Coolier - 新生・東方創想話

ご主人様は毘沙門天

2013/05/15 00:28:38
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注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリ設定が存在します。





命蓮寺のとある部屋。
その日、寅丸星はいつものように書き物をしていた。
部屋には筆を滑らす音だけが響いている。

「失礼するぞ、ご主人様」

唐突に戸が開かれる。 何事かと思う事はあったが特に驚く事は無かった。
入って来た者から聞こえた声、ネックレスの音と長いロッドの擦れる音に聞き覚えがあったからだ。

勝手知ったる他人の家とばかりに遠慮も無しに入っていく。
元々を辿れば二人が共同で使っていた部屋だ、勝手も何もないだろう。
少女は入るや否や押し入れを開け、中に入っている本を見始める。
と思えば縁側に座ったり、反対の窓から外を眺めたりしていた。
随分と落ち着きのない行動であるが、部屋の主は久方ぶりに部下が訪ねて来た事に僅かながら嬉しさを感じる。
やがて、足音が止まると星はお茶の催促をしていると感じた。
筆を置くと休憩にしようと考え、振り向かずに後ろに控えているであろう部下に声をかける。

「ナズーリン。 今お茶を煎れますね」
「待って欲しい。 ご主人様、少し話をしよう」

何の事か? 星は疑問に思いながらもナズーリンに向き直す。
彼女の目に入った少女はいつもの尊大な態度は何処にもなく緊張し、どこか怯えている様に見えるものであった。

「何か大切な事ですか?」
「ああ、私もご主人様を騙し続ける罪に耐えきれなくなってな」

文字だけを見れば尊大この上ない言葉遣いだが、眉尻が下がっており非常に弱気な表情である。
何かある、と感ずる状況に星は次の言葉を待つ事にした。

「まず、私が仕えている毘沙門天様は存在しない。 毘沙門天様とはご主人様、君の事だ」
「つまり私が本物の毘沙門天?」

星が第一に感じた事は、自分に忠実なこの妖怪鼠が冗談を言うのか? という事であった。
息がやや乱れているナズーリンを見るとどうやら本気で言っていると察する事は出来、次の言葉を促すこと位はできた。

「私は毘沙門天様の遣い等ではない」
「では、貴女は何なのです?」
「もう覚えていないだろうな。 ずっと昔、ご主人様の家に勝手に住み着いた妖怪鼠さ」

稗田の取材の際に星は人食い妖怪だった頃の記憶は殆どないと答えた。
それは、本当の事だ。 だが、それより前の記憶があったかどうか等思いもよらなかった。

「話して貰えませんか? 昔の私の事を」
「ご主人様は四天王の一人、毘沙門天です」

「とある日、凶暴な大妖怪の討伐に向かい、そこで相打ちとなりました。 記憶を失った貴女は妖怪虎に姿を変えて山で暮らしていました」

「何故、自身が毘沙門天の威光を携えていたか考えた事も無かったと思いますが、それも当然です。 貴女が本物なのですから」

「聖姉弟が貴女を寺に祀ると聞いた時、私は一世一代の機会を得たと思いました」

「空位の席に返答を求めても返事は返ってきません。 そこで私は身分を偽り毘沙門天の遣いとして寺を訪れました」

「すべては憧れだった人の近くに居る為に……とこんな所さ」



一通り話を聞いた星であったが腑に落ちない事があった。

「ちょっと待って下さい。 貴女が持ってきた宝塔は、あれは何なんですか?」
「私が色々な場所で物を拾っている事は知っているだろう? あれは外の世界の超兵器を改修したものだ」

「では、今言っていた事は……」
「すべて本当だ。 監視をしていた理由は記憶の戻った君に復讐されない為。 私は憧れていた人の元に居られる幸せと同時に酷く恐れていたんだ」

ほとんど微動だにせずに話を続けていた二人であったが、ナズーリンが唐突に頭を下げて声を震わせた。

「どのような罰でも受ける。 私を救って欲しい」

目を瞑り、腕を組む。 肩の力を抜くため息を一つ吐いた。
星は顔を上に向け口を噤んだまま何も話さなかった。

ナズーリンは主人が自分に失望し”このまま去れ”と言っているように聞こえた。
当然だ、弱気な時に是非のない態度で接せられれば、そう思うのも仕方が無い。
その場に立ち上がると足音を立てずに去り、部屋を後にする為、戸に手を掛けた。

