―――――――どれだけ時が経って大人になろうとも、周囲の環境ががらりと変わっても、現在(いま)でも変わらず愛し続けている少女(ひと)がいる――――――――
それは今から10数年前の19XX年 8月 某日 午前10時過ぎの出来事だった。
この日は雲一つ無い透き通るようなセルリアンブルーの空の上に太陽がギラギラと輝いていた。気温の方は35度以上はあったであろう。
前日に大雨が降った為に湿度が上がっていると言う事もあり蒸し暑かった。おまけに朝から周囲の山や雑木林の中で油蝉が大合唱をしている事もあり、尚更体感温度を高くさせている。
今でこそ何処の家庭に行っても1台は置いてある冷房器具もこの時代にそれらを所有しているのは一部の資産家だけであったからこのような山奥の村落の農家に置いてある筈などなかったのだ。
このように暑くてどうにもならない時は裏山に流れている川で日が暮れるまで涼みに行くというのが当たり前だった。
僕はこの日も川へ行って蟹を取りに行くつもりだった。
「夕方までには帰って来なさーい。」
僕は玄関に置いてあった麦わら帽子を被ると台所からそう呼びかける母親の声を尻目に虫籠片手に勢い良く自転車をに乗り、畦道を走って裏山へと向かった。
裏山には人の手が施されていないブナやミズナラ等の原生林が広がっており、それらが空を覆い尽くして太陽の光があまり入ってくることがない、昼でも薄暗い空間が広がっていた為、僕のような子供は勿論、大人ですらあまり入らないような場所だった。山に流れている川のせせらぎの音、風で木の葉が揺れる音、鳥の囀りしか聞こえてこないような幻想的な場所であったから僕にとって一番のお気に入りの場所だった。
僕が蟹を捕まえようと草履を脱いで川に入ると背後から少女ソプラノの声で「そこで何やってるの? 」と聞こえた。
僕は驚いて振り向くと推定12~3歳前後の当時の僕より少し年上っぽい少女が1人、大きな丸い目を見張って小首を傾げながら岩の上に座っていた。
少女は山吹色のリボンの飾りが付いた黒い帽子にトランプのダイヤの形をしたボタンと襟、袖口にフリルをあしらった薄黄色のフワフワした感じの余所行きのようなブラウスに、薔薇のような花の絵がうっすらと書かれたフリル付きの緑色のスカートという見るからに良家のお嬢様であろうという出で立ちをしていたが、ごく一般の日本人の少女と違う点が2つだけあった。
彼女の髪はカーラーで巻いたかのように緩く縦ロールになっていて、髪色は銀色がかったエメラルドグリーンのような漫画に出てくるような人工的に作り出さなければ出ないような色をしており、胸元には紫がかった群青色の閉じられた瞼のような物が付いた球体が浮かんでいた。それは左右から細いチューブのような物が伸びていて、右側の物は彼女の肩の上に近い位置にかけてピンク色のグラデーションがかかったような色でハート型を作ってから左足の先へと伸びていた。左側の物は、右側の物と背中で交差させてそのまま右足の先へと伸びていた。
「ねえ、君は誰なの? 」
僕の村にこのような無国籍風の美少女などいない。外国から引っ越してきたのだろうか? 否、こんな田舎に来る筈がない。
僕の頭は疑問でいっぱいになったが考え出したらキリがない。とりあえず彼女と仲良くなれば彼女の事が少し分かる気がした。
「あのさー……今から…………そうだ! 蟹、蟹捕まえようよ! 」
「うん! 」
