Coolier - 新生・東方創想話

初めての喧嘩(上)

2013/05/19 01:13:34
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 私は激怒した。必ず、かの暴飲暴食の亡霊を除かねばならぬと決意した。私にはグルメが解らぬ。私は、一介の隙間妖怪である。
暇を潰し、人をからかって遊んで暮らしてきた。けれども友情に関しては人一倍誠実であった。
きょう昼時、私はマヨヒガを出発し、隙間でちょちょいのちょいっと、三キロぐらい離れたこの人里にやって来た。私には父も母も夫もない。
最近反抗期の狐の式と、可愛い盛りの猫の式との三人暮らしである。まあそれは全く関係ないのだが、私の竹馬の友である幽々子と亡霊となってから初めて出会ったのが今日であるので、彼女の好みそうな御馳走やらを買いに、はるばる人里にやって来たのだ。
あやつは質も量もどちらも求める欲張りなので、うんと奮発してさながらお正月に福袋を買いあさるおばちゃん連中の様に両手いっぱいに御馳走を買うと、
これまた豪華な紙袋に詰め込んで、白玉楼へ向かった。最近年中無休を卒業して一か月に一回くらいは休みをもらうようになったらしいがその休日を剣術の修行に当てているらしいのであんまり意味ないんじゃないかなって感じの庭師に驚かれながらも迎えられて、白玉楼の邸内に入った。




 しかしながら、もう昼時だというのに幽々子はまだ就寝中の様だった。私の様な健康的な大妖怪とは違って、普通の大妖怪は昼夜逆転生活を送っているらしい。
まあ健康的美少女の異名を持つ私とは比べるべくもないのは自明の理であるので、私は怒らずに妖夢が幽々子を起こしてくるのを待つことにした。
しかし随分深い眠りの様で、中々起きだしてこない。五分、十分と待っても起きてこない。そんなことで怒る私ではないのだが、少々の尿意を感じたので、
『う~~厠厠』と言った具合に一度厠で時間をつぶすことにした。外の世界の漫画を読み耽っていると、いつの間にか結構な時間が過ぎた様である。
もうそろそろ起きだしてきた頃かな、と通された部屋に戻っている途中、宴会やらなんやらで聞きなれた妖夢の悲鳴が聞こえてきた。
ああまた従者いじりか。あの子も飽きないものねぇと微妙に呆れながら部屋に近づいていくと、どうやらいつもと様子が違う。少し聞き耳を立てると、なんか
とんでもない会話が聞こえてきた。



『幽々子様!おやめください!それは紫様が……!』
『食べるのは任せろーバリバリ。ふぅ、おいしかったわ。妖夢もなかなか気が利くわね』



 さーっと血の気が引いて、急いで部屋に突入すると既に事は済んでいた。私が奮発して買ってきた御馳走は、見る影もなく食い散らかされ、その場にあるのはなんかテカテカしてる幽々子とがっくりとうなだれた妖夢。というか幽々子テメーそんだけ喰ったのに何で腹膨れてないんだよおかしいだろと混乱する頭の中の冷静な部分が的外れなところに目を付けていた。まあ確かにおかしいとは思うけど。
そんな訳で親友との記念日を祝うための御馳走は、跡形もなく消え去った訳である。確かに私は寛大な心を持ってはいるが、流石にこれに怒りを覚えるなというのは無理な話である。怒りに震える私に、幽々子が能天気にも程がある様子で声をかけてきた。



「あら紫、こんにちは。妖夢がこんなおいしい物をくれたのよ。主孝行な子だわ~」
「な、な、な…………」
「そうだ、紫。えっとね――」
「何をするだァ―――――ッ!ゆ゛る゛さ゛ん゛っ!!」



 なんか二人分の台詞がくっついた気がするがそんなことを気に留める余裕はなかった。某てつを並の怒声を張り上げた私は、あまりの声の大きさにビビっている妖夢の横を通り過ぎて、吃驚している幽々子にスペルカードを放った。興奮しすぎて何のスペルカードだったかは覚えていないが、幽々子はそげぶされた敵キャラ並の速度で吹っ飛んで行った。
『むしゃくしゃしてやった。反省はしているが後悔はしていない』とばかりにすっきりしている私の横を、我に返った妖夢が『ゆ、幽々子様ーっ!』とかなり慌てながら通り過ぎて行った。私は悪くないのにちょっと悪いことをした気分になった。というかなんか泣きたい気分になってきた。せっかくの御馳走は露と消えたし、幽々子を吹っ飛ばしてしまったせいでせいでしばらく白玉楼にも行けない。もうこれはマヨヒガに帰って泣くしかない、と考え、私は速攻で隙間をつくると白玉楼から立ち去ったのだった。



