Coolier - 新生・東方創想話

「オカルトサークル」

2013/04/06 14:56:42
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「オカルトサークル」

という題名まで打ち込んで、僕は少し躊躇った。
 
真っ暗な部屋の中に、パソコンの明かりだけが不気味に光り続けている。網戸は閉めているが、蛾が寄ってきそうだ。じっとりと暑い熱帯夜はもう日本の風物詩と化し、夏の間は夜クーラーをつけていないと眠れない。だが、今日、僕はなんだかクーラーをつける気分にはなれなかった。

先日、友達と部活の合宿に行った。そこで、肝試しに怪談大会をしたのだが、僕の話……いや、正確に言うと、ばあちゃんの話だ。自分ではかなり皆を怖がらせる自信があった。しかし、いざ話してみると、ウケないどころか皆に盛大に笑われたのだった。
恥ずかしかったし、悔しかった。僕のばあちゃんは、普段はとてもおっとりしていて人が良いのだが、僕にこの話をしてくれる時は、とてもばあちゃんと思えないような、怖くて、魔女のようで、そして、おどろおどろしい口調で僕に言うのである。
「この話を、絶対他の人に話してはいけないよ」

最初は怖がっていた僕も、もう中学生だ。子供ではない。だから、怪談大会の時にも皆に話してしまった。特に何が起こる訳でもなかったし、皆が真に受ける事もなかった。だが、自分の中で怖い話だと信じていた事もあったし、絶対にウケると思っていたので他の意見が聞いてみたかった。


僕はかた、とキーボードを打ち始める。


件名
オカルトサークル

本文 
これは僕のばあちゃんの話です。昔、京都が日本の首都になって少し経った頃、ばあちゃんは大学生でした。ばあちゃん(以下、レンコ。仮名です)とメリー(これも仮名)という同級生二人でオカルトサークルなるものをやっていたそうです。
レンコとメリーは、とても頭が良く、気が合う仲良しだったそうです(これは、ばあちゃんがものすごく強調してくるところ)。

そのオカルトサークル二人組は、メリーの能力によって結界暴き(今は違法行為ですね)をしたり、好き勝手して遊んでいたそうな。
レンコは、メリーの能力に任せて色んなところへ冒険したり、メリーもレンコに呆れながら一緒に楽しんだりしていたそうです。
が、ある日、メリーは現実と結界の向こうの境目が完全に分からなくなって、気がふれてしまったそうです。レンコはメリーが突然おかしくなったので、色んな手をつくしてどうにかしようと試みましたが、駄目でした。
そしてメリーは自分が何もかも分からなくなり、最後には自殺してしまったそうです。

僕のばあちゃんは、七十を過ぎてからこの話をしてくれるようになりました。それまでは、そういう話、全然しなかったのに。ばあちゃんの中で、何か変わったのかな。
何のひねりもない話でしたが、何か心当たりある方はレスください。


そこまで打って、ふうと息を吐いた。ばあちゃんは、隣の部屋で寝ているのだろうか。長生きしてる、と言われるばあちゃんでも、もうあまり体力が無いらしい。実はこの間、夏になる前に病気をこじらせて手術した。目と、心臓らしい。僕は、元気なばあちゃんが好きなのであまりそういうのは知りたくなかったから曖昧にしか聞いていない。もしかしたらこの夏で……と言われているらしいが、もうじきに僕も受け入れなきゃいけない時が来るのかもしれない。

掲示板の送信ボタンをクリックし、布団に潜り込む。もう午前三時近くになっていた。朝になって、レスがついていたら万々歳なんだけど。また、笑われたらどうしよう。そういう事を思いながら、ゆっくりと眠りについた。




翌朝、と言っても昨日寝る時間が遅かったから午前十一時くらいだ。母親に布団を引っぺがされて起きた。クーラーをつけるのを忘れていて、汗を沢山かいていた。

早速パソコンの掲示板をチェックする。

レスが、一つついていた。

はやる気持ちと共に画面をスクロールする。



件名
オカルトサークル:Re

本文
はじめまして。オカルトサークルの文章読みました。昔は結界暴きが横行していたと聞きます。そんな事もあったのですね。貴方のおばあちゃんが話してくれるようになったのも、自分の中で決着が付き、メリーさんにちゃんと顔向けできるようになったからでしょう(って、もう死んじゃった人ですが)。
私は昔の事を良く知りませんが、貴方の話は面白いと思いました。機会があれば、また聞かせてください。



