「あなたの余命は残念だけど、たった二時間しかないわ……」
突然、告がれた余命宣告。
私は決心する。
道端に生えていた毒茸をうっかり食べてしまった。
体に猛毒が回り、永琳の元で診察。
結果、余命僅か二時間。
永琳には、安静にする必要もないと言われた。
何か、最後の人生でやり残した事をしておきなさい。って、言われたのだ。
そして、私の生命が人生の終焉のカウントダウンを始めた。
【余命残り二時間】
私は半日の間に何をするべきか考える。
私が死ぬ。つまり仲間との別れ……
考えるだけでも胸が痛む。
仲間の存在が当たり前だった。
でも、今は違う。
半日経てば、仲間との縁が途絶えてしまうのだ。
やはり、その仲間に会うのが一番なのでは?
だが、誰に会うべきか。
その前に、私の余命について知ってるのは数少ない。
というか、永琳だけのはず。
長々と考えた結果、取り敢えず挨拶巡りに出る事とした。
【余命残り一時間四十五分】
落ち着くんだ、私。まだ時間はある。
そう考えながら、最初の目的地へ。
足取りが重い。
これが最後の顔合わせとなると涙腺が緩くなる。
時間はない。
最初の顔合わせ場所は、白玉楼。
亡霊に一度「死」について教えてもらおうという手だ。
幽明結界を乗り越え、桜の道を駆け抜ける。
すぐに、庭師と屋敷の主の姿が確認できた。
やはり、これが最後かと思うと涙腺が緩む。
「あっ、魔理沙さん。また来たんですか…」
「そういえば、今日で二回目だったな」
「どうしたのかしら?そんなに焦って」
「いや、それがな……」
「私、霧雨魔理沙はあと2時間弱で死にます」
場に戦慄が走る。想定内だ。
しかし、返ってきた答えは想定外だった。
「死ぬってことは亡霊に成ることでしょ。なら、ここにいらっしゃい」
「まぁ、そういうことになりますね……」
「でも、幽明結界は越えられないけどね」
「えっ、でもさっき何事もなく越えられたぜ?」
「もうすぐ、紫が結界を張りなおすらしいわ」
例え、冥界に来たとしてもそこから脱出不可能ということだ。
逆にしても冥界に行けなくなるという事になるのか。
「だから、私たちは霊夢さんとかとお別れになっちゃうんです……」
霊夢……⁉
そうだ、私は挨拶巡りの途中だった。
思わず、ここで力尽きる所だった。危ない。
「分かった。じゃあなっ!」
「ちょちょ、魔理沙さん!話の途中ですって」
「また、私が亡霊になってからな」
「それじゃ、遅いですって!」
「フフフ……」
【余命残り一時間二十分】
という訳で、次は博麗神社に向かう。
距離はそんなに遠くないのでここに決めた。
「よう、霊夢」
「なんだ魔理沙か……」
「ちょっと話がある」
「何よ」
心拍数が上昇している。
耳まで心拍の音が聞こえる。
思い切って告白する。
「私、もう死ぬんだ。残念だがな……」
「えっ……」
私ははっきりと見た。霊夢の頬に光る滴りが。
やはり、辛い。
でも、これはもう変えられない事実なのだから……
これ以上言葉が出なかった。
すると、霊夢が私にしがみ付き、号泣しだした。
そんなことされたら、もらい泣きしそうだ。
だけど、ちょっぴり我慢。
「霊夢、顔を上げろ」
「え、えっ……」
「霊夢、これは仕方ないことなんだ。許してくれ、この私を」
「う、うん……」
私が毒茸を食べたから、この様な悲劇を生んだのだ。
悪いのはこの私だ。
「許せ……霊夢」
こうして、霊夢と最期の別れをした。
最期の言葉は「またいつか会いましょう」だった。
実現は不可能に近いが、また会えることを願いたい。
【余命残り一時間】
次は、紅魔館。
ここも色々とお世話になった。
門番の美鈴は相変わらず寝ている。
美鈴に感謝の意を込め、お辞儀をしておいた。
「また会おうな」
そう捨て台詞を残し、紅魔館内へ。
中に入ると、メイドだらけだった。
何か、準備をしている模様だった。
その中であちこちに指示を出している紅魔館のメイド長である咲夜さんが居た。
「ちょっと、咲夜。ちょっと話がある」
緊張は取れない。それが例え、誰であっても。
「あの咲夜にも一応伝えておくが、私余命あと1時間ぐらいしかないんだ」
「あらそうなんですか……」
明るい顔が急に暗くなった。やはり辛い。
