■第7話
■第6話
■第5話
■第4話
■第3話
■第2話
■第1話
それは、たぶん私の一番古い記憶。今でもよく、思い出す。
どことも知れない森の中。幼い私を、真っ黒い獣が取り囲んでいる記憶。
私は彼らに追い回され、痛めつけられ、何がなんだかわからないまま、逃げることすら考えられないくらい、怖くて、痛くて、声も上げずに泣いている。
声をあげていなかったのは、助けを呼ぼうなんて気持ちがなかったから。悔しくて泣いていたのだ。もう、私はこの獣たちに食べられてしまうんだな。そう思って泣いていた。
彼女の声を聴いたのは、その時が初めてで。
「こらこらこらぁ、なにやってんのぉ」
のんびりとした声が、やけに暖かく感じたのを、強烈に覚えている。
嗚咽を飲み込み、見上げた視界に突然入ってきた、影。
彼らと私の間にいきなり現れた、大きな体と、背中。そこから聞こえてきた、暖かい声。視界に飛び込む、燃える様な、赤い髪。
獣の恐怖よりも、傷の痛みよりも。何よりも覚えているのは、その声と、背中。
「だいじょうぶ?おちびさんっ」
振り返る顔は、飛び切りの笑顔。闇に煌めく青い瞳に、ちょっと尖った妖怪の犬歯。
それが私を拾ってくれた、妖怪。紅美鈴という妖怪の記憶。‥‥私の一番最初の、記憶。
その後のことは、よく覚えていない。ありきたりな台詞だけど、本当に覚えていない。気が付けば、私は彼女に抱っこされて、森の中を運ばれていた。「クサいねえ」と言われて、わんこみたいに頭をくしゃくしゃ撫でられてたことだけ覚えてる。
いま、私の目の前には美鈴がいる。ドラゴンに立ちはだかる、赤い髪と青い瞳と大きな体が見える。
ああ、似てるなぁ。今の、この光景。
また、助けられちゃったなぁ。私。
悔しいなぁ。
*****************
『無事ですかっ!咲夜さんっ!‥‥って、ワイルドな格好になりましたねぇ!かっこいい!』
『これであなたとお揃いかしら。っとに、いい場面で来るわね、美鈴!』
『冒険活劇で見せ場の一つくらいつくれなきゃ、ヒロインの相棒なんて勤まりませんよっ!』
『なによそれ』
「すごい、喋ってる‥‥!」
ドラゴンと会話する私に感激するハタテをよそに、美鈴は風を唸らせ空から舞い降りると、私達と、飛竜との間に割り込む。
「う゛あー‥‥」
「『れみりあっ!?』」
そして背中の“荷物”に気が付く私達。美鈴の胴体にロープでくくりつけられ、完全グロッキーな様子の彼女に。
顔中涙と鼻水でどろぐちゃ、髪はぼっさぼさ、服はぐしゃぐしゃというヒドイ有様。それでも彼女は、健気に目を開けると、何事か話しかけてきた。
「あ゛、ああおお。おおお」
「な、なななな何事っ!?れみりあちゃん、なんでっ!?」
ハタテが私の背から降りて慌てて駆け寄ってゆく。れみりあはハタテの顔を見ると、震える手で何かを差し出した。
「あ‥‥ああ、あ、お、おねーちゃんが、サクヤねー様たちに、こ、ここ、これ、もっていって、って」
「えっ」
力なく彼女の手から落ちたそれを、ハタテが慌てて拾いに行く。ほどなくして、彼女の「替えの弓矢だっ!」という嬉しそうな声が聞こえてきた。れみりあは見た目はヒドイけど、命に別状はなさそう。そんな匂いがする。一つ安心した私は、美鈴の背中に声をかけた。がうがう、と。
『よく、わかったわね。こういう事になってるって』
『ひどい胸騒ぎがしましてね。居てもたっても居られなくなりました。来てみたら案の定ですよ。予感的中です。ドラゴンて、第六感とか強いんでしょうかね?』
『さあ?愛の力じゃない?』
『‥‥いきなり何言いだすんですか』
『安心したら気が抜けたのよ』
『ガラじゃないですねえ』
『そうね』
飛竜から目をはなさず、背中で美鈴がツッコんでくる。今にも嬉しくてきゃんきゃん言いそうになる気持ちを抑え、私は何でもないように言う。声色はごまかせたかな。でも最初に見られた時にバレバレだろう。私の尻尾はさっきから大回転してるから。
本気で、嬉しかったんだからね。来てくれて。
『それにしても、用意良かったわね。ちょうどハタテの矢も切れたとこだったわ』
『ユウカさんが、色々と気を使ってくれましてね。‥‥アイツですか。咲夜さんをいじめる悪いドラゴンは』
『そうよ』
美鈴の視界の先では、飛竜が大きく羽ばたきながら、こちらの様子を伺っていた。怒りに顔をゆがめ、口の端から光を漏らして空気を焦がしながら。
“彼女”の両目は、見た限り無事だ。ハタテの矢は一体どこにあたったんだろう。顔の周りには、それらしき傷は見えない。
『なんだペチャクチャ駄弁って。おまえ、見かけないドラゴンだな。どこから来た』
『しらないねっ。おまえだな?咲夜さんをいじめてるのは』
『いじめる?さくや?‥‥ああ、おまえ、その狼のドラゴンなのか』
美鈴とマリサがにらみ合う。私には言葉が分かるけど、きっと周りには怪獣同士が吠えているようにしか聞こえてないのだろう。ハタテがレミリアを抱きかかえながら、緊張した表情でドラゴンたちのやり取りを聞いている。
『咲夜さん。あいつ、何者です?』
『魔理沙』
『へ?』
『アイツが抱えてる蜘蛛女がアリス。アリスが、魔理沙のドラゴンライダー』
『‥‥』
『わたしを殺しに来た賞金稼ぎ。そういう役』
『はあ、それは、また。‥‥ふーん。魔理沙ですか。どこかで見たことある攻撃と喋り方だと思ったら』
『本人じゃないからね?そっくりさんよ』
『それはわかります』
『何を言ってる』
飛竜がばさりと羽ばたき、すこし高度を上げる。私達を見下ろす位置に。美鈴は、動かない。
『ふん、まあいい。お前ら、みんな燃やしてやればいいんだ。ご主人様を、ありすをひどい目に合わせたんだからな!ころしてやる!ころしてやる!』
『おや、一途なコだねえ。咲夜さん、みんなを私の後ろに』
美鈴が吠える。私に促され、ハタテが、新しい弓矢を持ち、私の元へ駆け寄る。
逃げるそぶりもなく飛竜を睨み付け立ち向かう美鈴。その姿は凄く頼もしい。しかしあの光を間近に受けた私は、どうしても不安に思わずにいられなかった。
『ね、ねえ、大丈夫なの?あいつの“マスタースパーク”、すごいわよ?』
『さっきのやつですよね。大丈夫。咲夜さんたちは私が守りますよ』
『どうやって?』
『門番ですから』
『会話にも答えになってない!』
吼える私。のんびりと、自信満々に言い放つ美鈴。一瞬、その後ろ姿が、妖怪の姿に戻ったように見えた。
紅魔館の前に立つ、門番の。紅美鈴の姿に。
『死ねっ!』
飛竜の口が、大きく開く!美鈴の全身の鱗が、ざわめいた!
『死んでやるもんかね!』
飛竜が光を吐き出す。美鈴が、短い腕を伸ばし、あろうことか手のひらでそれを受け止めた!
ぼっ!
『美鈴っ!』
小さな爆発音。すぐにそれをかき消すぐらいの轟音が満ちる。一瞬で、閃光が、視界を埋め尽くす!美鈴の影が、光に呑みこまれる!轟音と強烈な光に、何もかも塗りつぶされる!
熱い!こんなの、絶対に――――!
『――――極彩「彩光乱舞」』
光の向こうから声がする。 やけに落ち着いたその声は、光に焼かれて震える空気にかき消されることなく、私の耳に届いた。
突如、美鈴の正面に虹色の渦が生まれる。それは最初に飛竜の光を防いだときのように、閃光を虹へと分解し、あらぬ方向に弾き飛ばしてゆく!
『!?』
『あはははははは!見たか!私の虹!』
飛竜が目を剥く。自分の閃光がまたも防がれた様子を目の当たりにして。そして“メイリン”は高らかに笑う。虹を広げたまま、恐ろしい牙の並ぶ、大きく裂けた口を開けて。
『“サクヤ”っ!』
『!』
その名前を呼ばれた瞬間、私の足が動いた。美鈴の背中に飛び掛かり、れみりあを繋ぐロープを切る。“ナイフを使って”!私は一瞬のうちに、ケモノの姿から人狼へと戻っていた。
狼になった時と同じく、ヒトガタに戻るのも頭で考えるよりも早く、あっさりとできた。ありがたいことに服は狼になる前のそのままで、裸ではなかった。やっぱり魔法なんだろうか。これは。
「ハタテ!れみりあをおねがい!」
「あ、あわっ」
完全に目を回しているれみりあをハタテに放り投げると私は代わりに美鈴の背に掴まる。彼女の前では、未だに虹が爆発していた。飛竜の閃光は衰えることなく私達を襲い続けている。
「お姉様!これ!」
「?」
ハタテが叫ぶ声にまた振りかえる。彼女は私に何かを放ってきた。あわてて掴んだそれは、紐で一括りにされた数本のナイフ。すべてベルト付の鞘に納められている。
「れみりあちゃんが持ってきてくれたんです!」
「ありがとう!れみりあ! 」
叫んでお礼を言う。れみりあがハタテの腕の中で、小さく笑うのが見えた。前を向く私に、美鈴が背中越しに話しかけてくる。
『あいつの、息が切れたら、ケンカを始めますよ!まずはアイツをこの村から引きはがしましょう!離れたとこでケンカしますよ。背水の陣は避けます!援護、お願いです!』
「了解!」
ナイフの鞘を体に括り付ける。合計三本。両足と、腰。れみりあの持ってきてくれたナイフは少し大振りのもの。ドラゴンを相手にするには、きっとこれくらい重い方が良い。
準備をしている間に、閃光はどんどん弱くなっていった。そして。
『――――っは!くそっ!』
『ははは!あはははは!ばてたな!息切れだ!どうだ!お前の光はみんな防いでやったぞ!』
『てめぇっ‥‥』
ついに閃光が止む。同時に、虹の壁も消えた。美鈴の虹は、飛竜の光を全く寄せ付けなかった。悔しそうな飛竜に、美鈴が得意げに笑う。しかし、彼女の背中も大きく波を打っている。力を出し続けたのか、呼吸が大きく、荒くなっている。彼女も消耗しているのだ。きっとこれは何回もできるようなことじゃない。次は危ないかもしれない。
『行くよ!“サクヤ”!』
「おう!」
美鈴の雄叫びに、私も吼える。これでアイツらを落とせなきゃ、次はない!
『でえい!』
『!』
美鈴、雄叫びと同時に前方に飛翔。飛竜は急上昇してあっさり躱す。美鈴は避けられるのも計算の内と言わんばかりにそのまま加速。私達は村の方角から飛竜に追い立てられていたので、メイリンが飛んでいく方向が村だ。美鈴は村の上空をかすめ、大きく弧を描きながら尾根を越え、森の方角へと私を乗せてすっ飛んで行く。真後ろに飛竜。ついてくる!
『サクヤ!アイツが光を吐いたら教えて!』
「OK!」
美鈴の喋り方は、“ドラゴンのメイリン”に変わっている。何回か見てるけどこの時のメイリンは、特に頭に血がのぼったりすると、なんというか、ケモノ丸出しになる。大声で笑って、残酷で、ちょっと頭悪くなる。
そんな彼女に“サクヤ”と呼ばれた私も、十六夜咲夜じゃなくて人狼のサクヤに切り替わる。どう変わるかは、美鈴と同じだ。馬鹿で、ケダモノで、残酷で。最近はずっと、そのままな気もするけど。
振り返った視界。緊張感に膨らむ私の尻尾の向こうで、飛竜の口に光があふれる。
来た!
「メイリンっ!」
『よしきた!』
私の声に一発吼えると、メイリンは尻尾を大きく回す。赤い毛がふさふさ揺れる尻尾の先になぞられて、夜空に小さな虹色の円が描かれる。虹はそのままメイリンから離れ、夜空に置き去りにされた。間髪入れず飛竜の細い閃光が夜空に走る。虹は閃光を受け止め、あらぬ方向に軌道を捻じ曲げまき散らす!
「当たった!」
『よし!』
漂う虹の輪は障害物にもなっている。メイリンが次々と空に置いて行く虹の輪っかのおかげで、まっすぐ飛べず、追いつけないでいる。これなら!
「いい感じ!」
『うん、いける!あとは何とかして殴り合いとしゃれ込みたいですね!』
「何とかって、え、策は?」
『ゴシュジンサマ宜しく!』
「おいっ!」
がふー、と鼻から息を吐いて、彼女はあろうことかウインクしてきた。ちょっと、なんで、どうして!
『わたしもう、考えるのめんどくさいんですっ!』
「な、なにいってんの?!」
『わはははは!マリサ!ここまで来てみろ!ばーか!』
「ちょっと!?」
かっっ!
「きゃあ!」
美鈴、いや、メイリンの挑発が聞こえたか、飛竜が少し太めの閃光を放つ。光は私達をかすめて夜空へ消えていく。ちょっと、ここで、ここまでリードしてくれてて、いきなりプッツンしないでくれる!?
「マリサーっ!上からねらえ!アイツの虹の輪は後ろにしか飛んでこないよ!高く飛んで、見下ろしなさい!」
うわっ、ありすが復活してる!?しぶとい奴!ハタテの矢に穴だらけにされたときもそうだったけど、回復するのが異様に早い!
『わかった!』
飛竜がその言葉に従い、高度を上げる。マリサは散々心配していた愛しのご主人が復活したのに無反応。はつらつと返事をして指示通り高度を上げている。意識がこっちへの怒りにしか向いていないのか。単にありすが怪我してたの忘れてるのか。もしかしてドラゴンて、みんなこうなの?馬鹿なの?
マリサはすでに位置についている。メイリンの虹の輪に邪魔されることもなく、悠々とこちらに狙いを定めている。
「アイツを逃がすな!光を細く長く吐いて、避けても追いかけなさい!」
『うん!』
蜘蛛女の指示とドラゴンの返事が聞こえる。あんなに大声で作戦喋って、何を考えてるんだか。いや、声が大きいんじゃない。私の狼の耳がすごくいいんだ。全部聞こえるんだ。
それに、あれを聞いたおかげで、ドラゴンライダーが何をしなきゃいけないのか、改めて分かった気がする。ああやってドラゴンを操って、指示して戦う。私も一回村でやった。ああいう感じにすればいい。大丈夫。できる。できるはず。メイリンがどんな技使えるのかあまり知らないのが痛いけど!虹を吐くのも尻尾で虹作れるのも、その他もろもろみんな美鈴がやってるの見て初めて分かったし!
美鈴はさっき何て言ってた!?殴り合い!?接近戦がしたい!?ああ、いつもの美鈴だ。龍になってもそっちが好きなんだ!でも今はアイツの攻撃をよけるのが先っ!
「あはははは!死ね!狼!」
蜘蛛女の高笑い!閃光が来る!尻尾の虹は真後ろにしか出せない。マリサは上からねらってる!下の森は燃えてない!なら!
「メイリン森に潜れ!」
『りょうかい!』
メイリンが頭を下げて急降下。体が浮き上がる。私は必死に彼女のたてがみにしがみつく。黒い森が迫る!
「尻尾で虹の輪っか!」
『おう!』
メイリンが虹の輪を作る。頭を下げた姿勢の美鈴の尻尾は、ちょうど飛竜に向く!そこで虹が作られる!
「んあ!」
ありすの驚く声。同時に放たれたマリサの閃光が、虹にぶち当たり、散らされる!その間に私達は、森の中へ!
『わはははははは!』
「ほ、吠えないでっ!」
その長い体を器用にうねらせ、滅茶苦茶なアクロバット飛行をして木々の中を飛んでいくメイリン。彼女にしがみつくので精いっぱいな私。興奮しているのか、メイリンのテンションは上がりっぱなし。せ、せっかく隠れたんだから、大声で笑うなっ!美鈴!聞こえちゃう!
とにかくこれで、アイツの目からは逃れられた。そう思ったけど、甘かった。突然、視界に入った一本の大木が、閃光と共に松明と化す!
撃たれた!見られてるっ!?見つかってるっ!?いや、違う!
「焼き払えっ!あぶり出せっ!」
――――ああああ!そう来るわよね!そうできるんだからね!あんたたちは!これだからっ!単純無理矢理で力押しな奴って嫌い!
ありすの声は空の一点からしか聞こえない。マリサは空中に止まってる!前方斜め上!
そっちがそう来るならこっちも無理矢理してやるだけだ!
「相手に突っ込む!メイリン空に出ろ!」
『はーい!』
暢気な返事と同時に、美鈴が急上昇。体と両足に掛かる強烈な重み。枝と木の葉をまき散らし、私達は森の上に出る!
「あはははは!イイザマね!」
蜘蛛女が笑う。狙い通り私達をあぶり出せたと思って。ふん。見てろ、驚け!
「死ねっ!ありす!」
耳障りな笑い声に叩きつけるように、私はわざと大声を出して懐のナイフを投げる!これはもったいないから最初に持ってきてた細い奴!
「はん、そんな小刀――――」
ありすの嘲るような声。マリサが、大きく口を開ける。ナイフごと私達を撃ちぬこうと!
かかったな!それが狙いよっ!
「メイリン!ナイフを撃て!」
『おう!』
美鈴が虹を吐く!ナイフに吸い込まれるように、閃光と虹が集まっていく!私は固く、目を閉じて――――
ぼっ!
「――――――!」
目蓋越しにも分かる、空で弾ける強烈な光の渦!美鈴の虹の吐息とマリサの閃光の吐息が真正面からぶつかった!――――いきなり虹だけ撃ったらマリサはきっと避けただろう。ならばと私は誘いをかけた。小さなナイフで。狙いは彼女達がナイフごと私達を撃つように仕向けること。奴の閃光をナイフに引き付けて確実に美鈴の虹を当てること!狙いは当たった!あとはっ!
「ぐあああああ!」
『ありすっ!』
弾けた光に目を焼かれた蜘蛛女の悲鳴。ドラゴンの悲痛な声。光はいまだに収まっていない。目を閉じたまま、耳を頼りに私は奴らの位置を把握する。
山なりの軌道で森から飛びあがった美鈴は、光が爆発した間も飛び続け、飛竜の上を取っている!今度はこっちが狩る側!
「メイリン落ちろ!獲物は下だ!飛び掛かれっ!」
『おおおおおお!』
『んなっ!』
飛竜がこちらを見上げて驚く。今頃私達の場所に気が付いたか!ご主人想いなのはいいけど、気を取られ過ぎ!間抜け!
