Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷友起 プロローグ

2013/03/18 23:36:47
最終更新
サイズ
7.86KB
ページ数
1
閲覧数
2002
評価数
4/15
POINT
660
Rate
8.56

分類タグ

「あぁ、こんなんじゃ駄目だ!」

 私はそう叫び4時間かけて書いた文章に大きく×印をつけた。
 今私が書いているのは人里の人間へ妖怪がどういうものなのかを教えるための本。その名を幻想郷縁起という。
 今までの人生。前世をあわせるとこれで9回目の生全ての知識を使い書いたこれは、確かに人里の人間に注意を促すが全てが事実かと聞かれると私は素直に、はい、と頷くことは出来ない。
 なぜならこれは噂で出来ており、ほぼ私の偏見や推測で構成されているのだ。これがまともな本と呼べるだろうか。いや、言えない。こんなのでは人里の本屋に売ってある空想化学―――えっと、巷ではSFと呼ばれていただろうか(SFとは何の略なのだろう。少し不思議、凄い不思議といったところでだろう)―――と何だ変わらないではないか。

「あうあうあー!」

 畳に転がりながらもだえる私を見て、誰が阿礼乙女と認識するだろうか。
 自分で言うのもなんだが乙女の『お』の字すらない。髪はぼさぼさ、指には墨がついており、目の下にはくま。
 お嫁に行けない格好ではないか。

 ゴツンッ

 そうしていると部屋の隅においてある箪笥で盛大に頭をぶつけました。そこで私の意識は正気に戻りました。
 思考も堅苦しい感じから年相応の女の子らしいものへ………女の子らしいですよね? えぇ、多分。
 とりあえず自分が今どれだけ醜いかを自覚はしてるのでお風呂に入ってきます。考え事はそのあとでいいですよね。
 自分に向けての言い訳を済ませ、私はお風呂に入るべく着替えと手ぬぐいを持って向かいました
 あ、今更ですが自己紹介を、私の名前は稗田 阿求。九代目阿礼乙女で現稗田家当主です。趣味は読書と甘味処に行くこと。特技は暗記です。以後お見知りおきを。


 


 さっぱりしました。墨だらけだった手はいつもどおりの手にもどり。髪はもとのつやつやの髪に。疲れ気味だった顔もすっかりリフレッシュ。これで再び幻想郷縁起に取り組むことができます!

 ガラッ

「おかえりなさい。阿求」

と、思ったのですが、突然の来客―――いえ、 この人が来るのはいつも突然ですが―――によって阻まれたのでした。
 その来客とは妖怪の賢者、八雲 紫でした。金髪の美女が私の部屋で緑茶を飲みつつ饅頭をほおばってるのはいささかシュールでしたが私はいつもどおりのことだと自分を落ち着かせ、八雲 紫の目の前に座布団を持ってきて座りました(八雲 紫はすでに座布団を3枚重ねて座っていました)

「このお饅頭美味しいわねぇ」
「あぁ! 私のおやつがっ!!」

 横にある包み紙をみて、それが私が贔屓にしている和菓子屋の物だと気づきました。どうやら八雲 紫は人の家に勝手に上がりこみ、人のお茶を飲み、人のおやつを食べているようです。まさかこの人じつはぬらりひょんなのでは? と思うぐらいの勝手知ったるなんとやらです。
 それにしても口いっぱいお饅頭をほおばっても美人を損なうことはない。これが噂の美人補正というものでしょうか。うらやましいです。私は自分の顔を近くにあった鏡で見てため息をつきました。

「それで、今日は一体なんの用でしょうか」
「いや、貴方がずいぶん幻想郷縁起の編纂に困ってる用だったから来たのよ」
「え?」
「あ、駄目よ花も恥らう乙女が奇声を上げながら転げまわるのは。見ていて面白いと可哀想が交じり合うなんとも不思議な気持ちにさせられたわ。愉快愉快?」
「―――」

