このSSには『サディスト』で物事を大きくする程度の能力な大妖精と、冷気を補充できないと一回休みになってしまうチルノの『恋愛要素』が含まれます。閲覧の際はご注意ください。
大ちゃんは意地悪だ。
いつもアタイに向かって『チルノちゃんはバカだね』そう言って笑う。
でも、大ちゃんが好き。今日みたいに暑い真夏の日にもアタイの横で、こちらを気にしてる。
真夏の間、アタイの時間は夜や曇りの時だけで、それ以外は暗い洞窟の奥でちょっとでも涼しい所を見つけて倒れてる。
ここはひんやりとしてちょっと臭い、苔が柔らかいから寝るのには困らないけれど、家具を大ちゃんが運んできてくれてベッドまである。
大ちゃんはアタイみたいに暑いのが苦手というわけでも無いのに、じめじめしたここにいつも一緒にいてくれる。本当は草みたいに綺麗な緑の髪は、太陽の下で一番輝くのに。
妖怪や人間たちは大ちゃんのことをアタイより弱いと思ってるみたいだけど、本当はアタイよりもさらに最強なことを知っている。
今だって、アタイが集められない冷気を、こっそり集めてくれている。本当は大ちゃんもずっと力を使ってると疲れるのに、アタイにばれないように本を読むふりまでして優しい冷たさをくれている。
大ちゃんの定位置であるイスと本棚は私の転がるベッドから三歩くらい離れてて、小さなランプがゆらゆらと手元や顔をなでている。
暗い暗いこの場所は、音が何回も転がるとこで、ページをめくる小さな音も二回三回と転げるのだから、アタイにだっていつもより読むのが遅いと分かる。
それでも大ちゃんは本に夢中なふりをして、この前ひろってきたおもちゃのメガネを直しながら、本に向かって『へぇー』とか『ふぅん?』とか話しかける。
本当はこっそりの優しさよりも、力なんて使わなくていいから本じゃなくアタイに話しかけてほしいのだけど、以前そう言ったら『チルノちゃんはバカだね。苦しむチルノちゃんを近くで見てたら私、我慢できなくなっちゃうよ』って。
それからずっと大ちゃんはアタイにばれないように力を使ってる。
本に話しかける大ちゃんは、ちらりとアタイを見ることが多い。すぐ本に向き直るけど、アタイはずっと大ちゃんだけを見て過ごすから何回こっちを見たかまで覚えてる。
アタイはそうして大ちゃんがいることに嬉しくなると、なんだかたまらない気持ちでこう言うのだ。
「大ちゃん、アタイを殺して」
大ちゃんはちょっと困った顔で、アタイに向きなおってため息をつく。
「また? まだ三日くらいしか経ってないよ……?」
でも、我慢できない。大ちゃんが好きだから。
「大ちゃんは、アタイのこと愛してる?」
ちょっとずるい聞き方、自分でそう思う。
ずり下がってきたおもちゃのメガネを中指で押し上げて、大ちゃんが先生みたいな声を作る。
「チルノちゃん、その質問に答えるには私の愛と恋の意味を教えるところから必要だよ」
大ちゃんは頭がいい。ひろってきたメガネは遠くが見えるものじゃなく、ただのおもちゃだったみたいだけど、こういう時の大ちゃんにはすごく似合うのだ。
本を手から放さずに大ちゃんはアタイに説明してくれる。
「私にとって愛っていうのはね、慧音先生に辞書を借りて調べたわけではないのだけど、『受け入れる事』それが愛で、恋は『求める事』」
分かる? と大ちゃんが聞いてくるけど、アタイには難しくてよくわからない。
頭を振ると、大ちゃんが肩をすくめて笑う。
「チルノちゃんはバカだね。恋しいって気持ちは、そのひとに逢いたいって気持ちなんだから、恋は欲しい気持ち。愛しいって気持ちは、そのひとのいることやることが嬉しい気持ちだから、許す気持ち。だから、私が改まって愛してると言えばそういう意味で、恋してるって言ったらそういう意味」
アタイはなんとなく分かった気がして、続きを聞きたくて頷く。