『がふうるるるるうっ!』
『ぎゃああああああ!』
上から飛び掛かる美鈴を見上げた飛竜に、美鈴はのしかかるように絡み付く。両手で飛竜の腹を抑え、その喉元に噛み付き、胴体と尻尾を右の翼に絡ませ締め上げる!マリサはろくに身動きもとれず、振りほどけない。あおむけになった飛竜の羽ばたきが止まり、地面に向かって私達は落ち始める!
『痛い、いたいっ!やめろ!翼、翼がっ!』
「マリサっ!このっ!」
「あんたの相手は私だっ!」
激しく揺さぶられる美鈴の背の上で、私は美鈴に向かって糸を飛ばそうとした蜘蛛女に向かってナイフを投げつける。飛竜の背中にへばりついたままの蜘蛛女。うまく体勢の取れない彼女の左肩に、ナイフの刃が深々と突き刺さった。緑の体液が宙に舞う。
「があ、っ!女狼っ!」
「潰れろっ!」
森が迫る。燃える森が。爆ぜる火の粉が、私の頬をかすめる。美鈴は飛竜を捕まえたまま、まっすぐ地面に向かって突っ込んでいく。
このままでは私も美鈴も、彼女達ごと燃える火の中に突っ込む。でも私はなぜか心配していなかった。美鈴と一緒なら大丈夫。根拠もなく、そんな気がした。
『があああああっ!』
『いでっ!』
突然目の前で閃光がはじけ、美鈴がいきなり飛竜から離れて跳びあがった。体がたてがみに押し付けられる。炎に突っ込む瞬間、飛竜が閃光を吐いて暴れた。白い光が美鈴のヒゲをかすめたのが見えた。
あと少しだったのに!
「大丈夫!?美鈴!」
『ヒゲ痛い!ちょっとコゲた!』
煙を上げるヒゲの先をプルプル振りながら、涙声で美鈴が吠える。私は彼女の頭を撫でながら、眼下に飛竜を追う。燃える森に仰向けに突っ込む直前で、飛竜は翼を広げて水平に加速。一回バレルロールを打つと燃える木々の樹冠を吹き飛ばしながら空へと駆け上がる。その軌道は大きくゆるやかで、さっきよりも動きにキレがない。翼を傷めつけたのが効果あったか。羽ばたきが非常にゆっくり。
「相手は傷を負ったわ!今度は小細工なしで飛び掛かれる!」
『痛い、痛い』
「聞いてる!?」
『てめええらあああああああっ!』
「来るわよ!」
ぐるりと反転した飛竜が、こちらに向かって飛んでくる。マリサは消耗したのか閃光を撃ってこなかった。距離を取った今、好きなだけ撃ちまくれるチャンスだというのに。
美鈴は組み合うつもりでいる。鋭い爪を光らせ、アイツが飛び込んでくるのを待っている。飛竜もそうか。その凶悪な足を鷹のように前に突きだし、こちらに狙いを定めている。
美鈴が笑った。
『あははははは!ドラゴンになると、なんかみんなちょっぴり馬鹿になるみたいだねぇ!“マリサ”!わたしはもう興奮しっぱなしだよう!』
『わけわからん!お前の言うことは!』
『だろうねえ!』
ケラケラ笑うと、美鈴は深く息を吐いた。細められた青い目が、突っ込んでくるマリサを睨みつける。
『落ちないでねご主人様!激しくいくよ!』
「了解っ!」
美鈴の呼びかけに、私は彼女のたてがみに両腕を絡ませ、衝撃に備える。
そんなときだった。
どこからともなく、風に流れるような歌声が聞こえてきたのは。
―――――歌え あめつちに渡る風 天の恵みを今ここに
炎 渦巻く哀れな森に 光り輝く慈悲の手を――――――
なんだ、どこから!?って、これ、もしかして、呪文?
「咲夜さん!」
「!?」
突然美鈴が“メイリン”から美鈴にもどる。そして空を見上げて吠えた。
つられて空を見上げた私は、信じられないモノを見る。
つい先まで雲一つなかった空が、一瞬で渦巻く厚い雲に覆われた光景を!
がっっ!
「うわっ!」
「きゃあ!」
突然大気が衝撃と共に青緑色に染まる。美鈴も私も、悲鳴を上げて目を閉じた。すぐさま、私達を強烈な匂いが包み込む。‥‥雨に濡れた、森の匂いが!
「咲夜さん!火、火が!」
「え!?」
美鈴の慌てた声に目を開けば、さっきまで燃え盛っていた炎が、一瞬にして白い煙を上げて消えている!森の木々はつやつやとした水滴を纏い、まるで雨が降った後の様。見上げれば、空に広がっていた雲はひとかけらも残らず消えていて。なんだ、なんだ、これ――――
『どーですかっ!降らせる暇が惜しかったので、直接森に水を纏わせてみたんですが!うまく行きましたよ!」
「はいはいすごいすごい」
突然、声が二つ増えた。得意げな獣の声と、冷めた少女の声が。
「はーい、そこのドラゴンライダーのみなさーん。落ち着きましたかー?ケンカはそこまでですよーっ」
『!?』
「は?」
ぱんぱん、という手を打つ音と一緒に、少女の声が響いた。皆が一斉に、当たりを見渡すが、それらしき人物は見えない。
声の主は、私達の様子をどこで見ているのか、少しうれしそうな声色で言葉を続けてきた。
「はい、私の話を聞いてくださってありがとうございます。うん、ケンカはいけません。仲良くするのが一番ですよ」
「なんだ!馬鹿にしてる!?どこにいるのっ!出てこい!」
蜘蛛女がどなりながら辺りを見渡す。私も視界を探るが、声が聞こえてくる方向がなぜか動き続けていて出所が探れない。
声の主はのんびりとした口調で話しかけてきた。
「ふむ。お二人とも、この辺りではあまり見ない種類のドラゴンに乗ってますね。北国のワイバーンに、東国の虹龍ですね。どこかの傭兵ですか?違いますよね。そうだったらこんなバカ騒ぎなんかしませんからね」
『どこだ!どこにいる!』
「マリサ、あそこ!」
飛竜の背で、ありすが傍らの山を指さす。私もその指先を追った。美鈴はすでにその方向に声の主が居ることに気が付いていたようだ。身じろぎもせず、最初からその方向を睨み付けていた。
月に照らされた尾根の上に、声の主は居た。真っ白く光る、銀色の大木と、その上にまたがる、黒い影。‥‥大木?
声の主は見つけられたことを別に驚くこともなく、相変わらずの調子で話しかけてきた。
「あら、風を使って声を回り道させたんですけど、気づくの早いですねえ。見つかりましたか。優秀です。とくに、そこの“龍”、するどい!」
『‥‥』
そういうと、彼女は美鈴をまっすぐ睨み付けてきた。美鈴の背中がちょっと波打つ。
『ねえご主人様。あっさり気が付かれちゃいましたが、どうします?逃げますか?戦いますか?呪いますか?呪いませんか?呪いましょうよ。んでもって食べましょう!』
「は!?」
突然大木が喋った。とてつもなく不穏な内容で。た、食べる?ドラゴンを!?白い大木は呆気にとられる私達に向かって、ゆっくりとその鎌首をもたげ、赤い口を――――
『シャー』
って、蛇っ!?あれ、蛇っ!?
満月の月明かりに照らされ煌めいているのは、真っ白に輝く蛇の鱗!謎の女がまたがっているのは、ぶっとい胴体の白い蛇!
大蛇は赤い舌をチロチロと出し入れしながら、うっとりとした声を出す。
『ねえ、ほら、オイシソウですよ?とくにあの飛竜!モモとか胸とか、すっごくおいしそう!』
『ひ!?』
ぐるりと動いた紅い目。マリサがその目を見て小さな悲鳴を上げる。そんな彼女の様子に驚いたのはありすだ。
「な、何やってんの?あんなのに怖気づくんじゃないよ!マリサ!」
『だ、だって、アイツの目、こわい』
「は!?」
とろんとした蛇の目に睨まれた飛竜が、あろうことか怯えだした。あの魔理沙ドラゴンが怖がるって、あいつ。
『‥‥わたしもちょっと怖いです』
「ちょっと!?」
な、なんで美鈴まで?なんなの!?あの蛇は!
にわかに怯えだすドラゴンたち。蛇はその状況に気が付いているのかいないのか。舌をチロチロ見せながら、うっとりと喋り続ける。
『ああん、よだれ出ちゃいますねぇ。ほら、ご主人様もそう思いません?あのぷりぷりのふとももとか、そのままでも行けそうですけど、呪っていい感じに腐らせたらまたきっとすごくおいしいと思うんですよ。どうですか?そうでしょう?そうですよね!うえへへへあ痛っ』
「どアホ」
頭にまたがる女が、いきなり蛇の頭を踏みつけた。そのままぐりぐりと、かかとを鱗にねじ込んでいる。蛇はなぜか嬉しそうな様子で悲鳴を上げた。
『ひゃあん、痛い痛い』
「っとに、馬鹿ですかお前。仲裁に来たのに私らがケンカして騒ぎ大きくしてどうすんのよ。全く、このケダモノ。低能。呪い馬鹿。口を開けば呪いだの腹減っただの。ああ恥ずかし。私がお前のご主人なんて」
『いやいや、ひどいですねえ。恥ずかしいのは私だけじゃないですよ?カッコつけて怪しく登場したのにあっさり見つかっちゃうご主人様もなかなか恥ずかしーと思いますけどー痛い痛い痛い』
「やかましい。お前は黙って私の言うこと聞いてりゃいいの。ドレイの分際でご主人に生意気言うなっていつも言ってるでしょ」
『ドレイじゃないですよー。これでも神獣ですよー。いてっ』
「神獣だろうがなんだろうがドレイはドレイなのよ。いい加減その口閉じなさい」
『むー』
なんだ、こいつら。
短剣をゆっくりと引き抜く。ありすは蛇に怯えるマリサをなだめるのに手一杯だ。さっきまで真剣勝負していた相手を信じるわけじゃないし信じても居ないけど、もしあの白蛇と戦うとなった時は共闘はできなさそう。
「おや、まあまあ、そんなに怖い顔をなさらずとも。私はしがない臨時雇われ役人ですので。うん。どうやらどちらも私達を知らないようで。まずはご挨拶ですね」
言うなり、少女はぱちんと手を叩くと、蛇の頭の上に仁王立ちになる。黒くて上着の丈の長い、改造牧師服のような服が風になびいて揺れている。
たぶん、こいつらも私の知ってる人物。今回は誰だ。黒いのに白いの。魔理沙は飛竜だし――――
「お初にお目にかかります。わたくし、首都より派遣されてまいりました、アヤと申します。ドラゴンライダーが暴れたり悪さしないように見守ったり手出したりするしがないお役人です。以後、お見知りおきを。――――虹龍遣い、サクヤ。北の国の飛びアラクネ、ありす」
「なによ。私達の事、最初から知ってたんじゃない。趣味悪いわよ!」
「あははは」
ありすの怒鳴り声に帰ってきたのは、かるーい笑い声。
うん。黒い髪の候補は一杯居たけど、あの烏天狗か。てことは、この白い蛇は、もしかして、あの白狼――――
「えっと、こっちは私の“駄馬”。東国のさらに向うの僻地の山から来た、田舎者の大贄ぐらいの祟り神」
『ひっどーい。そこまで言うことないじゃないですかぁ』
自分の頭の上で流れるように罵倒を吐いた射命丸を、白蛇はむー、と見上げる。そして。
『まあ、いいや。皆さん初めまして。サナエです。一応神獣です。お肉が好きです。呪いはもっと好きです。よろしく』
そういうと、白蛇は笑ったのか、その赤い目をすうっと細めると、チロチロと赤い舌を出した。
ああ、早苗、なんて姿に‥‥
アヤはいまだにサナエの頭をぐりぐりやりながら、朗らかにこちらに向かって話しかけてきた。
「えっと、お二人とも、ドラゴンの頭の血も引いたようですし、このままケンカ続行は無理ですよね。てことで一つ、私の話を聞いてほしいんですが、よろしいですか?とりあえず、降りましょう。ゆっくり座って、話をしましょうよ」
アヤは戸惑う私達の様子なんか気にすることもなく、暢気な台詞を吐いた。
******************
「つかれたよう‥‥」
「お疲れ様」
ペンを投げ出し机に突っ伏しているフランに、魔女はぶっきらぼうにねぎらいの言葉を掛けた。机の周りには、フォーオブアカインドで生み出されたフランの分身達が、呻きながらごろごろ転がっている。
朝。今は一応朝のはずである。日の届かない図書館の一室では、そんなものはまるで遠い世界の出来事だ。柱時計だけが、健気に8時を告げている。
「咲夜たちが入った妖魔本を刻一刻書き写せ」。そうパチュリーに命じられたフランが分身達を助手にして仕上げた、2回目の写本をぱらぱらめくりつつ、当の魔女は不満げな声をあげた。
「‥‥失敗ね。だめね。やりなおしだわ」
「ええええ!」
無慈悲な宣告にフランが悲鳴を上げた。分身達が一斉に煙を上げて消える。ショックに気力もなくなったか、ガクガクと震えながら、フランがうつろな目でパチュリーを見上げた。狂気の吸血鬼の面影なんかかけらもない。目の下にクマを作り手はぶるぶる震え、徹夜明け臭を存分に振りまく、外見年齢通りの哀れな少女がそこにいた。
震えるフランの様子をみて、パチュリーは彼女なりに取り繕って口を開く。
「ああ、妹様の写本の話じゃないわよ。そこに寝てる彼女達の事よ」
「へ」
言ってパチュリーは傍らのベットをあごでしゃくる。狭い部屋には、美鈴と咲夜が眠るベッドの他に、もう一台ベッドが運び込まれていた。その布団の中で眠りこけるのは、魔理沙とアリス、二人の魔法使い。
早朝、パチュリーに睡眠薬を盛られた二人が施されたのは、パチュリーによる魔法術式。意識をリンクさせ、件の本の中に放り込ませる、あの“ガイドブック”の応用魔法。
「ちょっとは期待したんだけど、ダメだったわね。二人とも呑まれたわ、役に。ったく。どうしようかしらね」
「‥‥パチュリー、私が言うのもなんだけどサ、友達無くすよ。絶対」
友人たちに対する慈悲の欠片も感謝のへったくれもない台詞に、フランがぽつりとつぶやいた。
パチュリーがやったこと。それは、咲夜と美鈴以外の人物の意識を話の途中から本に放り込むことだった。本が咲夜たちに掛けた魔法の終了条件、それはこの話が最後まで行くこと。それはすでに分かっている。ただ、本のストーリーは刻一刻と本自身と中の咲夜たちによって書き換えられており、話はどう転ぶか分からない。ならばと魔女が考えたのは、話の途中で他の人物を本の中に入れ、ストーリーに影響を与えるというものだった。それによって、話を早く終わらせられないかと。
咲夜達を助けるという意思は十分わかる。しかし吸血鬼姉妹はその方法の詳細を聞いて仰天した。それというのが「本の中で主人公が死ねば話は終わる」というえげつないモノだったからだ。
「レミィの書いてくれた登場人物リストの中からよさそうなの選んでみたんだけど。うまく行かないわね」
「‥‥パチュリーってさ、ラスボスだよね」
「そう?」
「主人公殺そうとして刺客送り込むとか」
「なるほど」
フランはあごを机にのせたまま、魔女に話しかける。
レミリアが最初に読んだ時の本の内容では、主人公の盗賊少女にはあまたの敵が立ちはだかる。隣国の賞金稼ぎや、儀に駆られた戦士。親の敵と襲い掛かるみなしご少女に魔物たち。それらの中からパチュリーが選んだのは賞金稼ぎ。二人組で、魔法と暗殺術を使って主人公を追い詰める強敵だ。パチュリーはその役に、魔理沙とアリスを当てることにした。強力な魔法を使い、手先も器用な魔女達なら、きっと役通りの、もしかしたらそれ以上の“働き”をしてくれるものと思って。
しかし、結果はパチュリーが期待した通りにはならず、咲夜は暗殺者の襲撃を避け、美鈴は魔法を防ぎ、互角に立ちまわっている。当の魔理沙とアリスは、それぞれドラゴンとアラクネという役が付き、最初はもくろみ通りに咲夜を追い詰めたのだが。
「魔法使って、役に呑まれないように自我をコーティングしてみたんだけど、メタフィクションな展開は起きてないし。丸っきり役になりきったみたい」
「ストーリーは変えられないのかなぁ。なんか、だめっぽいじゃん」
「そうね」
ドラゴン魔理沙が出てきたとき、フランは少し状況を忘れてよろこんだ。あの魔理沙が普段の性格そのままにワイバーンになって暴れまわっているし、アリスは勝気な異形の暗殺者。咲夜と美鈴の時もそうだったが、その様子にフランは演劇チックな非日常感を覚えたのだ。
ちなみに、1回目の写しをしたときは二人の暗殺者は普通の人間だったのだが、アリスと魔理沙が本の中に入ると聞かされた2回目の写しでは、その役には二人の名前が入り、キャラクターもドラゴンとアラクネになり話の形も変わった。大筋は大体同じだったが。
肝心の変化したストーリーは魔理沙がドラゴンの正体を現して暴れ始め、美鈴が駆け付けたところまで進んでいた。
「続きはまだ、“出てこない”んだよね」
「そうね‥‥レミィ」
「‥‥」
「レミィ!」
「んはっ!」
傍らの椅子で眠りこけていたレミリアが跳ね起きる。その手には、あの本が。
レミリアがパチュリーから指示された、元の話の荒筋を書き出す作業はすでに終わっていたので、彼女はフランの手伝いとして本の内容を監視、読みだす役をしていたのだ。何回も何回も本をめくっては内容を確かめて差分を妹に読み聞かせ、妹はそれを書き写し。2回目の写本終了と同時に、妹と同じく姉も力尽きて本を抱いたまま寝始めていた。
