かばんに着替え、日用品、小物、お気に入りの本を詰め込むと私の体の半分より少し大きいくらいになってしまった。
むぅ、どうするべきか。これでは重くて紅魔館についてしまう前に倒れてしまいますね。
というか、ところどころはみ出てしまってますしね。乙女の大切な布類は奥にしまっているので見えることはないのですが。底に穴でも開かない限りは。
「阿求様。本当に行ってしまわれるのですか?」
かばんを前に思考していると、不意に後ろから声をかけられました。声の主は私が雇っている家政婦です。
家政婦は歳は私より少し上程度なのですが、家事万能な素敵な女性です。うらやましい。
振り向くと、彼女の顔は暗く、まるでこれが今生の別れとでも言い出しそうな雰囲気です。もちろんまだ閻魔と契約を結んでない今死んでしまおうとは思わないのですが。というか思いたくもないのですが。
「たまには帰ってきますよ」
そう笑って返しても彼女の顔は晴れる事はありませんでした。これでは私が出て行きづらくなるではないですか。まだ二十歳にもならない身で家を出るのはいささか不良という感じがして、私を心配する彼女の気持ちは分かりますが、これでも私はまだ子供。アウトローにあこがれるお年頃なのです。なんて冗談を考えて見ましたが口に出したところで彼女の顔をさらに曇らせるだけだと判断し、私はもう一度笑いました。
それ以降は彼女は何も言わずにただ、荷造りを手伝ってくれしました。実に良く出来た従者です。
私は彼女を従者としてではなく家族と認識してますけどね。
彼女の手にかかれば荷造りなんてちょちょいのちょいでテクマクマヤコンなのですっきりとかばんの中に納まりました。お気に入りの本10冊はやはり多かったでしょうか。紅魔館には図書館があるというし減らしていいかも……… いや、この本は私のお気に入りなのですがから手放したくないです。これが本ではなくぬいぐるみだったら可愛らしさが出るかも、と思いましたがこんな私にぬいぐるみが似合うのでしょうか。どこからどう見ても日本人百パーセントの私に。
おっと話が脱線してしまいました。彼女は荷造りを終えると、失礼しますとだけ言って出て行きました。とても悪いことをした気分ですが、今生の別れというわけではないのですから、彼女が心配性なだけだろ思います。
あ、紅魔館のスカーレット・デビルは幼いと聞きます。絵本のひとつやふたつ持って行ったほうがいいのではないでしょうか。
こう見えても私。小さい子の面倒を見るのは得意なのです。泣く子も笑う阿求さんの二つ名は伊達じゃないのです。
本当は村一番の美少女とかそんな二つ名が欲しいのですが。あ、今のはオフレコでお願いします。
「くぅ~。疲れました」
伸びをすると凝り固まった体がほぐれる感じがして気持ちいいですね。あ、でもまだ体中がぼきぼきとかなったりしませんよ。若いですから。なんてたって若いですから!!
さて、本日二度目のお風呂に入ることにしましょう。綺麗好きで損はないですし。私お風呂大好きっこですし。そういえば霊夢さんはもうすぐ秋ですがまだ水で体を洗っているのでしょうか。なんと不憫な。私が不在の間ここに住んでいてもらいましょう。そうしましょう。
不思議ですよね。異変を何度も解決したはずなのに神社にお賽銭が入らないなんて。まぁ、ご利益とかありそうにないですもんねあの神社。噂だと悪霊が取り付いてるって噂ですし。
「って事で、私が不在の間、霊夢さんにこの屋敷を任せるって伝えて置いてください」
「はい。分かりました」
お風呂に入る前に出会った家政婦にそう伝え、私はるんるん気分でお風呂に入りました。いやぁ、いい事するって気分がいいですね!
「凄い豪華ですね」
「今日は阿求様がおられる最後の日なので」
「いや、間違ってないですが。なんだかそれだと私死んじゃうみたいだからやめてください。最後の晩餐なんて洒落になりませんよ? 最後に好きなものをたくさん食べてそのままご臨終とか嫌ですからね? 乙女たるものそんなはしたないまねはできませんよ。そもそも今日は全員ごちそう食べていいんですか? あぁ、なんならおかわりもいいぞ。なんて会話を繰り広げるほど貧乏してませんし。………まぁ、霊夢さんならそんな会話しててもおかしくないですが。あの人巫女になりますか? 人間やめますか? な人ですし」
「おかわり、していただけないのですか?」
「もう、そんなうるうるした目で見ないでくださいよ。分かりました分かりました。私も家政婦のご飯を堪能してから行きますよ。おかわりお願いします。体重が一キロ増えたところで、結構気にしますが。そんな事構うものですか!」
「ふふ。ありがとうございます」
こうなったらやけです。美味しい美味しいメイドの料理をおなかいっぱい食べてやりますよ。そう決意し、私は他の人から見られたら引きこもることやむなし、なフードファイター的食べ方を決行したのでした。
「も、もう無理です。おしまいです」
「ありがとうございました。阿求様」
結局食べ終わった皿にすぐに家政婦が盛り付けるというわんこそば的手法で私は夕食全てを食べ終えました。というか作りすぎです。明らかに私と家政婦合わせてもなお2~3人分取れるくらいにはあったでしょう。頭の隅で、今計算しましたが、私の胃袋は持つことなくギブアップする。家政婦の頑張りすぎだ! なんて事を考えましたが最終的に気合根性努力といった精神論で無事乗り越えました。
とりあえず思うのですが。甘いものは別腹なんて言葉は嘘です。それが本当だったら今目の前にある家政婦特製ケーキを食べることなんて容易いはずなんですよー!!
寝よう。今日はもう寝よう。それ以外何も考えられません。
布団に入って眠り。そして明日になって目が覚めればきっと気分爽快。だといいなぁ。
「朝ですよ。阿求さま」
「ふえ?」
気がつけば朝。夢は見てません。どれだけ疲れてるんですか私。うけるーあははは、はぁ………
「朝食の準備ができております」
朝食なんて言葉ききたくないんじゃおらーと叫びたくなりましたが、自重して苦笑気味に笑いました。今の腹具合からしてなんとか食べれるのではないでしょうか。多分。えぇ、多分。
そうだといいなぁ、と考えつつ、私はいつもの和服に着替え、戦場(朝食)に向かうのでした。めでたしめでたし。ちゃんちゃん♪
「なんで、そんな死にそうな顔してるのよ。貴方」
「いえ、なんでもありません」
朝食を食べ終え、もう駄目だ、おしまいだぁと苦悩しているといつのまにか紫さんが庭に立っていました。庭の和の美しさにすら対応してしまう紫さんの美貌が妬ましい妬ましい。その美貌の一割でもあれば今頃私には素敵な彼氏が出来ていたのでしょうね。天は私から記憶能力の代償にどのくらいの才能を奪っていったのでしょうか。記憶能力なんて要らない! だからもう少し胸と大人っぽさと身長をください! お願いします!! なんて今までの阿礼乙女に聞かれたら枕元で呪詛をはかれるようなことを祈っていると、紫さんはこっちを不思議そうな顔で見てきました。
「あなた本当に大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ」
紫さんに心配されるだなんて、今の私はどれほど体調が悪そうに見えるのでしょうか。決して良いわけではありませんが、そこまで悪いわけではないのですが。はっまさか今のは『あなた本当に(スタイルとか顔とか)大丈夫?』ということだったのでしょうか。おのれ紫さん。そこまで私をこけにしたのは貴方が始めてです! あなたが私の初めてです!!
いや、まぁ、私の被害妄想なんですけれどもね。
「それじゃあ、行こうかしら」
あ、そこで私は思い出しました。背負うと私よりも頭二つ分ほど出てしまう大きなかばんのことを。
背負えて何分持つだろうか、いや紫さんに頼んで重さを調節してもらえればなんとかなる。なりますよね?
