鬼、悪魔」
「鬼でも悪魔でもないわ。ただの一匹妖怪よ。そして幻想郷は残酷なジャクニクキョーショクの世界なのであった!」
どや顔のこいしである。
「最後に残ったのは希望のお面。まさに私にとっての最後の希望だわ」
こころの手元に残ったのは、希望のお面だった。
「その仮面だけはとられたくないって、素面のこころちゃんは考えてるね」
「当然じゃない。この仮面は私のアイデンティティなの! 返して!」
「怒りのお面をつけてないのに怒っている」
誰が怒っている?
喜怒哀楽のすべての感情を司っているのはどこの誰?
こいしは無意識にその場を飛びのいた。
今までで一番距離を詰められた。
ちょっとだけドキドキした。恋の音だと思った。
「どうしてこんないやがらせするの。私のことが嫌いなの? それとも私からお面を全部奪う気?」
「そんなんじゃないよ。ただ単に――」
みたかったのだ。
こころの心の源泉を。
あらゆる感情の始まりを。
心が生まれる瞬間を!
こ こ ろ し て や る !
といった次第で、こいしはこころに首を絞められていた。
何度も何度もエミュレートしていたし、実現可能性は98パーセントと超高確率であったが、
実際に見てみなければ納得できなかった。
心の一番始まりにあるのは【殺意】だって、気づいたのはいつごろだろう。
おそらく自分の中に殺意がまったくなくなっていると気づいてからじゃないだろうか。
こいしは慌てた。
だって、あるはずのものが無いのだから、慌てるのは当然だ。
あら、ま。
どうしましょうという感じ。
せっかくおいしそうな料理ができているのに、なぜかスプーンも箸もないような、そんな気持ちになった気がした。
だから、時々行為としてだけでも補完しようとする。
つまりは、無意識に殺してしまおうとするわけですが、ご納得いただけましたでしょうか?
仮面はパラパラと地面に落ちた。
こいしは澄み切った眼でこころを見つめていた。
こころの表情を解析することはこいしには不可能だった。
なぜなら、先にも述べたとおり、こいしは本質的には殺意というものが無いので、判断不可能なのだ。
まあ本気で殺しにきていることくらいはわかるが。
ともかく、このままだと生命活動に支障をきたすので、こいしはポンポンと首を絞めている腕を軽く叩いた。
死にそうなくらい苦しかったが、それは肉体的なレベルであって、精神的にはなんら問題がない。
むしろ、結果が予想したとおりだったから、【嬉しい】に相当するはずである。
「死ぬかと思った」
「……なんで?」
「ん?」
「なんで、仮面をとろうとするの。違うな……、なんで私に殺されようとする」
「殺されようとしたわけじゃないよ。ただ、見れば真似できるかなって思って」
「感情の真似?」
「違うよ。こころちゃんの生み方!」
「またわけのわからないことを」
「あ、恥ずかしいお面」
「なにかつけちゃいけないお面をつけてるみたいじゃない」
「でも、私にだって希望はあるもの」
「その仮面はもう無意味かもしれないよ」
「私の場合は、感情よりもっと前の段階だから、もともと仮面なんてどうでもよいのであった」
「どうでもいいなら、あのとき返してよ」
「あ、もうこんな時間かー。お姉ちゃんが待ってるからそろそろ帰るね?」
「また唐突なのね……。もういいわ好きにして」
「好きにするよ。だって好きだもん」
結局のところ、古明地こいしは諦めていないということなのである。
こいしは綿菓子のようにふわりと飛び上がり、いつものように微笑を浮かべて、
先ほどの殺意など何事もなかったように軽く手を振った。
こころは困惑とどうしようもないような、そんな表情を浮かべて、それから手を振りかえした。
こいしは家路につく。
いつか生まれることをこころして。
こいしのカリスマが半端なかったですが、2人ともかわいかったので良かったです。
こいしかわいい。こころかわいい。ふたりともかわいい。
ほんと、可愛らしいです。
こころについてはまだあんまり知っていることが少ないので、コメントしません。
でも可愛いことは私にもわかります。
充分楽しめた作品でした。
こころは人気キャラになりそうな予感です。
こいしちゃんも凄い可愛い。
こ こ ろ し て や る !
惹きつけられる何かがあるなぁ…
も
そんなこいしちゃんは存在しているわけだ。
に見えたのでこいしちゃんは存在している! やったぜ!
こ こ ろ し て や る!