「レミィ、寝ちゃだめよ。寝たら本に吸い込まれるかもしれないわ」
「もう何回もこの本と寝てるわよ。何をいまさら」
「ああ、そうよね。レミィ、その本貸して」
「落とすんじゃないよ。咲夜達が入ってんだからね」
「気を付けるわ」
眠たげに眼をこするレミリアから本を受け取り、パチュリーはぺらぺらとページをめくる。写本と時々読み比べ違いがないか確かめながら。
「ふむ。まだ、続きはないわね」
「ふうん」
フランは新たに書き写すべき続きが無くて安心したような、ちょっと期待はずれのような複雑な表情をした。
「‥‥ねえ、妹様」
「なに?」
パチュリーによばれ、フランはぐでんと投げ出していた体を起こす。
「魔理沙とアリスだけど、いつからいた?」
「ん?」
「ついさっきアンタが連れ去ってきてからでしょ」
一瞬質問の意味が分からず、フランが首をかしげる。レミリアの突っ込みにそうじゃなくて、と答え、パチュリーはもう一度訪ねた。
「魔理沙とアリスなんだけど、いつから本の中に居た?出てきた?」
「え、どう、だろう」
「そのあたり書き写してたのって、大分前だわよ。二人の名前が本の中に初めて出てきたのは登場してから少し後だから、いつごろかしらねえ」
「‥‥私が二人に魔法をかけたのは小一時間くらい前なのよ」
「え?」
その言葉に、姉妹が驚く。
「え、パチュリー、昨日の晩魔理沙たちに魔法掛けに行ったんじゃないの?」
「そうよ。パチェがあいつら連れて来るって部屋でてったの、夜中だったじゃない。魔理沙たちを本の中に入れるって言って」
レミリアも同調する。パチュリーは二人に違う、と首を振った。
「確かに魔法はかけに行ったわよ。小悪魔使って、紅魔館に来るように仕向けにね」
「え」
「寝てる人間二人も抱えて来るなんて大変だから」
「え‥‥?じゃあ、寝てる2人を拉致してさっきここまで連れて来たんじゃないの?」
「んな疲れる真似しないわよ。私はそのとき図書館で術の準備をしてただけだわ。二人には催眠魔法使って自分で紅魔館まで来るように仕向けて、睡眠薬盛った」
「鬼め」
「鬼に鬼って言われたかないわね」
「やかましい。貴様は鬼だ」
「お褒めいただき光栄よ」
吸血鬼の非難に澄ました声で答える魔女。その傍らで、フランがはっと顔をあげる。
「ちょっと待って‥‥私、魔理沙たちが本の中に入ったのって夜中だと思ってたけど、じゃあ朝なの?ついさっきなの?」
「そうよ」
パチュリーは自分の言わんとしていることを察してくれた様子のフランにこくりと頷いた。
レミリアも彼女達の疑問に気が付き、天井を見上げる。
「‥‥魔理沙ドラゴンが出てきたのって、ううん、そこを書き写してたのって、それよりも確実に前だわね。6時頃かしら」
「その時間、まだ魔理沙たちは本の中に居なかったんだよ、ね」
「そうなるわね」
「じゃあ、なんで魔理沙とアリスの名前が出てくるの?」
フランの問いかけに、パチュリーは答えなかった。フランはさらに言葉を続ける。
「一回目に書き写したとき、あの殺し屋たちは普通の人間だった。一回目の書き写しが終わったのって、今日の朝。4時くらい。その後二回目の書き写しが終わったのって」
「7時くらいよ」
「え、その時間まだ魔理沙たちは‥‥」
「私が魔法掛けてる真っ最中だわ」
部屋に一瞬沈黙が満ちる。一番最初に口を開いたのはレミリアだった。
「おかしくない?」
「そうね‥‥」
「そうね、って」
彼女達が本に入る前に、すでに本の中には彼女達がモデルの人物が登場しているのだ。まるで、“予想していたかのように”。フランが気味悪そうな顔をする。
「偶然、じゃないの?ねえ、パチュリー。ほかにも名前出てきてるキャラクター居るじゃない。幽香とか。そいつらみたいに本が“勝手”に役名つけたキャラに、偶然パチュリーのたくらみが一致しただけ、とか」
「‥‥そう、よねえ」
「歯切れ悪いな」
「そう、たぶんそうだわ、ありえない。もしそうだとしても、こんな本なんかに、そんな真似‥‥」
パチュリーが何かつぶやきながら、本を撫でる。その古い羊皮紙の表面には、また一文、新しいストーリーが浮かび上がってきたところだった。
「とりあえず、監視は続ける。次の手を考えるわ」
「次、ねえ‥‥」
レミリアが、手元の紙の束を拾い上げる。そこには最初に読んだ時のストーリーが箇条書きで書き連ねてあった。
「‥‥早いとこ助けたいんだけど。あんまり、可愛そうな目には会ってほしくないんだけどねえ」
「吸血鬼が何言ってんのよ。可愛い子には何とやらでしょ」
「うーん‥‥」
パチュリーのつぶやきに呻り返しながら、レミリアはぱらりと紙をめくる。そしてある一文を睨み付ける。
そこには、ある章の小見出しが書いてあった。
「まあ、何とかなるか、なぁ‥‥」
「襲撃と壊滅」という、物騒な小見出しが。
******************
「そんな怖い顔しなくても。取って食ったりしませんよ」
「しようとしてたじゃないか!さっき!」
焼けていない森の中。広場のように開けた一角で。アヤに連れられた私達は、それぞれ三角形の頂点に座るようにお互いに距離を置いて座って向き合っていた。サナエとマリサは、“変身”して人間の姿になっている。マリサは最初にあった時のフード姿。サナエはといえば、裸足、両耳にピアス、両手両足に金の輪飾り、それらを結ぶさらりとした羽衣。体を覆うゆったりとした純白の薄絹という、場違いに神々しい衣装を身にまとっていた。首にだけは、ごつくて真黒な、金属の首輪が嵌まっている。神獣と名乗ったが、それにふさわしいと思える姿だった。美鈴だけが、龍の姿で私を守るようにとぐろを巻いている。
「ふむ。見る限りじゃあ結構な実力を持っているようでしたが、まだ首輪してないんですねえ。メイリンさんは」
「はあ」
興味深そうにこちらを見つめて首をかしげるアヤに、私はうろんげに応える。ハタテもそんなことを言っていたが、美鈴だけはここに居るドラゴンの中で唯一首輪をしていない。ドラゴンとドラゴンライダーにとって重要なアイテムなのはなんとなくうかがえる。第一、すごく便利そう。あれを付けていると、ドラゴンは人間の姿をとれるらしい。人間の姿になったドラゴンは、そのままドラゴンライダー以外とも言葉も交わせるようになるみたいなのだ。そうなったら、いつでも美鈴、私についてこれるのに。今晩のようなことも起こらなかったかも。
どうやったらあの首輪手に入れられるのか、聞こうかなと考えていた私だったが、ありすの声にその思考はさえぎられた。
「はん。期待外れ期待外れきーたーいーはーずーれ!せっかく獲物を見つけたと思ったらなんだか中途半端な人狼に首輪なしのドラゴンだし。もちょっと手ごたえのあるやつじゃないと私に釣り合わないっての」
「また、首へし折られたいのかしら」
「ああ?」
「はいはい。やめてください」
はふん、とため息を吐いて挑発してきたありすに、私は牙を剥いて唸る。にらみ合う私達を、またアヤが止めた。
「賞金稼ぎということですがね。依頼元は、まあ想像できますね」
「ふん。ああもう商売あがったりだわ。名前はばれてる、依頼人もばれてる。第一獲物とこうやって話してる時点でアサシン失格よ」
「いや、散々私達に向かってべらべら名乗ってたし」
「殺す相手には礼儀尽くすのよ」
「第一ついてきたの、アンタからだし」
「だって、マリサが」
「わ、わたしのせいかよ!」
話を振られた飛竜の少女が、があ、とあわてて吠える。しかしその目は、サナエから離れることがなく。
「うふふ」
「ひいっ!?」
にたぁ、と笑ったサナエに睨まれ、マリサは悲鳴を上げて背中を丸めた。殺し屋がこうやってターゲットと話してるなんて間抜けな光景、図書館にある漫画でもそうそう見ない。でもこうやってそんな光景が出来上がっているのは、すべてあの神獣サナエのせいである。
彼女のドラゴン姿は、白蛇。ドラゴンと蛇は違う気もするが、大蛇と龍なら、たぶん誤差の範囲。アヤは「腐れサーペント」とも言っていた。
そんな彼女は、どうもこの世界では飛竜の天敵のような存在らしい。‥‥見た目は猛禽類と蛇だから、関係は逆のような気もするけど。とにかく、蛇に睨まれた蛙、もとい白蛇に睨まれた飛竜なマリサは、ありすの叱咤激励も耳に入らず、さっきまでの勝気な言動はどこへやら、サナエににらまれてすっかりおとなしくなってしまっていた。「言うこと聞かなきゃ食べます」との一言に、「い、言うこときこう!とりあえず、今は!いまだけ!」と懇願する飛竜の姿は、たぶんハタテに見せちゃいけない。きっと新しいえげつない民謡が出来上がる。
そんな彼女の隣に座る“ご主人様”。真っ黒い服のお役人。見た目は私と変わらないか少し幼い位の少女、というか、モデルの射命丸から帽子を取って黒い服を着せただけ。一見いつもの文屋に見えちゃうけど、言動や仕草、声色は、見た目通りの少女のあどけなさを時々見せる。サナエに対してはまるきり豹変して横柄な態度をとるのだが。しかし、こんな子が役人とは。どんな国なんだろ。ここ。
「さて、本題にうつりたいんですが、いいですかね」
「さっさと言えば。もう帰りたいのよ。私は」
ぎりぎりとありすが殺気立った表情で、顔の緑の刺青を歪ませる。アヤはこっちも見ていて腹が立つほどの薄ら笑いを変えずに、顔の前で人差し指を立てた。真っ黒いシャープな服装が、少女の顔に浮かぶ胡散臭い表情に壊滅的に似合っていない。
黒い少女は蜘蛛女に睨まれつつも、その薄ら笑いのまま、はきはきとした口調で言を続けた。
「お願いがあるのです」
「お断りよ」
「聞いてください」
「イヤ」
「実はですね」
「嫌っつってるでしょ!」
「しゃー」
「ありす!聞こう!」
「ちょっとぉ‥‥!」
抵抗する蜘蛛女だったが、蛇の脅しに屈した頼りない相棒の懇願に、情けなさそうな声を出した。
「はい、ありがとうございます。実はですね‥‥」
「絶対性格悪いわよね、貴女」
「ちょ、だから、話しさせてくださいよ‥‥ 」
私の突っ込みに話を中断させられたアヤは、初めて嫌そうな顔をした。よし。弄れた。
「こほん。きょ、今日私が‥‥」
「自分でコホンていう人初めて見た」
「あ、私もです」
「貴女達も大概性格悪いですよね!」
私と美鈴のダブル攻撃にアヤはさらに情けなさそうな声を出す。弄り方さえわかれば、意外とかわいいかもしれない。彼女。
「ええい、お願いというのは、みんなの力を借りたいということで」
「端折りすぎてて訳が分からない!」
蜘蛛女が吠えるが、今度ばかりはアヤは彼女を無視して話を続けた。
「今、この国は戦争をしています。まあ、長い戦争ですよ。半分行事みたいなね。だらだらだらだら続いて、正直いやんなってます」
やれやれ、と肩をすくめて見せるアヤ。‥‥戦争してる国の役人がそういうこと言っていいんだろうか。ありすはけっ、とため息を吐いた。
というか、そんなゆるい状況なのだろうか。あの村の様子を見ていると、戦争の匂いはしないけど。第一、観光客とか言ってる時点でおかしいきがする。
「いまさら、戦争始めた国の人間が何言ってんだかね。なに?私とマリサで暴れろとでも言うの?それで戦争終わらせろとか?私の雇い主よりいい値段言ってくれたら考えないでもないわよ」
「そこの交渉は後程」
「するつもりなの!?」
「ま、ある意味。ですが今回お願いしたいのはそんなみみっちいことじゃありません」
戦争終わらせるということをみみっちいと言ったのか、この女の子は。
「とある竜と、そのドラゴンライダーがいるのですが、そいつらをやっつけたいのです」
「は」
あっさりとしたその内容に、おもわず気の抜けた声がでる。アヤは私の方を向いて、むう、と頬を膨らませた。だから、仕草がいちいちワザとらしいのよ、ねえ。
「竜をやっつけるだけ、とはいえ、簡単なことじゃないんです。だからこうやってなりふり構わずお願いしてるんですよ」
「どんな竜よ、それ」
ありすがアヤを睨む。アヤは興味を示してくれたありすにむかい、嬉しそうな顔をした。
「どんな、そうですね、まず、滅茶苦茶強い。ありえない位強い」
「分かんないっての」
「こちらに今日入った情報ですと、一匹で西国に隣り合うとある小国を、1日で丸ごと滅ぼしたとか」
「は?」
ありすの目が点になる。私もその極端な内容に思わず眉を動かしていた。一騎当千とはいえ、ドラゴンライダーはそこまで強いモノなんだろうか。
「嘘じゃないですよ。そのドラゴンライダーはある日突然その国に現れ、立ち向かう軍隊お抱えのドラゴンライダー達をなぎ倒して首都まで進攻、そのまま街を焼き払ってあっさり国を滅ぼしました」
「なによそれ。大嵐じゃあるまいし」
「ええ、おっしゃるとおり。ある意味、災害です」
こめかみに手を当てるありす。アヤは澄ました顔で説明を続ける。
「私達は以前からそのドラゴンライダーの情報を持っていました。これまでにも、そいつのとんでもない強さはこちらの知るところだったのですが、幸運なことに、そいつは全くと言っていいほど動かなかった。大人しかったのです。常識も有り暴れることもなく、規律あるドラゴンライダーです」
「はあ」
「それが最近、活動をはじめましてね」
火山じゃあるまいし。メイリンの背を撫でながら、私はアヤに聞いた。
「国を一つ滅ぼしたって言ったわね。なぜ?話を聞く限りじゃ、なんかドラゴンライダーの模範のような奴じゃない。規律もあって、強くて」
「ええ、だからですよ」
「え?」
「そいつは許せなくなったのです。ケンカしてばっかりの人たちがね」
やれやれとアヤは頭を抱えた。サナエは横でずーっとマリサを見つめている。
「許せなくなったって‥‥」
「そいつは国を滅ぼす前にこう名乗っていたそうですよ。“勇者”と」
「‥‥」
勇者。通り魔のような行動にはとても似合わない称号だ。自称ならそうなるのかしら。
「要するに、奴がこの国を狙う可能性もあるということです。だから、私達はこの国が滅ぼされないように、ケンカの手伝いをしてくれるひとを探し回っているのですよ。
「結局はあんたんとこの都合じゃないの」
「どう受け止められても結構。ただ、こうでもしないとあの竜は倒せません」
「竜?やっつけるのは竜だけなの?」
「ええ、私達が標的にしているのは竜だけです。ドラゴンライダーはどうでもいい。竜さえ止めれば何とかなります」
「‥‥」
要するに、超強くて融通も利かない自称勇者を倒すために、私達の手が借りたいということらしい。
「どうでしょう。力を貸してくれませんか」
「イヤよ」
「あら」
ありすの即答に、アヤはがくりと体勢を崩した。だから、胡散臭いって。
「なんで私達がそんな変なケンカに付き合わなくちゃいけない訳?イヤよ。滅ぼされんなら滅ぼされてなさいよ。戦争してる負い目はあるでしょ。勇者なら、悪い国にお仕置きしに来てもおかしくないわ」
「たとえそれが、女子供まで皆殺しだったとしてもですか」
「!?」
アヤのセリフに全員が沈黙する。滅ぼしたって、いや、まさかそのままの意味ってことは。
「そのままの意味です。滅ぼされたのは国の中枢や軍隊だけではない。そこに住む人々、怪物たち、魔物、その他すべて平等に焼き払われました」
「‥‥本気で災害じゃないの」
ありすが頭を抱える。私も何となく事情がつかめてきた。そんな危険な奴が勇者とか、とんでもない話な気がする。
「そう、その災害を私達は止めたい。正直私とこの腐れ蛇でも、対抗するのは難しいでしょう。力を合わせなければ、奴は倒せません」
「‥‥」
アヤは傍らの“腐れ蛇”をあごでしゃくる。さっきから身じろぎもせずにぎろぎらと、よだれを垂らしてマリサを見つめているサナエだが、アヤの言動から察するに、本気で強いようである。そんな彼女でも勝てない相手というのだ。
ありすはいつの間にか自分にしがみついて震え出していたマリサの頭を撫でて口をひらいた。
「ああ、よしよし。‥‥ま、正直そんなやつがいるとなれば、私も協力するのはやぶさかじゃないわ。でもね」
「?」
「あんた胡散臭い。話が信じられない」
「あれれれれ」
「同意見」
「えー!」
ありすの意見は至極まっとうなモノだったので、私も同じく答えた。なぜかアヤはショックを受けていた。自分の振る舞い鏡に映してみてみればいいと思うの。わたし。
蜘蛛女はショックを受けた彼女を睨み付け、マリサをしがみつかせたまま立ち上がる。
「あれ、あ、あの、行っちゃうんですか?」