よしっと頬を軽く叩き気合を入れてかばんを引きずって縁側まで持ってくる。そのかばんの大きさに紫さんは目を丸くしました。
「えぇっと。大丈夫、かしら?」
「正直、重さの境界を操ってもらえると大変助かります」
「そんな事しないでも私が運んであげるわよ」
そう言うと私が引きずっているかばんの感触が消えました。かばんのほうを見ると、そこにあったのはかばんではなく。ぎょろぎょろとした目がいくつも空間の裂け目からこっちを見ている。そんな紫さんが操るスキマが存在しました。怖い、やっぱりいつ見ても何度見ても慣れる事はありません。
そしてかばんはどこかというと、私が引きずらないと動かせないかばんを紫さんはまるで巾着でも持つかのように、あっけらかんと持っているのです。さすが最強妖怪です。びくともしません。
「さ、行くわよ」
「は、はい!」
私は希望と勇気だけを持ち、門の方へ記念すべき一歩を踏み出しました。いえ、踏み出そうとしました。しかしあげた足は地面につくことはなく、代わりにあのぎょろぎょろとしたスキマへと吸い込まれていきました。
できれば徒歩が良かったなぁ。と、落下していきながら、そう私は思うのでした。
「ぎゃふん!」
着地失敗。私は思いっきり大地と口付けを交わすことになってしまいました。アイラブ大地だなんてそんな冗談を言うことも出来ず、私は痛みで悶絶しました。顔を抑えて地面を転がる私を見て紫さんは微笑んで「ばかねぇ」と言いました。慣れてないものは仕方ないではないですか。昨日といい今日といいなんと転がることが多いのでしょうか。私は今日も転がりますだなんてそんな事は言いたくないのに。
鼻の頭を撫でながら立ち上がるとそこには唖然とした表情でこっちを見てくる緑色の中華風衣装を着て星の飾りがついた帽子をかぶった赤髪の女性。えっとたしか名前は紅、紅。あれ、記憶するのが私の能力のはずなんですが。記憶はしてるんです。だけど思い出せないだけなんです。
「あ! 紅 美鈴だ!!」
「え? あ? はい。そうですが。もしかしてその反応は私の名前を忘れたとかそんな感じですか?」
そういって悲しそうに笑う美鈴さん。あわわわわ。初っ端からやってしまいました!!
「まぁ、思い出してもらって本当の名前呼んでもらってるんだから文句はないんですが」
「ねぇ中国。少し咲夜を呼んできて頂戴」
「今、私の名前そこの方が言われましたよね?」
「紅 中国でしょ? 分かってるからさっさと呼んできなさい」
「はい………」
………なんというか強く生きてください美鈴さん。
とぼとぼと歩きながら屋敷内へ入っていく美鈴さん。そんな美鈴さんを見て思ったことは、やっぱり人間と妖怪もそれほど変わらないのかなぁという事でした。
「で、一体今日はなんの用かしらスキマ妖怪」
数分後に美鈴さんと現れたのは銀髪の女性。この人は人里で何回か会ったことあるから分かります。十六夜 咲夜さん。この館に仕えるメイド長でよく人里で献血を開いていたり、紅茶などを買いに来ます。歳は私や霊夢さんとそれほど変わらなかったと思うのですが、すらりとした体型で可愛いというより綺麗めの女性です。それに出るとこも出てますし。そんな咲夜さんを人里の男達が放っておくわけなく、良く咲夜さんがナンパしてきた男性を冷ややかな視線と蔑むような罵倒でやっつけているのを見ます。カッコいいなぁ、憧れちゃうなぁ。
「貴方の主人に話があるのよ」
「お嬢様は多忙なのよ。用件なら私が聞くから言って頂戴」
「私は貴方に用はないのよ。さっさと呼んできなさい。それが仕事でしょ?」
「妖怪の賢者たるものが言葉も通じないのかしら。私はおこがましいながらもお嬢様の代わり。お嬢様の用件なら変わりに私が引き受けると言ったわ。もう一度言いましょう。用件なら私が聞くからさっさと言って頂戴」
視線と視線がぶつかって火花を散らす。散らしたように見えました。それを美鈴さんと一緒にあわあわと見ていると屋敷の中から一人の少女が日傘をさしながら出てきました。
「何しているのかしら。咲夜」
「お、お嬢様!」
えっと、咲夜さんがお嬢様と呼んでいるのでおそらくこの人がレミリア・スカーレットなのでしょう。確かに見た目に反した落ち着きと優雅さを兼ね備えています。見た目は私よりも幼いのですが。やはり妖怪相手に外見で判断するのは禁物ということでしょうか。
「貴方のところのメイドが貴方に会わせてくれないのよ」
「あら、咲夜。私は貴方にそんな事命令した覚えはないわよ」
「すみません。お嬢様」
「別にいいわ。下がりなさい」
「分かりました」
咲夜さんはレミリアさんに言われたとおりに屋敷の中に戻っていきました。ただ屋敷に戻るときに一瞬みせた母親に怒られた子供のような顔と「だってお嬢様を紫とあわせるとまた何かが起こるんだもの」というつぶやきを聞いて、この人はレミリアさんの忠実な従者なんだな、と思いました。いやもしかすると主人の従者以上の何かで結ばれているのかもしれません。
「それで一体私に何の用かしら」
「そこの人間。稗田阿求と言うのだけれど。この娘を紅魔館に数日泊めてもらえないかしら?」
「あ、よろしくおねがいします!」
「またいきなりね。貴方が考えることはいつもそうだけれど」
「あら、私は良く考えた上での突然の行動よ」
「まぁいいわ。数日でしょ? 別に構わないわ。私の寝首をかけるような人間にも見えないし」
「貴方の寝首をかける人間なんているのかしらね」
「いないわね」
そう言いきれるほど、レミリアさんは強いのでしょう。やはり鬼という種族は凄いです。わくわくしながら手帳にレミリアさん。すっごい強いと書き込みました。
「続きは中で聞くわ。いらっしゃい。美鈴はそのまま門番ね」
「了解です。お嬢様」
美鈴さんは門番だから仕方ないとはいえ、なんだか一人で入ってしまうのは悪い気がしました。そんな私の考えが分かるのかは分かりませんが、美鈴さんはこっちを見て「ようこそ、紅魔館へ。素敵なお嬢様」と微笑むのです。
なるほど、これが紅魔館が誇る門番ですか。私はレミリアさんに続けて手帳に紅 美鈴。紳士的でとても格好良いと書き込みました。
「なるほどね。それは確かに素敵な夢ね」
「ありがとうございます」
咲夜さんが持ってきた紅茶を飲みつつ私の目的を話すと、レミリアさんはそう言ってくれました。てっきり紫さんみたいに変な夢と否定されるかと思いましたが、私のこの夢を否定することなく受け入れてくれたのです。あぁ、紅魔館の皆さんがこの人について行く理由が分かる気がします。
「任せなさい紫。阿求のことはこのスカーレットの名にかけて守りぬくわ」
「え、あ。守るだなんて、そんな大層な事では」
「いいえ。それが結構大層な事なのよ。人間と仲良くすることを拒む妖怪も多くいて、もしかすると貴方の命を狙ってくるかもしれない。伊吹萃香が押さえているとはいえ、いつ貴方のその首に牙をつきたてるとか分からないわ」
「ひっ!」
「あ、私はそんな事しないから安心して欲しいわ。さっきも言ったとおりこのレミリア・スカーレットが守ると宣言しているのだからこの紅魔館にいる限りは貴方のその命保障するわよ」
「それは分かってますが………」
今になって自分がどういう状況に置かれているかを知りました。ここが紅魔館だからいいとはいえ、もしそこらの低級妖怪に取材しにいったとしたら今頃私は妖怪のおなかの中でしょう。想像しただけでぞくりとします。
私のそんな綱渡りのような理想を支えてくれる紫さんにはとても感謝してもしきれません。
「それじゃあ私は帰るわ」
「紫さんありがとうございました」
「いいわよ。それじゃあまた数日後ね」
「はいっ」
「良い記事が書けるといいわね。楽しみにしてるわ」
その言葉を言い終わると同時に紫さんの姿がスキマに吸い込まれて消えました。