僕は緊張のあまり蟹を取ろうよととっさに言ってしまったが少女は嫌がるような素振りを見せるどころか天真爛漫な笑顔を僕に向けて嬉しそうな声で応えた。
その時僕は彼女の笑顔を見て言葉じゃ言い表せないような不思議な気持ちになった。
何だろうか………単に可愛いというだけではなく彼女を見てるとそれまで心の中にあったマイナスの感情が全て吹き飛んでしまう。そんな心境だった。
僕は彼女に少しでも格好良い所を見せようと1匹でも多く蟹を取ってやると意気込んでいたがこの日に限って蟹は中々見つからなかった。
「蟹いないなぁ……」
このままでは彼女にカッコ悪いって笑われてしまう! と僕は内心凄く焦っていたら彼女が「蟹さん、1匹いたよ! 」と満面の笑みで小さな蟹を掴んでいた。
「もう捕まえたの?! 早いなぁー……… 僕も負けてられないぞっ! 」
いつにまにやら蟹取りバトルみたいな事になっていた。
どれだけ時間が過ぎただろうか。薄暗い雑木林の中にいるから時間の変化に気付かなかったが茜色の空が木々の間からうっすらと見えていた。
僕が家を出る時合唱していた油蝉の代わりに蜩が鳴いていてカラスが飛び回っていた。
「そろそろ帰らないとお姉ちゃんが心配するわ。」
「僕も。母ちゃんに怒られちゃうや。」
時間とは残酷だ。楽しい時程過ぎるのが早い。本当はもっとこの子と遊びたい。お話したい。この子の事、もっと知りたかった。
「ねえ! 」
僕は寂しい気持ちを表情に出さないようにしようと必死でポーカーフェイスを装ってたら彼女が話しかけてきた。
「今日遊んでくれてありがとうね! 凄く楽しかったよ! 」
「こちらこそ……君のお陰で凄く楽しかった。また遊ぼうよ! 」
「うん! 約束よ! 」
僕が彼女と指きりゲンマンした後の小指を眺めていたら彼女が懐から何かを取りだした。
「これあげる。」
「僕にくれるの? 」
それは青い薔薇の花束だったが普通の花屋に売られているような切り花ではなく、咲いたまま時を止めた状態と化した造花のような物であった。
「すごい…………青いバラなんて見たことない……えっと、、、ありがとう! 」
「うふふっ 大切にしてね。 」
「うん、一生大事にする。」
「じゃあ、私帰るね。ばいばーい!」
「バイバイ! また会おうね!」
彼女は出口の方向ではなく、更に山奥へと走っていった。僕は彼女の姿が見えなくなるのを確認し、自転車に乗って来た道を戻って家に帰った。
僕はその翌日、彼女と初めて出会った川へ行ったがその日は現れなかった。今日は偶々いなかっただけと思い、その次の日も、そのまた次の日も、
気が付いたら初めて彼女と出会ってから2カ月程その場所に行ったが、彼女はあの日以来一度もここへ現れなかった。
それでもどうしても会いたかったので僕は勇気を出して村で一番大きな家に住んでいる人に聞いてみたがそんな子は知らないと答えた。
彼女に一度も会う事が出来ないまま、僕は山から遠く離れた大垣という街へ引っ越す事となった。
引っ越しの前日、僕はもう一度その場所へ向かうも彼女が現れることはなかった。
サヨナラも言えないまま二度と会えなくなる。そう思っただけで胸がいっぱいになった。何だか泣きそうになった。
大垣へ引っ越してから何年経っただろうか。気が付いたら僕は20代半ばに差し掛かっていた。それでも僕は彼女の事を忘れた事など一度もなかった。
また会える。そう信じて微かな希望を胸に抱いていた。
ある日の午前1時頃、僕はいつものように眠りに就いた。
―――――――夢でも見てるのだろうか……………?
