小町の本質をおっぱいだと思っているやつは、一度シベリアで労働でもしてくればいいと思うのだ。
ずいぶんと長い時間、無縁塚のおおきな木の下でごろ寝する小町を観察して、気付いたことがある。小町のおっぱいは確かにお色気むんむんだ。もぎたてを私の胸に移植してやりたいくらいお色気むんむんっちマンだ。しかしそんなことよりも、あえて『そんなこと』呼ばわりするけれど、そんなことよりも彼女の本質はあそこにあるものだと考える。
OSHIRIだ。
(ああ、あのお尻を両手でもいだあげく私のお尻に移植してやりたいですね……っ)
そんなことを考えていたころもあったけれど、流石に性的倒錯しすぎなのでやめた。
ただし、私の、小町のお尻に対する情欲は尽きない。執務室で、今日小町が送ってきた魂の処遇を考えているときも、魂のつるっとしたボディ(半人半霊の半霊のほうみたいな)を見ると小町のお尻が頭に浮かんでしまう。
これはおそらく何かしらの病気に違いないと、冷静に自分を見つめなおしたこともあった。ただ、いざ医務室ないし病院へ行ったとして「魂のつるっとボディが部下のお尻に見えて仕方がないのです」などと言ったものなら地獄裁判長の職はこれにて終了年金生活の幕開けだ。精神病院に連れていかれてしまうやも分からない。間違いなく私はおかしなやつ扱いだ。いや間違っちゃいない、間違っちゃいないのだけど。
「しかし、このままでは、本当に私はおかしくなってしまう」
是非曲直庁にある公衆トイレの個室、その洋式便器にこしかけて独りごちる。
この衝動がそうとうに性的なものであるからこそ、押さえつけていては一大事が起こってしまうかもしれない。本当に小町のお尻をもいだのち、もぎたてのそれを自分に移植してしまうかもしれないのだ。そうなれば小町はうんちができない。いやそういう問題じゃない。もっと、なんというか、神様として大切な何かをなくしてしまう気がする。というか小町が死んでしまう。
「これは早急に、小町のお尻を撫でまわさなければならない」
ゆえに決意したのだ。小町のお尻を撫でまわすと。無縁塚の巨木の下で寝返りをうつとき、お尻に食い込んでツヤを放っている薄手のスカートの上から撫でまわしてやるのだと。
この結論に対して「なんだこの閻魔あたまがおかしいぞ」と評する者もきっといよう、しかし、性欲というものは溜め込むよりもちくいち発散させるほうがよいのだ。外の世界でいうダム、これは定期的に放水をする。同じ原理で、私も放水ならぬ放性欲をしなければならないのだ。
「しかし、どうやったらよいものでしょうか……」
小町はああ見えてガードが堅い。小町のおっぱいに挑んだ猛者(いずれも小町の本質をおっぱいだと思っている幸せなやつら)はもれなく死神の大鎌にその血を吸われている。正攻法でいけば、紆余曲折はあれど、私の血も大鎌の一部となってしまうことだろう。
人里の子供が「こまっちゃんおっぱいさわらしてー」などと図に乗った催促をしてきたときには、だいたい笑顔でそれに応じているというのに。私だってこまっちゃんのお尻触りたいよ。こまっちゃんおしりなでまわさせてーとか言いたいから。クソッ、クソッ……
「ふむぅ……」
いいかげん、このトイレの個室からも出なければならない。かれこれ1時間と3分はこの場所で頭を抱えている。はたから見れば、そうとうひどくお腹を壊しているのだなあと同情されていいレベルだ。その実態は、部下のお尻をどうやって撫でまわすかで頭を悩ませている前代未聞の地獄裁判長なのだから、なんだか私まで申し訳なくなってきてしまう。
流すものもないけれど、便宜上トイレの水を流して、下着とスカートを上げる。同時に視線も上げて、ひとりの世界を作り上げていた個室の扉、そのカギを開けようと試みる。
――いつもトイレをきれいに使っていただきありがとうございますm(_ _)m
そんな張り紙が視界に入ってきたのはまさにその時だ。
どかんと、私の脳がつよい衝撃を受けたことは言うまでもない。なぜ。それは、今までまったく思いつかなかった、実にスマートな解決策を提示していたからだ。
「……これだ」
これで、やっと。私は小町のお尻を撫でまわすことができる。
そう思うと、なんだかすごく楽しい気分になって、奇声を発しながらトイレの個室を後にしたわけである。
ω
小町は演技がとてもへたくそである。一日の仕事を終えて、執務室に業務報告をしにくるとき、さも一日中働いて疲れてますオーラを発しながら入ってくる。いままで私がなにも言っていないから、彼女はいまも、それで欺けていると思っているのだろう。
「……まったく、そのお尻がなければ即刻処刑ものです」
「はっ?」
「いえ、なんでも」
あぶないあぶない。目の前に小町が立っているというのに、ついつい独り言が漏れてしまいました。