心に針が刺さる思いだ。
「………」
咲夜が黙り込んでしまった。
私は咲夜の肩を叩き呟く。
「すまない……」
また捨て台詞をして、地下の図書館へと向かう。
地下の図書館に辿り着いた。
いつもなら、騒がしく入るのだが今日は大人しく入る。
さすがに、私が入ってきた事に気が付いてないと思ったが、そう甘くなかった。
「魔理沙、居るのね……」
すぐに気づかれてしまった。
「ああ、居るさ。ここにね……」
そう言いつつパチュリーに顔を見せる。
「何の用かしら?いい加減本を返し……」
パチュリーが座っている椅子の前にある机に、今まで借りてきた本を全て置いた。
「えっ、何これ?」
「今まで借りた本だ」
「また何で突然……」
「何故なら、私がここに来るのが最後なんだ」
一瞬、時が止まった。
確かに、パチュリーが思考停止に陥ったのは分かる。
私はパチュリーに全てを話した。
すると、パチュリーは目に涙を溢れさせてこう言った。
「魔理沙……わ、私はあなたを愛していたわ」
「それは分かっている」
「こんな引き籠りの女をここまで一緒に同じ時を過ごしていたのは貴方だけだったの!」
「そうだったのか……本当にすまない。だけど、私が死んでもお前を一生愛してやるからな。永久にな……」
「魔理沙……」
「お前の事は一生忘れないぜ。例え、冥界でもな」
私は、3度目の捨て台詞をして、紅魔館を後にした。
次の場所で、最期にしたいと思う。
それは、アリスの元だ。
一番お世話になった人物でもあるからだ。
【余命残り三十五分】
アリスの家の前に着く。
丁度、中でお茶をしているらしい。
紅茶の香りが漂っている。
アリスと別れの時。
そう考えると、涙が止まらなくなった。
何故なら、私が一番「失いたくない物」を失うからだ。
ドアをノックする。
すると、いつもの明るい返事が返ってくる。
感情はもう制御不可能だ。涙は止まらない。
ドアが開いた瞬間、アリスの胸に飛び込んだ。
「ちょ、ちょっといきなり何⁉」
私は泣く事しか頭になかった。
「だって……もうアリスに会えないんだぜ」
「いきなり何を言ってる……」
「私はもう死ぬんだ!もうこの世界に戻れないんだ!」
必死の想いで叫ぶ。感情を失った私のアリスに対する想い。
「死ぬって……本当なの?」
「本当だって!もうアリスに会えないんだぜ!もうアリスの顔も見れないんだ!」
「魔理沙。よく聞いて」
「何だよ……」
「私は、最初この世界に来たとき、全く友達が出来なかったわ。そんな中で貴方に出会ったの。最初は、あまり近づけなかったんだけど、あなたのフォローがあったから、こうして私の大好きな親友になれたのよ。ありがとう。それだけで精一杯だわ。」
「アリス…」
【余命残り二十分】
「これが最期の魔理沙に淹れる紅茶ね」
「やめろって、悲しくなるだろ」
「もう……さっきあんなに号泣してたくせに」
「仕方ないだろ。だって……寂しいもん」
アリスの淹れる紅茶を啜りながら回想していく。
今までの人生の記録を遡っていく。
幻想郷で過ごした日々、異変解決、沢山の出会い、そしてアリスとの思い出。
「本当に色々だったな。私の人生」
「多種多様みたいな感じかしら」
「ああ、そうかもしれないな」
多種多様。その言葉は確かに当てはまる。
沢山の人物を愛し、そして愛されてきた……
「いや、それは無いか」
「何が?」
「私が、沢山の人に愛されてきたって事だよ」
「そんな事ないわよ」
そうなのか?そんな実感は湧かないが。
「この幻想郷全員が魔理沙の事好きだと思うわ」
「私はそうではないけどな」
二人そろって微笑む。この風景も、もう見れないのだろう。
【余命残り十分】
「なぁ、アリス。これからどうするんだ」
「いつも通りにしておくわ。魔理沙のお墓の手入れはちゃんとするから」
「本人の前でその話は止めてくれ」
私のお墓。とうとうそんな物が存在してしまうのか。
「場所は魔理沙の家の前で良いかしら?」
「だから、私に聞いてどうする……でも、アリスの傍にずっと居たいから、アリスの家の前に……」
思わず本音が出る。前から考えていた事だが。
「分かったわ。あなたがそう言うならそうするわ」
「ああ、そうしてくれ」