夏の日の昼下がり、セルリアンブルーの空の下で四方を山に囲まれた畦道という絵にかいたような田舎の道を自転車で
僕は走っていた。その荷台にはあの時のあの不思議な子があの当時と変わらない姿で乗っていた。
彼女はそっとほほ笑むと周囲の山や走っている畦道が無くなって果てしなく広がるこの青い空を彼女と向かい合い、指を絡め合って両手を繋ぎながら
飛んでいた。勿論羽なんて生えていない。
彼女が何かを言おうとした所で突然目が覚めた。あの時何を言ったんだろうか。夢の続きが気になり、もう一度床についたが
夢の続きを見ることはなかった。
あの夢を見てからと言うものの、彼女が今何処で何をしているのか気になって仕方がなかった僕は休みの日に美濃地方――――昔住んでいた村落へ行くことにした。
引っ越してからだいぶ時が経っている。もしかしたらあの山は無くなってしまっているのかもしれないという不安が胸を過った。
引っ越した当初の僕にとっては美濃から大垣はとてつもなく遠い所にあってもう二度と行けないんじゃないかというイメージがあったが電車に乗るようになると案外そうでもなかった。同じ県内だからか。
3時間ほど電車に揺られた後、僕はバスで村の最寄りまで行った後歩き続けた。かれこれ1時間ほど歩いたであろうか。
15年以上ぶりに見た村落はあの頃と何一つ変わっちゃいなかった。裏山も当時のまま原生林の状態で存在していた。僕はあの川に向かってなりふり構わず裏山へと続く畦道を走り出した。
あの頃と変わらない風景、音、雰囲気。僕の心は懐かしくもあり、何処か哀しげでもあった。
ノスタルジーに浸っていた時背後から聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
「久しぶりだね! 」
「―――――――――! 」
僕は思わず息をのんだ。ずっと探し続けたいたあの子が、あの当時の姿のままで僕の目の前に現れた。
彼女に聞きたい事は山ほどあったが言葉が喉の奥で詰まってしまい、頭の中が真っ白になってしまった。
「私の事、覚えててくれたんだね! 」
彼女はあの時と同じ、天真爛漫な笑みを浮かべたが何処か悲しそうな雰囲気がした。
「ねえ? 君は一体何なんだ? あとあの時聞けなかった。名前! 名前教えてよ! 」
「――――――――こ い し 」
彼女は一瞬のうちに僕の横に来て耳元でそう囁いた。
「こいし…………ちゃん…………………」
僕が彼女のいた方向へ顔を向けると彼女は突然いなくなっていた。
再会出来た喜びと彼女と余り話す事が出来なかった悲しみの両方を胸にしまって僕はバス停へと向かい、バスに乗った。
大垣行きの電車に乗り、ボックス席に座った時ふと目の前を見ると先程消えた筈のこいしが座っていた。
「なんで君がここにいるんだ?! 」
「コレを渡しに来たの。」
そう言うとこいしはピンク色のリボンが付いた赤と青のバラのリースを僕に向けて差し出した。
「わぁ………コレも君が作ったの? 」
ありがとうと言おうと顔を上げるとまたしても彼女の姿はなかった。
無情にも発車ベルが鳴りだして電車が走り出してしまった。もう二度と彼女に会う事は出来ないだろうと落胆していた時窓から手を振っている人が見えた。
四方を田んぼに囲まれた畦道の真ん中で両手を振ってサヨナラと言ってるこいしであった。
無意識のうちに僕は窓を開けて、「ありがとう、そしてサヨナラ」と叫んでいた。
気が付いたら僕の目元が熱くなり、僕は眼鏡を外して涙を拭いていた。拭いても拭いても決して枯れる事はなかった。
――――――――――――あれから僕は彼女には一度も会うことはなかった。