紫さんの姿が消えるとレミリアさんが突然立ち上がりました。立ち上がるというよりは椅子から飛び降りたというほうが正しいのですが。
………立っても座ってる私と目線はそんなに変わらないんですね。レミリアさん。
「今、何か失礼なこと考えなかったかしら?」
「い、いえ滅相もないです!」
「まぁいいわ。まずはこの屋敷を案内するわ。ついてきなさい」
「え。レミリアさん直々にですか?」
「何。不満かしら?」
「いえ! ぜんぜんそんな事はないです!! ただ、当主自ら案内してもらえるものなのかと思いまして」
「暇なのが私とフランくらいだからね。フランに任せるぐらいなら私が案内するわよ。さ、行くわよ」
「は、はい!」
私はティーカップに残った紅茶を急いで飲み終えるとレミリアさんについていくべく立ち上がりました。
「うわぁ! 噂には聞いていましたが凄い数の本の量ですね」
「こんなに本があるのに漫画は一冊もないのよ。不満でならないわ」
レミリアさんがまず案内した場所は図書館。噂には聞いていましたが私の家の書庫とは比べ物にならないぐらいの広さです。そういえば魔理沙さんが良く本を貰いに行くって言っていましたしそれは寛大な管理人さんがいるのでしょう。
「漫画が欲しいなら人里に買いに行きなさいよレミィ」
「漫画が語れる人が私と美鈴しかいないのよ。パチェも読みなさいよ。お勧めの漫画貸してあげるわよ」
図書館の中心にある大きな机で本を読んでいる紫髪の少女が足音に気づいて本から視線を上げました。落ち着いた雰囲気の美少女さんです。もしかして妖怪は美しさと実力が比例するのでしょうか。
いや、この人が噂どおりパチュリー・ノーレッジなら妖怪ではなく魔法使いなのですが。
「結構よ。で、そこの人間は誰なのかしら?」
「あっ。私は人間の里に住む稗田阿求と言います。数日間この紅魔館でお世話になることになりました。よろしくお願いします。それにしても凄い本の量ですね。この図書館の噂は人間の里まで響いていますよ」
「噂ねぇ。一体どんな噂が流れているのかしら」
「魔理沙さんが、この図書館の本は返却日が特に決まってないし、何冊でも借りていいと言ってました」
「そもそも貸し出ししてないわよ。あれは一方的な窃盗。押し込み強盗とも言うわね」
「一方的じゃない窃盗があるのかしら」
「次私が魔理沙の家に美鈴を連れて殴りこみに行けば一方的ではなくなるわよ。まぁ、これは正当な奪還とも言うわね」
なんだか物騒な話をしていますが魔理沙さんが話してた内容はもしかして嘘なのでしょうか。いきなりコミュニケーションに躓いてしまった私は思わず冷や汗をかきました。今まで魔理沙さんに教えてもらっていた情報はキノコ以外は全て見直したほうがいいかもしれませんね。とりあえず手帳に、魔理沙さん、注意とだけ書き込んでおきましょう。
話は変わってしまうのですが、人里から良く外出する人間は魔理沙さんと霊夢さんだけなので基本的に妖怪の情報はその二人+被害にあった人に教えてもらっています。あとは慧音さんに聞いたり、ミスティアさんやにとりさんなどの人里に良く訪れる妖怪に聞いてみたりですが、やはりこの調べ方では正確な情報は手に入らないみたいですね。
今まで私が知ってる情報なんてレミリア・スカーレット、怖い。ぐらいの情報しかなかったのですから。
「あら、もしかして暑いのかしら。冷房の魔法をかけてあげましょうか?」
「いえ。大丈夫です」
「遠慮しなくてもいいのよ? 人間はすぐに倒れてしまうし。あ、魔理沙は別だとして」
冷や汗をかいている私を見て、暑がってると勘違いしたパチュリーさんは右手をこっちに向けました。暑いとか寒いとかはないので本当に大丈夫です。
そして冷房の魔法ってなんでしょう。涼しくなるのでしょうか。魔法って凄いですね。
「紹介するわ。紅魔館の居候、パチュリー・ノーレッジよ」
「紅魔館の頭脳って呼んで欲しいわね。ご紹介に預かりましたパチュリー・ノーレッジよ。七曜の魔女とも呼ばれているわ」
「ご親切にどうもありがとうございます。それでパチュリーさんはこの図書館を一人で管理してらっしゃるのですか?」
「いいえ。もっぱら小悪魔の姉妹が管理してくれてるわ。私は本を読んでるだけ。あぁ、小悪魔の姉妹っていうのは向こうに見える二人がいるでしょう? 髪が長いほうが姉で、短いほうが妹よ。それで阿求はなぜこの紅魔館に来たのかしら?」
「えっとかくがくしかじかで」
「なるほどね。妖怪と人間の距離を近づけたいと。まぁ、私は魔法使いだしどちらかというと人間よりだしどうでもいいけれど。あともうひとつ質問。その以前書いていた幻想郷縁起とやらには私のことはどうかかれているの?」
「あ、はい。確か………非力で喘息もちでもやしっこで小声なうえに早口で喋るので見てるこっちが息苦しく感じるとかそんな事を書いた記憶が………」
「ふふふふっ。ずいぶん酷いこと書かれてるじゃないパチェ! 合ってるけれどねっ!! はははっ」
「………じゃあレミィはなんて書かれてるのかしら」
「幼いけど態度とシルエットだけは大きい、身体能力は化け物の迷惑な恐怖の子供と。あ、すみませんすみません! こうやって書けっていったのは紫さんなんです!!」
「ふふっ。レミィのほうが酷い言われようじゃない。お・こ・さ・ま♪」
「なんだやるのかこの紫もやし!! 一袋19円が!!」
「上等よ、このドアノブカバーっ!!」
「あぁ!! やめてくださいやめてください!!」
結局小悪魔姉妹と咲夜さんが止めに来てやっとこの二人の争いは終了しました。その間机の下でがくがく震えていた私は手帳にこう、書き記しました。うらみを買わないためにも幻想郷友起には人をけなすような文章は書くべきではないと。
「すまなかったわね、取り乱して」
「い、いえ」
「それじゃあお次は咲夜を紹介するわ」
「え、咲夜さんならさきほど」
「いいからいいから」
レミリアさんにつれてこられた部屋は天蓋付きのベッドがあるとても大きな部屋でした。ベッドは見ただけでとてもやわらかいということが分かる代物です。こんなベッドで寝たらさぞかしぐっすり眠ることが出来るのでしょう。ちょっと飛び跳ねたい衝動に駆られましたがぐっと我慢。
「これよこれ」
レミリアさんへ部屋の隅にある本棚(ほとんどが漫画で埋まっていました)から一冊の本を抜き出すと、まるで宝物を自慢するかのようにそれを見せてきました。白い表紙に手書きでタイトルが書かれています。
『十六夜 咲夜の成長の記録』
へ? 思考が停止した私にお構いなくレミリアさんは一ページ目を開きます。そこにいたのは大変愛らしい赤ちゃん―――赤ちゃんといっても生後数ヶ月たったあとのようですが―――でした。もうすでに生えている銀色の髪でそれが咲夜さんだと気づきました。
なぜ咲夜さんの小さいころの写真がここに………という疑問は次のページで分かりました。
次のページに映っていたのは咲夜さん1歳4ヶ月のときの写真です。どんな写真かと言いますと、泣いている咲夜さんをおんぶ紐で背負ったレミリアさんが一生懸命あやしている写真でした。
「ふふん。可愛いでしょう」
えぇ、実に可愛らしいです。今となってはクールビューティーな咲夜さんでしたが。子供のころは天使のような笑みを浮かべる少女で。もうなんというか、ほっぺたぷにぷにしたくなるような存在がそこにはいました。
「失礼しますお嬢様。? 何をなさっているのd 何をしているんですかお母様!!」
「あ、咲夜が久しぶりにお母様と呼んでくれたわ」
「なんで私の写真を阿求さんに見せてるんですか!!」
「なんでって、それはもちろん私の可愛い咲夜自慢よ」
「恥ずかしいからやめてください、もうっ!」
………もしかして咲夜さん、実はとっても可愛らしい方なのでは? 顔を真っ赤にして抗議している咲夜さんは写真の中の少女と一緒でとても可愛らしく。あ、なるほど。レミリアさんと咲夜さんは親子の絆で結ばれているんですね。