「今すぐここで返事はできない。腐っても殺し屋よ。そのあたり、私で判断付ける。お前みたいな胡散臭い奴の言葉、すぐには信じられない」
「‥‥まさか、見に行くおつもりで?」
「悪い?」
「死にますよ」
アヤのセリフに、ありすが眉間にしわを寄せる。蟲の牙が、口から覗いた。
「なめんじゃないわよ。一応ここまで生き抜いてきたんだから。ケンカの仕方も逃げ方もわきまえてるつもりだわ。それにあんたみたいな奴の言葉だけ信じてうごいたら、一族の恥よ」
「一族の恥ですかあ、落ちるとこまで落ちましたねえ、ご主人。ぐえ」
「だまりゃ、この変態蛇」
軽口をたたくサナエの首輪を、思い切りアヤが引く。苦しげな声を出す白蛇を睨み付けると、すぐさまあの胡散臭い笑顔に戻して、アヤは立ち去ろうとするありすに言った。
「恥とまで言われちゃあ、今日のところはあきらめるしかないですね。でも、そこまで言うからには、どうぞ死なずに奴の振る舞いをご覧になってきてくださいな。ま、見に行ったとこで私の話を信じるしかないと思いますがね」
「そうならないように願いたいわ。こっちは」
「あ、ちょっと、ホントに行っちゃうんですか!?」
踵を返し、ありすはマリサを連れて森の奥へと進んでいく。その後ろ姿を、アヤが追いかける。
「ち、ちょっと待っててください。説得してきますので」
「はあ」
無駄だと思うけどね。
「まってくださいよー」という声と一緒に、アヤはありすを追いかけて森の中へと駆けて行った。
あとには、私と美鈴、そしてサナエが残される。
「‥‥」
「‥‥」
「ぐー」
「美鈴‥‥」
いつの間にか美鈴は寝ていた。まあ、当然かも。龍の姿の美鈴は、人間の言葉が分からないのだ。随分と長話だったし、相当ヒマだったはず。今日は沢山ケンカもしたし、しょうがないかも。
「いやあ、大物ですねえ、美鈴ちゃんは」
「‥‥そうかもね」
サナエが今度は美鈴を見ていた。この子もなんだか、なんというか薄気味悪い。主従揃ってこれじゃあ、話を聞いてくれる人、あまりいないんじゃないかしら。
そう思い、私は美鈴の頭を撫でていた。
しゃらん。
「ん?」
顔をあげると、サナエがこちらに歩いてきていた。手足の飾りがすんだ金属音を立てる。こちらを見つめる蛇の目が、爛々と輝いている。
その瞳に言い知れぬ警戒感を覚え、思わず私は立ち上がっていた。
「なに?美鈴もオイシソウとか言うわけ?あげないわよ」
牙を剥いて見せる私に、サナエはパタパタと手のひらを振った。
「違いますよ。せっかくいい夜ですし、少し、お散歩しませんか?私、いろいろとお話ししたいことがあるのです」
「私を食べたい、っていうのなら、お断りよ」
「ああ、いやいや、だから、そういう意図はありません。確かに少しかじってみたいきもしますけど」
「お断りよ」
「ああん」
サナエは「たはは」と笑う。一見立ち居ふるまいは穏やかに見えるけど、どうもこの白蛇のサナエ、なんというか油断できない。檻なしで猛獣と顔合わせているような、そんな気持ちになる。実際猛獣なんだけど。
私の気持ちを知ってか知らずか、彼女は微笑みながら、ぐっと顔を近づけてきた。
「ちょっ!」
「きれいなめだま」
私の眼球を覗き込む蛇の目。縦に割れた瞳孔が細くなる。おもわず腰の短剣に手を伸ばしかけたが、その手は目にもとまらぬ速さで抑えられた。
心臓が縮む音が聞こえたような気がした。
「っ!」
「そんな怖がらずとも」
「‥‥貴女一体何がしたいの?」
「いやあ、だから、お散歩しながらお話ししたいだけですよ」
ゆっくりと顔を放しながら、サナエはまた笑った。牙を見せて。耳のピアスが煌めき、目じりの赤いアイラインが妖しく歪む。思わずその目に吸い込まれそうになるような感覚が生まれ、私は頬の内側を噛んだ。
微かにへこむ私の頬を見て、蛇女が笑った。
「あら、魅了しているわけじゃありませんよ。オオカミさんは警戒心が強いですね」
「‥‥本能でね」
牙を剥いて唸る。まあ怖い、とサナエは笑う。そして、彼女はとんでもない台詞を口にした。
「ええ、私はお話がしたいのですよ。それだけです‥‥“紅魔館のメイド長、十六夜咲夜”さんと」
「なっ!」
彼女の口から飛び出した、予想だにしなかった台詞。それは確実に、私の時間を少しの間止めた。
*****************
「こうやってリアルなみずみずしい森の匂いを嗅いでると、ここが夢の中なんて思えなくなりますよね」
「‥‥」
沈みかけの満月が照らす森を歩きながら、サナエ、いや、早苗は両手を広げて楽しそうに言った。
“神獣サナエ”の、ドレスのような純白の薄絹の衣装が、闇夜に浮かんで輝いている。しゃらりしゃらりと手首の金の腕輪を鳴らし、裸足で草を踏みながら、早苗は踊るように森の中を歩いて行く。
「あなたまで、来てたなんてね」
「あはは、すごい話ですよねー」
気楽な様子で、早苗は答えた。ふわふわと歩きながら。
「ねえ、咲夜さん。ここがどういうところだか、咲夜さんは分かりますか?」
「え」
歌うように問いかけられたセリフに、私は間抜けな声で聞き返す。早苗はゆっくりと踊り子のようにまわりながら、笑顔で話しかけてきた。
「私はここが夢の世界だと思っています。なぜならば、私には幻想郷と、プラスしてその前の外の世界の記憶がちゃんとありますし、何よりもこの世界はできすぎています」
「出来すぎてる?」
「はい」
早苗は踊るのをやめて、こちらを向いた。穏やかな笑顔だった。
「出来すぎているのです。なんというか、うまくは言えないのですが、この世界には筋書きがあるのです。細い、線のような。たとえば、何か不都合があっても、失敗しても、奇跡のような出来事が起こって修正される‥‥というような。すべての出来事は結局その線に導かれてあるべき結末を迎え――――」
「う、うん、だいたい言いたいことは解りますわ。それは私も感じてる」
「ですよね!」
早苗は喜び、手足の飾りを鳴らしながら駆け寄ってきた。そして私の手を取って跳ねる。その仕草は幻想郷で会う普段の彼女と同じように見える。しかし、私はなんとなく違和感を感じた。なぜか。
「と、とりあえず落ち着いて話さない?そこに木があるわ。座りましょう」
「はい」
傍らの倒木に腰を下ろすと、私は早苗に、私がこの世界に来たいきさつを話すことにした。
いきさつと言っても、私達もここが本の中だとはっきり知ったわけではない。大体どこにも証拠がない。今あるのは、本に入れる魔法があるということ、その魔法が紅魔館にガイドブックの形で存在していたということ。この世界が、お嬢様の読んでいた本に何となく似ているということ。それだけだ。状況証拠にもならないかもしれない事柄ばかり。しかし早苗にはそれで十分だったらしい。私の冒険譚を、金色の蛇の目を輝かせて聞いていた。
「ふむ。なんとなくわかりましたよ」
「え?」
私の話を聞き終わった早苗はあごに手を当てると、何か納得したようにうなずいた。私はわけもわからず、彼女の次の言葉を待つ。
「わかりました。大体」
「だから、なにが」
「咲夜さんが、この“お話”の主人公だということです」
「は」
なんとなく予想していたと言えば予想していた内容を聞かされ、私は気の抜けた返事をした。早苗は私に構わず、言葉を続ける。
「多分ですけど、この世界は、咲夜さんの言っていたように本の中の世界でしょう。そして、この世界は咲夜さんたちを中心に、“動いている”」
「何を言ってるの?」
「そのままですよ。主人公たる咲夜さんたちの行動で、この世界はいかようにでも変わっていくだろうということです」
早苗はそういって、私の目をじっと見つめてきた。今度は笑っていなかった。
「咲夜さんだけが、咲夜さんたちだけが、この世界を動かせると思うのです。なぜならば、咲夜さんには筋書きがあるようでない」
「どういうことよ」
「咲夜さんは、十六夜咲夜さんとしての記憶を持ったまま、この世界で人狼サクヤとして存在しています」
「貴女もそうでしょ。さっき、記憶があると言っていたわ」
そう尋ねると、早苗は悲しそうな顔をした。
「私は違うのです。“筋書き”から逃げられない。‥‥ うん、そうか、あれは筋書きだったんですねえ。どおりで逆らえない訳だ」
「なに、それ?」
「なんというか、ルールというか。“やらなければならないこと“です。そのままの意味で良い気がしますよ。この世界に来てから、私は何回かそのような“筋書き”を強制されまして。なんどか抵抗してみようとしました。やれと言われたことをやらなかったりね。私は神獣の大蛇って役なんで、例えば、生贄の女の子を食べなかったりとか」
「‥‥」
「でもダメでしたねえ。結局は気が付けば美味しく女の子を頂いちゃってたり、他のカミサマに命じられて、村一個祟り殺して全滅させたり」
はふん、とため息をつきながら、早苗は空を見上げる。耳のピアスが月明かりにきらめいている。
「思ったように思ったことができているのは、咲夜さん、たぶん貴女だけです。美鈴さんにも、できてないはず」
「でも、ときどき私、人狼の――――」
「そこは、最低限の“役作り”なんでしょう。助けたいと思って、人狼の皆さんを助けられた。敵をやっつけたくて、やっつけられた。この村を守ろうとして、守れた。ちょっとは焼けましたけど。私には、それができない」
言い切ると、早苗はまたこちらを向いた。今度は笑顔だった。私の背筋が、小さく震える。
「咲夜さんは、この世界に来てからどれくらい経ちましたか?」
「え、えっと、まだ、十日位、かしら」
指折り数え、答えた私に、早苗はなぜか悲しそうな顔をした。
「そう、ですか。‥‥そうなんだ」
「な、なによ」
「ねえ、咲夜さん。私がこの夢の世界に来てから、どれくらいたつと思います?」
「え‥‥」
「500年です」
「ごっ――――」
がんと、頭を殴られたような衝撃が全身を駆ける。早苗のセリフに、私は二の句が継げなかった。
「正確には500と12年。ふむ。レミリアさんより年上ですねえ」
早苗は硬直する私をよそに、これじゃ妖怪ですねえ、と笑った。乾いた笑いだった。瞬間、停止していた思考が動き出す。私は思わず叫んでいた。
「そんな、嘘、嘘よ!そんなのありえない!だって、私はほんの少し前に、ここに、あなただって、私と同じ‥‥!」
「ねえ咲夜さん。本て言うのは、ある種タイムマシンなんですよ」
「は?」
「ある本があったとしましょう。そこにはたくさんの時間があります。主人公を追いかける時間。わき役を追いかける時間。ある脇役のサイドストーリーの冒頭に、『500年前の事だった。その神獣は、山の向こうのそのまた向こうで、静かに産声を上げた』なんて書き出しがあったら、どうですか?」
「――――!」
「その本には、主人公の”今”と、500年前の時間が併存することになるのですよ」
私の方に視線を向けず、遠くを見たまま、早苗は小さく笑った。
「私はこの世界に、神獣の仔として生まれたところからスタートしました。最初は、夢だと思ってた。ありえない。こんなとんでもない世界なんか夢に決まってるって。まあ、幻想郷も同じっちゃ同じですけどね。最初は楽しかった。乱暴者の神獣の役。諏訪子様のミシャグジ様達みたいな。でもね、夢はなかなか終わらなかった。一日を超え、二日を超え、一週間を超え、一か月を超え、一年を、そして――――」
「早苗‥‥」
早苗がうつむく。その表情は影になって見えない。しかし何か光るものが地面に落ちたのが見えた。涙だった。
「いつまでもいつまでたってもこの世界は終わらない!リアルなくせに筋書き通りのへんてこな世界です。寝ても覚めても、私は神獣サナエ。あはは、幻想郷で風祝やってたことも、咲夜さんも紅魔館の皆さんも霊夢さんも魔理沙さんも、神奈子様に諏訪子様、外の世界の諏訪の街も松本のお蕎麦屋さんも岡谷の喫茶店も何もかも覚えてるんですよ!記憶があるんですよ!なのに!」
「早苗、早苗もういい、辛かったよね、ね」
私は気が付けば早苗の背中に手を回して抱いていた。衣裳の下に、鱗の感触がある。異形の神獣にさせられ、500年以上も彼女はこの夢の世界に囚われていたというのだ。しかも、“東風谷早苗”の記憶を持ちながら!
「何度もね、何度も私は死のうとしましたよ。死ねば夢も終わり。この世界から抜けられる。けどね、筋書きはそれを許してくれなかった。私は何度も抵抗したけど、無駄でした」
「――――っ」
「そしてそのうちあきらめたの。これはどうせ夢なんだからと。夢ならばどうせいつか終わるはずだって。その間は気にしないで神獣サナエをやっていようって!あははははは!吹っ切れた後は、楽しかったなぁ!」
「早苗っ?」
一転、笑い始めた彼女の様子に、私はとてつもなく不穏なものを感じ、おもわず抱いていた手を離した。
「あはははははは!ねえ、咲夜さん、呪いを掛けるのって、すごく楽しいんですよ!村が一つあったとしましょう。そこに私がちょいと呪いを掛けるんです。一年たったらまあすてき。人も草木も腐り果てた酸鼻極まる地獄絵図の歓声。子供はみんな井戸に投げ込まれてるし、大人は木という木に首ひっかけて死んでるし。ねえ、こんど、見ませんか?あはははは!」
「落ち着いて、ねえ!」
「あー!ご心配なく、私はいたって平静です。平静ですよ!そうだ、今度人間の美味しい食べ方を教えましょう!頭から一飲みにするのもいいですが、咲夜さんは狼です。口が小さい。だから美味しい料理の仕方ですね!」
「いい、もういいやめて!」
人狼の村で食べたあの鍋を思い出し、私の胸の奥が激しく疼いた。なんてこと!嫌悪感ではなく、その味を思い出して喜んでいる!私は!
早苗は、私の体に手を回し、顔を近づけてきた。赤い舌をチロチロと伸ばしながら。
「ううん、心配することはありません。咲夜さんは主人公なのです!私はそうはできなかったけど、咲夜さんはいくらでもこの世界を動かせる!自由です!きっと私のように狂ってしまうこともないでしょう!」
「さ、早苗!」
「あはは!自分のことぐらい自分で分かります!そう、私は狂ってます!いきなりわけもわからない世界にたった一人で放り出されて500年!“この世界に来て500年たった”って記憶を与えられただけかとも思いましたが!どうもそうではない様子!さみしくて心細くて、ああ、なんでもっと早く、もっと早く来てくれなかったんでしょうか!ねえ、咲夜さんは!」
「ぐへっ!?」
突然早苗が私の首に腕を掛け、恐ろしい力で締め上げてきた!胴体に絡んだ腕も同じように私を挟み、締め上げてくる!息が、できない!
「が、はあぁっ!」
「寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかったすごく寂しかった!なんでなんでなんでもっと早く来てくれないのですか主人公!ねえ!ねえねえねえ!もうっと早く来ていてくれたらこの話を終わらせていてくれたら!射命丸さんによく似た人もいましたが!彼女は私と同じではない様子だし!完全にこの世界の人物だし!ねえ、もっと早く!貴女は私の前に顔を見せてくれるだけでも良かった!そしたら私は耐えられたのです!東風谷早苗のままで耐えられたのです!しかし手遅れ!今の私は神獣サナエ!大贄喰らいの呪いの白蛇、サナエ!」
「ざ、ざな、ぐひゅっ」
『ああ恨めしいあなたが恨めしい呪ってやる呪ってやりましょう今すぐに。お前のその腕腐らせ目玉を弾けさせ、臓物を膨れ上がらせて!あはははははは』
「!?」
早苗の体から、突然黒い霧が湧いた。その霧はゆっくりと夜風に乗って、私の顔の周りに漂い出す。
『うふふふふふ。ねえ、苦しいだろう?息がしたいだろう?今この手を離したら、この呪いの霧をお前はたっぷり吸いこんでしまうよ。そうしたら、たちどころにお前の体は腐りとけるよ!村を一つ呪い腐らせる神獣の瘴気、直接たっぷり吸わせてあげるわ!人狼!』
「――――!」
早苗ではなく“サナエ”と化した彼女の呪いの霧が、私の顔の前を漂う。息が止められ、朦朧とする頭。
『ははははは!そうら逃げられない!もう逃げられない!お前の周りは瘴気でいっぱいだ!タップリまとわせてやったよ?真っ黒だろう!』
‥‥この世界では、私は思ったことができる。‥‥ああ、だったら、いまここで、「彼女に呪い殺される」という選択肢を選んでもいいんだ‥‥そうすれば、そうすれば彼女も私も、この世界から抜け出せる。この話を終わらせられる‥‥!