大分可笑しな話をしているが、死後の人生も大切に……って、どうせ冥界に棲むのだが。
【余命残り五分】
「やっぱり最期は笑って死ぬのが良いな」
「笑いながら死ぬって、これまた可笑しな話ね」
まあ、どんな息の引き取り方でも良いのだが。
すると、突然ドアが勢いよく開く。
そこに居たのは霊夢だった。
「良かった。まだ生きてた」
「生きてるぜ」
「私も貴方の最期を見たいから急いでここまで来たわ。結構探したわよ」
「ありがとよ……一度別れをしたはずなのに何で来るんだよ」
「だって、貴方が好きだから……」
「霊夢……」
【余命残り二分】
そろそろ私の死ぬ時が訪れる。
けれども、恐怖心は全く持っていない。仲間が傍にいるから。
私の傍にいる、アリスと霊夢。掛け替えのない大事な親友だ。
「なぁ、一つ言わしてくれ」
「何?」
「ありがとう。傍に居てくれてな」
「そんなの友達なんだから当たり前じゃない」
「というか、貴方が死んでも友達だと思うわ。一生ね」
ここで突然、また私の涙腺が緩くなる。いや、この場に居る全員の涙腺が緩くなった。
落ちる大粒の涙。喚き嘆く声。二人の悲痛な感情。
全てが私に伸し掛かる。
「お前たち、やめてくれよ」
「だって、私の魔理沙が……」
【余命残り一分】
私の体に毒の効果が効き始めた。
「くっ……何だこの痛み」
体全身が凄く痛む。
「大丈夫⁉魔理沙」
「しっかりしなさいよ!死なないで……」
「あぁ、大丈夫だ」
そう言いつつも体が締め付けられるような痛みがする。
全身麻痺だ。
これが毒が牙を剥いたときに見せる症状らしい。
【余命残り三十秒】
「もう……ダメだ」
「魔理沙。ダメよ……」
「頼むから死なないでっ!」
私は、最後の力を振り絞り、我が人生最期のメッセージを二人に届ける事にした。
【余命残り十秒】
「お前たちに……会えて良かった……私はお前らが……好きだ……」
こうして私は息を引き取った。
そして、幻想郷に存在する一つの生命体が儚く散っていった。
「魔理沙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「はい、ここで終了です」
にとりに終わりを告がれ、私はとても大きい装置から出る。
「どうでしたか?魔理沙さん」
「ライフゲームだっけ?うん……実に良い体験だったよ」
「この生命遊戯は、大切な人の大切さを知ってもらうために作りましたから。てへっ、ちょっとやりすぎでした?」
「あぁ、確かに内容は悲惨だったな」
「ですよね。あえてこういうストーリー仕立てにしてますからね」
まさか、にとりが脚本だったとは。
「一つ言うなら、余命宣告される症状だったら、普通は寝込んでるのが普通じゃないのか?」
「そうですかね?」
「あと、幽明結界はさすがに一生奴は直さないと思うぜ」
「お前の感覚はどこかズレてる。それだけ言っておく」
「そんなにですか?」
「ああ、確かにズレてる。でも、大切な人を失う残酷さは計り知れないことは激しく理解した」
「ありがとうございまーす!」
にとりの実験に参加を誘われて、最初は凄く否定したが、実際はかなり充実したものだったと思う。
にとり曰く、登場人物が話していたことは全て真の感情なのだそうだ。前日にデータを取っているらしい。
まぁ、霊夢とアリスには一つ礼をしに行くとするか。
あんなに私を傍で心配してくれたのだから。
二人にはこう言っておこう。
「私の友達でいてくれてありがとう。」
生命遊戯。それは大切な人との一つの友情の芽生えだったのだ。
-完-
突然、告がれた余命宣告。
私は決心する。
道端に生えていた毒茸をうっかり食べてしまった。
体に猛毒が回り、永琳の元で診察。
結果、余命僅か二時間。
永琳には、安静にする必要もないと言われた。
何か、最後の人生でやり残した事をしておきなさい。って、言われたのだ。
そして、私の生命が人生の終焉のカウントダウンを始めた。
【余命残り二時間】
私は半日の間に何をするべきか考える。
私が死ぬ。つまり仲間との別れ……
考えるだけでも胸が痛む。
仲間の存在が当たり前だった。
でも、今は違う。
半日経てば、仲間との縁が途絶えてしまうのだ。
やはり、その仲間に会うのが一番なのでは?