いつも通り、なんら変わりもない業務報告を終える。すると小町は、ふいに笑って「四季様」と声をかけてきた。
「なんですか?」
「四季様。このあと暇なら、久しぶりにこれでもどうですか」
小町は、右手でグラスを傾けるしぐさをした。なるほど、このあとお酒でもどうですかと、誘ってくれているのだろう。
このシチュエイション、チャンスだと思っていたころが私にもありました。お酒を適当にひっかけさせ、酔っているところに乗じてお尻を撫でまわす。判断力の鈍っている状態ならば、彼女のガードも薄くなるであろうと。
しかし、いざ決行してみると、もっと根本的なところでこの計画は破たんしていることに気付いた。酔っている彼女に色気がないのだ。もとから男勝りなところのある彼女だけれど、お酒が入るともっと男みたいになる。妙に陽気になって、周りがドン引きしてしまう程度には彼女は酒癖が悪かった。その状態の彼女のお尻を触って満足できるほど、私の身体は都合がよくないのである。
「すいません、今日はまだ仕事が残っていますから」
「そうですか。じゃあひとりで飲みに行きますかねー」
あいにく、1時間以上もトイレにこもっていたせいで仕事も終わっていなかったし、丁重にお誘いを断る。飲ませすぎなければ小町の悪癖も出ないし、普通に飲みに行くのは楽しいのだけれど、今日ばかりは仕方がない。
「それじゃあ、先に上がりますね」
お疲れさまです、と小町が執務室をあとにしようとする。
ここで、私は本来の目的を思い出した。そう、私はこれから妙案を実行しなければならない。それもこれもすべて、小町のお尻を撫でまわすために。
「小町」
彼女に背中に呼びかける。小町は笑顔で振り向いた。
「なんですか?」
「その――」
私も、小町の笑顔に負けないくらいの、満面の笑顔で言った。
「いつも、お尻を触らせていただいてありがとうございますっ!」
「……あたま大丈夫ですか?」
ω
『認知的不協和の法則』というのである。
たとえば、タバコを例に挙げるとしよう。タバコを吸っている人にとって、まず『自分はタバコを吸っている』という認知が生まれる。認知というよりも、ただ事実を述べているだけで、当たり前ではあるのだけれど。
ところが、ここに『タバコは身体に悪い』という対抗認知が加えられるとどうなるだろうか。人間、というか知的生命体は、こうした認知の不協和が生まれると、どちらかの認知を否定することによって調和を生み出そうとする。
要するに、その喫煙者は、『自分はタバコを吸っている』という認知を否定(禁煙)して、調和を生み出そうとするのだ。
トイレの張り紙もまた同じ。『みんながトイレをきれいに使っている』という認知と、自分のとる行動に不協和があれば、前者を否定することはできないから、必然的にトイレをきれいに使おうという気持ちになる。
それを見て、私はその理論を思い出し、そして思ったのだ。いつもお尻を撫でまわしていることにすれば、認知的不協和が生まれるんじゃなかろうか!!
『……あたま大丈夫ですか?』
その結果があれである。彼女のかわいらしい笑顔が一転、本気で心配している(おそらく他意はない)表情で『あたま大丈夫ですか』と言われてしまったわけだ。
まあ、なんだ。めちゃくちゃ精神的にひびいているけれど、こういうのも予想していた。しかし大局を見なければならない。小町のお尻を撫でまわす、その最終目標さえ達成できれば、現在の憂いなどどうということはない。
認知1.『四季映姫はいつも小野塚小町のお尻を撫でまわしている』
認知2.『小野塚小町はお尻のガードが異常に固い』
不協和を用いて、認知2をなんとしてでもゆがめて見せる。そのためにはあたまおかしいやつ扱いされても構わない。一度決めたことは決して曲げないのが私、四季映姫だ。
そういうわけで、これを3週間ほど実践してみた。ただただ毎日、業務報告を終えて小町の帰り際に例のセリフを言うだけだ。それ以外はいつも通りの上司であり、小町がサボっていれば説教するし、ちゃんと仕事をしていればそれを労うし、知らない人がみれば「あーこれはまぎれもない四季映姫ヤマザナドゥ」と評することであろう。
「いつも、お尻を触らせていただいてありがとうございますっ!」
しかし、このセリフだけは毎日欠かさない。この瞬間だけは『四季映姫ヤマザナドゥ』ではなく『わけわからん妄想に駆られている変態』になるわけだけれど、いずれはこちらが真実になることだろう。
初めのほうは困惑の表情を浮かべていた小町も、1週間を過ぎたあたりから、生暖かい微笑だけを返してくるようになった。辛すぎる。しかし初志貫徹の気持ちを忘れてはならない。
そういうわけで、さらに4週間ほど継続してみた。