「――――ぐ」
『あはははは!ほれ、覚悟はついたかい?人狼!ほうら、手を放すよ。心配いらない。苦しみは少しの間だけさ。お前の体が腐って溶けるまで、ほんのちょっと我慢すればいいんだからね!』
私の首を締め上げていた彼女の腕が、ゆっくりと緩んでいく。もう何も考えられない。早く、早く息がすいたい。そうすればおわる。ぜんぶ。おわりに‥‥
『てめえっ!ご主人様に何しやがる!』
『!?』
「っ!?」
突然、怒鳴り声と共に強風が吹き荒れ、黒い霧があっという間に吹き飛ばされる。サナエは驚いて腕の力を完全に抜いた。
「がひゅっ!」
冷たい夜の森の空気が、私の肺に満ちる。呪いは、私に掛からなかった。
見上げた夜空に浮かぶのは、怒りの表情を浮かべた虹の龍‥‥
「あら、美鈴さん。どうされました」
『どうしたじゃないよ。お前、何してたんだ!今すぐ咲夜さんから離れろ!今すぐに!』
「ああ、そんな怖い顔をしないでください。大丈夫、少しお話をしていただけですから」
『離れろっ!』
「はいはい」
空から睨む美鈴に圧され、早苗は立ち上がった。美鈴は、サナエが“本物の早苗”であることを知らない。殺気を込め、睨み続けている。
「さ、さなえ‥‥まっ、て」
「分かりましたか。これが“筋書き”です。私があなたを殺そうとしても、できないのです。貴女はここで死んではならない。そういう“筋書き”なんです」
「げほっ!」
這いつくばって咳き込む私を見下ろしながら、早苗が悲しそうな声で語りかけてくる。
「ひとつ、大事なお話をしましょう」
「な、に?」
「私は元の東風谷早苗の記憶があると言いましたが、それは限定的です」
「な‥‥」
「満月の晩だけ、私は元の東風谷早苗に戻る。満月の時だけは、“筋書き”の力が弱くなるのです。そしてそれ以外の一か月の間、私は“神獣サナエ“として振る舞うのです。そうするしかできないのです。‥‥その間の記憶は全部残った状態でね」
「‥‥何、言ってるの」
「明日目覚めたとき、私はもう東風谷早苗ではない。神獣、白蛇のサナエです」
いまだにこちらを睨む美鈴を一度見上げたあとで、早苗はまたこちらに向かいお辞儀をした。
「怖い思いをさせてすいませんでした。明日からの私にも、よろしくです」
「ま、まって‥‥」
「今日のところは失礼しますよ。もうすぐ月も沈みます。私はまたサナエになる。また一か月後、一緒に居たら、聞かせてくださいね。懐かしい幻想郷のお話を」
「早苗‥‥!」
「じゃあ、失礼します」
草を踏む音が遠ざかっていく。空から美鈴が駆け降りる音。這いつくばった地面の先に、光っているのは、夜露だろうか、早苗の涙だろうか。それとも‥‥
「‥‥ぐ、うぐっ」
「咲夜さんっ!」
美鈴の大きな声を背中に受けながら、私は嗚咽を漏らしていた。
胸が空っぽになるような、とてつもない寂しさと心細さが私を覆っていた。ぼやける視界の先で、草むらで光る粒が、あとからあとから増えて行った。遠ざかる足音を聞きながら、早苗の寂しさを想って、私はひたすら泣いた。
「‥‥咲夜さん」
ドラゴンの大きな気配がする。あの何時かの森の中で私を助けてくれた、妖怪の気配がする。
その感覚だけが、私を抱きしめていてくれるような気がした。
あの、夜のように。
‥
‥‥
続く。
続き→■第8話
■第6話
■第5話
■第4話
■第3話
■第2話
■第1話
それは、たぶん私の一番古い記憶。今でもよく、思い出す。
どことも知れない森の中。幼い私を、真っ黒い獣が取り囲んでいる記憶。
私は彼らに追い回され、痛めつけられ、何がなんだかわからないまま、逃げることすら考えられないくらい、怖くて、痛くて、声も上げずに泣いている。
声をあげていなかったのは、助けを呼ぼうなんて気持ちがなかったから。悔しくて泣いていたのだ。もう、私はこの獣たちに食べられてしまうんだな。そう思って泣いていた。
彼女の声を聴いたのは、その時が初めてで。
「こらこらこらぁ、なにやってんのぉ」
のんびりとした声が、やけに暖かく感じたのを、強烈に覚えている。
嗚咽を飲み込み、見上げた視界に突然入ってきた、影。
彼らと私の間にいきなり現れた、大きな体と、背中。そこから聞こえてきた、暖かい声。視界に飛び込む、燃える様な、赤い髪。
獣の恐怖よりも、傷の痛みよりも。何よりも覚えているのは、その声と、背中。
「だいじょうぶ?おちびさんっ」
振り返る顔は、飛び切りの笑顔。闇に煌めく青い瞳に、ちょっと尖った妖怪の犬歯。
それが私を拾ってくれた、妖怪。紅美鈴という妖怪の記憶。‥‥私の一番最初の、記憶。
その後のことは、よく覚えていない。ありきたりな台詞だけど、本当に覚えていない。気が付けば、私は彼女に抱っこされて、森の中を運ばれていた。「クサいねえ」と言われて、わんこみたいに頭をくしゃくしゃ撫でられてたことだけ覚えてる。
いま、私の目の前には美鈴がいる。ドラゴンに立ちはだかる、赤い髪と青い瞳と大きな体が見える。
ああ、似てるなぁ。今の、この光景。
また、助けられちゃったなぁ。私。
悔しいなぁ。
*****************
『無事ですかっ!咲夜さんっ!‥‥って、ワイルドな格好になりましたねぇ!かっこいい!』
『これであなたとお揃いかしら。っとに、いい場面で来るわね、美鈴!』
『冒険活劇で見せ場の一つくらいつくれなきゃ、ヒロインの相棒なんて勤まりませんよっ!』
『なによそれ』
「すごい、喋ってる‥‥!」
ドラゴンと会話する私に感激するハタテをよそに、美鈴は風を唸らせ空から舞い降りると、私達と、飛竜との間に割り込む。
「う゛あー‥‥」
「『れみりあっ!?』」
そして背中の“荷物”に気が付く私達。美鈴の胴体にロープでくくりつけられ、完全グロッキーな様子の彼女に。
顔中涙と鼻水でどろぐちゃ、髪はぼっさぼさ、服はぐしゃぐしゃというヒドイ有様。それでも彼女は、健気に目を開けると、何事か話しかけてきた。
「あ゛、ああおお。おおお」
「な、なななな何事っ!?れみりあちゃん、なんでっ!?」
ハタテが私の背から降りて慌てて駆け寄ってゆく。れみりあはハタテの顔を見ると、震える手で何かを差し出した。
「あ‥‥ああ、あ、お、おねーちゃんが、サクヤねー様たちに、こ、ここ、これ、もっていって、って」
「えっ」
力なく彼女の手から落ちたそれを、ハタテが慌てて拾いに行く。ほどなくして、彼女の「替えの弓矢だっ!」という嬉しそうな声が聞こえてきた。れみりあは見た目はヒドイけど、命に別状はなさそう。そんな匂いがする。一つ安心した私は、美鈴の背中に声をかけた。がうがう、と。
『よく、わかったわね。こういう事になってるって』
『ひどい胸騒ぎがしましてね。居てもたっても居られなくなりました。来てみたら案の定ですよ。予感的中です。ドラゴンて、第六感とか強いんでしょうかね?』
『さあ?愛の力じゃない?』
『‥‥いきなり何言いだすんですか』
『安心したら気が抜けたのよ』
『ガラじゃないですねえ』
『そうね』
飛竜から目をはなさず、背中で美鈴がツッコんでくる。今にも嬉しくてきゃんきゃん言いそうになる気持ちを抑え、私は何でもないように言う。声色はごまかせたかな。でも最初に見られた時にバレバレだろう。私の尻尾はさっきから大回転してるから。
本気で、嬉しかったんだからね。来てくれて。
『それにしても、用意良かったわね。ちょうどハタテの矢も切れたとこだったわ』
『ユウカさんが、色々と気を使ってくれましてね。‥‥アイツですか。咲夜さんをいじめる悪いドラゴンは』
『そうよ』
美鈴の視界の先では、飛竜が大きく羽ばたきながら、こちらの様子を伺っていた。怒りに顔をゆがめ、口の端から光を漏らして空気を焦がしながら。
“彼女”の両目は、見た限り無事だ。ハタテの矢は一体どこにあたったんだろう。顔の周りには、それらしき傷は見えない。
『なんだペチャクチャ駄弁って。おまえ、見かけないドラゴンだな。どこから来た』
『しらないねっ。おまえだな?咲夜さんをいじめてるのは』
『いじめる?さくや?‥‥ああ、おまえ、その狼のドラゴンなのか』
美鈴とマリサがにらみ合う。私には言葉が分かるけど、きっと周りには怪獣同士が吠えているようにしか聞こえてないのだろう。ハタテがレミリアを抱きかかえながら、緊張した表情でドラゴンたちのやり取りを聞いている。
『咲夜さん。あいつ、何者です?』
『魔理沙』
『へ?』
『アイツが抱えてる蜘蛛女がアリス。アリスが、魔理沙のドラゴンライダー』
『‥‥』
『わたしを殺しに来た賞金稼ぎ。そういう役』
『はあ、それは、また。‥‥ふーん。魔理沙ですか。どこかで見たことある攻撃と喋り方だと思ったら』
『本人じゃないからね?そっくりさんよ』
『それはわかります』
『何を言ってる』
飛竜がばさりと羽ばたき、すこし高度を上げる。私達を見下ろす位置に。美鈴は、動かない。
『ふん、まあいい。お前ら、みんな燃やしてやればいいんだ。ご主人様を、ありすをひどい目に合わせたんだからな!ころしてやる!ころしてやる!』
『おや、一途なコだねえ。咲夜さん、みんなを私の後ろに』
美鈴が吠える。私に促され、ハタテが、新しい弓矢を持ち、私の元へ駆け寄る。
逃げるそぶりもなく飛竜を睨み付け立ち向かう美鈴。その姿は凄く頼もしい。しかしあの光を間近に受けた私は、どうしても不安に思わずにいられなかった。
『ね、ねえ、大丈夫なの?あいつの“マスタースパーク”、すごいわよ?』
『さっきのやつですよね。大丈夫。咲夜さんたちは私が守りますよ』
『どうやって?』
『門番ですから』
『会話にも答えになってない!』
吼える私。のんびりと、自信満々に言い放つ美鈴。一瞬、その後ろ姿が、妖怪の姿に戻ったように見えた。
紅魔館の前に立つ、門番の。紅美鈴の姿に。
『死ねっ!』
飛竜の口が、大きく開く!美鈴の全身の鱗が、ざわめいた!
『死んでやるもんかね!』
飛竜が光を吐き出す。美鈴が、短い腕を伸ばし、あろうことか手のひらでそれを受け止めた!
ぼっ!
『美鈴っ!』
小さな爆発音。すぐにそれをかき消すぐらいの轟音が満ちる。一瞬で、閃光が、視界を埋め尽くす!美鈴の影が、光に呑みこまれる!轟音と強烈な光に、何もかも塗りつぶされる!
熱い!こんなの、絶対に――――!
『――――極彩「彩光乱舞」』
光の向こうから声がする。 やけに落ち着いたその声は、光に焼かれて震える空気にかき消されることなく、私の耳に届いた。
突如、美鈴の正面に虹色の渦が生まれる。それは最初に飛竜の光を防いだときのように、閃光を虹へと分解し、あらぬ方向に弾き飛ばしてゆく!
『!?』
『あはははははは!見たか!私の虹!』
飛竜が目を剥く。自分の閃光がまたも防がれた様子を目の当たりにして。そして“メイリン”は高らかに笑う。虹を広げたまま、恐ろしい牙の並ぶ、大きく裂けた口を開けて。
『“サクヤ”っ!』
『!』
その名前を呼ばれた瞬間、私の足が動いた。美鈴の背中に飛び掛かり、れみりあを繋ぐロープを切る。“ナイフを使って”!私は一瞬のうちに、ケモノの姿から人狼へと戻っていた。
狼になった時と同じく、ヒトガタに戻るのも頭で考えるよりも早く、あっさりとできた。ありがたいことに服は狼になる前のそのままで、裸ではなかった。やっぱり魔法なんだろうか。これは。
「ハタテ!れみりあをおねがい!」
「あ、あわっ」
完全に目を回しているれみりあをハタテに放り投げると私は代わりに美鈴の背に掴まる。彼女の前では、未だに虹が爆発していた。飛竜の閃光は衰えることなく私達を襲い続けている。
「お姉様!これ!」
「?」
ハタテが叫ぶ声にまた振りかえる。彼女は私に何かを放ってきた。あわてて掴んだそれは、紐で一括りにされた数本のナイフ。すべてベルト付の鞘に納められている。
「れみりあちゃんが持ってきてくれたんです!」
「ありがとう!れみりあ! 」
叫んでお礼を言う。れみりあがハタテの腕の中で、小さく笑うのが見えた。前を向く私に、美鈴が背中越しに話しかけてくる。
『あいつの、息が切れたら、ケンカを始めますよ!まずはアイツをこの村から引きはがしましょう!離れたとこでケンカしますよ。背水の陣は避けます!援護、お願いです!』
「了解!」
ナイフの鞘を体に括り付ける。合計三本。両足と、腰。れみりあの持ってきてくれたナイフは少し大振りのもの。ドラゴンを相手にするには、きっとこれくらい重い方が良い。
準備をしている間に、閃光はどんどん弱くなっていった。そして。
『――――っは!くそっ!』
『ははは!あはははは!ばてたな!息切れだ!どうだ!お前の光はみんな防いでやったぞ!』
『てめぇっ‥‥』
ついに閃光が止む。同時に、虹の壁も消えた。美鈴の虹は、飛竜の光を全く寄せ付けなかった。悔しそうな飛竜に、美鈴が得意げに笑う。しかし、彼女の背中も大きく波を打っている。力を出し続けたのか、呼吸が大きく、荒くなっている。彼女も消耗しているのだ。きっとこれは何回もできるようなことじゃない。次は危ないかもしれない。
『行くよ!“サクヤ”!』
「おう!」
美鈴の雄叫びに、私も吼える。これでアイツらを落とせなきゃ、次はない!
『でえい!』
『!』
美鈴、雄叫びと同時に前方に飛翔。飛竜は急上昇してあっさり躱す。美鈴は避けられるのも計算の内と言わんばかりにそのまま加速。私達は村の方角から飛竜に追い立てられていたので、メイリンが飛んでいく方向が村だ。美鈴は村の上空をかすめ、大きく弧を描きながら尾根を越え、森の方角へと私を乗せてすっ飛んで行く。真後ろに飛竜。ついてくる!
『サクヤ!アイツが光を吐いたら教えて!』
「OK!」
美鈴の喋り方は、“ドラゴンのメイリン”に変わっている。何回か見てるけどこの時のメイリンは、特に頭に血がのぼったりすると、なんというか、ケモノ丸出しになる。大声で笑って、残酷で、ちょっと頭悪くなる。
そんな彼女に“サクヤ”と呼ばれた私も、十六夜咲夜じゃなくて人狼のサクヤに切り替わる。どう変わるかは、美鈴と同じだ。馬鹿で、ケダモノで、残酷で。最近はずっと、そのままな気もするけど。
振り返った視界。緊張感に膨らむ私の尻尾の向こうで、飛竜の口に光があふれる。
来た!
「メイリンっ!」
『よしきた!』
私の声に一発吼えると、メイリンは尻尾を大きく回す。赤い毛がふさふさ揺れる尻尾の先になぞられて、夜空に小さな虹色の円が描かれる。虹はそのままメイリンから離れ、夜空に置き去りにされた。間髪入れず飛竜の細い閃光が夜空に走る。虹は閃光を受け止め、あらぬ方向に軌道を捻じ曲げまき散らす!
「当たった!」
『よし!』
漂う虹の輪は障害物にもなっている。メイリンが次々と空に置いて行く虹の輪っかのおかげで、まっすぐ飛べず、追いつけないでいる。これなら!
「いい感じ!」
『うん、いける!あとは何とかして殴り合いとしゃれ込みたいですね!』
「何とかって、え、策は?」
『ゴシュジンサマ宜しく!』
「おいっ!」
がふー、と鼻から息を吐いて、彼女はあろうことかウインクしてきた。ちょっと、なんで、どうして!
『わたしもう、考えるのめんどくさいんですっ!』
「な、なにいってんの?!」
『わはははは!マリサ!ここまで来てみろ!ばーか!』
「ちょっと!?」
かっっ!
「きゃあ!」
美鈴、いや、メイリンの挑発が聞こえたか、飛竜が少し太めの閃光を放つ。光は私達をかすめて夜空へ消えていく。ちょっと、ここで、ここまでリードしてくれてて、いきなりプッツンしないでくれる!?
「マリサーっ!上からねらえ!アイツの虹の輪は後ろにしか飛んでこないよ!高く飛んで、見下ろしなさい!」
うわっ、ありすが復活してる!?しぶとい奴!ハタテの矢に穴だらけにされたときもそうだったけど、回復するのが異様に早い!
『わかった!』
飛竜がその言葉に従い、高度を上げる。マリサは散々心配していた愛しのご主人が復活したのに無反応。はつらつと返事をして指示通り高度を上げている。意識がこっちへの怒りにしか向いていないのか。単にありすが怪我してたの忘れてるのか。もしかしてドラゴンて、みんなこうなの?馬鹿なの?
マリサはすでに位置についている。メイリンの虹の輪に邪魔されることもなく、悠々とこちらに狙いを定めている。
「アイツを逃がすな!光を細く長く吐いて、避けても追いかけなさい!」
『うん!』
蜘蛛女の指示とドラゴンの返事が聞こえる。あんなに大声で作戦喋って、何を考えてるんだか。いや、声が大きいんじゃない。私の狼の耳がすごくいいんだ。全部聞こえるんだ。
それに、あれを聞いたおかげで、ドラゴンライダーが何をしなきゃいけないのか、改めて分かった気がする。ああやってドラゴンを操って、指示して戦う。私も一回村でやった。ああいう感じにすればいい。大丈夫。できる。できるはず。メイリンがどんな技使えるのかあまり知らないのが痛いけど!虹を吐くのも尻尾で虹作れるのも、その他もろもろみんな美鈴がやってるの見て初めて分かったし!
美鈴はさっき何て言ってた!?殴り合い!?接近戦がしたい!?ああ、いつもの美鈴だ。龍になってもそっちが好きなんだ!でも今はアイツの攻撃をよけるのが先っ!
「あはははは!死ね!狼!」
蜘蛛女の高笑い!閃光が来る!尻尾の虹は真後ろにしか出せない。マリサは上からねらってる!下の森は燃えてない!なら!
「メイリン森に潜れ!」
『りょうかい!』
メイリンが頭を下げて急降下。体が浮き上がる。私は必死に彼女のたてがみにしがみつく。黒い森が迫る!
「尻尾で虹の輪っか!」
『おう!』
メイリンが虹の輪を作る。頭を下げた姿勢の美鈴の尻尾は、ちょうど飛竜に向く!そこで虹が作られる!
「んあ!」
ありすの驚く声。同時に放たれたマリサの閃光が、虹にぶち当たり、散らされる!その間に私達は、森の中へ!
『わはははははは!』
「ほ、吠えないでっ!」
その長い体を器用にうねらせ、滅茶苦茶なアクロバット飛行をして木々の中を飛んでいくメイリン。彼女にしがみつくので精いっぱいな私。興奮しているのか、メイリンのテンションは上がりっぱなし。せ、せっかく隠れたんだから、大声で笑うなっ!美鈴!聞こえちゃう!
とにかくこれで、アイツの目からは逃れられた。そう思ったけど、甘かった。突然、視界に入った一本の大木が、閃光と共に松明と化す!
撃たれた!見られてるっ!?見つかってるっ!?いや、違う!
「焼き払えっ!あぶり出せっ!」
――――ああああ!そう来るわよね!そうできるんだからね!あんたたちは!これだからっ!単純無理矢理で力押しな奴って嫌い!
ありすの声は空の一点からしか聞こえない。マリサは空中に止まってる!前方斜め上!
そっちがそう来るならこっちも無理矢理してやるだけだ!
「相手に突っ込む!メイリン空に出ろ!」
『はーい!』
暢気な返事と同時に、美鈴が急上昇。体と両足に掛かる強烈な重み。枝と木の葉をまき散らし、私達は森の上に出る!
「あはははは!イイザマね!」
蜘蛛女が笑う。狙い通り私達をあぶり出せたと思って。ふん。見てろ、驚け!
「死ねっ!ありす!」
耳障りな笑い声に叩きつけるように、私はわざと大声を出して懐のナイフを投げる!これはもったいないから最初に持ってきてた細い奴!
「はん、そんな小刀――――」
ありすの嘲るような声。マリサが、大きく口を開ける。ナイフごと私達を撃ちぬこうと!
かかったな!それが狙いよっ!
「メイリン!ナイフを撃て!」
『おう!』
美鈴が虹を吐く!ナイフに吸い込まれるように、閃光と虹が集まっていく!私は固く、目を閉じて――――
ぼっ!
「――――――!」
目蓋越しにも分かる、空で弾ける強烈な光の渦!美鈴の虹の吐息とマリサの閃光の吐息が真正面からぶつかった!――――いきなり虹だけ撃ったらマリサはきっと避けただろう。ならばと私は誘いをかけた。小さなナイフで。狙いは彼女達がナイフごと私達を撃つように仕向けること。奴の閃光をナイフに引き付けて確実に美鈴の虹を当てること!狙いは当たった!あとはっ!
「ぐあああああ!」
『ありすっ!』
弾けた光に目を焼かれた蜘蛛女の悲鳴。ドラゴンの悲痛な声。光はいまだに収まっていない。目を閉じたまま、耳を頼りに私は奴らの位置を把握する。
山なりの軌道で森から飛びあがった美鈴は、光が爆発した間も飛び続け、飛竜の上を取っている!今度はこっちが狩る側!
「メイリン落ちろ!獲物は下だ!飛び掛かれっ!」
『おおおおおお!』
『んなっ!』
飛竜がこちらを見上げて驚く。今頃私達の場所に気が付いたか!ご主人想いなのはいいけど、気を取られ過ぎ!間抜け!
『がふうるるるるうっ!』
『ぎゃああああああ!』
上から飛び掛かる美鈴を見上げた飛竜に、美鈴はのしかかるように絡み付く。両手で飛竜の腹を抑え、その喉元に噛み付き、胴体と尻尾を右の翼に絡ませ締め上げる!マリサはろくに身動きもとれず、振りほどけない。あおむけになった飛竜の羽ばたきが止まり、地面に向かって私達は落ち始める!
