Coolier - 新生・東方創想話

五月病

2013/05/16 02:40:22
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 退屈は妖怪にとって最悪の毒であると思う。特に大妖怪と呼ばれる妖怪達にとっては、退屈というものはもっとも忌むべきものであり、
何としてでも忌避しなければならない。そのために、この幻想郷ではしばしば異変が起こるのである。退屈によって、己を殺してしまわぬ為に。
しかし、一年間三百六十五日ずっと退屈でないというのはいくらなんでも不可能である。例え毎日が宴会であったとしても、ふとした瞬間に退屈と
いう物はやってくる。それは避けようのない出来事であり、仕方のないことであると思ってはいるのだが。


 と、ここまで長々と心境を語ったが、結局言いたいことは一つ。


「あー、暇ね」


 ―――私、八雲紫は、現在進行形で暇を持て余していた。





――――――――――――――――――――――――――――





 暇。
ここ一週間の私の生活を言い表せと言われたら、この一文字で説明できる。どのくらい暇かと言うと、暇過ぎて四百字詰めの原稿用紙に
ひたすら暇と書きなぐっているところを橙に目撃されて、それ以来橙が私のことを怪訝な目で見つめて来るぐらい暇である。
私が冬眠する妖怪であるために、年中寝ているのだとよく勘違いされるが、それは全くの間違いである。一日の睡眠時間は人間の平均程度であり、
起きている時間の方が普通に長い。疲れていても一日中眠りこけたりはしないし、家でゴロゴロしていることもほとんどない。というか寝ている
暇があるならば、誰かにちょっかいをかけに行った方がよっぽど良いと思う。んなことするくらいなら寝てろ?やかましい。
つまるところ、私はいたって健康体ということだ。特に冬眠明けのこの時期は、しっかりと運動していないと色々やばいのである。色々。
だと言うのに、ここ一週間はほぼ家に缶詰状態。それにはやんごとなき理由がある。


 いわゆる五月病である。


 老若男女、だれもがかかるこの病。もうなんか動くのだるい。ヤバイ。ヤバイヤバイこれマジヤバイって、どれくらいヤバイかって言うと
マジヤバイってレベルで動く気力が湧かない。あー、今ならニートの気持ちわかるわ―。動いたら負けだと思ってます。
『駄目よ紫、そんな体たらくじゃ世間一般のあなたの評価そのままになってしまうわ』と囁く天使ゆかりんと、
『もうゴールしちゃってもいいじゃん(いいじゃん)。ぐうたら妖怪として生きていこうぜ』と囁く悪魔ゆかりんの脳内試合は、
ついさっき行われ、10-0五回コールドで悪魔ゆかりんチームの勝利となった。
というわけで私は暇を持て余し中という訳だ。動かないのに暇潰そうとするとかおこがましいというのはわかっているのだが、どうしても
動く気力が湧かないのである。おかげで私のないすばでーはなかなかデンジャラスな状態になっている。仕方ないね。
最近藍が私を見る時の視線が二十歳を超えても自宅警備員をしている愚息を見るような冷たいものになっている気がする。ごめんね、藍。
五月病に負けてしまう弱い主を許してと心の中で謝罪しながらも身体は動かないままなのであった。


 しかし私のそんなぐうたらライフも、午後の優雅なティータイム(※ポテチ有)中の藍の一言によってぶち壊された。


「ところで藍、最近幻想郷で変わったことはないかしら」
「ああ、その事なのですが。最近霊夢も五月病にかかったせいで、仕事をおろそかにしているようでございまして、紫様に少し注意していただきたいのですが」
「いいじゃない、ここの所平和すぎて霊夢も拍子抜けしたのかもしれないわ。霊夢の私生活に私が口出す必要はないわねと言うか外出したくないでござる」
「語尾で本心出てますよっつーかそろそろ動けよこの野郎。もう一週間目です、紫様の口先三寸で橙を騙すのもそろそろ限界だと思いますよ?」
「橙は素直な子よ。私の少女のように繊細な心中も察してくれるに違いないわ。という訳で二度寝と洒落込むと……」
「いいんですか?」
「……何がよ」


 藍があざ笑うように私を見る。何を言うつもりか知らないが、藍程度の口先で私を動かせると思ったら大間違い―――


「橙が今の私と同じように振る舞い始めても。あの子は紫様よりは私に似ているから、ありえない話ではないと思いますが」


 ……想像する。


『えー、紫様ってphantasmボスなのにノーマルシューターなんですかー?』
『ノーマルシューターが許されるのは⑨までですよねー藍様ー』


 キャハハ、と笑う式と式の式。なんやこの地獄。私の胃腸がストレスでマッハ。


「……動くのも嫌だけど、そうなるのはもっと嫌だわ……」
「わかりましたか?それでは動いてください。さあ早く」
「……はぁ。行ってきますわ」
「行ってらっしゃいませ」