飽きもせず、いつまで経っても訳の分からないことを言ってくる上司に、いよいよ小町も母性本能が目覚めたのか「はいはい」と笑ってくれるようになった。実践開始から7週間、そろそろ効果が表れるころだろうか。
私の性欲も爆発寸前(むしろよく7週間も持ったものだ)となり、いざお尻撫でまわしトライだ、というところで、驚くべきことに――先に切り出してきたのは小町であった。
「……四季様は、私のお尻を触りたいんですか?」
7週間と3日目。いつも通りに例のセリフを言った私に、その日の小町は母の笑顔を浮かべず、どこか緊張した面持ちで問いかけてくる。
予想外の出来事であり、しかしこれはチャンスだと感じた。これを逃せば、私は一生、小野塚小町のお尻を撫でまわすことはできないとも思った。
「正直なところ、お尻を撫でまわすどころか、もぎとって自分に移植したいレベルです」
精悍な顔つきで、熱い思いを伝える。伝えなくてもいいところまで伝えてしまったのは誤差の範囲内だ。
私の気持ちを受け取って、小町はどこか鼻白んだようすだった。その場に流れる暫時の沈黙。重々しい空気のなかで、しかし私はすっきりした心地でいた。自分をさらけ出すということは、自分を偽らないということは、ここまで気分のよいものなのかとも感じる。
「……四季様」
沈黙を破り、小町が口を開いた。
「はい、小町」
「もういちどだけ……四季様は、私のお尻が触りたいのですか」
「触るではありません。撫でまわす、です」
「そうですか……」
好感触であった。これはきっと、なし崩し的に小町のお尻を撫でまわすことができる。そんな実感があった。
小町は、ふと、私のもとへ近寄ってくる。私もまた小町へ近づいていく。
鼻先がついてしまいそうかというまで近づいて、見上げるさきの彼女、小野塚小町は――笑顔で言った。
「ムリッス」
…………。
「いま、なんと?」
「ムリッス」
「なにがですか」
「お尻を撫でまわされることです」
「お尻を撫でまわすのは?」
「ムリッス」
は?
「いやー、やっぱり、四季様は私のお尻を撫でまわしたかったんですねー! ここ7週間の疑問がようやく晴れました。突然おかしくなるものだから、いよいよ隠居も目前かなあとは思っていたんですが、私のお尻を撫でまわしたかったなら無理もないですね!」
「じゃあ触らせてくださいよ」
「ムリッス」
ムリッスじゃねーよ! 今までの私の苦労と困難はなんだったんですか!
「あー! すっきりしましたし、四季様、今日は一緒にお酒でも飲みに行きませんか?」
「あ、あは、あはは……」
完全におわった瞬間が今だ。肩の荷が下りたと思ったら、上空から新しい重石(5t)が落ちてきた気分だ。私はもう、小町のお尻を撫でまわすことはできないのだろう。
しかし、それでは困るのだ。このままでは私の性欲が爆発して、幻想郷で異変を起こしてしまいかねない。この強情っぱりの小町のせいで。小町のせいで!
もはや強硬手段しかないと思った。
「小町」
「はい?」
「お尻にガムがついているから取ってあげる」
「」
ガムがついてるって言ったらついてるんだよ!
「ほら、こっちへ来なさい」
「ちょ、やめてくださいよほんとに」
「動くな、私はレズだ」
「あん」
脇腹をくすぐると小町は熱っぽい声を出した。いける、いけますよこれ!
そのまま一気に、私はお尻へ手を伸ばす。残り距離、およそ10センチ。5センチ。3センチ……ッ!
「いい加減にしろっ!」
ゴスンと鈍い音がしたかと思えば、私の視界に火花が散った。小町の大鎌みねうちが、私の後頭部にクリーンヒットした様子である。
終わった。私の崇高な夢はここで果てた。意識がすっと落ちていく。目を覚ましたとき、きっと私は性欲に忠実な犬となっていることだろう。小町が強情なせいで。強情なせいで。
「……一度だけですよ」
と――遠のく意識のなかで、そんな言葉が耳に入る。
私は右の手首を握られ、数秒後、なにかに触れた。どこかしっとりしていて、弾力のある。これは――――
……これはっ!?
ω
以降、3か月おきに私はお尻なでなで交渉を小町にすることとなる。
うまく行かなかったときはもちろん、おしりガム作戦。なぜなら彼女のお尻もまた、特別な存在だからです。
一転攻勢されるところがよかった(小並感)
そんなところにどうやればガムがつくのかwww
たまげたアル!
こま尻も浪漫ですよねえ
何故か初投稿だと騙されなかった、控訴
何故か読後に閻魔が死神をガン掘りしているイチャイチャR18作品が読みたくなった、上告
大人しく100点を受け入れろ
大人しく100点を受け入れろ
ここで負けてしまった
気になるお尻を見つけたらこの台詞を使わせてもらいます
これが認知的不協和か……
私は言い続けぞぉー!!
とまれ、ライトで楽しめました。
ホモはうそつき
いや、立ち絵をよく見ると尻が魅力的とも言える……のか……?