 ……去り際に、幽々子がこちらを悲しげに見ているのがチラッと見えて、胸がズキリと痛んだ。






「……という訳なのよ藍。酷いと思わない?ひっく。幽々子のバカ。もう知らない」
「そうですね紫様。もうその話は五回は聞いたのですがそれは置いておいて、そのあたりで酒はおやめになられては」
「これが飲まずにやってられるかってのよっ。ひっく、ぐす。ところでご飯はまだかしら」
「嫌ですねぇ紫様。昨日の夜食べたじゃないですか」
「今日の朝と昼の分は!?」
「橙にあげました。あの子は成長期ですからね」
「なんてひどい……。よよよ、外でも家でも心を傷つけられるなんて、何て不憫な。ゆかりん泣いちゃう」
「はぁ。夕飯の支度をしてきます。……あまり飲み過ぎては、お体に触りますよ」



 毒舌をはきながらも気遣いを忘れない藍マジツンデレ。そんな式の心遣いに感謝しつつも、酒を飲むのはやめない。むしゃくしゃするのを鎮めるにはこれが一番なのである。酒は百薬の長だと昔から言われているのはまあその辺りが原因なんだろうな、と思う。先程の藍との会話では微妙に茶化したが、今回ばかりは私は割と本気で落ち込んでいた。あの子はその事をよく分かっているから、酒におぼれていてもあまりきつく言わないんだろう。本当に優しい子だ。
落ち込んでいる理由としては記念日を台無しにされたのも一因ではあるが、最大の理由は、最終的には自分自身の手で今日という日を台無しにしてしまったこと。
カーッとなってやってしまった。妖怪の賢者ともあろうものが。その後悔と、去り際の幽々子の悲しげな顔が、どうしようもなく私の心を締め付けるのである。
普段は悩みも何もなく暮らしている身の上であるために、余計に深く考え込んでしまう。
酒を飲む、愚痴を零す、自分を責める。自分を責めているとまた、酒が飲みたくなる。これ以上無い程の悪循環であった。
徐々に酒に飲まれ、まどろみが頭を支配する。薄れゆく意識の中で、幽々子の事を想う。まあ、出るのは結局愚痴なのだが。



――なによ、ゆゆこのやつ。わたしのきもちもしらないで、あんなこと。
――わたしがきょうをどんなにたのしみにしてたか、あのばかはぜったいにわかってない。
――ぜったいにゆるしてやらないんだから。



 私の中にある幼稚な心が、幽々子を責める。そんな自分に抗えないまま、私は意識を手放すのであった。






――――――――――――――――――――――――――――






 どうやら紫様は寝てしまわれたようだ。夕飯の支度をしていると、紫様の寝息が聞こえてきた。あの方のことだ、どうせ自分のことを責めているうちにどうしようもなくなって、酒に飲まれたのだろう。紫様は優しすぎるのだ、と私は常々思っている。
例えば以前、天人が要石を博麗神社の地下に仕込んだ異変があったとき、紫様は珍しく本気でお怒りになられた。
私はてっきりあの天人を消し去るものだと思っていたのだが、紫様は天人と本気で勝負して勝利し、天人が建てた博麗神社を再び壊すだけで済まされた。
私は納得がいかなかった。紫様の愛する幻想郷を危険にさらした者を生かしておくことに、並々ならぬ不信感を持っていたからである。しかし、私がその事を紫様に進言すると、



『投我以桃、報之以李、よ。……あの子の事も私は信じたいのよ。だってあの子も、私の愛する幻想郷の住人ですもの』



 そう言って、優しく微笑まれた。あまりにも寛大な心は、強みになるとともに最大の弱点にもなると私は思っている。あの方がその優しさで自らを傷つけてしまわぬ為に、私は陰で支えていかねばと、その時誓ったのだ。紫様はそのようなことは気にも留めてはいないご様子ではあったが。
長々と考え込んでしまっている内に、夕飯は出来上がっていたようだ。今日は紫様が好んで食べるカレーライス。とはいえ、寝入ってしまっているのでは
起こすわけにもいかない。とりあえず火を切って、紫様の様子を見に行くと、深く寝入っている御様子だった。目の周りには涙の跡があり、ああやはり
御自分を責めておられたのだな、と思って、布団をかけようと近づくと、紫様は消え入りそうな声で呟いた。



