目を覚ますと、カーテンの隙間から日が漏れているのが見えた。やっぱり、昨日の宴会で、そのまま酔いつぶれてしまったんだ。ベッドに体を埋めて、その中で小さく伸びをする。日の光は苦手だけど、朝と言うのはあんがい気持ちの良いものだと気がついた。
伸びついでに、あくびも出てしまう。咲夜の前だと、はしたないなんて怒られてしまうけど、今は私ひとり。顔いっぱいに口を開けて、目の端に涙が溜まる。その時の自分の顔を想像して、たまらず吹きだしてしまった。まだ、自分の温もりが残るベッドに寝転がる。もう目は冴えてしまったけど、何となく今すぐは動きたくなかった。
いま、この時間に起き出すと、咲夜は驚くかしら。そんなことを考えながら、高い天井の隅を見る。たぶん、朝ごはんも用意されていない。いつも起きるのは夜だから。夜なのに朝ごはんなんて、可笑しい。まどろんでいる時と言うのは、どうしてこんなに下らない事を思うのかしら。あんまり下らないから、ひとりでまた笑ってしまった。傍から見たら、なんて可笑しな事だろう。なんだか急にはずかしくなって、ごまかす様に、ベッドから這い出した。
自分の部屋を出て、台所に向かう。たぶん、咲夜はそこで、何かしていると思うから。この時間に起きているのは、咲夜と私くらいだろう。パチェはまた机で眠ってしまっているだろうし、フランも夜に起き出す。美鈴は、またお昼寝。そうして、いつもの様に咲夜に怒鳴られるのだ。
台所を覗いてみても、咲夜はいなかった。他の場所の掃除でもしているのだろう。咲夜は、メイド妖精と違って、館の全部のことをやらなくちゃいけないから。でも、どうにも台所にいる印象が強かった。私が普段、館を隅々まで歩く事がないからだろう。私のいない場所まで、咲夜は入念に綺麗にするのだ。そう思うとなんだか途端に、そのことがうれしく、誇らしいような気持ちになった。
白くて、お洒落な急須のような物があった。西洋の物だし、急須とは言わないのかしら? なんだか霊夢と知り合ってから、和風の物に詳しくなった気がする。でも、私にはこっちのほうがしっくりくるんだと思った。普段、あんまり意識して見ていなかったけど、あれは紅茶を淹れる急須だ。その横に、普段つかっているお気に入りのカップがあるのが分かった。
ひとりで紅茶を淹れたら、咲夜は驚くかしら。わたしは、またそんな事を考えた。咲夜が紅茶を淹れるのを見ているので、淹れ方は何となく知っている。まずヤカンのお湯を沸かして、紅茶の入った缶を見つけだし、カップに入れた。でも、カップにお茶の葉を入れて、飲みにくくないかしら? それとも、お茶の葉がお湯で溶けるのかしら。どのくらい入れるものなんだろう。いざ目の当たりにすると、分からないことばかりだった。それでも、見よう見まねでやってみる。スプーンのありかを探していると、突然ヤカンが鳴った。聞きなれない音だったから、ふだんお湯を沸かしているのは、ヤカンではないのかもしれない。
ヤカン一杯に水を入れたから、思いのほか重かった。今思えばこんなにお湯は必要ない。そうだ、咲夜の分も淹れてあげよう。普段と逆の立場を想像して、それだけで何だかうれしくなってしまった。
「お嬢様!?」
後ろからの声に、思わずびくり、と体がはねた。なんだか、そんなつもりは無いのに、イタズラをしているのを見られたような、悪い事をしているようなつもりになった。
「あ、あの、咲夜。これは」
私は、説明をすると言うより、言い訳をしている気分だった。咲夜は私の手に持っているヤカンを取り上げようとしたけど、でも私は動揺しているのと、上手な渡し方が分からず、熱い部分に手が触れてしまった。熱っ、と自分でもびっくりするくらい大げさな声が出てしまって、心の奥から何かいやな物がにじんでいるような気がした。咲夜は予想通り、大丈夫ですかと言ってすぐに私の手をとった。
私は、痛みはそうでもないのに、心配されようとして、火傷を咲夜のせいにしようとして、それであんなに大げさな声を出したんだ。そのことに気付いて、それなのに白々しく咲夜に手を見せている自分が、なんだか怖くなってしまった。
顔を近づけて、こっちが恐縮するくらい丁寧に手を持って具合を見る。申し訳なくて、だけど謝ることも出来なくて。ただ咲夜が次の言葉を発するのを待っていることしか出来なかった。
「すみません。私が、すぐに気が付かなくて」
咲夜は、自分が遅いから、私が我慢できずに紅茶を淹れようとしたと思っているのだろう。それで、責任を感じて、だからあんなに必死に止めようとしたのだ。でも、それは違う。私は、心の奥で、咲夜をびっくりさせたくて、褒めて欲しくて、それであんな事をしたのだ。
「……違う」
いっそ、思い切り叱って欲しかった。思い切り叱って、そうして私を嫌って欲しかった。なのに、咲夜は自分が悪いと思い込み、自分を責めている。ああ、私は、悪い子だ。今ほど、自分を嫌ったことはかつて無かった。それでも私は何も言い出せず、ただ、痛がるフリしかできなかった。
半端に注いだ紅茶を朝日が照らす。深すぎるくらいの紅に、私の顔が映る。泣き出しそうな顔をして、それでも涙を堪えるのを、情けなく思った。