『痛い、いたいっ!やめろ!翼、翼がっ!』
「マリサっ!このっ!」
「あんたの相手は私だっ!」
激しく揺さぶられる美鈴の背の上で、私は美鈴に向かって糸を飛ばそうとした蜘蛛女に向かってナイフを投げつける。飛竜の背中にへばりついたままの蜘蛛女。うまく体勢の取れない彼女の左肩に、ナイフの刃が深々と突き刺さった。緑の体液が宙に舞う。
「があ、っ!女狼っ!」
「潰れろっ!」
森が迫る。燃える森が。爆ぜる火の粉が、私の頬をかすめる。美鈴は飛竜を捕まえたまま、まっすぐ地面に向かって突っ込んでいく。
このままでは私も美鈴も、彼女達ごと燃える火の中に突っ込む。でも私はなぜか心配していなかった。美鈴と一緒なら大丈夫。根拠もなく、そんな気がした。
『があああああっ!』
『いでっ!』
突然目の前で閃光がはじけ、美鈴がいきなり飛竜から離れて跳びあがった。体がたてがみに押し付けられる。炎に突っ込む瞬間、飛竜が閃光を吐いて暴れた。白い光が美鈴のヒゲをかすめたのが見えた。
あと少しだったのに!
「大丈夫!?美鈴!」
『ヒゲ痛い!ちょっとコゲた!』
煙を上げるヒゲの先をプルプル振りながら、涙声で美鈴が吠える。私は彼女の頭を撫でながら、眼下に飛竜を追う。燃える森に仰向けに突っ込む直前で、飛竜は翼を広げて水平に加速。一回バレルロールを打つと燃える木々の樹冠を吹き飛ばしながら空へと駆け上がる。その軌道は大きくゆるやかで、さっきよりも動きにキレがない。翼を傷めつけたのが効果あったか。羽ばたきが非常にゆっくり。
「相手は傷を負ったわ!今度は小細工なしで飛び掛かれる!」
『痛い、痛い』
「聞いてる!?」
『てめええらあああああああっ!』
「来るわよ!」
ぐるりと反転した飛竜が、こちらに向かって飛んでくる。マリサは消耗したのか閃光を撃ってこなかった。距離を取った今、好きなだけ撃ちまくれるチャンスだというのに。
美鈴は組み合うつもりでいる。鋭い爪を光らせ、アイツが飛び込んでくるのを待っている。飛竜もそうか。その凶悪な足を鷹のように前に突きだし、こちらに狙いを定めている。
美鈴が笑った。
『あははははは!ドラゴンになると、なんかみんなちょっぴり馬鹿になるみたいだねぇ!“マリサ”!わたしはもう興奮しっぱなしだよう!』
『わけわからん!お前の言うことは!』
『だろうねえ!』
ケラケラ笑うと、美鈴は深く息を吐いた。細められた青い目が、突っ込んでくるマリサを睨みつける。
『落ちないでねご主人様!激しくいくよ!』
「了解っ!」
美鈴の呼びかけに、私は彼女のたてがみに両腕を絡ませ、衝撃に備える。
そんなときだった。
どこからともなく、風に流れるような歌声が聞こえてきたのは。
―――――歌え あめつちに渡る風 天の恵みを今ここに
炎 渦巻く哀れな森に 光り輝く慈悲の手を――――――
なんだ、どこから!?って、これ、もしかして、呪文?
「咲夜さん!」
「!?」
突然美鈴が“メイリン”から美鈴にもどる。そして空を見上げて吠えた。
つられて空を見上げた私は、信じられないモノを見る。
つい先まで雲一つなかった空が、一瞬で渦巻く厚い雲に覆われた光景を!
がっっ!
「うわっ!」
「きゃあ!」
突然大気が衝撃と共に青緑色に染まる。美鈴も私も、悲鳴を上げて目を閉じた。すぐさま、私達を強烈な匂いが包み込む。‥‥雨に濡れた、森の匂いが!
「咲夜さん!火、火が!」
「え!?」
美鈴の慌てた声に目を開けば、さっきまで燃え盛っていた炎が、一瞬にして白い煙を上げて消えている!森の木々はつやつやとした水滴を纏い、まるで雨が降った後の様。見上げれば、空に広がっていた雲はひとかけらも残らず消えていて。なんだ、なんだ、これ――――
『どーですかっ!降らせる暇が惜しかったので、直接森に水を纏わせてみたんですが!うまく行きましたよ!」
「はいはいすごいすごい」
突然、声が二つ増えた。得意げな獣の声と、冷めた少女の声が。
「はーい、そこのドラゴンライダーのみなさーん。落ち着きましたかー?ケンカはそこまでですよーっ」
『!?』
「は?」
ぱんぱん、という手を打つ音と一緒に、少女の声が響いた。皆が一斉に、当たりを見渡すが、それらしき人物は見えない。
声の主は、私達の様子をどこで見ているのか、少しうれしそうな声色で言葉を続けてきた。
「はい、私の話を聞いてくださってありがとうございます。うん、ケンカはいけません。仲良くするのが一番ですよ」
「なんだ!馬鹿にしてる!?どこにいるのっ!出てこい!」
蜘蛛女がどなりながら辺りを見渡す。私も視界を探るが、声が聞こえてくる方向がなぜか動き続けていて出所が探れない。
声の主はのんびりとした口調で話しかけてきた。
「ふむ。お二人とも、この辺りではあまり見ない種類のドラゴンに乗ってますね。北国のワイバーンに、東国の虹龍ですね。どこかの傭兵ですか?違いますよね。そうだったらこんなバカ騒ぎなんかしませんからね」
『どこだ!どこにいる!』
「マリサ、あそこ!」
飛竜の背で、ありすが傍らの山を指さす。私もその指先を追った。美鈴はすでにその方向に声の主が居ることに気が付いていたようだ。身じろぎもせず、最初からその方向を睨み付けていた。
月に照らされた尾根の上に、声の主は居た。真っ白く光る、銀色の大木と、その上にまたがる、黒い影。‥‥大木?
声の主は見つけられたことを別に驚くこともなく、相変わらずの調子で話しかけてきた。
「あら、風を使って声を回り道させたんですけど、気づくの早いですねえ。見つかりましたか。優秀です。とくに、そこの“龍”、するどい!」
『‥‥』
そういうと、彼女は美鈴をまっすぐ睨み付けてきた。美鈴の背中がちょっと波打つ。
『ねえご主人様。あっさり気が付かれちゃいましたが、どうします?逃げますか?戦いますか?呪いますか?呪いませんか?呪いましょうよ。んでもって食べましょう!』
「は!?」
突然大木が喋った。とてつもなく不穏な内容で。た、食べる?ドラゴンを!?白い大木は呆気にとられる私達に向かって、ゆっくりとその鎌首をもたげ、赤い口を――――
『シャー』
って、蛇っ!?あれ、蛇っ!?
満月の月明かりに照らされ煌めいているのは、真っ白に輝く蛇の鱗!謎の女がまたがっているのは、ぶっとい胴体の白い蛇!
大蛇は赤い舌をチロチロと出し入れしながら、うっとりとした声を出す。
『ねえ、ほら、オイシソウですよ?とくにあの飛竜!モモとか胸とか、すっごくおいしそう!』
『ひ!?』
ぐるりと動いた紅い目。マリサがその目を見て小さな悲鳴を上げる。そんな彼女の様子に驚いたのはありすだ。
「な、何やってんの?あんなのに怖気づくんじゃないよ!マリサ!」
『だ、だって、アイツの目、こわい』
「は!?」
とろんとした蛇の目に睨まれた飛竜が、あろうことか怯えだした。あの魔理沙ドラゴンが怖がるって、あいつ。
『‥‥わたしもちょっと怖いです』
「ちょっと!?」
な、なんで美鈴まで?なんなの!?あの蛇は!
にわかに怯えだすドラゴンたち。蛇はその状況に気が付いているのかいないのか。舌をチロチロ見せながら、うっとりと喋り続ける。
『ああん、よだれ出ちゃいますねぇ。ほら、ご主人様もそう思いません?あのぷりぷりのふとももとか、そのままでも行けそうですけど、呪っていい感じに腐らせたらまたきっとすごくおいしいと思うんですよ。どうですか?そうでしょう?そうですよね!うえへへへあ痛っ』
「どアホ」
頭にまたがる女が、いきなり蛇の頭を踏みつけた。そのままぐりぐりと、かかとを鱗にねじ込んでいる。蛇はなぜか嬉しそうな様子で悲鳴を上げた。
『ひゃあん、痛い痛い』
「っとに、馬鹿ですかお前。仲裁に来たのに私らがケンカして騒ぎ大きくしてどうすんのよ。全く、このケダモノ。低能。呪い馬鹿。口を開けば呪いだの腹減っただの。ああ恥ずかし。私がお前のご主人なんて」
『いやいや、ひどいですねえ。恥ずかしいのは私だけじゃないですよ?カッコつけて怪しく登場したのにあっさり見つかっちゃうご主人様もなかなか恥ずかしーと思いますけどー痛い痛い痛い』
「やかましい。お前は黙って私の言うこと聞いてりゃいいの。ドレイの分際でご主人に生意気言うなっていつも言ってるでしょ」
『ドレイじゃないですよー。これでも神獣ですよー。いてっ』
「神獣だろうがなんだろうがドレイはドレイなのよ。いい加減その口閉じなさい」
『むー』
なんだ、こいつら。
短剣をゆっくりと引き抜く。ありすは蛇に怯えるマリサをなだめるのに手一杯だ。さっきまで真剣勝負していた相手を信じるわけじゃないし信じても居ないけど、もしあの白蛇と戦うとなった時は共闘はできなさそう。
「おや、まあまあ、そんなに怖い顔をなさらずとも。私はしがない臨時雇われ役人ですので。うん。どうやらどちらも私達を知らないようで。まずはご挨拶ですね」
言うなり、少女はぱちんと手を叩くと、蛇の頭の上に仁王立ちになる。黒くて上着の丈の長い、改造牧師服のような服が風になびいて揺れている。
たぶん、こいつらも私の知ってる人物。今回は誰だ。黒いのに白いの。魔理沙は飛竜だし――――
「お初にお目にかかります。わたくし、首都より派遣されてまいりました、アヤと申します。ドラゴンライダーが暴れたり悪さしないように見守ったり手出したりするしがないお役人です。以後、お見知りおきを。――――虹龍遣い、サクヤ。北の国の飛びアラクネ、ありす」
「なによ。私達の事、最初から知ってたんじゃない。趣味悪いわよ!」
「あははは」
ありすの怒鳴り声に帰ってきたのは、かるーい笑い声。
うん。黒い髪の候補は一杯居たけど、あの烏天狗か。てことは、この白い蛇は、もしかして、あの白狼――――
「えっと、こっちは私の“駄馬”。東国のさらに向うの僻地の山から来た、田舎者の大贄ぐらいの祟り神」
『ひっどーい。そこまで言うことないじゃないですかぁ』
自分の頭の上で流れるように罵倒を吐いた射命丸を、白蛇はむー、と見上げる。そして。
『まあ、いいや。皆さん初めまして。サナエです。一応神獣です。お肉が好きです。呪いはもっと好きです。よろしく』
そういうと、白蛇は笑ったのか、その赤い目をすうっと細めると、チロチロと赤い舌を出した。
ああ、早苗、なんて姿に‥‥
アヤはいまだにサナエの頭をぐりぐりやりながら、朗らかにこちらに向かって話しかけてきた。
「えっと、お二人とも、ドラゴンの頭の血も引いたようですし、このままケンカ続行は無理ですよね。てことで一つ、私の話を聞いてほしいんですが、よろしいですか?とりあえず、降りましょう。ゆっくり座って、話をしましょうよ」
アヤは戸惑う私達の様子なんか気にすることもなく、暢気な台詞を吐いた。
******************
「つかれたよう‥‥」
「お疲れ様」
ペンを投げ出し机に突っ伏しているフランに、魔女はぶっきらぼうにねぎらいの言葉を掛けた。机の周りには、フォーオブアカインドで生み出されたフランの分身達が、呻きながらごろごろ転がっている。
朝。今は一応朝のはずである。日の届かない図書館の一室では、そんなものはまるで遠い世界の出来事だ。柱時計だけが、健気に8時を告げている。
「咲夜たちが入った妖魔本を刻一刻書き写せ」。そうパチュリーに命じられたフランが分身達を助手にして仕上げた、2回目の写本をぱらぱらめくりつつ、当の魔女は不満げな声をあげた。
「‥‥失敗ね。だめね。やりなおしだわ」
「ええええ!」
無慈悲な宣告にフランが悲鳴を上げた。分身達が一斉に煙を上げて消える。ショックに気力もなくなったか、ガクガクと震えながら、フランがうつろな目でパチュリーを見上げた。狂気の吸血鬼の面影なんかかけらもない。目の下にクマを作り手はぶるぶる震え、徹夜明け臭を存分に振りまく、外見年齢通りの哀れな少女がそこにいた。
震えるフランの様子をみて、パチュリーは彼女なりに取り繕って口を開く。
「ああ、妹様の写本の話じゃないわよ。そこに寝てる彼女達の事よ」
「へ」
言ってパチュリーは傍らのベットをあごでしゃくる。狭い部屋には、美鈴と咲夜が眠るベッドの他に、もう一台ベッドが運び込まれていた。その布団の中で眠りこけるのは、魔理沙とアリス、二人の魔法使い。
早朝、パチュリーに睡眠薬を盛られた二人が施されたのは、パチュリーによる魔法術式。意識をリンクさせ、件の本の中に放り込ませる、あの“ガイドブック”の応用魔法。
「ちょっとは期待したんだけど、ダメだったわね。二人とも呑まれたわ、役に。ったく。どうしようかしらね」
「‥‥パチュリー、私が言うのもなんだけどサ、友達無くすよ。絶対」
友人たちに対する慈悲の欠片も感謝のへったくれもない台詞に、フランがぽつりとつぶやいた。
パチュリーがやったこと。それは、咲夜と美鈴以外の人物の意識を話の途中から本に放り込むことだった。本が咲夜たちに掛けた魔法の終了条件、それはこの話が最後まで行くこと。それはすでに分かっている。ただ、本のストーリーは刻一刻と本自身と中の咲夜たちによって書き換えられており、話はどう転ぶか分からない。ならばと魔女が考えたのは、話の途中で他の人物を本の中に入れ、ストーリーに影響を与えるというものだった。それによって、話を早く終わらせられないかと。
咲夜達を助けるという意思は十分わかる。しかし吸血鬼姉妹はその方法の詳細を聞いて仰天した。それというのが「本の中で主人公が死ねば話は終わる」というえげつないモノだったからだ。
「レミィの書いてくれた登場人物リストの中からよさそうなの選んでみたんだけど。うまく行かないわね」
「‥‥パチュリーってさ、ラスボスだよね」
「そう?」
「主人公殺そうとして刺客送り込むとか」
「なるほど」
フランはあごを机にのせたまま、魔女に話しかける。
レミリアが最初に読んだ時の本の内容では、主人公の盗賊少女にはあまたの敵が立ちはだかる。隣国の賞金稼ぎや、儀に駆られた戦士。親の敵と襲い掛かるみなしご少女に魔物たち。それらの中からパチュリーが選んだのは賞金稼ぎ。二人組で、魔法と暗殺術を使って主人公を追い詰める強敵だ。パチュリーはその役に、魔理沙とアリスを当てることにした。強力な魔法を使い、手先も器用な魔女達なら、きっと役通りの、もしかしたらそれ以上の“働き”をしてくれるものと思って。
しかし、結果はパチュリーが期待した通りにはならず、咲夜は暗殺者の襲撃を避け、美鈴は魔法を防ぎ、互角に立ちまわっている。当の魔理沙とアリスは、それぞれドラゴンとアラクネという役が付き、最初はもくろみ通りに咲夜を追い詰めたのだが。
「魔法使って、役に呑まれないように自我をコーティングしてみたんだけど、メタフィクションな展開は起きてないし。丸っきり役になりきったみたい」
「ストーリーは変えられないのかなぁ。なんか、だめっぽいじゃん」
「そうね」
ドラゴン魔理沙が出てきたとき、フランは少し状況を忘れてよろこんだ。あの魔理沙が普段の性格そのままにワイバーンになって暴れまわっているし、アリスは勝気な異形の暗殺者。咲夜と美鈴の時もそうだったが、その様子にフランは演劇チックな非日常感を覚えたのだ。
ちなみに、1回目の写しをしたときは二人の暗殺者は普通の人間だったのだが、アリスと魔理沙が本の中に入ると聞かされた2回目の写しでは、その役には二人の名前が入り、キャラクターもドラゴンとアラクネになり話の形も変わった。大筋は大体同じだったが。
肝心の変化したストーリーは魔理沙がドラゴンの正体を現して暴れ始め、美鈴が駆け付けたところまで進んでいた。
「続きはまだ、“出てこない”んだよね」
「そうね‥‥レミィ」
「‥‥」
「レミィ!」
「んはっ!」
傍らの椅子で眠りこけていたレミリアが跳ね起きる。その手には、あの本が。
レミリアがパチュリーから指示された、元の話の荒筋を書き出す作業はすでに終わっていたので、彼女はフランの手伝いとして本の内容を監視、読みだす役をしていたのだ。何回も何回も本をめくっては内容を確かめて差分を妹に読み聞かせ、妹はそれを書き写し。2回目の写本終了と同時に、妹と同じく姉も力尽きて本を抱いたまま寝始めていた。
「レミィ、寝ちゃだめよ。寝たら本に吸い込まれるかもしれないわ」
「もう何回もこの本と寝てるわよ。何をいまさら」
「ああ、そうよね。レミィ、その本貸して」
「落とすんじゃないよ。咲夜達が入ってんだからね」
「気を付けるわ」
眠たげに眼をこするレミリアから本を受け取り、パチュリーはぺらぺらとページをめくる。写本と時々読み比べ違いがないか確かめながら。
「ふむ。まだ、続きはないわね」
「ふうん」
フランは新たに書き写すべき続きが無くて安心したような、ちょっと期待はずれのような複雑な表情をした。
「‥‥ねえ、妹様」
「なに?」
パチュリーによばれ、フランはぐでんと投げ出していた体を起こす。
「魔理沙とアリスだけど、いつからいた?」
「ん?」
「ついさっきアンタが連れ去ってきてからでしょ」
一瞬質問の意味が分からず、フランが首をかしげる。レミリアの突っ込みにそうじゃなくて、と答え、パチュリーはもう一度訪ねた。
「魔理沙とアリスなんだけど、いつから本の中に居た?出てきた?」
「え、どう、だろう」
「そのあたり書き写してたのって、大分前だわよ。二人の名前が本の中に初めて出てきたのは登場してから少し後だから、いつごろかしらねえ」
「‥‥私が二人に魔法をかけたのは小一時間くらい前なのよ」
「え?」
その言葉に、姉妹が驚く。
「え、パチュリー、昨日の晩魔理沙たちに魔法掛けに行ったんじゃないの?」
「そうよ。パチェがあいつら連れて来るって部屋でてったの、夜中だったじゃない。魔理沙たちを本の中に入れるって言って」
レミリアも同調する。パチュリーは二人に違う、と首を振った。
「確かに魔法はかけに行ったわよ。小悪魔使って、紅魔館に来るように仕向けにね」
「え」
「寝てる人間二人も抱えて来るなんて大変だから」