「ゆゆこ、ごめんなさい……」



 その言葉とともに、一筋の涙が瞳からこぼれて流れていった。私は涙をそっと拭い、布団をかけて、家事に戻ることにした。
お二人が早く仲直りできるよう、全力でお手伝いしなければならないと思った。





――――――――――――――――――――――――――――





 白玉楼は、一刻ほど前からずっと暗い雰囲気に包まれていた。
明朗快活な主に元気がなければ、当然屋敷全体の空気も重く沈むこととなる。半霊も、元の体積の二分の一程に萎んだように感じる。私は後悔していた。自分がもっとうまく幽々子様を止められれば、紫様がああもお怒りになられることもなかったし、幽々子様を悲しませることもなかったのだと。しかしながら、
後悔をしたところでこの状況が打開されるわけでもなかった。こういった時、自分を責めることは美徳ではない、と私は考えていた。
お二人の仲がすみやかに改善されるよう、お手伝いをするのが先決であると。考えた挙句、私は友人である咲夜に助力を仰ぐことにした。
悔しいが、自分よりも彼女の方が従者として優秀であると分かっているからである。そう考えればここでぐずぐずしている暇はない。
私は幽々子様に一声かけて、紅魔館へ向かうことにした。



「幽々子様、少しの間外出致します。あまりお気を病まれぬように」
「……あぁ、いってらっしゃい。そんなに心配しなくても大丈夫よ、妖夢」



 幽々子様の笑顔は痛々しく、傍目から見ても無理をしているのがわかる。ずっと泣き通しだったために目は赤く腫れ上がっているし、いつものお元気な幽々子様の姿はそこにはなかった。そんな幽々子様の姿を見ているのは、こちらにとっても辛いことだ。やはりお二人の仲の改善は急務であると改めて思った。
紅魔館に向かいながらあの時のことを思い出す。紫様が怒り、幽々子様が吹き飛ばされる一瞬。


『そうだ、紫。えっとね――』


 いったい幽々子様は何を伝えようとしていたのだろうか。悲しみに沈む幽々子様に尋ねる訳にもいかず、結局わからずじまいではあるが、私はその事がどうも心に引っかかっていた。幽々子様の表情、紫様の表情、弾幕。その時の情景が浮かんでは消える中、その一場面だけが鮮明に思い出せるのだ。
とはいえ、既に過ぎ去ったことである。今私にできることは、紅魔館に向かい咲夜に助力を仰ぐこと。それ以外のことは今は考えぬことにしようと思い、前を向くと既に紅魔館は目の前にあった。地に降り立って門前まで歩いていくと、門番がこちらを窺っている様子だった。


「今日は急用があって参った。咲夜はいるだろうか」
「…………」
「……美鈴?」
「すぅ……すぅ……」


 どうやら気のせいだったようだ。普通に寝ているとどやされるため、目を開けたまま寝るという新特技を身につけたらしい。まさに才能の無駄遣いという奴か。とはいえ真面目な話をしに来たのにこうもアホな姿を見せられてはたまったものではない。無言でスペルカードを取り出し、今まさにぶっ放そうとした瞬間、額に青筋を立てた咲夜がこちらに向かってくるのが見えた。


「め~い~り~ん~?」
「…………ハッ!いやいや寝てませんよ咲夜さん!ね、妖夢さん!ちゃんと目を開けてましたよね!」
「おや咲夜。目を開けたまま熟睡する芸を身に着けるとは紅魔館は愉快な門番を雇っているのだな」
「よ、妖夢さ……」


『メイド秘技「殺人ドール」』


 もはや定番となっている門番の悲鳴が、高らかに響き渡った。自業自得である。





「なるほどね、紫と幽々子が喧嘩したと」
「ああ。あのお二人が喧嘩するのは私も初めての経験でな、いまいちどうすればいいのかわからないのだ」
「まあ確かに、ウチのお嬢様方はよく喧嘩しますからね。月一くらい」


 その後紅魔館内に行き、悩みを打ち明けると、二人は真剣な顔で聞いてくれた。どうやら紅魔館も吸血鬼の主の姉妹喧嘩が絶えず起こるらしく、咲夜と美鈴は私の話に共感を覚えた様だった。それにしても、あの二人の喧嘩を仲裁するのももっぱら咲夜の仕事らしい。心労は凄まじいものだと思うのだが、それを苦にもせず働き続けられる姿勢は、やはり私の目標としての完璧で瀟洒な従者の物であると言えるだろう。