伸びついでに、あくびも出てしまう。咲夜の前だと、はしたないなんて怒られてしまうけど、今は私ひとり。顔いっぱいに口を開けて、目の端に涙が溜まる。その時の自分の顔を想像して、たまらず吹きだしてしまった。まだ、自分の温もりが残るベッドに寝転がる。もう目は冴えてしまったけど、何となく今すぐは動きたくなかった。
いま、この時間に起き出すと、咲夜は驚くかしら。そんなことを考えながら、高い天井の隅を見る。たぶん、朝ごはんも用意されていない。いつも起きるのは夜だから。夜なのに朝ごはんなんて、可笑しい。まどろんでいる時と言うのは、どうしてこんなに下らない事を思うのかしら。あんまり下らないから、ひとりでまた笑ってしまった。傍から見たら、なんて可笑しな事だろう。なんだか急にはずかしくなって、ごまかす様に、ベッドから這い出した。
自分の部屋を出て、台所に向かう。たぶん、咲夜はそこで、何かしていると思うから。この時間に起きているのは、咲夜と私くらいだろう。パチェはまた机で眠ってしまっているだろうし、フランも夜に起き出す。美鈴は、またお昼寝。そうして、いつもの様に咲夜に怒鳴られるのだ。
台所を覗いてみても、咲夜はいなかった。他の場所の掃除でもしているのだろう。咲夜は、メイド妖精と違って、館の全部のことをやらなくちゃいけないから。でも、どうにも台所にいる印象が強かった。私が普段、館を隅々まで歩く事がないからだろう。私のいない場所まで、咲夜は入念に綺麗にするのだ。そう思うとなんだか途端に、そのことがうれしく、誇らしいような気持ちになった。
白くて、お洒落な急須のような物があった。西洋の物だし、急須とは言わないのかしら? なんだか霊夢と知り合ってから、和風の物に詳しくなった気がする。でも、私にはこっちのほうがしっくりくるんだと思った。普段、あんまり意識して見ていなかったけど、あれは紅茶を淹れる急須だ。その横に、普段つかっているお気に入りのカップがあるのが分かった。
ひとりで紅茶を淹れたら、咲夜は驚くかしら。わたしは、またそんな事を考えた。咲夜が紅茶を淹れるのを見ているので、淹れ方は何となく知っている。まずヤカンのお湯を沸かして、紅茶の入った缶を見つけだし、カップに入れた。でも、カップにお茶の葉を入れて、飲みにくくないかしら? それとも、お茶の葉がお湯で溶けるのかしら。どのくらい入れるものなんだろう。いざ目の当たりにすると、分からないことばかりだった。それでも、見よう見まねでやってみる。スプーンのありかを探していると、突然ヤカンが鳴った。聞きなれない音だったから、ふだんお湯を沸かしているのは、ヤカンではないのかもしれない。
ヤカン一杯に水を入れたから、思いのほか重かった。今思えばこんなにお湯は必要ない。そうだ、咲夜の分も淹れてあげよう。普段と逆の立場を想像して、それだけで何だかうれしくなってしまった。
「お嬢様!?」
後ろからの声に、思わずびくり、と体がはねた。なんだか、そんなつもりは無いのに、イタズラをしているのを見られたような、悪い事をしているようなつもりになった。
「あ、あの、咲夜。これは」
私は、説明をすると言うより、言い訳をしている気分だった。咲夜は私の手に持っているヤカンを取り上げようとしたけど、でも私は動揺しているのと、上手な渡し方が分からず、熱い部分に手が触れてしまった。熱っ、と自分でもびっくりするくらい大げさな声が出てしまって、心の奥から何かいやな物がにじんでいるような気がした。咲夜は予想通り、大丈夫ですかと言ってすぐに私の手をとった。
私は、痛みはそうでもないのに、心配されようとして、火傷を咲夜のせいにしようとして、それであんなに大げさな声を出したんだ。そのことに気付いて、それなのに白々しく咲夜に手を見せている自分が、なんだか怖くなってしまった。
顔を近づけて、こっちが恐縮するくらい丁寧に手を持って具合を見る。申し訳なくて、だけど謝ることも出来なくて。ただ咲夜が次の言葉を発するのを待っていることしか出来なかった。
「すみません。私が、すぐに気が付かなくて」
咲夜は、自分が遅いから、私が我慢できずに紅茶を淹れようとしたと思っているのだろう。それで、責任を感じて、だからあんなに必死に止めようとしたのだ。でも、それは違う。私は、心の奥で、咲夜をびっくりさせたくて、褒めて欲しくて、それであんな事をしたのだ。
「……違う」
いっそ、思い切り叱って欲しかった。思い切り叱って、そうして私を嫌って欲しかった。なのに、咲夜は自分が悪いと思い込み、自分を責めている。ああ、私は、悪い子だ。今ほど、自分を嫌ったことはかつて無かった。それでも私は何も言い出せず、ただ、痛がるフリしかできなかった。
半端に注いだ紅茶を朝日が照らす。深すぎるくらいの紅に、私の顔が映る。泣き出しそうな顔をして、それでも涙を堪えるのを、情けなく思った。
ただし、さすがにその作者名はいかがなものかと思います。
まぁ…作者名は(苦笑)
短いけどその分、レミリアの幼い部分がダイレクトに伝わった気がします
それより名前がw
内面描写が実に可愛らしいです。
しかし名前もうちょっとどうにかならんかったのかw