この戦いにはなんとか辛勝、いや辛勝といえるかも怪しい。
こちらへの被害はただひとつ。
稗田阿求の心の崩壊。
今の彼女は喋らず、何も見ない。食べ物すら自発的に食べることが出来ない。
原因は彼女が撃った白狼天狗。犬走 椛の重体。死んではいないが、まだ目を覚ましてないということを射命丸から聞いた。
妖怪と人間との架け橋になろうとした少女だったのだ。
自らの手で下した決断の重さに耐え切れなかったのだろう。
全ては私の責任だ。
守るだなんて言って、命の危険に晒し、挙句の果てには心を壊す。
なんどか永琳には来てもらったが、返事は治るかどうかはまだ分からない。
悔しさゆえに壁を殴ってしまう。されど私の拳は痛むことはなくやすやすと壁を貫通し、またその事が私をいらだたせる。
「お母様、お食事が出来ました」
「いらないわ」
「しかし、もう一週間も何も食べてらっしゃいません」
「それくらいじゃ死なないわよ」
私にとって食事は嗜好品。
重要視するほどのことでもない。
咲夜は悲しそうな目をして出て行った。
ちくしょう。咲夜にまで迷惑をかけてしまっている。
ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう。
目の前で眠る阿求を見ると後悔しか沸かない。
後悔は泥のように私にまとわりつき。心を縛る。
いっそ私の心も壊れてしまえば。
「放っておきなさい」
「しかし」
「私達にはどうすることもできないのよ」
パチュリー様に相談してもその言葉しか返ってこない。この一件はパチュリー様の心にも深い重しを残したようで、パチュリー様が寝ているのも見なくなった。
「パチュリー様は休まれないのですか」
私に目を向けることなく、ずっと同じ体勢で本を読み続けるパチュリー様に聞いてみる。
「私はいいのよ。眠らないと行けないなんてそんな事はないし。それより咲夜、貴方も休んだらどう?」
「いえ、私はちゃんと寝ておりますので」
「目の下、くまできてるわよ。それに肌に張りがない」
確かに私は寝ていない。それは阿求さんのことではなく。その事で気に病むお母様が心配で心配で眠れないのだ。
皆同じか。美鈴も以前のように居眠りすることはなく鋭い目をして彼方を睨んでいる。
もう私以外使っていない厨房には洗物がたまっている。する気が起きない。
………もし、阿求さんを殺せば、お母様はまた私を見てくれるのだろうか。
いや、そんな考えは駄目だ。疲れているのだろう。睡眠薬を飲んででも無理やり眠ろう。
紅魔館の崩壊。それが今回の戦いの結果。敗北だ。
何が紅魔館の頭脳だ。まったく役に立ってないじゃないか。
せめてと思い、もうずっと壊れた心を直す方法について調べているが一向に見つからない。
阿求が治ればおそらく紅魔館も戻る。成功するかどうかは未知数だが試してみないことには分からない。
泣きたい。正直もうこんなの嫌だと叫んで泣きじゃくりたい。
でもそれでは駄目なんだ。私が望む結果を求めるためにはそれじゃあ駄目なんだ。
軽く霞んだ目をこすりつつ、またページをめくる。
あと何度ページをめくればいいのだろうか。
「レミリア・スカーレット」
「いいえ、私はただのレミリアよ」
紅魔館に阿求の様子を見に行くと、数日前とまったく変わらない姿のレミリアがいた。
おそらく、数日間何もしていない。睡眠食事その他もろもろ。
声は水分を取らないせいでのどが張り付いてしまっている。普段の彼女とはまったく違うがらがら声。
今回の戦いは阿求だけではなく、彼女もぼろぼろにしてしまっている。
全ては私の判断ミスで。
阿求が提案したときに無理やりにでも押さえつけておけばこんなことにはならなかったはずだ。
たとえ足の骨を折ってでも止めておけば、最悪の事態にはならなかった。
もう遅いけども。
「調子はどうかしら」
「最悪よ。夢なら覚めろってぐらいには」
「そう」
人里で購入したお饅頭をレミリアに渡す。レミリアは視線を阿求に向けたまま受け取り、そのまま机の上に置いた。
「阿求は私が連れて行くわ」
「いや、このまま寝かしておきましょう」
「それは貴方達のためにはならないわ」
「そんな事はない」
「あるのよ。それに今また攻め込まれたら次はこんなもんじゃ済まない」
「次来たら皆殺しにしてやるさ」
ははは、とレミリアが渇いた笑いをあげる。そして咳き込む。
「分かってるでしょう? 今の自分を」
「分かってるわよ………」
「だから連れて行くわよ」
「でも」
「これ以上阿求を貴方のくだらないプライドに付き合わせないで。この娘はまだ死ぬべきではないのよ」
「………そんなものじゃ」
分かってる。レミリアはプライドを優先するほど下等な吸血鬼ではないということに。でも今必要なのは。同意ではなく彼女を諦めさせる言葉。そのために私は少し卑怯かも知れないが、レミリアの大切な大切な妹の話題をだした。
「ねぇレミリア。最近フランに会った?」