「うわぁ! 可愛いですね。咲夜さんっ!!」
「阿求さんも読み進めないでください!!」
『十六夜 咲夜の成長の記録』は咲夜さんに没収され、私は咲夜さん8歳、プールにて。までしか見ることはできませんでした。
「いやぁ。咲夜に怒られちゃった」
そういいながら満面の笑みで笑うレミリアさんは今にもスキップをし始めそうなほど上機嫌で次の部屋に私を案内しました。
地下に降りる階段をずっと下り続けるとそこにあったのは木製の扉。レミリアさんはそこをノックすると中からレミリアさんより若干幼いくらいの少女の声が返ってきました。
扉を開けて入るとそこにはレミリアさんに良く似た、金色の髪を持ち、宝石のように輝く翼を持った少女がベッドの上で座っていました。
「どうしたのお姉さま、フランの部屋になんて来て。あ、そこの人間はもしかして新しいおもちゃ!?」
そう目を輝かせながら物騒なことを言う少女はこの紅魔館であった誰よりも妖怪らしくありました。身の危険を感じて思わず自分よりも小さいレミリアさんに隠れてしまいました。
「違うわ。少しの間だけこの紅魔館に住む人間よ。決して手をだしてはいけないわ」
「はーい!」
レミリアさんの言葉に素直に満面の笑みで答える少女は悪い妖怪ではないのでしょう。………ないですよね? さっきおもちゃとか言ってましたが。うーん。どうやらレミリアさんの妹みたいですし悪くない、と信じたいのですが。
「初めまして稗田阿求と言います。しばらくの間よろしくお願いしますね」
「よろしく! 私はフランドール・スカーレット。皆はフランって呼ぶよ」
フランさんはベッドから飛び降りるとスカートをつまみ恭しく一礼しました。さすがレミリアさんの妹です。幼いながらもきちんとしています。
「良かったら遊んであげて頂戴。あまりこの屋敷から出してあげれないのよ」
「はい。私ができることなら喜んで」
「わーい! お姉ちゃんありがとう!」
どうやら持ってきた絵本が役に立ちそうです。初めはレミリアさんに見せようって思ってましたけど………
「さ、あとは妖精達を紹介するだけよ」
「はい」
フランさんに別れを告げまた長い階段を上っていきます。どうやらこの屋敷めぐりは長い時間がかかりそうです。
「夕食は口に合うかしら?」
屋敷めぐりが終わるともう夕食の時間で大きな食堂にレミリアさんと共に向かいました。そこで驚いたのは机の長さ。物語で聞いたことがあるような晩餐会用の机が目の前にあるのです。さすがレミリアさんは格が違います。
咲夜さんに招かれて椅子に座るとメイド達が持ってくる料理。それは人里では見ることのない料理が多く、とても驚きました。椅子に座ってるだけで色々な料理が運ばれてくるなんて迷惑になってる身でとても申し訳がないです。
そんなそわそわしてる私を見て美鈴さんが面白そうに笑っています。
「はい。とても美味しいです」
「それは良かったわ」
そう言ってレミリアさんは納豆をかき混ぜる作業に戻りました。ところで洋風の料理の中にぽつりと納豆と白米があるのは凄い違和感です。もしかしてレミリアさんは納豆が大好きなのでしょうか。吸血鬼に納豆。なんだかミスマッチのような気がしますが、あまり気にしないでおきましょう。
「あら、阿求も納豆が欲しいの?」
「いえ、大丈夫です」
嫌いではなのですが、ねばねばして上手に食べれないので人前で食べるのは恥ずかしいのです。
レミリアさんは外見には似合わない箸捌きで納豆の糸を切っています。それにしてもやっぱり何度見ても違和感しかないなぁ。
ちなみにフランさんも納豆を食べているのかといえばそんなことはなく私と同じメニューを食べています。
美鈴さんはなぜかたんぱく質たっぷりの料理。やはりトレーニングとか肉体作りのためですかね。
パチュリーさんはなんだか食べるがとても少ない。小食なのですね。うらやましいなぁ。
そういえば咲夜さんはどこに、と思っていると全ての料理を配り終えたのでエプロンを脱いできたようです。咲夜さんも席に着くと黙々と食べ始めました。
「そういえばパチュリーさん。小悪魔さん達はどうしたんですか?」
「あの子たちなら自室で食べているわよ」
「え、そうなんですか?」
「あの子達だけじゃなくて、咲夜と美鈴以外の使用人は使用人専用の食堂で食べてるし」
「夕食は皆で食べたほうが美味しいと思うのですが」
「ふむ。一理有るわね。でも椅子と机が足りないのよね」
「それでは今度私が作っておきましょうか?」
「サボる理由を作りたいだけじゃないの、美鈴」
「そんな! わたしはただらk、ではなく皆さんのためを思ってですね」
「はいはいサボりでもなんでもいいから頼んだわ」
「任されました!」
あわわ、ただの提案が採用されてしましました。皆で食べるのはいいことだと思うのですが。
「デザート!」
「分かりました。妹様」
咲夜さんが立ち上がったと思ったら手にプリンを持っていました。何を言ってるのか分からないと思いますが私もよく分かりません。おそらく時間を止めてプリンを持ってきたのでしょう。
咲夜さんはレミリアさん、フランさん、パチュリーさん、私、美鈴さんの順でプリンを配り終えるとまた席に着き黙々と食べ始めました。
「あ、美味しい」
「咲夜特製ミルクプリンだもの!」
口の中に入れた瞬間とろけます。こんなに美味しいプリンは人里では売っていません。おもわず頬が緩んでしまいます。
一口食べたら止まらずにぱくぱくと食べてしまい小さなプリンはあっという間になくなってしまいました。こんなに美味しいプリンなら人里で販売してくれればいいのになぁ、と思います。きっと即売り切れでしょう。
はぁ。もう一個食べたいなぁ………。
「いいお湯ですねぇ」
「そうねぇ」
夕食が終わるとレミリアさんとフランさんと一緒にお風呂に入ることになりました。レミリアさんの家のお風呂はなんと泳げるほどの広さを誇ります。私はそんな事はしませんがフランさんがさっきから足を一生懸命ばたばたしながら泳いでいます。
そんなフランさんをレミリアさんは見守りつつ、黄色いあひるで遊んでいました。
私はあごからしたを全てお湯につけて全身の疲れお湯にとけろーと念じ、力を抜いていました。
家のお風呂も広いとはいえ、やっぱりお風呂は広ければ広いほどいいですね。
そういえば霊夢さんも今日は私の家でお風呂入っているのでしょうか。私の提案を喜んでくれてるといいなぁ。
「ふわぁ。おやすみー」
お風呂から上がり、寝巻きに着替えるとレミリアさんはあくびをしながら自室に戻っていきました。吸血鬼なのに夜寝るんですねというのは偏見かもしれないので言わないでおきました。
私も用意してもらった自分の部屋に戻りましょう。
えっとたしかここですね。全て同じ扉なのでよく分かりませんでしたが、咲夜さんがご親切に阿求様の部屋と書かれた板を扉にかけてくれていました。
部屋の中に入るとレミリアさんの部屋とまではいかないもののとても広い部屋でふかふかのベッドがありました。とりあえず夢のベッドジャンプを少しだけして満足したので今日あったことを机に向かってまとめます。
今日あったことはレミリアさんが実は親しみやすい人物であること、美鈴さんがとても頼れる人であること、咲夜さんがクールそうに見えてとても可愛らしい人であるということ。パチュリーさんの図書館がとても凄いということ。フランさんは見た目どおり可愛らしいということでしょうか。それを手帳にまとめると、ぐいっっと伸びをしました。
まだ夜中にはなりませんが急に睡魔が襲ってきました。ふかふかのベッドの誘惑に勝てるはずもなく私は気がつくとベッドにもぐりこんでいました。
あぁ、やっぱりやわらかいなぁ。こんな掛け布団どこに売ってるのでしょうか。買いたいなぁ。ベッド置けるような部屋ではないけど私もベッド欲しいなぁ。
明日も楽しみだなぁ。