「ふむ……。理由が単純なだけに、仲直りさせるのも簡単だとは思うのだけれど、あの二人の喧嘩となるとねぇ」
「あのお二人は長く生きられてますからね。その分心中にも複雑な感情が渦巻いているのでしょうか」
「そうなのだろうか」
「そうよ。紫は、物を失ったからではなく、記念日を台無しにした幽々子の行動に怒っているのでしょう。でも、喧嘩しているのはそれだけが理由じゃないわ」
「はい。私もそう思います。幽々子さんの食べ癖は以前からのこと。それで何かしらのいざこざが起こったのも一度や二度ではないのでしょう?」
「ああ。食べ物を巡っては、お二人はよく言い争われていたな。だがそれを引き摺るようなことは無かったのだが……」
「思うに、紫としては幽々子が御馳走を食べたことよりも、怒りのままに手を出してしまったことが気になっているのではないかしら。原因は幽々子にあるけれど、結果的には記念日を自らの手でぶち壊してしまったから、いつもの様に冗談で済ませることができない」
「多分ですけど、紫さんの心の中では二つの心がせめぎ合っているのではないでしょうか。幽々子さんを責める心と、自分を責める心。その二律相反の心が余計に仲直りを難しくしているのだと思います」
「……凄いな」
 

 そして、二人の考えにも驚かされた。いくら考えても解らなかった紫様の心中をいとも容易く推測して見せたこの二人は、やはり紅魔館の従者として
求められる素質を全て兼ね備えていると言えるだろう。美鈴の方はもう少し真面目になった方がいいと思うが。
しかしながら、原因は分かっても解決方法は話し合っても中々考え出すことができなかった。刻々と時が過ぎていく中、私は少しずつ焦りを感じ始めていた。
そこに、幼子の様でありながら深い威厳を持った声が響いた。


「おや、西行寺の所の半人半霊じゃないか。今日は我が館に如何なる御用かな」
「……レミリア殿ですか」
「お嬢様。お起きになられたのですか」


 場の雰囲気が途端に緊張を帯びる。これが紅魔館の主の威厳であろうか。幽々子様や紫様の様な飄々とした雰囲気を持たぬ分、童女の様な見た目にも関わらず、威圧的な雰囲気があるように感じられる。その紅い目で見られるのが、私は苦手だ。まるで心中の全てを見透かされているかのように感じるからである。とはいえ、今はどんな意見にでも縋りたいという状況。私はレミリア殿にも悩みを打ち明けることにした。
私の話をすべて聞き終えると、レミリア殿は私をじっと見つめ始めた。運命を見通すと言われる吸血鬼の目には、いったいどのような未来が写っているのだろうか。内心かなり緊張しながらレミリア殿の次の言葉を待っていたが、紡ぎ出されたのは意外な一言。


「……あまり余計な手出しはせずとも、この問題は勝手に解決するよ」
「そうなのですか?しかし、咲夜達の話を聞く限り、紫様の心中にはかなり複雑な感情があるように思えるのですが」
「ああ。何も心配はない。が、一つだけ気を付けなければならないことがある」
「それは」
「この出来事をあまり大事にしてはいけないよ。余計な行動は、あの二人にとって枷になるだろうから」
「…………」


 レミリア殿には何が見えているのだろうか。私の様な半人前では推察することができぬような、深い考えがあるのだろうか。しかしながら、行動を起こすなというのは些か腑に落ちない考えである。
本当にそれでいいのか、なにもせずとも、お二人は元のように笑いあえるのか。悩めども、答えは出てこなかった。しかし、もう半刻近くは紅魔館で話し込んでおり、これ以上ここにいるのは邪魔になると考えたので、私は三人にお礼を言って、紅魔館を去ることにした。


「ご相談に乗っていただき、ありがとうございました。とても参考になるお話でした」
「ああ、構わないよ。暇つぶしにはちょうどいい案件だ、またいつでも来るといい」
「私たちも手伝えるとよいのだけれどね。流石に紅魔館の仕事まで放り出すわけにはいかないから」
「陰ながら応援させていただきます。できるだけ早くお二人の仲直りができるといいですね」
「二人もありがとう。このお礼は後日させていただきます。それでは」
「ああ、待って」
「はい、何か……?」
「この後は彼岸に向かうといい。おそらく紫の式と閻魔がいるはずだ。三人でよく話し合えば、知恵も出るだろう」
「……本当に、ありがとうございます」