「だから、私がチルノちゃんを愛してるかって言われると、自己分析は得意じゃないけれど、恋してるのと同じくらい愛してるよ」
大ちゃんは少し恥ずかしそうだけど、アタイはお預けをされていた犬みたいに待ち望んだその言葉が嬉しくて笑う。
「じゃあ、アタイを殺して?」
大ちゃんはおもちゃのメガネをはずして、静かに読んでいた本を脇に置いたら、いつものように笑いながらアタイに言う。
「チルノちゃんはバカだね」
アタイはバカって言われることが多いけど、大ちゃん以外に言われたらもちろん怒る。でも、大ちゃんが言う時だけは、本当にアタイはバカなんだと思ってしまう。
大ちゃんは頭が良くて、アタイはバカ。それって大ちゃんとは違うってことで、無性に悲しくなる。
だからアタイは、大ちゃんに殺されたい。殺される時はぴったりとふたりが一緒になってる気になれる。そう思う。
大ちゃんは嬉しそうに私に近づいてきて、上体を起こしたアタイを優しく抱きしめる。
暑い、すごく熱い。大ちゃんの熱。寒い時期はアタイが大ちゃんに触れると、大ちゃんがやけどみたいになっちゃうけど、夏の間はアタイの方が溶けてしまう。
いっぱい苦しくて、涙が出る。でも、アタイは大ちゃんに殺されるのが好き。苦しいのは嫌い。だけど、大ちゃんの笑う顔と触れてもらえる体が、喜びでアタイの優先順位を予約いっぱいにしてしまう。
大ちゃんが少しずつ腕に力を込めて、体を震わせながらアタイの顔をキスできるくらい近くで見つめてる。恥ずかしいから顔をあっちに向けたいのだけど、目をそらしちゃダメと大ちゃんの目がアタイを縛り付ける。
アタイが苦しくて変な顔になってるのに、大ちゃんはずっとまっすぐに見つめて、
「チルノちゃん、大好きだよ」
何度もそう言う。
この時が大ちゃんの一番の笑顔を見れるチャンスなので、アタイはこれだけを忘れないように必死に焼き付ける。
段々と頭がピンボールの玉にされたみたいに痛みはじめ、アタイは大ちゃんを強く抱きしめ返す。
大ちゃんが声を体と同じように震わせながら、アタイの耳にささやく。
「チルノちゃん、あと少し、あと少しだけ頑張って。あと少しだから……」
頭の中身が雪みたいになってしまったアタイに、大ちゃんが名前を呼び続ける。チルノちゃんチルノちゃんチルノちゃん。
その意味がわからなくなってきた頃に、アタイも最後の力で一度だけ大ちゃんを呼んで、今日も大ちゃんに殺された。
「チルノちゃんはバカだね。本当に、ばか……」
いつも私が残されたあと、どうしてるのか知らないチルノちゃん。
どこかに浮遊して未だに強い刺激を受け続ける意識に任せて、私は凍傷の一歩手前になった腕を擦る。消えてしまったチルノちゃんの名残を感じて、背筋にゾクリと走る悦びに身を震わせる。
純粋なチルノちゃんに薄暗い想いを擦り付ける不快感と背徳。官能。
ぐちゃぐちゃな想いの沼に浸りながら、私は自分を慰める。
いつも求めているのは私の方で、チルノちゃんは私が我慢できなくなった頃に、まるで頭の中を見透かしたように私を誘う。
私は大好きなチルノちゃんが苦しむ顔が見たくて、でも、本当は見たくない。
見たいから夏の間はずっと側にいるし、見たくないからチルノちゃんの力を大きくする。大丈夫だよ、疲れちゃうよ、そんなことよりも何か話そうって言うチルノちゃんに頭を振って、私はいつも隠れて力を使う。
でも、けっきょく我慢できなくなって苦しめてしまう。
自分の歪さが嫌いだけど、そんな自分を愛してくれるチルノちゃんを求め続けてしまう。
苦痛に曲がる眉根に、瞳の端をしたたる涙に、嗚咽に崩れる口元に、孤独に喘ぐその手に、悲しみに縮こまる背中に、私は恋をしている。夏の太陽よりも熱く、私とチルノちゃんを焼き尽くすくらい。
でも、愛するひとが傷ついて苦しくないひとなんていない。チルノちゃんは私に恋してくれているの? それとも愛してくれているだけ?