 なんか嫁と娘に頭が上がらない中年サラリーマンって感じだわ、今の私。そんな情けないことを考えながら、のっそりとした動作で
隙間を開いて、私は博麗神社へ向かうのだった。




 博麗神社の境内に出て、ん~と一つ伸びをすると、体がバキボキッと鳴ってちょっと恥ずかしかった。外出するのもずいぶん久しぶりに感じるが、
実際一週間ぶりなのだからかなり久しぶりである。私は幻想郷の四季なら春夏秋冬どれも大好きなので、基本的に嫌いな季節はない。
五月は、春の残り香と夏の息吹を感じることができるとても良い時期だと思う。あ、私今いいこと言った。
くだらないことを考えながらも、幻想郷の空気を胸いっぱいに吸い込むことで、私のぐうたら心は消えていくような気分だった。
さようならぐうたらの私。こんにちは少女の私。明日からはまた活動的美少女として生きていくのよ、と上機嫌で博麗神社に足を踏み入れた。


 の、だが。
どうやら霊夢のぐうたら具合は私の想像をはるかに超えていたようである。


「こんにちは紫。帰れ」
「こんにちは霊夢。こんなお昼時にお酒とは風情がないですわね」


 ここまでテンプレ。と言いたいところだが、今日の霊夢は一味違う。なんとお昼時だというのにベロンベロンに酔っぱらっているではないか。
周りには霊夢が飲んだと思われる徳利が五・六本は転がっていた。あ、これアカン奴や。ここにいたらせっかく元の調子を取り戻しつつあった
私まで霊夢の調子に巻き込まれてぐうたら化しそうである。嫌な予感がした私は、一言注意して博麗神社を去ることにした。


「霊夢、いくらだるくても仕事はきちんとしないと駄目よ。ということを言いに来ただけなので今日は失礼するわ」
「待ちなさい、紫。あんた、博麗神社に来て酒の一杯も飲まずに帰るつもり?私の目が黒いうちは、素面で家には帰さないわよ」


 しかし、酔った霊夢の人間離れした膂力で引きとめられ、無理矢理酒を押し付けられる。というか、さっきまで言ってたことと
今言ってることが百八十度変わってるんですが。いくらなんでも飲みすぎでしょ、と顔を引きつらせる私に霊夢は、


「かーっ、飲まなきゃやってられないってのーっ。ほーらっ、アンタも飲みなさい。遠慮せず」
「……飲まなきゃ帰してくれそうにないですわね。はぁ。それじゃいただきますわ」


 断れない日本人気質って辛いよね。霊夢の声にのせられるままに酒を煽っていると、新たな来客の気配があった。
着地音から推測するに、某普通の魔法使いの様である。よかった、あの子にこの場を任せて私はそそくさと退散すれば
いいじゃないか。ようやく光が見えてきたと思った次の瞬間、私の期待は粉々に打ち砕かれた。
見慣れた箒ではなく、一升瓶を肩に担いだ某アホ魔法使いは、部屋の扉を乱暴に開いたかと思うと、


「飲まなきゃやってられないぜーっ!今日は明日の朝まで飲み明かすぞーっ!」
「おっ魔理沙、なかなかいい心がけじゃないの。よーし、今日はこの三人で飲み明かすわよーっ!」


 火に油どころかガソリンぶっかける様な発言をかましてくださった。こいつら頭のねじが三本ぐらい飛んでんじゃないのか
ってぐらいテンションがおかしい。というか魔理沙、もしかして一升瓶に跨って飛んできたの?アホなの?死ぬの?
というかこいつら本当に五月病なのかしら。私の知ってる五月病と違う。これはただの酒飲みたい病だと思うんだけど。
年中『おっさけおっさけおーさーけー』とかほざいてるロリ鬼の持病が移ったんじゃないかしら。そうとしか考えられないわ。
考え事に耽っていると、アホ巫女とアホ魔法使いが、私に文句をつけだした。


「ちょっと紫、酒がたらないんじゃないの?もっと飲みなさい!」
「そうだぜ、のまのまいぇ~い♪ってな!」


 うわあこいつら自我崩壊してるよ、と若干引きながらも、渡された酒をグイッと飲み干す。妖怪と人間では酒に対する耐性が違う
とは言え、私にも大分酒が回って来た。というかもうなんかどうでもよくなってきた。
楽しけりゃいいのよ、楽しけりゃ。若干どころか完全に投げやりになった私は、魔理沙が持ってきた一升瓶をひったくり、


「八雲紫、一升瓶一気飲み行きます!」
「おっ、いいねぇ!イッキ!イッキ!」
「イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!」
『イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!』


 アホな声を全身に受けながら一気に飲み干した、と思った瞬間、視界がブラックアウトした。後で聞いた話だと、魔理沙が持ってきていたのは鬼専用にアルコール度数が設定されている、『鬼殺し』だったらしい。そりゃ一気飲みはアカンわ、と後で後悔する私であった。