 レミリア殿の気遣いに感謝し、紅魔館を出て門前で一礼すると、私は彼岸へ向かうことにした。






――――――――――――――――――――――――――――






 彼岸に着き辺りを見回すと、見覚えのある二人が話し込んでいるのが見えた。藍さんと閻魔様だ。どうやら白熱した話し合いであったようで、お互いに渋い顔をして立っている。そんな二人の間に入るのは躊躇われたのだが、意を決して話しかけることにした。


「藍さんと閻魔様。こんばんは」
「おや、妖夢か。どうしたんだ……というのは聞くまでもないね。お二人の喧嘩のことだろう」
「はい。先ほどは紅魔館で話し合っていたのですが、立ち去る時にレミリア殿が彼岸へ行くとよい、と」
「私も一人で考えていては解決策が思い浮かばないと思ってな。こうして彼岸で四季様の助言を仰ごうと思ったのだが」
「……ふむ、八雲の式に西行寺の庭師ですか。今日は来客が多いものですね」
「お忙しい所本当に申し訳ありません。ところで、藍さんとの話し合いはもう終わったのですか?」


 私がそう言うと、藍さんが口を開いた。


「四季様は、手を出さずとも良いというのだ。二人に任せておけば、勝手に解決すると」
「それは、どうして」
「あの二人だからですよ。八雲は生来の頭の良さを持っている。放っておけば勝手に冷静になって西行寺に謝罪しに行くでしょう。わざわざ手を出さずとも」
「しかし、それでは」
「それでは、なんですか?余計な手を出してあの二人の交友関係が崩れるようなことがあれば、こちらとしても多大な損失なのですよ。放っておいても解決することが目に見えているのなら、自然に仲が修復するのを待つことが一番の手です。そう、貴方達は少し、エゴが強すぎる」


 またしかし、と言いかけて、私と藍さんは押し黙った。言い返す言葉が無かったからである。確かに閻魔様の言葉は全くの正論。このまま放っておけばお二人は必ず元の様な関係に戻られる事だろう。
だが私としては、早く元のような御友人に戻ってほしい、幽々子様に辛そうな顔を一瞬たりともさせたくない、という気持ちが先走ってしまう。閻魔様の言う通り、これはエゴなのだろう。お二人は私たちが余計な手を出さずとも、きっと大丈夫なのだ。しかし、私の中の我が儘な心が言うのだ。これで良いのか、と。心の冷静な部分に、我が儘な部分が従いかねているのだ。それは藍さんも同様なようで、ずっと何かを考え込むように、視線を宙に向けている。


「ともかく、余計な手出しはしない様に。何か緊急事態が起きればまた私の元へ来なさい。話は以上です」
「……わかりました。貴重なお時間を私的な相談などに割かせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
「いえ、今は二人だけの喧嘩という状態ですが、大騒ぎになりかねぬ問題ですから、報告してくれて良かったです」
「私にも、貴重なお話、ありがとうございました」
「ええ。それでは」


 お礼を言うと、閻魔様は三途の川の向こうへ飛び立っていった。閻魔様が見えなくなってから、私たちは同時にふぅと溜息を吐き、そしてお互いに笑いあった。どうやら藍さんは半刻ほど前から閻魔様と話し込んでいたらしく、ついつい感情的になる藍さんの意見を、閻魔様が完璧な正論によって抑えていたらしい。それで、あんな渋い表情をされていたのだろう。


「あの方に話し合いでは勝てんよ。やはり四季様は正しい考えをお持ちだ」
「その通りですね。何もしない、それが一番の解決策であると。……そうなのでしょうか」
「……ああ、確かにそうするのが一番無難だ。納得のいかない部分もあるがな。……ところで紅魔館へ向かっていたようだが、レミリア殿はどのような話をしていた?」
「閻魔様と同じように、何もせずとも解決すると。しかし、四季様とは違い、二人の性格から推察したというよりは先を見通しておられるようでした」
「あの方は運命を読むと言われるからな。恐らく独自の考えを持っているのだろう。……とはいえ、これで手詰まり、か」


 悔しいが、そういうことになる。あのお二人がそうするのがよいと言ったのならば、これ以上の行動は避けた方がいい。きっと、それが一番いいのだ。それ以上は考えないようにして、私は白玉楼に戻ることにした。