私は暗い暗い洞窟の中で、今日もひとり悦びと哀しみにみじめな声を上げながらチルノちゃんが帰ってくる明日を待つ。
今年の夏も、短く永く過ぎるだろう。
大ちゃんは意地悪だ。
いつもアタイに向かって『チルノちゃんはバカだね』そう言って笑う。
でも、大ちゃんが好き。今日みたいに暑い真夏の日にもアタイの横で、こちらを気にしてる。
真夏の間、アタイの時間は夜や曇りの時だけで、それ以外は暗い洞窟の奥でちょっとでも涼しい所を見つけて倒れてる。
ここはひんやりとしてちょっと臭い、苔が柔らかいから寝るのには困らないけれど、家具を大ちゃんが運んできてくれてベッドまである。
大ちゃんはアタイみたいに暑いのが苦手というわけでも無いのに、じめじめしたここにいつも一緒にいてくれる。本当は草みたいに綺麗な緑の髪は、太陽の下で一番輝くのに。
妖怪や人間たちは大ちゃんのことをアタイより弱いと思ってるみたいだけど、本当はアタイよりもさらに最強なことを知っている。
今だって、アタイが集められない冷気を、こっそり集めてくれている。本当は大ちゃんもずっと力を使ってると疲れるのに、アタイにばれないように本を読むふりまでして優しい冷たさをくれている。
大ちゃんの定位置であるイスと本棚は私の転がるベッドから三歩くらい離れてて、小さなランプがゆらゆらと手元や顔をなでている。
暗い暗いこの場所は、音が何回も転がるとこで、ページをめくる小さな音も二回三回と転げるのだから、アタイにだっていつもより読むのが遅いと分かる。
それでも大ちゃんは本に夢中なふりをして、この前ひろってきたおもちゃのメガネを直しながら、本に向かって『へぇー』とか『ふぅん?』とか話しかける。
本当はこっそりの優しさよりも、力なんて使わなくていいから本じゃなくアタイに話しかけてほしいのだけど、以前そう言ったら『チルノちゃんはバカだね。苦しむチルノちゃんを近くで見てたら私、我慢できなくなっちゃうよ』って。
それからずっと大ちゃんはアタイにばれないように力を使ってる。
本に話しかける大ちゃんは、ちらりとアタイを見ることが多い。すぐ本に向き直るけど、アタイはずっと大ちゃんだけを見て過ごすから何回こっちを見たかまで覚えてる。
アタイはそうして大ちゃんがいることに嬉しくなると、なんだかたまらない気持ちでこう言うのだ。
「大ちゃん、アタイを殺して」
大ちゃんはちょっと困った顔で、アタイに向きなおってため息をつく。
「また? まだ三日くらいしか経ってないよ……?」
でも、我慢できない。大ちゃんが好きだから。
「大ちゃんは、アタイのこと愛してる?」
ちょっとずるい聞き方、自分でそう思う。
ずり下がってきたおもちゃのメガネを中指で押し上げて、大ちゃんが先生みたいな声を作る。
「チルノちゃん、その質問に答えるには私の愛と恋の意味を教えるところから必要だよ」
大ちゃんは頭がいい。ひろってきたメガネは遠くが見えるものじゃなく、ただのおもちゃだったみたいだけど、こういう時の大ちゃんにはすごく似合うのだ。
本を手から放さずに大ちゃんはアタイに説明してくれる。
「私にとって愛っていうのはね、慧音先生に辞書を借りて調べたわけではないのだけど、『受け入れる事』それが愛で、恋は『求める事』」
分かる? と大ちゃんが聞いてくるけど、アタイには難しくてよくわからない。
頭を振ると、大ちゃんが肩をすくめて笑う。
「チルノちゃんはバカだね。恋しいって気持ちは、そのひとに逢いたいって気持ちなんだから、恋は欲しい気持ち。愛しいって気持ちは、そのひとのいることやることが嬉しい気持ちだから、許す気持ち。だから、私が改まって愛してると言えばそういう意味で、恋してるって言ったらそういう意味」
アタイはなんとなく分かった気がして、続きを聞きたくて頷く。
「だから、私がチルノちゃんを愛してるかって言われると、自己分析は得意じゃないけれど、恋してるのと同じくらい愛してるよ」