「え‥‥?じゃあ、寝てる2人を拉致してさっきここまで連れて来たんじゃないの?」
「んな疲れる真似しないわよ。私はそのとき図書館で術の準備をしてただけだわ。二人には催眠魔法使って自分で紅魔館まで来るように仕向けて、睡眠薬盛った」
「鬼め」
「鬼に鬼って言われたかないわね」
「やかましい。貴様は鬼だ」
「お褒めいただき光栄よ」
吸血鬼の非難に澄ました声で答える魔女。その傍らで、フランがはっと顔をあげる。
「ちょっと待って‥‥私、魔理沙たちが本の中に入ったのって夜中だと思ってたけど、じゃあ朝なの?ついさっきなの?」
「そうよ」
パチュリーは自分の言わんとしていることを察してくれた様子のフランにこくりと頷いた。
レミリアも彼女達の疑問に気が付き、天井を見上げる。
「‥‥魔理沙ドラゴンが出てきたのって、ううん、そこを書き写してたのって、それよりも確実に前だわね。6時頃かしら」
「その時間、まだ魔理沙たちは本の中に居なかったんだよ、ね」
「そうなるわね」
「じゃあ、なんで魔理沙とアリスの名前が出てくるの?」
フランの問いかけに、パチュリーは答えなかった。フランはさらに言葉を続ける。
「一回目に書き写したとき、あの殺し屋たちは普通の人間だった。一回目の書き写しが終わったのって、今日の朝。4時くらい。その後二回目の書き写しが終わったのって」
「7時くらいよ」
「え、その時間まだ魔理沙たちは‥‥」
「私が魔法掛けてる真っ最中だわ」
部屋に一瞬沈黙が満ちる。一番最初に口を開いたのはレミリアだった。
「おかしくない?」
「そうね‥‥」
「そうね、って」
彼女達が本に入る前に、すでに本の中には彼女達がモデルの人物が登場しているのだ。まるで、“予想していたかのように”。フランが気味悪そうな顔をする。
「偶然、じゃないの?ねえ、パチュリー。ほかにも名前出てきてるキャラクター居るじゃない。幽香とか。そいつらみたいに本が“勝手”に役名つけたキャラに、偶然パチュリーのたくらみが一致しただけ、とか」
「‥‥そう、よねえ」
「歯切れ悪いな」
「そう、たぶんそうだわ、ありえない。もしそうだとしても、こんな本なんかに、そんな真似‥‥」
パチュリーが何かつぶやきながら、本を撫でる。その古い羊皮紙の表面には、また一文、新しいストーリーが浮かび上がってきたところだった。
「とりあえず、監視は続ける。次の手を考えるわ」
「次、ねえ‥‥」
レミリアが、手元の紙の束を拾い上げる。そこには最初に読んだ時のストーリーが箇条書きで書き連ねてあった。
「‥‥早いとこ助けたいんだけど。あんまり、可愛そうな目には会ってほしくないんだけどねえ」
「吸血鬼が何言ってんのよ。可愛い子には何とやらでしょ」
「うーん‥‥」
パチュリーのつぶやきに呻り返しながら、レミリアはぱらりと紙をめくる。そしてある一文を睨み付ける。
そこには、ある章の小見出しが書いてあった。
「まあ、何とかなるか、なぁ‥‥」
「襲撃と壊滅」という、物騒な小見出しが。
******************
「そんな怖い顔しなくても。取って食ったりしませんよ」
「しようとしてたじゃないか!さっき!」
焼けていない森の中。広場のように開けた一角で。アヤに連れられた私達は、それぞれ三角形の頂点に座るようにお互いに距離を置いて座って向き合っていた。サナエとマリサは、“変身”して人間の姿になっている。マリサは最初にあった時のフード姿。サナエはといえば、裸足、両耳にピアス、両手両足に金の輪飾り、それらを結ぶさらりとした羽衣。体を覆うゆったりとした純白の薄絹という、場違いに神々しい衣装を身にまとっていた。首にだけは、ごつくて真黒な、金属の首輪が嵌まっている。神獣と名乗ったが、それにふさわしいと思える姿だった。美鈴だけが、龍の姿で私を守るようにとぐろを巻いている。
「ふむ。見る限りじゃあ結構な実力を持っているようでしたが、まだ首輪してないんですねえ。メイリンさんは」
「はあ」
興味深そうにこちらを見つめて首をかしげるアヤに、私はうろんげに応える。ハタテもそんなことを言っていたが、美鈴だけはここに居るドラゴンの中で唯一首輪をしていない。ドラゴンとドラゴンライダーにとって重要なアイテムなのはなんとなくうかがえる。第一、すごく便利そう。あれを付けていると、ドラゴンは人間の姿をとれるらしい。人間の姿になったドラゴンは、そのままドラゴンライダー以外とも言葉も交わせるようになるみたいなのだ。そうなったら、いつでも美鈴、私についてこれるのに。今晩のようなことも起こらなかったかも。
どうやったらあの首輪手に入れられるのか、聞こうかなと考えていた私だったが、ありすの声にその思考はさえぎられた。
「はん。期待外れ期待外れきーたーいーはーずーれ!せっかく獲物を見つけたと思ったらなんだか中途半端な人狼に首輪なしのドラゴンだし。もちょっと手ごたえのあるやつじゃないと私に釣り合わないっての」
「また、首へし折られたいのかしら」
「ああ?」
「はいはい。やめてください」
はふん、とため息を吐いて挑発してきたありすに、私は牙を剥いて唸る。にらみ合う私達を、またアヤが止めた。
「賞金稼ぎということですがね。依頼元は、まあ想像できますね」
「ふん。ああもう商売あがったりだわ。名前はばれてる、依頼人もばれてる。第一獲物とこうやって話してる時点でアサシン失格よ」
「いや、散々私達に向かってべらべら名乗ってたし」
「殺す相手には礼儀尽くすのよ」
「第一ついてきたの、アンタからだし」
「だって、マリサが」
「わ、わたしのせいかよ!」
話を振られた飛竜の少女が、があ、とあわてて吠える。しかしその目は、サナエから離れることがなく。
「うふふ」
「ひいっ!?」
にたぁ、と笑ったサナエに睨まれ、マリサは悲鳴を上げて背中を丸めた。殺し屋がこうやってターゲットと話してるなんて間抜けな光景、図書館にある漫画でもそうそう見ない。でもこうやってそんな光景が出来上がっているのは、すべてあの神獣サナエのせいである。
彼女のドラゴン姿は、白蛇。ドラゴンと蛇は違う気もするが、大蛇と龍なら、たぶん誤差の範囲。アヤは「腐れサーペント」とも言っていた。
そんな彼女は、どうもこの世界では飛竜の天敵のような存在らしい。‥‥見た目は猛禽類と蛇だから、関係は逆のような気もするけど。とにかく、蛇に睨まれた蛙、もとい白蛇に睨まれた飛竜なマリサは、ありすの叱咤激励も耳に入らず、さっきまでの勝気な言動はどこへやら、サナエににらまれてすっかりおとなしくなってしまっていた。「言うこと聞かなきゃ食べます」との一言に、「い、言うこときこう!とりあえず、今は!いまだけ!」と懇願する飛竜の姿は、たぶんハタテに見せちゃいけない。きっと新しいえげつない民謡が出来上がる。
そんな彼女の隣に座る“ご主人様”。真っ黒い服のお役人。見た目は私と変わらないか少し幼い位の少女、というか、モデルの射命丸から帽子を取って黒い服を着せただけ。一見いつもの文屋に見えちゃうけど、言動や仕草、声色は、見た目通りの少女のあどけなさを時々見せる。サナエに対してはまるきり豹変して横柄な態度をとるのだが。しかし、こんな子が役人とは。どんな国なんだろ。ここ。
「さて、本題にうつりたいんですが、いいですかね」
「さっさと言えば。もう帰りたいのよ。私は」
ぎりぎりとありすが殺気立った表情で、顔の緑の刺青を歪ませる。アヤはこっちも見ていて腹が立つほどの薄ら笑いを変えずに、顔の前で人差し指を立てた。真っ黒いシャープな服装が、少女の顔に浮かぶ胡散臭い表情に壊滅的に似合っていない。
黒い少女は蜘蛛女に睨まれつつも、その薄ら笑いのまま、はきはきとした口調で言を続けた。
「お願いがあるのです」
「お断りよ」
「聞いてください」
「イヤ」
「実はですね」
「嫌っつってるでしょ!」
「しゃー」
「ありす!聞こう!」
「ちょっとぉ‥‥!」
抵抗する蜘蛛女だったが、蛇の脅しに屈した頼りない相棒の懇願に、情けなさそうな声を出した。
「はい、ありがとうございます。実はですね‥‥」
「絶対性格悪いわよね、貴女」
「ちょ、だから、話しさせてくださいよ‥‥ 」
私の突っ込みに話を中断させられたアヤは、初めて嫌そうな顔をした。よし。弄れた。
「こほん。きょ、今日私が‥‥」
「自分でコホンていう人初めて見た」
「あ、私もです」
「貴女達も大概性格悪いですよね!」
私と美鈴のダブル攻撃にアヤはさらに情けなさそうな声を出す。弄り方さえわかれば、意外とかわいいかもしれない。彼女。
「ええい、お願いというのは、みんなの力を借りたいということで」
「端折りすぎてて訳が分からない!」
蜘蛛女が吠えるが、今度ばかりはアヤは彼女を無視して話を続けた。
「今、この国は戦争をしています。まあ、長い戦争ですよ。半分行事みたいなね。だらだらだらだら続いて、正直いやんなってます」
やれやれ、と肩をすくめて見せるアヤ。‥‥戦争してる国の役人がそういうこと言っていいんだろうか。ありすはけっ、とため息を吐いた。
というか、そんなゆるい状況なのだろうか。あの村の様子を見ていると、戦争の匂いはしないけど。第一、観光客とか言ってる時点でおかしいきがする。
「いまさら、戦争始めた国の人間が何言ってんだかね。なに?私とマリサで暴れろとでも言うの?それで戦争終わらせろとか?私の雇い主よりいい値段言ってくれたら考えないでもないわよ」
「そこの交渉は後程」
「するつもりなの!?」
「ま、ある意味。ですが今回お願いしたいのはそんなみみっちいことじゃありません」
戦争終わらせるということをみみっちいと言ったのか、この女の子は。
「とある竜と、そのドラゴンライダーがいるのですが、そいつらをやっつけたいのです」
「は」
あっさりとしたその内容に、おもわず気の抜けた声がでる。アヤは私の方を向いて、むう、と頬を膨らませた。だから、仕草がいちいちワザとらしいのよ、ねえ。
「竜をやっつけるだけ、とはいえ、簡単なことじゃないんです。だからこうやってなりふり構わずお願いしてるんですよ」
「どんな竜よ、それ」
ありすがアヤを睨む。アヤは興味を示してくれたありすにむかい、嬉しそうな顔をした。
「どんな、そうですね、まず、滅茶苦茶強い。ありえない位強い」
「分かんないっての」
「こちらに今日入った情報ですと、一匹で西国に隣り合うとある小国を、1日で丸ごと滅ぼしたとか」
「は?」
ありすの目が点になる。私もその極端な内容に思わず眉を動かしていた。一騎当千とはいえ、ドラゴンライダーはそこまで強いモノなんだろうか。
「嘘じゃないですよ。そのドラゴンライダーはある日突然その国に現れ、立ち向かう軍隊お抱えのドラゴンライダー達をなぎ倒して首都まで進攻、そのまま街を焼き払ってあっさり国を滅ぼしました」
「なによそれ。大嵐じゃあるまいし」
「ええ、おっしゃるとおり。ある意味、災害です」
こめかみに手を当てるありす。アヤは澄ました顔で説明を続ける。
「私達は以前からそのドラゴンライダーの情報を持っていました。これまでにも、そいつのとんでもない強さはこちらの知るところだったのですが、幸運なことに、そいつは全くと言っていいほど動かなかった。大人しかったのです。常識も有り暴れることもなく、規律あるドラゴンライダーです」
「はあ」
「それが最近、活動をはじめましてね」
火山じゃあるまいし。メイリンの背を撫でながら、私はアヤに聞いた。
「国を一つ滅ぼしたって言ったわね。なぜ?話を聞く限りじゃ、なんかドラゴンライダーの模範のような奴じゃない。規律もあって、強くて」
「ええ、だからですよ」
「え?」
「そいつは許せなくなったのです。ケンカしてばっかりの人たちがね」
やれやれとアヤは頭を抱えた。サナエは横でずーっとマリサを見つめている。
「許せなくなったって‥‥」
「そいつは国を滅ぼす前にこう名乗っていたそうですよ。“勇者”と」
「‥‥」
勇者。通り魔のような行動にはとても似合わない称号だ。自称ならそうなるのかしら。
「要するに、奴がこの国を狙う可能性もあるということです。だから、私達はこの国が滅ぼされないように、ケンカの手伝いをしてくれるひとを探し回っているのですよ。
「結局はあんたんとこの都合じゃないの」
「どう受け止められても結構。ただ、こうでもしないとあの竜は倒せません」
「竜?やっつけるのは竜だけなの?」
「ええ、私達が標的にしているのは竜だけです。ドラゴンライダーはどうでもいい。竜さえ止めれば何とかなります」
「‥‥」
要するに、超強くて融通も利かない自称勇者を倒すために、私達の手が借りたいということらしい。
「どうでしょう。力を貸してくれませんか」
「イヤよ」
「あら」
ありすの即答に、アヤはがくりと体勢を崩した。だから、胡散臭いって。
「なんで私達がそんな変なケンカに付き合わなくちゃいけない訳?イヤよ。滅ぼされんなら滅ぼされてなさいよ。戦争してる負い目はあるでしょ。勇者なら、悪い国にお仕置きしに来てもおかしくないわ」
「たとえそれが、女子供まで皆殺しだったとしてもですか」
「!?」
アヤのセリフに全員が沈黙する。滅ぼしたって、いや、まさかそのままの意味ってことは。
「そのままの意味です。滅ぼされたのは国の中枢や軍隊だけではない。そこに住む人々、怪物たち、魔物、その他すべて平等に焼き払われました」
「‥‥本気で災害じゃないの」
ありすが頭を抱える。私も何となく事情がつかめてきた。そんな危険な奴が勇者とか、とんでもない話な気がする。
「そう、その災害を私達は止めたい。正直私とこの腐れ蛇でも、対抗するのは難しいでしょう。力を合わせなければ、奴は倒せません」
「‥‥」
アヤは傍らの“腐れ蛇”をあごでしゃくる。さっきから身じろぎもせずにぎろぎらと、よだれを垂らしてマリサを見つめているサナエだが、アヤの言動から察するに、本気で強いようである。そんな彼女でも勝てない相手というのだ。
ありすはいつの間にか自分にしがみついて震え出していたマリサの頭を撫でて口をひらいた。
「ああ、よしよし。‥‥ま、正直そんなやつがいるとなれば、私も協力するのはやぶさかじゃないわ。でもね」
「?」
「あんた胡散臭い。話が信じられない」
「あれれれれ」
「同意見」
「えー!」
ありすの意見は至極まっとうなモノだったので、私も同じく答えた。なぜかアヤはショックを受けていた。自分の振る舞い鏡に映してみてみればいいと思うの。わたし。
蜘蛛女はショックを受けた彼女を睨み付け、マリサをしがみつかせたまま立ち上がる。
「あれ、あ、あの、行っちゃうんですか?」
「今すぐここで返事はできない。腐っても殺し屋よ。そのあたり、私で判断付ける。お前みたいな胡散臭い奴の言葉、すぐには信じられない」
「‥‥まさか、見に行くおつもりで?」
「悪い?」
「死にますよ」
アヤのセリフに、ありすが眉間にしわを寄せる。蟲の牙が、口から覗いた。
「なめんじゃないわよ。一応ここまで生き抜いてきたんだから。ケンカの仕方も逃げ方もわきまえてるつもりだわ。それにあんたみたいな奴の言葉だけ信じてうごいたら、一族の恥よ」
「一族の恥ですかあ、落ちるとこまで落ちましたねえ、ご主人。ぐえ」
「だまりゃ、この変態蛇」
軽口をたたくサナエの首輪を、思い切りアヤが引く。苦しげな声を出す白蛇を睨み付けると、すぐさまあの胡散臭い笑顔に戻して、アヤは立ち去ろうとするありすに言った。
「恥とまで言われちゃあ、今日のところはあきらめるしかないですね。でも、そこまで言うからには、どうぞ死なずに奴の振る舞いをご覧になってきてくださいな。ま、見に行ったとこで私の話を信じるしかないと思いますがね」
「そうならないように願いたいわ。こっちは」
「あ、ちょっと、ホントに行っちゃうんですか!?」
踵を返し、ありすはマリサを連れて森の奥へと進んでいく。その後ろ姿を、アヤが追いかける。
「ち、ちょっと待っててください。説得してきますので」
「はあ」
無駄だと思うけどね。
「まってくださいよー」という声と一緒に、アヤはありすを追いかけて森の中へと駆けて行った。
あとには、私と美鈴、そしてサナエが残される。
「‥‥」
「‥‥」
「ぐー」
「美鈴‥‥」
いつの間にか美鈴は寝ていた。まあ、当然かも。龍の姿の美鈴は、人間の言葉が分からないのだ。随分と長話だったし、相当ヒマだったはず。今日は沢山ケンカもしたし、しょうがないかも。
「いやあ、大物ですねえ、美鈴ちゃんは」
「‥‥そうかもね」
サナエが今度は美鈴を見ていた。この子もなんだか、なんというか薄気味悪い。主従揃ってこれじゃあ、話を聞いてくれる人、あまりいないんじゃないかしら。
そう思い、私は美鈴の頭を撫でていた。
しゃらん。
「ん?」
顔をあげると、サナエがこちらに歩いてきていた。手足の飾りがすんだ金属音を立てる。こちらを見つめる蛇の目が、爛々と輝いている。
その瞳に言い知れぬ警戒感を覚え、思わず私は立ち上がっていた。
「なに?美鈴もオイシソウとか言うわけ?あげないわよ」
牙を剥いて見せる私に、サナエはパタパタと手のひらを振った。
「違いますよ。せっかくいい夜ですし、少し、お散歩しませんか?私、いろいろとお話ししたいことがあるのです」
「私を食べたい、っていうのなら、お断りよ」
「ああ、いやいや、だから、そういう意図はありません。確かに少しかじってみたいきもしますけど」
「お断りよ」
「ああん」
サナエは「たはは」と笑う。一見立ち居ふるまいは穏やかに見えるけど、どうもこの白蛇のサナエ、なんというか油断できない。檻なしで猛獣と顔合わせているような、そんな気持ちになる。実際猛獣なんだけど。
私の気持ちを知ってか知らずか、彼女は微笑みながら、ぐっと顔を近づけてきた。
「ちょっ!」
「きれいなめだま」
私の眼球を覗き込む蛇の目。縦に割れた瞳孔が細くなる。おもわず腰の短剣に手を伸ばしかけたが、その手は目にもとまらぬ速さで抑えられた。