「会ってないわ。あの子、地下室から上がってこないんだもの」
「いいえ。あの子は地下室に篭ってなんかいないわ。今もこの部屋の外にいる」
「え?」
「この部屋を守るために休まずにずっと。右手に剣を、左手に絵本を持って。今私がしっかりしなきゃもっと駄目なことになるって。私の心はまだ折れてはいないからって。健気ね。姉のために尽くす妹は」
「フラン、が?」
「しっかりしなさいレミリア・スカーレット。貴方はこの紅魔館の主でしょう? そんな体たらくで主を名乗るだなんてちゃんちゃらおかしいわ」
「………それもそうね。でもコレだけ言わせて。奴らに借りを返すまでは私はレミリア・スカーレットではなく、ただのレミリア。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そう、ならいいわね」
「えぇ。阿求を安全な場所まで連れて行って頂戴。私はやることがある。この心、まだ折れてないもの」
レミリアの瞳に光が戻る。レミリアは机の上の饅頭を二口で食べ終わると渇いたのどにむりやり通過させた。
「水飲んでくるわ」
レミリアは部屋から出て行った。もう大丈夫でしょう。外の会話を聞く限りは。
さて、阿求を私の家まで連れて行こう。あんなに嫌がってたスキマも今は文句なく通ってくれるでしょうし。
なんて冗談を言ってる場合じゃないわ。
出来ることからこつこつと、善は急げ。それが私の座右の銘ですもの。
こちらへの被害はただひとつ。
稗田阿求の心の崩壊。
今の彼女は喋らず、何も見ない。食べ物すら自発的に食べることが出来ない。
原因は彼女が撃った白狼天狗。犬走 椛の重体。死んではいないが、まだ目を覚ましてないということを射命丸から聞いた。
妖怪と人間との架け橋になろうとした少女だったのだ。
自らの手で下した決断の重さに耐え切れなかったのだろう。
全ては私の責任だ。
守るだなんて言って、命の危険に晒し、挙句の果てには心を壊す。
なんどか永琳には来てもらったが、返事は治るかどうかはまだ分からない。
悔しさゆえに壁を殴ってしまう。されど私の拳は痛むことはなくやすやすと壁を貫通し、またその事が私をいらだたせる。
「お母様、お食事が出来ました」
「いらないわ」
「しかし、もう一週間も何も食べてらっしゃいません」
「それくらいじゃ死なないわよ」
私にとって食事は嗜好品。
重要視するほどのことでもない。
咲夜は悲しそうな目をして出て行った。
ちくしょう。咲夜にまで迷惑をかけてしまっている。
ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう。
目の前で眠る阿求を見ると後悔しか沸かない。
後悔は泥のように私にまとわりつき。心を縛る。
いっそ私の心も壊れてしまえば。
「放っておきなさい」
「しかし」
「私達にはどうすることもできないのよ」
パチュリー様に相談してもその言葉しか返ってこない。この一件はパチュリー様の心にも深い重しを残したようで、パチュリー様が寝ているのも見なくなった。
「パチュリー様は休まれないのですか」
私に目を向けることなく、ずっと同じ体勢で本を読み続けるパチュリー様に聞いてみる。
「私はいいのよ。眠らないと行けないなんてそんな事はないし。それより咲夜、貴方も休んだらどう?」
「いえ、私はちゃんと寝ておりますので」
「目の下、くまできてるわよ。それに肌に張りがない」
確かに私は寝ていない。それは阿求さんのことではなく。その事で気に病むお母様が心配で心配で眠れないのだ。
皆同じか。美鈴も以前のように居眠りすることはなく鋭い目をして彼方を睨んでいる。
もう私以外使っていない厨房には洗物がたまっている。する気が起きない。
………もし、阿求さんを殺せば、お母様はまた私を見てくれるのだろうか。
いや、そんな考えは駄目だ。疲れているのだろう。睡眠薬を飲んででも無理やり眠ろう。
紅魔館の崩壊。それが今回の戦いの結果。敗北だ。
何が紅魔館の頭脳だ。まったく役に立ってないじゃないか。
せめてと思い、もうずっと壊れた心を直す方法について調べているが一向に見つからない。
阿求が治ればおそらく紅魔館も戻る。成功するかどうかは未知数だが試してみないことには分からない。
泣きたい。正直もうこんなの嫌だと叫んで泣きじゃくりたい。
でもそれでは駄目なんだ。私が望む結果を求めるためにはそれじゃあ駄目なんだ。
軽く霞んだ目をこすりつつ、またページをめくる。
あと何度ページをめくればいいのだろうか。
「レミリア・スカーレット」
「いいえ、私はただのレミリアよ」
紅魔館に阿求の様子を見に行くと、数日前とまったく変わらない姿のレミリアがいた。
おそらく、数日間何もしていない。睡眠食事その他もろもろ。
声は水分を取らないせいでのどが張り付いてしまっている。普段の彼女とはまったく違うがらがら声。
今回の戦いは阿求だけではなく、彼女もぼろぼろにしてしまっている。