――――――――――――――――――――――――――――





 と、いう訳で。
思いっきりぶっ倒れた後、私はなんと十五時間も眠りこけていたようで、マヨヒガに戻ったのは次の日の朝になってだった。
二日酔いで頭がガンガンと痛んだが、二日酔いなんて久しぶりだったので、なんとなく能力を使って直すことはしなかった。
五月病の方はというと、二日酔いが直った後は昨日の醜態が嘘のように鳴りを潜めた。これを狙っていたのよ(大嘘)、と橙に説明すると、やっぱり紫様は凄いです!
と目を輝かせながら聞いてくれた。『いい子ね、私に似て』というと、『それはないです』と真顔で返された。ちょっとだけ本気で泣いた。
まあ、なんだかんだ言って損したことはなかったし、一件落着ね。と考えていた私だったが、本当の事件はその後に待ち構えていたのであった。


「紫様ぁ」
「ちぇ、橙?どうしたの、そんな泣きそうな顔して」
「藍様が、藍様が……」
「藍がどうしたの?過労で倒れたのかしら?」
「五月病になっちゃいました!」


その後、幻想郷の五月病異変として、幻想郷縁起の隅っこに載ったらしい。
ちなみに八雲家は終わった。


  




終われ
カリスマ紫様を書こうと思ってたはずなのに、オチなし山なし意味なしのなんか別のおぞましい何かになっていた。これが五月病か……
初投稿です。もうなんか酷い文章ですが、できれば批評して行ってください。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
追記:目標だった1000点を超えました。素直にうれしいです。皆さん評価ありがとうございます。
よぢり
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コメント



0.850簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
ゆかりんはかわいいな
3.90名前が無い程度の能力削除
五月病で崩壊してるよ幻想郷
5.90名前が無い程度の能力削除
幻想郷では五月病と書いてアル中と読む。なんか変なところで納得。
6.100名前が無い程度の能力削除
BADEND:5

~まずお酒を控えて、規則正しい生活を送ろう!~

テンポ良くスラスラ読める文章と軽妙な台詞回し、そして不意に出てくる数々のネタを良い感じに楽しませて頂きました。

こうして見ると、幻想郷の人妖達の日常は、ある側面で際どいバランスの下に成り立っているのかも知れませんね…
8.100名前が無い程度の能力削除
色々とネタ満載で面白かったです。その後の八雲家がどうなったのかが気になりますね
11.90名前が無い程度の能力削除
五月病もついに幻想入りかー。
14.無評価よぢり削除
>>1さん かっわいっいよ かっわいっいよ ゆっかりっんりん
やっぱり紫様が一番かわいいと思います。


>>3さん 五月病で崩壊寸前の幻想郷……。
そんな中、苦境を乗り越えついに自機復活を果たした『彼女』が立ち上がる!
次回、『さくやちゃんスターは砕けない』 乞うご期待!(大嘘)


>>5さん 幻想郷と書いてアル中と読み、アル中と書いて五月病と読む。
つまり幻想郷=アル中だったんだよ!(?)


>>6さん 彼女たちにとって酒を飲むなっていうのは死刑宣告と変わらないんでしょうね。
あれ、よく考えたらこの話、幻想郷の日常とあんまり変わりないんじゃ……?


>>8さん 藍様が五月病になってしまったら八雲家はどうなるんでしょうね。
自分の中では紫様はなんだかんだで家事ができるイメージ。でもこの話ではダメダメということで。


>>11さん 現代日本では五月病になる暇もないですからね。
かくいう私は絶賛五月病中です。


皆さんコメントありがとうございます。なんか帰って来てから見たら思ったよりも点数が伸びていたのでちょっとビビりました。評価を励みにこれからもがんばりたいと思います。
16.100もんてまん削除
前半のゆかりんの頭の中が共感でき過ぎてヤバイ。
そして一升瓶に跨って空を飛ぶ魔理沙が新しいw
22.無評価よぢり削除
>>もんてまんさん 魔理沙は箒に跨らなくても空を飛べるらしいですね。
某宅急便の魔女とはスペックが違うのか?
25.100非現実世界に棲む者削除
紫の少女としての可愛いさが全開ですね。
妖怪の賢者としての威厳はどこいったというツッコミを入れたくなりました。
悪い意味ではないですよ、もちろん。

2作目の後に読みましたけど、けっこう面白かったです。
最初にこの作品を読まなかったことをちょっぴり悔やんでます。

それにしてもゆかりんはやっぱり少女ですよね!
それでは失礼いたしました。
27.無評価よぢり削除
>>非現実世界に棲む者さん ゆかりんは少女です。異論は認めない。
こんなギャグで面白さを感じてくださったようで、良かったです。
29.70奇声を発する程度の能力削除
ネタも良い具合にあって面白かったです
30.803削除
カリスマとは何だったのか……
1000点超えおめでとうございます。