それでも彼女から貰った青いバラの花束と赤と青のバラのリースは今でも僕の部屋に飾られ続けていた。
彼女が結局何なのかは分からず仕舞いだった。人間なのか幽霊なのか。それとも幻なのか。それは誰も知らない。
この話を他の誰かにすると笑い飛ばされるか信じて貰えず法螺吹き呼ばわりされるかのどちらかが多かったから誰にも話さなかった。
彼女がもしこの世の物ではなかったとしても、彼女はずっと僕の心と記憶の中に生き続けていることであろう。
それは今から10数年前の19XX年 8月 某日 午前10時過ぎの出来事だった。
この日は雲一つ無い透き通るようなセルリアンブルーの空の上に太陽がギラギラと輝いていた。気温の方は35度以上はあったであろう。
前日に大雨が降った為に湿度が上がっていると言う事もあり蒸し暑かった。おまけに朝から周囲の山や雑木林の中で油蝉が大合唱をしている事もあり、尚更体感温度を高くさせている。
今でこそ何処の家庭に行っても1台は置いてある冷房器具もこの時代にそれらを所有しているのは一部の資産家だけであったからこのような山奥の村落の農家に置いてある筈などなかったのだ。
このように暑くてどうにもならない時は裏山に流れている川で日が暮れるまで涼みに行くというのが当たり前だった。
僕はこの日も川へ行って蟹を取りに行くつもりだった。
「夕方までには帰って来なさーい。」
僕は玄関に置いてあった麦わら帽子を被ると台所からそう呼びかける母親の声を尻目に虫籠片手に勢い良く自転車をに乗り、畦道を走って裏山へと向かった。
裏山には人の手が施されていないブナやミズナラ等の原生林が広がっており、それらが空を覆い尽くして太陽の光があまり入ってくることがない、昼でも薄暗い空間が広がっていた為、僕のような子供は勿論、大人ですらあまり入らないような場所だった。山に流れている川のせせらぎの音、風で木の葉が揺れる音、鳥の囀りしか聞こえてこないような幻想的な場所であったから僕にとって一番のお気に入りの場所だった。
僕が蟹を捕まえようと草履を脱いで川に入ると背後から少女ソプラノの声で「そこで何やってるの? 」と聞こえた。
僕は驚いて振り向くと推定12~3歳前後の当時の僕より少し年上っぽい少女が1人、大きな丸い目を見張って小首を傾げながら岩の上に座っていた。
少女は山吹色のリボンの飾りが付いた黒い帽子にトランプのダイヤの形をしたボタンと襟、袖口にフリルをあしらった薄黄色のフワフワした感じの余所行きのようなブラウスに、薔薇のような花の絵がうっすらと書かれたフリル付きの緑色のスカートという見るからに良家のお嬢様であろうという出で立ちをしていたが、ごく一般の日本人の少女と違う点が2つだけあった。
彼女の髪はカーラーで巻いたかのように緩く縦ロールになっていて、髪色は銀色がかったエメラルドグリーンのような漫画に出てくるような人工的に作り出さなければ出ないような色をしており、胸元には紫がかった群青色の閉じられた瞼のような物が付いた球体が浮かんでいた。それは左右から細いチューブのような物が伸びていて、右側の物は彼女の肩の上に近い位置にかけてピンク色のグラデーションがかかったような色でハート型を作ってから左足の先へと伸びていた。左側の物は、右側の物と背中で交差させてそのまま右足の先へと伸びていた。
「ねえ、君は誰なの? 」
僕の村にこのような無国籍風の美少女などいない。外国から引っ越してきたのだろうか? 否、こんな田舎に来る筈がない。
僕の頭は疑問でいっぱいになったが考え出したらキリがない。とりあえず彼女と仲良くなれば彼女の事が少し分かる気がした。