「今までご迷惑おかけしました。 もうご主人様に迷惑はかけません」
「待ちなさい!」

部屋から一歩を踏み出したナズーリンの景色が変わる。
怒号と共に力強く温かな手にしっかりとつかまれた。

(ご主人様はやはりズルい)

星の能力が発動しナズーリンは集められた。 黄金等ではない大切な財宝として。

「私はまだ何も言っていませんよ」
「私は君を騙し、君を軽んじ、君を、君を……辛いんだこの上なく、大好きなご主人様を騙していた事が」

ナズーリンは肩を震わせ、振り向けず手を握られたまま立ち尽くしていた。

「貴女は忘れてしまったかもしれませんが、少し昔の話をしましょう」

~~~~~

「ご主人様」
「これで良かったのでしょうか? これで毘沙門天様の名に傷はつかないのでしょうか」
「そうだろうな。 君が気に病む必要はない。 あの住職は八方美人だったそれだけだ」
「ですが!」
「ご主人様、君が辛いと思うのなら私にぶつければ良い。 それで君の辛さが少しでも軽くなるなら幸いだ」

~~~~~

「聖が居なくなって信者もいなくなりましたね」
「ああ」
「寺も大分汚れました。 それに二人だけだと不思議な気分です」
「ご主人様、私は君のした事を批判するつもりはないし、毘沙門天様の為によくやったと思うぞ」
「ですが、聖が……皆が……」
「泣きたければ泣け。 隠す必要は無い、辛ければ私が受け止めてやる」
「うぅぅ、うわぁぁ……」
「ご主人様、他の誰が君を責めようとも私はいつまでも君の味方だ」

~~~~~

「ナズーリン」
「何だ? 聖が復活するんだろ? その準備をしなくて良いのか?」
「宝塔を失くしました」
「……嘘を言うな。 何年の付き合いだと思っている」
「失くしました」
「聖か……怖いのか?」
「失くし……ぅぅぅ」
「逃げるのもいいかもな。 飛倉も砕け散ってしまったし。 まぁ、選ぶのは君だ。 決めたら教えてくれ」



「決めたか? どうする?」
「怖いんです。 聖が私を恨んでいるのではないかと」
「決められないか?」
「封印は私にしか解けません。 もう皆を騙し続けるのは嫌です。 私は私を必要としてくれた皆の為に行きます」
「そうか、長かったな。 ご主人様、命令を」
「飛倉の回収をお願いします」

~~~~~

昔の話しを終え星はナズーリンに聞いた。

「何故この話をしたか解りますか?」

ナズーリンから答えは返って来なかった。
ただ、すすり泣く声だけが返って来ている。

「今の話は私の感謝の気持ちです。 幾度となく私は貴女に救われ、支えられてきました」

手を離そうとするナズーリン。
反対に星は手を強く握っていた。

「ナズーリンは私にとってとても必要です。 毘沙門天としての命令ではありません。 私の為に私の傍でこれからも支えて下さい」

ナズーリンの手から抵抗がなくなる。
それでも、今の状況から振り向けずにいた。

「もし、私の傍から離れてしまうのなら、手を離して下さい」

星は手を強く握っていた。 絶対に離さないという態度の現れであった。
ナズーリンの答えは聞かなかった。 ナズーリンも答えを言う気になれなかった。

「では、行きましょう」
「どこへだ? ご主人様」

丁度、その時分に聖が外から戻って来ていた。
ナズーリンの手を引いていた星は聖を呼び止める。

「聖。 改めて紹介します。 こちら毘沙門天の使いにして私の部下のナズーリンです」

満面の笑みで紹介する星を余所に聖はその意味を理解する事が出来なかった。
解釈は人それぞれ楽しんで頂ければ幸いです。
まいん
[email protected]
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コメント



0.420簡易評価
3.60名前が無い程度の能力削除
ガラッ 話は聞かせてもらった、世界は滅亡する …的なノリとテンポの速さ
内容や設定は面白かったが、どうにも展開が駆け足過ぎた印象
5.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
6.100名前が無い程度の能力削除
まいーん!
良かったぞ!
7.70名前が無い程度の能力削除
冒頭の注意は必要ないかと思います。
えらくコンパクトにまとめてあります。テンポがよくて良いのですが、それゆえ物足りなく唐突で、その設定にした意義が感じられない部分があります。
13.80奇声を発する程度の能力削除
ちょっと唐突な部分があったかなと
14.603削除
なんかタイトルから勝手にナズーリンと星がいちゃいちゃするSSだと思ってしまった……死にたい