「すぅ、すぅ」
私は目を閉じるとすぐに深い眠りに落ちていきました。
おやすみなさい。
むぅ、どうするべきか。これでは重くて紅魔館についてしまう前に倒れてしまいますね。
というか、ところどころはみ出てしまってますしね。乙女の大切な布類は奥にしまっているので見えることはないのですが。底に穴でも開かない限りは。
「阿求様。本当に行ってしまわれるのですか?」
かばんを前に思考していると、不意に後ろから声をかけられました。声の主は私が雇っている家政婦です。
家政婦は歳は私より少し上程度なのですが、家事万能な素敵な女性です。うらやましい。
振り向くと、彼女の顔は暗く、まるでこれが今生の別れとでも言い出しそうな雰囲気です。もちろんまだ閻魔と契約を結んでない今死んでしまおうとは思わないのですが。というか思いたくもないのですが。
「たまには帰ってきますよ」
そう笑って返しても彼女の顔は晴れる事はありませんでした。これでは私が出て行きづらくなるではないですか。まだ二十歳にもならない身で家を出るのはいささか不良という感じがして、私を心配する彼女の気持ちは分かりますが、これでも私はまだ子供。アウトローにあこがれるお年頃なのです。なんて冗談を考えて見ましたが口に出したところで彼女の顔をさらに曇らせるだけだと判断し、私はもう一度笑いました。
それ以降は彼女は何も言わずにただ、荷造りを手伝ってくれしました。実に良く出来た従者です。
私は彼女を従者としてではなく家族と認識してますけどね。
彼女の手にかかれば荷造りなんてちょちょいのちょいでテクマクマヤコンなのですっきりとかばんの中に納まりました。お気に入りの本10冊はやはり多かったでしょうか。紅魔館には図書館があるというし減らしていいかも……… いや、この本は私のお気に入りなのですがから手放したくないです。これが本ではなくぬいぐるみだったら可愛らしさが出るかも、と思いましたがこんな私にぬいぐるみが似合うのでしょうか。どこからどう見ても日本人百パーセントの私に。
おっと話が脱線してしまいました。彼女は荷造りを終えると、失礼しますとだけ言って出て行きました。とても悪いことをした気分ですが、今生の別れというわけではないのですから、彼女が心配性なだけだろ思います。
あ、紅魔館のスカーレット・デビルは幼いと聞きます。絵本のひとつやふたつ持って行ったほうがいいのではないでしょうか。
こう見えても私。小さい子の面倒を見るのは得意なのです。泣く子も笑う阿求さんの二つ名は伊達じゃないのです。
本当は村一番の美少女とかそんな二つ名が欲しいのですが。あ、今のはオフレコでお願いします。
「くぅ~。疲れました」
伸びをすると凝り固まった体がほぐれる感じがして気持ちいいですね。あ、でもまだ体中がぼきぼきとかなったりしませんよ。若いですから。なんてたって若いですから!!
さて、本日二度目のお風呂に入ることにしましょう。綺麗好きで損はないですし。私お風呂大好きっこですし。そういえば霊夢さんはもうすぐ秋ですがまだ水で体を洗っているのでしょうか。なんと不憫な。私が不在の間ここに住んでいてもらいましょう。そうしましょう。
不思議ですよね。異変を何度も解決したはずなのに神社にお賽銭が入らないなんて。まぁ、ご利益とかありそうにないですもんねあの神社。噂だと悪霊が取り付いてるって噂ですし。
「って事で、私が不在の間、霊夢さんにこの屋敷を任せるって伝えて置いてください」
「はい。分かりました」
お風呂に入る前に出会った家政婦にそう伝え、私はるんるん気分でお風呂に入りました。いやぁ、いい事するって気分がいいですね!
「凄い豪華ですね」
「今日は阿求様がおられる最後の日なので」
「いや、間違ってないですが。なんだかそれだと私死んじゃうみたいだからやめてください。最後の晩餐なんて洒落になりませんよ? 最後に好きなものをたくさん食べてそのままご臨終とか嫌ですからね? 乙女たるものそんなはしたないまねはできませんよ。そもそも今日は全員ごちそう食べていいんですか? あぁ、なんならおかわりもいいぞ。なんて会話を繰り広げるほど貧乏してませんし。………まぁ、霊夢さんならそんな会話しててもおかしくないですが。あの人巫女になりますか? 人間やめますか? な人ですし」
「おかわり、していただけないのですか?」
「もう、そんなうるうるした目で見ないでくださいよ。分かりました分かりました。私も家政婦のご飯を堪能してから行きますよ。おかわりお願いします。体重が一キロ増えたところで、結構気にしますが。そんな事構うものですか!」
「ふふ。ありがとうございます」
こうなったらやけです。美味しい美味しいメイドの料理をおなかいっぱい食べてやりますよ。そう決意し、私は他の人から見られたら引きこもることやむなし、なフードファイター的食べ方を決行したのでした。
「も、もう無理です。おしまいです」
「ありがとうございました。阿求様」
結局食べ終わった皿にすぐに家政婦が盛り付けるというわんこそば的手法で私は夕食全てを食べ終えました。というか作りすぎです。明らかに私と家政婦合わせてもなお2~3人分取れるくらいにはあったでしょう。頭の隅で、今計算しましたが、私の胃袋は持つことなくギブアップする。家政婦の頑張りすぎだ! なんて事を考えましたが最終的に気合根性努力といった精神論で無事乗り越えました。
とりあえず思うのですが。甘いものは別腹なんて言葉は嘘です。それが本当だったら今目の前にある家政婦特製ケーキを食べることなんて容易いはずなんですよー!!
寝よう。今日はもう寝よう。それ以外何も考えられません。
布団に入って眠り。そして明日になって目が覚めればきっと気分爽快。だといいなぁ。
「朝ですよ。阿求さま」
「ふえ?」
気がつけば朝。夢は見てません。どれだけ疲れてるんですか私。うけるーあははは、はぁ………
「朝食の準備ができております」
朝食なんて言葉ききたくないんじゃおらーと叫びたくなりましたが、自重して苦笑気味に笑いました。今の腹具合からしてなんとか食べれるのではないでしょうか。多分。えぇ、多分。
そうだといいなぁ、と考えつつ、私はいつもの和服に着替え、戦場(朝食)に向かうのでした。めでたしめでたし。ちゃんちゃん♪
「なんで、そんな死にそうな顔してるのよ。貴方」
「いえ、なんでもありません」
朝食を食べ終え、もう駄目だ、おしまいだぁと苦悩しているといつのまにか紫さんが庭に立っていました。庭の和の美しさにすら対応してしまう紫さんの美貌が妬ましい妬ましい。その美貌の一割でもあれば今頃私には素敵な彼氏が出来ていたのでしょうね。天は私から記憶能力の代償にどのくらいの才能を奪っていったのでしょうか。記憶能力なんて要らない! だからもう少し胸と大人っぽさと身長をください! お願いします!! なんて今までの阿礼乙女に聞かれたら枕元で呪詛をはかれるようなことを祈っていると、紫さんはこっちを不思議そうな顔で見てきました。
「あなた本当に大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ」
紫さんに心配されるだなんて、今の私はどれほど体調が悪そうに見えるのでしょうか。決して良いわけではありませんが、そこまで悪いわけではないのですが。はっまさか今のは『あなた本当に(スタイルとか顔とか)大丈夫?』ということだったのでしょうか。おのれ紫さん。そこまで私をこけにしたのは貴方が始めてです! あなたが私の初めてです!!
いや、まぁ、私の被害妄想なんですけれどもね。
「それじゃあ、行こうかしら」
あ、そこで私は思い出しました。背負うと私よりも頭二つ分ほど出てしまう大きなかばんのことを。
背負えて何分持つだろうか、いや紫さんに頼んで重さを調節してもらえればなんとかなる。なりますよね?