だが、誰に会うべきか。
その前に、私の余命について知ってるのは数少ない。
というか、永琳だけのはず。
長々と考えた結果、取り敢えず挨拶巡りに出る事とした。
【余命残り一時間四十五分】
落ち着くんだ、私。まだ時間はある。
そう考えながら、最初の目的地へ。
足取りが重い。
これが最後の顔合わせとなると涙腺が緩くなる。
時間はない。
最初の顔合わせ場所は、白玉楼。
亡霊に一度「死」について教えてもらおうという手だ。
幽明結界を乗り越え、桜の道を駆け抜ける。
すぐに、庭師と屋敷の主の姿が確認できた。
やはり、これが最後かと思うと涙腺が緩む。
「あっ、魔理沙さん。また来たんですか…」
「そういえば、今日で二回目だったな」
「どうしたのかしら?そんなに焦って」
「いや、それがな……」
「私、霧雨魔理沙はあと2時間弱で死にます」
場に戦慄が走る。想定内だ。
しかし、返ってきた答えは想定外だった。
「死ぬってことは亡霊に成ることでしょ。なら、ここにいらっしゃい」
「まぁ、そういうことになりますね……」
「でも、幽明結界は越えられないけどね」
「えっ、でもさっき何事もなく越えられたぜ?」
「もうすぐ、紫が結界を張りなおすらしいわ」
例え、冥界に来たとしてもそこから脱出不可能ということだ。
逆にしても冥界に行けなくなるという事になるのか。
「だから、私たちは霊夢さんとかとお別れになっちゃうんです……」
霊夢……⁉
そうだ、私は挨拶巡りの途中だった。
思わず、ここで力尽きる所だった。危ない。
「分かった。じゃあなっ!」
「ちょちょ、魔理沙さん!話の途中ですって」
「また、私が亡霊になってからな」
「それじゃ、遅いですって!」
「フフフ……」
【余命残り一時間二十分】
という訳で、次は博麗神社に向かう。
距離はそんなに遠くないのでここに決めた。
「よう、霊夢」
「なんだ魔理沙か……」
「ちょっと話がある」
「何よ」
心拍数が上昇している。
耳まで心拍の音が聞こえる。
思い切って告白する。
「私、もう死ぬんだ。残念だがな……」
「えっ……」
私ははっきりと見た。霊夢の頬に光る滴りが。
やはり、辛い。
でも、これはもう変えられない事実なのだから……
これ以上言葉が出なかった。
すると、霊夢が私にしがみ付き、号泣しだした。
そんなことされたら、もらい泣きしそうだ。
だけど、ちょっぴり我慢。
「霊夢、顔を上げろ」
「え、えっ……」
「霊夢、これは仕方ないことなんだ。許してくれ、この私を」
「う、うん……」
私が毒茸を食べたから、この様な悲劇を生んだのだ。
悪いのはこの私だ。
「許せ……霊夢」
こうして、霊夢と最期の別れをした。
最期の言葉は「またいつか会いましょう」だった。
実現は不可能に近いが、また会えることを願いたい。
【余命残り一時間】
次は、紅魔館。
ここも色々とお世話になった。
門番の美鈴は相変わらず寝ている。
美鈴に感謝の意を込め、お辞儀をしておいた。
「また会おうな」
そう捨て台詞を残し、紅魔館内へ。
中に入ると、メイドだらけだった。
何か、準備をしている模様だった。
その中であちこちに指示を出している紅魔館のメイド長である咲夜さんが居た。
「ちょっと、咲夜。ちょっと話がある」
緊張は取れない。それが例え、誰であっても。
「あの咲夜にも一応伝えておくが、私余命あと1時間ぐらいしかないんだ」
「あらそうなんですか……」
明るい顔が急に暗くなった。やはり辛い。
心に針が刺さる思いだ。
「………」
咲夜が黙り込んでしまった。
私は咲夜の肩を叩き呟く。
「すまない……」
また捨て台詞をして、地下の図書館へと向かう。
地下の図書館に辿り着いた。
いつもなら、騒がしく入るのだが今日は大人しく入る。