僕の心は躍った。この話を、受け入れる人がいてくれただなんて。ばあちゃんも喜ぶに違いない。
それに、ばあちゃんがメリーさんに顔向けできるようになった、というのは的を得ていると思う。ずっとばあちゃんの中で罪悪感があったんだろうな。それを感じ取れなかった自分が少しだけ恥ずかしかった。


僕は早速それにレスを返す事にした。



件名
オカルトサークル:Re.Re

本文
レス、ありがとうございます。嬉しかったです。皆に話しても信じてもらえなかったので。僕も、昔の話はばあちゃんの話を聞いた範囲でしか分からないのですが、結界暴きという危ないラインに触れてしまった二人はそれだけの代償を背負ってしまったのかもしれませんね。
僕は、そういうの結構憧れるんだけどなあ。




そこまで打って、僕の背中につつ、と冷たい気配が触れた気がした。嫌な、悲しい、色んな感情を含んだ、冷たい気配。そんな気がした。



僕はもうそこで送信ボタンを押す事にした。そして、レスがついてももう返さないようにしよう、と決めた。本能的に、嫌な予感がしたのだ。



次の日になっても、レスはついていなかった。僕は安堵したと同時に、やっぱり書き込まないほうが良かったのかなあと感じていた。そもそもばあちゃんから人に話すなと言われていたし、怪談大会で笑われた時に諦めていた方が良かったのかもしれない。
 
僕は、掲示板の書き込みを消す事にした。万一ばあちゃんに問い詰められても証拠は残らないし、それに、まだ嫌な予感は続いていたのだ。昨日書き込みをした時の冷たい気配はもう感じなかったが、それでも消したほうがいい気がした。
ページにアクセスし、掲示板の編集キーを打ち込む。

しかし、おかしな事が起きた。何度消去ボタンを押しても消せないのだ。

僕は何度もクリックを続ける。明らかにおかしい。消せない。
どうしてなんだ。段々と嫌な汗が吹き出てくる。



そして、後ろに嫌な、冷たい気配を――






「こら! 何しとるかね!」

ばあちゃんがいきなり僕の部屋のドアを開け、怒鳴った。
ひっ、と声が出ると同時に、冷たい気配がふっと消えた。

ばあちゃんはいきなり部屋を開ける人ではないし、ましてや怒鳴ったところを見た事がない。でも、助かった。僕は、椅子に座ったままふにゃふにゃと腰を抜かしていた。





ばあちゃんが亡くなったのはその次の日の真昼だった。眠るように、穏やかに亡くなった。僕も看取った。ばあちゃんは、この世からいなくなった。

葬式の日になっても、あの掲示板の事もあってかぼうっとしていた。ちなみにあの、自分の書き込みとレスは不思議な事に消えていた。

僕が推測するに、あのレスは、メリーさんの書き込みだったのではないかと思う。僕が、そういうの憧れるんだけどなあ、と発言した事に対してメリーさんは結界の向こう側、死の世界においで、おいでしていたのかもしれない。寂しかったのかな。
そこで、ばあちゃんが怒鳴ってきたという事は、昔相棒だった奴を怒鳴ったという事なのかもしれない。勿論僕にも怒っただろうが、メリーさんのおいたを叱った部分が大きかったと思う。


メリーさんとおばあちゃん。
レンコとメリー。

僕は二人が天国で会えていたらいいなあ、と。また、昔のようにお互い呆れながらもオカルトサークルじみた事をしていたら、いいなあと思うのである。
読んで頂きありがとうございます。
twitterにてアイデアを頂いたので、書かせて頂きました。
こういった怪談のようなものは昔から大好きだったので、サクサク書けました。
やたら現代チックになっているのは、前時代の怪談ぽさを出したかった為です。
伏見やまと
http://twitter.com/xxxzzxxx_
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コメント



0.380簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
素朴な文体が心地いいです
大筋はホラー話ながらも、心の末端を温めてきます

さりげに、この「蓮子の孫」の置かれた世界観にも興味を覚えました
この作品の時代では、幻想郷はどうなっているのでしょうか………



9.70名前が無い程度の能力削除
サクッと読める短編の中にゾクッとさせてくれる要素がありとても満足です。
レンコお婆ちゃんがどうしてこんな怖い話を孫にしていたのか、最後お婆ちゃんが怒鳴ったのは何故なのか、疑問がつきないので是非もう少しじっくりと読みたい作品でもありました。
12.80奇声を発する程度の能力削除
思わずゾクッと来る所もあり面白かったです
13.703削除
ホラーだったのか、あまり気づかなかった。
不思議な出来事ではありますが実にありそうな感じがいいですね。