よしっと頬を軽く叩き気合を入れてかばんを引きずって縁側まで持ってくる。そのかばんの大きさに紫さんは目を丸くしました。
「えぇっと。大丈夫、かしら?」
「正直、重さの境界を操ってもらえると大変助かります」
「そんな事しないでも私が運んであげるわよ」
そう言うと私が引きずっているかばんの感触が消えました。かばんのほうを見ると、そこにあったのはかばんではなく。ぎょろぎょろとした目がいくつも空間の裂け目からこっちを見ている。そんな紫さんが操るスキマが存在しました。怖い、やっぱりいつ見ても何度見ても慣れる事はありません。
そしてかばんはどこかというと、私が引きずらないと動かせないかばんを紫さんはまるで巾着でも持つかのように、あっけらかんと持っているのです。さすが最強妖怪です。びくともしません。
「さ、行くわよ」
「は、はい!」
私は希望と勇気だけを持ち、門の方へ記念すべき一歩を踏み出しました。いえ、踏み出そうとしました。しかしあげた足は地面につくことはなく、代わりにあのぎょろぎょろとしたスキマへと吸い込まれていきました。
できれば徒歩が良かったなぁ。と、落下していきながら、そう私は思うのでした。
「ぎゃふん!」
着地失敗。私は思いっきり大地と口付けを交わすことになってしまいました。アイラブ大地だなんてそんな冗談を言うことも出来ず、私は痛みで悶絶しました。顔を抑えて地面を転がる私を見て紫さんは微笑んで「ばかねぇ」と言いました。慣れてないものは仕方ないではないですか。昨日といい今日といいなんと転がることが多いのでしょうか。私は今日も転がりますだなんてそんな事は言いたくないのに。
鼻の頭を撫でながら立ち上がるとそこには唖然とした表情でこっちを見てくる緑色の中華風衣装を着て星の飾りがついた帽子をかぶった赤髪の女性。えっとたしか名前は紅、紅。あれ、記憶するのが私の能力のはずなんですが。記憶はしてるんです。だけど思い出せないだけなんです。
「あ! 紅 美鈴だ!!」
「え? あ? はい。そうですが。もしかしてその反応は私の名前を忘れたとかそんな感じですか?」
そういって悲しそうに笑う美鈴さん。あわわわわ。初っ端からやってしまいました!!
「まぁ、思い出してもらって本当の名前呼んでもらってるんだから文句はないんですが」
「ねぇ中国。少し咲夜を呼んできて頂戴」
「今、私の名前そこの方が言われましたよね?」
「紅 中国でしょ? 分かってるからさっさと呼んできなさい」
「はい………」
………なんというか強く生きてください美鈴さん。
とぼとぼと歩きながら屋敷内へ入っていく美鈴さん。そんな美鈴さんを見て思ったことは、やっぱり人間と妖怪もそれほど変わらないのかなぁという事でした。
「で、一体今日はなんの用かしらスキマ妖怪」
数分後に美鈴さんと現れたのは銀髪の女性。この人は人里で何回か会ったことあるから分かります。十六夜 咲夜さん。この館に仕えるメイド長でよく人里で献血を開いていたり、紅茶などを買いに来ます。歳は私や霊夢さんとそれほど変わらなかったと思うのですが、すらりとした体型で可愛いというより綺麗めの女性です。それに出るとこも出てますし。そんな咲夜さんを人里の男達が放っておくわけなく、良く咲夜さんがナンパしてきた男性を冷ややかな視線と蔑むような罵倒でやっつけているのを見ます。カッコいいなぁ、憧れちゃうなぁ。
「貴方の主人に話があるのよ」
「お嬢様は多忙なのよ。用件なら私が聞くから言って頂戴」
「私は貴方に用はないのよ。さっさと呼んできなさい。それが仕事でしょ?」
「妖怪の賢者たるものが言葉も通じないのかしら。私はおこがましいながらもお嬢様の代わり。お嬢様の用件なら変わりに私が引き受けると言ったわ。もう一度言いましょう。用件なら私が聞くからさっさと言って頂戴」
視線と視線がぶつかって火花を散らす。散らしたように見えました。それを美鈴さんと一緒にあわあわと見ていると屋敷の中から一人の少女が日傘をさしながら出てきました。
「何しているのかしら。咲夜」
「お、お嬢様!」
えっと、咲夜さんがお嬢様と呼んでいるのでおそらくこの人がレミリア・スカーレットなのでしょう。確かに見た目に反した落ち着きと優雅さを兼ね備えています。見た目は私よりも幼いのですが。やはり妖怪相手に外見で判断するのは禁物ということでしょうか。
「貴方のところのメイドが貴方に会わせてくれないのよ」
「あら、咲夜。私は貴方にそんな事命令した覚えはないわよ」
「すみません。お嬢様」
「別にいいわ。下がりなさい」
「分かりました」
咲夜さんはレミリアさんに言われたとおりに屋敷の中に戻っていきました。ただ屋敷に戻るときに一瞬みせた母親に怒られた子供のような顔と「だってお嬢様を紫とあわせるとまた何かが起こるんだもの」というつぶやきを聞いて、この人はレミリアさんの忠実な従者なんだな、と思いました。いやもしかすると主人の従者以上の何かで結ばれているのかもしれません。
「それで一体私に何の用かしら」
「そこの人間。稗田阿求と言うのだけれど。この娘を紅魔館に数日泊めてもらえないかしら?」
「あ、よろしくおねがいします!」
「またいきなりね。貴方が考えることはいつもそうだけれど」
「あら、私は良く考えた上での突然の行動よ」
「まぁいいわ。数日でしょ? 別に構わないわ。私の寝首をかけるような人間にも見えないし」
「貴方の寝首をかける人間なんているのかしらね」
「いないわね」
そう言いきれるほど、レミリアさんは強いのでしょう。やはり鬼という種族は凄いです。わくわくしながら手帳にレミリアさん。すっごい強いと書き込みました。
「続きは中で聞くわ。いらっしゃい。美鈴はそのまま門番ね」
「了解です。お嬢様」
美鈴さんは門番だから仕方ないとはいえ、なんだか一人で入ってしまうのは悪い気がしました。そんな私の考えが分かるのかは分かりませんが、美鈴さんはこっちを見て「ようこそ、紅魔館へ。素敵なお嬢様」と微笑むのです。
なるほど、これが紅魔館が誇る門番ですか。私はレミリアさんに続けて手帳に紅 美鈴。紳士的でとても格好良いと書き込みました。
「なるほどね。それは確かに素敵な夢ね」
「ありがとうございます」
咲夜さんが持ってきた紅茶を飲みつつ私の目的を話すと、レミリアさんはそう言ってくれました。てっきり紫さんみたいに変な夢と否定されるかと思いましたが、私のこの夢を否定することなく受け入れてくれたのです。あぁ、紅魔館の皆さんがこの人について行く理由が分かる気がします。
「任せなさい紫。阿求のことはこのスカーレットの名にかけて守りぬくわ」
「え、あ。守るだなんて、そんな大層な事では」
「いいえ。それが結構大層な事なのよ。人間と仲良くすることを拒む妖怪も多くいて、もしかすると貴方の命を狙ってくるかもしれない。伊吹萃香が押さえているとはいえ、いつ貴方のその首に牙をつきたてるとか分からないわ」
「ひっ!」
「あ、私はそんな事しないから安心して欲しいわ。さっきも言ったとおりこのレミリア・スカーレットが守ると宣言しているのだからこの紅魔館にいる限りは貴方のその命保障するわよ」
「それは分かってますが………」
今になって自分がどういう状況に置かれているかを知りました。ここが紅魔館だからいいとはいえ、もしそこらの低級妖怪に取材しにいったとしたら今頃私は妖怪のおなかの中でしょう。想像しただけでぞくりとします。
私のそんな綱渡りのような理想を支えてくれる紫さんにはとても感謝してもしきれません。
「それじゃあ私は帰るわ」
「紫さんありがとうございました」
「いいわよ。それじゃあまた数日後ね」
「はいっ」
「良い記事が書けるといいわね。楽しみにしてるわ」
その言葉を言い終わると同時に紫さんの姿がスキマに吸い込まれて消えました。
紫さんの姿が消えるとレミリアさんが突然立ち上がりました。立ち上がるというよりは椅子から飛び降りたというほうが正しいのですが。
………立っても座ってる私と目線はそんなに変わらないんですね。レミリアさん。
「今、何か失礼なこと考えなかったかしら?」
「い、いえ滅相もないです!」