「あのさー……今から…………そうだ! 蟹、蟹捕まえようよ! 」
「うん! 」
僕は緊張のあまり蟹を取ろうよととっさに言ってしまったが少女は嫌がるような素振りを見せるどころか天真爛漫な笑顔を僕に向けて嬉しそうな声で応えた。
その時僕は彼女の笑顔を見て言葉じゃ言い表せないような不思議な気持ちになった。
何だろうか………単に可愛いというだけではなく彼女を見てるとそれまで心の中にあったマイナスの感情が全て吹き飛んでしまう。そんな心境だった。
僕は彼女に少しでも格好良い所を見せようと1匹でも多く蟹を取ってやると意気込んでいたがこの日に限って蟹は中々見つからなかった。
「蟹いないなぁ……」
このままでは彼女にカッコ悪いって笑われてしまう! と僕は内心凄く焦っていたら彼女が「蟹さん、1匹いたよ! 」と満面の笑みで小さな蟹を掴んでいた。
「もう捕まえたの?! 早いなぁー……… 僕も負けてられないぞっ! 」
いつにまにやら蟹取りバトルみたいな事になっていた。
どれだけ時間が過ぎただろうか。薄暗い雑木林の中にいるから時間の変化に気付かなかったが茜色の空が木々の間からうっすらと見えていた。
僕が家を出る時合唱していた油蝉の代わりに蜩が鳴いていてカラスが飛び回っていた。
「そろそろ帰らないとお姉ちゃんが心配するわ。」
「僕も。母ちゃんに怒られちゃうや。」
時間とは残酷だ。楽しい時程過ぎるのが早い。本当はもっとこの子と遊びたい。お話したい。この子の事、もっと知りたかった。
「ねえ! 」
僕は寂しい気持ちを表情に出さないようにしようと必死でポーカーフェイスを装ってたら彼女が話しかけてきた。
「今日遊んでくれてありがとうね! 凄く楽しかったよ! 」
「こちらこそ……君のお陰で凄く楽しかった。また遊ぼうよ! 」
「うん! 約束よ! 」
僕が彼女と指きりゲンマンした後の小指を眺めていたら彼女が懐から何かを取りだした。
「これあげる。」
「僕にくれるの? 」
それは青い薔薇の花束だったが普通の花屋に売られているような切り花ではなく、咲いたまま時を止めた状態と化した造花のような物であった。
「すごい…………青いバラなんて見たことない……えっと、、、ありがとう! 」
「うふふっ 大切にしてね。 」
「うん、一生大事にする。」
「じゃあ、私帰るね。ばいばーい!」
「バイバイ! また会おうね!」
彼女は出口の方向ではなく、更に山奥へと走っていった。僕は彼女の姿が見えなくなるのを確認し、自転車に乗って来た道を戻って家に帰った。
僕はその翌日、彼女と初めて出会った川へ行ったがその日は現れなかった。今日は偶々いなかっただけと思い、その次の日も、そのまた次の日も、
気が付いたら初めて彼女と出会ってから2カ月程その場所に行ったが、彼女はあの日以来一度もここへ現れなかった。
それでもどうしても会いたかったので僕は勇気を出して村で一番大きな家に住んでいる人に聞いてみたがそんな子は知らないと答えた。
彼女に一度も会う事が出来ないまま、僕は山から遠く離れた大垣という街へ引っ越す事となった。
引っ越しの前日、僕はもう一度その場所へ向かうも彼女が現れることはなかった。
サヨナラも言えないまま二度と会えなくなる。そう思っただけで胸がいっぱいになった。何だか泣きそうになった。
大垣へ引っ越してから何年経っただろうか。気が付いたら僕は20代半ばに差し掛かっていた。それでも僕は彼女の事を忘れた事など一度もなかった。
また会える。そう信じて微かな希望を胸に抱いていた。
ある日の午前1時頃、僕はいつものように眠りに就いた。
―――――――夢でも見てるのだろうか……………?