さすがに、私が入ってきた事に気が付いてないと思ったが、そう甘くなかった。
「魔理沙、居るのね……」
すぐに気づかれてしまった。
「ああ、居るさ。ここにね……」
そう言いつつパチュリーに顔を見せる。
「何の用かしら?いい加減本を返し……」
パチュリーが座っている椅子の前にある机に、今まで借りてきた本を全て置いた。
「えっ、何これ?」
「今まで借りた本だ」
「また何で突然……」
「何故なら、私がここに来るのが最後なんだ」
一瞬、時が止まった。
確かに、パチュリーが思考停止に陥ったのは分かる。
私はパチュリーに全てを話した。
すると、パチュリーは目に涙を溢れさせてこう言った。
「魔理沙……わ、私はあなたを愛していたわ」
「それは分かっている」
「こんな引き籠りの女をここまで一緒に同じ時を過ごしていたのは貴方だけだったの!」
「そうだったのか……本当にすまない。だけど、私が死んでもお前を一生愛してやるからな。永久にな……」
「魔理沙……」
「お前の事は一生忘れないぜ。例え、冥界でもな」
私は、3度目の捨て台詞をして、紅魔館を後にした。
次の場所で、最期にしたいと思う。
それは、アリスの元だ。
一番お世話になった人物でもあるからだ。
【余命残り三十五分】
アリスの家の前に着く。
丁度、中でお茶をしているらしい。
紅茶の香りが漂っている。
アリスと別れの時。
そう考えると、涙が止まらなくなった。
何故なら、私が一番「失いたくない物」を失うからだ。
ドアをノックする。
すると、いつもの明るい返事が返ってくる。
感情はもう制御不可能だ。涙は止まらない。
ドアが開いた瞬間、アリスの胸に飛び込んだ。
「ちょ、ちょっといきなり何⁉」
私は泣く事しか頭になかった。
「だって……もうアリスに会えないんだぜ」
「いきなり何を言ってる……」
「私はもう死ぬんだ!もうこの世界に戻れないんだ!」
必死の想いで叫ぶ。感情を失った私のアリスに対する想い。
「死ぬって……本当なの?」
「本当だって!もうアリスに会えないんだぜ!もうアリスの顔も見れないんだ!」
「魔理沙。よく聞いて」
「何だよ……」
「私は、最初この世界に来たとき、全く友達が出来なかったわ。そんな中で貴方に出会ったの。最初は、あまり近づけなかったんだけど、あなたのフォローがあったから、こうして私の大好きな親友になれたのよ。ありがとう。それだけで精一杯だわ。」
「アリス…」
【余命残り二十分】
「これが最期の魔理沙に淹れる紅茶ね」
「やめろって、悲しくなるだろ」
「もう……さっきあんなに号泣してたくせに」
「仕方ないだろ。だって……寂しいもん」
アリスの淹れる紅茶を啜りながら回想していく。
今までの人生の記録を遡っていく。
幻想郷で過ごした日々、異変解決、沢山の出会い、そしてアリスとの思い出。
「本当に色々だったな。私の人生」
「多種多様みたいな感じかしら」
「ああ、そうかもしれないな」
多種多様。その言葉は確かに当てはまる。
沢山の人物を愛し、そして愛されてきた……
「いや、それは無いか」
「何が?」
「私が、沢山の人に愛されてきたって事だよ」
「そんな事ないわよ」
そうなのか?そんな実感は湧かないが。
「この幻想郷全員が魔理沙の事好きだと思うわ」
「私はそうではないけどな」
二人そろって微笑む。この風景も、もう見れないのだろう。
【余命残り十分】
「なぁ、アリス。これからどうするんだ」
「いつも通りにしておくわ。魔理沙のお墓の手入れはちゃんとするから」
「本人の前でその話は止めてくれ」
私のお墓。とうとうそんな物が存在してしまうのか。
「場所は魔理沙の家の前で良いかしら?」
「だから、私に聞いてどうする……でも、アリスの傍にずっと居たいから、アリスの家の前に……」
思わず本音が出る。前から考えていた事だが。