「それでは、私は白玉楼に戻ります」
「ああ、それなら私も付いていくよ。紫様は深く寝入っておられるから、暫くはお起きになられないだろうし」
「そうなんですか。藍さんについてきていただけるのなら心強いです。よろしくお願いします」
「まあ、これくらいなら四季様に咎められることもないだろう」


 藍さんはそう言って笑い、私の横について白玉楼に向かうことになった。多分藍さんは、幽々子様に紫様の心情を説明して、理解を求めるつもりなんだろう。確かにそれだけなら、余計な手出しとはならないかもしれない。紫様の謝罪がよりやり易くするための行動だから。ならば私も、その手伝いをするべきだろうか。別に紫様から謝りに来られずとも、幽々子様から謝られるようにそれとなく進言するくらいは、してもいいだろう。私たちの行動原理はただ一つ、主の笑顔を見ることだ。だからこそ、その為ならどんなことでもやるつもりだ。
考えながら飛んでいると、すでに白玉楼はすぐ近くにあった。庭園に降り立ち、戸口を開けて声をかける。


「幽々子様、ただ今戻りました」
「お邪魔致します、幽々子様」


 廊下を通り、幽々子様の部屋に向かいながら、私はどのような言葉をかけて差し上げるか考えていた。私の言葉で幽々子様はどう思われるだろうか、不安に思いながらも、行動しなければ何も変わらないと自分に気合を入れる。幽々子様の自室の前に立ち、覚悟を決めて襖を開く。


「幽々子様……?」


 ……しかし、私たちの考えは、無駄に終わる事となる。
襖の先、幽々子様がいるはずの部屋には、あの方の姿はなかった。妙に整った部屋は、不気味な沈黙に包まれて、私たちを迎えたのだった――――。

 
シリアルに挑戦してみるテスト。そういやゆゆ様と紫様の喧嘩ってあんまり見ないなって思ったので書き始めました。二番煎じなら申し訳ないです。後半はネタを仕込めなかったのでネタ欠乏症になりかけました。紫様復帰待ち。
それと連載なのに短くて済みません。来週は忙しいのでなかなか続きは上げられないと思いますが、生温かい目で見守っていただければ幸いです。前作に続いて拙い文章ですが、できれば批評して行ってください。よろしくお願い致します。
追記:まるまる一シーン抜けてたので一回消してあげ直しました。すみませんでした。
よぢり
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コメント



0.480簡易評価
1.50非現実世界に棲む者削除
貴方様の作品は初めて読みましたけど、文章のつながりがなっていないというか、途中で混乱してしまう部分が数多くありました。

特に藍の視点で八雲の屋敷から紅魔館へと話が代わっと思ったら、紅魔館での話は妖夢の視点に急に変わった感じになっていて、非常に分かりにくかったです。

次からはそのようなことは無くしてほしいです。

ともあれ、話の内容は面白そうなので、次回作を待ってます。
3.無評価よぢり削除
>>1さん すみません!追記にも書いた通り、まるまる一シーンが抜けていたので、藍様が話してたかと思ったら妖夢が紅魔館で咲夜さんと美鈴と話してるとかいう訳の分からない状態になっていることに、投稿した後に気付きました。
非常に読みにくく、不快な思いをさせてしまった様です、申し訳ありませんでした。
4.90名前が無い程度の能力削除
うわあ続きの気になる終わり方。後編に期待します。
5.80名前が無い程度の能力削除
ちょっと誰がしゃべってるか分かりにくいところが有った。
もう少しキャラを立たせて書くといいかも、でもとても面白い話だったので楽しみです
6.無評価非現実世界に棲む者削除
ありがとうございます。
ずいぶん読みやすくなりました。
最初のコメントにも書きましたが、次回作を非常に楽しみにしております。
7.無評価よぢり削除
>>4さん うまく完結させられるか不安ですが、すこーしづつ書き進めていきたいと思います。

>>5さん キャラに個性を持たせるのって難しいなぁ、と感じました。そこまで大量のキャラは出てないのにこれじゃちょっと不安。
みょんと藍様とレミィが見分けづらかったかな、と自分で読み直して感じました。でもみょんの口調はこれで通したいと思います。サムライガール万歳。

>>非現実世界に棲む者さん どうやらわざわざ読み直していただいたようで恐縮です(汗)
次回作できっちりと挽回したいと思います。次回作もお時間があれば読んでいただければ光栄です。
8.100名前が無い程度の能力削除
うわぁ・・・なんかおもしろくなってきたー!!
16.90奇声を発する程度の能力削除
良い感じに面白く続きが楽しみ