大ちゃんは少し恥ずかしそうだけど、アタイはお預けをされていた犬みたいに待ち望んだその言葉が嬉しくて笑う。
「じゃあ、アタイを殺して?」
大ちゃんはおもちゃのメガネをはずして、静かに読んでいた本を脇に置いたら、いつものように笑いながらアタイに言う。
「チルノちゃんはバカだね」
アタイはバカって言われることが多いけど、大ちゃん以外に言われたらもちろん怒る。でも、大ちゃんが言う時だけは、本当にアタイはバカなんだと思ってしまう。
大ちゃんは頭が良くて、アタイはバカ。それって大ちゃんとは違うってことで、無性に悲しくなる。
だからアタイは、大ちゃんに殺されたい。殺される時はぴったりとふたりが一緒になってる気になれる。そう思う。
大ちゃんは嬉しそうに私に近づいてきて、上体を起こしたアタイを優しく抱きしめる。
暑い、すごく熱い。大ちゃんの熱。寒い時期はアタイが大ちゃんに触れると、大ちゃんがやけどみたいになっちゃうけど、夏の間はアタイの方が溶けてしまう。
いっぱい苦しくて、涙が出る。でも、アタイは大ちゃんに殺されるのが好き。苦しいのは嫌い。だけど、大ちゃんの笑う顔と触れてもらえる体が、喜びでアタイの優先順位を予約いっぱいにしてしまう。
大ちゃんが少しずつ腕に力を込めて、体を震わせながらアタイの顔をキスできるくらい近くで見つめてる。恥ずかしいから顔をあっちに向けたいのだけど、目をそらしちゃダメと大ちゃんの目がアタイを縛り付ける。
アタイが苦しくて変な顔になってるのに、大ちゃんはずっとまっすぐに見つめて、
「チルノちゃん、大好きだよ」
何度もそう言う。
この時が大ちゃんの一番の笑顔を見れるチャンスなので、アタイはこれだけを忘れないように必死に焼き付ける。
段々と頭がピンボールの玉にされたみたいに痛みはじめ、アタイは大ちゃんを強く抱きしめ返す。
大ちゃんが声を体と同じように震わせながら、アタイの耳にささやく。
「チルノちゃん、あと少し、あと少しだけ頑張って。あと少しだから……」
頭の中身が雪みたいになってしまったアタイに、大ちゃんが名前を呼び続ける。チルノちゃんチルノちゃんチルノちゃん。
その意味がわからなくなってきた頃に、アタイも最後の力で一度だけ大ちゃんを呼んで、今日も大ちゃんに殺された。
「チルノちゃんはバカだね。本当に、ばか……」
いつも私が残されたあと、どうしてるのか知らないチルノちゃん。
どこかに浮遊して未だに強い刺激を受け続ける意識に任せて、私は凍傷の一歩手前になった腕を擦る。消えてしまったチルノちゃんの名残を感じて、背筋にゾクリと走る悦びに身を震わせる。
純粋なチルノちゃんに薄暗い想いを擦り付ける不快感と背徳。官能。
ぐちゃぐちゃな想いの沼に浸りながら、私は自分を慰める。
いつも求めているのは私の方で、チルノちゃんは私が我慢できなくなった頃に、まるで頭の中を見透かしたように私を誘う。
私は大好きなチルノちゃんが苦しむ顔が見たくて、でも、本当は見たくない。
見たいから夏の間はずっと側にいるし、見たくないからチルノちゃんの力を大きくする。大丈夫だよ、疲れちゃうよ、そんなことよりも何か話そうって言うチルノちゃんに頭を振って、私はいつも隠れて力を使う。
でも、けっきょく我慢できなくなって苦しめてしまう。
自分の歪さが嫌いだけど、そんな自分を愛してくれるチルノちゃんを求め続けてしまう。
苦痛に曲がる眉根に、瞳の端をしたたる涙に、嗚咽に崩れる口元に、孤独に喘ぐその手に、悲しみに縮こまる背中に、私は恋をしている。夏の太陽よりも熱く、私とチルノちゃんを焼き尽くすくらい。
でも、愛するひとが傷ついて苦しくないひとなんていない。チルノちゃんは私に恋してくれているの? それとも愛してくれているだけ?
私は暗い暗い洞窟の中で、今日もひとり悦びと哀しみにみじめな声を上げながらチルノちゃんが帰ってくる明日を待つ。
今年の夏も、短く永く過ぎるだろう。
そう考えるとこの二人が近くにいる理由を色々想像できそう
たまにはこういった作品があってもいいなーと思う今日この頃