「分かったわ。あなたがそう言うならそうするわ」
「ああ、そうしてくれ」
大分可笑しな話をしているが、死後の人生も大切に……って、どうせ冥界に棲むのだが。
【余命残り五分】
「やっぱり最期は笑って死ぬのが良いな」
「笑いながら死ぬって、これまた可笑しな話ね」
まあ、どんな息の引き取り方でも良いのだが。
すると、突然ドアが勢いよく開く。
そこに居たのは霊夢だった。
「良かった。まだ生きてた」
「生きてるぜ」
「私も貴方の最期を見たいから急いでここまで来たわ。結構探したわよ」
「ありがとよ……一度別れをしたはずなのに何で来るんだよ」
「だって、貴方が好きだから……」
「霊夢……」
【余命残り二分】
そろそろ私の死ぬ時が訪れる。
けれども、恐怖心は全く持っていない。仲間が傍にいるから。
私の傍にいる、アリスと霊夢。掛け替えのない大事な親友だ。
「なぁ、一つ言わしてくれ」
「何?」
「ありがとう。傍に居てくれてな」
「そんなの友達なんだから当たり前じゃない」
「というか、貴方が死んでも友達だと思うわ。一生ね」
ここで突然、また私の涙腺が緩くなる。いや、この場に居る全員の涙腺が緩くなった。
落ちる大粒の涙。喚き嘆く声。二人の悲痛な感情。
全てが私に伸し掛かる。
「お前たち、やめてくれよ」
「だって、私の魔理沙が……」
【余命残り一分】
私の体に毒の効果が効き始めた。
「くっ……何だこの痛み」
体全身が凄く痛む。
「大丈夫⁉魔理沙」
「しっかりしなさいよ!死なないで……」
「あぁ、大丈夫だ」
そう言いつつも体が締め付けられるような痛みがする。
全身麻痺だ。
これが毒が牙を剥いたときに見せる症状らしい。
【余命残り三十秒】
「もう……ダメだ」
「魔理沙。ダメよ……」
「頼むから死なないでっ!」
私は、最後の力を振り絞り、我が人生最期のメッセージを二人に届ける事にした。
【余命残り十秒】
「お前たちに……会えて良かった……私はお前らが……好きだ……」
こうして私は息を引き取った。
そして、幻想郷に存在する一つの生命体が儚く散っていった。
「魔理沙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「はい、ここで終了です」
にとりに終わりを告がれ、私はとても大きい装置から出る。
「どうでしたか?魔理沙さん」
「ライフゲームだっけ?うん……実に良い体験だったよ」
「この生命遊戯は、大切な人の大切さを知ってもらうために作りましたから。てへっ、ちょっとやりすぎでした?」
「あぁ、確かに内容は悲惨だったな」
「ですよね。あえてこういうストーリー仕立てにしてますからね」
まさか、にとりが脚本だったとは。
「一つ言うなら、余命宣告される症状だったら、普通は寝込んでるのが普通じゃないのか?」
「そうですかね?」
「あと、幽明結界はさすがに一生奴は直さないと思うぜ」
「お前の感覚はどこかズレてる。それだけ言っておく」
「そんなにですか?」
「ああ、確かにズレてる。でも、大切な人を失う残酷さは計り知れないことは激しく理解した」
「ありがとうございまーす!」
にとりの実験に参加を誘われて、最初は凄く否定したが、実際はかなり充実したものだったと思う。
にとり曰く、登場人物が話していたことは全て真の感情なのだそうだ。前日にデータを取っているらしい。
まぁ、霊夢とアリスには一つ礼をしに行くとするか。
あんなに私を傍で心配してくれたのだから。
二人にはこう言っておこう。
「私の友達でいてくれてありがとう。」
生命遊戯。それは大切な人との一つの友情の芽生えだったのだ。
-完-
こんな機械あったら入るでしょうか。それとも入らないか。それを考えるだけでSS一本書けそうです。