夏の日の昼下がり、セルリアンブルーの空の下で四方を山に囲まれた畦道という絵にかいたような田舎の道を自転車で
僕は走っていた。その荷台にはあの時のあの不思議な子があの当時と変わらない姿で乗っていた。
彼女はそっとほほ笑むと周囲の山や走っている畦道が無くなって果てしなく広がるこの青い空を彼女と向かい合い、指を絡め合って両手を繋ぎながら
飛んでいた。勿論羽なんて生えていない。
彼女が何かを言おうとした所で突然目が覚めた。あの時何を言ったんだろうか。夢の続きが気になり、もう一度床についたが
夢の続きを見ることはなかった。
あの夢を見てからと言うものの、彼女が今何処で何をしているのか気になって仕方がなかった僕は休みの日に美濃地方――――昔住んでいた村落へ行くことにした。
引っ越してからだいぶ時が経っている。もしかしたらあの山は無くなってしまっているのかもしれないという不安が胸を過った。
引っ越した当初の僕にとっては美濃から大垣はとてつもなく遠い所にあってもう二度と行けないんじゃないかというイメージがあったが電車に乗るようになると案外そうでもなかった。同じ県内だからか。
3時間ほど電車に揺られた後、僕はバスで村の最寄りまで行った後歩き続けた。かれこれ1時間ほど歩いたであろうか。
15年以上ぶりに見た村落はあの頃と何一つ変わっちゃいなかった。裏山も当時のまま原生林の状態で存在していた。僕はあの川に向かってなりふり構わず裏山へと続く畦道を走り出した。
あの頃と変わらない風景、音、雰囲気。僕の心は懐かしくもあり、何処か哀しげでもあった。
ノスタルジーに浸っていた時背後から聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
「久しぶりだね! 」
「―――――――――! 」
僕は思わず息をのんだ。ずっと探し続けたいたあの子が、あの当時の姿のままで僕の目の前に現れた。
彼女に聞きたい事は山ほどあったが言葉が喉の奥で詰まってしまい、頭の中が真っ白になってしまった。
「私の事、覚えててくれたんだね! 」
彼女はあの時と同じ、天真爛漫な笑みを浮かべたが何処か悲しそうな雰囲気がした。
「ねえ? 君は一体何なんだ? あとあの時聞けなかった。名前! 名前教えてよ! 」
「――――――――こ い し 」
彼女は一瞬のうちに僕の横に来て耳元でそう囁いた。
「こいし…………ちゃん…………………」
僕が彼女のいた方向へ顔を向けると彼女は突然いなくなっていた。
再会出来た喜びと彼女と余り話す事が出来なかった悲しみの両方を胸にしまって僕はバス停へと向かい、バスに乗った。
大垣行きの電車に乗り、ボックス席に座った時ふと目の前を見ると先程消えた筈のこいしが座っていた。
「なんで君がここにいるんだ?! 」
「コレを渡しに来たの。」
そう言うとこいしはピンク色のリボンが付いた赤と青のバラのリースを僕に向けて差し出した。
「わぁ………コレも君が作ったの? 」
ありがとうと言おうと顔を上げるとまたしても彼女の姿はなかった。
無情にも発車ベルが鳴りだして電車が走り出してしまった。もう二度と彼女に会う事は出来ないだろうと落胆していた時窓から手を振っている人が見えた。
四方を田んぼに囲まれた畦道の真ん中で両手を振ってサヨナラと言ってるこいしであった。
無意識のうちに僕は窓を開けて、「ありがとう、そしてサヨナラ」と叫んでいた。
気が付いたら僕の目元が熱くなり、僕は眼鏡を外して涙を拭いていた。拭いても拭いても決して枯れる事はなかった。
――――――――――――あれから僕は彼女には一度も会うことはなかった。
それでも彼女から貰った青いバラの花束と赤と青のバラのリースは今でも僕の部屋に飾られ続けていた。
彼女が結局何なのかは分からず仕舞いだった。人間なのか幽霊なのか。それとも幻なのか。それは誰も知らない。
この話を他の誰かにすると笑い飛ばされるか信じて貰えず法螺吹き呼ばわりされるかのどちらかが多かったから誰にも話さなかった。
彼女がもしこの世の物ではなかったとしても、彼女はずっと僕の心と記憶の中に生き続けていることであろう。
一つ残念なのが、読点の少ない部分が少し多く、文章が読みづらかったことです。
また、作品をお書きになられた際は、ぜひ読ませていただきますね。
これで絵の方がメインとか言われても困る。
このようなエピソードはいろいろ読んできてましたけど、一番感動したのはこの作品です。
山の田舎はいいですね。
山には昔から天狗や鬼などの妖怪がいるとされていて、昔の子供達にとって山は遊び場の一つだったんですね。
私は海に近い田舎に住んでいるので、こういったお話には憧れたりします。
私もこいしのような子と話したり、遊んだりしたいです。
もちろん、こいし本人ともそうしたいです。
ああもうコメントしているだけで泣きたくなってしまいました。
という訳でこの辺で失礼いたします。
良い作品でした。