心臓が縮む音が聞こえたような気がした。
「っ!」
「そんな怖がらずとも」
「‥‥貴女一体何がしたいの?」
「いやあ、だから、お散歩しながらお話ししたいだけですよ」
ゆっくりと顔を放しながら、サナエはまた笑った。牙を見せて。耳のピアスが煌めき、目じりの赤いアイラインが妖しく歪む。思わずその目に吸い込まれそうになるような感覚が生まれ、私は頬の内側を噛んだ。
微かにへこむ私の頬を見て、蛇女が笑った。
「あら、魅了しているわけじゃありませんよ。オオカミさんは警戒心が強いですね」
「‥‥本能でね」
牙を剥いて唸る。まあ怖い、とサナエは笑う。そして、彼女はとんでもない台詞を口にした。
「ええ、私はお話がしたいのですよ。それだけです‥‥“紅魔館のメイド長、十六夜咲夜”さんと」
「なっ!」
彼女の口から飛び出した、予想だにしなかった台詞。それは確実に、私の時間を少しの間止めた。
*****************
「こうやってリアルなみずみずしい森の匂いを嗅いでると、ここが夢の中なんて思えなくなりますよね」
「‥‥」
沈みかけの満月が照らす森を歩きながら、サナエ、いや、早苗は両手を広げて楽しそうに言った。
“神獣サナエ”の、ドレスのような純白の薄絹の衣装が、闇夜に浮かんで輝いている。しゃらりしゃらりと手首の金の腕輪を鳴らし、裸足で草を踏みながら、早苗は踊るように森の中を歩いて行く。
「あなたまで、来てたなんてね」
「あはは、すごい話ですよねー」
気楽な様子で、早苗は答えた。ふわふわと歩きながら。
「ねえ、咲夜さん。ここがどういうところだか、咲夜さんは分かりますか?」
「え」
歌うように問いかけられたセリフに、私は間抜けな声で聞き返す。早苗はゆっくりと踊り子のようにまわりながら、笑顔で話しかけてきた。
「私はここが夢の世界だと思っています。なぜならば、私には幻想郷と、プラスしてその前の外の世界の記憶がちゃんとありますし、何よりもこの世界はできすぎています」
「出来すぎてる?」
「はい」
早苗は踊るのをやめて、こちらを向いた。穏やかな笑顔だった。
「出来すぎているのです。なんというか、うまくは言えないのですが、この世界には筋書きがあるのです。細い、線のような。たとえば、何か不都合があっても、失敗しても、奇跡のような出来事が起こって修正される‥‥というような。すべての出来事は結局その線に導かれてあるべき結末を迎え――――」
「う、うん、だいたい言いたいことは解りますわ。それは私も感じてる」
「ですよね!」
早苗は喜び、手足の飾りを鳴らしながら駆け寄ってきた。そして私の手を取って跳ねる。その仕草は幻想郷で会う普段の彼女と同じように見える。しかし、私はなんとなく違和感を感じた。なぜか。
「と、とりあえず落ち着いて話さない?そこに木があるわ。座りましょう」
「はい」
傍らの倒木に腰を下ろすと、私は早苗に、私がこの世界に来たいきさつを話すことにした。
いきさつと言っても、私達もここが本の中だとはっきり知ったわけではない。大体どこにも証拠がない。今あるのは、本に入れる魔法があるということ、その魔法が紅魔館にガイドブックの形で存在していたということ。この世界が、お嬢様の読んでいた本に何となく似ているということ。それだけだ。状況証拠にもならないかもしれない事柄ばかり。しかし早苗にはそれで十分だったらしい。私の冒険譚を、金色の蛇の目を輝かせて聞いていた。
「ふむ。なんとなくわかりましたよ」
「え?」
私の話を聞き終わった早苗はあごに手を当てると、何か納得したようにうなずいた。私はわけもわからず、彼女の次の言葉を待つ。
「わかりました。大体」
「だから、なにが」
「咲夜さんが、この“お話”の主人公だということです」
「は」
なんとなく予想していたと言えば予想していた内容を聞かされ、私は気の抜けた返事をした。早苗は私に構わず、言葉を続ける。
「多分ですけど、この世界は、咲夜さんの言っていたように本の中の世界でしょう。そして、この世界は咲夜さんたちを中心に、“動いている”」
「何を言ってるの?」
「そのままですよ。主人公たる咲夜さんたちの行動で、この世界はいかようにでも変わっていくだろうということです」
早苗はそういって、私の目をじっと見つめてきた。今度は笑っていなかった。
「咲夜さんだけが、咲夜さんたちだけが、この世界を動かせると思うのです。なぜならば、咲夜さんには筋書きがあるようでない」
「どういうことよ」
「咲夜さんは、十六夜咲夜さんとしての記憶を持ったまま、この世界で人狼サクヤとして存在しています」
「貴女もそうでしょ。さっき、記憶があると言っていたわ」
そう尋ねると、早苗は悲しそうな顔をした。
「私は違うのです。“筋書き”から逃げられない。‥‥ うん、そうか、あれは筋書きだったんですねえ。どおりで逆らえない訳だ」
「なに、それ?」
「なんというか、ルールというか。“やらなければならないこと“です。そのままの意味で良い気がしますよ。この世界に来てから、私は何回かそのような“筋書き”を強制されまして。なんどか抵抗してみようとしました。やれと言われたことをやらなかったりね。私は神獣の大蛇って役なんで、例えば、生贄の女の子を食べなかったりとか」
「‥‥」
「でもダメでしたねえ。結局は気が付けば美味しく女の子を頂いちゃってたり、他のカミサマに命じられて、村一個祟り殺して全滅させたり」
はふん、とため息をつきながら、早苗は空を見上げる。耳のピアスが月明かりにきらめいている。
「思ったように思ったことができているのは、咲夜さん、たぶん貴女だけです。美鈴さんにも、できてないはず」
「でも、ときどき私、人狼の――――」
「そこは、最低限の“役作り”なんでしょう。助けたいと思って、人狼の皆さんを助けられた。敵をやっつけたくて、やっつけられた。この村を守ろうとして、守れた。ちょっとは焼けましたけど。私には、それができない」
言い切ると、早苗はまたこちらを向いた。今度は笑顔だった。私の背筋が、小さく震える。
「咲夜さんは、この世界に来てからどれくらい経ちましたか?」
「え、えっと、まだ、十日位、かしら」
指折り数え、答えた私に、早苗はなぜか悲しそうな顔をした。
「そう、ですか。‥‥そうなんだ」
「な、なによ」
「ねえ、咲夜さん。私がこの夢の世界に来てから、どれくらいたつと思います?」
「え‥‥」
「500年です」
「ごっ――――」
がんと、頭を殴られたような衝撃が全身を駆ける。早苗のセリフに、私は二の句が継げなかった。
「正確には500と12年。ふむ。レミリアさんより年上ですねえ」
早苗は硬直する私をよそに、これじゃ妖怪ですねえ、と笑った。乾いた笑いだった。瞬間、停止していた思考が動き出す。私は思わず叫んでいた。
「そんな、嘘、嘘よ!そんなのありえない!だって、私はほんの少し前に、ここに、あなただって、私と同じ‥‥!」
「ねえ咲夜さん。本て言うのは、ある種タイムマシンなんですよ」
「は?」
「ある本があったとしましょう。そこにはたくさんの時間があります。主人公を追いかける時間。わき役を追いかける時間。ある脇役のサイドストーリーの冒頭に、『500年前の事だった。その神獣は、山の向こうのそのまた向こうで、静かに産声を上げた』なんて書き出しがあったら、どうですか?」
「――――!」
「その本には、主人公の”今”と、500年前の時間が併存することになるのですよ」
私の方に視線を向けず、遠くを見たまま、早苗は小さく笑った。
「私はこの世界に、神獣の仔として生まれたところからスタートしました。最初は、夢だと思ってた。ありえない。こんなとんでもない世界なんか夢に決まってるって。まあ、幻想郷も同じっちゃ同じですけどね。最初は楽しかった。乱暴者の神獣の役。諏訪子様のミシャグジ様達みたいな。でもね、夢はなかなか終わらなかった。一日を超え、二日を超え、一週間を超え、一か月を超え、一年を、そして――――」
「早苗‥‥」
早苗がうつむく。その表情は影になって見えない。しかし何か光るものが地面に落ちたのが見えた。涙だった。
「いつまでもいつまでたってもこの世界は終わらない!リアルなくせに筋書き通りのへんてこな世界です。寝ても覚めても、私は神獣サナエ。あはは、幻想郷で風祝やってたことも、咲夜さんも紅魔館の皆さんも霊夢さんも魔理沙さんも、神奈子様に諏訪子様、外の世界の諏訪の街も松本のお蕎麦屋さんも岡谷の喫茶店も何もかも覚えてるんですよ!記憶があるんですよ!なのに!」
「早苗、早苗もういい、辛かったよね、ね」
私は気が付けば早苗の背中に手を回して抱いていた。衣裳の下に、鱗の感触がある。異形の神獣にさせられ、500年以上も彼女はこの夢の世界に囚われていたというのだ。しかも、“東風谷早苗”の記憶を持ちながら!
「何度もね、何度も私は死のうとしましたよ。死ねば夢も終わり。この世界から抜けられる。けどね、筋書きはそれを許してくれなかった。私は何度も抵抗したけど、無駄でした」
「――――っ」
「そしてそのうちあきらめたの。これはどうせ夢なんだからと。夢ならばどうせいつか終わるはずだって。その間は気にしないで神獣サナエをやっていようって!あははははは!吹っ切れた後は、楽しかったなぁ!」
「早苗っ?」
一転、笑い始めた彼女の様子に、私はとてつもなく不穏なものを感じ、おもわず抱いていた手を離した。
「あはははははは!ねえ、咲夜さん、呪いを掛けるのって、すごく楽しいんですよ!村が一つあったとしましょう。そこに私がちょいと呪いを掛けるんです。一年たったらまあすてき。人も草木も腐り果てた酸鼻極まる地獄絵図の歓声。子供はみんな井戸に投げ込まれてるし、大人は木という木に首ひっかけて死んでるし。ねえ、こんど、見ませんか?あはははは!」
「落ち着いて、ねえ!」
「あー!ご心配なく、私はいたって平静です。平静ですよ!そうだ、今度人間の美味しい食べ方を教えましょう!頭から一飲みにするのもいいですが、咲夜さんは狼です。口が小さい。だから美味しい料理の仕方ですね!」
「いい、もういいやめて!」
人狼の村で食べたあの鍋を思い出し、私の胸の奥が激しく疼いた。なんてこと!嫌悪感ではなく、その味を思い出して喜んでいる!私は!
早苗は、私の体に手を回し、顔を近づけてきた。赤い舌をチロチロと伸ばしながら。
「ううん、心配することはありません。咲夜さんは主人公なのです!私はそうはできなかったけど、咲夜さんはいくらでもこの世界を動かせる!自由です!きっと私のように狂ってしまうこともないでしょう!」
「さ、早苗!」
「あはは!自分のことぐらい自分で分かります!そう、私は狂ってます!いきなりわけもわからない世界にたった一人で放り出されて500年!“この世界に来て500年たった”って記憶を与えられただけかとも思いましたが!どうもそうではない様子!さみしくて心細くて、ああ、なんでもっと早く、もっと早く来てくれなかったんでしょうか!ねえ、咲夜さんは!」
「ぐへっ!?」
突然早苗が私の首に腕を掛け、恐ろしい力で締め上げてきた!胴体に絡んだ腕も同じように私を挟み、締め上げてくる!息が、できない!
「が、はあぁっ!」
「寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかった寂しかったすごく寂しかった!なんでなんでなんでもっと早く来てくれないのですか主人公!ねえ!ねえねえねえ!もうっと早く来ていてくれたらこの話を終わらせていてくれたら!射命丸さんによく似た人もいましたが!彼女は私と同じではない様子だし!完全にこの世界の人物だし!ねえ、もっと早く!貴女は私の前に顔を見せてくれるだけでも良かった!そしたら私は耐えられたのです!東風谷早苗のままで耐えられたのです!しかし手遅れ!今の私は神獣サナエ!大贄喰らいの呪いの白蛇、サナエ!」
「ざ、ざな、ぐひゅっ」
『ああ恨めしいあなたが恨めしい呪ってやる呪ってやりましょう今すぐに。お前のその腕腐らせ目玉を弾けさせ、臓物を膨れ上がらせて!あはははははは』
「!?」
早苗の体から、突然黒い霧が湧いた。その霧はゆっくりと夜風に乗って、私の顔の周りに漂い出す。
『うふふふふふ。ねえ、苦しいだろう?息がしたいだろう?今この手を離したら、この呪いの霧をお前はたっぷり吸いこんでしまうよ。そうしたら、たちどころにお前の体は腐りとけるよ!村を一つ呪い腐らせる神獣の瘴気、直接たっぷり吸わせてあげるわ!人狼!』
「――――!」
早苗ではなく“サナエ”と化した彼女の呪いの霧が、私の顔の前を漂う。息が止められ、朦朧とする頭。
『ははははは!そうら逃げられない!もう逃げられない!お前の周りは瘴気でいっぱいだ!タップリまとわせてやったよ?真っ黒だろう!』
‥‥この世界では、私は思ったことができる。‥‥ああ、だったら、いまここで、「彼女に呪い殺される」という選択肢を選んでもいいんだ‥‥そうすれば、そうすれば彼女も私も、この世界から抜け出せる。この話を終わらせられる‥‥!
「――――ぐ」
『あはははは!ほれ、覚悟はついたかい?人狼!ほうら、手を放すよ。心配いらない。苦しみは少しの間だけさ。お前の体が腐って溶けるまで、ほんのちょっと我慢すればいいんだからね!』
私の首を締め上げていた彼女の腕が、ゆっくりと緩んでいく。もう何も考えられない。早く、早く息がすいたい。そうすればおわる。ぜんぶ。おわりに‥‥
『てめえっ!ご主人様に何しやがる!』
『!?』
「っ!?」
突然、怒鳴り声と共に強風が吹き荒れ、黒い霧があっという間に吹き飛ばされる。サナエは驚いて腕の力を完全に抜いた。
「がひゅっ!」
冷たい夜の森の空気が、私の肺に満ちる。呪いは、私に掛からなかった。
見上げた夜空に浮かぶのは、怒りの表情を浮かべた虹の龍‥‥
「あら、美鈴さん。どうされました」
『どうしたじゃないよ。お前、何してたんだ!今すぐ咲夜さんから離れろ!今すぐに!』
「ああ、そんな怖い顔をしないでください。大丈夫、少しお話をしていただけですから」
『離れろっ!』
「はいはい」
空から睨む美鈴に圧され、早苗は立ち上がった。美鈴は、サナエが“本物の早苗”であることを知らない。殺気を込め、睨み続けている。
「さ、さなえ‥‥まっ、て」
「分かりましたか。これが“筋書き”です。私があなたを殺そうとしても、できないのです。貴女はここで死んではならない。そういう“筋書き”なんです」
「げほっ!」
這いつくばって咳き込む私を見下ろしながら、早苗が悲しそうな声で語りかけてくる。
「ひとつ、大事なお話をしましょう」
「な、に?」
「私は元の東風谷早苗の記憶があると言いましたが、それは限定的です」
「な‥‥」
「満月の晩だけ、私は元の東風谷早苗に戻る。満月の時だけは、“筋書き”の力が弱くなるのです。そしてそれ以外の一か月の間、私は“神獣サナエ“として振る舞うのです。そうするしかできないのです。‥‥その間の記憶は全部残った状態でね」
「‥‥何、言ってるの」
「明日目覚めたとき、私はもう東風谷早苗ではない。神獣、白蛇のサナエです」
いまだにこちらを睨む美鈴を一度見上げたあとで、早苗はまたこちらに向かいお辞儀をした。
「怖い思いをさせてすいませんでした。明日からの私にも、よろしくです」
「ま、まって‥‥」
「今日のところは失礼しますよ。もうすぐ月も沈みます。私はまたサナエになる。また一か月後、一緒に居たら、聞かせてくださいね。懐かしい幻想郷のお話を」
「早苗‥‥!」
「じゃあ、失礼します」
草を踏む音が遠ざかっていく。空から美鈴が駆け降りる音。這いつくばった地面の先に、光っているのは、夜露だろうか、早苗の涙だろうか。それとも‥‥
「‥‥ぐ、うぐっ」
「咲夜さんっ!」
美鈴の大きな声を背中に受けながら、私は嗚咽を漏らしていた。
胸が空っぽになるような、とてつもない寂しさと心細さが私を覆っていた。ぼやける視界の先で、草むらで光る粒が、あとからあとから増えて行った。遠ざかる足音を聞きながら、早苗の寂しさを想って、私はひたすら泣いた。
「‥‥咲夜さん」
ドラゴンの大きな気配がする。あの何時かの森の中で私を助けてくれた、妖怪の気配がする。
その感覚だけが、私を抱きしめていてくれるような気がした。
あの、夜のように。
‥
‥‥
続く。
続き→■第8話
たくさん読めて楽しかったです
そして出ましたねースペカ。
これからが楽しみです。
ところで、小説のしの字も知らない
私なんかが言うのも恐れ多いですが、
すこし急ぎ過ぎてませんか?
描写の仕方が少しかわって来てる
ような気がします。
確かに投稿している作品は
他の読者様に見ていただこうと
して投稿していると思うのです。
が、続きものだからといって
投稿のペースは早くする必要は
無いのです。
むしろ、じっくりと練り上げて
下さい。
その方が私のように毎回を
楽しみに待っている他読者様も
喜んで貰えると思うのです。
長々と書いて来ましたが、
作者様、他読者様、
これはあくまでド素人である私の
意見ですので、
ここに書いた事に少しでも
至らないことがございましたら、
即刻削除致します。
それでは、また次回も
楽しみにしてます。
頑張って下さい。
次回もお待ちしております。
続き楽しみにしてますんで、作者さんはやりたいようにやってくれればいいと思います
早苗さんが可哀想すぎるけど、その姿が非常に可愛らしく見えるのは作者さんの愛なんだろなぁ
今回も最後までお付き合いさせていただきますよ~!
書き方は徐々に勉強して、自然に書ける域を上げていくしかない。
それとは別に作者さんの好点はストーリーテラーであること(読者を楽しませる事が出来るのも一つの持ち味)
両方合わせ持てれば心強い。
誤字
人間の姿になったドラゴンは、そのままドラゴンライダー意外とも言葉も交わせるようになるみたいなのだ。
→以外