 硬直。え? もしかしてこの八雲 紫はさっきの私を見てやがりましたか? いや見てやがったのでしょう。にやにやとこっちを見つめてくる彼女に今私が出来る最大限の攻撃、さそり固めをお見舞いしたい衝動に駆られましたが、実行したところですぐにかえされるのがオチなのでぎゅっとこぶしを握り締めることで耐えました。

「で、どうして悩んでいたのかしら?」
「それは―――」

 わたしはその悩みを打ち明けていいものか迷いました。目の前にいる彼女がわたしに幻想郷縁起には、人々が妖怪を恐れるような文章を書けと命令した張本人だからです。

「いいから言いなさい。貴方の考えを否定するか肯定するかは私が決めること。貴方が判断することではないわ」
「は、はい」

 彼女にぴしゃりと言われ、私はしどろもどろに話し始めました。

「この幻想郷縁起に書かれてることが嘘で塗り固められている事が不満なんです。人を導く本が嘘で出来ていていいのか。そもそも実際に経験してない事を偉そうに書いていいのか。そんな事を考えると今まで書いてきたものが文章ではなくただの物として認識してしまうんです」
「いいのよ。貴方の仕事は嘘を紡ぐ事なのだから」
「しかし」

 反論しようとした言葉は結局言の葉になることはなく、霧散して消えました。彼女の鋭すぎる視線に貫かれて。

「確かに嘘よ。しかし必要な嘘。その嘘がないと誰かが死ぬし、もしかしたらこの幻想郷というあり方が壊れてしまうのかもしれない。その事を理解しているのかしら?」

 理解はしている。しかし納得が出来るかというと話は別で、私はうつむきながら彼女の言葉を聴いていました。

「貴方は作家ではなく、嘘つきであるべきなのよ」

 そんな辛らつすぎる言葉を聞いて私の目から流れる涙。その涙は重力に従い下に流れていく。涙は集まり、しずくとなって自分の重さ耐え切れずに私の肌とさよならしましたた。しかしその涙は畳をぬらすことはなく、突然部屋の中に吹き荒れた嵐によってかき消されたのです。

「どうも、清く正しい射命丸です」

 嵐がやむと部屋の中には一人の少女。ふんわりと癖がついた黒髪。つややかに光る翼。そして首にぶら下げたカメラ。鴉天狗の射命丸 文が饅頭を運んでいました。

「私のお饅頭!」
「美味しいですねこのお饅頭。ちょっと椛に買って帰るのでどこで売ってたかを教えてもらえませんか?」
「えっと、人里の、ではなくてなんで射命丸さんがここにいるんですか!?」
「私は幻想郷最速の天狗ですよ? 阿求さんの真実を愛するジャーナリスト精神に心を打たれ、ここに現れたわけです」
「鴉風情が一体何の用かしら?」

 さっき私を射抜いた鋭すぎる視線を射命丸さんは笑って受け流しました。そして彼女は恐れることなく幻想郷最強の妖怪に指をつきつけました。

「阿求さんが真実と言う名の正義を求め立ち上がろうとしているのです! それを嘘なんていう重しで縛りつけようとして。たとえ龍神様が許したとしてもこの私が許さないですよ!!」
「ずいぶんと大口叩くじゃない。一介の天狗風情が私にはむかうつもりかしら?」

 そこまで啖呵を切ったのですから射命丸さんには紫さんを出し抜く秘策がある! 
 と、思ってる時期が私にもありました。

「え、えぇっと」
「今なら聞かなかったことにしてあげるわ。何もなかったことにして。いえ、お店でお饅頭を買ってきてくれるというのなら許してあげる。どうかしら?」

 殺気。紫さんが放つ妖力に私は小さく悲鳴をあげ、涙目になってしまいました。

「えっと、すみま―――」
「謝るな!!」

 頭を下げようとした射命丸さんを一喝したその声は紫さんではなく、もちろん私でもなく。この部屋に存在してない誰かの声でした。
 その声の主は初めは薄く。そしてしだいに濃くなっていき。10秒後には紫さんと射命丸さんの間に小さな女の子が立っていました。
 女の子の頭から生える二本の角。それが示すのは