「まぁいいわ。まずはこの屋敷を案内するわ。ついてきなさい」
「え。レミリアさん直々にですか?」
「何。不満かしら?」
「いえ! ぜんぜんそんな事はないです!! ただ、当主自ら案内してもらえるものなのかと思いまして」
「暇なのが私とフランくらいだからね。フランに任せるぐらいなら私が案内するわよ。さ、行くわよ」
「は、はい!」
私はティーカップに残った紅茶を急いで飲み終えるとレミリアさんについていくべく立ち上がりました。
「うわぁ! 噂には聞いていましたが凄い数の本の量ですね」
「こんなに本があるのに漫画は一冊もないのよ。不満でならないわ」
レミリアさんがまず案内した場所は図書館。噂には聞いていましたが私の家の書庫とは比べ物にならないぐらいの広さです。そういえば魔理沙さんが良く本を貰いに行くって言っていましたしそれは寛大な管理人さんがいるのでしょう。
「漫画が欲しいなら人里に買いに行きなさいよレミィ」
「漫画が語れる人が私と美鈴しかいないのよ。パチェも読みなさいよ。お勧めの漫画貸してあげるわよ」
図書館の中心にある大きな机で本を読んでいる紫髪の少女が足音に気づいて本から視線を上げました。落ち着いた雰囲気の美少女さんです。もしかして妖怪は美しさと実力が比例するのでしょうか。
いや、この人が噂どおりパチュリー・ノーレッジなら妖怪ではなく魔法使いなのですが。
「結構よ。で、そこの人間は誰なのかしら?」
「あっ。私は人間の里に住む稗田阿求と言います。数日間この紅魔館でお世話になることになりました。よろしくお願いします。それにしても凄い本の量ですね。この図書館の噂は人間の里まで響いていますよ」
「噂ねぇ。一体どんな噂が流れているのかしら」
「魔理沙さんが、この図書館の本は返却日が特に決まってないし、何冊でも借りていいと言ってました」
「そもそも貸し出ししてないわよ。あれは一方的な窃盗。押し込み強盗とも言うわね」
「一方的じゃない窃盗があるのかしら」
「次私が魔理沙の家に美鈴を連れて殴りこみに行けば一方的ではなくなるわよ。まぁ、これは正当な奪還とも言うわね」
なんだか物騒な話をしていますが魔理沙さんが話してた内容はもしかして嘘なのでしょうか。いきなりコミュニケーションに躓いてしまった私は思わず冷や汗をかきました。今まで魔理沙さんに教えてもらっていた情報はキノコ以外は全て見直したほうがいいかもしれませんね。とりあえず手帳に、魔理沙さん、注意とだけ書き込んでおきましょう。
話は変わってしまうのですが、人里から良く外出する人間は魔理沙さんと霊夢さんだけなので基本的に妖怪の情報はその二人+被害にあった人に教えてもらっています。あとは慧音さんに聞いたり、ミスティアさんやにとりさんなどの人里に良く訪れる妖怪に聞いてみたりですが、やはりこの調べ方では正確な情報は手に入らないみたいですね。
今まで私が知ってる情報なんてレミリア・スカーレット、怖い。ぐらいの情報しかなかったのですから。
「あら、もしかして暑いのかしら。冷房の魔法をかけてあげましょうか?」
「いえ。大丈夫です」
「遠慮しなくてもいいのよ? 人間はすぐに倒れてしまうし。あ、魔理沙は別だとして」
冷や汗をかいている私を見て、暑がってると勘違いしたパチュリーさんは右手をこっちに向けました。暑いとか寒いとかはないので本当に大丈夫です。
そして冷房の魔法ってなんでしょう。涼しくなるのでしょうか。魔法って凄いですね。
「紹介するわ。紅魔館の居候、パチュリー・ノーレッジよ」
「紅魔館の頭脳って呼んで欲しいわね。ご紹介に預かりましたパチュリー・ノーレッジよ。七曜の魔女とも呼ばれているわ」
「ご親切にどうもありがとうございます。それでパチュリーさんはこの図書館を一人で管理してらっしゃるのですか?」
「いいえ。もっぱら小悪魔の姉妹が管理してくれてるわ。私は本を読んでるだけ。あぁ、小悪魔の姉妹っていうのは向こうに見える二人がいるでしょう? 髪が長いほうが姉で、短いほうが妹よ。それで阿求はなぜこの紅魔館に来たのかしら?」
「えっとかくがくしかじかで」
「なるほどね。妖怪と人間の距離を近づけたいと。まぁ、私は魔法使いだしどちらかというと人間よりだしどうでもいいけれど。あともうひとつ質問。その以前書いていた幻想郷縁起とやらには私のことはどうかかれているの?」
「あ、はい。確か………非力で喘息もちでもやしっこで小声なうえに早口で喋るので見てるこっちが息苦しく感じるとかそんな事を書いた記憶が………」
「ふふふふっ。ずいぶん酷いこと書かれてるじゃないパチェ! 合ってるけれどねっ!! はははっ」
「………じゃあレミィはなんて書かれてるのかしら」
「幼いけど態度とシルエットだけは大きい、身体能力は化け物の迷惑な恐怖の子供と。あ、すみませんすみません! こうやって書けっていったのは紫さんなんです!!」
「ふふっ。レミィのほうが酷い言われようじゃない。お・こ・さ・ま♪」
「なんだやるのかこの紫もやし!! 一袋19円が!!」
「上等よ、このドアノブカバーっ!!」
「あぁ!! やめてくださいやめてください!!」
結局小悪魔姉妹と咲夜さんが止めに来てやっとこの二人の争いは終了しました。その間机の下でがくがく震えていた私は手帳にこう、書き記しました。うらみを買わないためにも幻想郷友起には人をけなすような文章は書くべきではないと。
「すまなかったわね、取り乱して」
「い、いえ」
「それじゃあお次は咲夜を紹介するわ」
「え、咲夜さんならさきほど」
「いいからいいから」
レミリアさんにつれてこられた部屋は天蓋付きのベッドがあるとても大きな部屋でした。ベッドは見ただけでとてもやわらかいということが分かる代物です。こんなベッドで寝たらさぞかしぐっすり眠ることが出来るのでしょう。ちょっと飛び跳ねたい衝動に駆られましたがぐっと我慢。
「これよこれ」
レミリアさんへ部屋の隅にある本棚(ほとんどが漫画で埋まっていました)から一冊の本を抜き出すと、まるで宝物を自慢するかのようにそれを見せてきました。白い表紙に手書きでタイトルが書かれています。
『十六夜 咲夜の成長の記録』
へ? 思考が停止した私にお構いなくレミリアさんは一ページ目を開きます。そこにいたのは大変愛らしい赤ちゃん―――赤ちゃんといっても生後数ヶ月たったあとのようですが―――でした。もうすでに生えている銀色の髪でそれが咲夜さんだと気づきました。
なぜ咲夜さんの小さいころの写真がここに………という疑問は次のページで分かりました。
次のページに映っていたのは咲夜さん1歳4ヶ月のときの写真です。どんな写真かと言いますと、泣いている咲夜さんをおんぶ紐で背負ったレミリアさんが一生懸命あやしている写真でした。
「ふふん。可愛いでしょう」
えぇ、実に可愛らしいです。今となってはクールビューティーな咲夜さんでしたが。子供のころは天使のような笑みを浮かべる少女で。もうなんというか、ほっぺたぷにぷにしたくなるような存在がそこにはいました。
「失礼しますお嬢様。? 何をなさっているのd 何をしているんですかお母様!!」
「あ、咲夜が久しぶりにお母様と呼んでくれたわ」
「なんで私の写真を阿求さんに見せてるんですか!!」
「なんでって、それはもちろん私の可愛い咲夜自慢よ」
「恥ずかしいからやめてください、もうっ!」
………もしかして咲夜さん、実はとっても可愛らしい方なのでは? 顔を真っ赤にして抗議している咲夜さんは写真の中の少女と一緒でとても可愛らしく。あ、なるほど。レミリアさんと咲夜さんは親子の絆で結ばれているんですね。
「うわぁ! 可愛いですね。咲夜さんっ!!」
「阿求さんも読み進めないでください!!」
『十六夜 咲夜の成長の記録』は咲夜さんに没収され、私は咲夜さん8歳、プールにて。までしか見ることはできませんでした。
「いやぁ。咲夜に怒られちゃった」
そういいながら満面の笑みで笑うレミリアさんは今にもスキップをし始めそうなほど上機嫌で次の部屋に私を案内しました。