全ては私の判断ミスで。
阿求が提案したときに無理やりにでも押さえつけておけばこんなことにはならなかったはずだ。
たとえ足の骨を折ってでも止めておけば、最悪の事態にはならなかった。
もう遅いけども。
「調子はどうかしら」
「最悪よ。夢なら覚めろってぐらいには」
「そう」
人里で購入したお饅頭をレミリアに渡す。レミリアは視線を阿求に向けたまま受け取り、そのまま机の上に置いた。
「阿求は私が連れて行くわ」
「いや、このまま寝かしておきましょう」
「それは貴方達のためにはならないわ」
「そんな事はない」
「あるのよ。それに今また攻め込まれたら次はこんなもんじゃ済まない」
「次来たら皆殺しにしてやるさ」
ははは、とレミリアが渇いた笑いをあげる。そして咳き込む。
「分かってるでしょう? 今の自分を」
「分かってるわよ………」
「だから連れて行くわよ」
「でも」
「これ以上阿求を貴方のくだらないプライドに付き合わせないで。この娘はまだ死ぬべきではないのよ」
「………そんなものじゃ」
分かってる。レミリアはプライドを優先するほど下等な吸血鬼ではないということに。でも今必要なのは。同意ではなく彼女を諦めさせる言葉。そのために私は少し卑怯かも知れないが、レミリアの大切な大切な妹の話題をだした。
「ねぇレミリア。最近フランに会った?」
「会ってないわ。あの子、地下室から上がってこないんだもの」
「いいえ。あの子は地下室に篭ってなんかいないわ。今もこの部屋の外にいる」
「え?」
「この部屋を守るために休まずにずっと。右手に剣を、左手に絵本を持って。今私がしっかりしなきゃもっと駄目なことになるって。私の心はまだ折れてはいないからって。健気ね。姉のために尽くす妹は」
「フラン、が?」
「しっかりしなさいレミリア・スカーレット。貴方はこの紅魔館の主でしょう? そんな体たらくで主を名乗るだなんてちゃんちゃらおかしいわ」
「………それもそうね。でもコレだけ言わせて。奴らに借りを返すまでは私はレミリア・スカーレットではなく、ただのレミリア。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そう、ならいいわね」
「えぇ。阿求を安全な場所まで連れて行って頂戴。私はやることがある。この心、まだ折れてないもの」
レミリアの瞳に光が戻る。レミリアは机の上の饅頭を二口で食べ終わると渇いたのどにむりやり通過させた。
「水飲んでくるわ」
レミリアは部屋から出て行った。もう大丈夫でしょう。外の会話を聞く限りは。
さて、阿求を私の家まで連れて行こう。あんなに嫌がってたスキマも今は文句なく通ってくれるでしょうし。
なんて冗談を言ってる場合じゃないわ。
出来ることからこつこつと、善は急げ。それが私の座右の銘ですもの。
鬱展開というやつですね
紅魔館編が導入編だったんですね。てっきり最初のプロローグが読んで字のごとく導入編だと思っていたので何処へ向かってるのかと思ってしまいましたが、プロローグ〜紅魔館編までが導入だと考えると内容にも納得です。
これから阿求がどう立ち直り、どうやって友起していくのか……。私が思ってたよりずっと長編みたいで、展開が楽しみです。というか、今回でかなり楽しみになりました。
……余計なお世話かも知れませんが、展開上、完結してはじめて1つの作品として評価されるタイプだと思います。様々な意見があり、批判も勿論付きまとうとは思います。
それは、完結してないからこその意見だったりすると思います。完結した後、読み返せばしっくりくる内容も、その部分だけ抜き出すとおかしく見えてしまうことはあります。なので、めげずに完結させてください。
少なくとも、私は楽しみにしてますので頑張ってください。
…完結するまでに随分かかりそうですが、続編楽しみに待ってます。
ケチをつけさせてもらいます。まず、誤字が多い。これはよくない。もうちょっと何とかならない?
次に、視点を切り替えるときの行儀が悪い。誰が喋ってるのか考える必要がある。もちろん判別材料は揃ってるんだけど、やはり不要な推理を強要されるとストレスになる。
最後に、投稿ひとつあたりの文章量はもっと多くてもよい。むしろ多いほうが、より作品に没頭して読むことができるので、是非そうしていただきたい。200KBぐらい使ってもまったく問題ない。
シリアス書いてるとだんだん話がそれていちゃいちゃしたくなる……分かりすぎてやばい。そこを堪えて、なんとか頑張ってください!夜も寝ないで昼寝しながらお待ちしております。
一つだけ、SSなんて読むしかできない僕ですがお願いがあります。
続編をもっと長く書いて投稿してくださいっ!!
読みますからっ!! 100GBでも咲夜さんに言って時間を止めて貰って読みますから。
続編をお願いします。
ですが、心を折るにしてはやや説得力に欠けていた印象があります。のでこの点数を。