「伊吹萃香様………」

 そこにいたのは幻想郷最強の妖怪の一角、伊吹萃香でした。

「いつからいたのかしら?」
「愚問。あたしはどこにでもいるし、どこにもいない。そういう存在さね。ところで紫。そこの少女の勇気、真実。そのまっすぐな心を捻じ曲げるのはこのあたしが許さない」

 紫さんにも負けることのない殺気、妖力。その二つがぶつかりあい、私というちっぽけな存在は気絶してしまいそうでしたが、射命丸さんがそっと私をかばってくれました。
 時間にして一分たらず、しかし体感時間的には数時間。そんな時間が立ちました。結局折れたのは紫さん。ため息をついてやれやれとばかりに顔を左右に振りました。

「いいわ阿求。真実を知りなさい。そして真実と虚実のどちらが正しいかを知るといいわ」
「虚実が正しいなんてあるわけないだろう?」

 どうやら私は許されたようです。初めて自分の考えで、自分の気持ちで本を書くことが出来るのです。その事実に私の心は歓喜に満ち溢れました。
 これから出会うことになるであろうまだ見ぬ妖怪達に思いをはせ私はその本の題名をこう決めました。






――――――幻想郷友起と








「それじゃあ明日の朝に向かいに来るわ」

 射命丸さんと伊吹さんが帰ったあと、数点の決まりごとを注意を紫さんから教えられました。それは妖怪を甘く見ないことや、危ないと思ったらすぐに紫さんに助けを求めることなどでした。
 二人きりになったあとの紫さんの瞳は優しく、わがままを言った子供をやさしく見守る母親のようで、私はその事をうれしく思うと同時に申し訳ないと思いました。
 そんな私の考えを表情でさっしたのか紫さんは私の頭を撫でながら「今まで言うこと聞いてもらったのだもの、たまには言うことを聞いてあげなければね」と笑いながら言うのです。
 あぁ、この人は本当はやさしいのだ。幻想郷縁起にはこの人のことを危ないだとか良く分からないとか書いてありますが、そんな誤解を解くためにも私は一生懸命幻想郷友起を書くことをここに決意しました。
願わくば、私の本が妖怪と人間を繋ぐ架け橋になるようにと。
憎みあわなくても手を取り合って生きていける世界を作れるようにと。
初投稿です。

文章が稚拙なところも多々ありますが、笑って見逃してもらえると幸いです。

これから阿求は幻想郷の色々なところを旅して回ります。時代的には永夜抄後らへんになります。

次回『阿求 紅魔館に泊まる』

お楽しみにしてもらえると幸いです。
形狗狸孤
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.350簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
初投稿+プロローグ+この短さ……あっ(察し)
3.80名前が無い程度の能力削除
おお! なかなか面白そう!
でもこの長さは一回に投稿する量としては少々短いのでは?
6.80削除

地雷率が高そうな組み合わせでドキドキしたのですが、蓋を開けてみれば面白そうな内容で次回作が楽しみになりました。
短さは、導入としては体を成してるので私はプロローグで良いかなぁと思います。紅魔館編とくっ付けても良かったかもですが、話数が膨らみそうですしプロローグという区切りも有りかと。

唯一感じたのは、阿求目線で進み過ぎててややゴチャっとして読みづらい……かも。
もう少しだけ、背景描写を混ぜるとバランスがよいかなぁと個人的には思いました。
次回作からどう話が展開するか楽しみにしてます。頑張ってください。
8.70奇声を発する程度の能力削除
少し短いなと思いましたが面白かったです
16.803削除
どうでもいいけどお前らどっから阿求の家に来た。妖怪屋敷か。
次に期待です。