地下に降りる階段をずっと下り続けるとそこにあったのは木製の扉。レミリアさんはそこをノックすると中からレミリアさんより若干幼いくらいの少女の声が返ってきました。
扉を開けて入るとそこにはレミリアさんに良く似た、金色の髪を持ち、宝石のように輝く翼を持った少女がベッドの上で座っていました。
「どうしたのお姉さま、フランの部屋になんて来て。あ、そこの人間はもしかして新しいおもちゃ!?」
そう目を輝かせながら物騒なことを言う少女はこの紅魔館であった誰よりも妖怪らしくありました。身の危険を感じて思わず自分よりも小さいレミリアさんに隠れてしまいました。
「違うわ。少しの間だけこの紅魔館に住む人間よ。決して手をだしてはいけないわ」
「はーい!」
レミリアさんの言葉に素直に満面の笑みで答える少女は悪い妖怪ではないのでしょう。………ないですよね? さっきおもちゃとか言ってましたが。うーん。どうやらレミリアさんの妹みたいですし悪くない、と信じたいのですが。
「初めまして稗田阿求と言います。しばらくの間よろしくお願いしますね」
「よろしく! 私はフランドール・スカーレット。皆はフランって呼ぶよ」
フランさんはベッドから飛び降りるとスカートをつまみ恭しく一礼しました。さすがレミリアさんの妹です。幼いながらもきちんとしています。
「良かったら遊んであげて頂戴。あまりこの屋敷から出してあげれないのよ」
「はい。私ができることなら喜んで」
「わーい! お姉ちゃんありがとう!」
どうやら持ってきた絵本が役に立ちそうです。初めはレミリアさんに見せようって思ってましたけど………
「さ、あとは妖精達を紹介するだけよ」
「はい」
フランさんに別れを告げまた長い階段を上っていきます。どうやらこの屋敷めぐりは長い時間がかかりそうです。
「夕食は口に合うかしら?」
屋敷めぐりが終わるともう夕食の時間で大きな食堂にレミリアさんと共に向かいました。そこで驚いたのは机の長さ。物語で聞いたことがあるような晩餐会用の机が目の前にあるのです。さすがレミリアさんは格が違います。
咲夜さんに招かれて椅子に座るとメイド達が持ってくる料理。それは人里では見ることのない料理が多く、とても驚きました。椅子に座ってるだけで色々な料理が運ばれてくるなんて迷惑になってる身でとても申し訳がないです。
そんなそわそわしてる私を見て美鈴さんが面白そうに笑っています。
「はい。とても美味しいです」
「それは良かったわ」
そう言ってレミリアさんは納豆をかき混ぜる作業に戻りました。ところで洋風の料理の中にぽつりと納豆と白米があるのは凄い違和感です。もしかしてレミリアさんは納豆が大好きなのでしょうか。吸血鬼に納豆。なんだかミスマッチのような気がしますが、あまり気にしないでおきましょう。
「あら、阿求も納豆が欲しいの?」
「いえ、大丈夫です」
嫌いではなのですが、ねばねばして上手に食べれないので人前で食べるのは恥ずかしいのです。
レミリアさんは外見には似合わない箸捌きで納豆の糸を切っています。それにしてもやっぱり何度見ても違和感しかないなぁ。
ちなみにフランさんも納豆を食べているのかといえばそんなことはなく私と同じメニューを食べています。
美鈴さんはなぜかたんぱく質たっぷりの料理。やはりトレーニングとか肉体作りのためですかね。
パチュリーさんはなんだか食べるがとても少ない。小食なのですね。うらやましいなぁ。
そういえば咲夜さんはどこに、と思っていると全ての料理を配り終えたのでエプロンを脱いできたようです。咲夜さんも席に着くと黙々と食べ始めました。
「そういえばパチュリーさん。小悪魔さん達はどうしたんですか?」
「あの子たちなら自室で食べているわよ」
「え、そうなんですか?」
「あの子達だけじゃなくて、咲夜と美鈴以外の使用人は使用人専用の食堂で食べてるし」
「夕食は皆で食べたほうが美味しいと思うのですが」
「ふむ。一理有るわね。でも椅子と机が足りないのよね」
「それでは今度私が作っておきましょうか?」
「サボる理由を作りたいだけじゃないの、美鈴」
「そんな! わたしはただらk、ではなく皆さんのためを思ってですね」
「はいはいサボりでもなんでもいいから頼んだわ」
「任されました!」
あわわ、ただの提案が採用されてしましました。皆で食べるのはいいことだと思うのですが。
「デザート!」
「分かりました。妹様」
咲夜さんが立ち上がったと思ったら手にプリンを持っていました。何を言ってるのか分からないと思いますが私もよく分かりません。おそらく時間を止めてプリンを持ってきたのでしょう。
咲夜さんはレミリアさん、フランさん、パチュリーさん、私、美鈴さんの順でプリンを配り終えるとまた席に着き黙々と食べ始めました。
「あ、美味しい」
「咲夜特製ミルクプリンだもの!」
口の中に入れた瞬間とろけます。こんなに美味しいプリンは人里では売っていません。おもわず頬が緩んでしまいます。
一口食べたら止まらずにぱくぱくと食べてしまい小さなプリンはあっという間になくなってしまいました。こんなに美味しいプリンなら人里で販売してくれればいいのになぁ、と思います。きっと即売り切れでしょう。
はぁ。もう一個食べたいなぁ………。
「いいお湯ですねぇ」
「そうねぇ」
夕食が終わるとレミリアさんとフランさんと一緒にお風呂に入ることになりました。レミリアさんの家のお風呂はなんと泳げるほどの広さを誇ります。私はそんな事はしませんがフランさんがさっきから足を一生懸命ばたばたしながら泳いでいます。
そんなフランさんをレミリアさんは見守りつつ、黄色いあひるで遊んでいました。
私はあごからしたを全てお湯につけて全身の疲れお湯にとけろーと念じ、力を抜いていました。
家のお風呂も広いとはいえ、やっぱりお風呂は広ければ広いほどいいですね。
そういえば霊夢さんも今日は私の家でお風呂入っているのでしょうか。私の提案を喜んでくれてるといいなぁ。
「ふわぁ。おやすみー」
お風呂から上がり、寝巻きに着替えるとレミリアさんはあくびをしながら自室に戻っていきました。吸血鬼なのに夜寝るんですねというのは偏見かもしれないので言わないでおきました。
私も用意してもらった自分の部屋に戻りましょう。
えっとたしかここですね。全て同じ扉なのでよく分かりませんでしたが、咲夜さんがご親切に阿求様の部屋と書かれた板を扉にかけてくれていました。
部屋の中に入るとレミリアさんの部屋とまではいかないもののとても広い部屋でふかふかのベッドがありました。とりあえず夢のベッドジャンプを少しだけして満足したので今日あったことを机に向かってまとめます。
今日あったことはレミリアさんが実は親しみやすい人物であること、美鈴さんがとても頼れる人であること、咲夜さんがクールそうに見えてとても可愛らしい人であるということ。パチュリーさんの図書館がとても凄いということ。フランさんは見た目どおり可愛らしいということでしょうか。それを手帳にまとめると、ぐいっっと伸びをしました。
まだ夜中にはなりませんが急に睡魔が襲ってきました。ふかふかのベッドの誘惑に勝てるはずもなく私は気がつくとベッドにもぐりこんでいました。
あぁ、やっぱりやわらかいなぁ。こんな掛け布団どこに売ってるのでしょうか。買いたいなぁ。ベッド置けるような部屋ではないけど私もベッド欲しいなぁ。
明日も楽しみだなぁ。
「すぅ、すぅ」
私は目を閉じるとすぐに深い眠りに落ちていきました。
おやすみなさい。
阿求の独白がくどすぎるんだよ、笑わせにこようとしてるのか知らないけどさ
これ本人だけが面白いと思ってるパターンだよ……
しかし、次の回にはもっと面白くなる事を期待して、この点数で。
とはいえ、序盤が長いというか、序破急とか起承転結とかが無いというか、つまりヤオイというか。語り部はそれほど悪くないが、展開が無駄に冗長だとは思う。ミステリーでも始まりそうなぐらい、ずっと設定と日常を読まされている。まあ今後に期待しておきます。
あと起承転結の話は終わってしましょうねー。
自分だけが面白いと思ってるっていうんならこれみて面白いと思った俺は何なんだよ
こういうのも良いですね